説明

ガス軟窒化処理方法

【課題】作業コストを抑制しつつ良好な窒化品質を得る。
【解決手段】処理炉内に雰囲気ガスとしてRXガスが導入され、処理炉内は700℃以上に達するまで加熱される。この前処理工程においては、還元性ガス雰囲気中でワークWが700℃以上に加熱されることから、ワーク表面の強固な酸化膜αを除去もしくは破壊してワーク表面を活性化させることが可能となる。その後、処理炉内にRXガスに加えてアンモニアガスが導入され、処理炉内は所定時間に渡って570℃を維持するように調整される。前処理工程において、ワーク表面が活性化されることから、ガス軟窒化工程においては、ワーク表面に化合物層を良好に形成することができ、ワーク内部に拡散層を良好に形成することが可能となる。このように、研磨作業等を追加することなくワーク表面を活性化させることができ、作業コストを抑制しつつ良好な窒化品質を得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス軟窒化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料の表面硬化方法として、表面焼入れ、浸炭焼入れ、塩浴軟窒化処理、ガス軟窒化処理等が挙げられる。このうち、塩浴軟窒化処理やガス軟窒化処理においては、鉄鋼材料の変態を伴わずに歪みも少ないという理由から採用されることが多い。しかしながら、塩浴軟窒化処理においては、猛毒のシアン化カリウム等を用いることから環境負荷が高いという問題がある。このため、大掛かりな廃液処理装置の必要がなく、生産性の高いガス軟窒化処理の採用が望まれている。このガス軟窒化処理においては、吸熱型変性ガス(RXガス)およびアンモニアガスを含む窒化雰囲気中で鉄鋼材料を加熱することにより、鉄鋼材料の表面に鉄窒化物や炭窒化物の化合物層を形成して表面硬さを高めることが可能となる(例えば、特許文献1参照)。また、鉄鋼材料の内部に侵入拡散した窒素が固溶して拡散層を形成し、鉄鋼材料の疲労強度を向上させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−238363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ガス軟窒化処理を施す際に鉄鋼材料の表面が汚れていると、化合物層や拡散層の形成が不十分となるおそれがあった。特に、機械加工時に水溶性の切削液を使用していた場合には、水に含まれるミネラル分、例えばナトリウムが酸化ナトリウムとして材料表面に固着することがあり、この固着した酸化ナトリウム等が窒化不良を招く要因となっていた。また、時間の経過と共に材料表面に対して強固かつ緻密な酸化膜が発生した場合にも、同様に、窒化不良を招く要因となっていた。これらの酸化ナトリウムや酸化膜については、洗浄による除去が困難であることから、研磨等による物理的な除去が必要であった。しかしながら、酸化ナトリウム等を除去するための研磨作業を実施することは、作業工数や作業コストを大幅に増大させる要因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、作業コストを抑制しつつ良好な窒化品質が得られるガス軟窒化処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガス軟窒化処理方法は、処理炉内に還元性ガスを供給して鉄鋼材料からなるワークを700℃以上で加熱した後に、前記処理炉内に前記還元性ガスに加えて窒化性ガスを供給し、前記ワークを加熱して軟窒化処理を施すことを特徴とする。
【0007】
本発明のガス軟窒化処理方法は、処理炉内に還元性ガスを供給して鉄鋼材料からなるワークを加熱し、前記ワーク表面の酸化膜を除去もしくは破壊した後に、前記処理炉内に前記還元性ガスに加えて窒化性ガスを供給し、前記ワークを加熱して軟窒化処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、還元性ガスを供給してワークを700℃以上で加熱するようにしたので、研磨作業等を行うことなくワーク表面を活性化させることができ、作業コストを抑制しつつ良好な窒化品質を得ることが可能となる。しかも、軟窒化処理にて使用される還元性ガスを用いてワーク表面を活性化させるようにしたので、設備コストや原料コストを抑制することが可能となる。
【0009】
本発明によれば、還元性ガスを供給してワークを加熱し、ワーク表面の酸化膜(例えば酸化ナトリウム等)を除去もしくは破壊するようにしたので、研磨作業等を行うことなくワーク表面を活性化させることができ、作業コストを抑制しつつ良好な窒化品質を得ることが可能となる。しかも、軟窒化処理にて使用される還元性ガスを用いてワーク表面を活性化させるようにしたので、設備コストや原料コストを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】鉄鋼材料を用いて製造されるクランクシャフトの製造工程を示すフローチャートである。
【図2】ガス軟窒化処理を行うための処理炉の一例を示す概略図である。
【図3】ガス軟窒化処理方法の処理パターンを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は鉄鋼材料を用いて製造されるクランクシャフトの製造工程を示すフローチャートである。図1に示すように、クランクシャフトを製造する際には、鍛造工程S1や荒加工工程S2を経て仕上げ加工工程S3が実施される。この仕上げ加工工程S3においては、ジャーナル研削S31やピン研削S32が実施された後に、炭化水素系の溶剤を用いた洗浄工程S33を経て、表面硬化処理であるガス軟窒化処理S34が実施される。そして、仕上げ加工工程S3が完了すると、検査工程S4を経てクランクシャフトが完成する。
【0012】
ところで、ガス軟窒化処理を施す際にワーク表面が汚れていると、化合物層や拡散層の形成が不十分となることから、窒化品質を大幅に低下させてしまう要因となる。このため、ガス軟窒化処理S34の前には洗浄工程S33が設けられるものの、この洗浄工程S33だけでワーク表面から異物を除去することは困難であった。すなわち、ワークWの機械加工等で水溶性切削液を使用していた場合には、水に含まれるミネラル分、例えばナトリウムが酸化ナトリウム(酸化膜)としてワーク表面に固着することがある。また、時間の経過と共にワーク表面に対して強固かつ緻密な酸化膜が生成されることもある。これらの酸化ナトリウムや酸化膜は、洗浄による除去が困難であることから、研磨等による物理的な除去が必要であった。しかしながら、酸化ナトリウム等や酸化膜を除去するために研磨作業を追加することは、作業工数や作業コストを増大させる要因となっていた。そこで、本発明のガス軟窒化処理方法を用いることにより、ガス軟窒化処理前に研磨作業を追加することなく、ワーク表面から酸化ナトリウムや強固な酸化膜を除去している。
【0013】
以下、本発明の一実施の形態であるガス軟窒化処理方法について説明する。図2はガス軟窒化処理を行うための処理炉10の一例を示す概略図である。図2に示すように、処理炉10内には加熱室11が区画されており、この加熱室11にはワークWであるクランクシャフトを保持する治具12が設置されている。また、加熱室11を囲むようにヒータ13が設置されており、加熱室11には撹拌用のファン14が設置されている。さらに、処理炉10には、加熱室11にガスを導入するガス導入管15と、加熱室11から押し出されるガスを案内する排気管16とが設置される。ガス導入管15には制御弁17を介して第1ガス供給源18が接続されており、この第1ガス供給源18から還元性ガスである吸熱型変成ガス(RXガス)が供給される。また、ガス導入管15には制御弁19を介して第2ガス供給源20が接続されており、この第2ガス供給源20から窒化性ガスであるアンモニア(NH)ガスが供給される。なお、排気管16には排ガス燃焼装置21が接続されており、加熱室11から押し出されたガスは排ガス燃焼装置21で燃焼分解される。なお、RXガスとは、炭化水素ガスと空気とを混合したガスを、加熱したニッケル触媒を通過させて生成したガスであり、CO、N、Hを主成分とするガスである。
【0014】
図3はガス軟窒化処理方法の処理パターンを示す説明図である。加熱室11内にワークWがセットされると、図3に示すように、加熱室11内に雰囲気ガスとしてRXガスが導入され、加熱室11内は700℃以上に達するまで加熱される。この前処理工程においては、還元性ガス雰囲気中でワークWが700℃以上に加熱されることから、ワーク表面に強固な酸化膜αが存在していた場合には、この強固な酸化膜を還元してワーク表面を活性化させることが可能となる。また、ワーク表面に酸化ナトリウムβが存在している場合には、加熱室11が800〜1100℃の範囲内で加熱される。これにより、ワーク表面の酸化ナトリウムを還元して除去もしくは破壊することが可能となる。なお、酸化ナトリウムを完全に除去するためには、加熱温度を880℃以上に設定することが望ましいが、ワークWの寸法精度を保持する観点からは、加熱温度を800℃程度に抑えることが望ましい。また、急冷せずに、前処理工程後に徐冷して窒化温度にすることが重要である。
【0015】
このように、700〜1100℃にて前処理工程を実施した後には、ワークWに対するガス軟窒化工程が開始される。このガス軟窒化工程においては、加熱室11内にRXガス(20〜40%)に加えてアンモニアガス(60〜80%)が導入され、加熱室11内は徐冷されながら所定時間に渡って570℃を維持するように調整される。前述した前処理工程において、ワーク表面から強固な酸化膜や酸化ナトリウムが除去されることから、ガス軟窒化工程においては、ワーク表面に鉄窒化物や炭窒化物の化合物層を良好に形成することができ、ワークWの表面硬さを高めることが可能となる。また、ワーク内部に窒素を侵入拡散させて拡散層を良好に形成することができ、ワークWの疲労強度を向上させることが可能となる。なお、ガス軟窒化工程における加熱温度は、570℃に限られることはなく、例えば550〜600℃の範囲内でガス軟窒化工程を実施しても良い。
【0016】
これまで説明したように、ガス軟窒化工程に先立って前処理工程を実施するようにしたので、ガス軟窒化処理前にワーク表面を活性化させることが可能となる。これにより、酸化ナトリウムや強固な酸化膜を除去するための研磨作業を省くことができ、作業工数や作業コストを抑制しつつ良好な窒化品質を得ることが可能となる。しかも、前処理工程における雰囲気ガスとして、ガス軟窒化工程で用いられる還元性ガスと同じガスを用いるようにしたので、前処理工程の追加に伴う設備コストや原料コストを抑制することが可能となる。
【0017】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。たとえば、前述の説明では、本発明のガス軟窒化処理方法をクランクシャフトに適用しているが、これに限られることはなく、歯車や排気バルブ等の他の部品に本発明を適用しても良いことはいうまでもない。なお、鉄鋼材料としては、炭素鋼であっても良く、合金鋼であっても良いことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0018】
10 処理炉
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理炉内に還元性ガスを供給して鉄鋼材料からなるワークを700℃以上で加熱した後に、
前記処理炉内に前記還元性ガスに加えて窒化性ガスを供給し、前記ワークを加熱して軟窒化処理を施すことを特徴とするガス軟窒化処理方法。
【請求項2】
処理炉内に還元性ガスを供給して鉄鋼材料からなるワークを加熱し、前記ワーク表面の酸化膜を除去もしくは破壊した後に、
前記処理炉内に前記還元性ガスに加えて窒化性ガスを供給し、前記ワークを加熱して軟窒化処理を施すことを特徴とするガス軟窒化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−72430(P2012−72430A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217350(P2010−217350)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】