説明

ガラスセラミック誘電体材料、焼結体及び高周波用回路部材

【課題】 1000℃以下の温度で焼成でき、しかも、曲げ強度が高く、0.1GHz以上の高周波領域において、共振周波数が温度によって変化しにくく、低い誘電損失を有する焼結体及び高周波用回路部材を得ることが可能なガラスセラミック誘電体材料を提供することである。
【解決手段】 本発明のガラスセラミック誘電体材料は、質量百分率で、ガラス粉末 50〜100%、セラミックフィラー粉末 0〜50%からなるガラスセラミック誘電体材料において、該ガラス粉末が、ガラス組成中にTiO 3〜25mol%、SiO 50〜70mol%、Al 4〜15mol%、CaO 15〜35mol%、B 0〜10mol%含有し、焼成すると、ルチルおよびアノーサイトを析出する性質を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミック誘電体材料、焼結体及び高周波用回路部材に関するものであり、特に、高周波用回路部品に用いられるガラスセラミック誘電体材料、焼結体及び高周波用回路部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等が高密度実装されるセラミック基板材料等の回路部品材料として、アルミナセラミック材料や、ガラス粉末とセラミックフィラー粉末からなるガラスセラミック材料が知られている。特に、ガラスセラミック材料は、1000℃以下の温度で焼成することができるため、導体抵抗の低いAg、Cu等の低融点の金属材料と同時焼成することができるという長所がある。
【0003】
ところで、自動車電話やパーソナル無線に代表される移動体通信機器、衛星放送、衛星通信、CATV等に代表されるニューメディア機器に使用される高周波用回路部品材料には、0.1GHz以上の高周波領域における誘電損失が低いことが要求される。
【0004】
また、高周波用回路部品用途では、部品自身が共振器として機能することを求められる場合があり、その場合は、0.1GHz以上の高周波領域において、共振周波数が温度によって変化しないという温度安定性が求められる。
【0005】
一般に、ガラスは、負の共振周波数の温度係数を有しているため、共振周波数の温度安定性を高めるには、正の共振周波数の温度係数を有するセラミックフィラー粉末とを組合わせて、共振周波数の温度係数をゼロに近づければよい。
【0006】
そこで、特許文献1には、ガラス粉末に、セラミックフィラー粉末として、正の共振周波数の温度係数を有するTiO粉末を組み合わせて、共振周波数の温度係数(以下、τfと言う)をゼロに近づけたガラスセラミック材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−82297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で開示されているガラスセラミック材料は、セラミックフィラー粉末に強度が低いTiOを用いているため、強度を向上させるアルミナ粉末と併用しても、十分な曲げ強度が得られず、衝撃によって部材が破損するという問題があった。特に、携帯性の高い通信機器は、使用時の不注意により、落下の可能性が高く、高い曲げ強度を有することが強く求められている。
【0009】
本発明の目的は、1000℃以下の温度で焼成でき、しかも、曲げ強度が高く、0.1GHz以上の高周波領域において、共振周波数が温度によって変化しにくく、低い誘電損失を有する焼結体及び高周波用回路部材を得ることが可能なガラスセラミック誘電体材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は種々の実験を行った結果、焼成時にガラス中よりルチルを析出させることにより、高い曲げ強度が得られると同時にτfがゼロに近づくことを見いだし、本発明として提案するものである。
【0011】
即ち、本発明のガラスセラミック誘電体材料は、質量百分率で、ガラス粉末 50〜100%、セラミックフィラー粉末 0〜50%からなるガラスセラミック誘電体材料において、該ガラス粉末が、ガラス組成中にTiO 3〜25mol%、SiO 50〜70mol%、Al 4〜15mol%、CaO 15〜35mol%、B 0〜10mol%含有し、焼成すると、ルチルおよびアノーサイトを析出する性質を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の焼結体は、上記ガラスセラミック誘電体材料を焼結させてなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の高周波回路部材は、焼結体からなる誘電体層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のガラスセラミック誘電体材料は、曲げ強度が高く、0.1GHz以上の高周波領域において、低い誘電損失とゼロに近いτfを有する焼結体及び高周波用回路部材を得ることができる。さらに、1000℃以下の低い温度で焼成することが可能であり、Ag、Cu等の低融点の金属材料を導体として使用することができる。それ故、高周波用回路部品用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のガラスセラミック誘電体材料は、焼成すると、ガラスからルチルが析出し、ガラス相中に微細なルチル結晶が均質に分散したガラスセラミック焼結体となる。
【0016】
ルチルが均質に分散した構造をとるため、高い曲げ強度を有する。また、ルチルの析出量を調整することで、測定周波数が15GHz、測定温度範囲が−20〜60℃におけるτfを0±10ppm/℃に調整することが可能となる。尚、ルチルの析出量は、ガラス中のTiOの含有量で調整することができる。析出量を増やしたい場合には、TiOの含有量を多くすれば良い。
【0017】
ガラスセラミック誘電体材料を焼成した際に、ルチルを析出させるには、ガラス中に、TiOを3〜25mol%含有させる必要がある。TiOの含有量が3mol%より少なくなると、ルチルが析出し難くなるか、析出しても析出量が少ないため、高い曲げ強度や所望のτfを得難くなる。一方、25mol%より多くなると、ガラス化し難くなる。
【0018】
尚、TiOを含有させることでルチルが析出するガラスとしては、例えば、ディオプサイド系(SiO−MgO−CaO系)ガラス、アノーサイト系(SiO−Al−CaO系)ガラス、ホウケイ酸系(SiO−B−RO系、Rはアルカリ金属を示す)ガラスがあり、何れについても良好に使用できる。ガラス組成系によって、τfが異なるが、選択したガラス組成系に合わせて、TiOの含有量を調整することで、τfを0±10ppm/℃に調整することが可能となる。
【0019】
ディオプサイド系ガラスの場合、τfが−60〜−50ppm/℃となるので、TiOの含有量は15〜25molであることが望ましい。また、ディオプサイド系ガラスの好適な例としては、mol%で、SiO 35〜65%、MgO 15〜35%、CaO 15〜35%の組成を含有するガラスが挙げられる。
【0020】
アノーサイト系ガラスの場合、τfが−50〜−30ppm/℃となるので、TiOの含有量は10〜20molであることが望ましい。また、アノーサイト系ガラスの好適な例としては、mol%でSiO 50〜70%、Al 4〜15%、CaO 15〜35%、B 0〜10%の組成を含有するガラスが挙げられる。
【0021】
ホウケイ酸系ガラスの場合、τfが−30〜−15ppm/℃となるので、TiOの含有量は3〜10molであることが望ましい。ホウケイ酸系ガラスの好適な例としては、mol%でSiO 50〜80%、B 15〜35%、RO 0〜15%の組成を含有するガラスが挙げられる。
【0022】
本発明のガラスセラミック誘電体材料は、上記組成を基本とするガラス粉末のみで構成されてもよいが、得られる焼結体の曲げ強度等を更に向上させる目的でセラミックフィラー粉末と混合してもよい。この場合、セラミックフィラー粉末の混合量は50質量%以下(好ましくは20〜45質量%)であることが好ましい。セラミックフィラー粉末の割合をこのように限定した理由は、セラミックフィラー粉末が50%より多いと緻密化しなくなるためである。
【0023】
セラミックフィラー粉末としては、0.1GHz以上の高周波領域での比誘電率16以下、誘電損失が0.0010以下であるセラミックフィラー粉末を用いることが好ましく、例えば、ムライト、ジルコニア、窒化アルミニウム、チタニア、α−石英、α−クリストバライト、β−トリジマイト、α−アルミナ等を使用することができる。尚、高周波領域での比誘電率や誘電損失の高いセラミックフィラー粉末を使用すると、焼成した際に得られる焼結体の誘電損失が高くなり易く好ましくない。
【0024】
次に上記した本発明のガラスセラミック誘電体材料を用いた回路部品の製造方法を述べる。
【0025】
まず、上記のガラス粉末、或いはガラス粉末とセラミックフィラー粉末の混合粉末に、所定量の結合剤、可塑剤及び溶剤を添加してスラリーを調製する。結合剤としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、メタアクリル酸樹脂等、可塑剤としては、例えば、フタル酸ジブチル等、溶剤としては、例えば、トルエン、メチルエチルケトン等を使用することができる。
【0026】
次いで、上記のスラリーを、ドクターブレード法によってグリーンシートに成形する。その後、このグリーンシートを乾燥させ、所定寸法に切断してから、機械的加工を施してバイアホールを形成し、例えば、導体や電極となる低抵抗金属材料をスルーホール及びグリーンシート表面に印刷する。次いでこのようなグリーンシートの複数枚を積層し、熱圧着によって一体化する。
【0027】
さらに、積層グリーンシートを、焼成することによって焼結体を得る。このようにして作製された焼結体は、内部や表面に導体や電極を備えている。尚、焼成温度は1000℃以下、特に、800〜950℃の温度であることが望ましい。
【0028】
尚、焼結体の製造方法として、グリーンシートを用いる例を挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、一般にセラミックの製造に用いられる各種の方法を適用することが可能である。
【0029】
さらに、上記のようにして作製した焼結体表面上にSi系やGaAs系の半導体素子のチップを接続することで高周波用回路部品を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
【0031】
表1は、本発明の実施例(試料No.3)、参考例(試料No.1、2、4)を、表2は比較例(試料No.5〜7)をそれぞれ示している。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
各試料は次のようにして調製した。
【0035】
まず、表に示す組成となるようにガラス原料を調合した後、白金坩堝に入れて1400〜1550℃で3時間溶融してから、水冷ローラーによって薄板状に成形した。次いで、この成形体をボールミルにより粗砕した後、純水を加えて湿式粉砕し、平均粒径が3μmのガラス粉末とした。
【0036】
尚、ガラス原料を溶融し、ガラス化させる際に、ガラス化したものを○とし、ガラス化しなかったものを×とした。試料No.1〜5及び7については、ガラス化したが、試料No.6については、失透ブツが発生しガラス化しなかった。
【0037】
さらに、試料No.2〜5及び7については、表に示したセラミック粉末(平均粒径2μm)を添加し、混合粉末とした。このようにして、ガラスセラミック誘電体材料を得た。
【0038】
続いて、上記のガラスセラミック誘電体材料に、結合剤としてポリビニルブチラールを15質量%、可塑剤としてブチルベンジルフタレートを4質量%、及び溶剤としてトルエンを30質量%添加してスラリーを調整した。次いで、上記のスラリーをドクターブレード法によってグリーンシートに成形し、乾燥させ、所定寸法に切断した後、複数枚を積層し、熱圧着によって一体化した。更に、積層グリーンシートを、焼成することによって焼結体を得た。
【0039】
このようにして得られた焼結体試料について、焼成温度、析出結晶、τf、誘電率、誘電損失及び曲げ強度を測定した。結果を表に示す。
【0040】
表から明らかなように、実施例である試料No.3、参考例である試料No.1、2、4については、870〜900℃の低温で焼成可能であり、焼成後にルチル結晶が析出していることが確認された。また、τfが−4.0〜1.5ppm/℃であり、ゼロに近い値であった。さらに、15GHzにおける誘電率は6.0〜7.8であり、しかも、誘電損失は0.0030以下と小さかった。
【0041】
これに対し、比較例である試料No.5、7は、ルチル結晶の析出が確認されなかった。また、試料No.5については、τfが−55ppm/℃でありゼロから離れた値であった。試料No7については、曲げ強度が160MPaと低かった。
【0042】
尚、焼成温度については、種々の温度で焼成した焼結体にインクを塗布した後に拭き取り、インクが残らない(=緻密に焼結した)試料のうち最低の温度で焼成したものの焼成温度を記載した。
【0043】
析出結晶については、焼結体試料を乳鉢で粉砕し、粉末X線回折によって求めた。
【0044】
τfについては、JIS R1627に基づいて、共振周波数15GHzでの値を求めた。
【0045】
誘電率、誘電損失については、JIS R1627に基づいて、測定周波数15GHz、温度25℃での値を求めた。
【0046】
曲げ強度については、JIS R1601に基づいて3点曲げ試験により求めた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のガラスセラミック誘電体材料は、多層基板としての用途に限られるものではなく、例えば、半導体パッケージや積層チップ部品の電子部品材料としても使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率で、ガラス粉末 50〜100%、セラミックフィラー粉末 0〜50%からなるガラスセラミック誘電体材料において、該ガラス粉末が、ガラス組成中にTiO 3〜25mol%、SiO 50〜70mol%、Al 4〜15mol%、CaO 15〜35mol%、B 0〜10mol%含有し、焼成すると、ルチルおよびアノーサイトを析出する性質を有することを特徴とするガラスセラミック誘電体材料。
【請求項2】
請求項1のガラスセラミック誘電体材料を焼結させてなることを特徴とする焼結体。
【請求項3】
測定周波数が15GHz、測定温度範囲が−20〜60℃における共振周波数の温度係数(τf)が0±10ppm/℃であることを特徴とする請求項2記載の焼結体。
【請求項4】
請求項2又は3の焼結体からなる誘電体層を有することを特徴とする高周波用回路部材。

【公開番号】特開2009−215161(P2009−215161A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101343(P2009−101343)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【分割の表示】特願2003−313337(P2003−313337)の分割
【原出願日】平成15年9月5日(2003.9.5)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】