説明

ガドリニウム化合物及びMRI用造影剤

【課題】少ない投与量でも感度が高く、安全性を有する新規な造影剤を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表されるガドリニウム化合物。


(式中、G1は糖ラクトンとアミノ基が反応した残基を表し、nは1または2を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なガドリニウム化合物及びそれを含有するMRI用造影剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Gd(III)−DTPA(ジエチレントリアミンペンタ酢酸のガドリニウム(III)錯体、以下マグネビストと呼称する。)はガドリニウム化合物として始めてMRI(核磁気共鳴撮像)用造影剤として1988年に実用化されたものであり、全世界で4500万以上の症例に使用されてきた(例えば、非特許文献1参照)。マグネビストは水溶性で分子量が小さいため、血管から臓器や組織への移行が早く、血管、特に静脈を明確に造影することが困難であった。そこで、マグネビストに血漿中のアルブミンと結合する置換基を導入したものが開発された(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照)。その代表例がMS−325と呼ばれる化合物である。
【0003】
MS−325は血中滞留性がマグネビストに対して改善され、全身血管の造影効果が大幅に改善された。しかしながら、毒性があり十分な量を投与することができず、特に虚血性疾患(心筋梗塞や肝硬変等)部位の造影には問題があった。一方、近年、特定の臓器の微小な疾患(例えば肝臓、膵臓、肺等の転移性癌)の造影が強く求められている。しかしながら、上記のマグネビスト及びMS−325には臓器特異性がないため、要望を満たすことが困難である。
【0004】
一方、グルコースラクトンやガラクトースラクトンで末端を修飾したガドリニウム錯体(例えば、非特許文献2、3及び特許文献2参照)や、ガラクトースアミン及びラクトースアミンで末端を修飾したガドリニウム錯体(例えば、非特許文献4参照)が提案されている。これらは、マグネビストやMS−325と比較して、T1緩和能が高く、少量の投与量で十分な造影効果を得ることができるため、血流の少ない末梢血管の造影が十分に可能である。また、肝臓への集積効果が高いため肝臓の病変を高感度、高解像度で造影することが可能であり、肝臓の微細な転移性癌の早期発見に多いに貢献することが期待される。しかしながら、膵臓への集積性は低く、その病変を特異的に造影する能力が低いという問題を抱えていた。また造影後も24時間以上に渡り体内に留まるため毒性の懸念があった。
【0005】
現在、膵臓疾患、特に膵臓の転移性癌は早期発見が難しく、死亡率の高い疾患として知られており早期発見に繋がる新規な造影剤の開発が切望されている。
【特許文献1】特表平10−513445号公報
【特許文献2】特開2004−307356号公報
【非特許文献1】Chem.Rev.1999,99,2293−2352
【非特許文献2】Tetrahedron Lett.,41(2000)8485−8488
【非特許文献3】Chemical Reviews,1999,Vol.99,No.9,2293−2352
【非特許文献4】Gaodeng Xuexiao Huaxue Xuebao,(1997),18(7),1071−1079
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、(1)T1緩和能が高く、少ない投与量でも高感度に造影可能であり、(2)全身血管及び肝臓の造影に優れ、(3)かつ、膵臓の造影にも優れ、(4)さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なガドリニウム化合物及びそれを含む造影剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0008】
1.下記一般式(1)で表されることを特徴とするガドリニウム化合物。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、G1は糖ラクトンとアミノ基が反応した残基を表し、nは1または2を表す。)
2.前記糖が、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、ギュロース、イドース、ガラクトース、タロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、エリトロース、トレオース、セロビオース、マルトース、ラクトースまたはマルトリオロースであることを特徴とする前記1に記載のガドリニウム化合物。
【0011】
3.前記1または2に記載のガドリニウム化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とするMRI用造影剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、(1)T1緩和能が高く、少ない投与量でも高感度に造影可能であり、(2)全身血管及び肝臓の造影に優れ、(3)かつ、膵臓の造影にも優れ、(4)さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なガドリニウム化合物及びそれを含む造影剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者は鋭意検討の結果、前記一般式(1)で表される特定構造のガドリニウム化合物は、(1)T1緩和能が高く、少ない投与量でも高感度に造影可能であり、(2)全身血管及び肝臓の造影に優れ、(3)かつ、膵臓の造影にも優れ、(4)さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なガドリニウム化合物であり、これを含む造影剤は優れた造影剤であることを見出した。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
《一般式(1)で表されるガドリニウム化合物》
まず、本発明の一般式(1)で表されるガドリニウム化合物について詳述する。
【0016】
一般式(1)において、G1は糖ラクトンとアミノ基が反応した残基を表し、該糖は単糖、二糖、三糖、多糖の全てのアルドペントース、アルドヘキソースを表すが、好ましくはアロース、アルトロース、グルコース、マンノース、ギュロース、イドース、ガラクトース、タロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、エリトロース、トレオース、セロビオース、マルトース、ラクトースまたはマルトリオロースを表す。
【0017】
次に、本発明の一般式(1)で表される化合物の具体例を示す。しかし本発明はこれらに限定されない。
【0018】
【化2】

【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
【化8】

【0025】
【化9】

【0026】
【化10】

【0027】
【化11】

【0028】
【化12】

【0029】
【化13】

【0030】
【化14】

【0031】
【化15】

【0032】
【化16】

【0033】
【化17】

【0034】
【化18】

【0035】
【化19】

【0036】
これらの例示化合物の合成方法は実施例に示す。
【0037】
《MRI用造影剤》
次に、本発明のガドリニウム化合物を含有するMRI用造影剤(以下、造影剤ともいう)について詳述する。
【0038】
本発明の造影剤は上記一般式(1)で表されるガドリニウム化合物の少なくとも1種を含有する。
【0039】
本発明のガドリニウム化合物は良好な水溶性を有する。好ましくは、室温において少なくとも1.0mM、好ましくは10mM、そしてより好ましくは100mMの濃度まで水に溶解する。注射のために製剤化された本発明の造影剤は、迅速で簡便な注射を可能にするよう適度な粘度のみを有するべきである。粘度は、10.20×10-4kgf・s/m2(10mPa・s、10cP)未満、または好ましくは5.10×10-4kgf・s/m2(5mPa・s、5cP)未満、またはより好ましくは2.04×10-4kgf・s/m2(2mPa・s、2cP)未満である。また、注射のために製剤化された本発明の造影剤は過度の浸透圧を有するべきではない。なぜなら、これは毒性を増加させ得るからである。浸透圧は、3000ミリオスモル/kg未満、または好ましくは2500ミリオスモル/kg未満、または最も好ましくは900ミリオスモル/kg未満である。
【0040】
本発明の造影剤は、無機または有機の酸及び塩基から誘導される塩を含有することができる。塩の具体例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パモエート、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、ウンデカン酸塩、アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム及びカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム、マグネシウム及び亜鉛塩)、有機塩基を有する塩(例えば、ジシクロヘキシルアミン塩、N−メチル−D−グルカミン)、及びアミノ酸(例えば、アルギニン、リジン)を有する塩等を包含する。また、塩基性窒素含有基は、低級アルキルハライド(例えば、メチル、エチル、プロピル及びブチルクロライド、ブロマイド及びヨージド)、ジアルキル硫酸(例えば、ジメチル、ジエチル、ジブチル及びジアミル硫酸)、長鎖ハライド(例えば、デシル、ラウリル、ミリスチル及びステアリルクロライド、ブロマイド及びヨージド)、アラルキルハライド(例えば、ベンジル及びフェネチルブロマイド)ならびにその他のような薬剤で4級化され得る。それによって、水溶性または油溶性あるいは水分散性または油分散性の生成物が得られる。本発明の好ましい塩は、N−メチル−D−グルカミン、カルシウム及びナトリウム塩である。
【0041】
本発明の造影剤は、任意のキャリア、アジュバントもしくはビヒクルを含有することができる。本発明の造影剤に使用され得るキャリア、アジュバント及びビヒクルは、イオン交換物質、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)、緩衝性物質(例えば、ホスフェート)、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、植物性飽和脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質(例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩)、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリエチレングリコール及びラノリンを包含するが、これらに限定されない。
【0042】
本発明の造影剤は、注射可能な無菌の調合薬の形態(例えば、注射可能な無菌の水性または油性の懸濁液)であり得る。この懸濁液は、当該分野で公知の技術に従い、適切な分散剤または湿潤剤及び懸濁剤を用いて製剤され得る。注射可能な無菌の調合薬はまた、無毒性の非経口で受容可能な希釈剤または溶媒中における、無菌の注射可能な溶液または懸濁液(例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液として)であってもよい。用いられ得る受容可能なビヒクル及び溶媒は、水、リンガー溶液及び等張食塩水である。さらに、従来では、無菌の不揮発油が溶媒または懸濁媒体として使用される。この目的のために、合成のモノ−またはジ−グリセリドを含む任意の刺激のない不揮発油が使用され得る。脂肪酸(例えば、オレイン酸及びそのグリセリド誘導体)は、天然の薬学的に受容可能なオイル(例えば、オリーブオイルまたはヒマシ油)と同様に、注射可能物の調製、特にこれらのポリオキシエチル化した変形物において有用である。これらのオイル溶液または懸濁液はまた、長鎖アルコールの希釈剤または分散剤(例えば、Ph.Helvまたは類似のアルコール)を含み得る。
【0043】
本発明の造影剤は、経口投与、非経口投与、吸入スプレーによる投与、局所投与、直腸投与、鼻腔投与、頬投与、膣投与または従来の無毒性の薬学的に受容可能なキャリア、アジュバント及びビヒクルを含有する投薬製剤中に埋め込まれたリザーバを介して投与され得る。本明細書に使用されるように用語「非経口」は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、くも膜下、肝臓内、病変内及び頭蓋内注射または点滴技術を含む。
【0044】
経口投与される場合、本発明の薬学的組成物は任意の経口的に受容可能な投薬形態(カプセル、錠剤、水性の懸濁液または溶液が挙げられるがこれらに限定されない)で投与され得る。錠剤を経口使用する場合、一般的に使用されるキャリアには、ラクトース及びコーンスターチが挙げられる。代表的には、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤もまた添加される。カプセル形態の経口投与に対して、有用な希釈剤としては、ラクトース及び乾燥コーンスターチが挙げられる。経口使用に水性懸濁液を必要とする場合、活性成分は乳化剤及び懸濁剤と配合される。所望の場合、特定の甘味料、香味料または着色料もまた添加してもよい。あるいは、直腸投与のために座薬形態で投与される場合には、本発明の造影剤は、室温で固体であるが直腸温で液体である適切な非刺激性の賦形剤とを混合して調製され得、その結果直腸内で溶け薬剤を放出する。このような物質として、ココアバター、ビーズワックス及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0045】
また、前述のように、特に、処置標的が局所施用によって容易に接近可能な領域または器官(目、皮膚または下部腸道(lower intestinal tract)を含む)を含む場合に、本発明の造影剤は局所投与され得る。適切な局所製剤は、これらの各領域または器官用に容易に調製される。
【0046】
下部腸道に対する局所施用は、直腸用座薬製剤または適切な浣腸製剤でなされ得る。局所−経皮性パッチもまた使用してよい。局所施用に対して、本発明の造影剤は、1つ以上のキャリア中に懸濁または溶解される活性成分を含有する、適切な軟膏に製剤され得る。本発明の造影剤の局所投与のためのキャリアは、鉱油、液体ペトロラタム、白色ペトロラタム、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス及び水を包含するが、それらに限定されない。あるいは、本発明の造影剤は、1つ以上のキャリア中に懸濁または溶解された活性成分を含有する、適切なローションまたはクリームに製剤されてもよい。適切なキャリアは、鉱油、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリールアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水を包含するが、それらに限定されない。
【0047】
眼使用に対して、本発明の造影剤は防腐剤(例えば、ベンジルアルコニウムクロライド)を含有してもしなくてもよい。pH調節された等張の無菌生理食塩水中に微小化された懸濁液として、または好ましくはpH調節された等張の無菌生理食塩水中の溶液として製剤され得る。あるいは、眼使用に対して本発明の造影剤は、ペトロラタムのような軟膏に製剤され得る。
【0048】
鼻腔エーロゾルまたは吸入による投与に対して、本発明の造影剤は、製薬的製剤の分野で周知の技術に従って調製され、そしてベンジルアルコールもしくは他の適切な防腐剤、生体利用性を増大させる吸収促進剤、フルオロカーボン、及び/または他の従来の可溶化剤もしくは分散剤を使用し、生理食塩水中の溶液として調製され得る。
【0049】
投薬は、診断用画像化機器の感度、ならびに造影剤の組成に依存する。例えば、MRI画像化に対して、本発明のガドリニウム化合物を含有する造影剤は、一般的に、より低い磁気モーメントを有する常磁性物質、例えば、鉄(III)を含有する造影剤より、より低い投薬を必要とする。好ましくは、投薬は、1日当たり約0.001〜1mmol/kg体重の活性金属−リガンド錯体の範囲である。より好ましくは、投薬は、1日当たり約0.005〜0.05mmol/kg体重の範囲である。
【0050】
しかし、任意の特定の患者に対する特定の投薬処方もまた、種々の因子(年齢、体重、健康状態、性別、治療食、投与時間、排泄速度、薬物の組み合わせ及び処置する内科医の判断を含む)に依存することが理解されるべきである。
【0051】
本発明では造影剤の適切な投薬の投与に続いて、MRI画像化が行われる。パルス系列(反転回復(IR);スピンエコー(SE);エコー断層(EPI);飛行時間(TOF);ターボフラッシュ;グラディエントエコー(GE))及び画像化パラメーターの値(エコー時間(TE);反転時間(TI);繰り返し時間(TR);フリップ角等)の選択は、要求される診断情報に支配される。一般的には、T1−加重された画像を得ることが望まれる場合、TEはT1−加重を最大とするために30ミリ秒未満(または最小値)であるべきである。逆に、T2の測定が所望される場合、TEは競合するT1効果を最小にするために30ミリ秒より大きくあるべきである。TI及びTRは、T1−及びT2−加重された画像の両方に対して、ほぼ同じに保たれる;一般的に、TI及びTRは、それぞれ、約5〜1000ミリ秒及び2〜1000ミリ秒のオーダーである。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、特に断りない限り、実施例中の「%」は「質量%」を表す。
【0053】
〔合成例1〕
下記スキーム(反応式1)により、例示化合物Allo−2n−Gd−DTPAを合成した。
【0054】
【化20】

【0055】
特表2003−518388号公報73頁、Fig20に記載の方法で合成した(1)28.9g(0.1mol)、トリエチルアミン10.1g(0.1mol)を酢酸エチル300ml中に溶解し、(2)16.1g(0.1mol)を酢酸エチル50mlに溶解した溶液を攪拌、室温下30分かけて滴下した。そのまま3時間攪拌後、反応液を水洗し、酢酸エチルを減圧下に留去した。残渣をアセトニトリルから再結晶し、(3)の白色結晶を32.5g(収率93%)得た。
【0056】
次に(3)20g(59.8mmol)をメチレンクロリド300mlに溶解、0℃に冷却し、トリフルオロ酢酸10mlを1時間かけて滴下した。そのまま3時間攪拌した。反応液をトリエチルアミンで中和し、析出した塩をろ過で取り除いた。反応液を水で2回水洗し、溶媒を減圧下で留去すると(4)の粗結晶が7.7g(収率96%)得られた。
【0057】
精製することなく、DMFに全量溶解し、Tetrahedron Lett.,41(2000)8486頁記載のcaDTPA20.5g(57.7mmol)を加え室温で5時間攪拌した。溶媒を減圧下に留去し、残渣をアセトニトリルから再結晶し、(5)を34.8g(収率97%)得た。
【0058】
次に、(5)30.0g(48.0mmol)をDMF/水=1:1混合溶媒150mlに溶解し、酢酸でpHを約4に調整した。さらに、D−アロース(6)17.2g(95.9mmol)を加え室温で3時間加熱攪拌した。溶媒を減圧で留去し、(7)の粗結晶を37.8g(収率83%)得た。
【0059】
次に(7)の粗結晶全量を水150mlに溶解し、酸化ガドリニウム16.3g(45.0mmol)を加え、100℃で8時間加熱攪拌した。溶媒を減圧下に留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィ(Wakogel100C18逆層シリカゲル63〜212μm、和光純薬社製)で精製(溶媒は純水:メタノール=1:1)した。溶媒を減圧で濃縮し、目的物Allo−2n−Gd−DTPAの白色ガラス状固形物を38.0g(収率85%)得た。トータル収率61%。元素分析により目的物であることを確認した。
【0060】
元素分析値
(計算値%):C、36.39;H、5.21;Gd、14.01;N、8.74
(実測値%):C、36.43;H、5.31;Gd、14.03;N、8.66
〔合成例2〕
合成例1において、(6)をD−アルトロースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Altro−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率58%。
【0061】
元素分析値
(計算値%):C、36.39;H、5.21;Gd、14.01;N、8.74
(実測値%):C、36.41;H、5.22;Gd、14.13;N、8.56
〔合成例3〕
合成例1において、(6)をD−グルコースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Glu−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率59%。
【0062】
元素分析値
(計算値%):C、36.39;H、5.21;Gd、14.01;N、8.74
(実測値%):C、36.45;H、5.24;Gd、14.03;N、8.77
〔合成例4〕
合成例1において、(6)をD−マンノースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Man−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率52%。
【0063】
元素分析値
(計算値%):C、36.39;H、5.21;Gd、14.01;N、8.74
(実測値%):C、36.47;H、5.31;Gd、14.03;N、8.86
〔合成例5〕
合成例1において、(6)をD−ギュロースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Gulo−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率59%。
【0064】
元素分析値
(計算値%):C、36.39;H、5.21;Gd、14.01;N、8.74
(実測値%):C、36.48;H、5.32;Gd、14.13;N、8.77
〔合成例6〕
合成例1において、(6)をD−イドースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Ido−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率53%。
【0065】
元素分析値
(計算値%):C、36.39;H、5.21;Gd、14.01;N、8.74
(実測値%):C、36.44;H、5.37;Gd、14.08;N、8.89
〔合成例7〕
合成例1において、(6)をD−ガラクトースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Gala−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率63%。
【0066】
元素分析値
(計算値%):C、36.39;H、5.21;Gd、14.01;N、8.74
(実測値%):C、36.44;H、5.31;Gd、14.03;N、8.67
〔合成例8〕
合成例1において、(6)をD−タロースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Tal−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率60%。
【0067】
元素分析値
(計算値%):C、36.39;H、5.21;Gd、14.01;N、8.74
(実測値%):C、36.49;H、5.31;Gd、14.23;N、8.56
〔合成例9〕
合成例1において、(6)をD−リボースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Libo−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率55%。
【0068】
元素分析値
(計算値%):C、36.19;H、5.12;Gd、14.81;N、9.23
(実測値%):C、36.23;H、5.11;Gd、14.73;N、9.39
〔合成例10〕
合成例1において、(6)をD−アラビノースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Alabi−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率59%。
【0069】
元素分析値
(計算値%):C、36.19;H、5.12;Gd、14.81;N、9.23
(実測値%):C、36.23;H、5.21;Gd、14.93;N、9.38
〔合成例11〕
合成例1において、(6)をD−キシロースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Xyl−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率59%。
【0070】
元素分析値
(計算値%):C、36.19;H、5.12;Gd、14.81;N、9.23
(実測値%):C、36.13;H、5.21;Gd、14.88;N、9.19
〔合成例12〕
合成例1において、(6)をD−リキソースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Lix−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率62%。
【0071】
元素分析値
(計算値%):C、36.19;H、5.12;Gd、14.81;N、9.23
(実測値%):C、36.22;H、5.11;Gd、14.73;N、9.38
〔合成例13〕
合成例1において、(6)をD−エリスロースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Erithro−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率65%。
【0072】
元素分析値
(計算値%):C、35.96;H、5.03;Gd、15.69;N、9.79
(実測値%):C、36.03;H、5.11;Gd、15.73;N、9.63
〔合成例14〕
合成例1において、(6)をD−スレオースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Threo−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率61%。
【0073】
元素分析値
(計算値%):C、35.96;H、5.03;Gd、15.69;N、9.79
(実測値%):C、35.98;H、5.11;Gd、15.53;N、9.73
〔合成例15〕
合成例1において、(6)をD−セロビオースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Cellobi−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率60%。
【0074】
元素分析値
(計算値%):C、38.20;H、5.44;Gd、10.87;N、6.78
(実測値%):C、38.22;H、5.51;Gd、10.73;N、6.63
〔合成例16〕
合成例1において、(6)をD−マルトースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Malto−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率58%。
【0075】
元素分析値
(計算値%):C、38.20;H、5.44;Gd、10.87;N、6.78
(実測値%):C、38.27;H、5.51;Gd、10.83;N、6.83
〔合成例17〕
合成例1において、(6)をD−ラクトースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Lacto−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率60%。
【0076】
元素分析値
(計算値%):C、38.20;H、5.44;Gd、10.87;N、6.78
(実測値%):C、38.37;H、5.56;Gd、10.93;N、6.75
〔合成例18〕
合成例1において、(6)をD−マルトリオースに変えた以外は合成例1と同様にして例示化合物Maltrio−2n−Gd−DTPAを得た。トータル収率62%。
【0077】
元素分析値
(計算値%):C、39.34;H、5.58;Gd、8.88;N、5.54
(実測値%):C、39.30;H、5.61;Gd、8.73;N、5.43
〔合成例19〕
下記スキーム(反応式2)により、例示化合物Allo−4n−Gd−DTPAを合成した。
【0078】
【化21】

【0079】
合成例1に於いて(2)を(8)に変えた以外は合成例1と同様にして目的物Allo−4n−Gd−DTPAの白色板状固形物を得た。トータル収率49%。元素分析により目的物であることを確認した。
【0080】
元素分析値
(計算値%):C、38.59;H、5.52;Gd、9.36;N、7.50
(実測値%):C、38.65;H、5.78;Gd、9.49;N、7.55
〔合成例20〕
合成例18において、(6)をD−アルトロースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Altro−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率48%。
【0081】
元素分析値
(計算値%):C、38.59;H、5.52;Gd、9.36;N、7.50
(実測値%):C、38.56;H、5.65;Gd、9.39;N、7.75
〔合成例21〕
合成例18に於いて(6)をD−グルコースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Glu−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率55%
元素分析値
(計算値%):C、38.59;H、5.52;Gd、9.36;N、7.50
(実測値%):C、38.65;H、5.73;Gd、9.35;N、7.75
〔合成例22〕
合成例18において、(6)をD−マンノースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Man−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率43%。
【0082】
元素分析値
(計算値%):C、38.59;H、5.52;Gd、9.36;N、7.50
(実測値%):C、38.58;H、5.69;Gd、9.44;N、7.67
〔合成例23〕
合成例18において、(6)をD−ギュロースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Gulo−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率41%。
元素分析値
(計算値%):C、38.59;H、5.52;Gd、9.36;N、7.50
(実測値%):C、38.55;H、5.65;Gd、9.39;N、7.65
〔合成例24〕
合成例18において、(6)をD−イドースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Ido−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率41%。
【0083】
元素分析値
(計算値%):C、38.59;H、5.52;Gd、9.36;N、7.50
(実測値%):C、38.59;H、5.58;Gd、9.49;N、7.65
〔合成例25〕
合成例18において、(6)をD−ガラクトースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Gala−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率44%。
【0084】
元素分析値
(計算値%):C、38.59;H、5.52;Gd、9.36;N、7.50
(実測値%):C、38.65;H、5.55;Gd、9.39;N、7.65
〔合成例26〕
合成例18において、(6)をD−タロースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Tal−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率43%。
【0085】
元素分析値
(計算値%):C、38.59;H、5.52;Gd、9.36;N、7.50
(実測値%):C、38.59;H、5.68;Gd、9.35;N、7.68
〔合成例27〕
合成例18において、(6)をD−リボースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Libo−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率49%。
【0086】
元素分析値
(計算値%):C、38.48;H、5.43;Gd、10.08;N、8.08
(実測値%):C、38.55;H、5.63;Gd、10.13;N、8.15
〔合成例28〕
合成例18において、(6)をD−アラビノースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Alabi−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率43%。
【0087】
元素分析値
(計算値%):C、38.48;H、5.43;Gd、10.08;N、8.08
(実測値%):C、38.57;H、5.62;Gd、10.13;N、8.09
〔合成例29〕
合成例18において、(6)をD−キシロースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Xyl−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率49%。
【0088】
元素分析値
(計算値%):C、38.48;H、5.43;Gd、10.08;N、8.08
(実測値%):C、38.45;H、5.53;Gd、10.13;N、8.08
〔合成例30〕
合成例18において、(6)をD−リキソースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Lix−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率39%。
【0089】
元素分析値
(計算値%):C、38.48;H、5.43;Gd、10.08;N、8.08
(実測値%):C、38.59;H、5.51;Gd、10.13;N、8.18
〔合成例31〕
合成例18において、(6)をD−エリスロースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Erithro−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率43%。
【0090】
元素分析値
(計算値%):C、38.36;H、5.32;Gd、10.92;N、8.75
(実測値%):C、38.45;H、5.53;Gd、10.83;N、8.75
〔合成例32〕
合成例18において、(6)をD−スレオロースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Threo−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率47%。
【0091】
元素分析値
(計算値%):C、38.36;H、5.32;Gd、10.92;N、8.75
(実測値%):C、38.48;H、5.33;Gd、10.93;N、8.85
〔合成例33〕
合成例18において、(6)をD−セロビオースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Cellobi−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率46%。
【0092】
元素分析値
(計算値%):C、40.22;H、5.71;Gd、6.75;N、5.41
(実測値%):C、40.25;H、5.83;Gd、6.63;N、5.45
〔合成例34〕
合成例18において、(6)をD−マルトースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Malto−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率43%。
【0093】
元素分析値
(計算値%):C、40.22;H、5.71;Gd、6.75;N、5.41
(実測値%):C、40.28;H、5.93;Gd、6.73;N、5.58
〔合成例35〕
合成例18において、(6)をD−ラクトース誘導体に変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Lacto−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率44%。
【0094】
元素分析値
(計算値%):C、40.22;H、5.71;Gd、6.75;N、5.41
(実測値%):C、40.31;H、5.88;Gd、6.73;N、5.59
〔合成例36〕
合成例18において、(6)をD−マルトリオースに変えた以外は合成例18と同様にして例示化合物Maltrio−4n−Gd−DTPAを得た。トータル収率48%。
【0095】
元素分析値
(計算値%):C、41.14;H、5.82;Gd、5.28;N、4.23
(実測値%):C、41.25;H、5.83;Gd、5.23;N、4.15
実施例1
本発明及び下記比較のガドリニウム化合物の0.05mM生理食塩水溶液を調製し、下記のように緩和時間の測定を行った。
【0096】
【化22】

【0097】
【化23】

【0098】
【化24】

【0099】
【化25】

【0100】
【化26】

【0101】
(緩和時間の測定)
1.5T超伝導NMR撮影装置(Magnetom SP、Siemens社製)に送受信knee−coilを併用してスピン−格子緩和時間(T1)を計測した。撮像条件は、spin echo系列TR1(ms)=3000、TR2(ms)=60、TE(ms)=15、matrix=256×192、FOV(cm)=16、NEX=2である。測定結果を表1、2に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
表1、2から、本発明のガドリニウム化合物は比較化合物に対してT1値がより高率に短縮することが分かった。これは造影剤として信号増強効果が高いことを意味し、少ない投与量でも高感度に造影可能であることを示唆している。
【0105】
実施例2
実施例1に用いた本発明及び比較のガドリニウム化合物を生理食塩水に溶解し、体重30gのマウス一匹当たり0.3mlで0.05mmol/kgの投与量となるMRI用造影剤を調製した。
【0106】
この造影剤をddyマウスの尾静脈より投与することにより造影剤の組織内分布を評価した。投入後、5分、30分、2時間、24時間の肝臓、膵臓及び血液内のガドリニウムの濃度を、誘導結合プラズマ発光分析装置(SPS3000、セイコーインスツルメンツ社製)にて測定した。検体数を20として得られた結果の平均値を表3、4に示す。
【0107】
【表3】

【0108】
【表4】

【0109】
表3、4より、本発明の造影剤は、比較の造影剤に対して、全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ膵臓の造影にも優れ、さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするガドリニウム化合物。
【化1】

(式中、G1は糖ラクトンとアミノ基が反応した残基を表し、nは1または2を表す。)
【請求項2】
前記糖が、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、ギュロース、イドース、ガラクトース、タロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、エリトロース、トレオース、セロビオース、マルトース、ラクトースまたはマルトリオロースであることを特徴とする請求項1に記載のガドリニウム化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガドリニウム化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とするMRI用造影剤。

【公開番号】特開2008−31114(P2008−31114A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207611(P2006−207611)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】