説明

ガス発生器

【課題】伝火薬による火炎エネルギーの伝達が好適に制御可能で、安価にかつ容易に製造することができる軽量で出力特性にばらつきの生じないガス発生器を提供する。
【解決手段】ガス発生器1Aは、イニシエータシェル10およびクロージャシェル20からなる両端が閉塞された短尺円筒状のハウジングと、イニシエータシェル10に取付けられた点火器30と、点火器30によって着火される伝火薬34が収容された有底筒状の単一の部材からなるエンハンサカップ40とを備える。エンハンサカップ40は、その側壁部42に、点火器30の作動に伴う伝火薬34の燃焼により破裂または溶融する薄肉の脆弱部42aと、点火器30の作動に伴う伝火薬34の燃焼によっても破裂および溶融せずに残存する厚肉の非脆弱部42bとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置に組み込まれるガス発生器に関し、より特定的には、自動車のステアリングホイール等に搭載されるエアバッグ装置に組み込まれるガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の乗員の保護の観点から、乗員保護装置であるエアバッグ装置が普及している。エアバッグ装置は、車両等衝突時に生じる衝撃から乗員を保護する目的で装備されるものであり、車両等衝突時に瞬時にエアバッグを膨張および展開させることにより、エアバッグがクッションとなって乗員の体を受け止めるものである。ガス発生器は、このエアバッグ装置に組み込まれ、車両等衝突時にコントロールユニット(作動器)からの通電によって点火器(スクイブ)を発火し、点火器において生じる火炎によりガス発生剤を燃焼させて多量の作動ガスを瞬時に発生させ、これによりエアバッグを膨張および展開させる機器である。なお、エアバッグ装置は、たとえば自動車のステアリングホイールやインストゥルメントパネル等に装備される。
【0003】
ガス発生器には、種々の構造のものが存在するが、特にステアリングホイール等に装備される運転席側エアバッグ装置に好適に利用されるガス発生器として、いわゆるディスク型ガス発生器がある。ディスク型ガス発生器は、軸方向の両端が閉塞された短尺円筒状のハウジングを有し、ハウジングの周壁にガス噴出口が設けられるとともにハウジングの内部にガス発生剤や点火器等が収容されてなるものである。
【0004】
このディスク型ガス発生器においては、点火器にて生じた火炎によって確実にガス発生剤が着火されることとなるように、ガス発生剤が収容された燃焼室と点火器との間に燃焼促進剤としての伝火薬(エンハンサ)が配置されることが一般的である。通常、伝火薬は、エンハンサカップと呼ばれるカップ状部材の内部に設けられた伝火室に収容され、この伝火室が点火器の点火部(スクイブカップ)に面するようにエンハンサカップが燃焼室内に突出した状態で配置される。このような構成のガス発生器が開示された文献として、たとえば特開2002−370607号公報(特許文献1)や、特開2008−183939号公報(特許文献2)等がある。
【0005】
ここで、ガス発生器においては、エアバッグの膨張に適した所望のガス出力が得られるように、ガス発生剤の燃焼が所望の燃焼特性を示すように設計されていることが重要である。そのためには、点火器にて生じた火炎エネルギーが制御性よくガス発生剤に伝達されることが重要であり、特に伝火薬による火炎エネルギーの伝達を最適化しておくことが重要である。
【0006】
このため、上述の特許文献1に開示のガス発生器においては、たとえばステンレス合金製等の機械的強度の高いエンハンサホルダを使用し、このエンハンサホルダの所定位置に所定の大きさの開口を設けることにより、伝火薬の燃焼による火炎エネルギーの伝達を制御することとしている。
【0007】
しかしながら、上述のように開口を有するエンハンサホルダを使用した場合には、振動等によって伝火薬が燃焼室に移動したりガス発生剤が伝火室に移動したりすることを防止するために、シール部材によって開口を閉塞しておくことが必要である。通常、この開口を閉塞するシール部材としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔が使用されるが、このアルミニウム箔は非常に薄くその取扱いが困難であり、製造工程が煩雑になる問題がある。また、近年、自動車の軽量化がますます重要な課題となっているが、上述のようにステンレス合金製等の機械的強度の高いエンハンサホルダを使用した場合には、エンハンサホルダの重量が重くなり、ガス発生器全体としての重量が増加してしまう問題も有している。さらには、上述した特許文献1に開示される如くのエンハンサホルダを用いた場合には、伝火薬が着火した場合にもエンハンサホルダの頂壁部の少なくとも一部が残存する構成であるため、当該部分によって火炎エネルギーの伝達が阻害されてガス発生剤の着火遅れが生じ、ガス発生器の作動時におけるガス出力の遅延が生じてしまう問題もある。
【0008】
そのため、機械的強度が低く、伝火薬の着火に伴って破裂または溶融するように構成されたエンハンサカップを利用することが検討されている。このようなエンハンサカップを利用した場合には、予めエンハンサカップに開口を設ける必要がなく上述した開口の閉塞作業が不要となり、製造工程が大幅に容易化するメリットが得られる。また、機械的強度が低いエンハンサカップを利用することが可能となれば、エンハンサカップ自体を軽量化することも可能となり、ガス発生器全体としての軽量化が図られるばかりでなく、材料の使用量の低減に伴うコスト低減や資源の保護の観点からも非常に好適なものとなる。
【0009】
しかしながら、伝火薬が着火することによって伝火室内の圧力が高められてエンハンサカップが破裂したりその熱によって溶融したりするようにエンハンサカップを脆弱に構成した場合には、伝火室内に生じた火炎が急速に燃焼室に流入してガス発生剤に伝達されることとなってしまう。そのため、ガス発生剤が急速に燃焼してしまうこととなり、ガス出力を所定時間にわたって持続させる等のガス出力の調整が非常に困難となってしまう。このように、エンハンサカップを脆弱にした場合には、その機械的強度の低下に伴って伝火薬による火炎エネルギーの伝達の制御が非常に困難になるという課題が存在している。
【0010】
そこで、上記特許文献2に開示されるガス発生器においては、エンハンサカップを取り囲むように燃焼室に隔壁部を設けることで着火されたガス発生剤の燃え広がりが当該隔壁部によって制限されるようにすることにより、燃焼室内に収容されたガス発生剤の燃焼の進行を意図的に遅延させることとし、これによりガス発生剤の燃焼特性を調整可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−370607号公報
【特許文献2】特開2008−183939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献2に開示のガス発生器とした場合には、ガス発生剤の燃え広がりを制限するための隔壁部を別途ガス発生器に具備させることが必要になり、当該隔壁部を設けた分だけガス発生器の重量が増加してしまう問題があった。また、燃焼室に隔壁部を設けた場合には、当該隔壁部が邪魔となり、ガス発生剤の充填工程においてガス発生剤を燃焼室に速やかに均等かつ密に充填する妨げとなってしまう問題もあった。さらには、燃焼室に隔壁を設けた場合には、ガス発生剤が燃焼することによって生じる圧力によって隔壁部が意図しない変形を生じる場合があり、その結果、ガス発生器の出力特性にばらつきが生じてしまう問題もあった。したがって、上記特許文献2に開示のガス発生器は、軽量化の観点や製造作業の容易化の観点から、依然としてその改善の余地のあるものであった。
【0013】
したがって、本発明は、上述した問題点を解決すべくなされたものであり、伝火薬による火炎エネルギーの伝達が好適に制御可能で、安価にかつ容易に製造することができる軽量で出力特性にばらつきの生じないガス発生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に基づくガス発生器は、ハウジングと、点火器と、カップ状部材とを備えている。上記ハウジングは、軸方向の端部を閉塞する天板部および底板部と、ガス噴出口が設けられた周壁部とによって構成された短尺筒状の部材からなり、ガス発生剤が収容された燃焼室を内部に含んでいる。上記点火器は、上記底板部に取付けられ、作動時において着火する点火薬が収容された点火部を含んでいる。上記カップ状部材は、伝火薬が収容された伝火室を内部に含み、上記点火部に上記伝火室が面するように上記燃焼室内に向けて突出するように配置された有底筒状の単一の部材からなる。上記カップ状部材は、上記伝火室と上記燃焼室とを区画する側壁部に、上記点火器の作動に伴う上記伝火薬の燃焼により破裂または溶融する薄肉の脆弱部と、上記点火器の作動に伴う上記伝火薬の燃焼によっても破裂および溶融せずに残存する厚肉の非脆弱部とを有している。
【0015】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記脆弱部が、上記カップ状部材の上記天板部側の端部から上記カップ状部材の軸方向における上記側壁部の途中位置にまで達するように設けられるとともに、上記非脆弱部が、上記途中位置から上記カップ状部材の上記底板部側の端部にまで達するように設けられていることが好ましい。その場合には、上記途中位置が上記カップ状部材の軸方向に沿って上記点火部よりも上記天板部側に位置するように、上記カップ状部材が構成されていることが好ましい。
【0016】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記カップ状部材が、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のプレス成形品であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、伝火薬による火炎エネルギーの伝達が好適に制御可能で、安価にかつ容易に製造することができる軽量で出力特性にばらつきの生じないガス発生器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1におけるガス発生器の模式断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるガス発生器の変形例を示す模式断面図である。
【図3】実施例および比較例に係るガス発生器の性能試験を行なった結果を示すグラフである。
【図4】実施例および比較例に係るガス発生器の性能試験を行なった結果を示すグラフである。
【図5】比較例に係るガス発生器の模式断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2におけるガス発生器の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、自動車のステアリングホイール等に搭載されるエアバッグ装置に組み込まれる、いわゆるディスク型ガス発生器に本発明を適用した場合を示すものである。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるガス発生器の模式断面図である。まず、図1を参照して、本実施の形態におけるガス発生器の構造について説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aは、軸方向の両端が閉塞された短尺円筒状のハウジングを有しており、このハウジングの内部に各種の構成部品が収容されている。ハウジングは、それぞれが有底筒状に形成されたイニシエータシェル10およびクロージャシェル20を組み合わせることによって形成されている。より具体的には、イニシエータシェル10は、底板部11と周壁部12とを有しており、クロージャシェル20は、天板部21と周壁部22とを有しており、これらイニシエータシェル10とクロージャシェル20の開口端同士が面するように組み合わされることにより、その内部に各種の構成部品が収容される空間が形成されている。
【0022】
イニシエータシェル10およびクロージャシェル20は、いずれもステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の部材にて構成される。より具体的には、イニシエータシェル10およびクロージャシェル20は、それぞれ一枚の板状または一片のブロック状の金属部材から、各部分に相当する金型等を使用して鍛造加工、絞り加工、プレス加工等を組み合わせることによって加圧流動の繰り返しによって成形される。また、イニシエータシェル10およびクロージャシェル20の接合には、電子ビーム溶接やレーザー溶接、摩擦圧接等が好適に利用される。
【0023】
イニシエータシェル10の底板部11の略中央部には、保持部13が形成されている。この保持部13は、点火器30が挿入されることで当該点火器30を保持するための部位である。具体的には、保持部13に設けられた開口に点火器30の端子ピン32が挿通するように点火器30が保持部13にイニシエータシェル10の内側から取付けられ、この状態において保持部13の先端に設けられたかしめ部14aを点火器30側に向かってかしめることにより、点火器30がイニシエータシェル10の保持部13にかしめ固定されている。なお、ハウジングの外部に露出するように配置された端子ピン32には、点火器30とコントロールユニットとを結線するためのハーネスのコネクタ(図示せず)が接続される。
【0024】
点火器30は、火炎を発生させるための点火装置であり、点火部31と上述の端子ピン32とを含んでいる。点火部31は、その内部に、作動時において着火する点火薬と、この点火薬を燃焼させるための抵抗体とを含んでいる。端子ピン32は、点火薬を着火させるために点火部31に接続されている。
【0025】
より詳細には、点火器30は、一対の端子ピン32が挿通されてこれを保持する基部と、基部上に取付けられたスクイブカップとを備えており、スクイブカップ内に挿入された端子ピン32の先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられ、この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に接するようにスクイブカップ内に点火薬が充填されている。抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。スクイブカップは、一般に金属製またはプラスチック製である。
【0026】
衝突を検知した際には、端子ピン32を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器30が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には一般に2ミリ秒以下である。
【0027】
点火器30と保持部13との間には、シール部材33が介在されている。シール部材33は、点火器30と保持部13との間に生じる隙間を気密に封止することによって後述する伝火室44を密閉するためのものであり、点火器30を保持部13にかしめ固定する際に上記隙間に挿入される。シール部材33としては、十分な耐熱性および耐久性の材料からなるものを利用することが好ましく、たとえばエチレンプロピレンゴムの一種であるEPDM樹脂製のOリング等を利用することが好適である。なお、別途、シール部材33が介装される部分に液状のシール剤を塗布しておけば、さらに伝火室44の密閉性を高めることができる。
【0028】
イニシエータシェル10の保持部13には、点火器30を覆うように有底筒状のカップ状部材としてのエンハンサカップ40が固定されている。エンハンサカップ40は、頂壁部41、側壁部42およびフランジ部43を有しており、その内部に伝火薬34が収容された伝火室44を含んでいる。エンハンサカップ40は、伝火室44と後述する燃焼室50とを区画するための部材であり、一枚の板状または一片のブロック状の金属部材をプレス加工することによって形成されたプレス成形品からなる。
【0029】
エンハンサカップ40は、単一の部材(すなわち一部品)にて構成されており、その内部に設けられた伝火室44が点火部31に面するように保持部13に固定されている。より具体的には、保持部13に設けられたかしめ部14bによってエンハンサカップ40のフランジ部43がかしめられることにより、エンハンサカップ40が保持部13に固定されている。
【0030】
エンハンサカップ40は、頂壁部41および側壁部42のいずれにも開口を有しておらず、エンハンサカップ40がイニシエータシェル10の保持部13に固定された状態において、その内部に設けられた伝火室44を完全に密閉している。このエンハンサカップ40は、点火器30が作動することによって伝火薬34が着火された場合に伝火室44内の圧力上昇や発生した熱の伝導に伴ってその一部が破裂または溶融するものであり、その機械的強度は従来のステンレス合金製のエンハンサカップに比べて低いものである。エンハンサカップ40の材質としては、好適には金属が利用され、プレス加工の際の成形性の観点や軽量化の観点から、特にアルミニウムやアルミニウム合金等が好適に利用される。
【0031】
エンハンサカップ40の側壁部42には、薄肉の脆弱部42aと、厚肉の非脆弱部42bとが設けられている。薄肉の脆弱部42aは、エンハンサカップ40の天板部21側の端部(すなわち側壁部42の頂壁部41側の軸方向端部)からエンハンサカップ40の軸方向における側壁部42の途中位置(頂壁部41の上面を基準とした場合にその高さが図中に示すhとなる位置)にまで達するように設けられている。一方、厚肉の非脆弱部42bは、上記途中位置からエンハンサカップ40の底板部11側の端部(すなわち側壁部42のフランジ部43側の軸方向端部)にまで達するように設けられている。
【0032】
ここで、脆弱部42aは、その厚みが非脆弱部42bに比して薄く形成されることにより、点火器30の作動に伴う伝火薬34の燃焼によって破裂または溶融するように構成されている。一方、非脆弱部42bは、その厚みが脆弱部42aに比して厚く形成されることにより、点火器30の作動に伴う伝火薬34の燃焼によっても破裂および溶融せずに残存するように構成されている。
【0033】
なお、上述した脆弱部の厚みt2および非脆弱部の厚みt3は、使用される伝火薬34の種類や充填量等に基づいて適宜調節されるものであるが、その一例を以下に示す。たとえば、上記脆弱部42aの厚みt2は、エンハンサカップ40をアルミニウム製またはアルミニウム合金製とした場合には、1.0mm以下とされ、好ましくは0.5mm以下とされ、さらに好ましくは0.3mm以下とされる。一方、上記非脆弱部42bの厚みt3は、エンハンサカップ40をアルミニウム製またはアルミニウム合金製とした場合には、脆弱部42aの厚みt2よりも小さいことを条件に、0.5mm以上1.2mm以下とされ、好ましくは0.5mm以上1.0mm以下とされ、さらに好ましくは0.6mm以上0.9mm以下とされる。なお、エンハンサカップ40の頂壁部41の厚みt1は、特に制限されるものではないが、プレス成形の際の成形性を考慮した場合には、非脆弱部42bの厚みt3と同等程度とされることが好ましい。しかしながら、上記頂壁部41の厚みt1を脆弱部42aの厚みt2と同等程度とした場合には、当該頂壁部41についても、これが点火器30の作動に伴う伝火薬34の燃焼によって破裂または溶融する脆弱部として機能することになる。
【0034】
伝火室44に充填された伝火薬34は、点火器30が作動することによって生じた火炎によって点火され、燃焼することによって熱粒子を発生する。伝火薬34としては、後述するガス発生剤51を確実に燃焼開始させることができるものであることが必要であり、一般的には、B/KNO3等に代表される金属粉/酸化剤からなる組成物などが用いられる。伝火薬34は、粉状のものや、バインダによって所定の形状に成形されたもの等が利用される。バインダによって成形された伝火薬の形状としては、たとえば顆粒状、円柱状、シート状、球状、単孔円筒状、多孔円筒状、タブレット状など種々の形状がある。
【0035】
イニシエータシェル10およびクロージャシェル20からなるハウジングの内部の空間のうち、上述のエンハンサカップ40が配置された部分を取り巻く空間には、ガス発生剤51が収容される燃焼室50が位置している。より具体的には、上述のエンハンサカップ40は、ハウジングの内部に形成された燃焼室50内に突出して配置されており、このエンハンサカップ40の頂壁部41の外表面に面する部分および側壁部42の外表面に面する部分に設けられた空間が燃焼室50として構成されている。ここで、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、燃焼室50のうち、エンハンサカップ40の側壁部42の外表面に面する部分の空間にのみ、ガス発生剤51が収容されている。
【0036】
また、燃焼室50を取り巻く空間には、ハウジングの内周に沿ってフィルタ55が配置されている。フィルタ55は、筒状の形状を有しており、その中心軸はハウジングの軸方向と実質的に合致するように配置されている。
【0037】
ガス発生剤51は、点火器30によって点火された伝火薬34が燃焼することによって生じた熱粒子によって着火され、燃焼することによってガスを発生させるものである。ガス発生剤51は、非アジド系ガス発生剤を用いることが好ましく、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成形体として形成される。燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等またはこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジンや硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5−アミノテトラゾール等が好適に利用される。また、酸化剤としては、たとえばアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が好適に利用される。また、添加剤としては、バインダやスラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばカルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダや、合成ヒドロキシタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。スラグ形成剤としては窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。また、燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
【0038】
ガス発生剤51の成形体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状等の粒状のもの、ディスク状のものなど様々な形状のものがある。また、円柱状のものでは、成形体内部に孔を有する有孔状(たとえば単孔筒形状や多孔筒形状等)の成形体も利用される。これらの形状は、ガス発生器1Aが組み込まれるエアバッグ装置の仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤51の燃焼時においてガスの生成速度が時間的に変化する形状を選択するなど、仕様に応じた最適な形状を選択することが好ましい。また、ガス発生剤51の形状の他にもガス発生剤51の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成形体のサイズや充填量を適宜選択することが好ましい。
【0039】
フィルタ55は、たとえばステンレス鋼や鉄鋼等の金属線材を巻き回して焼結したものや、金属線材を編み込んだ網材をプレス加工することによって押し固めたもの、あるいは孔あき金属板を巻き回したもの等が利用される。ここで、網材としては、具体的にはメリヤス編みの金網や平織りの金網、クリンプ織りの金属線材の集合体等が利用される。また、孔あき金属板としては、たとえば、金属板に千鳥状に切れ目を入れるとともにこれを押し広げて孔を形成して網目状に加工したエキスパンドメタルや、金属板に孔を穿つとともにその際に孔の周縁に生じるバリを潰すことでこれを平坦化したフックメタル等が利用される。この場合において、形成される孔の大きさや形状は、必要に応じて適宜変更が可能であり、同一金属板上において異なる大きさや形状の孔が含まれていてもよい。なお、金属板としては、たとえば鋼板(マイルドスチール)やステンレス鋼板が好適に利用でき、またアルミニウム、銅、チタン、ニッケルまたはこれらの合金等の非鉄金属板を利用することもできる。
【0040】
フィルタ55は、燃焼室50にて発生した作動ガスがこのフィルタ55中を通過する際に、作動ガスが有する高温の熱を奪い取ることによって作動ガスを冷却する冷却手段として機能するとともに、作動ガス中に含まれる残渣(スラグ)等を除去する除去手段としても機能する。したがって、作動ガスを十分に冷却し、かつ残渣が外部に放出されないようにするためには、燃焼室50内にて発生した作動ガスが確実にフィルタ55中を通過するようにすることが必要である。
【0041】
フィルタ55に対面する部分のクロージャシェル20の周壁部22には、ガス噴出口23が複数設けられている。このガス噴出口23は、フィルタ55を通過した作動ガスをハウジングの外部に導出するためのものである。クロージャシェル20の周壁部22のフィルタ55側に位置する主面には、上記ガス噴出口23を閉塞するようにシール部材24が貼付されている。このシール部材24としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等が利用される。これにより、燃焼室50の気密性が確保されている。
【0042】
ハウジングの内部の空間のうち、クロージャシェル20の天板部21側の端部には、フィルタ55の上端をハウジングに固定するためのクロージャシェル側保持部材52が配置されている。クロージャシェル側保持部材52は、クロージャシェル20の天板部21に当接する部位と、フィルタ55の上端部分の内周面に当接する部位とを有している。このクロージャシェル側保持部材52の内部には、燃焼室50内に収容されたガス発生剤51に接触するようにクッション材53が配置されている。このクッション材53は、成形体からなるガス発生剤51が振動等によって粉砕されることを防止する目的で設けられるものであり、好適にはセラミックスファイバの成形体や発泡シリコン等が利用される。
【0043】
一方、ハウジングの内部の空間のうち、イニシエータシェル10の底板部11側の端部には、フィルタ55の下端をハウジングに固定するためのイニシエータシェル側保持部材54が配置されている。イニシエータシェル側保持部材54は、イニシエータシェル10の底板部11の内底面に当接する部位と、フィルタ55の下端部分の内周面に当接する部位とを有している。
【0044】
これらクロージャシェル側保持部材52およびイニシエータシェル側保持部材54は、たとえば単一の金属製板状部材をプレス加工等することによって形成されたものであり、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板(SPCC)やステンレス鋼板(SUS304)等)が用いられる。クロージャシェル側保持部材52およびイニシエータシェル側保持部材54は、上述のように金属製板状部材の一部を折り曲げることによって形成されたものであるため、クロージャシェル側保持部材52およびイニシエータシェル側保持部材54はそれぞれ適度な弾性を有している。そのため、クロージャシェル側保持部材52およびイニシエータシェル側保持部材54は、それぞれフィルタ55の内周面に適度に圧接触することになり、これによりフィルタ55がハウジングに保持されて固定されることになる。また、クロージャシェル側保持部材52およびイニシエータシェル側保持部材54のそれぞれは、フィルタ55の上端とクロージャシェル20の天板部21との間の隙間およびフィルタ55の下端とイニシエータシェル10の底板部11との間の隙間からのガスの流出を防止する機能も果たしている。
【0045】
次に、図1を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1Aの組立作業の要領について説明する。
【0046】
まず、イニシエータシェル10の保持部13にシール部材33を添接して点火器30をかしめ固定する。そして、内部に伝火薬34が収容されたエンハンサカップ40をイニシエータシェル10の保持部13にかしめ固定する。次いで、イニシエータシェル側保持部材54およびフィルタ55をイニシエータシェル10の内底面に向けて挿入配置する。
【0047】
そして、フィルタ55の内側にガス発生剤51を充填し、クッション材53を介装したクロージャシェル側保持部材52をフィルタ55の上端部分に内挿する。その後、ガス噴出口23がシール部材24によって閉塞されたクロージャシェル20をイニシエータシェル10に対して被せ、イニシエータシェル10とクロージャシェル20とを溶接する。以上により、図1に示す構造のガス発生器1Aの組立てが完了する。
【0048】
ここで、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、エンハンサカップ40に開口が設けられていないため、エンハンサカップ40の内部に設けられた伝火室44に伝火薬34を充填する工程が非常に容易に行なえる。これは、ガス発生器1Aの作動時において、エンハンサカップ40の一部が破裂または溶融するようにエンハンサカップ40自体が機械的強度が低い脆弱な部材にて構成されているためである。すなわち、上述した特許文献1に開示されるような開口を有するエンハンサホルダを用いた場合に必要であった、伝火薬を充填するためにエンハンサカップに設けられた開口を閉塞する作業が不要になるため、製造工程を大幅に簡素化することができる。
【0049】
次に、図1を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1Aの作動時における動作について説明する。
【0050】
本実施の形態におけるガス発生器1Aが搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて点火器30が作動する。伝火室44に収容された伝火薬34は、点火器30が作動することによって生じた火炎によって点火されて燃焼し、多量の熱粒子を発生させる。この伝火薬34の燃焼により、エンハンサカップ40内の圧力が高まるとエンハンサカップ40の脆弱部42aがその圧力または熱によって破裂または溶融し、上述の熱粒子が燃焼室50に流れ込む。このとき、エンハンサカップ40の非脆弱部42bは、破裂および溶融することなく残存することになる。
【0051】
流れ込んだ熱粒子により、燃焼室50に収容されたガス発生剤51が着火されて燃焼し、多量の作動ガスを発生させる。燃焼室50にて発生した作動ガスは、フィルタ55中を通過し、その際フィルタ55によって熱が奪われて冷却されるとともに作動ガス中に含まれる残渣がフィルタ55によって除去される。フィルタ55を通過した後の作動ガスは、ハウジングの外周縁部に流れ込み、その後、クロージャシェル20の周壁部22に設けられたガス噴出口23からハウジングの外部へと噴出される。噴出されたガスは、ガス発生器1Aに隣接して設けられたエアバッグの内部に導入され、エアバッグを膨張および展開する。
【0052】
以下においては、図1を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1Aとした場合に、伝火薬による火炎エネルギーの伝達が好適に制御可能となる仕組みについて説明する。
【0053】
図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、エンハンサカップ40の頂壁部41寄りの部分の側壁部42の厚みt2を他の部位に比較して薄肉とすることによって脆弱部42aを構成し、エンハンサカップ40の側壁部42の残る部分の厚みt3を上記脆弱部42aの厚みt2よりも厚肉とすることによって非脆弱部42bを構成している。ここで、脆弱部42aと非脆弱部42bとの境界部分が設けられる位置は特に制限されるものではないが、エンハンサカップ40の軸方向に沿って点火器30の点火部31よりもクロージャシェル20の天板部21側とされることが好ましい。すなわち、エンハンサカップ40の頂壁部41の上面を基準とした場合の当該境界部分の高さhが、上記上面を基準とした場合の点火部31の上面の高さHよりも小さい値をとる(すなわちh<Hの条件を満たす)ことが好ましい。
【0054】
このように構成することにより、点火器30の作動によって伝火薬34が燃焼した状態において、エンハンサカップ40の脆弱部42aのみが破裂または溶融し、非脆弱部42bが破裂および溶融せずに残存することになり、燃焼室50内に流入する火炎がエンハンサカップ40の上端部のみに絞られることになる。その結果、エンハンサカップ40に隣接するガス発生剤51のすべてが一度に同時に着火されることがなくなり、ガス発生剤51の燃え広がりが伝火室44の上端部を中心として放射状に進行することになる。なお、このガス発生剤51の燃え広がりを図1中において破線矢印にて模式的に表わしている。
【0055】
したがって、エンハンサカップ40に脆弱部42aと非脆弱部42bとを設け、これら脆弱部42aおよび非脆弱部42bが設けられる位置および大きさ等を適宜調節することにより、ガス発生剤51が急速に燃焼することを防止してその燃焼の進行を意図的に遅延させることができ、ガス出力を所定時間にわたって持続させる等のガス出力の調整を仕様に応じて最適化することが非常に容易に行なえることになる。
【0056】
また、エンハンサカップ40の側壁部42をすべて肉薄に構成した場合には、伝火薬34の燃焼によってエンハンサカップ40が破裂または溶融した際の衝撃がフィルタ55に加わってフィルタ55が損傷してしまうおそれがあるが、本実施の形態におけるガス発生器1Aの如くエンハンサカップ40の側壁部42に非脆弱部42bを設けることにより、このようなフィルタ55に加わる衝撃が緩和されてその損傷が未然に防止される効果も得られる。
【0057】
また、上記構成を採用することにより、脆弱部42aが伝火薬34の着火時において破裂または溶融することで頂壁部41が非脆弱部42bから脱離してハウジングの天板部21側に向けて移動することになるため、上述した特許文献1に開示される如くのエンハンサホルダを用いた場合に生じるガス出力の遅延が生じることもない。
【0058】
また、上記構成を採用することにより、上述した特許文献2に開示される如くの隔壁部を燃焼室に設ける必要もないため、出力特性にばらつきが生じることも未然に防止できる。
【0059】
以上において説明したように、本実施の形態におけるガス発生器1Aとすることにより、伝火薬による火炎エネルギーの伝達が好適に制御可能で、かつ安価にかつ容易に製造することができる軽量で出力特性にばらつきの生じないガス発生器とすることができる。
【0060】
以上において説明した本実施の形態においては、脆弱部42aと非脆弱部42bとの境界部分をエンハンサカップ40の頂壁部41寄りの位置に配置した場合を例示した。しかしながら、上述したように、当該境界部分の位置を適宜調節することにより、ガス発生剤51の燃焼の進行を意図的に遅延させてこれを適宜調節することが可能である。以下においては、当該境界部分の位置を上述した位置と異なる位置にした場合を、本実施の形態の変形例として例示する。図2は、本発明の実施の形態1におけるガス発生器の変形例を示す模式断面図である。
【0061】
図2に示す本変形例に係るガス発生器1Bにおいては、脆弱部42aと非脆弱部42bとの境界部分をエンハンサカップ40の軸方向の略中央部寄りの位置に配置している。このように構成した場合には、上述した本実施の形態におけるガス発生器1Aとした場合に比べ、脆弱部42aの大きさがより大きくなることになり、点火器30の作動によって伝火薬34が燃焼した状態において、破裂および溶融せずに残存する非脆弱部42bが小さくなることになり、燃焼室50内に流入する火炎がエンハンサカップ40の上端部寄りから略中央部寄りの位置にまで大きくなることになる。したがって、ガス発生剤51の燃え広がりが伝火室44の上端部および略中央部を中心として放射状に進行することになり、上述した本実施の形態におけるガス発生器1Aに比べて、作動初期時におけるガス出力を高めることが可能になる。なお、このガス発生剤51の燃え広がりを図2中において破線矢印にて模式的に表わしている。
【0062】
このように構成した場合にも、非脆弱部42bが破裂および溶融せずに残存することにより、エンハンサカップ40に隣接するガス発生剤51のすべてが一度に同時に着火されることがなくなり、ガス発生剤51が急速に燃焼することを防止してその燃焼の進行を意図的に遅延させることができる。
【0063】
(検証試験)
図3および図4は、実施例1,2および比較例に係るガス発生器をそれぞれ試作し、これらを作動させることによって本発明を適用することでどの程度ガス発生剤の燃焼特性を調整することが可能になるかを検証した試験の結果を示すグラフである。図3に示すグラフは、縦軸にタンク内圧力[kPa]を、横軸に時間[ms]をとったものであり、図4に示すグラフは、縦軸にガス噴出口からの作動ガスの噴出量[mol/s]を、横軸に時間[ms]をとったものである。また、図5は、比較例に係るガス発生器の構造を示す模式断面図である。
【0064】
検証試験においては、本発明に基づいた実施例1,2に係るガス発生器および本発明に基づかない比較例に係るガス発生器を準備し、これらを所定容量の気密に封止されたタンク内に設置してそれぞれを作動させてその際のタンク内圧力を経時的に測定することで個々のガス発生器の出力性能を評価した。その際、作動ガスの噴出量については、タンク内圧力の変化から気体の状態方程式に基づいてこれを算出した。使用したタンクの容量は、60リットルであり、雰囲気温度は、室温環境下(約23℃)とした。なお、実施例1,2および比較例においては、同種の伝火薬およびガス発生剤を同量使用し、エンハンサカップの形状以外の構造はすべて共通の構造とした。
【0065】
比較例に係るガス発生器としては、図5に示す構造のガス発生器1Xを使用した。すなわち、比較例に係るガス発生器1Xにおいては、エンハンサカップ40として側壁部42がすべて脆弱な部位となるように構成されたもの(すなわち、伝火薬34の燃焼によっても破裂または溶融しない非脆弱部を有さないもの)を使用した。当該比較例に係るガス発生器1Xにおいては、側壁部42のすべての部位が脆弱に構成されているため、ガス発生剤51の燃え広がりが伝火室44の上端部、略中央部および下端部のすべてを中心として放射状に進行することになる。なお、このガス発生剤51の燃え広がりを図5中において破線矢印にて模式的に表わしている。
【0066】
実施例1に係るガス発生器においては、上述した図1に示す構造において、アルミニウム製のエンハンサカップ40を使用し、脆弱部42aの厚みt2を0.3mmとし、非脆弱部42bの厚みt3を1.0mmとした。脆弱部42aと非脆弱部42bとの境界部分の位置については、図1に示す高さhが4.0mmとなる位置とした。なお、エンハンサカップ40の軸方向に沿った全長は30.0mmとし、その内径は14.0mmとした。また、頂壁部41の厚みt1は、1.2mmとし、フランジ部43の厚みは、1.0mmとした。
【0067】
実施例2に係るガス発生器においては、上述した図1に示す構造において、アルミニウム製のエンハンサカップ40を使用し、脆弱部42aの厚みt2を0.3mmとし、非脆弱部42bの厚みt3を1.0mmとした。脆弱部42aと非脆弱部42bとの境界部分の位置については、図1に示す高さhが6.0mmとなる位置とした。なお、エンハンサカップ40の軸方向に沿った全長は30.0mmとし、その内径は14.0mmとした。また、頂壁部41の厚みt1は、1.2mmとし、フランジ部43の厚みは、1.0mmとした。
【0068】
比較例に係るガス発生器においては、上述した図5に示す構造において、アルミニウム製のエンハンサカップ40を使用し、側壁部42の厚みt4を0.15mmとした。なお、エンハンサカップ40の軸方向に沿った全長は33.0mmとし、その内径は14.0mmとした。また、頂壁部41の厚みt1は、0.15mmとし、フランジ部43の厚みは、0.18mmとした。
【0069】
図3に示すように、実施例1および実施例2においては、比較例ほど急峻な圧力の立ち上がりが生じず、なだらかな圧力の立ち上がりが生じていることが分かる。すなわち、図4に示すように、実施例1および実施例2においては、比較例に比べ、作動ガスの単位時間当たりの噴出量が最大となる時刻以降においても、比較的高いガス噴出量が一定時間にわたって得られることが分かる。加えて、図3および図4に示すように、脆弱部42aおよび非脆弱部42bの境界部分の位置を調整する(すなわち脆弱部42aおよび非脆弱部42bの大きさを調整する)ことにより、圧力の立ち上がりの度合いを容易に制御することが可能であることも分かる。
【0070】
以上の検証試験の結果から、本発明を適用することにより、燃焼室内におけるガス発生剤の燃焼の進行を意図的に遅延させることができ、そのためエアバック装置の仕様に応じて最適化されたガス出力を有するガス発生器を容易に製作することができることが裏付けられた。
【0071】
なお、図4に示すように、実施例1および実施例2に係るガス発生器とすることにより、比較例に係るガス発生器とした場合に比べて、作動ガスの単位時間当たりの噴出量の最大値(すなわち、時刻10ms前後における作動ガスの噴出量)が低く抑えられていることが確認された。これは、実施例1および実施例2に係るガス発生器とすることにより、ハウジングに加えられる圧力が必要以上に大きくなることが効果的に抑制できていることを意味している。実際に、上記検証試験後(すなわち作動後)の実施例1,2および比較例に係るガス発生器のハウジングの軸方向に沿った変形量を実測したところ、実施例1に係るガス発生器においては、その変形量が比較例に係るガス発生器の変形量の約64%に低減され、実施例2に係るガス発生器においては、その変形量が比較例に係るガス発生器の変形量の約80%に低減されていることが確認された。
【0072】
したがって、上述した本実施の形態およびその変形例の如くのガス発生器1A,1Bとすることにより、作動時におけるハウジングの意図しない変形を抑制できるという副次的なメリットが得られることになり、またその分だけハウジングの厚みを薄型化することでガス発生器全体としての軽量化を図ることができるというメリットも得られることになる。
【0073】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2におけるガス発生器の模式断面図である。なお、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aと同様の部分については図中同一の符号を付し、その説明はここでは繰り返さない。
【0074】
図6に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Cにあっては、エンハンサカップ40の側壁部42の外表面に面する部分の燃焼室50のみならず、エンハンサカップ40の頂壁部41の外表面に面する部分の燃焼室50にも、ガス発生剤51が収容されている。すなわち、本実施の形態におけるガス発生器1Cにあっては、エンハンサカップ40を取り巻く空間である燃焼室50のすべての部分にガス発生剤51が収容された構造としている。
【0075】
このように構成した場合にも、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aとした場合と同様に、作動時において非脆弱部42bが破裂および溶融せずに残存することになり、エンハンサカップ40に隣接するガス発生剤51のすべてが一度に同時に着火されることがなくなり、ガス発生剤51が急速に燃焼することを防止してその燃焼の進行を意図的に遅延させることができる。したがって、ガス出力を所定時間にわたって持続させる等のガス出力の調整を仕様に応じて最適化することが非常に容易に行なえることになる。
【0076】
以上において説明した本発明の実施の形態1および2ならびにその変形例においては、本発明をいわゆるディスク型ガス発生器に適用した場合を例示して説明を行なったが、本発明の適用対象はこれに限られるものではない。
【0077】
このように、今回開示した上記各実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0078】
1A〜1C ガス発生器、10 イニシエータシェル、11 底板部、12 周壁部、13 保持部、14a,14b かしめ部、20 クロージャシェル、21 天板部、22 周壁部、23 ガス噴出口、24 シール部材、30 点火器、31 点火部、32 端子ピン、33 シール部材、34 伝火薬、40 エンハンサカップ、41 頂壁部、42 側壁部、42a 脆弱部、42b 非脆弱部、43 フランジ部、44 伝火室、50 燃焼室、51 ガス発生剤、52 クロージャシェル側保持部材、53 クッション材、54 イニシエータシェル側保持部材、55 フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の端部を閉塞する天板部および底板部と、ガス噴出口が設けられた周壁部とによって構成され、ガス発生剤が収容された燃焼室を内部に含む短尺筒状のハウジングと、
前記底板部に取付けられ、作動時において着火する点火薬が収容された点火部を含む点火器と、
伝火薬が収容された伝火室を内部に含み、前記点火部に前記伝火室が面するように前記燃焼室内に向けて突出するように配置された有底筒状の単一の部材からなるカップ状部材とを備え、
前記カップ状部材は、前記伝火室と前記燃焼室とを区画する側壁部に、前記点火器の作動に伴う前記伝火薬の燃焼により破裂または溶融する薄肉の脆弱部と、前記点火器の作動に伴う前記伝火薬の燃焼によっても破裂および溶融せずに残存する厚肉の非脆弱部とを有している、ガス発生器。
【請求項2】
前記脆弱部は、前記カップ状部材の前記天板部側の端部から前記カップ状部材の軸方向における前記側壁部の途中位置にまで達するように設けられ、
前記非脆弱部は、前記途中位置から前記カップ状部材の前記底板部側の端部にまで達するように設けられている、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記途中位置が前記カップ状部材の軸方向に沿って前記点火部よりも前記天板部側に位置するように、前記カップ状部材が構成されている、請求項2に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記カップ状部材は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のプレス成形品である、請求項1から3のいずれかに記載のガス発生器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−235837(P2011−235837A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110980(P2010−110980)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】