説明

ガラクトースの資化能を増大させるポリヌクレオチド、これを含む組み換えベクター、及びこれらを導入した組み換え微生物

【課題】ガラクトースの資化に関与する遺伝子(DNA)であって、当該遺伝子の塩基配列を改変することで、ガラクトースの資化能を増大可能な新規のポリヌクレオチド(DNA)、及びこれがコードするポリペプチド(タンパク質)を提供する。また、上記の新規なポリヌクレオチド(DNA)で形質転換した微生物を利用して、ガラクトースを含む炭素源からバイオアルコールの生産性を増大させうる手段を提供する。
【解決手段】Saccharomycescerevisiae由来の特定のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する、単離されたポリヌクレオチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラクトースの資化能を増大させるポリヌクレオチド、これを含む組み換えベクター、及びこれらを導入した組み換え微生物に関する。より具体的には、ガラクトース代謝系遺伝子(以下、「ガラクトースの代謝を促進する遺伝子」ともいう)の発現を抑制するドメインのうち少なくとも一部のアミノ酸配列を欠くタンパク質をコードするポリヌクレオチドに関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に化石燃料を過剰に使用することによる資源枯渇及び環境汚染という虞が増大しつつある。このような状況の下で、安定的且つ持続的にエネルギーを生産・供給可能な、新たな再生エネルギーの登場が求められている。このような代替エネルギー開発の一環として、バイオマスからエネルギーを生産する技術が注目されている。
【0003】
近年、このようなバイオマスを実現し得る生物として、海藻類に対する関心が高まっている。かかる潜在的な生物と言える海藻類の特長は、自然界に豊富に存在し、且つライフサイクルが短いという点にある。また、海藻類は、二酸化炭素を消費して酸素を排出するという代謝を行うため、エネルギー生産と環境問題とを共に解決できるという長所を有する。しかし、海藻類を広く利用し、代替エネルギーとして一般に供給可能な程度までエネルギーを生産できていないのが現状である。
【0004】
一方、海藻類(特に紅藻類)由来のバイオマスの加水分解物には、ガラクトースが豊富に存在する。したがって、海藻類由来のバイオマスの加水分解物を、酵母を利用して有用物質へと転換することを実現するためには、加水分解物に多量に含有されているガラクトースの効果的な利用が最先に実現されなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7393669号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bro C, Knudsen S, Regenberg B, Olsson L, Nielsen J. 2005. Improvement of galactose uptake in Saccharomyces cerevisiae through overexpression of phosphoglucomutase: example of transcript analysis as a tool in inverse metabolic engineering. Appl. Environ. Microbiol. 71(11):6465-72
【非特許文献2】Ostergaard S, Walloe KO, Gomes SG, Olsson L, Nielsen J. 2001. The impact of GAL6, GAL80, and MIG1 on glucose control of the GAL system in Saccharomyces cerevisiae. FEMS Yeast Res. 1(1):47-55.
【非特許文献3】Ostergaard S, Olsson L, Johnston M, Nielsen J. Increasing galactose consumption by Saccharomyces cerevisiae through metabolic engineering of the GAL gene regulatory network. 2000. Nat. Biotechnol. 18(12):1283-6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、自然界に存在する酵母の場合、ガラクトース代謝はするものの、その代謝速度はグルコースに比べて顕著に小さいため、実用化には程遠いという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、ガラクトースの資化に関与する遺伝子(DNA)であって、当該遺伝子の塩基配列を改変することで、ガラクトースの資化能を増大可能な新規のポリヌクレオチド(DNA)、及びこれがコードするポリペプチド(タンパク質)を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の他の目的は、上記の新規なポリヌクレオチド(DNA)で形質転換した微生物を利用して、ガラクトースを含む炭素源からバイオアルコールの生産性を増大させうる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑みて、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制するタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列に対し、所定の改変を施すことによって、結果的にガラクトース代謝系遺伝子の発現量を有意に向上させうることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、上記目的を達成するための本発明に係る単離されたポリヌクレオチドは、配列番号:2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する点に特徴を有する。
【0012】
また、上記目的を達成するための本発明に係る単離されたポリペプチドは、配列番号:2で示されるアミノ酸配列からなる点に特徴を有する。
【0013】
また、上記目的を達成するための本発明に係る組み換えベクターは、上記のポリヌクレオチドを含む点に特徴を有する。
【0014】
また、上記目的を達成するための本発明に係る組み換え微生物は、上記のポリヌクレオチド、または上記の組み換えベクターを含む点に特徴を有する。
【0015】
また、上記目的を達成するための本発明に係るエタノールの製造方法は、ガラクトースを含む炭素源からのエタノールの製造方法であって、エタノールが製造されるように、前記炭素源中で上記の組み換え微生物を培養することを含む点に特徴を有する。
【0016】
また、上記目的を達成するための本発明に係る組み換え微生物の製造方法は、微生物を上記の組み換えベクターで形質転換させることを含む点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制するタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列に対し、所定の改変を施すことによって、結果的にガラクトース代謝系遺伝子の発現量を有意に向上させることができる。これにより、ガラクトースの資化性が著しく増大し、同時にエタノールの生産性も顕著に増大させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態における、配列番号:4で示されるアミノ酸配列を示した模式図である
【図2】本発明の実施形態によるC末端抑制ドメインが遺失されたTUP1を示した模式図である。
【図3】本発明の第5実施形態による遺伝子の選別方法を示した模式図である。
【図4】TUP1の短縮タンパク質のコード遺伝子を含む遺伝子地図を表す模式図である(酵母DNAの第3染色体の位置261594〜263396)。
【図5】本発明の実施例1で、コントロールである野生型株における、混合糖(2%グルコース及び2%ガラクトース)の資化能を観察したグラフである。
【図6】本発明の実施例1で、TUP1短縮タンパク質の過剰発現株における、混合糖(2%グルコース及び2%ガラクトース)の資化能の向上効果を観察したグラフである。
【図7】本発明の実施例2で、コントロールである野生型株における、4%ガラクトースの資化能を観察したグラフである。
【図8】本発明の実施例2で、TUP1短縮タンパク質の過剰発現株における、4%ガラクトースの資化能の向上効果を観察したグラフである。
【図9】本発明の実施例3で、コントロールである野生型株における、10%ガラクトースの資化能を観察したグラフである。
【図10】本発明の実施例3で、TUP1短縮タンパク質の過剰発現株における、10%ガラクトースの資化能の向上効果を観察したグラフである。
【図11】本発明の実施例4で、コントロールである野生型株、TUP1短縮タンパク質形質転換株、野生型のTUP1過剰発現株、及びTUP1ノックアウト株における、ガラクトースの資化能の向上効果を対比観察したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。本発明の利点、特徴、及びこれを実現するための筋道は、以下の各実施形態における詳細な説明及び添付された図面を参照することにより、さらに容易に理解できる。しかしながら、本発明は、本明細書における説明以外の多様な形態で実施することもできる。したがって、本明細書で言及した実施形態のみに限定されることはない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
[第1実施形態:遺伝子及び組み換えタンパク質]
本発明に係る第1実施形態は、(A)配列番号:3で示される塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換、挿入、付加または欠損された塩基配列よりなるポリヌクレオチド;及び(B)配列番号:3で示される塩基配列と相補的な塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列よりなる遺伝子;からなる群より選択されるポリヌクレオチドであって、前記ポリヌクレオチドのコードするタンパク質は、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制するドメインの機能を欠くポリヌクレオチドに係る。また、好ましくは、前記ポリヌクレオチドのコードするタンパク質は、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制するドメインの機能を欠き、且つコリプレッサーとして働くドメインの機能を有するポリヌクレオチドに係る。
【0021】
また、本実施形態に係る組み換えタンパク質は、配列番号:4で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加または欠損されたアミノ酸配列からなり、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制するドメインの機能を欠く。好ましくは、本実施形態に係る組み換えタンパク質は、配列番号:4で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加または欠損されたアミノ酸配列からなり、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制するドメインの機能を欠き、且つコリプレッサーとして働くドメインの機能を有する。
【0022】
上記した、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制するドメインの機能を欠くタンパク質をコードする遺伝子とは、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を増大させることを助けるものである。
【0023】
上記のガラクトース代謝系遺伝子、すなわち、ガラクトースの代謝を促進する遺伝子としては、以下に限定されることはないが、例えば、GAL2、GAL1、GAL7、GAL10、GAL5(PGM1、PGM2)などが挙げられる。
【0024】
ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制する遺伝子としては、以下に限定されることはないが、例えば、TUP1(配列番号:3で示される塩基配列からなる)、GAL4、GAL3、GAL80、GAL6、MIG1、SSN6などが挙げられる。したがって、このようなガラクトース代謝を抑制する遺伝子を種々の方法により操作することによって、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を増大させることができる。例えば、ガラクトース代謝の抑制遺伝子から、活性部位の発現を抑制するドメインを欠損したり、変形する等の操作を通じて、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を増加させることができる。換言すれば、TUP1の組み換えタンパク質は、C末端抑制ドメインの少なくとも一部が欠ける(欠失または欠損する)ことによって、グルコース代謝系遺伝子の発現を阻害する活性を有しなくなる。これにより、ガラクトース代謝系遺伝子の発現が促進される結果がもたらされる。
【0025】
一例として、上記の抑制遺伝子は配列番号:4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(以下、「TUP1タンパク質」ともいう)をコードする、配列番号:3で示される塩基配列からなる遺伝子であり得る。
【0026】
図1は、配列番号:4で示されるアミノ酸配列を示した模式図である。図中、上側の数字はアミノ酸の配列番号を示し、下側の数字はTUP1タンパク質が有するドメインを示す。また、図中の点線は、かかる点線(第285番目のアミノ酸配列)からカルボキシル末端側(第389番目のアミノ酸配列)までのアミノ酸配列を欠損(または欠失)させることを示すものである。すなわち、TUP1タンパク質は、713個のアミノ酸からなり、そのアミノ末端側から順に、SSN6相互作用ドメイン1、アミノ末端抑制ドメイン2、及びカルボキシル末端抑制ドメイン3を有する。そして、SSN6相互作用ドメイン1は第1番目〜第72番目のアミノ酸配列からなり、アミノ末端抑制ドメイン2は第72番目〜第200番目のアミノ酸配列からなり、カルボキシル末端抑制ドメイン3は第288番目〜第389番目のアミノ酸配列からなる。各ドメインについては後述する。
【0027】
上記のTUP1タンパク質は、酵母内で一般的(非特異的)な抑制因子(リプレッサー)の役割を果たすことが知られており、併せてガラクトース代謝系遺伝子の抑制にも関与することが知られている。特に、サッカロマイセス セレビシエのTUP1タンパク質(Williams, F. E. et al., Mol. Cell. Biol. 10:6500-6511(1990))は、CYS8(SSN6)タンパク質と複合体(コリプレッサー)を形成するタンパク質として発見され、グルコース、酸素及びDNAの損傷により調節される遺伝子の転写抑制に必要なものと知られている(Tzamarias, D. et al., Genes Dev.9:821-831(1995))。かかるコリプレッサーを形成する際、TUP1タンパク質においてはSSN6相互作用ドメイン1が作用する。
【0028】
上記のTUP1タンパク質やCYS8(SSN6)タンパク質は、DNAと直接結合しない。しかし、α2、MIG1、ROX1及びA1のような特定のDNA結合タンパク質と相互作用しうる。このようにして、上記のTUP1タンパク質は、SSN6タンパク質と結合して抑制ドメインを形成し、上記したROX1等のDNA結合タンパク質に誘導されて、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を阻害することとなる。かかる阻害の機構について具体的に説明すると、ガラクトース代謝系遺伝子(例えば、ATF1遺伝子)の上流(5’側)プロモーターに結合し、かかるプロモーターの働きが阻害される。その結果、ATF1遺伝子の発現が有意に抑制される。このとき、TUP1タンパク質は、ROX1等のDNA結合タンパク質と結合し、ROX1タンパク質のプロモーターへの結合及びその後の阻害作用を促進する、コリプレッサーの構成要素として作用する(Tzamarias, D. et al., Genes Dev.9 : 821-831(1995) 等)。
【0029】
ここで、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制する機能を有する、TUP1等のタンパク質中のドメインが、少なくとも一部のアミノ酸配列を欠く場合、前記ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制できなくなることがある。上記した、少なくとも一部のアミノ酸配列を欠く場合とは、例えば、遺伝子発現を抑制するドメインの一部が欠失または欠損される等して短縮した(truncated)場合があり得る。以下、上記した遺伝子発現を抑制するのに重要なドメインの一部を欠いたタンパク質を、「短縮タンパク質」(truncated protein)とも称する。
【0030】
したがって、上記の短縮タンパク質をコードする遺伝子(ポリヌクレオチド)が過剰発現すると、ガラクトース代謝系遺伝子の発現抑制機構が正常に進まなくなるため、結果として、ガラクトース代謝系遺伝子の発現が増大しうる。
【0031】
本実施形態に係るタンパク質は、上記の遺伝子発現を抑制するドメインを全部欠いたタンパク質であってもよいし、一部のみを欠いたタンパク質であってもよい。また、本実施形態に係るタンパク質は、遺伝子発現を抑制するドメインが二つ以上存在する場合、一以上の任意のドメインについて少なくとも一部を欠いたタンパク質であればよく、特に制限されることはない。
【0032】
具体的にいえば、上記の遺伝子発現を抑制するドメインは、カルボキシル末端のリプレッサードメインであり得る。当該ドメインがカルボキシル末端(以下、「C末端」ともいう)である場合、たとえ当該ドメインが全部欠けたとしても、他のよりアミノ末端(以下、「N末端」ともいう)側に存在するドメインにはほとんど影響がないものと推測される。かかる原理の推測は、TUP1において実証した点(後述の実施例等において実証する)、及びタンパク質構造においてC末端側アミノ酸配列の短縮による影響が比較的小さい点に基づく。加えて、上述のように、かかるリプレッサードメインの短縮に起因して、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を増大させることができる。
【0033】
図2は、配列番号:2で示されるアミノ酸配列を示した模式図である。本図の見方は、上記の図1と同様であるため、説明を省略する。図2で示されるアミノ酸配列は、図1中の点線からカルボキシル末端までのアミノ酸配列を欠損(または欠失)させたものに相当する。すなわち、図2に示されるアミノ酸配列は、TUP1タンパク質のうちC末端抑制ドメインを完全に欠損したものに対応する。なお、図2に示したアミノ酸配列についてより正確にいえば、C末端抑制ドメインを含むC末端側のアミノ酸配列が切断されて全て欠いている。図2を見れば、TUP1の短縮タンパク質は、TUP1タンパク質(正常なタンパク質)中のドメインのうち、C末端抑制ドメイン3を欠くのみであって、SSN6相互作用ドメイン1及びN末端抑制ドメイン2は完全な形で正常に有している。したがって、配列番号:2で示されるTUP1の短縮タンパク質であっても、正常なSSN6相互作用ドメイン1を介して、SSN6タンパク質と相互作用することはできると考えられる。しかしながら、当該短縮タンパク質はC末端抑制ドメイン3を欠くため、コリプレッサーとしての機能は有しないと推測される。したがって、TUP1の短縮タンパク質がDNA結合タンパク質(ROX1等)と結合した場合であっても、ROX1等による、ガラクトース代謝系遺伝子の阻害作用を抑制ないし阻害することができると推測される。さらに、ROX1等はTUP1タンパク質以外の(コ)リプレッサーとも結合し得るが、TUP1の短縮タンパク質の作用に起因した、いわばROX1等の「無駄使い」によって、ガラクトース代謝系遺伝子の阻害作用を生体レベルで効果的に阻害することができるものと推測される。
【0034】
ここで、本明細書における「C末端ドメイン」とは、カルボキシル末端側のドメインであり、換言すれば、遺伝子の3’末端側に位置する塩基配列(二重鎖若しくは単一鎖)によってコードされたアミノ酸配列を意味する。
【0035】
上記の推測的な原理を実証する、TUP1遺伝子・タンパク質について、以下、詳細に説明する。本実施形態に係る遺伝子は、TUP1タンパク質中の遺伝子発現を抑制するC末端ドメインのうち、少なくとも一部を欠いたタンパク質をコードする遺伝子であり得る。換言すれば、本実施形態は、TUP1タンパク質からC末端抑制ドメイン(C末端側のドメインであってリプレッサーとして機能するドメイン)の少なくとも一部が欠けたTUP1の組み換えタンパク質を提供する。
【0036】
前記C末端ドメインは、一つのポリペプチドの最後のアミノ酸から1/3までの(ポリ)ペプチドを含む。前記タンパク質またはポリペプチドに対応する遺伝子(DNA)の3’末端は、ポリAテール(poly A tail)を含まない。
【0037】
ここで、本明細書における、タンパク質またはポリペプチドの「C末端ドメイン」とは、3個以上350個以下のアミノ酸長であり得る。以下に制限されないが、例えば、5個、10個、20個、25個、50個、100個または200個のアミノ酸を含み得る。
【0038】
上記のTUP1タンパク質のC末端側半分は、WD−40またはβ−トランスデューシン反復配列として知られた、アスパラギン酸及びトリプトファンの多い43個のアミノ酸配列からなる6つの反復配列を有する(Williams, F. E. et al., Mol. Cell. Biol. 10:6500-6511(1990); Fong, H.K. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:2162-2166(1986))。このようなWD−40の反復配列は多くのタンパク質で確認されており、タンパク質同士の相互作用に働く。
【0039】
したがって、上記のTUP1タンパク質を短縮したC末端の抑制ドメインはWD−40の反復配列を含みうる。
【0040】
本実施形態に係るポリヌクレオチドは、ガラクトース代謝系遺伝子(例えばATF1遺伝子)の発現を抑制するTUP1タンパク質のうち、第288番目〜第389番目のアミノ酸配列を欠いたタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり得る。前記「第288番目〜第389番目のアミノ酸配列」は、TUP1タンパク質中のC末端抑制ドメインに相当する。したがって、上記のポリヌクレオチドは、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制する、TUP1タンパク質中のC末端ドメインを完全に欠くタンパク質をコードするポリヌクレオチドである。
【0041】
さらに、配列番号:2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(以下、「組み換えタンパク質」ともいう)は、配列番号:4で示されるアミノ酸配列からなるTUP1タンパク質のうち第285番目〜第389番目のアミノ酸配列を欠いているため、TUP1タンパク質中のC末端ドメインを完全に欠くタンパク質に含まれる。そして、配列番号:1で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド(組み換えられたポリヌクレオチド)は、配列番号:2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドである。すなわち、上記のTUP1の組み換えタンパク質は、配列番号:1で示される塩基配列(ヌクレオチド配列)からなるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質であり得る。なお、本明細書では、以下、上記の第288番目〜第389番目のアミノ酸配列を欠いたタンパク質をコードするポリヌクレオチドを「短縮ポリヌクレオチド」(truncated polynucleotide)とも称する。
【0042】
ここで、配列番号:1で示される塩基配列(ヌクレオチド配列)からなるポリヌクレオチドは、(A)配列番号:3で示される塩基配列において複数個の塩基が欠失または欠損された塩基配列よりなるポリヌクレオチドに該当し、また、(B)配列番号:3で示される塩基配列と相補的な塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列よりなるポリヌクレオチドにも該当する。なぜなら、配列番号:3で示される塩基配列のうち、欠失または欠損された塩基配列以外の配列(より5’側の塩基配列)は、配列番号:1で示される塩基配列と同一であるためである。
【0043】
さらに、配列番号:2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制するドメインの機能を欠く。好ましくは、配列番号:2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制するドメインの機能を欠き、且つコリプレッサーとして働くドメインの機能を有する。上記のC末端抑制ドメインを完全に欠いたTUP1タンパク質は、配列番号:2で示されるアミノ酸配列からなり得る。すなわち、上記したTUP1の組み換えタンパク質は配列番号:2で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であり得る。より具体的にいえば、上記の短縮したTUP1タンパク質は、アミノ酸配列のうち、第285番目以降のアミノ酸が欠失または欠損されて、第1番目〜第284番目のアミノ酸配列を含むものであり得る。上記の配列番号:2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、そのN末端側に、SSN6タンパク質とともにコリプレッサーを形成する際に機能するドメイン(以下、「SSN6相互作用ドメイン」ともいう)を含む。また、配列番号:2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、第72番目〜第200番目のアミノ酸配列にN末端抑制ドメイン(N末端ドメインであってリプレッサーとして機能するドメイン)を含む。
【0044】
[第2実施形態:組み換えベクター及び組み換え微生物]
本発明の第2実施形態は、上記第1実施形態のポリヌクレオチドを含む組み換えベクターに係る。すなわち、上記第1実施形態で述べた遺伝子発現を抑制するドメインの少なくとも一部が欠けたTUP1タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組み換えベクターに関する。なお、以下において、上記第1実施形態で説明した事項を本実施形態で説明することは省略する。
【0045】
本明細書における「ベクター」とは、連結された核酸断片を運搬するのに利用可能な核酸分子を意味する。かかる利用可能なベクターとして、特に制限されることはないが、バクテリア、プラスミド、ファージ、コスミド、エピソーム、ウイルス及び挿入可能なDNA断片(すなわち、相同組み換えにより宿主細胞ゲノム内に挿入可能な断片)を含むことが好ましい。ここで、ベクターの一種である「プラスミド」とは、内部に追加的にDNA断片を連結されることができる環型の二重鎖DNAループを意味する。また、「ウイルスベクター」を用いれば、付加したDNAをウイルスゲノム内に連結させることができる。上記したベクターのなかでもより好ましくはプラスミドである。
【0046】
ここで、前記ベクターは、目的タンパク質をコードする連結されたポリヌクレオチドの発現を指示できるが、このようなベクターを特に、「発現ベクター」という。一般的に、組み換えDNA技術の利用において、発現ベクターはプラスミドの形態であるため、本明細書で「プラスミド」と記載している場合、「ベクター」と同義でありうる。しかし、ウイルスベクターのように同一の機能を果たす、プラスミド以外の形態の発現ベクターも含むことができることはいうまでもない。
【0047】
上記の発現ベクターは、酵母内で発現可能であり、遺伝子(ポリヌクレオチド)がベクター中に連結・挿入されるものである。このような発現ベクターの例としては、2ミクロン、pBM272、pBR322-6、pBR322-8、pCS19、pDW227、pDW229、pDW232、pEMBLYe23、pEMBLYe24、pEMBLYi21、pEMBLYi22、pEMBLYi32、pEMBLYr25、pFL2、pFL26、pFL34、pFL35、pFL36、pFL38、pFL39、pFL40、pFL44L、pFL44S、pFL45L、pFL45S、pFL46L、pFL46S、pFL59、pFL59+、pFL64-、pFL64+、pG6、pG63、pGAD10、pGAD424、pGBT9、pGKl2、pJRD171、pKD1、pNKY2003、pNKY3、pNN414、pON163、pON3、pPM668、pRAJ275、pRS200、pRS303、pRS304、pRS305、pRS306、pRS313、pRS314、pRS315、pRS316、pRS403、pRS404、pRS405、pRS406、pRS413、pRS414、pRS415、pRS416、pRS423、pRS424、pRS425、pRS426、pRSS56、pSG424、pSKS104、pSKS105、pSKS106、pSZ62、pSZ62、pUC-URA3、pUT332、pYAC2、pYAC3、pYAC4、pYAC5、pYAC55、pYACneo、pYAC-RC、pYES2、pYESHisA、pYESHisB、pYESHisC、pYEUra3、rpSE937、YCp50、YCpGAL0、YCpGAL1、YCplac111、YCplac22、YCplac33、YDp-H、YDp-K、YDp-L、YDp-U、YDp-W、YEp13、YEp213、YEp24、YEp351、YEp352、YEp353、YEp354、YEp355、YEp356、YEp356R、YEp357、YEp357R、YEp358、YEp358R、YEplac112、YEplac181、YEplac195、YIp30、YIp31、YIp351、YIp352、YIp353、YIp354、YIp355、YIp356、YIp356R、YIp357、YIp357R、YIp358、YIp358R、YIp5、YIplac128、YIplac204、YIplac211、YRp12、YRp17、YRp7、pAL19、paR3、pBG1、pDBlet、pDB248X、pEA500、pFL20、pIRT2、pIRT2U、pIRT2-CAN1、pJK148、pJK210、pON163、pNPT/ADE1-3、pSP1、pSP2、pSP3、pSP4、pUR18、pUR19、pZA57、pWH5、pART1、pCHY21、pEVP11、REP1、REP3、REP4、REP41、REP42、REP81、REP82、RIP、REP3X、REP4X、REP41X、REP81X、REP42X、REP82X、RIP3X/s、RIP4X/s、pYZ1N、pYZ41N、pYZ81N、pSLF101、pSLF102、pSLF104、pSM1/2、p2UG、pART1/N795、pYGTなどが挙げられるが、これに限定されるものではない(http://genome-www2.stanford.edu/vectordb/vector.html、及びhttp://pingu.salk.edu/~forsburg/vectors.html参照)。
【0048】
また、前記ベクターは、下記の開裂地図に示されたプラスミド(pRS424)であることが好ましい。
【0049】
【化1】

【0050】
上記のベクターは、宿主細胞内に導入されて、上記第1実施形態に係るポリヌクレオチドによりコードされたタンパク質(融合タンパク質を含む)またはペプチドを生産できる。所望により、上記のベクターは宿主生物体により認知されるプロモーターを備えてもよい。かようなプロモーターの配列は、原核生物、真核生物またはウイルス起源であり得る。酵母に適切なプロモーターとして、以下に制限されることはないが、GAPDH、PGK、ADH、PHO5、GAL1、GAL10などが挙げられる。
【0051】
上記のベクターは更なる調節配列を含むことができる。調節配列の例として、ファージMS−2のレプリカーゼ遺伝子のシャイン−ダルガノ配列及びバクテリオファージラムダのcIIのシャイン−ダルガノ配列が代表的なものとして挙げられる。このように、上記ポリヌクレオチドは、発現調節配列に作動可能なように連結されていることが好ましい。また、発現ベクターは形質転換された宿主細胞を選別するのに必要且つ適切なマーカーを含んでもよい。宿主における形質転換は、当業界において公知の多様な技術やSambrookの文献に記述されている技術を使用して行われ得る。
【0052】
[第3実施形態:第2実施形態の組み換えベクターを導入した組み換え微生物]
第3実施形態に係る組み換え微生物は、上記した第2実施形態の組み換えベクターを利用して形質転換されたものである。なお、以下において、上記第1実施形態及び第2実施形態で説明した事項を本実施形態で説明することは省略する。
【0053】
本実施形態に係る微生物は、バクテリア、カビまたは酵母であることが好ましく、各々の具体的な種や属については、当業界に公知のものであればいずれも使用され得る。なかでも、本発明に係るDNA(遺伝子)が酵母由来のものであることから、形質転換の容易性などを鑑みれば、前記微生物は酵母であることがより好ましい。
【0054】
前記酵母は、以下に制限されることはないが、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、パチソレン(Pachysolen)属、クラビスポラ(Clavispora)属、クリヴェロミセス(Kluyveromyces)属、デバリオミセス(Debaryomyces)属、シュワニオミセス(Schwanniomyces)属、カンジダ(Candida)属、ピキア(Pichia)属及びデッケラ(Dekkera)属からなる群より選ばれることが好ましく、サッカロマイセス(Saccharomyces)属から選ばれることがより好ましい。
【0055】
このような組み換え酵母菌株は、第1実施形態に係る組み換えタンパク質(TUP1の短縮タンパク質を含む)をコードするポリヌクレオチドの導入によって、TUP1等のタンパク質の本来有する抑制活性が阻害される。その結果、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制する機能が正常に働かない。これにより、ガラクトース代謝系遺伝子の発現が促進されるため、グルコース及びガラクトースの混合糖(混合物)、またはガラクトースを唯一の炭素源とする培地中で、ガラクトースを迅速にバイオアルコール(エタノール)に転換(代謝分解)することができる。したがって、このような組み換え酵母菌株を、ガラクトースを含む培地からバイオアルコールを生産する工程に用いると、バイオアルコール(エタノール)の生産性向上をもたらしうる。
【0056】
本実施形態の組み換え微生物としては、ガラクトースの資化率(代謝能)、すなわちバイオアルコールの生産性(例えば、エタノールの製造量)が、前記ポリヌクレオチドを過剰発現させずに前記組み換え微生物を培養する場合と比較して高いものであることが好ましく、30%以上増大させることができるものであることがより好ましく、50%以上増大させることができるものであることがさらに好ましい。
【0057】
本発明の他の実施形態として、微生物を上記の組み換えベクターで形質転換させることを含む、組み換え微生物の製造方法もまた、提供されうる。この際、
上述のように、本発明で用いられうる酵母の形質転換法は、一般的な形質転換手法であるため、当業者であれば容易に実施可能である。例えば、上記の組み換えベクターの酵母への形質転換過程は、公知の方法に従って実施され得る(Ito, H., Y. Fukuoka, K. Murata, A. Kimura (1983) Transformation of intact yeast cells treated with alkali cations, J. Bacteriol. 153, 163-168.)。
【0058】
例えば、異種遺伝子を含むベクターを、サッカロマイセス セレビシエ(S. cerevisiae) CEN.PK2-1Dに導入して形質転換するために、Yeast Spheroplast Transformation Kit(Bio 101, Vista、カリフォルニア州)を使用することができる。そして、形質転換株は、20g/lのグルコースを含むYSC(yeast synthetic complete)培地で培養できる。その後、ガラクトース代謝能(資化能)が向上した菌株を、4%ガラクトースを含むYSC培地で連続培養した後に、固体平板培地中で選別することができる。
【0059】
また、本実施形態に係る微生物は、受託番号KCTC 11387 BPの組み換え微生物を用いることが好ましい。かかる受託された組み換え微生物は、ガラクトースの資化能に優れた菌株として本発明者らが選別したものである。そして、大韓民国大田市儒城区に在る韓国生命工学研究院遺伝子銀行に、2008年9月4日付でサッカロマイセス セレビシエ CEN.PK2−1D/pRS424−トランケイティッドTUP1と命名して受託し、受託番号:KCTC 11387 BPが付与されたものである。
【0060】
[第4実施形態:バイオアルコールの製造方法]
第4実施形態に係るバイオアルコールの製造方法は、ガラクトースを含む炭素源を微生物に資化させることを含み、ガラクトースの資化性(資化能)を向上(増大)するために、上記第1実施形態に係るポリヌクレオチド若しくは組み換えタンパク質、上記第2実施形態に係る組み換えベクター、または上記第3実施形態に係る組み換え微生物を利用することを特徴とする。なお、以下において、上記の第1〜第3実施形態で説明した事項を本実施形態で説明することは省略する。
【0061】
本実施形態に係るバイオアルコールの製造方法においては、上記第1実施形態に係るポリヌクレオチドが過剰発現されることによって、バイオアルコールの生産性が増大し得る。
【0062】
本実施形態に係る製造方法は、短縮タンパク質(例えばTUP1短縮タンパク質)をコードするポリヌクレオチドによって、正常タンパク質(TUP1タンパク質)における遺伝子発現を抑制する活性が阻害される。そのため、ガラクトース代謝系遺伝子の発現を抑制する機能が正常に作動できない。したがって、ガラクトース代謝系遺伝子の発現が顕著に促進される。これにより、ガラクトースを含む炭素源からガラクトースを迅速にバイオアルコールへと転換(代謝分解)させることができる。
【0063】
上記のバイオアルコールの例として、エタノール、プロパノールもしくはブタノール等のアルコール、またはアセトンが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0064】
上記のガラクトースを含む炭素源は、ガラクトースを4%以上含むものであることが好ましい。より好ましい形態として、当該炭素源は、ガラクトースのみからなるか、またはガラクトース及びグルコースの混合糖からなりうる。後者の場合、混合比率は特に制限されることはないが、ガラクトースを40%以上含むことが好ましく、50%以上含むことがより好ましい。このような条件の培地中で、本実施形態に係る生産方法を実施した場合、バイオアルコールの生産性を有意に向上させることができる。
【0065】
本発明者等が遂行した実験によると、グルコース及びガラクトースの混合糖を炭素源とする培地、並びにガラクトースを唯一の炭素源とする培地で、それぞれ上記のTUP1の短縮ポリヌクレオチドの過剰発現によって、アルコールの生産性が、既存の酵母菌株に比べて有意に増大することを確認した。
【0066】
上記のガラクトースを含む炭素源(生物資源)は、海藻類バイオマスの加水分解物であり得る。
【0067】
上記の海藻類は、以下に制限されることはないが、紅藻類(例えば、ノリ(Porphyra yezoensis Ueda)、褐藻類(例えば、コンブ(Laminariaceae科の藻類)、ワカメ(Undaria pinnatifida)またはヒジキ(Hizikia fusiforme))及び緑藻類(例えば、アオノリ(Enteromorpha属)を含みうる。
【0068】
上記の紅藻類は、例えば天草(Gelidium amansii)、オゴノリ(Gracilaria verrucosa)、ウシケノリ(Bangia atropurpurea)、マルバアマノリ(Porphyra suborbiculata)、スサビノリ(Porphyra yezoensis)、ヒラガラガラ(Galaxaura falcate)、フサノリ(Scinaia japonica)、ヒメテングサ(Gelidium divaricatum)、オオブサ(Gelidium pacificum)、ヒライボ(Lithophylum okamurae)、クサノカキ(Lithothammion cystocarpideum)、カニノテ(Amphiroa anceps)、アンピロアベアヴォイシ(Amphiroa beauvoisii)、サンゴモ(Corallina officinalis)、ピリヒバ(Corallina pilulifera)、フサカニノテ(Marginisporum aberrans)、コメノリ(Carpopeltis prolifera)、ムカデノリ(Grateloupia filicina)、タンバノリ(Grateloupia elliptica)、フダラク(Grateloupia lanceolanta)、ツルツル(Grateloupia turtuturu)、キジノオ(Phacelocarpus japonicus)、フクロフノリ(Gloiopeltis furcata)、イバラノリ(Hypnea charoides)、カギイバラノリ(Hypnea japonica)、サイダイバラ(Hypnea saidana)、コンドロスクリスプス(Chondrus cripspus)、スギノリ(Chondracanthus tenellus)、カバノリ(Gracilaria textorii)、フシツナギ(Lomentaria catenata)、イソハギ(Heterosiphonia japonica)、ユナ(Chondria crassicaulis)、イソムラサキ(Symphyocladia latiuscula)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0069】
海藻類バイオマスを利用してバイオアルコールを製造する方法は特に制限されることはなく、当業界で公知の方法により行える。例えば、紅藻類バイオマスを利用する方法を見てみると、紅藻類を直接糖化させる直接糖化工程や、紅藻類から寒天または繊維素を抽出した後、得られた抽出物を糖化させてガラクトースまたはグルコースを得る間接糖化工程などが利用できる。上記の糖化工程は、ガラクトシダーゼ酵素などを利用した酵素加水分解法または酸加水分解用の触媒を使用する酸加水分解法などが使用され得るが、これに限定されることはない。その後、所定の微生物発酵を通してエタノール、ブタノールなどのアルコール、またはアセトンなどのバイオアルコールを製造することができる。
【0070】
このように、自然界に豊富に存在する海藻類バイオマスを利用してバイオ燃料を製造する場合、原料の受給が安定的で前処理工程を経る必要がないため、生産効率に大変優れている。
【0071】
本実施形態のバイオアルコールの製造方法は、上述した工程以外の従来公知の工程をさらに含んでもよい。かような追加の工程としては、例えば、製造されたエタノールなどのバイオアルコールを回収する工程が挙げられる。なお、バイオアルコールの回収手段は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0072】
[第5実施形態:酵母の原因遺伝子の選別方法]
第5実施形態に係る酵母の原因遺伝子の選別方法は、遺伝子を過剰発現させてガラクトースの資化能を増大させる方法であって、トリプトファン(trp)を含むマルチコピープラスミドを利用して酵母のゲノムDNAのライブラリーを構築する段階と、構築した前記ライブラリー中のゲノムDNAを酵母に形質転換させ、酵母の全遺伝子を過剰発現させて、形質転換酵母のライブラリーを製作する段階と、製作した前記ライブラリー中の形質転換酵母を、ガラクトースを唯一の炭素源として含む培地中で連続継代培養(Serial subculture)し、巨大コロニーを形成する、形質転換酵母を選別する段階と、選別した前記形質転換酵母からプラスミドを単離(回収)し、単離(回収)したプラスミドを導入した酵母の遺伝子配列を確認する段階とを含む。なお、以下において、上記の第1〜第4実施形態で説明した事項を本実施形態で説明することは省略する。
【0073】
図3は、本実施形態で使用可能な遺伝子の選別方法を模式的に示した図である。図3を参照することにより、本実施形態に係る遺伝子の選別方法の一例を具体的に理解することができる。
【0074】
上記の酵母は、サッカロマイセス セレビシエ CEN.PK2−1Dであり得、上記のマルチコピープラスミドはpRS424であり得る。
【0075】
上記酵母のゲノムDNAライブラリーの製造は、制限酵素などを利用してサッカロマイセス セレビシエ CEN.PK2−1DゲノムDNAを切断する段階と、切断されたDNA断片をマルチコピープラスミド(pRS424)に導入する段階と、製造されたプラスミドを大腸菌(E. coli)で増幅させる段階とからなり得る。
【0076】
上記の形質転換酵母ライブラリーの製造において、上記の酵母への形質転換は、一般的な方法(例えば、Ito, H., Y. Fukuoka, K. Murata, A. Kimura (1983) Transformation of intact yeast cells treated with alkali cations, J. Bacteriol. 153, 163-168.)によって行える。
【0077】
その後、連続継代培養を通して巨大コロニーを形成するガラクトースの資化能が増大した形質転換酵母を選別した後、巨大コロニーから単離した形質転換酵母からプラスミドに挿入された遺伝子配列を確認する。このとき、遺伝子配列の確認は、Gel documentation(gel doc)装置またはHydra装置などを利用して行える。
【0078】
また、本実施形態に係る遺伝子の選別方法は、下記の段階を更に含んでもよい。すなわち、酵母のゲノムの塩基配列、及びプラスミドに挿入した遺伝子の両末端に存在する所定の長さの遺伝子の塩基配列を比較し、挿入遺伝子の酵母ゲノム上での位置を追跡することにより、過剰発現した遺伝子を確認する段階、並びに/または、確認した前記遺伝子を含むプラスミドを酵母に再び形質転換し、ガラクトースの資化能の増大が前記遺伝子の過剰発現によるものであることを確認する段階である。
【0079】
上記の追加可能な段階により、選別された遺伝子を明らかにし、ガラクトースの資化能の増大が誘発したことを再び確認することができる。
【0080】
[第6実施形態:第5実施形態の選別方法により選別された遺伝子]
第6実施形態に係る遺伝子は、上記の第5実施形態に係る選別方法により選別された、過剰発現によってガラクトースの資化性を増大させるものである。また、本実施形態の遺伝子は、C末端抑制ドメインの少なくとも一部を欠いたTUP1の短縮タンパク質をコードする遺伝子であり得る。さらに、本実施形態の遺伝子は、C末端抑制ドメイン(第288番目〜第389番目)のアミノ酸配列を完全に欠いた、TUP1の短縮タンパク質をコードする遺伝子であり得る。なお、上記の第1〜第5実施形態で説明した事項を本実施形態で説明することは省略する。すなわち、かかる遺伝子は、配列番号:2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(TUP1の短縮タンパク質)をコードする、配列番号:1で示される塩基配列よりなるポリヌクレオチドであり得る。
【0081】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0082】
[製造例1]
TUP1タンパク質のうち第1番目〜第284番目のアミノ酸からなるTUP1の短縮タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むDNA(第3染色体の位置261594〜263396)を、マルチコピープラスミドpRS424(上記の化学式1参照)に挿入した。ここで、図4は、TUP1の短縮タンパク質のコードポリヌクレオチドを含む遺伝子地図を表す模式図である。換言すれば、図4に示したものは、pRS424に挿入した酵母の第3染色体の位置261594〜263396に相当するDNAである。なお、ゲノミックライブラリーを構築する際、pRS424を制限酵素(BamHI)で切断した後、Fill−in反応を通じて切断した両端を平滑末端(Blunt−end)とした。そして、単離(分離)したゲノムDNAを超音波処理(sonication)して断片化した後、上記のように調製しておいたpRS424とブラントエンドのライゲーションを行うことにより、pRS424に目的DNA(上記)を挿入した。
【0083】
続いて、上記により得られた目的ポリヌクレオチドを挿入したプラスミド(pRS424−トランケイティッドTUP1)を、サッカロマイセス セレビシエ CEN.PK2−1Dに導入して形質転換した。その際、Yeast Spheroplast Transformation Kit(Bio 101, Vista、カリフォルニア州)を使用し、形質転換株(サッカロマイセス セレビシエ CEN.PK2−1D/pRS424−トランケイティッドTUP1)は、炭素源として20g/lのグルコースを含み、YSC(yeast synthetic complete)培地で培養し、必要最小量のアミノ酸及びヌクレオチドを培地に供給した。
【0084】
[実施例1]
上記の製造例1で製作された形質転換株を利用して、初期の酵母接種量を約OD25とし、挿入ポリヌクレオチドの無いベクター(empty vector)を含む野生型株(コントロール)と、TUP1の短縮タンパク質が導入された形質転換株(以下、「TUP1短縮タンパク質形質転換株」ともいう)とを、炭素源として、2%グルコース及び2%ガラクトースの混合糖を含む最小培地で培養した。このようにして、双方の糖類の資化能(代謝利用率)、すなわちエタノールの生産性を比較し、その結果を図5、6及び下記の表1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
その結果、TUP1短縮タンパク質形質転換株の方が、コントロールの菌株と比較して、ガラクトースの資化能(発酵能)の点で有意に向上したことを確認した。特に、2%ガラクトースを資化(消失)するのにかかった時間(所要時間)については、TUP1短縮タンパク質形質転換株では10時間かかった。他方、野生型株(コントロール)では24時間もかかった。最終のエタノール生成濃度についても、TUP1短縮タンパク質形質転換株は18.9g/Lと比較的高い値を示した反面、野生型株(コントロール)は16.5g/Lであった。そして、エタノールの生産性は、表1より、TUP1短縮タンパク質形質転換株の方がコントロールよりも約2.75倍優れていることを確認した。
【0087】
[実施例2]
4%ガラクトースを唯一の炭素源とする最小培地で培養した以外は、実施例1と同様の方法で双方の糖類の資化能(代謝利用率)、すなわちエタノールの生産性を比較し、その結果を図7、8及び下記の表2に示した。
【0088】
【表2】

【0089】
その結果、TUP1短縮タンパク質形質転換株の方がコントロールの菌株と比較して、ガラクトースの資化能(発酵能)の点で有意に向上することを確認した。初発のガラクトース添加濃度(添加量)が双方同一であるにもかかわらず、TUP1短縮タンパク質形質転換株は14時間で4%ガラクトースを全て資化し、エタノール生成濃度は18.7g/Lであった。他方、コントロールの菌株では、26時間経過後のエタノール生成濃度が17.8g/Lであった。そして、エタノールの生産性(糖類の資化能)は、表2より、TUP1短縮タンパク質形質転換株の方がコントロールよりも約1.96倍優れていることを確認した。
【0090】
[実施例3]
10%ガラクトースを唯一の炭素源とする最小培地で培養した以外は、実施例1と同様の方法で双方の糖類の資化能(代謝利用率)、すなわちエタノールの生産性を比較し、その結果を図9、10及び下記の表3に示した。
【0091】
【表3】

【0092】
その結果、実施例3でもTUP1短縮タンパク質形質転換株の方がコントロールの菌株と比較して、ガラクトースの資化能(発酵能)の点で有意に向上することを確認した。初発のガラクトース添加濃度(添加量)が双方同一であるにもかかわらず、TUP1短縮タンパク質形質転換株は80時間の発酵後に5g/Lのガラクトースのみを資化しきれずに残し、38g/Lのエタノールを生産した。これに対し、コントロールの菌株は80時間の発酵後に23g/Lものガラクトースを資化しきれずに残し、たった25g/Lのエタノールしか生産できなかった。そして、エタノールの生産性(糖類の資化能)は、表3より、TUP1短縮タンパク質形質転換株の方がコントロールよりも約1.53倍優れていることを確認した。
【0093】
[実施例4]
2%グルコース及び2%ガラクトースの混合糖を含む最小培地1L中で、野生型株(コントロール)、上記のTUP1短縮タンパク質形質転換株、野生型のTUP1過剰発現株(overexpression)、及びTUP1をノックアウトした酵母(TUP1ノックアウト株)をそれぞれ培養して、各区分の糖類の資化能(代謝利用率)、すなわちエタノールの生産性を比較し、その結果を図11及び下記の表4に示した。なお、本実施例で使用した酵母は、いずれもサッカロマイセス セレビシエ CEN.PK2−1Dで同一である。
【0094】
【表4】

【0095】
その結果、炭素源として、ガラクトース及びグルコースが存在する場合、野生型のTUP1過剰発現株やTUP1ノックアウト株のエタノールの生産性は、野生型株(コントロール)と同等であることを確認した。これに対し、TUP1短縮タンパク質形質転換株は、24時間発酵後に、約16.5g/Lのエタノールを生産することができ、野生型株(コントロール)等と比較して約1.43倍と、エタノールの生産量を著しく向上することができることを見出した。
【0096】
この実施例4の驚くべき結果は、上述した、本発明に係る遺伝子及び組み換えタンパク質が関与する原理・メカニズムの推測を実証するものである。
【0097】
本発明の属する分野における通常の知識を有する者であれば、上記の内容に基づき、本発明の範囲内で多種多様な応用や変形を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 SSN6相互作用ドメイン、
2 アミノ末端抑制ドメイン、N末端抑制ドメイン、
3 カルボキシル末端抑制ドメイン、C末端抑制ドメイン。
【配列表フリーテキスト】
【0099】
配列番号:1
TUP1の短縮ポリヌクレオチド(truncated TUP1 polynucleotide)の塩基配列
配列番号:2
TUP1の短縮タンパク質(truncated TUP1 protein)のアミノ酸配列
配列番号:3
TUP1遺伝子(TUP1 gene)の塩基配列
配列番号:4
TUP1タンパク質(truncated TUP1 protein)のアミノ酸配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号:1で示されるヌクレオチド配列からなる、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号:2で示されるアミノ酸配列からなる、単離されたポリペプチド。
【請求項4】
請求項1または2に記載のポリヌクレオチドを含む、組み換えベクター。
【請求項5】
プラスミドである、請求項4に記載の組み換えベクター。
【請求項6】
前記プラスミドがpRS424を含む、請求項5に記載の組み換えベクター。
【請求項7】
前記ポリヌクレオチドが、発現調節配列に作動可能なように連結されている、請求項4〜6のいずれか1項に記載の組み換えベクター。
【請求項8】
請求項1もしくは2に記載のポリヌクレオチド、または請求項4〜7のいずれか1項に記載の組み換えベクターを含む、組み換え微生物。
【請求項9】
酵母である、請求項8に記載の組み換え微生物。
【請求項10】
前記酵母が、サッカロマイセス属、パチソレン属、クラビスポラ属、クリヴェロミセス属、デバリオミセス属、シュワニオミセス属、カンジダ属、ピキア属、及びデッケラ属から選択される、請求項9に記載の組み換え微生物。
【請求項11】
前記酵母が、サッカロマイセス セレビシエ CEN.PK2−1D/pRS424−トランケイティッドTUP1(受託番号KCTC 11387 BP)である、請求項10に記載の組み換え微生物。
【請求項12】
ガラクトースを含む炭素源からのエタノールの製造方法であって、
エタノールが製造されるように、前記炭素源中で請求項8〜11のいずれか1項に記載の組み換え微生物を培養することを含む、エタノールの製造方法。
【請求項13】
前記ポリヌクレオチドの過剰発現によってエタノールの製造を増加させる、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ポリヌクレオチドを過剰発現させずに前記組み換え微生物を培養する場合と比較して、エタノールの製造が30%以上増加する、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記炭素源が、ガラクトースのみからなる、またはグルコースとガラクトースとの混合物からなる、請求項12〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記炭素源が、4%以上のガラクトースを含有する、請求項12〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
エタノールを回収することをさらに含む、請求項12〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
微生物を請求項4〜7のいずれか1項に記載の組み換えベクターで形質転換させることを含む、組み換え微生物の製造方法。
【請求項19】
前記組み換え微生物によるガラクトース代謝能が、形質転換されていない前記微生物よりも高い、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
形質転換された前記微生物のガラクトースを炭素源として用いた培地からのエタノールの製造量が、形質転換されていない前記微生物よりも多い、請求項18または19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記微生物が、サッカロマイセス属、パチソレン属、クラビスポラ属、クリヴェロミセス属、デバリオミセス属、シュワニオミセス属、カンジダ属、ピキア属、及びデッケラ属から選択される酵母である、請求項18〜20のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項22】
前記酵母が、サッカロマイセス属の酵母である、請求項21に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−104359(P2010−104359A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110971(P2009−110971)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】