説明

ガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法および部分放電診断装置

【課題】部分放電の診断に熟練を必要とせず、自動診断のためのアルゴリズムの構築も容易なガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法および部分放電診断装置を提供すること。
【解決手段】絶縁ガスの充填された金属容器1,2内に中心導体3が収容されたガス絶縁開閉装置において、センサ6を用いて部分放電の電磁波を測定する。また、中心導体3に課電される課電電圧を分圧器9により測定する。センサ6の出力する電磁波信号は信号増幅器7、A/D変換器8を経てコンピュータ11へ入力され、分圧器9の出力する課電電圧信号はA/D変換器10を経てコンピュータ11へ入力される。そして、一定時間内に検出された部分放電信号について、課電位相−信号強度−発生頻度の分布(放電マップ)を作成する。放電マップにて放電信号の塊であるリージョンを定義し、発生頻度を質量とみなしたときのリージョンの重心を算出し、この重心の値により部分放電の診断を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法および部分放電診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電力機器の部分放電診断手法では、特許文献1のように、センサなどの手段により検出した部分放電信号から、放電頻度n、放電電荷量q、放電発生位相φなどのパラメータを抽出し、各パラメータの分布によって部分放電の診断を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−34696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の手法は、φ−q分布やφ−q−n分布などの複数のパラメータによる分布から、その相関関係を読み取り診断を行う必要があった。これは放電の原信号を観察して診断を行うことに比べれば効率化・簡易化された手法ではあるが、それでも非熟練者にとっては難しく、知識と経験を必要とするという問題があった。
【0005】
また、上記のような従来の手法では、アルゴリズムによる自動診断を行う場合、パラメータ数が複数に渡るため、アルゴリズムが複雑で構築が困難になるという問題があった。
【0006】
この発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、部分放電の診断に熟練を必要とせず、自動診断のためのアルゴリズムの構築も容易なガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法および部分放電診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法は、絶縁ガスが封入された金属容器内に中心導体が収納されてなるガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法であって、前記金属容器内の部分放電の放電源から放射された電磁波をセンサにより検出するステップと、前記中心導体に課電される課電電圧を所定の電圧に降圧して取得するステップと、前記センサの出力する電磁波信号からノイズを分離して部分放電信号を検出するステップと、一定時間内に検出されたすべての前記部分放電信号について、前記課電電圧信号に基づき、課電位相−信号強度平面上での位置に対して前記部分放電の発生頻度を計数することにより、課電位相−信号強度−発生頻度分布を表す放電マップを作成するステップと、前記課電位相−信号強度平面上での放電信号の密集パターンを表した領域であるリージョンについて、前記発生頻度を質量とみなしたときの力学的な重心を算出するステップと、前記重心の値を診断結果として出力するステップと、を含むこと特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、部分放電の発生頻度を質量とみなしたときの重心に基づいて部分放電の診断を行うことができるので、診断の簡易化が実現されて熟練を必要とせず、さらに自動診断のためのアルゴリズムの構築も容易になる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施の形態1にかかるガス絶縁開閉装置の部分放電診断装置の構成を示す模式図である。
【図2】図2は、放電マップの生成方法を説明するための図である。
【図3】図3は、リージョンと重心を示した放電マップの一例である。
【図4】図4は、課電電圧の変化に対する重心の遷移を示した図である。
【図5】図5は、課電電圧の変化に対する密度の遷移を示した図である。
【図6】図6は、コンピュータにより実現される部分放電診断処理のための機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明にかかるガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法および部分放電診断装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態にかかるガス絶縁開閉装置の部分放電診断装置の構成を示す模式図である。図1では、ガス絶縁開閉装置の主たる構成要素として、内部に絶縁ガスが封入されるとともに相互に接続された筒状の金属容器1,2と、これらの金属容器1,2中に収納され課電される中心導体3と、金属容器1,2内を複数のガス空間に仕切るとともに、中心導体3を支持する絶縁物製のスペーサー4と、電力送配電回路系統(図示せず)と当該ガス絶縁開閉装置を接続するためのブッシング5と、が示されている。なお、ガス絶縁開閉装置が組み込まれている電力送配電回路系統によっては、ブッシング5の替わりにケーブルヘッドが取り付けられている場合もある。
【0012】
また、図1では、部分放電診断装置の主たる構成要素として、電磁波信号を検出するセンサ6と、このセンサ6に接続された信号増幅器7と、この信号増幅器7に接続されたA/D変換器8と、中心導体3に課電される課電電圧を分圧して出力する課電電圧信号取得部としての分圧器9と、この分圧器9に接続されたA/D変換器10と、A/D変換器8,10の両出力が入力されるデータ処理部としてのコンピュータ11と、が示されている。
【0013】
センサ6は、ガス絶縁開閉装置の内部に絶縁欠陥が存在する場合に発生する、部分放電の放電源より放射される電磁波を測定するための部分放電センサである。図1では、センサ6は、例えばスペーサー4からガス絶縁開閉装置の外部に漏洩する電磁波を検出するセンサとして示しているが、ガス絶縁開閉装置の内部に設置されるような様式のものであってもよい。
【0014】
信号増幅器7は、センサ6が検出した電磁波信号を増幅する機能を有するものである。信号増幅器7で増幅されたアナログ信号はA/D変換器8によってデジタル信号に変換され、このデジタル信号がコンピュータ11に送られる。
【0015】
一方、分圧器9は、中心導体3に課電される課電電圧を所定の電圧に降圧し、この信号をA/D変換器10に出力する。A/D変換器10は、分圧器9の出力信号をアナログ信号からデジタル信号に変換することで、分圧された課電電圧信号をデジタル信号としてコンピュータ11に出力する。コンピュータ11では、A/D変換器8から入力された電磁波信号とA/D変換器10から入力された前記課電電圧信号を用い、リアルタイム処理、または記憶装置(図示せず)への記憶後の後処理によって部分放電の診断を行う。
【0016】
次に、本実施の形態の動作について説明する。A/D変換器8,10からコンピュータ11に信号が入力されるまでの動作は前述の通りであるので、以下ではコンピュータ11による信号処理について説明する。図6は、コンピュータ11により実現される部分放電診断処理のための機能ブロック図である。図6に示すように、信号処理部としてのコンピュータ11は、部分放電信号検出部12、放電マップ生成部13、重心算出部14、および放電診断部15等の機能を備える。
【0017】
本実施の形態にかかる部分放電診断装置は、ある一定時間Tfを処理単位として、放電信号の処理を行う。Tfとしては、例えば30秒〜1分程度とすることができる。部分放電信号検出部12は、A/D変換器8から入力された電磁波信号をノイズと部分放電信号とに分離し、部分放電信号のみを抽出して処理の対象とする。分離方法は問わないが、例えばある一定の信号強度を閾値として、この閾値以上の信号を部分放電信号として分離する方法などがある。
【0018】
次に、放電マップ生成部13は、部分放電信号検出部12から出力された部分放電信号とA/D変換器10から出力された課電電圧信号とに基づき、Tf間に観測されたすべての部分放電パルスについて、課電位相φ−放電電荷量q平面上での位置に対して部分放電の発生頻度n(カウント数)を計数することで放電マップの作成を行う。なお、課電位相φは課電電圧信号の位相である。また、qは放電電荷量に比例する信号強度でもよい。
【0019】
図2は、放電マップの生成方法を説明するための図である。図2に示すように、課電位相φ−信号強度q平面において、φ軸、q軸をそれぞれ例えば一定間隔(この間隔をΔφ、Δqとする。)で分割することでメッシュ構造を構築する。なお、メッシュの各マス目である小領域をスロットと呼ぶ。各スロットは、(φ、q)座標の代表値とΔφ、Δqとにより特徴付けられる。放電マップ生成部13は、各部分放電パルスに対して、放電発生位相および信号強度から該当するスロットを判定し、スロット毎に発生回数のカウントを行っていく。そして、Tf間に発生したすべての部分放電パルスについてカウントを終えることで放電マップの構築が完了する。図2において、例えば、「18」と記載されたスロットでは、このスロットの条件に該当する部分放電が18回発生したことを意味する。放電マップを表示する場合、nを適当なカラースケールに変換した2次元カラーマップ、または3次元マップなどにより表示することができる。このようにして、Tf毎に一枚の放電マップが作成される。
【0020】
こうして作成された放電マップにおいて、部分放電信号はその位相同期性により密集した信号として観測される。すなわち、放電源の種類と放電発生位相との間には相関があり、部分放電信号は放電マップ上の密集したパターンとして現れるという特性がある。
【0021】
次に、本実施の形態では、放電マップ上のこのような信号の密集パターンをリージョンとして定義し、さらに重心算出部14によりリージョンごとに重心の算出を行う。ここで、重心とは、発生頻度nを質量とみなしたときの力学的重心であり、リージョンごとに算出される。重心は、放電信号の情報を集約した点と解することができる。
【0022】
なお、リージョンの抽出方法は問わず、実際に得られた放電マップのパターンに基づいて動的に抽出してもよいし、あるいは予想される放電源の特性等に基づいて予めリージョンを定義していてもよい。例えば、重心算出部14によりφ−q平面においてnの値が0ではないスロットからなる連結された領域をリージョンとして抽出してもよいし、あるいは、簡易的に正極性放電と負極性放電に分け、課電電圧の正負によりφ−q平面を2つのリージョン(0≦φ<πとπ≦φ<2πの各領域)に分けるなどしてもよい。
【0023】
重心の算出は、例えば、リージョン中で発生頻度nのスロットを質量nの質点とみなし、その力学的重心を求めることで行うことができる。あるいは、リージョン中で各放電パルスを質量1の質点とみなし、その力学的重心を求めてもよい。重心は、φ−q−nの放電信号分布において、放電が最も盛んな場所を示す一つの指標となり、そのリージョンを代表する一点となる。
【0024】
続いて、放電診断部15は、リージョンごとに算出された重心の値を診断結果として出力する。また、部分放電診断部15は、表示装置(図示せず)により図3のような放電マップを表示する。図3は、リージョンと重心を示した放電マップの一例である。図3では、横軸を課電位相(φ)、縦軸を信号強度(q)とし、放電頻度(n)をハッチングの違いにより示している。図3より、重心Gの課電位相は約270°であることがわかる。作業者は、重心の課電位相値から放電源の種類を識別できるとともに、重心の信号強度から放電の大きさを知ることができる。
【0025】
また、放電診断部15に放電源の種類を自動的に識別させる機能を付与することもできる。この場合、放電診断部15は、放電源の種類と放電発生位相とを関係付けるデータベースを保持し、算出された重心の位相とこのデータベースを比較することにより、放電源の種類の特定を行い、診断結果として放電源の種類を出力する。なお、このデータベースは、実測やシミュレーション等に基づいて予め作成しておく(例えば、図4を参照)。
【0026】
従来、放電源の識別はいわゆるPoint on Waveの考え方によって、φ−nグラフなどにおいて放電が盛んな位相に注目し診断を行ってきた。しかし、広がりがあり、揺らぎも発生する分布において、放電が盛んな位相を特定することは非熟練者には難しく、またコンピュータで自動診断などを行う場合も扱いが困難である。
【0027】
一方、本実施の形態では、放電信号が位相同期性により放電マップ上のある密集パターンとして表れる特性から、近接して分布する信号の塊をリージョンとして定義し、各リージョンについて幾何学的、統計的な特徴を表すパラメータである重心を算出して診断を行う。
【0028】
本実施の形態によれば、重心という放電信号を代表する一点を抽出し、この単一点に注目することでPoint on Waveによる診断を行うことができ、放電源識別の簡易化を実現することができる。
【0029】
また、本実施の形態によれば、従来のように放電マップ上の広がりのある領域をみて診断する必要がないことから、熟練を必要としないという効果がある。
【0030】
また、本実施の形態によれば、アルゴリズムによる自動診断を行う場合、重心を算出すればよいので、アルゴリズムの構築が容易となる。この自動診断は、上述した診断方法の手順が記述されたプログラムによって動作が制御されるコンピュータ11によって実現することが可能である。なお、コンピュータ11としては、CPUなどの制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶装置と、HDDなどの外部記憶装置と、ディスプレイ装置などの表示装置と、キーボードやマウスなどの入力装置を備えた通常のハードウェア構成を利用することができる。
【0031】
また、重心は、複数の放電パルスの平均化処理から求められるため、ロバスト性が高いという効果がある。
【0032】
実施の形態2.
本実施の形態では、課電電圧の変化に対する重心の遷移に着目し、放電の進展度について診断する。
【0033】
図4は、課電電圧の変化に対する重心の遷移を示した図である。図4では、横軸は課電位相、縦軸は信号強度を示し、放電源は例えば針電極と浮き電極である。ここで、針電極は、金属容器1,2内に存在する針状の金属異物である。また、浮き電極は、中心導体3上などで絶縁物を介して浮いた状態で支持されている金属異物であり、例えばスペーサーの一部が剥離して中心導体3上に落下しさらにこの上に脱落したボルトが存在する場合などを想定したものである。
【0034】
また、図4では、例えば二種類の浮き電極と針電極とに対して、中心導体3の課電電圧を一定間隔で上昇させたときの重心の遷移をグラフにしている。なお、浮き電極放電については、重心の遷移方向を矢印で示している。例えば、浮き電極を放電源とする放電信号(リージョン1)の重心は、課電電圧の上昇に伴い、課電位相が0〜90°の範囲内でほぼ一定方向に遷移している。具体的には、遷移方向は課電位相が減少しかつ信号強度が増大する方向であるが、信号強度の増加はわずかであって変化の傾きはかなり小さい。また、別の浮き電極を放電源とする放電信号(リージョン2)の重心は、課電電圧の上昇に伴い、課電位相が180°〜270°の範囲内でほぼ一定方向に遷移している。具体的には、遷移方向は課電位相が減少しかつ信号強度が増大する方向であるが、変化の傾きはリージョン1の場合と比べて大きい。また、針電極を放電源とする放電信号(リージョン3)の重心はほとんど遷移せず、課電位相が260°の付近で停留している。
【0035】
このように、少なくとも浮き電極については課電電圧の変化に伴いある一定の比例関係に従って重心の遷移が観測される。また、放電は課電電圧の上昇に伴って進展するため、
少なくともある種の放電源については、重心の遷移を調べることで、放電の進展度合を診断することができる。例えば、図4において、課電位相と放電進展度とを対応させて、放電進展度を診断することができる。具体的には、例えば課電位相をある特定の値と比較し、課電位相が当該特定の値よりも小さいときは、放電進展度が大きいというように判断することができる。
【0036】
そこで、本実施の形態では、放電診断部15にて、定期的に放電マップを作成し、重心の経時変化を調べる。具体的には、図4のようなグラフを作成して、課電位相−信号強度平面上での重心の遷移を調べる。すなわち、放電信号観測後に、定期的に重心の位置を算出して重心の遷移を調べることにより、放電の進展度合を診断することができる。なお、ガス絶縁開閉装置の運用中、課電電圧は一定に制御されているが、部分放電の発生により絶縁ガスが分解されるなどして絶縁性能が低下すると、実質的には課電電圧を上げた場合と同じ状況となり、例えば浮き電極放電については重心の遷移が観測される。
【0037】
本実施の形態によれば、放電信号の重心の遷移を調べることにより、少なくともある種の放電源については、放電の進展度の診断が可能になる、という効果がある。
【0038】
実施の形態3.
実施の形態2では、課電電圧の変化に対する重心の遷移に基づいて、放電の進展度を診断する方法について説明した。しかしながら、針電極放電に関しては重心の遷移は見られず、実施の形態2の方法を適用することができなかった。そこで、本実施の形態では、別のパラメータである密度の遷移に着目し、放電の進展度を診断する。
【0039】
密度の算出は、リージョン内の放電総数をリージョンの大きさを表す面積で割ることで行う。すなわち、密度は単位面積当たりの放電回数である。面積はφ−q平面上での面積であり、φ・qの物理量で表される。また、面積の算出方法は問わないが、例えば、φ−q平面上で単一のスロットの面積ΔS=Δφ×Δqを求めておき、リージョン内の総スロット数Kにつき、S×Kによる積算で求める方法などがある。
【0040】
図5は、課電電圧の変化に対する密度の遷移を示した図であり、(a)は浮き電極放電の場合、(b)は針電極放電の場合を示す。横軸は課電電圧、縦軸は上記密度である。
【0041】
図5(a)では、図4の二種の浮き電極放電、すなわち浮き電極放電(リージョン1)と浮き電極放電(リージョン2)について、課電電圧の変化に伴う密度の変化をグラフにしている。同図に示すように、浮き電極放電(リージョン2)に関しては密度の変化はほとんど見られないものの、浮き電極放電(リージョン1)に関しては課電電圧の上昇に伴い密度も増加している。また、その変化の度合はほぼ直線的である。
【0042】
図5(b)では、図4の針電極放電(リージョン3)について、課電電圧の変化に伴う密度の変化をグラフにしている。同図に示すように、課電電圧の上昇に伴い密度も増加している。また、その変化の度合はほぼ直線的である。
【0043】
実施の形態2で説明したように、課電電圧の上昇に伴って、放電は進展する。また、図5に示すように、少なくとも針電極については課電電圧の変化に伴い密度が遷移する。したがって、重心の遷移によっては放電進展度を診断できなった針電極放電についても、密度の遷移を調べることで、放電の進展度合を診断できることがわかる。例えば、図5(b)において、密度と放電進展度とを対応させて、放電進展度を診断することができる。
【0044】
本実施の形態では、放電診断部15により、定期的に放電マップを作成し、密度の経時変化について調べる。すなわち、放電信号観測後に、定期的に重心の位置を算出して重心の遷移を調べるとともに密度を算出して密度の遷移も調べる。上述のように、ガス絶縁開閉装置の運用中、課電電圧は一定に制御されているが、部分放電の発生により絶縁ガスが分解されるなどして絶縁性能が低下すると、実質的には課電電圧を上げた場合と同じ状況となり、例えば針電極放電については密度の遷移が観測される。
【0045】
本実施の形態によれば、実施の形態2で説明した重心の遷移に加えて密度の遷移を調べることで、より広範な放電源に関する放電の進展度合の診断が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明は、ガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法および部分放電診断装置として有用である。
【符号の説明】
【0047】
1,2 金属容器
3 中心導体
4 スペーサー
5 ブッシング
6 センサ
7 信号増幅器
8,10 A/D変換器
9 分圧器
11 コンピュータ
12 部分放電信号検出部
13 放電マップ生成部
14 重心算出部
15 放電診断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスが封入された金属容器内に中心導体が収納されてなるガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法であって、
前記金属容器内の部分放電の放電源から放射された電磁波をセンサにより検出するステップと、
前記中心導体に課電される課電電圧を所定の電圧に降圧して課電電圧信号として取得するステップと、
前記センサの出力する電磁波信号からノイズを分離して部分放電信号を検出するステップと、
一定時間内に検出されたすべての前記部分放電信号について、前記課電電圧信号に基づき、課電位相−信号強度平面上での位置に対して前記部分放電の発生頻度を計数することにより、課電位相−信号強度−発生頻度分布を表す放電マップを作成するステップと、
前記課電位相−信号強度平面上での放電信号の密集パターンを表した領域であるリージョンについて、前記発生頻度を質量とみなしたときの力学的な重心を算出するステップと、
前記重心の値を診断結果として出力するステップと、
を含むこと特徴とするガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法。
【請求項2】
前記重心を算出した後に、放電源の種類と課電位相とを関係付けたデータベースを用い、前記重心の課電位相値とこのデータベースとを比較することにより、前記放電源の種類を特定してその識別結果を出力することを特徴とする請求項1に記載のガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法。
【請求項3】
前記放電マップを作成する際に、前記課電位相−信号強度平面を複数個の小領域に分割した上で、検出された各部分放電信号に対して該当する小領域を判定し、前記小領域ごとに前記発生頻度を計数することを特徴とする請求項1または2に記載のガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法。
【請求項4】
前記リージョンごとに前記重心の経時変化を調べ、前記重心の遷移に基づいて、部分放電の進展度を診断することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法。
【請求項5】
前記リージョン内の放電総数を当該リージョンの面積で割ることで前記リージョンの密度を定義し、前記リージョンごとに前記密度の経時変化を調べ、前記密度の遷移に基づいて、部分放電の進展度を診断することを特徴とする請求項4に記載のガス絶縁開閉装置の部分放電診断方法。
【請求項6】
絶縁ガスが封入された金属容器内に中心導体が収納されてなるガス絶縁開閉装置の部分放電診断装置であって、
前記金属容器内の部分放電の放電源より放射される電磁波を検出可能なセンサと、
前記中心導体に課電される課電電圧を所定の電圧に降圧して取得する課電電圧信号取得部と、
前記センサの出力する電磁波信号から部分放電信号を検出する部分放電信号検出部と、
一定時間内に検出されたすべての前記部分放電信号について、前記課電電圧信号取得部から出力された前記課電電圧信号に基づき、課電位相−信号強度平面上での位置に対して部分放電の発生頻度を計数することにより、課電位相−信号強度−発生頻度分布を表す放電マップを作成する放電マップ生成部と、
前記課電位相−信号強度平面上における放電信号の密集パターンを表した領域であるリージョンについて、前記発生頻度を質量とみなしたときの力学的な重心を算出する重心算出部と、
算出された前記重心の値を診断結果として出力する放電診断部と、
を備えること特徴とするガス絶縁開閉装置の部分放電診断装置。
【請求項7】
前記放電診断部は、放電源の種類と課電位相とを関係付けたデータベースを有し、 前記放電診断部は、前記重心の位相値とこのデータベースとを比較することにより、前記放電源の種類を特定してその識別結果を出力することを特徴とする請求項6に記載のガス絶縁開閉装置の部分放電診断装置。
【請求項8】
前記放電マップ生成部は、前記課電位相−信号強度平面を複数個の小領域に分割した上で、検出された前記部分放電信号の放電位相および信号強度が属する小領域を判定し、前記小領域ごとに前記発生頻度を計数することを特徴とする請求項6または7に記載のガス絶縁開閉装置の部分放電診断装置。
【請求項9】
前記放電診断部は、前記リージョンごとに前記重心の経時変化を調べ、前記重心の遷移に基づいて、部分放電の進展度を診断することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のガス絶縁開閉装置の部分放電診断装置。
【請求項10】
前記放電診断部は、前記リージョン内の放電総数を当該リージョンの面積で割ることで前記リージョンの密度を求め、前記リージョンごとに前記密度の経時変化を調べ、前記密度の遷移に基づいて、部分放電の進展度を診断することを特徴とする請求項9に記載のガス絶縁開閉装置の部分放電診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−33538(P2011−33538A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181730(P2009−181730)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】