説明

ガラスペーストおよびそれを用いたプラズマディスプレイパネルの製造方法

【課題】隔壁前駆体と同時焼成に際し、昇温速度を大きくした場合であっても誘電体層の剥離や隔壁の断線を生じない誘電体ペースト、および生産性が高く、高品位なプラズマディスプレイの製造方法を提供する。
【解決手段】 軟加点ガラス(A)、熱重合開始剤(B)、下記一般式(1)で表される化合物(C)を含むことを特徴とするガラスペーストであること、である。
【化1】


(式中、R〜Rのうち1〜3個がアルキロイル基であり、残りの5〜3個がアクリル基またはメタクリル基である。)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスペーストおよびプラズマディスプレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(PDP)は次世代大型ディスプレイとして注目を集めており、高精細なプラズマディスプレイパネルを低コストで安定して生産する技術が強く望まれている。そのようなプラズマディスプレイパネルを構成する部材において、大きなコストを占める部材として背面板が挙げられる。
【0003】
一般的な背面板の構成を図1に示す。背面板1は、少なくとも基板2上に形成された電極3、電極3を覆う誘電体層4、誘電体層上に設けられたストライプ状または格子状の隔壁5および赤(R)、緑(G)、青(B)色に発光する蛍光体層6から構成される。背面板においては電極3および隔壁5の形成に感光性ペースト法を用いることで、高精細な背面板が安定して生産できることが知られている。
【0004】
従来、背面板製造工程では、感光性導電ペーストを用いて電極前駆体を形成した後、ガラスペーストを用いて誘電体層前駆体を設けた後、感光性ガラスペーストを用いて隔壁前駆体を設けた後、蛍光体ペーストを用いて蛍光体層前駆体を設けた後、それぞれの前駆体を都度焼成していた。すなわち、背面板の製造工程では、最低でも4回の焼成工程が必要であり、生産性が低く、高コストの原因となっていた。また、焼成工程が多いことによって、ガラス基板の熱による寸法変化が大きくなるという問題を生じていた。
【0005】
そこで、電極前駆体、誘電体層前駆体、隔壁前駆体、蛍光体層前駆体のうちのいくつかを形成した後、同時に焼成するという同時焼成プロセスが検討されてきた(特許文献1参照)。しかし、これらの方法を用いても、大きな問題があった。
【0006】
特に誘電体層前駆体および隔壁前駆体を同時に焼成すると、焼成時の応力により誘電体層の剥がれ、亀裂、隔壁の断線といった欠陥が発生するという問題である。
【0007】
また、熱硬化性ガラスペーストを用いて誘電体層前駆体を形成し、加熱処理を行って硬化した後、感光性ガラスペーストを用いて隔壁前駆体を形成し、誘電体層前駆体および隔壁前駆体を同時に焼成することによって誘電体層の亀裂、剥がれや隔壁の断線を防ぐという製造方法が開示されている(特許文献2、3参照)。しかし、特許文献2、3に記載の方法は誘電体層の亀裂、剥がれや隔壁の断線を防ぐ効果はあるものの、生産性を向上させるため焼成時の昇温速度を大きくした場合に誘電体層の剥がれや隔壁の断線が発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−7894号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2001−26477号公報(第2頁)
【特許文献3】特開2001−331650号公報(第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、隔壁前駆体と同時焼成に際し、昇温速度を大きくした場合であっても誘電体層の剥離や隔壁の断線を生じない誘電体ガラスペースト、および生産性が高く、高品位なプラズマディスプレイの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決するため、以下の構成を有する。すなわち、低軟化点ガラス(A)、熱重合開始剤(B)、下記一般式(1)で表される化合物(C)を含むことを特徴とするガラスペーストである。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R〜Rのうち1〜3個がアルキロイル基であり、残りの5〜3個がアクリル基またはメタクリル基である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明により、隔壁前駆体と同時焼成に際し、昇温速度を大きくした場合であっても誘電体層の剥離や隔壁の断線を生じない誘電体ガラスペースト、および生産性が高く、高品位なプラズマディスプレイの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一般的なプラズマディスプレイの背面板の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のガラスペーストは、低軟化点ガラス(A)、熱重合開始剤(B)、下記一般式(1)で表される化合物(C)を含むことを特徴とするガラスペーストであることを特徴とする。
【0016】
【化2】

【0017】
本発明のガラスペーストは、低軟化点ガラス粉末(A)を含む。本発明のガラスペーストは最終的には焼成して低軟化点ガラスを主成分とする誘電体層を形成するために用いられる。特にPDP用部材など、ガラス基板上に誘電体層を形成する場合は、ガラス基板が軟化しない温度で焼成する必要があるため、低軟化点ガラス粉末(A)のガラス転移点400〜550℃、軟化点450〜600℃であることが好ましい。ガラス転移点を550℃以下、軟化点を600℃以下とすることで、高温焼成を必要とせず、ガラス基板上に無機膜を設ける場合であっても焼成の際にガラス基板に歪みを生じない。また、ガラス転移点を400℃以上、軟化点を450℃以上とすることで、焼成時の有機成分の除去性に優れ、PDP用部材に用いる場合は後工程の蛍光体層の焼成や封着の際の熱によって誘電体層に歪みを生じることがなく、膜厚精度を保つことができる。
【0018】
低軟化点ガラス粉末(A)の含有量は、ガラスペースト全重量に対し25〜50質量%の範囲が好ましい。25質量%より少なければ、焼成時の焼結性が悪くなり、50質量%を超えれば焼成後の膜に歪みが生じやすくなる。
【0019】
本発明のガラスペーストに配合される低軟化点ガラス粉末(A)は、酸化物換算表記で、
酸化ビスマス 10〜85質量%
酸化珪素 1〜50質量%
酸化ホウ素 5〜40質量%
酸化亜鉛 4〜40質量%
からなる組成を有するものが好ましい。この組成範囲であると530〜620℃で焼成することによって、ガラス基板上との接着性に優れた誘電体層を形成することができる。
【0020】
ガラス粉末中の酸化ビスマスは、10〜85質量%の範囲が好ましい。10質量%以上とすることで、焼き付け温度や軟化点を制御する効果が現れる。85質量%以下にすることによって、ガラスの耐熱温度が低くなりすぎることが防止されるので、ガラス基板上への焼き付けが適正に行われる。
【0021】
酸化珪素は、1〜50質量%の範囲で配合できるが、1質量%以上とすることにより、ガラス層の緻密性、強度や安定性を向上させ、また熱膨張係数がガラス基板の値と近いものとなり、従ってガラス基板とのミスマッチを防止することができる。50質量%以下とすることによって、軟化点やガラス転移点が低くなり、580℃以下でガラス基板上に緻密に焼き付けることができる。
【0022】
酸化ホウ素は5〜40質量%の範囲で配合することによって、電気絶縁性、強度、熱膨張係数、緻密性などの電気、機械および熱的特性を向上することができる。40質量%以下とすることによってガラスの安定性を保つことができる。
【0023】
酸化亜鉛は4〜40質量%の範囲で添加されるのが好ましい。4質量%以上にすることによって緻密性向上の効果が現れ、40質量%以下にすることによって焼き付け温度が低くなり過ぎて制御できなくなることを防ぎ、また絶縁抵抗を保持することができる。
【0024】
上記ガラス成分は、実質的にアルカリ金属を含まないことが好ましい。というのは、誘電体層は多くの場合、銀電極やガラス基板に接触して形成されるため、銀電極の銀イオンやガラス基板の成分とのイオン交換反応に起因する黄色化などの問題を防ぐためである。実質的に含まないとは、具体的にはガラス成分中に、アルカリ金属の合計含有量が2.0質量%以下であること、好ましくは、0.5質量%以下であることを意味する。
【0025】
本発明のガラスペーストは、低軟化点ガラス粉末(A)以外に無機粉末としてフィラーを含むことが好ましい。本発明においてフィラーとは焼成時の温度で軟化しない無機粒子を指し、具体的には650℃未満に軟化温度を有さない無機粒子をいう。フィラーとして、軟化点650〜850℃の高融点ガラス、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、チタン酸バリウムおよび酸化ジルコニウムからなる群から選ばれた少なくとも一種以上が好ましく用いられる。
【0026】
フィラーは、焼成時の収縮率を小さくし、基板にかかる応力を低下させるなどの効果がある。フィラー添加量はガラスペースト全重量に対し、5〜30質量%の範囲が好ましい。フィラー添加量を5質量%より少なくなると、焼成収縮率が大きくなり、熱膨張係数を制御する効果が得られない。また、フィラー添加量が30質量%を超えると、焼成後の誘電体層の緻密性や強度を保つことができず、同時に、クラックが発生しやすくなる傾向がある。
【0027】
さらに、本発明のガラスペーストをPDP背面板の誘電体層の形成に用いる場合は、ガラスペーストの全重量に対し、導電性粉末を0.1〜5質量%含有することが好ましい。AC型プラズマディスプレイパネルにおいて、表示電極とアドレス電極間でプラズマ放電させると空間電荷が発生し、その大部分が表示電極上に形成されている誘電体層上に蓄積される。この蓄積された電荷による電圧で偶発的に放電が生じて画質を悪くするという問題が起こる。このような画質の劣化の原因となる電荷の蓄積を解消するために、誘電体層に導電性粉末を配合し、蓄積電荷をリークさせることが有効である。導電性粉末は、具体的には、クロムまたはニッケルから選んだ金属粉末や酸化インジウム、酸化スズ、酸化チタンなどの金属酸化物に不純物を混入した半導体を使用することができる。導電性粉末の添加量は0.1〜5質量%であることが好ましい。0.1質量%以上とすることで、有効に電荷をリークすることができ、偶発放電を防ぐことができる。導電性粉末の添加量を5質量%以下とすることで、誘電体層の緻密性を保持することができる。
【0028】
ガラスペーストは、有機成分に低軟化点ガラス粉末(A)、フィラー、導電性粉末等の無機粉末を混合・分散した様態を有するものであり、無機粉末を有機成分の中に均一に混合・分散することが良好な塗布性のために好ましく、このようなペーストを得るため、無機粉末の平均粒径、最大粒径およびタップ密度などが適正な範囲にあることが好ましい。
【0029】
無機粉末の平均粒径は0.2〜3.0μm、最大粒径は10μm以下であることが好ましく、タップ密度が0.6g/cm以上であることが好ましい。このような範囲の粒度およびその分布、そして単位容積当たりの粉末質量を有するものが、ペーストへの充填性および分散性が良好であり、従って塗布性の優れたガラスペーストが調製できるので、緻密で均一な塗布膜を得ることが可能になる。無機粉末の粒径は、レーザ散乱・回折法で測定した値であり、平均粒径は体積基準の粒度分布曲線における50%粒径を用い、最大粒径は粒径の最大値を用いる。粒子の凝集力は表面積に依存するため、平均粒径を0.2μm以上とすることで凝集性を抑え、ペースト中での分散性がよくなり、緻密かつ均一な塗布膜が得られる。また、3.0μm以下とすることで形成された誘電体ペースト塗布膜の緻密性がよくなり、内部にボイドなどが発生しにくくなる。また、塗布膜表面に不要な凹凸も生じない。最大粒径を10μm以下にすることも、内部でのボイド発生や表面の不要な凹凸の発生を防止するために必要である。
【0030】
無機粉末のタップ密度無機粉末のタップ密度を0.6g/cm以上、好ましくは0.7g/cm以上とすると、粉末の充填性・分散性がよくなり、気泡や凝集物を生じにくくなる。
【0031】
本発明のガラスペーストは熱重合開始剤(B)を含む。熱重合開始剤を含むことによって、本発明のガラスペーストを塗布した後、熱処理を行うことによって、強固なガラスペースト塗布膜を形成することができる。特に、PDP用部材等においてフォトリソグラフィー法によるパターン加工の下地層として用いる場合に、あらかじめ熱処理を行い硬化させることによって、現像液に熔解せず均一な層を形成することができる。
【0032】
熱重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物から選ばれた少なくとも一種のラジカル重合開始剤を好ましく選択することができる。これらの具体例をあげると、有機過酸化物としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(メトキシイソプロピル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−yトリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、琥珀酸パーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、m−トルオイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、シクロヘキサンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどが上げられる。アゾ化合物としては、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド(2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシメチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]2,2’−アゾビス(N−ブチルーメチルプロピオンアミド)2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレイトなどが上げられる。本発明ではこれらを1種または2種以上使用することができる。
【0033】
熱重合開始剤は、ガラスペースト全重量に対し0.05〜10質量%の範囲で添加され、より好ましくは0.1〜5質量%である。熱重合開始剤の量が少なすぎれば、硬化が進まなく膜の強度不足が起こりやすくなり、熱重合開始剤の量が多すぎれば、硬化が進みすぎ、膜の剥離が発生しやすくなる。
【0034】
本発明のガラスペーストは、熱処理を行った場合に、熱重合開始剤から発生したラジカルにより硬化する成分を含むことが必須である。以下、この成分を総称して架橋剤と呼ぶ。熱重合開始剤と架橋剤を併用することによって、上述の通り、後の上層塗布工程における上層の染み込み耐性が向上する。後の現像工程における耐現像液性が向上する。また、焼成時に焼成応力による亀裂や断線が発生することを抑制する効果もある。
【0035】
本発明のガラスペーストは、架橋剤として下記一般式(1)で表される化合物(C)を含むことを必須とする。
【0036】
【化3】

【0037】
(式中、R〜Rのうち1〜3個がアルキロイル基であり、残りの5〜3個がアクリル基またはメタクリル基である。)
上記一般式(1)で表される化合物(C)を用いることにより、上層塗布工程における上層の染み込み耐性、現像工程における耐現像液性が向上するだけではなく、焼成を行う際に特に昇温速度を大きくした場合であっても、焼成応力による誘電体層の剥離や隔壁の断線が発生することを抑制することができ、欠陥のないPDPを効率よく製造することができる。
【0038】
上記一般式(1)で表される化合物(C)のアルキロイル基の炭素数は全て1〜10の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1〜4の範囲内である。炭素数が10を超えると、硬化不足となり上層に塗る隔壁ペーストが染みこみやすくなる傾向がある。
【0039】
本発明のガラスペーストは、上記一般式(1)で表される化合物(C)以外の架橋剤を含有してもよい。架橋剤としては3次元網目構造を形成できる点で、架橋剤が主に3つ以上の官能基を有する化合物であることが好ましい。そのような官能基としては、活性な炭素−炭素二重結合を有する化合物が好ましく、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリレート基、アクリルアミド基を有する化合物が応用される。(メタ)アクリレート化合物には多様な種類の化合物が開発されているので、それらから反応性、屈折率などを考慮して選択し、場合によってはそれらを組み合わせることが可能である。また、ポリマーに炭素−炭素2重結合を有する側鎖を導入するなどの方法を用いることも好ましい。(メタ)アクリレート化合物としては、化学式(2)、(3)、(4)、(5)で示されるアルキル基を有するアクリル化合物またはメタクリル化合物が好ましく用いられる。化学式(5)で示される化合物が、官能基を3つ以上有するので、特に好ましい。
CH=CRCOO−R10 (2)
CH=CRCOO−R10−OCOCHR=CH (3)
CH=CRCOO−R10−OCO−R12−COO−R10−OCOCHR=CH (4)
(CH=CRCOO−(CHCHR12O)m)n−R13 (5)
ここにおいて、RおよびR12は水素またはメチル基、R10は炭素数1〜20のアルキル基、R11は炭素数3以上のヒドロキシアルキル基、R13は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、mは0〜30の整数、nは3〜6の整数である。
【0040】
式(5)で表される化合物の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、およびそれらのアルキレンオキサイド変成物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
架橋剤の添加量は、ガラスペースト全重量に対し5〜25質量%の範囲で添加されることが好ましい。5質量%より少なくなると加熱処理後のガラスペースト塗布膜が硬化不足になり感光性ペーストや現像液が染みこみ、一括焼成した際上層に形成したパターンが剥離してしまう傾向がある。25質量%を超えると、焼成時の収縮応力が大きくなり、誘電体層に亀裂が発生する場合がある。
【0042】
また、本発明のガラスペーストは、これらの他にもさらに必要に応じて、バインダー樹脂、紫外線吸収剤、分散剤、安定剤、消泡剤、レベリング剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、重合禁止剤、有機溶媒などを添加することもできる。
【0043】
本発明のガラスペーストはバインダー樹脂をペースト全重量に対して0.1〜20質量%含むことが好ましい。含有量が0.1質量%より小さいと誘電体ペーストの粘度が低下し、誘電体ペーストの組成を安定化することが困難になる。一方、含有量が20質量%より大きいと誘電体ペーストの粘度が高くなりすぎることによる塗布不良や、焼成収縮が大きくなることによる亀裂等の問題が生じる傾向がある。
【0044】
バインダー樹脂の具体例としては、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、シリコーンポリマー(例えば、ポリメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン)、ポリスチレン、ブタジエン/スチレン共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、高分子量ポリエーテル、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリアクリルアミドおよび種々のアクリルポリマーやセルロース化合物などがあげられる。このなかで、アクリルポリマーまたはセルロース化合物を用いることが焼成時の焼成残渣を低減する点で好ましい。
【0045】
アクリルポリマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸アルキル類を単独または共重合させたものが好ましく、ペーストに好ましい特性を与えるように適宜に選択することができる。具体的には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ヘキシルなどの単独重合体やこれらの重合体を構成するモノマーの組合せで得られる共重合体などが好ましい。セルロース化合物としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、メチルヒドロキシセルロースなどを好ましく用いることができる。
【0046】
本発明のガラスペーストは、各種成分を所定の組成となるように調合し、プラネタリーミキサー等のミキサーによって予備分散した後、3本ローラーなどの分散機で分散・混練手段によって均質に製造される。製造後は、濾過を行い、異物を取り除くことが好ましい。
【0047】
次に、本発明のガラスペーストを用いたプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法について説明する。
【0048】
本発明のプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法は、必要に応じ電極または電極前駆体を設けた基板上に上述のガラスペーストを塗布、加熱処理してガラスペースト塗布膜を形成し、前記ガラスペースト塗布膜上に感光性ガラスペーストを塗布、露光、現像して隔壁前駆体パターンを形成した後、焼成することによって誘電体層および隔壁を形成することを特徴とする。この方法において、上述のガラスペーストは誘電体層を形成するために用いられる。
【0049】
本発明のプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法は、上記ガラスペーストを基板上に塗布して乾燥する工程の前に、基板上に電極パターンを形成する工程を、上記ガラスペーストを基板上に塗布して加熱処理する工程の後に、該誘電体層上に隔壁パターンを形成する工程を含むことが好ましい。
【0050】
次に、本発明のプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法の好ましい例について、詳細に説明する。
【0051】
まず、基板上に、書き込み電極として、感光性銀ペーストを用いてフォトリソグラフィー法により、ストライプ状の電極を形成し、この基板に本発明のガラスペーストをスクリーン印刷法により塗布する。
【0052】
誘電体層の厚みは、焼成後で4〜18μmの範囲、より好ましくは8〜15μmの範囲であることが、均一で緻密な誘電体層を形成するために好ましい。厚さを18μm以下とすることで、焼成の際の脱バインダー性が良好となり、バインダーの残存に起因するクラックが生じない。またガラス基板にかかる応力も小さくなるので基板が反るなどの問題も生じない。また、4μm以上とすることで平坦性で均一かつ緻密な誘電体層を形成することができ、電極部分の凹凸によって誘電体層にクラックが入るなどの問題が生じない。
【0053】
ガラスペースト塗布膜を形成した後、加熱処理を行う。加熱処理して硬化させることにより、後の上層塗布工程における上層の染み込み耐性に優れ、後の現像工程における現像液耐性に優れ、焼成工程における電極パターンや隔壁パターンの収縮による応力にガラスペースト塗布膜が耐えることができるようになる。
ガラスペースト塗布膜を加熱処理する条件としては、100〜300℃の温度範囲で3〜30分の時間範囲が好ましい。好ましくは、130〜250℃の温度範囲で5〜30分の時間範囲である。
【0054】
次いで、隔壁前駆体パターンを形成する。隔壁前駆体パターンの形成には、スクリーン印刷法、サンドブラスト法、感光性ペースト法、プレス成型法等が用いられる。パターンの高精細化や工程の簡略化が可能である点から、感光性ペースト法が特に好ましい。以下に、感光性ペースト法の手順について説明する。
【0055】
ガラスペースト塗布膜の上に、感光性ガラスペーストを全面に、もしくは部分的に塗布する。感光性ペーストの塗布は、スクリーン印刷法、バーコーター法、ロールコータ法、ドクターブレード法などの一般的な方法で行なうことができる。塗布厚さは、所望の隔壁の高さとペーストの焼成による収縮率を考慮して決めることができる。通常、焼成後の隔壁の好ましい高さは60〜170μmの範囲であり、焼成収縮を考慮すると、塗布する感光性ガラスペースト塗布膜の厚さは80〜400μmの範囲内であることが好ましい。
【0056】
塗布された感光性ガラスペーストは、乾燥され、露光される。露光に使用される活性光線は、紫外線が最も好ましく、その光源として、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ハロゲンランプなどが使用される。超高圧水銀灯を光源とした平行光線を用いる露光機が一般的である。
【0057】
露光後、露光部分と未露光部分の現像液に対する溶解度差を利用して、現像を行ない、隔壁前駆体パターンを形成する。現像には、浸漬法、スプレー法、ブラシ法などが用いられる。現像液には、感光性隔壁ペースト中の有機成分、特にポリマーが溶解可能な溶液を用いるとよい。本発明では、アルカリ水溶液で現像することが好ましい。隔壁のパターニングは、焼成による収縮を考慮して行なうとよい。隔壁パターンは、主としてストライプ状に形成されるが、特に限定されず、格子状である場合もある。本発明のガラスペーストを用いると、格子状の隔壁を形成した場合でも、誘電体層に亀裂が生じることはない。
【0058】
隔壁前駆体パターンを形成した後に、電極または電極前駆体、ガラスペースト塗布膜および隔壁前駆体パターンを同時に焼成して、電極、誘電体層および隔壁を形成する。焼成雰囲気や温度は、ペーストや基板の特性によって異なるが、通常は空気中で焼成される。焼成炉としては、バッチ式の焼成炉やベルト式の連続型焼成炉を用いることができる。バッチ式の焼成の場合、ガラスペースト塗布膜の上に隔壁パターンが形成されたガラス基板を、室温から500℃程度まで数十分掛けてほぼ等速で昇温した後、さらに焼成温度として設定された500〜580℃に10〜40分間で上昇させて、15〜30分間保持して焼成を行なうことが好ましい。
【0059】
焼成温度を580℃以下、焼成時間を15〜30分の範囲に設定することで、焼成残渣や隔壁のダレなどを抑制することができる。
【0060】
このようにして形成された隔壁に、蛍光体ペーストを形成する。蛍光体の形成方法は特に限定されないが、例えば、スクリーン印刷法、口金から蛍光体ペーストを吐出する方法、感光性ペースト法などがあげられるが、この中でも口金から蛍光体ペーストを吐出する方法が簡便で、低コストのPDPを得ることができるため好ましい。蛍光体ペーストを塗布して乾燥させた後、例えば、500℃で30分焼成して隔壁の側面および底部に蛍光体層を形成する。
【0061】
本発明のPDP用部材の製造方法においては、上述の化合物(C)を含むガラスペーストを用いるため、隔壁前駆体と同時焼成に際し、昇温速度を大きくした場合であっても誘電体層の剥離や隔壁の断線が生じず、高品位なプラズマディスプレイを安定して製造することが可能である。
【0062】
この背面板と前面板とを張り合わせた後、封着、ガス封入し、駆動用ドライバーICを実装してプラズマディスプレイが作製される。
【実施例】
【0063】
以下に本発明を実施例を用いて具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
<焼成昇温速度マージン>
以下に説明するPDP背面板の作製方法により基板上に電極前駆体を形成し、ガラスペーストを塗布、加熱処理を行い、感光性ガラスペーストを塗布、露光、現像して電極前駆体、誘電体層前駆体及び隔壁前駆体を形成した後、500℃まで10K/分の昇温速度および30K/分の昇温速度でそれぞれ昇温し、500℃で10分保持し、その後580℃まで10分で昇温し、15分間保持して焼成して電極、誘電体層および隔壁を有する基板を作製した。作製した基板の面内25箇所について誘電体層の剥離の有無をキーエンス社製リアルサーフェスビュー(VE−7800)により観察し、以下のように判定した。昇温速度10K/分で焼成した場合に剥離がないことが必要であるが、昇温速度が早い30K/分で焼成した場合も剥離がないことがより好ましい。
○:昇温速度10K/分、昇温速度30K/分のいずれの条件で焼成した場合も誘電体層に剥離が見られない
△:昇温速度30K/分の条件では誘電体層に剥離が見られるが、昇温速度10K/分の条件では誘電体層に剥離が見られない
×:昇温速度10K/分、昇温速度30K/分のいずれの条件で焼成した場合も誘電体層に剥離が見られる
(実施例1〜6)
42インチのガラス基板(旭硝子製PD200)上に、感光性銀ペースト(東レ製)を用いてストライプ状の線幅55μm、ピッチ220μm、厚さ3μmの電極を形成した。その電極付きガラス基板上に下記の熱重合性ガラスペーストをスクリーン印刷法により塗布した。
ガラスペーストの組成:
ガラス粉末A(酸化ビスマス50質量%、酸化ケイ素5質量%、酸化ホウ素20質量%、酸化亜鉛質量20%、酸化アルミニウム質量5%。ガラス転移点475℃、軟化点515℃):45質量%、
フィラー(酸化チタン)10質量%、
導電性粉末(ニッケル):3質量%、
エチルセルロース:3質量%、
熱重合開始剤B(2,2−アゾビスイソブチロニトリル):1質量%、
架橋剤C1〜C6(表1に記載のもの。C1〜C6はそれぞれ一般式(1)で表され、表1に記載のR〜Rを有するものである。):15質量%、
ゲル化防止剤(ベンゾトリアゾール):1.5質量%、
分散剤(サンノプコ製ノプコスパース(登録商標)092):0.5質量%、
レベリング剤(楠本化成製ディスパロン(登録商標)L1980):1質量%、
溶剤(テルピオネール):20質量%。
【0064】
ペーストは、これらの成分からなる混合物を3本ローラー混練機で混練して作製した。導電性粉末として添加したニッケルはフィラー成分としての役割も有する。誘電体ペーストを塗布した後、150℃で10分間加熱処理を行った。
【0065】
次に隔壁形成用の感光性ガラスペーストを用いて隔壁前駆体の形成を行った。上記の誘電体前駆体上にダイコート法で感光性ガラスペーストを塗布した。感光性ガラスペーストの組成は次の通りである。
感光性ペーストの組成:
ガラス粉末B(酸化リチウム10質量%、酸化ケイ素25質量%、酸化ホウ素30質量%、酸化バリウム5質量%、酸化アルミニウム20質量%、酸化亜鉛10質量%。ガラス転移点495℃、軟化点580℃):60質量%、
バインダー樹脂(酸価85、重量平均分子量(Mw)32,000の感光性アクリルポリマー(東レ(株)製APX−716)):10質量%、
感光性モノマー(共栄社化学製MGP400):10質量%、
光重合開始剤(チバガイギー社製、イルガキュア(登録商標)369):3質量%、
γ−ブチロラクトン:17質量%。
【0066】
ペーストは、これらの成分からなる混合物を3本ローラー混練機で混練して作製した。感光性ペースト塗布膜を乾燥した後、ストライプ状パターンのフォトマスクを介して、200mJ/cmの露光量を与えた後、0.2質量%の2−アミノエタノール水溶液で現像し、ピッチ220μm、線幅40μm、高さ160μmの隔壁前駆体を形成した。誘電体前駆体は、十分に硬化されており、現像液に溶解しなかった。その後、ローラーハース式焼成炉を用いて500℃までの昇温速度を10K/分と30K/分の2種類の条件で昇温し、焼成温度580℃で15分間焼成した。結果を表1に示す。いずれの昇温速度の場合も剥離なく良好な形状の誘電体層と隔壁を得た。
【0067】
【表1】

【0068】
(比較例1〜6)
架橋剤C1〜C6を表2に示す架橋剤D1〜D6に変更した以外は実施例1〜6と同様にして誘電体層と隔壁を形成した。
架橋剤D1〜D6(表2に記載のもの。D1、D2、D5は一般式(1)で表され、表1に記載のR〜Rを有するものであり、D3、D4、D6は表1に記載のもの)
結果を表2に示す。比較例1と2ではいずれの昇温速度でも誘電体層に剥離が見られた。比較例3〜6では昇温速度10K/分では誘電体層に剥離無く焼成することができたが、30K/分では誘電体層に剥離が見られた。
【0069】
【表2】

【符号の説明】
【0070】
1 背面板
2 基板
3 電極
4 誘電体層
5 隔壁
6 蛍光体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低軟化点ガラス(A)、熱重合開始剤(B)、下記一般式(1)で表される化合物(C)を含むことを特徴とするガラスペースト。
【化1】

(式中、R〜Rのうち1〜3個がアルキロイル基であり、残りの5〜3個がアクリル基またはメタクリル基である。)
【請求項2】
化合物中(C)のアルキロイル基の炭素数が全て1〜10であることを特徴とする請求項1に記載のガラスペースト。
【請求項3】
基板上に請求項1または2に記載のガラスペーストを塗布、加熱処理してガラスペースト塗布膜を形成し、前記ガラスペースト塗布膜上に感光性ガラスペーストを塗布、露光、現像して隔壁前駆体パターンを形成した後、焼成することによって誘電体層および隔壁を形成することを特徴とするプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−169097(P2012−169097A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28136(P2011−28136)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】