説明

ガラスの化学強化のための二段階イオン交換

ガラスを化学強化する方法である。この方法は、第1の浴中におけるイオン交換に続き第2の浴中に浸すことを含む。上記第1の浴は流出イオンで希釈される。上記第2の浴は上記第1の浴よりも低い流出イオン濃度を有する。この方法は、高信頼性を目指して十分に深い圧縮応力の層の深さを有しながら、ガラスの表面における力の接触によって傷が誘発されるのを阻止するのに十分な圧縮応力を上記表面に提供する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本願は、2008年7月29日付けで提出された米国仮特許出願第61/084,398号に優先権を主張した出願である。
【技術分野】
【0002】
本発明は、ガラスの化学強化に関するものである。特に本発明は、イオン交換法を用いてガラスを強化することに関するものである。さらに詳細には、本発明は多重イオン交換処理を含む処理に関するものである。
【背景技術】
【0003】
化学強化されたガラスは、携帯電話、メディアプレーヤ、およびその他のデバイス等の手動のデバイスのみでなく、透明性、高い強度および高い耐摩耗性を必要とするその他の用途に用いるために、近年認められて来た。
【0004】
イオン交換は、高温の溶融塩浴中において、より大きいイオン(交換イオン)と交換することができるより小さいイオン(流出イオン)を含有するガラスで始まる、すなわち、より大きいイオンがガラス中のより小さいイオンを交換する化学強化方法である。ガラスの表面上のより大きい、緻密に充填されたイオンは高い圧縮応力を生成させ、これが次にはより高い強度を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、イオン交換処理中に交換されてガラスから流出した、より小さい流出イオン(対イオン)によって、塩浴がだんだんと希釈される。塩浴中の対イオンの濃度は、塩浴中でイオン交換されたガラス部品の体積または数に比例して増加する。「新鮮な」未使用の塩浴は最高の圧縮強度を提供するのに対して、交換されてガラスから出て溶融塩浴中に入る、より小さいイオンの濃度はその後のイオン交換ごとに増大する。これとは反対に、上記浴中のより大きいイオンを提供する塩の濃度は減少する。同じ浴の使用を継続すると、完成品の圧縮応力は低下する。浴の希釈が進むと、イオン交換実施量に基づいて、またはイオン交換されたガラスの圧縮応力が最低許容値に達したときに、塩浴の少なくとも一部を交換することによって一般に補償される。このような慣行は、ガラスにおける最低圧縮応力を維持するのには適しているが、生産中の化学強化ガラスの圧縮応力に多大な変動性と絶え間ない周期的ばらつきを招来する。
【0006】
二段階イオン交換(DIOX)においては、ガラスが第1の「新鮮な」塩浴に浸され、続いて、希釈された流出イオン濃度を有する第2の塩浴に浸される。この方法は、ガラスの表面の圧縮応力を犠牲にする。このことは、手持ち型デバイスには許容できない。何故ならば、それでは、そのデバイスの通常の使用時に遭遇し得る接触力によって生じる表面傷からデバイスが防護されないからである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ガラスを化学強化する方法を提供するものである。この方法は、第1の浴中におけるガラスのイオン交換と、これに続く第2の浴中への浸漬とを含む。上記第1の浴は流出イオンで希釈され、上記第2の浴は、上記第1の浴よりも低い流出イオン濃度を有する。この方法は、高い信頼性を目指して十分に深い圧縮応力の層の深さを有しながら、ガラスの表面で接触力によって誘発される傷を阻止するのに十分な圧縮応力を上記表面に提供する。
【0008】
したがって、本発明の第1の態様は、ガラスを強化する方法を提供するものである。この方法は、上記ガラスの一表面から或る深さの層にまで広がる上記ガラスの外側領域に圧縮応力を発生させることを含み、この圧縮応力は、ガラス内部の傷を阻止し、かつ上記表面での接触力によってこの表面に傷が誘発されるのを阻止するのに十分なものである。上記圧縮応力は、以下の諸ステップ、すなわち、先ず上記外側領域内に複数の第1金属イオンを有するガラスを提供するステップ;次いでこのガラスの外側領域中の上記複数の第1金属イオンの第1の部分を第1の塩浴中において複数の第2金属イオンとイオン交換するステップであって、上記第1の塩浴は、第1の濃度の上記第1金属イオンで希釈されるものであるステップ;次いで上記ガラスの外側領域中の上記第1金属イオンの第2の部分を、第2の塩浴中の上記複数の第2金属イオンと交換するステップであって、上記第2の塩浴は、上記第1の濃度よりも低い第2の濃度の上記第1金属イオンを有するものであるステップによって発生せしめられる。
【0009】
本発明の第2の態様も、ガラスを強化する方法を提供するものである。この方法は、以下の諸ステップ、すなわち、ガラスを提供するステップであって、このガラスは複数の第1金属イオンを含み、これらのイオンのそれぞれは第1のイオン半径を有するものであるステップ;次いでこのガラスを第1のイオン交換浴中に浸すステップであって、この第1のイオン交換浴は、複数の第2金属イオンと第1の濃度の上記第1金属イオンとを含み、上記第2金属イオンのそれぞれが第2のイオン半径を有し、この第2のイオン半径は上記第1のイオン半径よりも大きいものであるステップ;および次いで上記ガラスを上記第1のイオン交換浴中に浸した後に第2のイオン交換浴中に浸すステップであって、この第2のイオン交換浴は、複数の第2金属イオンと第2の濃度の上記第1金属イオンとを含み、上記第2の濃度は上記第1の濃度よりも低く、上記ガラス中の上記複数の第1金属イオンの一部が上記第2金属イオンによって置換されて、上記ガラスの表面領域に圧縮応力を発生させるものであるステップを有してなる。
【0010】
本発明の第3の態様は、化学強化されたガラス物品中の圧縮応力の変動性を低減させる方法を提供するものである。この方法は、以下の諸ステップ、すなわち、ガラス物品を提供するステップであって、このガラスは複数の第1金属イオンを含み、これらのイオンのそれぞれは第1のイオン半径を有するものであるステップ;次いでこのガラス物品を第1のイオン交換浴中に浸すステップであって、この第1のイオン交換浴は、複数の第2金属イオンと第1の濃度の上記第1金属イオンとを含み、上記第2金属イオンのそれぞれが第2のイオン半径を有し、この第2のイオン半径は上記第1のイオン半径よりも大きいものであるステップ;および次いで上記ガラス物品を上記第1のイオン交換浴中に浸した後に第2のイオン交換浴中に浸すステップであって、この第2のイオン交換浴は、複数の第2金属イオンと第2の濃度の上記第1金属イオンとを含み、上記第2の濃度は上記第1の濃度よりも低いものであるステップを有してなる。上記ガラス中の上記複数の第1金属イオンの一部は上記第2金属イオンによって置換されて、所定の圧縮応力よりも大きい圧縮応力を上記ガラス物品の表面領域に発生させることによって、上記ガラス物品を強化する。
【0011】
本発明のこれらのおよびその他の態様、効果および顕著な特徴は、下記の詳細な説明、添付図面および添付の請求項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一次および二次のイオン交換塩浴のNaNOによる希釈度に対する圧縮応力を示すグラフである。
【図2】一次および二次のイオン交換塩浴のNaNOによる希釈度に対する破壊的4点曲げ表面応力測定値を示すグラフである。
【図3】一次および二次のイオン交換塩浴のNaNOによる希釈度に対するリング・オン・リング力負荷(ring on ring force loading)の結果を示すグラフである。
【図4】摩耗されたガラスアンプルに関する一次および二次のイオン交換塩浴のNaNOによる希釈度に対するリング・オン・リング力負荷の結果を示すグラフである。
【図5】一次および二次のイオン交換塩浴のNaNOによる希釈度に対するボールの落下高さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明において、全図を通じて、類似のまたは対応する要素には類似の参照符号で示してある。また、「上」、「下」、「外方」、「内方」等は、特に指示がない限り、便宜上の言葉であって、限定する言葉であると解釈すべきではないことを理解すべきである。さらに、一つの群が、要素の群の内の少なくとも一つおよびそれらの組合せを含むものとして記載されている場合はいつでも、その群は、個々の、または互いの組合せのいずれかの、列挙された如何なる数のこれらの要素を含んでいる、またはこれらの要素から実質的になる、またはこれらの要素のみからなるものであると理解される。同様に、一つの群が、要素の群の内の少なくとも一つまたはその組合せからなると記載されている場合はいつでも、その群は、個々の、または互いの組合せのいずれかの、列挙された如何なる数のこれらの要素からなるものであると理解される。特に指定のない限り、値の範囲が列挙された場合には、その範囲の上限および下限の双方を含む。
【0014】
一般に図面を参照すると、例図は本発明の特定の実施の形態の説明を目的とするためのものであって、本発明の限定を意図したものではない。図面は必ずしも同一縮尺ではなく、特徴部分および視る角度によっては誇張して、あるいは明快化および簡略化のために概略的に示されている。
【0015】
表面圧縮応力(以下、「CS」とも呼ぶ)およびCS層の深さ(以下、「層の深さ」または「DOL」とも呼ぶ)は、化学強化されたガラスの性能に影響を与える二つの要因である。圧縮応力とDOLとの組合せは、通常の仕上げ工程によって生成される人為的な結果である微小な傷の伝播を防止するのに必要である。CSは、先の鈍ったまたは尖ったものの衝撃等の接触する力による損傷に対する耐性を提供する。もし層の深さが適切であれば、圧縮強度は、化学強化されたガラスの強度および衝撃エネルギーに対する耐性に比例する。
【0016】
達成可能なCSを低下させ得る要因は、塩の対イオン濃度(溶融塩浴中の流出イオン濃度)、より高い処理温度、および適当なDOLを得るのに必要な長い処理時間を含む。処理時間および温度は制御可能であるのに対して、塩の対イオン濃度は、塩浴中においてイオン交換されるガラス部分の量または数に比例する。「新鮮な」塩(浴中に新たに導入された塩)が化学強化されたガラス内に最高のCSを提供する。しかしながら、ガラスからイオン交換されて溶融塩浴中に流入する、小さいイオンの濃度は、続く実施ごとに増大する。逆に、より大きいイオンを提供する塩の濃度は、各ガラス部分が浴中で強化されるごとに低下し、したがって、一定の温度および時間においてイオン交換処理が行なわれているのにも拘わらず、完成された製品のCSを低下させる。大量生産においては、あるガラス製品から次のものへと圧縮強度においてかなりの変動が観測される。
【0017】
ガラスを強化しかつガラス中の圧縮応力の変動を軽減するための二段階イオン交換(DIOX)法がここに提供されかつ説明されている。この方法は、生産現場における多数のガラス製品を化学強化する場合に、高いかつ安定した表面圧縮強度を維持することができる。この方法は、第1の、すなわち一次のイオン交換および第2の(二次の)イオン交換を含む。第1段階のイオン交換においては、ガラスが第1の溶融塩浴中で所望の層の深さ(DOL)に強化される。この第1の溶融塩浴は、流出する、すなわち交換可能な(言い換えれば、流出イオン、すなわちガラスから交換されて出て行く、より大きいイオンによって置換されるイオン)金属イオン(以下、イオンとも呼ばれる)で希釈される。例えば、もしNaイオンが流出イオンであれば、上記塩浴はNaイオンで希釈される。浴中における流出イオンの存在は、ガラス部品の圧縮応力を低下させる。しかしながら、追加のイオン交換を実施する度に、浴中の流出イオンの割合が著しく変わることはなく、したがって、圧縮応力は、希釈されていない塩浴に関する場合のように急速に劣化することはない。
【0018】
第2段階のイオン交換(一次のイオン交換に続く)においては、一次のイオン交換において強化されたガラスは、次いで第1段階浴よりもずっと低い(またはゼロ)流出イオン濃度を有する同じ交換イオンを含んだ第2段階の溶融塩浴中で化学強化されて、圧縮応力を所望のレベルまで回復する。適切な深さの圧縮応力層を得るのに必要なイオン交換の大半が第1段階において行われるので、第2段階においては交換の比較的わずかしか行われない。したがって、第2段階においては、塩の希釈率または希釈度が著しく低減される。
【0019】
ここに記載されている二段階イオン交換法は、一次段階浴における流出イオンの希釈度合が増大するにも拘わらず、最終的なガラス製品において一貫して高い圧縮応力を維持することができる。この方法ではまた、一次塩浴を、一次イオン交換後の圧縮応力がCS仕様の下限値よりも低い点まで用いることを可能にすることによって、より効率的な塩浴の利用もが期待される。さらに、この方法は、塩の交換に伴う機器の非稼働時間を最短にし、かつ優れた工程安定性、より高い圧縮応力値、より効率的な塩の利用、および製品の全体の高い機械的信頼性を提供するものである。
【0020】
一つの実施の形態において、ガラスはアルカリ・アルミノ珪酸塩ガラスである。一つの実施の形態において、このアルカリ・アルミノ珪酸塩ガラスは、60〜70モル%のSiO、6〜14モル%のAl、0〜15モル%のB、0〜15モル%のLiO、0〜20モル%のNaO、0〜10モル%のKO、0〜8モル%のMgO、0〜10モル%のCaO、0〜5モル%のZrO、0〜1モル%のSnO、0〜1モル%のCeO、50ppm未満のAs、および50ppm未満のSbを含み、または実質的に上記成分からなり、または上記成分からなり、この場合、12モル%≦LiO+NaO+KO≦20モル%でかつ0モル%≦MgO+CaO≦10モル%である。別の実施の形態において、アルカリ・アルミノ珪酸塩ガラスが、64モル%≦SiO≦68モル%、12モル%≦NaO≦16モル%、8モル%≦Al≦12モル%、0モル%≦B≦3モル%、2モル%≦KO≦5モル%、4モル%≦MgO≦6モル%、および0モル%≦CaO≦5モル%を含み、または実質的に上記成分からなり、または上記成分からなり、この場合、66モル%≦SiO+B+CaO≦69モル%、NaO+KO+B+MgO+CaO+SrO>10モル%、5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%、(NaO+B)−Al≦2モル%、2モル%≦NaO−Al≦6モル%、かつ4モル%≦(NaO+KO)−Al≦10モル%である。いくつかの実施の形態においては、上記アルカリ・アルミノ珪酸塩ガラスがリチウムを実質的に含有しないが、別の実施の形態においては、上記アルカリ・アルミノ珪酸塩ガラスが、ヒ素、アンチモン、およびバリウムのうちの少なくとも一つを実質的に含んでいない。他の実施の形態においては、上記アルカリ・アルミノ珪酸塩ガラスが、フュージョンドロー法、スロットドロー法およびリドロー法等の従来から知られている技術により下方へ牽引され得るが、これらに限定されない。
【0021】
一つの特定の実施の形態においては、上記アルカリ・アルミノ珪酸塩ガラスが下記の組成を有する。すなわち、66.7モル%のSiO、10.5モル%のAl、0.64モル%のB、13.8モル%のNaO、2.06モル%のKO、5.50モル%のMgO、0.46モル%のCaO、0.01モル%のZrO、0.34モル%のAs、および0.007モル%のFe。別の特定の実施の形態においては、上記アルカリ・アルミノ珪酸塩ガラスは下記の組成を有する。すなわち、66.4モル%の
SiO、10.3モル%のAl、0.60モル%のB、4.0モル%のNaO、2.10モル%のKO、5.76モル%のMgO、0.58モル%のCaO、0.01モル%のZrO、0.21モル%のSnO、および0.007モル%のFe
【0022】
実際には、一次および二次の塩浴が、所望量の流出塩および、ガラス中の流出塩と交換されるべき塩のイオンを添加することによって調製される。一つの実施の形態において、上記イオンはアルカリ金属イオン、すなわち、Li,Na,K,CsおよびRbである。浴中の、より大きいアルカリイオンは、ガラス中の、より小さいイオンを置換する。例えば、ガラス中のLiは、Na,K,CsおよびRbと置換され、ガラス中のNaは、K,CsまたはRbと置換され、以下同様である。一般に、ガラス中のアルカリ金属イオンは、次の最も大きいイオンと交換される。例えば、ガラス中のNaイオンは通常、浴中のKイオンと交換される。一次および二次のイオン交換浴の双方に関し、塩が溶解され、かつ一般に約380℃から約450℃までの範囲内の所定の温度に熱せられ、かつその浴は、所定の時間の間、その温度に保たれて安定化する。一つの実施の形態において、塩浴は約12時間その温度に保たれる。当業者であれば、他の温度および安定時間を用いてもよいことが理解されるであろう。
【0023】
一つの実施の形態において、「新鮮な」未使用塩が第1段階の塩浴として用いられる。その代わりに、すでに希釈された塩浴を第1段階の浴として用いてもよい。第2段階の塩浴を調製するためには新鮮な塩が用いられるのが好ましいが、代わりに、第1段階の塩浴よりもかなり低い塩希釈度を有する既使用の塩浴を用いてもよい。
【0024】
一次の塩浴中に浸す以前に、ガラスサンプルは予熱されて、熱衝撃および塩浴負荷(すなわち冷却)作用を防止する。予熱温度は、塩浴の温度に依存する。次にサンプルは一次塩浴中に浸され、第1の所定の温度において、所望の層の深さを得るのに十分な時間に亘り、一次イオン交換段階が実行され、所望の層の深さが得られた時点でガラスサンプルは一次の塩浴から取り除かれて冷やされる。ガラスサンプルを水で洗浄して、残留している乾いた塩を取り除き、かつ第2段階の塩浴の汚染を防止し、次いで乾かして残留湿気を取り除いてもよい。このガラスは、一次塩浴および二次塩浴にそれぞれ浸される間において、随意的にアニールされてもよい。
【0025】
二次のイオン交換浴に浸される以前に、ガラスサンプルは再び予熱される。二次のイオン交換段階は、一次段階のイオン交換において生成された圧縮応力を増大させまたは安定化するために、新鮮な(または一次段階よりもかなり低い希釈度の)塩を有する二次イオン交換塩浴中で実行される。上記サンプルは浴中に浸され、かつ第2の所定の温度において、所望の圧縮応力が得られるのに十分な時間に亘り、二次イオン交換段階が実行され。この時点において、ガラスサンプルは二次塩浴中から取り出され、かつ冷やされる。このガラスサンプルは、残留している乾いた塩を取り除きかつ二次段階浴の汚染を防止するために水で洗浄し、次いで乾かして、残留している湿気を取り除いてもよい。
【0026】
ここで説明されている化学強化処理から得られる圧縮応力は、例えば、表面圧縮応力を測定するオリハラFSM-6000光学式応力計等の非破壊試験、または4点曲げ試験、3点曲げ試験、リング・オン・リング試験、ボール落下試験等の破壊試験を用いて測定することが可能である。
【0027】
下記の実施例は、本発明の特徴おおび効果を示すものであるが、発明を限定するものではない。
【実施例】
【0028】
KNO塩浴を、0重量%、2.5重量%、5重量%、7.5重量%、および10重量%のNaNOで意図的に希釈して、大量生産状態における劣化塩浴組成をシミュレートした。アルカリ・アルミノ珪酸塩ガラスのサンプル群を、412℃において各希釈レベルにおいて270分間イオン交換した。次いで各サンプル群の一部を、新鮮なKNO塩を含む浴中で、その残部はNaNOを含む浴中で、410℃においt120分間イオン交換した。
【0029】
各サンプルに関する表面圧縮応力および層の深さは、イオン交換処理の直後にオリハラFSM-6000光学式応力計で測定した。4点曲げ試験、リング・オン・リング試験、およびボール落下試験を全サンプルに対し同時に実施して、測定変動性を最少にした。さらに、一部のサンプルは、重さ200gで、220番のサンドペーパを用いた摩耗によって「経年変化」させた。これらの「経年変化」されたサンプルは、「処女」(すなわち摩耗されていない)サンプルのみでなく、傷の存在を含む相対的性質を示す互いに関連する各条件からの結果もリング・オン・リング装置によって試験した。
【0030】
図1は、一次イオン交換塩浴(IOX)および二次イオン交換塩浴(DIOX)のNaNOによる希釈度に対する圧縮応力のグラフである。一次すなわち1回のイオン交換処理後のサンプルの圧縮応力は、NaNOの希釈度が約0から10重量%まで増大するのにつれて、710MPaから477MPaまで徐々に低下している。これらの部分が新鮮な塩を含む二次浴中でイオン交換された後には、平均圧縮応力は750MPaから765MPaまで回復し、これは新鮮なKNO浴での1回のイオン交換を経たサンプルに関して観測された圧縮応力に匹敵する。
【0031】
図2は、一次イオン交換塩浴(IOX)および二次イオン交換塩浴(DIOX)のNaNOによる希釈度に対する破壊的4点曲げ表面応力測定値のグラフである。一次すなわち1回のイオン交換処理後のサンプルの圧縮応力は、NaNOの希釈度が約0から10重量%まで増大するのにつれて、700MPaから520MPaまで徐々に低下している。これらの部分が新鮮な塩を含む二次浴中でイオン交換された後には、平均圧縮応力は700MPaから790MPaまで回復し、これは新鮮なKNO浴での1回のイオン交換を経たサンプルに関して観測された圧縮応力に匹敵する。図2に示された結果は、図1に示された圧縮応力の結果と相関する。新鮮な浴の二次段階イオン交換を経たこれらの部分は、一般的な大量生産において一般的な確実に増大するNaNO希釈度レベルを有する一回のみのイオン交換段階を経たものよりもかなり高い4点曲げ強度を有することをワイブル分布グラフが示している。
【0032】
図3は、一次イオン交換塩浴(IOX)および二次イオン交換塩浴(DIOX)のNaNOによる希釈度に対するリング・オン・リング力負荷のグラフである。1回のイオン交換処理後の力負荷は、NaNOの希釈度が約0から10重量%まで増大するのにつれて、1800Nから1320Nまで徐々に低下している。これらの部分が新鮮な塩を含む二次浴中でイオン交換された後には、平均力負荷が1900Nから2000Nまで回復し、これは新鮮なKNO浴での1回のイオン交換に匹敵する。図3に示された結果は、図1に示された圧縮応力の結果と相関する。新鮮な浴の二次段階イオン交換を経たこれらの部分は、一般的な大量生産において一般的な確実に増大するNaNO希釈度レベルを有する一回のみのイオン交換段階を経たものよりもかなり高いリング・オン・リング強度を有することをワイブル分布グラフが示している。
【0033】
図4は、上述のように摩耗された、すなわち「経年変化した」ガラスサンプルに関する一次イオン交換塩浴(IOX)および二次イオン交換塩浴(DIOX)のNaNOによる希釈度に対するリング・オン・リング力負荷のグラフである。1回のイオン交換処理後の力負荷は、NaNOの希釈度が約0から10重量%まで増大するのにつれて、1320Nから770Nまで徐々に低下している。これらの部分が新鮮な塩を含む二次浴中でイオン交換された後、摩耗されたサンプルの平均力負荷は1400Nから1700Nまで回復し、これは新鮮なKNO浴での1回のイオン交換に匹敵する。図4に示された結果は、図1に示された圧縮応力の結果と相関する。「処女」(摩耗されていない)サンプル(図3)に関して得られたリング・オン・リングの結果と比較した場合に「経年変化した」サンプルは、より低い力負荷およびより大きい力の広がりを示している。新鮮な浴の二次段階イオン交換を経た摩耗された部分は、一般的な大量生産において一般的な徐々に増大するNaNO希釈度レベルを有する一回のみのイオン交換段階を経たものよりもかなり高いリング・オン・リング強度を有することをワイブル分布グラフが示している。
【0034】
図5は、上述のように摩耗された、すなわち「経年変化した」ガラスサンプルに関する一次イオン交換塩浴(IOX)および二次イオン交換塩浴(DIOX)のNaNOによる希釈度に対するボール落下高さ試験のグラフである。1回のイオン交換処理後の平均ボール落下高さ、NaNOの希釈度が約0から10重量%まで増大するのにつれて、165cmから115cmまで徐々に低下している。これらの部分が新鮮な塩を含む二次浴中でイオン交換された後には、平均ボール落下高さは155cmから185まで回復し、これは新鮮なKNO浴での1回のイオン交換に匹敵する。図5に示された結果は、図1に示された圧縮応力の結果と相関する。新鮮な浴の二次段階イオン交換を経た摩耗された部分は、一般的な大量生産において一般的な徐々に増大するNaNO希釈度レベルを有する一回のみのイオン交換段階を経たものよりもかなり高いボール落下高さを有することをワイブル分布グラフが示している。
【0035】
以上、説明のために典型的な実施の形態が示されて来たが、上述の説明は、本発明の範囲を限定するものと見做してはならない。例えば、所望の圧縮応力レベルおよび輪郭を達成するために、さらなるイオン交換ステップを用いてもよい。銀等の他の金属イオンをアルカリ金属イオンの代わりにイオン交換処理に用いてもよい。さらに、他の化学強化処理、アニール、または焼き戻し等の他のガラス強化手段をイオン交換と組み合わせて用いてもよい。したがって、本発明の精神および範囲から離れることのない種々の変更、適応および代替が当業者の頭に浮かぶであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスの強化方法であって、該方法は、前記ガラスの外側領域に圧縮応力を発生させることを含み、前記領域は前記ガラスの一表面から或る深さの層にまで広がり、前記圧縮応力は、ガラス内部の傷を阻止し、かつ前記表面に接触する力によって該表面に傷が誘発されるのを阻止するのに十分なものであり、前記圧縮応力は、以下の諸ステップ、すなわち
a.ガラスを提供するステップであって、該ガラスは前記外側領域内に複数の第1金属イオンを有するものであるステップ、
b.該ガラス中の前記複数の第1金属イオンの第1の部分を、第1の塩浴中において複数の第2金属イオンとイオン交換するステップであって、前記第1の塩浴は、第1の濃度の前記第1金属イオンで希釈され、前記第1金属イオンおよび前記第2金属イオンの少なくとも一方がアルカリ金属のイオンであるステップ、および
c.前記ガラス中の前記複数の第1金属イオンの第2の部分を、第2の塩浴中の前記複数の第2金属イオンと交換するステップであって、前記第2の塩浴は、前記第1の濃度よりも低い第2の濃度の前記第1金属イオンを有するものであるステップ、
によって発生せしめられるものであことを特徴とする、ガラスの強化方法。
【請求項2】
前記第1金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、およびセシウムのうちの一つであり、かつ前記第2金属が、ナトリウム、カリウム、セシウム、およびルビジウムのうちの一つであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ガラスがアルカリ・アルミノ珪酸塩ガラスであることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ・アルミノ珪酸塩ガラスが、60〜70モル%のSiO、6〜14モル%のAl、0〜15モル%のB、0〜15モル%のLiO、0〜20モル%のNaO、0〜10モル%のKO、0〜8モル%のMgO、0〜10モル%のCaO、0〜5モル%のZrO、0〜1モル%のSnO、0〜1モル%のCeO、50ppm未満のAs、および50ppm未満のSbを含み、この場合、12モル%≦LiO+NaO+KO≦20モル%でかつ0モル%≦MgO+CaO≦10モル%であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記アルカリ・アルミノ珪酸塩ガラスがリチウムを実質的に含んでいないことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記ガラスが、少なくとも130キロポアズ(13キロパスカル・秒)の液相線粘度を有することを特徴とする請求項1から5の何れか1項記載の方法。
【請求項7】
前記ガラスが、平らなシートおよび三次元的な湾曲シートの何れかであることを特徴とする請求項1から6の何れか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ガラスが、電子装置のカバープレートおよびディスプレー・ウインドウの何れかであることを特徴とする請求項1から7の何れか1項記載の方法。
【請求項9】
前記ガラスが、約0.5mmから約5mmまでの範囲内の厚さを有することを特徴とする請求項1から8の何れか1項記載の方法。
【請求項10】
前記外側領域が少なくとも50μmの深さの層および少なくとも約200MPaの圧縮応力を有することを特徴とする請求項1から9の何れか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−529438(P2011−529438A)
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521107(P2011−521107)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/004225
【国際公開番号】WO2010/014163
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】