説明

ガラスライニング装置を用いる反応方法及び炭酸ジエステルの製造方法

【課題】装置内とジャケット部との温度差が低減されたガラスライニング装置を用いる反応方法を提供する。
【解決手段】ガラスライニング反応装置の反応器11にフェノールPLとホスゲンCDCを供給し反応温度T150℃でジフェニルカーボネートDPCを合成する際、PLを供給温度T75℃で供給することによって、PLの供給温度Tと反応温度Tとの温度差ΔTに基づくPLの顕熱量QP(3.6kcal/mol×2モル:吸熱)により反応熱量QL(−7.2kcal/mol:発熱)に相当する熱量が反応系から除去され、装置内とジャケット部との熱交換が殆ど不要となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスライニング装置を用いる反応方法等に関し、より詳しくは、装置内とジャケット部との温度差を低減したガラスライニング装置を用いる反応方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ポリカーボネート樹脂を溶融法で製造する際に、原料として使用するジアリールカーボネート等の炭酸ジエステルは、フェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物とホスゲンとをピリジン等の含窒素塩基性化合物の存在下で行われる合成反応により製造されている。この合成反応では副生物として塩化水素が生じるため、通常、ガラスライニング製反応器が用いられる(特許文献1参照)。
ガラスライニング製反応器を用いる合成反応としては、例えば、塩酸等の酸触媒の存在下でポリビニルアルコールとアルデヒドとを反応させるポリビニルアセタール樹脂の製造方法等も挙げられる(特許文献2参照)。また、金属不純物含有量を低減させるためにフェノール樹脂をガラスライニング製反応器を用いて製造する方法等が報告されている(特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−058974号公報
【特許文献2】特開平07−113003号公報
【特許文献3】特開平05−140216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フェノールとホスゲンとを原料とするジフェニルカーボネートの合成反応は、通常、100℃以上の反応温度における発熱反応であるため、反応系から反応熱を徐熱して反応率を高める必要がある。
一方、反応器として使用するガラスライニング製反応器は、一般に総括伝熱係数が小さいことから、冷媒による冷却効率が低いという問題がある。このため、低温状態を保持した冷媒を使用する必要が生じる。
しかし、反応器の内温と冷媒を通すジャケット温度との温度差(ΔT)が大きいと、ガラスライニング製反応器の場合は、熱ショックによりガラスライニングが割れる虞が生じる。さらに、反応器の大きさが大きくなればなるほど、単位容積当たりの伝熱面積は相対的に小さくなり、ΔTが増大する傾向となる。従って、反応器の大型化、スケールアップに伴い、ガラスライニングが割れる可能性は増大し、その対策が問題である。
【0005】
本発明は、このようなガラスライニング製反応器を使用する製造方法における課題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明の目的は、装置内とジャケット部との温度差が低減されたガラスライニング装置を用いる反応方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、ガラスライニング装置を用いる炭酸ジエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして本発明によれば、ガラスライニング反応装置に配管を介して複数の原料を供給し、所定の反応温度で反応を行う反応方法において、少なくとも1つの原料を反応系中に供給する際の供給温度と反応温度との温度差に基づく原料の顕熱量(QP)により、反応温度における反応熱量(QL)の50%〜150%に相当する熱量を、反応系に供給する若しくは反応系から除去することを特徴とするガラスライニング反応装置を用いる反応方法が提供される。
ここで、本発明のガラスライニング反応装置を用いる反応方法において、原料を反応系中に供給する際の供給温度と反応温度との温度差に基づく原料の顕熱量(QP)が、反応熱量(QL)の80%〜120%に相当する熱量であることが好ましく、90%〜110%に相当する熱量であることが更に好ましい。
また、顕熱量(QP)が、反応系に供給する複数の原料の顕熱量の合計量であることが好ましい。
また、原料を反応系中に供給する際の供給温度と反応温度との温度差が100℃以下であることが好ましい。
【0007】
次に、本発明で使用するガラスライニング反応装置は、さらにガラス被覆された撹拌機を有し、撹拌機のインペラの先端周速度が3m/s〜10m/sであることが好ましい。
また、ガラスライニング反応装置には原料を供給するために配管が結合され、この配管の内面がガラスライニングされており、且つ、この配管を通して原料を流速2m/s以下で反応系に供給することが好ましい。
【0008】
さらに、本発明においてガラスライニング反応装置を用いる反応が、芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を原料とし、炭酸ジエステルを生成する発熱反応である場合は、発熱反応で生じる反応熱量(QL)に相当する熱量を、反応系に供給する芳香族モノヒドロキシ化合物の供給温度と反応温度との温度差に基づく顕熱量(QP)により、反応系から除去することが好ましい。
ここで、反応の原料として使用する芳香族モノヒドロキシ化合物がフェノールであり、カルボニル化合物が塩化カルボニルであり、反応生成物である炭酸ジエステルがジフェニルカーボネートであることが好ましい。
【0009】
次に、本発明によれば、ガラスライニング反応装置を用い、所定の反応温度で芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を反応させる炭酸ジエステルの製造方法であって、芳香族モノヒドロキシ化合物をガラスライニング反応装置中に供給する際の供給温度と反応温度との温度差に基づく芳香族モノヒドロキシ化合物の顕熱量(QP)により、反応温度における反応熱量(QL)の50%〜150%に相当する熱量を反応系から除去することを特徴とする炭酸ジエステルの製造方法が提供される。
ここで、芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を反応させる反応温度としては、50℃〜180℃であることが好ましい。
また、芳香族モノヒドロキシ化合物をガラスライニング反応装置中に供給する際の供給温度は、80℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガラスライニング装置を用いる反応において装置内とジャケット部との温度差が低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
本実施の形態では、芳香族モノヒドロキシ化合物とカルボニル化合物を用いる炭酸ジエステルの生成反応を例に挙げ、本発明を説明する。
【0012】
(炭酸ジエステル)
本実施の形態において使用する炭酸ジエステルとしては、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0013】
【化1】

【0014】
ここで、一般式(1)中、A’は、置換されていてもよい炭素数1〜炭素数10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基である。2つのA’は、同一でも相互に異なるものでもよい。
なお、A’上の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜炭素数10のアルキル基、炭素数1〜炭素数10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等が例示される。
【0015】
炭酸ジエステルの具体例としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
これらの中でも、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと略記することがある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0016】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。
代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。
【0017】
(炭酸ジエステルの製造方法)
次に、炭酸ジエステルの製造方法について説明する。
本実施の形態で使用する炭酸ジエステルは、芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を原料としてアルカリ系触媒の存在下の合成反応により製造される。
芳香族モノヒドロキシ化合物としては、芳香環に直接ヒドロキシ基が結合しているものであれば特に限定されず、例えば、アルキルフェノール類、アリールフェノール類、ハロゲン化フェノール類、ヘテロ原子を介してアルキル又はアリール基の結合したフェノール類等が挙げられる。具体的には、フェノール、クレゾール、ブチルフェノール等が挙げられる。中でも、フェノール(以下、PLと記すことがある。)が好ましい。
カルボニル化合物としては、炭酸ジエステルのカルボニル基を形成するものであれば特に限定されず、例えば、塩化カルボニル(ホスゲン)、一酸化炭素、炭酸ジアルキル等が挙げられる。中でも塩化カルボニル(以下、CDCと記すことがある。)が好ましい。
また、アルカリ系触媒としては、芳香族複素環式含窒素塩基性化合物が挙げられる。具体的には、例えば、ピリジン、キノリン、ピコリン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ベンゾトリアゾール等の、窒素原子が芳香族の5員環又は6員環中に存在する含窒素塩基性化合物が挙げられる。中でも、ピリジン(以下、PRDと記すことがある。)が好ましい。
【0018】
合成反応の条件は特に限定されないが、芳香族モノヒドロキシ化合物としてフェノールを使用する場合は、常圧下でフェノールが溶融状態にある50℃〜180℃が好ましい。また、芳香族モノヒドロキシ化合物とカルボニル化合物との混合比(モル比)は、芳香族モノヒドロキシ化合物1モルに対して、通常、カルボニル化合物0.40モル〜0.49モルが好ましい。
本実施の形態で使用する炭酸ジエステルは、上述したように芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を原料としてアルカリ系触媒存在下の合成反応が行われる反応工程後、反応液を脱塩化水素処理及び除去しきれない塩化水素をアルカリ性水溶液により中和処理して水洗する洗浄工程と、さらに、蒸留工程を経て製造される。以下、塩化水素を塩酸と称することがある。
以下、芳香族モノヒドロキシ化合物としてフェノール(PL)を使用し、カルボニル化合物として塩化カルボニル(CDC)を用い、炭酸ジエステルであるジフェニルカーボネート(DPC)を製造する製造プロセス(DPC製造工程)を例に挙げ、本発明を説明する。
【0019】
(DPC製造工程)
図1は、DPC製造プロセスの一例を説明する工程フロー図である。図1に示すように、DPCは、PL及びCDCとの反応を行わせるDPC反応工程と、DPC反応工程で得られた反応液から塩酸ガスを除く脱塩酸工程と、脱塩酸処理された反応器を中和及び水洗処理するDPC洗浄工程と、中和及び水洗処理された反応液を蒸留しDPCを留出させるDPC蒸留工程と、を経て製造される。
また、図1には、DPC蒸留工程における蒸留残渣を再び蒸留する回収蒸留工程と、DPC蒸留工程から得られたDPCをフレーク状に成形するDPC固化工程と、脱塩酸工程で生じた塩酸ガスを回収処理する塩酸吸収工程とが示されている。
【0020】
(DPC反応工程)
図1に示すように、DPC反応工程においては、原料であるPL及びCDCと、アルカリ系触媒としてピリジン(PRD)とが反応器11に導入され、DPC合成反応が行われる。PLは、予め加熱装置を備えた貯留タンク10で溶融状態に調製される。CDCは、一酸化炭素及び塩素を用いた合成反応により合成されている。PRDは、PLの供給配管の中途に供給される。
反応器11におけるDPC合成反応の反応条件は特に限定されないが、通常、PLが溶融状態にある50℃〜180℃、常圧下で行われる。また、PLとCDCの混合比(モル比)は、CDCの完全消費の観点から、通常、PL1モルに対して、CDC0.40モル〜0.49モルが好ましい。DPC反応工程については、後段でさらに説明する。
【0021】
(脱塩酸工程)
脱塩酸工程では、DPC反応工程で得られたDPC含有反応液aが脱塩酸塔12に送られて脱塩酸処理され、得られた脱塩酸処理液bはDPC洗浄工程に送られる。
尚、反応器11及び脱塩酸塔12で生じた塩酸ガス(D1)は、それぞれ、反応器11の気相部と脱塩酸塔12の塔頂とから回収され、塩酸吸収工程に送られる。さらに、塩酸吸収工程では、反応器11及び脱塩酸塔12で生じた塩酸ガス(D1)は、吸収塔31で水又は希塩酸に吸収されて濃塩酸の状態で貯留タンク32に貯蔵される。
【0022】
(DPC洗浄工程)
DPC洗浄工程は、中和工程及び水洗工程から構成される。即ち、脱塩酸工程で得られた脱塩酸処理液bは、混合槽13に送られ、次いで、アルカリ中和槽14に送られる。アルカリ中和槽14では、アルカリ性水溶液(E1)を用いて脱塩酸塔12で除去しきれなかった塩酸が中和される(中和工程)。アルカリ中和槽14から排出される中和排水(D2)は、排水処理工程(図示せず)に送られ、含有する有効な有機成分を回収した後、活性汚泥処理に付される。
アルカリ中和槽14で中和処理された中和処理液eは、水洗槽15に送られ、水(W)で水洗され(水洗工程)、続いてDPC蒸留工程に送られる。尚、水洗槽15から排出される排水(D3)は、アルカリ中和槽14に供給されるアルカリ性水溶液(E1)を調整する際のアルカリ希釈剤として再利用することが可能である。
【0023】
(DPC蒸留工程)
DPC蒸留工程では、先ず、水洗槽15で水洗処理された水洗処理液fが第1DPC蒸留塔16に送られ、水、PL及びアルカリ系触媒を含有する混合ガス(F)と、蒸留残渣gとに分離される。続いて、第1DPC蒸留塔16の蒸留残渣gが第2DPC蒸留塔17で再蒸留され、製品である精製されたDPCが第2DPC蒸留塔17の塔頂から蒸留分として回収される。
第2DPC蒸留塔17の塔頂から回収されたDPCはDPC固化工程において、溶融タンク19に貯蔵された後、溶融DPCがフレーカー20に供給され、フレーク状DPCとして回収される。
尚、混合ガス(F)は、第1DPC蒸留塔16の塔頂から回収され、各成分を分離して、反応系に再利用することができる。
【0024】
第1DPC蒸留塔16における蒸留条件は、水、アルカリ系触媒、PLが蒸留され、DPCが残留する条件であれば特に限定されるものではなく、通常、圧力1.3kPa〜13kPaの範囲である。蒸留温度は、前述した圧力下での沸点となる。また、第2DPC蒸留塔17における蒸留条件としては、DPCが蒸留され、DPCより高沸の不純物が残留する条件であれば特に限定されるものではなく、通常、圧力1.3kPa〜6.5kPa、温度150℃〜220℃が好ましい。
【0025】
(回収蒸留工程)
回収蒸留工程では、第2DPC蒸留塔17におけるDPC蒸留残渣X1が、DPC回収蒸留塔18を用いて蒸留され、DPC含有回収液dが蒸留回収される。また、DPCのメチル置換体が濃縮されたDPC回収蒸留残渣(X1’)が蒸留釜残側から回収される。
第2DPC蒸留塔17でのDPC蒸留残渣X1には、フェノール含有不純物であるメチルフェノール等が反応したDPCのメチル置換体等の他、DPCそのものも含まれる。このため、このDPC蒸留残渣X1を再び蒸留することにより、ジフェニルカーボネート(DPC)が回収される。
【0026】
DPC回収蒸留塔18の蒸留条件としては、DPCが蒸留され、DPCより高沸の不純物が残留する条件であれば特に限定されるものではなく、通常、圧力1.3kPa〜6.5kPa、温度150℃〜220℃の範囲である。
DPC回収蒸留塔18からの留出物であるDPC含有回収液dは、DPCを多く含むため、これを、混合槽13に送ることにより、ジフェニルカーボネート(DPC)の回収効率をより向上させることができる。
【0027】
次に、DPC反応工程についてさらに説明する。
図2は、ガラスライニング反応装置である反応器を説明する図である。図2に示すように、DPC合成反応が行われる反応器11は、撹拌機11aを備え、反応器11に溶融状態のPLを導入するためのPL配管11cと、ガス状態のCDCを導入するためのCDC配管11bとが配置されている。また、DPC合成反応の際に副生する塩化水素ガスを気相部から除くためのベント配管11dと、DPC含有反応液を次工程に排出するための排出配管11eとが接続されている。尚、反応器11には、例えばオイル循環方式の外部加熱/冷却装置に接続されたジャケット(図示せず。)が設けられている。
【0028】
本実施の形態において、PL及びCDCを原料とするDPC合成反応では副生物として塩化水素が生じるため、反応器11には、ガラスライニング反応装置が用いられる。同様に、反応器11に設けられた撹拌機11aもガラス被覆されている。また、反応器11に接続されたPL配管11cとCDC配管11bもガラスライニング製配管である。
ここで、撹拌翼11aの種類としては、CDCのガス分散効率を向上させうるものであれば特に限定されす、通常、一般的なタービン翼、ファウドラー翼、デイスクタービン翼、フルゾーン翼(株式会社神鋼環境ソリューション製)、マックスブレンド翼(住重機器システム株式会社製)等が使用される。尚、撹拌混合を向上させるにはバッフルを設置することが好ましい。
【0029】
(DPC合成反応)
DPC合成反応は、貯留タンク10(図1参照)において加熱溶融したPLをPL配管11cから、ガス状のCDCをCDC配管11bから、それぞれ反応器11に連続的に供給し、通常、反応温度(T)50℃〜180℃、好ましくは120℃〜170℃で、撹拌機11aによる撹拌を行いながら行われる。
ここで、原料であるPLの供給温度(T)は、反応温度(T)より低温であることが好ましい。具体的には、供給温度(T)(単位℃)と反応温度(T)(単位℃)との温度差(ΔT=|T−T|)(単位℃)が100℃以下、好ましくは、80℃以下である。供給温度(T)と反応温度(T)との温度差(ΔT)が過度に大きいと、ガラスライニング製の反応器11の原料供給口付近での熱ショックによる破損が懸念される。
【0030】
尚、アルカリ系触媒であるPRDはPL配管11c中に供給され、加熱溶融したPLと混合して反応器11に導入される。また、CDCは反応器11内の液相部に導入される。さらに、反応器11内のDPC含有反応液は、オーバーフロー管である排出配管11eにより反応器11外に排出される。さらに、DPC合成反応によって発生した副生塩化水素及び未反応ホスゲンは、ベント配管11dから排出される。
【0031】
本実施の形態では、原料の一つであるPLを、反応温度(T)より低温である温度(供給温度T)で反応器11に供給することにより、PLの供給温度(T)(単位℃)と反応温度(T)(単位℃)との温度差(ΔT=|T−T|)(単位℃)に基づくPLの顕熱量(QP)により、反応温度(T)における反応熱量(QL)の50%〜150%、好ましくは、80%〜120%に相当する熱量を、反応系から除去することが可能となり、その結果、DPC合成反応における反応温度を制御することができる。
【0032】
これを具体的な数値に基づき説明する。
本実施の形態におけるPLとCDCとを用いるDPC合成反応は以下のように表される。
2PL(液)+CDC(気)→DPC(液)+2HCl(気)
即ち、DPC合成反応は、2モルのPLに対し、1モルのDPCが合成される発熱反応である。
ここで、反応温度(T)が150℃の場合、DPC合成反応の反応熱量(QL)は、150℃(1atm)におけるDPCの反応エンタルピーとして、(−7.2kcal/mol−DPC:発熱)が求められる。
【0033】
一方、PLを、反応温度(T)より低温である75℃(供給温度T)で反応器11に供給すると、PLの供給温度(T)と反応温度(T)との温度差(ΔT=150−75)(単位℃)に基づくPL1モル当たりの顕熱量(QP)は、75℃におけるPLのエンタルピー(−34.6kcal/mol−PL)と150℃におけるPLのエンタルピー(−31.0kcal/mol−PL)との差(3.6kcal/mol−PL:吸熱)として求められる。
【0034】
ここで、前述したように、DPC合成反応は、2モルのPLに対し1モルのDPCが合成される発熱反応であるから、原料PLを75℃で反応系に供給すれば、PLの顕熱量(QP)は、7.2kcal/mol−DPC換算(=3.6kcal/mol−PL×2mol−PL/mol−DPC:吸熱)となる。
この結果、反応温度(T)150℃における反応熱量(QL)は、原料PLの昇温(75℃→150℃)に消費され、実質的に熱収支がゼロとなるため、反応器11内の反応液とジャケット側との熱交換が殆ど不要となる。
【0035】
また、本実施の形態では、合成反応に使用する複数の原料(ここでは、PL及びCDC)を、反応温度(T)より低温である温度(供給温度T)で反応器11に供給することにより、各原料の供給温度と反応温度との温度差に基づく各顕熱量の合計量により、反応温度(T)における反応熱量(QL)の50%〜150%、好ましくは80%〜120%、更に好ましくは、90%〜110%に相当する熱量を、反応系から除去することが可能となる。
【0036】
即ち、前述の通り、原料PLの顕熱量(75℃供給→150℃)は、7.2kcal/mol−DPC吸熱(=3.6kcal/mol−PL×2mol−PL/mol−DPC)となる。これは、150℃の反応熱量(7.2kcal/mol−DPC発熱)の100%に相当する。
さらに、原料CDCの顕熱量(110℃供給→150℃)は、0.6kcal/mol−DPC吸熱(=0.6kcal/mol−CDC×1mol−CDC/mol−DPC)となる。これは、150℃の反応熱量(7.2kcal/mol−DPC発熱)の8%に相当する。
そして、原料PLと原料CDCの各顕熱量の合計量は100%+8%=108%となる。
【0037】
このように、本実施の形態において、DPC合成反応における反応熱量(QL)を、原料であるPLの顕熱量(QP)で相殺することができる。これにより、通常、ガラスライニング反応装置の温度制御に使用される外部熱交換器や熱媒・冷媒用循環ポンプ等が不要になったり、あるいは負荷を低減することができ、反応装置の大型化が可能となる。
本実施の形態では、発熱反応であるDPC合成反応を例に挙げて説明したが、吸熱反応の場合にも適用することができる。
即ち、吸熱反応の場合は、少なくとも1つの原料を反応温度(T)より高温の供給温度(T)で反応系に導入することにより、反応熱量(QL)(吸熱)に相当する熱量を反応系に供給することができ、反応温度を制御することが可能となる。
【0038】
尚、本実施の形態におけるDPC合成反応は、通常、気液接触の形態で行われる。この場合、CDCをPRDが溶存するPL含有反応液中に導入して、両反応原料を接触させて反応させる場合、CDCの反応液への拡散が重要である。このため、撹拌機11aによる反応液の強撹拌が必要である。
本実施の形態では、ガラスライニング反応装置である反応器11を用いることから、撹拌機11aのインペラの先端周速度が、通常、3m/s〜10m/s、好ましくは、5m/s〜8m/sとなるように、撹拌機11aを回転させることが必要である。撹拌機11aのインペラの先端周速度が過度に大きいと、エロージョン又はコロージョンにより反応器11の内面が侵食又は腐食する畏れがある。一方、インペラの先端周速度が過度に小さいと、CDCガスの分散不良を招き、CDCが吹き抜けたり、反応液の温度分布を生じ、反応温度の均一な制御が困難となり、製品の品質が低下する虞がある。
【0039】
また、本実施の形態において、前述したように、原料である加熱溶融したPLは、ガラスライニング製配管であるPL配管11cから反応器11に連続的に供給され、また、ガス状のCDCは同様にガラスライニング製配管であるCDC配管11bから反応器11に連続的に供給される。
このとき、原料である加熱溶融したPLは、流速2m/s以下、好ましくは1.5m/s以下で反応器11内に供給される。また、ガス状のCDCは、ガス流速15m/s以下、好ましくは10m/s以下で反応器11内に供給される。ガラスライニング製配管を用いるPLの液流速又はCDCのガス流速が過度に大きいと、ガラスライニング製配管のガラス層やエナメル層が損傷を受ける畏れがある。
【0040】
以上詳述したように、本実施の形態において、DPC合成反応における反応熱量(QL)を、原料であるPLの顕熱量(QP)で相殺することにより、外部熱交換器等を用いることなく反応温度を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】DPC製造プロセスの一例を説明する工程フロー図である。
【図2】ガラスライニング反応装置である反応器を説明する図である。
【符号の説明】
【0042】
10,32…貯留タンク、11…反応器、12…脱塩酸塔、13…混合槽、14…アルカリ中和槽、15…水洗槽、16…第1DPC蒸留塔、17…第2DPC蒸留塔、18…DPC回収蒸留塔、19…溶融タンク、20…フレーカー、31…吸収塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスライニング反応装置に配管を介して複数の原料を供給し、所定の反応温度で反応を行う反応方法において、
少なくとも1つの前記原料を反応系中に供給する際の供給温度と前記反応温度との温度差に基づく当該原料の顕熱量(QP)により、前記反応温度における反応熱量(QL)の50%〜150%に相当する熱量を、当該反応系に供給する若しくは当該反応系から除去することを特徴とするガラスライニング反応装置を用いる反応方法。
【請求項2】
前記顕熱量(QP)が、前記反応熱量(QL)の80%〜120%に相当する熱量であることを特徴とする請求項1記載のガラスライニング反応装置を用いる反応方法。
【請求項3】
前記顕熱量(QP)が、前記反応系に供給する複数の前記原料の顕熱量の合計量であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラスライニング反応装置を用いる反応方法。
【請求項4】
前記供給温度と前記反応温度との温度差が100℃以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載のガラスライニング反応装置を用いる反応方法。
【請求項5】
前記ガラスライニング反応装置は、さらにガラス被覆された撹拌機を有し、
前記撹拌機のインペラの先端周速度が3m/s〜10m/sであることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載のガラスライニング反応装置を用いる反応方法。
【請求項6】
前記配管の内面がガラスライニングされており、前記原料を流速2m/s以下で前記反応系に供給することを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項に記載のガラスライニング反応装置を用いる反応方法。
【請求項7】
前記反応は、芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を原料とし、炭酸ジエステルを生成する発熱反応であり、
前記発熱反応で生じる反応熱量(QL)に相当する熱量を、前記反応系に供給する前記芳香族モノヒドロキシ化合物の供給温度と前記反応温度との温度差に基づく顕熱量(QP)により、当該反応系から除去することを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項に記載のガラスライニング反応装置を用いる反応方法。
【請求項8】
前記芳香族モノヒドロキシ化合物がフェノールであり、前記カルボニル化合物が塩化カルボニルであり、前記炭酸ジエステルがジフェニルカーボネートであることを特徴とする請求項7に記載のガラスライニング反応装置を用いる反応方法。
【請求項9】
ガラスライニング反応装置を用い、所定の反応温度で芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を反応させる炭酸ジエステルの製造方法であって、
前記芳香族モノヒドロキシ化合物を前記ガラスライニング反応装置中に供給する際の供給温度と前記反応温度との温度差に基づく当該芳香族モノヒドロキシ化合物の顕熱量(QP)により、前記反応温度における反応熱量(QL)の50%〜150%に相当する熱量を反応系から除去することを特徴とする炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項10】
前記反応温度が、50℃〜180℃であることを特徴とする請求項9に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項11】
前記供給温度が、80℃以下であることを特徴とする請求項9又は10に記載の炭酸ジエステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−231073(P2008−231073A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76382(P2007−76382)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】