説明

ガラスの製造方法

【課題】ガラス表面に形成された変質層を容易に選択的に除去し、特に相分離ガラスの場合には全体に均一な孔径を持つ空孔を有する多孔質ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】シリカ、酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物を含有する混合物を溶融してガラス体を作成する工程と、前記ガラス体を加熱して相分離させて分相ガラス3を作成する工程と、前記分相ガラス3の表面に生成した変質層2に、多孔質支持体1に保持されたアルカリ性溶液を接触させて前記変質層2を除去する工程と、前記変質層2を除去した分相ガラス3を酸溶液に浸漬して前記分相ガラス3に空孔を形成する工程を有するガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多成分系酸化物ガラスの表面には、大気中の水蒸気や熱などによる影響でガラス内部の組成とは異なった層が出現しやすい。
その例として相分離現象を利用した多孔質ガラス材料がある。通常、成型されたホウケイ酸塩ガラスを高温下で長時間保持する熱処理により相分離現象を起こさせ、酸溶液によりエッチングで非シリカ相を溶出させて製造する。多孔質ガラスを構成する骨格は主にシリカである。相分離現象を利用した多孔質ガラス材料は、シリカ、酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物を原料としたホウケイ酸塩ガラスが一般的である。
【0003】
しかしながら、例えば非特許文献1でも示しているように、ガラスを高温で長時間保持すること(以下熱処理と言う)により誘起させる相分離現象、および相分離化の工程において、ガラス表面のホウ素等が一部抜けることにより組成ズレが発生し、ガラス表面に変質層が形成される。この変質層は後工程の酸溶液によるエッチングを阻害するなど問題となるため、変質層の除去が必要になる。
【0004】
例えば、特許文献1では、少なくとも10μmの最表面ガラスを研磨により除去する技術が開示されている。しかし、研磨による除去では、ガラスがある程度機械的な強度を有している必要があり、また研磨による表面の粗化や研磨剤の残存など、後工程を行う上で問題となる場合がある。
【0005】
また、特許文献1には、ホウケイ酸ガラスの最表面ガラス層がフッ化水素酸や水素二フッ化アンモニウムやアルカリ類のガラス腐食剤を用いた処理による化学的方法により、取り除かれることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、ガラス表面の変質層をアルカリ性水溶液で洗浄処理する化学的手法で、変質層を除去する方法が記載されている。
しかしながら、特許文献1、2には、変質層を選択的に除去する方法の開示はない。また、薄いガラスや、ガラス薄膜に変質層が形成された場合には、変質層のみの選択的除去は必須であり、新たな施策が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−297223号公報
【特許文献2】特開2003−073145号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】泉谷徹郎監修、“新しいガラスとその物性”、第2章、p.51、経営システム研究所、1987年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、ガラス表面に形成された変質層を容易に選択的に除去し、特に相分離ガラスの場合では、全体に均一な孔径を持つ空孔を有する多孔質ガラスの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するためのガラスの製造方法は、ホウケイ酸塩ガラスの表面に、多孔質支持体に保持されたアルカリ性溶液を接触させて変質層を除去する工程を有することを特徴とする。
【0011】
また、上記の課題を解決するためのガラスの製造方法は、シリカ、酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物を含有するガラス体を作成する工程と、前記ガラス体を加熱して相分離させて分相ガラスを作成する工程と、前記分相ガラスの表面に生成した変質層に、多孔質支持体に保持されたアルカリ性溶液を接触させて前記変質層を除去する工程と、前記変質層を除去した分相ガラスを酸溶液に浸漬して前記分相ガラスに空孔を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガラス表面に形成された変質層を容易に選択的に除去し、特に相分離ガラスでは全体に均一な孔径を持つ空孔を有するガラスの製造方法を提供することができる。
【0013】
さらに、研磨などの機械的な除去方法を用いないため、ガラスの機械的強度や形状も問題にならず、汎用的に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のガラスの製造方法の一実施形態を示す模式図である。
【図2】実施例1で作製したガラスの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図3】比較例1で作製したガラスの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図4】比較例2で作製したガラスの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明に係るガラスの製造方法は、ホウケイ酸塩ガラスの表面に、多孔質支持体に保持されたアルカリ性溶液を接触させて変質層を除去する工程を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るガラスの製造方法は、シリカ、酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物を含有する混合物を溶融してガラス体を作成する工程と、前記ガラス体を加熱して相分離させて分相ガラスを作成する工程と、前記分相ガラスの表面に生成した変質層に、多孔質支持体に保持されたアルカリ性溶液を接触させて前記変質層を除去する工程と、前記変質層を除去した分相ガラスを酸溶液に浸漬して前記分相ガラスに空孔を形成する工程を有することを特徴とする。
【0017】
本発明においては、ホウケイ酸ガラスはシリカ、酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物を含有する混合物を溶融してガラス体を作成し、場合によっては、その後表面加工する。相分離ガラスの場合は、前記ガラス体を加熱して相分離させて分相ガラスを作成する工程を含む。一般にホウケイ酸塩ガラスはシリカ(SiO)、酸化ホウ素(B)、アルカリ金属酸化物等の酸化物の重量比で表現される。主成分としてシリカ、酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物であり、他の金属酸化物として、例えば酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等が含有されていてもよい。
【0018】
相分離ガラスにおいては、ホウケイ酸ガラスの特定の組成において、前記ガラス体に更に熱を印加すると、時にシリカを主成分とするシリケート相と、酸化ホウ素かつアルカリ金属酸化物を主成分とする相に分離する相分離現象を起こす。相分離ホウケイ酸塩ガラス
としては、SiO(55から80重量%)−B−NaO−(Al)系ガラス、SiO(35から55重量%)−B−NaO系ガラス、SiO−B−CaO−NaO−Al系ガラス、SiO−B−NaO−RO(R:アルカリ土類金属,Zn)系ガラス、SiO−B−CaO−MgO−NaO−Al−TiO系ガラス(TiOは49.2モル%まで)などが挙げられる。
【0019】
本発明において用いるガラス体の好ましい主成分としての組成は、アルカリ金属酸化物は通常2重量%以上20重量%以下であり、特に3重量%以上15重量%以下であることが好ましい。
酸化ホウ素は通常10重量%以上55重量%以下であり、特に15重量%以上50重量%以下であることが好ましい。
酸化ケイ素は通常45重量%以上80重量%以下であり、特に55重量%以上75重量%以下であることが好ましい。
また、シリカ、酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物以外の金属酸化物の含有量は、通常15重量%以下であり、特に10重量%以下であることが好ましい。
【0020】
相分離ガラスの場合、相分離現象は一般的に500から700℃付近で数時間から数十時間の保持により発現し、温度や保持時間により、相分離の発現の様子、更に多孔質ガラスが得られる場合は空孔径や孔密度が変化する。
【0021】
ガラス全体に含有するシリカ、酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物の総量は相分離熱処理前後で同じであることが理想的である。しかし、ガラス表面付近の酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物の一部は大気中の水蒸気との反応または熱処理時の昇華で抜け、内部の均一な相分離形成とは別に、表面にシリカが主成分の変質層が形成される。
また、一般のホウケイ酸塩ガラスでも、表面研磨加工した場合、表面にシリカガラス層が形成される場合が多い。
【0022】
この表面の変質層の発生は走査型電子顕微鏡(SEM)などの観察手法、エックス線光電子分光分析(XPS)などの元素分析手法で確認でき、厚い場合でも数百ナノメートル程度である。
【0023】
ガラス表面に変質層が発生すると、相分離現象を起こした部分を固体シリカが覆っていることとなり、例えば、酸溶液による相分離ガラスの可溶層の溶出や多孔質化に悪影響が出る。
【0024】
相分離したホウケイ酸塩ガラスにおいて、主に酸化ホウ素かつナトリウムの酸化物より形成される層は酸溶液に対して可溶である。よって酸処理を施すことでこの可溶層が反応し、主にシリカより形成される層のみが骨格として残り、多孔質が形成される。表面に変質層が形成されていると、酸溶液が相分離を起こしたガラス内部に浸透していかず、また浸透しても可溶層の溶出が阻害される。これにより多孔質が得られない。
【0025】
変質層を除去する機械的な方法として例えば、機械的な表面研磨がある。しかし、研磨剤でガラス表面を摩擦させる際にガラスに応力がかかり、脆弱なガラスの場合は破損する可能性がある。また、研磨で取り除く量を微小にコントロールすることが難しく、相分離した均一なガラス層部分まで削ってしてしまう恐れがある。更に、研磨後のガラス表面へのクラックの発生や、研磨剤の残留が起こりうる。
【0026】
化学的な手法としてアルカリ性溶液を変質層が現われたガラス表面に反応させることにより変質層を除去することができる。これはガラス表面上で、アルカリ性溶液と、変質層
を主に形成している固体シリカとが反応するためである。
【0027】
アルカリ性溶液と変質層を反応させる際、例えば、アルカリ性溶液の浴へ変質層の発生した相分離ガラスを十分に浸漬させた場合、アルカリ性溶液が循環し、変質層の単位面積あたりと反応する液量が多くなる。そのために、変質層を壊すだけでなく、相分離した内部の骨格を形成する主にシリカにより形成される層も侵食し、壊してしまうことがある。変質層と反応する程度のアルカリ性溶液では、温度による反応性の変化が大きく、浸漬条件で変質層のみを選択的に除去することは非常に困難である。
【0028】
本発明においては、分相ガラスの表面に生成した変質層に、多孔質支持体に保持されたアルカリ性溶液を接触させて放置して前記変質層を除去する第一工程と、その後に前記変質層を除去した分相ガラスを酸溶液に浸漬して、前記分相ガラスに空孔を形成する第二工程を有するガラスのエッチング方法を用いることを特徴とする。
【0029】
図1は、本発明のガラスの製造方法の一実施形態を示す模式図である。図1では、分相ガラス3の表面に生成した変質層2に、アルカリ性溶液を含有する多孔質支持体1を接触させて放置して前記変質層を除去する方法を示す。第一工程において、有限量のアルカリ性溶液を多孔質支持体に保持させた上で変質層の形成されたガラス表面に接触させることにより、変質層の単位面積あたりと反応する液量が限定され、選択的に変質層を除去することができる。大きくとも多孔質支持体が数百ナノメートル程度の変質層に反応する液量を滞留させるのみで、反応の制御が可能となる。必要とするアルカリ性溶液も減少できる。また、必要に応じ、反応速度や表面での保持機能の調整とし、ガラス表層の処理温度を−5℃から90℃の範囲に設定することができる。
【0030】
本発明で用いられる多孔質支持体の孔径は、1mm以下であることが好ましい。また、多孔質支持体は、金属、天然繊維または合成繊維のいずれかであることが好ましい。
本発明で用いられるアルカリ性溶液とは、変質層を主に形成する固形のシリカと反応し、壊す性質の溶液であれば、アルカリ性溶液の種類などは限定されるものではない。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのアルカリ性溶液が好ましい。アルカリ性溶液のアルカリ濃度は10重量%以上40重量%以下、好ましくは20重量%以上30重量%以下が望ましい。
【0031】
本発明においてガラス表面にアルカリ性溶液層を滞留させる第一工程と、その後に前記ガラスを酸溶液に浸漬する第二工程を有することを特徴とする。第二工程において、第一工程で表面の変質層を除去した状態にあるガラスを、変質層に阻害されることなく、分相ガラスを酸溶液に浸漬する通常のエッチング法を用いて、分相ガラス中の非シリカリッチ相を選択的に溶出させることができる。酸溶液のエッチング液には塩酸、硫酸、燐酸、硝酸の水溶液が用いられ、浸漬させて非シリカリッチ相を溶かす。酸溶液の酸濃度は0.1mol/L以上5mol/L以下(0.1から5規定)、好ましくは0.5mol/L以上2mol/L以下(0.5から2規定)が望ましい。
【0032】
ガラス組成によって、シリカ空孔にシリカゲルが堆積する場合がある。必要であれば、酸性度が異なる酸溶液又は水を用い、多段階でエッチングする方法を用いることができる。エッチング温度とし、室温から95℃でエッチングを行うこともできる。また第一工程だけでなく第二工程を組み合わせることにより、第一工程で壊された変質層の残留物の表面への堆積を防ぐことができる。
【0033】
酸溶液による浸漬処理の後、多孔質ガラス中に付着した酸や溶出せずに残った可溶層を除去する目的で、水によるリンスを行うのが好ましい。
変質層が除去され、エッチングが完了して得られたガラスの多孔質構造はSEMなどの
観察手法、水銀圧入法などの空孔分布測定で確認できる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
(ガラスの製造例1から7)
本発明の実施例、比較例のために、酸化物換算で表1に示すような組成のガラスを製造例1から7として作成した。原料化合物としては、シリカ粉末(SiO)、酸化ホウ素(B)、炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化アルミニウム(Al)を用いた。それぞれ混合した粉末を白金るつぼ中に入れ、1500℃、24時間溶融し、その後、ガラスを1300℃に下げてから、グラファイトの型に流し込んだ。空気中で20分間冷却した後、得られたホウケイ酸ガラスのブロックを40mm×30mm×11mmとなるように切断加工し、鏡面まで両面研磨を行った。
【0035】
続いて加工済みのガラス体を電気炉にて分相処理を表2に示す条件でそれぞれ行い実施例、比較例用の製造例1から7のガラスを得た。
実施例1から6で使用したガラスは、製造例1から5、7に示すガラスである。
【0036】
(実施例1)
前記製造例1のガラスを用いて、ガラスのエッチングを行った。使用するサンプルは分相ガラスから2cm×2cmに切断して使用した。
【0037】
この分相ガラスの変質層の厚みはSEM観察により約200nmであるとわかった。またXPS測定により、分相ガラスの表面が断面に比べ、ホウ素、ナトリウムの存在量が少なく、ほぼシリコンで占められており、変質層の存在が確認された。
【0038】
変質層を取り除くアルカリによる第一工程の処理には、アルカリ性溶液として濃度が30重量%の水酸化カリウム水溶液を用いた。また使用した多孔質支持体の素材はレーヨンで空孔径は300nm、密度は60Kg/m、厚みは80μmであった。
【0039】
まず、多孔質支持体に水酸化カリウム水溶液を浸漬させ、十分に多孔質支持体内に浸透させた。水酸化カリウムを十分に含んだ多孔質支持体により、変質層が形成した前記分相ガラスの表面と、図1に示すように接触させた。大気中、室温にて2.5時間放置した。
【0040】
その後、第二工程の酸溶液への浸漬処理では、酸溶液に1mol/L(1規定)硝酸50gを用いた。ポリプロピレン製の容器に硝酸を入れ、予めオーブンで80℃に昇温した状態にして、その中へ第一工程の処理の終わったサンプルを白金ワイヤーで溶液内中心部に来るように吊るして入れた。ポリプロピレン容器に蓋をし、80℃に保ったまま、24時間放置した。酸溶液による処理が終わったガラスを80℃の水に入れてリンス処理を行った。
【0041】
SEMによる観察により、変質層が完全に除去され、且つ、多孔質骨格が侵食されることなく残り、サンプル全体で多孔質ガラスとなっていた。図2は、実施例1で作製した多孔質ガラスの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【0042】
(実施例2)
前記製造例2のガラスを用いて、実施例1と同様のエッチング実験を行った。変質層は100nmであった。実験後のガラスはSEMによる観察により、変質層が完全に除去され、且つ、多孔質骨格が侵食されることなく残り、サンプル全体で多孔質ガラスとなっていた。
【0043】
(実施例3)
前記製造例3のガラスを用いて、実施例1と同様の実験を行った。変質層は150nmであった。実験後のガラスはSEMによる観察により、変質層が完全に除去され、且つ、多孔質骨格が侵食されることなく残り、サンプル全体で多孔質ガラスとなっていた。
【0044】
(実施例4)
前記製造例3のガラスを用いて、実施例1と同様の実験を行った。変質層は100nmであった。実験後のガラスはSEMによる観察により、変質層が完全に除去され、且つ、多孔質骨格が侵食されることなく残り、サンプル全体で多孔質ガラスとなっていた。
【0045】
(実施例5)
前記製造例3のガラスを用いて、実施例1と同様の実験を行った。変質層は50nmであった。実験後のガラスはSEMによる観察により、変質層が完全に除去され、且つ、多孔質骨格が侵食されることなく残り、サンプル全体で多孔質ガラスとなっていた。
【0046】
(実施例6)
前記製造例7のガラスを用いた。このガラスをレーザー光に当てて確認したところ、分相は確認されなかった。実施例1と同様の実験を行った。変質層は50nmであった。実験後のガラスはSEMによる観察により、変質層が完全に除去されていた。
【0047】
(比較例1)
前記製造例1のガラスを1cm×1cmに切断して使用した。
変質層の存在するこの分相ガラスについて、多孔質支持体にアルカリ性溶液を含有させて処理する第一工程を行わず、酸溶液に浸漬させる第二工程を行った。酸溶液への浸漬処理では、酸溶液に1mol/L(1規定)硝酸50gを用いた。ポリプロピレン製の容器に硝酸を入れ、予めオーブンで80℃に昇温した状態にして、その中へサンプルを白金ワイヤーで溶液内中心部に来るように吊るして入れた。ポリプロピレン容器に蓋をし、80℃に保ったまま、24時間放置した。酸溶液による処理が終わったガラスを80℃の水に入れてリンス処理を行った。
【0048】
処理後のガラス表面には変質層が残っていることがSEM観察により確認された。また処理後のガラスを切断し、破断面からSEM観察すると変質層の残っている部分は分相ガラスの可溶層が残ったままであり、酸溶液による処理を妨げていることが確認された。図3は、比較例1で作製した多孔質ガラスの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【0049】
(比較例2)
前記製造例1のガラスを1cm×1cmに切断して使用した。
変質層の存在するこの分相ガラスについて、アルカリ性溶液に接触させる第一工程において、多孔質支持体を使用することなく、アルカリ性溶液浴へ浸漬させた。ここで使用するアルカリ性溶液は濃度が30重量%の水酸化カリウム水溶液である。50gのアルカリ性溶液をポリプロピレン容器に入れ、反応促進のため80℃に加熱した条件で分相ガラスを白金ワイヤーで溶液内の中心部に来るように吊るして入れた。1時間放置した後、第二工程として酸溶液による浸漬処理を行った。
【0050】
第二工程の酸溶液への浸漬処理では、酸溶液に1mol/L(1規定)硝酸50gを用いた。ポリプロピレン製の容器に硝酸を入れ、予めオーブンで80℃に昇温した状態にして、その中へ第一工程の処理の終わったサンプルを白金ワイヤーで溶液内中心部に来るように吊るして入れた。ポリプロピレン容器に蓋をし、80℃に保ったまま、24時間放置した。酸溶液による処理が終わったガラスを80℃の水に入れてリンス処理を行った。
処理後、ガラス表面をSEMで観察することにより、変質層が除去されている一方で多孔質部分の骨格もアルカリで侵食されていることがわかった。図4は、比較例2で作製した多孔質ガラスの表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【0051】
(比較例3)
前記製造例6のガラスを1cm×1cmに切断して使用し、比較例1と同様の実験を行った。
【0052】
処理後のガラス表面には、比較例1と同様に、変質層が残っていることがSEM観察により確認された。また処理後のガラスを切断し、破断面からSEM観察すると変質層の残っている部分は分相ガラスの可溶層が残ったままであり、酸溶液による処理を妨げていることが確認された。
【0053】
(比較例4)
前記製造例6のガラスを1cm×1cmに切断して使用し、比較例2と同様の実験を行った。
【0054】
処理後、ガラス表面をSEMで観察することにより、比較例2と同様に、変質層が除去されている一方で多孔質部分の骨格もアルカリで侵食されていることがわかった。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のガラスの製造方法は、ホウケイ酸塩ガラスにおける表面の変質層を選択的に除去することができ、多孔質ガラスの製造においては、相分離ホウケイ酸塩ガラスにおける表面の変質層を選択的に取り除き、相分離構造のシリカ骨格を壊さず、強いシリカ骨格を維持したまま、多孔質相分離シリカを製造できる。本発明は、通常のホウケイ酸塩ガラスの基板の洗浄・エッチングに利用でき、相分離ガラスにおいては、表面平滑さを維持しながら、多孔質化させることが出来、相分離ガラスを分離膜や光学材料とする分野に利用することが出来る。
【符号の説明】
【0059】
1 アルカリ性溶液を含有する多孔質支持体
2 変質層
3 分相ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウケイ酸塩ガラスの表面に、多孔質支持体に保持されたアルカリ性溶液を接触させて変質層を除去する工程を有することを特徴とするガラスの製造方法。
【請求項2】
シリカ、酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物を含有するガラス体を作成する工程と、前記ガラス体を加熱して相分離させて分相ガラスを作成する工程と、前記分相ガラスの表面に生成した変質層に、多孔質支持体に保持されたアルカリ性溶液を接触させて前記変質層を除去する工程と、前記変質層を除去した分相ガラスを酸溶液に浸漬して前記分相ガラスに空孔を形成する工程を有することを特徴とするガラスの製造方法。
【請求項3】
前記多孔質支持体の孔径が1mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のガラスの製造方法。
【請求項4】
前記多孔質支持体は、金属、天然繊維または合成繊維のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載のガラスの製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ性溶液のアルカリ濃度は10重量%以上40重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載のガラスの製造方法。
【請求項6】
前記酸溶液の酸濃度は0.1mol/L以上5mol/L以下であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかの項に記載のガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−251871(P2011−251871A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126328(P2010−126328)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】