説明

ガス絶縁機器の絶縁性能試験方法及び装置

【課題】ガス絶縁機器を大気中で絶縁ガスと等価な絶縁性能の検証を可能にする。
【解決手段】金属容器1内に電気機器の導体部3が絶縁材2で支持され、金属容器内に絶縁ガスが封入されるガス絶縁機器の絶縁性能を試験する絶縁性能試験方法又は装置において、金属容器の内部を大気の状態のままで、課電線20を介して導体部3に商用周波数の試験電圧を課電し、試験電圧を昇圧して課電線に流れる放電電流を検出し、検出された放電電流に基づいてガス絶縁機器の絶縁性能を試験することにより、絶縁ガスを封入して行う絶縁性能試験よりも十分に低い試験電圧で、絶縁ガスと等価な絶縁性能の検証を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁機器の絶縁性能試験方法及び装置に係り、特に、絶縁ガスを封入しないで、大気中にてガス絶縁機器の絶縁性能を検証する簡便で効率的な絶縁性能試験方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁変電設備を構成するガス絶縁開閉装置、ガス絶縁母線、ガス絶縁変圧器等のガス絶縁機器は、密閉された金属容器内に電気の導体部(充電部ともいう。)をエポキシ樹脂などの絶縁材で支持して設置し、絶縁ガス(一般に、SFガス)を封入して形成されている。これにより、ガス絶縁機器は高い絶縁耐力を有し、かつコンパクトに形成される。ガス絶縁機器の絶縁性能を評価する耐電圧値は、各種規格(例えば、IEC規格(Standard of the International Electrotechnical Committee)やJEC規格(電気規格調査会標準規格))により電圧階級ごとに決められており、それらを満足するように製品化されている。また、組み立て後には耐電圧試験が行われ、絶縁性能を満足することを検証している。
【0003】
一方、ガス絶縁機器内に、金属異物が万一存在すると絶縁性能を大きく低下させることから、ガス絶縁機器の組み立て時に内部に異物が混入しないように細心の注意を払っている。しかし、金属容器内に金属などの異物が残置していると、その異物の部位から部分放電が発生し、放置すると絶縁破壊に至ることになる。そこで、従来から、部分放電を速やかに検出するため、部分放電により発生する電磁波を金属容器内に設置したアンテナにより受信して、部分放電を検出することが行われている(特許文献1)。
【0004】
一方、ガス絶縁機器の絶縁性能試験は、通常、製造工場においてガス絶縁機器の組み立てが完了した後、金属容器内を真空引きして絶縁ガスを封入し、金属容器内の高電圧導体に試験電圧を課電することにより行う。そして、絶縁性能試験の結果がよければ、金属容器内の絶縁ガスを回収した後、金属容器内に窒素ガスなどの乾燥ガスを封入して、据え付け場所などに発送する。絶縁性能試験の結果、部分放電など絶縁異常が検出された場合は、金属容器内の絶縁ガスを回収した後、金属容器を大気中で開放して、原因である欠陥を取り除いた上で、再度、同じ手順を繰り返して絶縁性能試験を行う。
【0005】
ところで、SF6ガスは、地球温暖化ガスに指定され、大気中に漏出させたり、放出することが規制されている。そのため、何らかの理由でガス絶縁機器を開放する際には、SF6ガスを回収して漏れ出ないようにする必要がある。SF6ガスの回収作業は、細心の注意を払い管理された作業手順により実施すると共に、回収効率の高い設備を導入するなどして大気放出の抑制をはかっている。したがって、SF6ガスを封入して行う絶縁性能試験において、絶縁異常があると作業効率が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、特許文献2には、試験用のタンク内にガス絶縁機器を設置し、絶縁ガスに代えて、絶縁ガスと同等の絶縁性能を有する乾燥した加圧空気をタンク内に封入して、絶縁性能試験を行うことが提案されている。これによれば、タンク内の乾燥加圧空気はそのまま大気に放出できるから、必要に応じて何度でもタンクを開放できるので、絶縁性能試験の作業を効率化できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO98/53334
【特許文献2】特開2001−194409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2によれば、ガス絶縁機器又は部品を収容する試験用のタンク、空気圧縮機及び乾燥器が必要になるから、試験設備が大型化するととともに、圧縮空気の生成及び乾燥に時間がかかるという問題がある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、ガス絶縁機器を大気中で絶縁ガスと等価な絶縁性能の検証を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、ガス絶縁機器について大気中で絶縁ガスと等価な絶縁性能試験の実施を可能にする研究を鋭意行った。その結果、正常な絶縁性能を有するガス絶縁機器は、大気中では絶縁ガス(SF)の絶縁破壊(FO)電圧に比べて、十分に低い試験電圧(例えば、SFガスの10分の1)で絶縁破壊を起こすという知見を得た。また、絶縁破壊に先行する部分放電についても、大気中では絶縁ガス(SF)に比べて十分に低い試験電圧(例えば、SFの30分の1)で発生するという知見を得た。一方、大気中でガス絶縁機器の絶縁試験を行う際、湿度が高いと耐電圧性能が低下する懸念があったが、高湿度であっても、絶縁材の表面に結露が発生しない状態であれば、耐電圧が10%以上低下することはないことを確認できたので、実用上問題はないことがわかった。
【0011】
特に、絶縁ガス下における耐電圧及び部分放電の特性と、大気圧下における耐電圧及び部分放電の特性とに一定の相関があることが判明した。その結果、大気圧下において、絶縁破壊しない低い試験電圧を印加する方法でも、ガス絶縁機器の耐電圧性能及び部分放電の有無を十分に検証することができるといえる。これにより、ガス絶縁機器に高気圧の絶縁ガス(SFガス)を充填して絶縁性能を検証する場合に比べて、試験で使用する高電圧電源も大幅に電圧を低くできる。
【0012】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するため、金属容器内に電気機器の導体部が絶縁材で支持され、前記金属容器内に絶縁ガスが封入されるガス絶縁機器の絶縁性能を試験する絶縁性能試験方法において、前記金属容器の内部を大気の状態のままで、課電線を介して前記導体部に商用周波数の試験電圧を課電し、前記試験電圧を昇圧して前記課電線に流れる放電電流を検出し、検出された前記放電電流に基づいて前記ガス絶縁機器の絶縁性能を試験することを特徴とする。
【0013】
試験電圧の課電は、ガス絶縁機器の大気中に露出している高電圧の導体に、高電圧の試験電圧を直接印加して絶縁試験を行うことが可能である。また、高電圧の導体が露出していない場合には、課電線をガス絶縁機器のハンドホール等の開口部から挿入して、高電圧導体に接続することができる。また、ガス絶縁開閉装置を構成する接地開閉器の接地端子を介して課電することができる。
【0014】
すなわち、本発明は、電気機器を構成する導体部を大地から絶縁した状態で、導体部に試験電圧を課電する。試験電圧は商用周波数の電圧でよく、ゼロを含む低い電圧から徐々に昇圧して課電することができる。そして、課電線に流れる放電電流を検出し、検出した放電電流に基づいてガス絶縁機器の絶縁性能を試験する。なお、本発明は、ガス絶縁設備又はガス絶縁機器の全体、あるいは部分ごとに大気中で試験することができる。また、ガス絶縁機器を構成する金属容器は、密閉された状態でも、開放された状態でもよく、要は、金属容器内が大気の状態であればよい。また、湿度は結露が発生しない範囲内であることが望ましい。
【0015】
また、発明者らは、ガス絶縁機器のモデルとしてガス絶縁断路器を用い、大気中における部分放電の開始電圧及び絶縁破壊電圧を実測した。実測結果についての詳細は後述するが、図5に示すように、(a)導体上の異物、(b)金属容器であるタンク内面の異物、(c)絶縁スペーサの付着異物、などの部分放電の発生原因である異物が存在する場合に分けて実測した。これによれば、異物による絶縁欠陥の種類にかかわらず、絶縁破壊に至る耐電圧よりも十分に低い電圧で部分放電が発生している。また、部分放電が発生すると、正常な絶縁状態よりも絶縁破壊(FO)電圧が低くなる。そこで、本発明では、部分放電の検出を中心に絶縁性能試験方法を説明する。
【0016】
すなわち、本発明は、前記放電電流に含まれる電流パルスにより部分放電の発生を検出し、前記試験電圧の位相に対応させて前記電流パルスの発生位相を計測し、前記試験電圧の位相に対する前記電流パルスの発生位相の対応関係に基づいて、前記部分放電の発生原因(発生源)を特定することを特徴とする。これにより、その部分放電の発生原因を速やかに取り除くことができる。従来は、部分放電信号は非常に小さく微弱であるため検出することが難しいだけでなく、その発生原因を特定することは困難であった。この点、本発明によれば、図3に示すように、試験電圧の位相と電流パルスの発生位相の対応関係は、部分放電の発生原因、すなわち導体上の異物、タンク内面の異物、絶縁スペーサの付着異物による欠陥の種類と特有の関係があることが判明した。したがって、試験電圧の位相と電流パルスの発生位相の対応関係に基づいて部分放電の発生原因を特定することができる。部分放電の発生原因である欠陥の種類を特定できれば、その原因を取り除く修復作業を速やかに実施することができる。
【0017】
さらに、本発明は、前記金属容器の内部の電磁波を検出し、検出された前記電磁波の周波数分布特性と前記試験電圧の位相に対する前記電磁波の位相特性を分析し、分析した前記電磁波の周波数分布特性と前記電磁波の位相特性の少なくとも一方に基づいて、前記部分放電の発生原因を特定することができる。
【0018】
ところで、部分放電には、試験電圧を課電する課電線から部分放電する外部ノイズ、周囲の電磁機器から発生する電磁波などの外部ノイズが含まれる。このような外部ノイズを除去して、試験対象のガス絶縁機器の部分放電を検出する必要がある。そこで、本発明では、前記電流パルスの波形と前記電磁波の波形とを対比して、いずれか一方にしか含まれない波形の部分は、前記部分放電には含まれないノイズ信号であると判定するようにすることが好ましい。
【0019】
また、外部ノイズを除去するため、本発明は、前記試験電圧の正サイクルにおける前記電流パルスの絶対値の大きさと、前記試験電圧の負サイクルにおける前記電流パルスの絶対値の大きさとに基づいて、それらの和に対する差の比を前記電流パルスの極性差として求め、前記試験電圧の正サイクルにおける前記電磁波の絶対値の大きさと、前記試験電圧の負サイクルにおける前記電磁波の絶対値の大きさとに基づいて、それらの和に対する差の比を前記電磁波の極性差として求め、前記電流パルスの極性差が0.7〜1で、前記電磁波の極性差が0〜0.4であるとき、検出された前記電流パルス及び前記電磁波はノイズではなく、前記部分放電であると判定するようにすることができる。
【0020】
本発明の絶縁性能試験方法を直接実施する装置は、前記金属容器の内部を大気の状態のままで、課電線を介して前記導体部に商用周波数の可変の試験電圧を課電する課電装置と、前記課電線に流れる放電電流を検出する放電電流検出器と、該放電電流検出器により検出された前記放電電流に基づいて前記ガス絶縁機器の絶縁性能を判定する判定器を備えて構成することができる。判定器は、基本的には、予め設定した第1の設定電圧以下において、部分放電が発生したか否かを判定する。また、予め設定した第2の設定電圧以下で、絶縁破壊したか否かを判定する。
【0021】
また、前記判定器は、前記試験電圧の位相に対応させて前記放電電流に含まれる電流パルスの発生位相を計測するオシロスコープなどの放電測定器と、前記試験電圧の位相と前記電流パルスの発生位相の対応関係に基づいて、前記部分放電の発生原因を特定する演算手段により構成できる。この場合、試験電圧の位相と電流パルスの発生位相の対応関係と、部分放電の発生原因とを予め対応付けたデータテーブルを演算手段のメモリに設定しておく。
【0022】
さらに、前記金属容器の内部に電磁波を検出するアンテナを設け、該アンテナにより検出された前記電磁波の周波数分布特性と前記試験電圧の位相に対する前記電磁波の位相特性を分析する分析装置とを備えて構成することができる。この場合、前記判定器は、前記分析装置により分析した前記電磁波の周波数分布特性と前記電磁波の位相特性の少なくとも一方に基づいて、前記部分放電の発生原因を特定する演算手段を備えることができる。この場合も、電磁波の周波数分布特性と電磁波の位相特性の少なくとも一方と、部分放電の発生原因とを予め対応付けたデータテーブルを演算手段のメモリに設定しておく。
【0023】
また、前記判定器は、前記試験電圧の正サイクルにおける前記電流パルスの絶対値の大きさと、前記試験電圧の負サイクルにおける前記電流パルスの絶対値の大きさとに基づいて、それらの和に対する差の比を前記電流パルスの極性差として求め、また、前記試験電圧の正サイクルにおける前記電磁波の絶対値の大きさと、前記試験電圧の負サイクルにおける前記電磁波の絶対値の大きさとに基づいて、それらの和に対する差の比を前記電磁波の極性差として求め、前記電流パルスの極性差が0.7〜1で、前記電磁波の極性差が0〜0.4であるとき、検出された前記電流パルス及び前記電磁波はノイズではなく、前記部分放電であると判定することができる。
【0024】
本発明の絶縁性能試験方法によれば、絶縁ガス(SFガス)を封入して行う場合の試験電圧に比べて、大幅に低い試験電圧で耐電圧試験を行うことが可能となる。その結果、大型の課電装置を必要としないだけでなく、大型の課電用ブッシングや電力ケーブルなどの設備も必要としないので、経済的で簡単な作業で絶縁性能を確認することが可能となる。また、据え付け現場の変電所では、ガス絶縁変電設備を構成する部分に分けて、部分的な絶縁性能試験を行うことは非常に困難である。この点、本発明によれば、大気中で行えるため、部分的な絶縁性能試験が可能となり、信頼性の高い設備運用を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、ガス絶縁機器を大気中で絶縁ガスと等価な絶縁性能の検証を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の絶縁性能試験装置の一実施形態とその対象のガス絶縁断路器の概略構成を示す図である。
【図2】高圧のSFガス中と大気中における絶縁破壊電圧と部分放電開始電圧の比較を説明する図である。
【図3】部分放電の発生源である各種欠陥について、部分放電電荷量(部分放電の電流パルスに相当)と試験電圧の位相関係を示す図である。
【図4】各種絶縁欠陥と電流パルスとの特徴的な関係を説明する図である。
【図5】各種絶縁欠陥の部分放電電荷量と試験電圧との関係を示す図である。
【図6】導体上突起の長さを変えた場合の部分放電電荷量と試験電圧との関係を示す図である。
【図7】各種絶縁欠陥について電磁波により検出した部分放電信号の周波数分布特性及び位相特性の例を示す図である。
【図8】同時に計測した部分放電の電流パルス波形と電磁波波形との一例を対比して示す図である。
【図9】部分放電の電流パルスと電磁波の極性差を用いた内部部分放電と外部ノイズの識別法の一例を説明する図である。
【図10】本発明の絶縁性能試験装置の課電部の一実施例を示す図である。
【図11】比較のため従来の絶縁性能試験装置の概略構成例を示す図である。
【図12】本発明の絶縁性能試験装置の課電部を接地開閉器の接地端子を利用して形成した他の実施例を示す図である。
【図13】図12に対応する接地開閉器の接地端子の引き出し部の従来の概略構成を示す図である。
【図14】本発明の絶縁性能試験方法の課電範囲の区分の一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のガス絶縁機器の絶縁性能試験方法を適用した絶縁性能試験装置について実施形態及び実施例に基づいて説明する。
(実施形態)
【0028】
図1は、本発明の一実施形態の絶縁性能試験装置を、ガス絶縁断路器に適用した概略構成を示す図である。図示のように、ガス絶縁開閉装置を構成する一つの要素であるガス絶縁断路器を試験対象とする。ガス絶縁断路器は、組み立てられた状態を示しており、接地された金属容器1内に、高電圧導体3(3a,3b)がそれぞれ絶縁スペーサ2(2a,2b)により端部を対向させて支持されている。高電圧導体3a,3bの端部には、それぞれ可動側電極6aと固定側電極6bが設けられ、図においては可動側電極6aと固定側電極6bは可動子7により電気的に接続され、ガス絶縁断路器が「閉」状態であることを示している。また、金属容器1は大気開放状態であり、金属容器1の内部は周囲の環境の大気5に連通されている。なお、絶縁スペーサ2a,2bにより支持された高電圧導体3a,3bの端部は、大気中に露出されている。
【0029】
本実施形態の絶縁性能試験装置は、課電装置を構成する高圧電源21と課電線20を備えて構成されている。課電線20は高圧電源21から出力される商用周波数(50Hz)の交流高電圧の試験電圧を、高電圧導体3aに課電するように構成されている。
【0030】
高電圧導体3aに接続された課電線20は、部分放電検出用のカップリングコンデンサ22と検出インピーダンス23の直列回路を介して接地されている。検出インピーダンス23はRC(抵抗とコンデンサ)及びRLC(抵抗とインダクタンスとコンデンサ)の並列回路であり、部分放電の大きさに比例した電圧信号が出力される。カップリングコンデンサ22は例えば1000pF程度の静電容量であり、検出インピーダンス23によって部分放電の大きさを部分放電電荷量[pC]として測定している。検出インピーダンス23により検出される部分放電の電流パルスに相関するパルス電圧の部分放電信号がオシロスコープ25に入力されている。オシロスコープ25には、入力される部分放電信号に基づいて、絶縁性能を検証する演算手段とメモリから構成される判定器が備えられている。なお、オシロスコープ25に限られるものではなく、電流パルスに相関する部分放電信号を放電測定器により計測するようにすることができる。
【0031】
また、金属容器1のハンドホール10を利用して、電磁波検出用のアンテナ11が設置されている。アンテナ11は、部分放電に起因する数百MHz以上の高周波電磁波を受信できる広帯域アンテナである。アンテナ11で検出された電磁波信号はオシロスコープ25に入力されている。オシロスコープ25は、電磁波信号の周波数分布を検出することが可能に構成されている。なお、オシロスコープ25に限らず、アンテナ11で検出された電磁波信号はスペクトルアナライザなどにより、周波数分布を検出するようにしてもよい。
【0032】
オシロスコープ25は、電流パルスに相関する電流パルス信号を入力して、試験電圧の位相に対応させて電流パルスの発生位相を求めるようになっている。なお、本実施形態では、電流パルスを放電電荷量(pC)として検出するようにしている。また、オシロスコープ25は、電磁波信号の周波数分布及び試験電圧の位相に対応させた電圧位相特性を検出することが可能に構成されている。
【0033】
このように構成される実施形態の絶縁性能試験装置の動作及び使用方法について説明する。図1において、ガス絶縁断路器を構成する金属容器1の内部に大気5が充填された状態、あるいは金属容器1の内部が大気に開放された状態に保持する。そして、課電線20を介して高電圧導体3aに商用周波数の試験電圧Vを課電する。試験電圧Vを昇圧しながら、課電線20に流れる放電電流Iの変化を検出インピーダンス23により検出して、オシロスコープ25により記録、分析及び観察する。また、オシロスコープ25は、予め設定した第1の設定電圧以下において部分放電が発生したか否かを判定する判定器を有する。さらに、判定器は、予め設定した第2の設定電圧以下で、絶縁破壊したか否かを判定する機能を有するものとすることができる。判定器は、一般的な演算手段とメモリを備えて構成することができる。
【0034】
このように構成される実施形態の絶縁性能試験装置を用いて行う絶縁性能試験を、実施例に分けて、以下に説明する。
【実施例1】
【0035】
まず、図1の実施形態を用いて大気圧中で絶縁破壊試験及び部分放電試験を行う一実施例を説明する。ガス絶縁断路器に絶縁欠陥が存在しない場合は、試験電圧Vを昇圧していくと、最終的には絶縁破壊が発生する。一方、絶縁欠陥が存在する場合は、部分放電開始電圧で部分放電が発生する。部分放電は、課電線20に流れる電流パルスに相関する部分放電信号をオシロスコープ25により計測する。図2に、高気圧のSFガス中と大気中における絶縁破壊電圧と部分放電開始電圧を対比して示す。バーチャート27は、試験対象のガス絶縁断路器に絶縁欠陥が存在しない清浄な状態で、0.6(MPa・abs)の圧力のSFガスを充填したときの絶縁破壊電圧を100(a.u)として表している。バーチャート29は、大気中における試験であること以外、バーチャート27と同一条件であり、バーチャート27の電圧を基準として比率で表している。
【0036】
バーチャート28は、ガス絶縁断路器内の高圧導体2上に3mm長の金属異物が存在した状態で、同じ圧力のSFガスを充填したときの部分放電開始電圧を、バーチャート27の電圧を基準として比率で表している。また、図中のバーチャート29,30は、大気(20℃、20〜80%Rh)中にて試験したときの大気中の絶縁縁破壊電圧と部分放電開始電圧を、バーチャート27の電圧を基準として比率で表している。
【0037】
図2から明らかなように、高気圧のSFガス中と大気中とでは大きく異なり、高気圧SFガス中に比べて大気中では絶縁破壊(FO)電圧が約10分の1に低下していることがわかる。言い換えれば、空気中の場合は、SFガスの場合よりも大幅に低い試験電圧Vで絶縁性能試験ができる可能性があることを示している。大気中における部分放電開始電圧は、さらに低くなっており、金属異物存在時の絶縁性能は高気圧SFガス中に対して、約30分の1の印加電圧で検出し得ることを示している。
【0038】
一例として、電圧階級245kVのガス絶縁機器の耐電圧試験では、標準雷インパルス電圧が1050kVであり、商用周波の交流電圧では460kVの耐電圧が必要である。本発明による大気中では、交流電圧80kVの印加で耐電圧を確認できる。また、交流電圧30kVで、3mmの導体上異物による異常(部分放電)を検出可能である。
【0039】
これに対して、高気圧SFガスが充填されているガス絶縁機器の耐電圧試験を行う場合、図2に示したように、かなりの高電圧を印加する必要がある。そのため、課電線20から部分放電が発生したり、機器まわりの浮遊電位の金属物から放電が発生し、これにより数百pC以上のノイズが発生することがある。しかし、高気圧のSFガス中の部分放電試験では、数pCレベルの部分放電を検出する必要があるから、数百pCのノイズ信号の中から数pCの部分放電信号を検出することは非常に困難である。これに対し、大気中の場合には、高気圧SFガス中と同じ状態における部分放電でも、数百pC以上の大きさの放電が発生するから、真の部分放電信号がノイズに埋もれて検出することが難しいという問題を回避することができる。
【実施例2】
【0040】
ここで、図1の絶縁性能試験装置を用いて部分放電の発生を検出した場合、ガス絶縁機器の内部に存在する絶縁欠陥の種類を判別する実施例について説明する。図3(a)〜(c)に、ガス絶縁機器内に欠陥が存在する場合の部分放電の放電電荷量−電圧位相の関係をオシロ波形により示す。図のオシロ波形は、横軸は試験電圧Vの位相(度)を示し、縦軸は放電電荷量(pC)を示す。同図では、金属異物による代表的な欠陥種類として、(a)導体上異物(導体上に形成された突起又は付着した突起)、(b)タンク上異物(金属容器内面に形成された突起又は付着したワイヤなどの金属異物)、(c)スペーサ沿面付着異物(絶縁スペーサの表面に付着したワイヤなどの金属異物)を例に示している。
【0041】
図3から判るように、部分放電による電流パルスに対応する部分放電信号の各パルスの発生位相と試験電圧Vの位相との関係が、欠陥種類に関して特有の位相パターンを有することがわかる。この位相パターンの主な特徴を、図4に示す。図3及び図4から、いずれの欠陥種類においても、試験電圧Vの正サイクルにおいては、負サイクルよりも比較的大きな部分放電信号が検出される。しかし、(a)の導体上異物の場合は、部分放電信号が試験電圧Vのピーク位相付近に表れ、山形の強度分布(放電電荷量分布)を有する位相パターンであることがわかる。一方、(b)のタンク上異物の場合は、部分放電信号が試験電圧Vのピーク位相付近に表れることは(a)と同じであるが、強度分布は矩形の位相パターンとなっている。さらに、(c)のスペーサ付着異物の場合は、部分放電信号が試験電圧Vのピーク位相よりも手前の位相付近に表れ、強度分布も試験電圧Vの振幅に相関している。また、(a)の導体上異物の場合は、部分放電が試験電圧Vの負極性において開始していることがわかる。
【0042】
そこで、オシロスコープ25により、試験電圧の位相に対応させて放電電流に含まれる電流パルスの発生位相を計測し、オシロスコープ25に備えられた判定器により、試験電圧の位相と電流パルスの発生位相の対応関係を求めて、部分放電の発生原因を特定することができる。この場合、試験電圧の位相と電流パルスの発生位相の対応関係と、部分放電の発生原因とを予め対応付けたデータテーブルを判定器のメモリに設定しておく。つまり、図3のオシロ波形の試験電圧Vの位相と部分放電信号である電流パルスの位相との特徴関係を、欠陥種類に対応させて整理したデータテーブルを予め作成して、オシロスコープ25の判定器のメモリに格納しておけば、検出された部分放電信号の位相パターンの特徴を判別でき、これに基づいて欠陥種類を同定することができる。部分放電発生の原因である欠陥種類を同定できれば、欠陥場所も絞り込める可能性があり、迅速に欠陥を取り除くことが可能である。
【0043】
すなわち、本実施例は、放電電流に含まれる電流パルスにより部分放電の発生を検出し、試験電圧の位相に対応させて電流パルスの発生位相を計測し、試験電圧の位相に対する電流パルスの発生位相の対応関係に基づいて、放電電流の発生原因である欠陥種類を特定することを特徴としている。
【実施例3】
【0044】
図5に、実施例1で定義した欠陥種類ごとに試験を行って得られた放電電荷量の試験電圧依存性を示す。図において、横軸は試験対象の導体に課電した試験電圧Vを清浄な試験対象において実測した絶縁破壊電圧(FO電圧)により正規化した値(%)を示し、縦軸はオシロスコープ25で計測した放電電荷量(pC)である。図からわかるように、(a)の導体上異物の場合、部分放電開始付近では数十pC程度の小さな部分放電が発生する。しかし、電圧上昇とともに大きな部分放電が発生するようになり、絶縁破壊(FO)電圧が近くなるにつれて、1000pCを超えるような部分放電が発生することがわかる。なお、欠陥種類にかかわらず、20%の試験電圧を印加すると、1000pCを超える非常に大きな部分放電が発生することがわかる。前述したように、電流パルス測定による部分放電検出の場合、一般的に対策できない外部ノイズは百pC程度であるから、本発明のような大気中における部分放電試験によれば、放電電荷量が外部ノイズに比して大きいから、容易に外部ノイズを排除して部分放電試験を行うことができる。
【0045】
また、本実施例によれば外部ノイズを排除できることから、欠陥種類(a)の導体上異物の異物長を変えて部分放電の放電電荷量の試験電圧依存性を行ったところ、図6に示すように2mmの異物長であっても十分検出できることを確認できた。通常、ガス絶縁機器の異物管理は、外部ノイズを排除し難いことから、3mm以上の異物長を対象としている。しかし、本発明の大気中における部分放電試験によれば、外部ノイズを排除できることから、管理値を超える小さな異物まで検出可能である。したがって、SFガスを充填して使用するガス絶縁機器においては、SFガスを充填して耐電圧性能を評価するよりも、大気中で部分放電計測をしたほうが微小金属異物の検出には有効である。
【実施例4】
【0046】
本実施例では、図1の実施形態と同一の絶縁性能試験装置を用いる。すなわち、実施例1の電流パルスによる部分放電の検出に加えて、アンテナ11で検出された電磁波信号をオシロスコープ25により分析して、電磁波信号の周波数分布を検出することにより、部分放電の検出精度を向上させて、信頼性を向上させることを特徴とする。アンテナ11は、部分放電に起因して発生する数百MHz以上の高周波の電磁波を受信できる広帯域アンテナを用いている。オシロスコープ25は、アンテナ11で受信された電磁波の周波数分布を計測するようになっている。
【0047】
図7に、オシロスコープ25により検出された電磁波の周波数分布特性と電圧位相特性を示す。周波数分布特性では、数百MHz以上の周波数帯域で部分放電信号が検出されている。電磁波により部分放電を測定する方法は、数百MHz以上のノイズの少ない電磁波検出に有効な方法であり、大気中の金属容器1内で発生した部分放電信号であっても十分に信号を検出できる。また、電磁波検出でも試験電圧の位相に同期させた電磁波の位相を分析して得ることができる。なお、図7の電圧位相特性は、オシロスコープ25に入力される電磁波を積算したものである。また、本実施例の測定周波数帯は、数百MHz以上の周波数帯であるから、図3及び図4で示した電流パルスの特性に比較的近い特性を得ることができる。
【0048】
この場合、オシロスコープ25により分析した電磁波の周波数分布特性と前記電磁波の位相特性の少なくとも一方に基づいて、オシロスコープ25に備えられた判定器により、部分放電の発生原因を特定することができる。つまり、判定器のメモリに、電磁波の周波数分布特性と電磁波の位相特性の少なくとも一方と、部分放電の発生原因とを予め対応付けたデータテーブルを設定しておく。
【0049】
本実施例によれば、金属容器1の内部にて電磁波を検出し、検出された電磁波の周波数分布特性と、試験電圧の位相に対する電磁波の位相特性を分析し、分析した電磁波の周波数分布特性と電磁波の位相特性の少なくとも一方に基づいて、部分放電の発生原因を特定することができる。
【0050】
また、本実施例によれば、外部ノイズを排除して部分放電に起因する部分放電信号を高い信頼性で検出できる。すなわち、ガス絶縁機器を試験する工場や据え付け現場の周辺には、様々なノイズ源が存在しており、それらの影響で一つの方法により部分放電を検出しようとすると、ノイズの影響を受けて信頼性の低い測定となることがある。例えば、外部のノイズ源としては、携帯電話や無線などの電波による影響、インバータや回転機からの電磁放射ノイズがある。これらの外部のノイズ源は、それぞれ周波数が異なったり、周波数分布特性が異なるから、異なる複数の検出方法により部分放電を検出すれば、外部のノイズを排除できるので、検出の信頼性を高めることができる。電流パルス検出又は電磁波検出以外の部分放電検出方法としては、音響や振動を用いた検出法、部分放電の発光をとらえる微弱光検出法などがあげられる。
【0051】
本実施例による電流パルス検出法と高周波電磁波検出法によって同時に計測した部分放電信号の波形の一例を図8に示す。図8において、横軸は時間軸(10μsec/div)であり、縦軸は部分放電信号の強度である。同図からわかるように、同じタイミングで信号が検出されている波形は、同じ信号源から発生された信号であると推測されるから、金属容器1内で発生している部分放電信号を検出している確率が高い。一方、電流パルス計測には、高周波電磁波計測では検出されていない信号が検出されており、外部ノイズ信号を検出していることがわかる。このように、本実施例によれば、電流パルス検出法と高周波電磁波検出法の2つにより部分放電を検出していることから、双方に共通する放電波形以外の波形を外部ノイズ源によるものと判断できるから、部分放電検出の信頼性を高めることができる。
【0052】
すなわち、本実施例によれば、電流パルスの波形と電磁波の波形とを対比して、いずれか一方にしか含まれない波形の部分は、部分放電には含まれない外部のノイズ信号であると判定することができる。
【実施例5】
【0053】
図1の実施形態を用いて大気圧中で部分放電試験を行う他の実施例を説明する。本実施例は、実施例3と同様に、電流パルス検出法と高周波電磁波検出法の2つにより検出された部分放電信号を組み合わせて、金属容器1内部の絶縁欠陥で発生した部分放電信号か、あるいは外部ノイズ源からのノイズ信号かを判定することを特徴とする。一般に、空気中の部分放電波形は、試験電圧の正サイクルと負サイクルとで極性差が大きく、正サイクルでの部分放電信号に比べて、負サイクルの部分放電信号は非常に早いことが知られている。すなわち、電流パルス検出法のように数百kHz〜数MHz帯域の周波数帯域を検出する方法では正サイクルが大きく検出される。一方、高周波電磁波検出法のように数百MHz帯域の周波数を検出する方法では負サイクルの信号が大きく検出されることになる。この正サイクル、負サイクルで検出される信号の大きさの比率により、金属容器1内の部分放電信号であるか、金属容器1外部のノイズ信号であるかを識別することが可能である。
【0054】
図9に金属容器1内部と外部で放電を発生させたときの測定結果を示す。図9の横軸は電流パルス信号の極性差を示し、縦軸は電磁波信号の極性差を示す。極性差は、次式(1)により求める。式(1)において、正又は負のサイクルの絶対値は、それぞれピーク値の絶対値である。
極性差=(正サイクルの絶対値−負サイクルの絶対値)
÷(正サイクルの絶対値+負サイクルの絶対値) (1)
このような極性差により測定された部分放電信号をプロットしたところ、図中に示したように、○印は金属容器1の内部部分放電であり、×印は外部ノイズ信号であった。つまり、金属容器1内部で発生している部分放電信号は、比較的同じ場所に位置している。これに対して、金属容器1外部で発生させた気中コロナ信号や無線信号では、内部部分放電信号とは異なった場所に位置している。このことから、内部の部分放電信号と外部のノイズ信号を識別できることがわかる。したがって、本実施例によれば、金属容器1の内部で発生した部分放電信号を精度良く判別することが可能である。
【0055】
すなわち、本実施例は、オシロスコープ25に備えられた判定器により、試験電圧の正サイクルにおける電流パルスの絶対値の大きさと、試験電圧の負サイクルにおける電流パルスの絶対値の大きさとに基づいて、それらの和に対する差の比を電流パルスの極性差として求める。同様に、試験電圧の正サイクルにおける電磁波の絶対値の大きさと、試験電圧の負サイクルにおける電磁波の絶対値の大きさとに基づいて、それらの和に対する差の比を電磁波の極性差として求める。そして、電流パルスの極性差が0.7〜1で、かつ電磁波の極性差が0〜0.4であるとき、検出された電流パルス及び電磁波はノイズではなく、部分放電であると判定する。
【実施例6】
【0056】
図1に示した実施形態の絶縁性能試験装置においては、試験対象のガス絶縁断路器の導体に試験電圧を課電する具体的な方法を示さなかったが、本発明による大気中での絶縁性能試験は、図2に示したように、絶縁ガスを封入して行う場合に比べて、極めて低い試験電圧で行うことができる。そこで、ガス絶縁断路器の導体に課電する課電部の具体的な構成の一実施例を図10に示し、図11に比較のため従来の絶縁性能試験装置の概略構成例を示す。
【0057】
図10に示すように、本実施例の課電部は、ガス絶縁断路器に元々設けられているハンドホール15の蓋を外した状態にしておき、絶縁被覆された課電線20を用いて高電圧導体3aに接続する構成とすることができる。課電線20は所定の電圧で部分放電が発生しない太さ(直径)の線を用い、課電線20の先端にボルト34で連結された接続導体33を高電圧導体3aに巻き付けて構成している。接続導体33は高電圧導体3aに密着させるため、フレキシブルな銅板や編込線で構成されている。なお、ハンドホール15の近傍の高電圧導体3aにボルト穴などがあれば、接続導体33を高電圧導体3aに巻き付けることに代えて、そのボルト穴を利用して接続するようにしてもよい。
【0058】
すなわち、本発明によれば、本実施例に示すように、高電圧導体3aに課電線20を直接接続して課電することが可能であるから、絶縁ガスを充填して行う絶縁性能試験に要求されるような格別な耐電圧を有する課電部が不要となり、試験装置を簡単な構成により実現できる。また、本発明によれば、金属容器1内が大気の状態であるから、絶縁スペーサ2aの外側と内側の条件が同じなので、一度の試験で絶縁スペーサ2aの外側と内側の絶縁性能を評価することが可能である。
【0059】
これに対し、図1の実施形態に示したガス絶縁断路器内に高気圧SFガスを充填して試験する場合、大気の絶縁破壊電圧が低いため、大気に接している課電線20と高電圧導体3aとを接続する課電部で絶縁破壊が発生してしまう。そのため、金属容器1内を密閉してSFガスを充填できたとしても、そのままで図1の構成で絶縁性能試験を行うことはできない。したがって、SFガスを充填したガス絶縁機器の内部の絶縁性能試験を実施するためには、所定の試験電圧を課電できる耐電圧を満足するように、課電部を構成する必要がある。
【0060】
すなわち、図11に示すように、金属容器1の両端に端末カバー52a、bを設けて高気圧のSFガス9を充填可能にする。そして、一方の端末カバー52aにブッシング51を連結する開口部54を設け、ブッシング51を介して課電導体55を高電圧導体3aに接続する構成の課電部を形成する必要がある。なお、ブッシング51に代えて電力ケーブルを用いることができるが、いずれにしても、課電部は絶縁破壊試験を行える耐電圧性能を持つものを用いる必要がある。つまり、図1の実施形態によりSFガスを充填した状態で絶縁性能試験を行うためには、図11に示したように、試験対象のガス絶縁断路器とは別に、ブッシング51や端末カバー52a、bを取り付ける必要があり、大掛かりな作業とならざるをえない。
【実施例7】
【0061】
ガス絶縁断路器の導体に課電する課電部の具体的な構成の他の実施例を図12に示す。本実施例は、ガス絶縁機器の構成要素の一つである接地開閉器の接地端子を利用して試験電圧を印加するようにした例である。すなわち、元々、接地開閉器の部分は、図13に示すように、高電圧導体3に回動可能に可動子7が設けられ、金属容器1の壁面に設けられた接地端子取付用のフランジ41にブッシング状の絶縁材42を介して支持された接地端子43が、可動子7の回動範囲内に臨ませて設けられている。接地端子43は、運転時には接地開閉器の接続端子として、金属容器1と共に接地されている端子である。
【0062】
そこで、本実施例では、接地端子43の接地線を外して、接地端子43を利用して試験電圧を印加するようにしたのである。本発明によれば、高気圧SFガスを充填して行う試験よりも、試験電圧が大幅に低いため、接地端子43を大気中における試験電圧に対して十分な絶縁性能を有すればよい。しかし、接地端子は接地電位であり、金属容器1とほぼ同電位のために高電圧を印加できるような構造となっていない。そこで、本実施例では、接地端子43の耐電圧を向上させるために、図12に示すように、絶縁材42の金属容器1側に、接地端子43の外周を包囲するブッシング状の内部絶縁材44を設けて、絶縁距離を長くすることにより、耐電圧を確保するようにしている。このような形状にすることで、接地端子43の耐電圧性能を向上させ、接地端子43からの本発明の試験電圧を課電することができる。
【0063】
実施例6あるいは本実施例7によれば、例えば、変電所においてガス絶縁変電設備が組み上がった状態で絶縁性能試験をする場合に好適である。すなわち、ガス絶縁変電設備の据付時には、系統に接続しない状態で課電用のブッシングを取り付けて、絶縁性能試験を実施することが可能である。しかし、一旦、運用を開始してしまうと部分的に絶縁性能を評価する方法はなく、系統電圧を印加して絶縁性能を確認する方法しかなかった。したがって、運用開始後にガス漏れ、あるいは部分放電の発生などの何らかの理由で、金属容器1を大気開放する必要が起きると、金属容器1内に異物が混入する可能性が高いために、異物混入の有無を簡単に確認できれば、二次的な絶縁破壊事故を防止することが可能である。
【0064】
この点、実施例6及び本実施例7によれば、変電所が組みあがった状態でも、部分的に電圧を印加して絶縁性能を確認することができる。例えば、ガス絶縁変電設備の系統の一例を図14に示す。図14(a)に示すように、遮断器CBと2つの断路器DSを開き、それらに挟まれる高電圧導体を接地する接地開閉器ESを利用して、図12のように高電圧導体に試験電圧を印加することができる。これにより、SFガス用の格別な高い試験電圧の高圧電源及び課電用ブッシングを用意することなく、大気用の低い試験電圧の高圧電源を用いて簡易な設備で絶縁性能を確認できる。その結果、部分的な設備に対する異物混入の有無を簡単に確認できる。図14(b)は、同図(a)の課電範囲が異なるだけで、同様に、ガス絶縁変電設備を部分的に区別して絶縁性能評価を簡単に行うことができる。
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、最終的に絶縁ガスを封入した状態で行う絶縁性能試験の前に、ガス絶縁変電設備の組立て過程あるいは組み上がった状態で部分的に絶縁性能試験を行い、予め欠陥を見付けて修復するためのスクリーニング試験に好適な絶縁性能試験方法及び装置を提供できる。
【符号の説明】
【0066】
1 金属容器
2、2a、2b 絶縁スペーサ
3、3a、3b 高電圧導体
5 大気
6a 可動側電極
6b 固定側電極
7 可動子
9 SFガス
11 アンテナ
20 課電線
21 高圧電源
22 カップリングコンデンサ
23 検出インピーダンス
25 オシロスコープ
33 接続導体
34 ボルト
41 フランジ
42 絶縁材
43 接地端子
44 内部絶縁材
51 ブッシング
52a、52b 端末カバー
53 端部電極
54 開口部
55 課電導体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属容器内に電気機器の導体部が絶縁材で支持され、前記金属容器内に絶縁ガスが封入されるガス絶縁機器の絶縁性能を試験する絶縁性能試験方法において、
前記金属容器の内部を大気の状態のままで、課電線を介して前記導体部に商用周波数の試験電圧を課電し、前記試験電圧を昇圧して前記課電線に流れる放電電流を検出し、検出された前記放電電流に基づいて前記ガス絶縁機器の絶縁性能を試験することを特徴とするガス絶縁機器の絶縁性能試験方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガス絶縁機器の絶縁性能試験方法において、
前記放電電流に含まれる電流パルスにより部分放電の発生を検出し、前記試験電圧の位相に対応させて前記電流パルスの発生位相を計測し、前記試験電圧の位相に対する前記電流パルスの発生位相の対応関係に基づいて、前記放電電流の発生原因を特定することを特徴とするガス絶縁機器の絶縁性能試験方法。
【請求項3】
請求項2に記載のガス絶縁機器の絶縁性能試験方法において、
さらに、前記金属容器の内部にて電磁波を検出し、検出された前記電磁波の周波数分布特性と前記試験電圧の位相に対する前記電磁波の位相特性を分析し、分析した前記電磁波の周波数分布特性と前記電磁波の位相特性の少なくとも一方に基づいて、前記部分放電の発生原因を特定することを特徴とするガス絶縁機器の絶縁性能試験方法。
【請求項4】
請求項3に記載のガス絶縁機器の絶縁性能試験方法において、
前記電流パルスの波形と前記電磁波の波形とを対比して、いずれか一方にしか含まれない波形の部分は、前記部分放電には含まれないノイズ信号であると判定することを特徴とするガス絶縁機器の絶縁性能試験方法。
【請求項5】
請求項3に記載のガス絶縁機器の絶縁性能試験方法において、
前記試験電圧の正サイクルにおける前記電流パルスの絶対値の大きさと、前記試験電圧の負サイクルにおける前記電流パルスの絶対値の大きさとに基づいて、それらの和に対する差の比を前記電流パルスの極性差として求め、
前記試験電圧の正サイクルにおける前記電磁波の絶対値の大きさと、前記試験電圧の負サイクルにおける前記電磁波の絶対値の大きさとに基づいて、それらの和に対する差の比を前記電磁波の極性差として求め、
前記電流パルスの極性差が0.7〜1で、前記電磁波の極性差が0〜0.4であるとき、検出された前記電流パルス及び前記電磁波はノイズではなく、前記部分放電であると判定することを特徴とするガス絶縁機器の絶縁性能試験方法。
【請求項6】
金属容器内に電気機器の導体部が絶縁材で支持され、前記金属容器内に絶縁ガスが封入されるガス絶縁機器の絶縁性能を試験する絶縁性能試験装置において、
前記金属容器の内部を大気の状態のままで、課電線を介して前記導体部に商用周波数の可変の試験電圧を課電する課電装置と、前記課電線に流れる放電電流を検出する放電電流検出器と、該放電電流検出器により検出された前記放電電流に基づいて前記ガス絶縁機器の絶縁性能を判定する判定器を備えてなることを特徴とするガス絶縁機器の絶縁性能試験装置。
【請求項7】
請求項6に記載のガス絶縁機器の絶縁性能試験装置において、
前記判定器は、前記試験電圧の位相に対応させて前記放電電流に含まれる電流パルスの発生位相を計測し、前記試験電圧の位相に対する前記電流パルスの発生位相の対応関係に基づいて、前記部分放電の発生原因を特定することを特徴とするガス絶縁機器の絶縁性能試験装置。
【請求項8】
請求項7に記載のガス絶縁機器の絶縁性能試験装置において、
さらに、前記金属容器の内部に電磁波を検出するアンテナを設け、該アンテナにより検出された前記電磁波の周波数分布特性と前記試験電圧の位相に対応させて前記電磁波の位相特性とを分析する分析装置とを備え、
前記判定器は、前記分析装置により分析した前記電磁波の周波数分布特性と前記電磁波の位相特性の少なくとも一方に基づいて、前記部分放電の発生原因を特定することを特徴とするガス絶縁機器の絶縁性能試験装置。
【請求項9】
請求項8に記載のガス絶縁機器の絶縁性能試験装置において、
前記判定器は、前記電流パルスの波形と前記電磁波の波形とを対比して、いずれか一方にしか含まれない波形の部分は、前記部分放電には含まれないノイズ信号であると判定することを特徴とするガス絶縁機器の絶縁性能試験装置。
【請求項10】
請求項8に記載のガス絶縁機器の絶縁性能試験装置において、
前記判定器は、前記試験電圧の正サイクルにおける前記電流パルスの絶対値の大きさと、前記試験電圧の負サイクルにおける前記電流パルスの絶対値の大きさとに基づいて、それらの和に対する差の比を前記電流パルスの極性差として求め、また、前記試験電圧の正サイクルにおける前記電磁波の絶対値の大きさと、前記試験電圧の負サイクルにおける前記電磁波の絶対値の大きさとに基づいて、それらの和に対する差の比を前記電磁波の極性差として求め、前記電流パルスの極性差が0.7〜1で、前記電磁波の極性差が0〜0.4であるとき、検出された前記電流パルス及び前記電磁波はノイズではなく、前記部分放電であると判定することを特徴とするガス絶縁機器の絶縁性能試験装置。
【請求項11】
請求項6乃至10に記載のガス絶縁機器の絶縁性能試験装置において、
前記金属容器に設けられたハンドホールの蓋を外し、該ハンドホールから前記配電線を前記金属容器に導入して前記導体部に接続することを特徴とするガス絶縁機器の絶縁性能試験装置。
【請求項12】
請求項6乃至10に記載のガス絶縁機器の絶縁性能試験装置において、
前記ガス絶縁機器の導体部を断路器を介して接地する前記金属容器から外部に引き出された接地端子に、前記配電線を接続して前記導体部に課電することを特徴とするガス絶縁機器の絶縁性能試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−189452(P2012−189452A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53402(P2011−53402)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】