説明

ガラスセラミック及びその製造方法

【課題】イオン伝導性向上に寄与する結晶の含有率が高く、かつ、Liの結晶の含有率が低いガラスセラミックを提供する。
【解決手段】リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含有するガラスセラミックであって、ガラスセラミックの固体31PNMRスペクトルが、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置に、結晶に起因するピークを有し、ガラスセラミックに占める前記結晶の比率(x)が50mol%〜100mol%であり、ガラスセラミックに占めるLiが10mol%以下であるガラスセラミック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミック及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、リチウムイオン二次電池に使用する固体電解質として好適なガラスセラミック及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられる高性能リチウム電池等二次電池の需要が増加している。
使用される用途が広がるのに伴い、二次電池の更なる安全性の向上及び高性能化が要求されている。
リチウム電池の安全性を確保する方法としては、有機溶媒電解質に代えて無機固体電解質を用いることが有効である。
【0003】
無機固体電解質としては、リチウム元素、リン元素及びイオウ元素を主成分とする硫化物系ガラスを熱処理したものが高いイオン伝導性を有することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、特許文献2には固体電解質として、構成成分として、リチウム(Li)、リン(P)及び硫黄(S)元素を含有し、X線回折(CuKα:λ=1.5418Å)において、2θ=17.8±0.3deg,18.2±0.3deg,19.8±0.3deg,21.8±0.3deg,23.8±0.3deg,25.9±0.3deg,29.5±0.3deg,30.0±0.3degに回折ピークを有するリチウムイオン伝導性硫化物系結晶化ガラスが開示されている。これらのX線回折ピークを示すものが特に高いイオン伝導性を示している。
【0005】
イオン伝導性の向上に有用な結晶の含有率を高めるには、熱処理の条件をより高温にすることなどが考えられる。しかしながら、この場合はイオン伝導性の向上に対して好ましくない結晶成分であるLiが生成するという問題があった。
【0006】
一般に、硫化物系固体電解質は、硫化リチウム(LiS)と、五硫化二燐(P)を出発原料とし、これらの混合物からメカニカルミリング法や溶融急冷法により硫化物ガラスを作製し、これを熱処理することで製造されている。
この製造方法では、高イオン伝導性結晶の含有率には限界があり、また、Liの結晶がかなりの含有率で存在していた。
そのため、Liの結晶の生成を抑制しつつ、イオン伝導性の向上に寄与する結晶の含有率を向上し、イオン伝導性を改善したガラスセラミックの開発が要求されていた。
【特許文献1】特開2002−109955号公報
【特許文献2】特開2005−228570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、高イオン伝導性結晶の含有率が高く、かつ、Liの結晶の含有率が低いガラスセラミックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、固体31PNMRスペクトルにおいて90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置にピークを与える結晶が多いとイオン伝導性が高まることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下のガラスセラミック及びその製造方法が提供できる。
1.リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含有するガラスセラミックであって、前記ガラスセラミックの固体31PNMRスペクトルが、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置に、結晶に起因するピークを有し、前記ガラスセラミックに占める前記結晶の比率(x)が50mol%〜100mol%であり、前記ガラスセラミックに占めるLiが10mol%以下であるガラスセラミック。
2.前記結晶の比率(x)が90mol%〜100mol%であり、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素の含有比が原子比で7:3:11であるガラスセラミック。
3.固体31PNMRスペクトルが、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置に、結晶に起因するピークを有する種結晶を含有する硫化物ガラスを熱処理する1又は2に記載のガラスセラミックの製造方法。
4.前記種結晶を含有する硫化物ガラスが、硫化物ガラスを予備熱処理したものである3に記載のガラスセラミックの製造方法。
5.前記種結晶を含有する硫化物ガラスが、硫化物ガラスの粉体にガラスセラミックの粉体を1〜50wt%配合した混合物である3に記載のガラスセラミックの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イオン伝導性の高いガラスセラミックが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のガラスセラミックは、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含有するものであって、下記(1)〜(3)の条件を満たすことを特徴とする。
(1)ガラスセラミックの固体31PNMRスペクトルが、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmに、結晶に起因するピークを有する。
(2)ガラスセラミックに占める(1)のピークを生じる結晶の比率(x)が50mol%〜100mol%である。
(3)ガラスセラミックに占めるLiが10mol%以下である。
【0011】
条件(1)の2つのピークは、高イオン伝導性結晶成分がガラスセラミックに存在する場合に観測されるものである。具体的には、結晶中のP4−あるいはPS3−に起因するピークである。
【0012】
条件(2)は、ガラスセラミック中に占める上記結晶の比率xを規定するものである。
ガラスセラミック中において高イオン伝導性の結晶成分が所定量以上、具体的には50mol%以上存在すると、リチウムイオンが高イオン伝導性の結晶を主に移動するようになる。従って、ガラスセラミック中の非結晶部分(ガラス部分)や、高イオン伝導性を示さない結晶格子(例えば、P4−)を移動する場合に比べて、リチウムイオン伝導度が向上する。比率xは65mol%〜100mol%であることが好ましい。さらに好ましくは、90mol%〜100mol%であり、特に好ましくは95mol%〜100mol%である。
上記結晶の比率xは、原料である硫化物ガラスの熱処理時間及び温度を調整することにより制御できる。
【0013】
条件(3)は、ガラスセラミック中においてイオン伝導性を低下する結晶成分、具体的には、Liの含有率を規定するものである。従来の硫化物系ガラスセラミックでは、上記条件(2)において上記ピークを生じる結晶の含有率を高めると、Liの結晶も生じるため、イオン伝導度の向上がLiの結晶により抑制されていた。
本発明では、Liの結晶の含有率を所定量以下、具体的には10mol%以下、好ましくは0〜5mol%に抑制しているため、ガラスセラミックのイオン伝導度が向上する。
【0014】
尚、各結晶の含有率の測定方法は、固体31P−NMRスペクトルについて、70〜120ppmに観測される共鳴線を、非線形最小二乗法を用いてガウス曲線に分離し、各曲線の面積比から算出する。固体31P−NMRスペクトルにおいて、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmのピークが、高イオン伝導性結晶に起因するピークであり、108.5±0.6ppmのピークが、Liの結晶に起因するピークである。詳細は特願2005−356889を参照すればよい。
また、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素の含有比が原子比で7:3:11であるガラスセラミックが好ましい。
【0015】
本発明のガラスセラミックは、例えば、リチウム(Li)、リン(P)及び硫黄(S)の各元素を含有し、さらに、種結晶を含有する硫化物系ガラスを熱処理することにより製造できる。
【0016】
硫化物ガラスの原料としては、例えば、LiS及びPが使用できる。
LiSは、特に制限なく工業的に入手可能なものが使用できるが、高純度のものが好ましい。例えば、非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを反応させて得たLiSを、有機溶媒を用い、100℃以上の温度で洗浄して精製したものが好ましく使用できる。
具体的には、特開平7−330312号公報に開示された製造方法で、LiSを製造することが好ましく、このLiSを国際公開WO2005/40039号の記載の方法で精製したものが好ましい。
【0017】
このLiSの製造方法は、簡易な手段によって高純度の硫化リチウムを得ることができるため、硫化物ガラスの原料コストを削減できる。また、上記の精製方法は、簡便な処理により、LiSに含まれる不純物である硫黄酸化物やN−メチルアミノ酪酸リチウム(以下、LMABという)等を除去できるため、経済的に有利である。
尚、LiSに含まれる硫黄酸化物の総量は、0.15質量%以下であることが好ましく、LMABは、0.1質量%以下であることが好ましい。
【0018】
は、工業的に製造され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。尚、Pに代えて、相当するモル比の単体リン(P)及び単体硫黄(S)を用いることもできる。単体リン(P)及び単体硫黄(S)は、工業的に生産され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。
【0019】
上記原料の混合比は、特に限定はなく適宜調整すればよいが、好ましくは、LiS:P=7:3(モル比)程度である。
【0020】
硫化物ガラスの製造方法としては、例えば、溶融急冷法やメカニカルミリング法(以下、MM法と示すことがある。)がある。
具体的には、溶融急冷法による場合、PとLiSを所定量乳鉢にて混合しペレット状にしたものを、カーボンコートした石英管中に入れ真空封入する。所定の反応温度で反応させた後、氷中に投入し急冷することにより、硫化物ガラスが得られる。
この際の反応温度は、好ましくは400℃〜1000℃、より好ましくは、800℃〜900℃である。
また、反応時間は、好ましくは0.1時間〜12時間、より好ましくは、1〜12時間である。
【0021】
また、MM法による場合、PとLiSを所定量乳鉢にて混合し、メカニカルミリング法にて所定時間反応させることにより、硫化物ガラスが得られる。
尚、MM法ではボールミルを使用するのが好ましい。具体的には、遊星型ボールミル機を使用するのが好ましい。遊星型ボールミルでは、ポットが自転回転しながら、台盤が公転回転するので、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる。
MM法の条件としては、例えば、遊星型ボールミル機を使用した場合、回転速度を数十〜数百回転/分とし、0.5時間〜100時間処理すればよい。
以上、溶融急冷法及びMM法による硫化物ガラスの具体例を説明したが、温度条件や処理時間等の製造条件は、使用設備等に合わせて適宜調整することができる。
【0022】
種結晶を含有する硫化物ガラスを製造する方法として、例えば、下記(1)及び(2)の方法がある。
【0023】
(1)上記の方法で製造した硫化物ガラスを、予備熱処理することにより種結晶を生成させる方法
この方法では、硫化物ガラスを予備熱処理することにより種結晶を生成させる。従来は、硫化物ガラスを熱処理してガラスセラミックを製造していたが、本方法では、ガラスセラミック化する熱処理(本熱処理という。)の前に、予め硫化物ガラスを予備熱処理し、これを本熱処理に供するものである。予備熱処理により、硫化物ガラス中に種結晶を生成できる。
予備熱処理における加熱温度は190℃〜280℃であり、好ましくは200℃〜260℃である。また、処理時間は10分〜10日であり、好ましくは30分〜10日である。
尚、予備熱処理後は、一度常温まで冷却してから本熱処理を行う。
【0024】
予備熱処理により得られる、種結晶を含有する硫化物ガラスにおいて、種結晶の存在は、固体31P−NMRスペクトルで確認できる。即ち、上述した90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置の、結晶に起因するピークにより確認できる。硫化物ガラスに占める種結晶の含有率は、1mol%〜50mol%であり、5mol%〜30mol%が好ましい。
【0025】
(2)硫化物ガラスの粉体に、ガラスセラミックの粉体を結晶部として1〜50wt%、好ましくは5〜30wt%となるように配合する方法
この方法は、原料である硫化物ガラス粉体に種結晶としてガラスセラミック粉体を所定量添加したものである。
添加するガラスセラミックは、硫化物ガラスを熱処理したものが使用できる。
熱処理時の加熱温度は、好ましくは190℃〜260℃が好ましい。また、処理時間は、好ましくは30分〜10日である。
【0026】
添加するガラスセラミックは、その固体31PNMRスペクトルが、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置に、結晶に起因するピークを有し、ガラスセラミックに占める結晶の比率(x)が20mol%〜100mol%であるものが好ましい。このようなガラスセラミックを添加することにより、得られるガラスセラミックに占める好ましい結晶の比率(x)をより高めることができる。
【0027】
続いて、上述した種結晶を含有する硫化物ガラスを所定の温度で熱処理(本熱処理)し、本発明のガラスセラミックを製造する。
ガラスセラミックを生成させる熱処理温度は、好ましくは260℃〜400℃、より好ましくは、300℃〜360℃である。
260℃より低いと高イオン伝導性の結晶が得られにくい場合があり、400℃より高いとイオン伝導性の低い結晶が生じる恐れがある。
熱処理時間は、260℃以上320℃以下の温度の場合は、30分〜5時間が好ましい。また、320℃より高く400℃以下の温度の場合は、0.1分〜30分が好ましい。
熱処理時間が短すぎると、高イオン伝導性の結晶が得られにくい場合があり、長すぎると、イオン伝導性の低い結晶が生じる恐れがある。
【0028】
本発明のガラスセラミックは、少なくとも10V以上の分解電圧を持ち、不燃性の無機固体である。また、リチウムイオン輸率が1であるという特性を保持しつつ、室温において10−3S/cm台という極めて高いリチウムイオン伝導性を示す。従って、リチウム電池の固体電解質用の材料として極めて適している。また、耐熱性の優れた固体電解質である。
【実施例】
【0029】
製造例1
(1)硫化リチウム(LiS)の製造
硫化リチウムは、特開平7−330312号公報の第1の態様(2工程法)の方法にしたがって製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。続いてこの反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した硫化水素の一部を脱硫化水素化した。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。脱硫化水素反応が終了後(約80分)反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0030】
(2)硫化リチウムの精製
上記(1)で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP 100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP 100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥した。得られた硫化リチウム中の不純物含有量を測定した。
【0031】
尚、亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)並びにチオ硫酸リチウム(Li)の各硫黄酸化物、及びN−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)の含有量は、イオンクロマトグラフ法により定量した。その結果、硫黄酸化物の総含有量は0.13質量%であり、LMABは0.07質量%であった。
【0032】
実施例1
(1)種結晶を含有する硫化物系ガラスの作製
(a)硫化物系ガラスの作製
上記製造例にて製造したLiSとP(アルドリッチ製)を出発原料に用いた。これらを70対30のモル比に調製した混合物(Li:P:S=7:3:11)を約1gと直径10mmのアルミナ製ボール10ケとを45mLのアルミナ製容器に入れ、遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P−7)にて、窒素中、室温(25℃)にて、回転速度を370rpmとし、20時間メカニカルミリング処理することで、白黄色の粉末である硫化物系ガラスを得た。
【0033】
得られた粉末について、粉末X線回折測定を行った(CuKα:λ=1.5418Å)結果、このチャートが、非晶質体特有のブロードな形を示していることから、この粉末が
ガラス化(非晶質化)していることが確認できた。
【0034】
(b)添加するガラスセラミック(種結晶)の作製
上記(a)で製造した硫化物系ガラスの一部を、220℃で10日間熱処理してガラスセラミックとした。
このガラスセラミックについて、固体31P−NMRスペクトルを測定し、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmのピークで観測される結晶の比率(x)を算出した。その結果、xは66mol%であった。
【0035】
尚、固体31P−NMRスペクトルの測定条件は下記のとおりである。
装置 :日本電子株式会社製 JNM−CMXP302NMR装置
観測核 :31
観測周波数:121.339MHz
測定温度 :室温
測定法 :MAS法
パルス系列:シングルパルス
90°パルス幅:4μs
マジック角回転の回転数:8600Hz
FID測定後、次のパルス印加までの待ち時間:100〜2000s
(最大のスピン−格子緩和時間の5倍以上になるよう設定)
積算回数 :64回
化学シフトは、外部基準として(NHHPO(化学シフト1.33ppm)を用い決定した。
試料充填時の空気中の水分による変質を防ぐため、乾燥窒素を連続的に流しているドライボックス中で密閉性の試料管に試料を充填した。
【0036】
また、結晶化度xは固体31PNMRスペクトルについて、70〜120ppmに観測される共鳴線を、非線形最小二乗法を用いてガウス曲線に分離し、各曲線の面積比から算出した。
【0037】
(c)混合工程
上記(a)で製造した硫化物系ガラス90wt%と、上記(b)で製造したガラスセラミック(種結晶)10wt%を混合した。この混合物をボールミルにて粉砕混合し、種結晶を含有する硫化物系ガラスとした。
【0038】
(2)熱処理工程
上記(1)の(c)で作製した種結晶を含有する硫化物系ガラスを300℃で2時間処理し、ガラスセラミックを作製した。
このガラスセラミックについて、固体31P−NMRスペクトルを測定し、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmのピークで観測される結晶の比率(x)を算出した。その結果、xは95mol%であった。また、Liの結晶の含有率(108.5±0.6ppmのピークから算出)は1mol%であった。
このガラスセラミックの粉末X線回折結果からJADE(ソフトウェア:MDI Inc.)により指数付けを行ったところ、三斜晶系のLi11結晶であることが確認された。
このガラスセラミックをペレット状に賦形し、イオン伝導度(25℃、以下同様)を測定したところ6×10−3S/cmであった。
【0039】
実施例2
(1)種結晶を含有する硫化物系ガラスの製造
実施例1の(1)(a)で製造した硫化物系ガラスを200℃で2時間の条件で予備熱処理を行い、種結晶を含有する硫化物系ガラスを得た。
この種結晶含有硫化物系ガラスについて、固体31P−NMRスペクトルを測定し、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmのピークで観測される結晶の比率(x)を算出した。その結果、xは10mol%であった。
【0040】
(2)熱処理工程
上記(1)で作製した種結晶含有硫化物系ガラスを300℃で2時間処理し、ガラスセラミックを作製した。
このガラスセラミックについて、固体31P−NMRスペクトルを測定し、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmのピークで観測される結晶の比率(x)を算出した。その結果、xは95mol%であった。また、Liの含有率(108.5±0.6ppmのピークから算出)は1mol%であった。
このガラスセラミックの粉末X線回折結果からJADE(ソフトウェア:MDI Inc.)により指数付けを行ったところ、三斜晶系のLi11結晶であることが確認された。
このガラスセラミックをペレット状に賦形し、イオン伝導度を測定したところ6×10−3S/cmであった。
【0041】
比較例1
実施例1の(1)(a)で製造した硫化物系ガラスを200℃で3時間熱処理してガラスセラミックを作製した。
このガラスセラミックについて、固体31P−NMRスペクトルを測定し、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmのピークで観測される結晶の比率(x)を算出した。その結果、xは45mol%であった。また、Liの含有率(108.5±0.6ppmのピークから算出)は0mol%であった。
このガラスセラミックをペレット状に賦形し、イオン伝導度を測定したところ6×10−4S/cmであった。
【0042】
比較例2
熱処理の条件を340℃で40分とした他は、比較例1と同様にしてガラスセラミックを製造した。
このガラスセラミックについて、固体31P−NMRスペクトルを測定し、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmのピークで観測される結晶の比率(x)を算出した。その結果、xは60mol%であった。また、Liの含有率(108.5±0.6ppmのピークから算出)は15mol%であった。
このガラスセラミックをペレット状に賦形し、イオン伝導度を測定したところ7×10−4S/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のガラスセラミックは、リチウム二次電池用固体電解質に適している。
また、本発明のガラスセラミックを使用した全固体リチウム電池は、携帯情報末端、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等で使用するリチウム二次電池として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含有するガラスセラミックであって、
前記ガラスセラミックの固体31PNMRスペクトルが、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置に、結晶に起因するピークを有し、
前記ガラスセラミックに占める前記結晶の比率(x)が50mol%〜100mol%であり、
前記ガラスセラミックに占めるLiが10mol%以下であるガラスセラミック。
【請求項2】
前記結晶の比率(x)が90mol%〜100mol%であり、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素の含有比が原子比で7:3:11であるガラスセラミック。
【請求項3】
固体31PNMRスペクトルが、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置に、結晶に起因するピークを有する種結晶を含有する硫化物ガラスを熱処理する請求項1又は2に記載のガラスセラミックの製造方法。
【請求項4】
前記種結晶を含有する硫化物ガラスが、硫化物ガラスを予備熱処理したものである請求項3に記載のガラスセラミックの製造方法。
【請求項5】
前記種結晶を含有する硫化物ガラスが、硫化物ガラスの粉体にガラスセラミックの粉体を1〜50wt%配合した混合物である請求項3に記載のガラスセラミックの製造方法。

【公開番号】特開2008−120666(P2008−120666A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71963(P2007−71963)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】