説明

ガラス基板用化学研磨液、及びそれを用いたガラス基板の研磨方法

【課題】従来よりも寿命が長い、ガラス基板表面を薄板化研磨するためのガラス基板用化学研磨液を提供する。
【解決手段】フッ酸及びフッ化アンモニウムの混合溶液が0.5〜10容量%(好ましくは、2〜8容量%、より好ましくは、2〜8容量%)、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から選ばれた少なくとも1種類の酸溶液が20〜60容量%の割合で含まれていることを特徴とするガラス基板用化学研磨液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板用化学研磨液、及びそれを用いたガラス基板の研磨方法に係わり、特に、ガラス基板表面に傷などの欠陥が発生するのを抑制するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイをはじめとする様々なフラットパネルディスプレイが製造されている。この製造工程では、基板寸法が概ね1200(横幅)×1000(縦幅)×0.4(厚さ)mmからなるガラス基板を、マザーガラス基板として使用し、この中に複数の液晶表示パネル基板を形成する。しかしながら、モバイルや携帯端末等の用途に使用される液晶ディスプレイでは小形・軽量化のニーズが著しく、製品として要求される液晶表示パネルの厚さが一般に0.2mm以下と言われている。従って、液晶ディスプレイの生産においては、マザーガラス基板を研磨等の手段を用いて所望の厚さに薄板化することが必要である。
ガラス基板の薄板化方法は化学研磨と機械研磨に大別される。前者は一般にフッ酸を主成分とするエッチング液を用いてガラス基板を溶解する方法であり、後者は酸化セリウム系の研磨液を用いてガラス基板を研磨する方法である。しかしながら、特に化学研磨によるガラス基板の薄板化においては研磨前のガラス基板表面に傷が存在すると、エッチング液がその傷を更に拡大させるように作用し、その結果としてガラス基板の平坦性が損なわれるという大きな問題があった。
このような傷が拡大される点に対して、特許文献1に化学研磨の後に機械研磨で微小欠陥を除去する方法が提案されている。また、特許文献2に研磨速度が1μm/sec以上の30〜60重量%フッ化水素水溶液を使用してガラス基板表面を研磨することにより傷の拡大を抑制する方法が提案されている。さらに、特許文献3には、フッ酸と、フッ化アンモニウムと、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から選ばれた少なくとも1種類の酸溶液を水に混合した研磨液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−15111号公報
【0004】
【特許文献2】特開2003−226552号公報
【0005】
【特許文献3】特開2009−73711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている方法を液晶ディスプレイパネルの製造工程に適用した場合、化学研磨と機械研磨の2つの研磨工程を必要とし、大掛かりな設備上の制約やパネルの生産コストアップにつながるという課題があった。
一方、特許文献2に記載されている方法は傷の拡大は抑制されるものの、研磨速度が大きいためにガラス表面でのエッチング量の不均一が生じやすく、その結果としてガラス表面のうねりが顕著になるという問題点を有していた。また、ガラス基板表面に大きな傷が存在する場合、例えば長さが40μm以上の傷が存在する場合、エッチングによって傷が抑制されずに直径100μm以上に拡大するという欠点を有していた。
特許文献3に記載されている研磨液では、前述した問題点は解決できるが、特許文献3に記載されている研磨液は、寿命が短く、研磨液が短期間で劣化するという問題点があった。
本発明は、前記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、従来よりも寿命が長い、ガラス基板表面を薄板化研磨するためのガラス基板用化学研磨液と、当該ガラス基板用化学研磨液を使用するガラス基板の研磨方法を提供することにある。
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、下記の通りである。
前述した課題を解決するための本発明の好適な化学研磨液は、次の通りである。なお、化学研磨液の組成は全て容量%で表記する。
本発明のガラス基板用化学研磨液は、フッ酸及びフッ化アンモニウムの混合溶液が0.5〜10容量%(好ましくは、1〜8容量%、より好ましくは、2〜8容量%)、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から選ばれた少なくとも1種類の酸溶液が20〜60容量%の割合で含まれていることを特徴とする。
また、本発明のガラス基板用化学研磨液は、フッ酸及びフッ化アンモニウムの混合溶液、並びに塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から少なくとも1種類の酸を含み、前記フッ酸の濃度が0.5〜10容量%(好ましくは、1〜9容量%、より好ましくは、1.5〜7.5容量%)であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のガラス基板用化学研磨液は、フッ酸及びフッ化アンモニウム、並びに塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から少なくとも1種類の酸を含み、前記フッ化アンモニウムの濃度が0.5〜5容量%であることを特徴とする。
また、本発明の化学研磨液は、フッ酸、フッ化アンモニウム及び塩酸を含み、且つ塩酸の濃度が20〜40容量%であることを特徴とする。
また、本発明のガラス基板用化学研磨液は、フッ酸、フッ化アンモニウム及び硫酸を含み、且つ硫酸の濃度が20〜60容量%(好ましくは、25〜60容量%、より好ましくは、30〜60容量%)であることを特徴とする。
さらに、本発明は、前述のガラス基板用研磨液を使用する、封止剤を介して互いに貼り合わせた第1のガラス基板と第2ガラス基板の少なくとも一方のガラス基板の表面を薄板化研磨するガラス基板の研磨方法である。
【発明の効果】
【0009】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、下記の通りである。
本発明によれば、従来よりも寿命が長い、ガラス基板表面を薄板化研磨するためのガラス基板用化学研磨液と、当該ガラス基板用化学研磨液を使用するガラス基板の研磨方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例のガラス基板用化学研磨液、及びそれを用いたガラス基板の研磨方法が適用される液晶表示パネルの製造工程を説明する工程フローチャートである。
【図2】図1の貼り合わせ工程で貼り合わされた一対のマザーガラス基板を模式的に示す平面図である。
【図3】図1に示す工程を経て作製された液晶表示パネルの断面構造を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施例のガラス基板用化学研磨液における、フッ酸とフッ化アンモニウムの混合液の濃度と傷の深さの関係を示すグラフである。
【図5】液晶表示パネルのガラス基板に発生した傷の断面、及びガラス基板に偏光板を貼り付けた状態を示す模式図である。
【図6】本発明の実施例のガラス基板用化学研磨液における、フッ酸の濃度と傷の深さの関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例のガラス基板用化学研磨液における、フッ化アンモニウムの濃度と傷の深さとの関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例のガラス基板用化学研磨液における、塩酸の濃度と傷の深さとの関係を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例のガラス基板用化学研磨液における、硫酸の濃度と傷の深さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を液晶表示装置の製造方法に適用した実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施例は、本発明の特許請求の範囲の解釈を限定するためのものではない。
[実施例1]
先ず、携帯電話やモバイル機器の表示ディスプレイとして使用される、液晶表示パネルの製造方法について説明する。なお、以下の説明では、化学研磨液の組成は、容量%で表記した。
図1は、本発明の実施例のガラス基板用化学研磨液、及びそれを用いたガラス基板の研磨方法が適用される液晶表示パネルの製造工程を説明する工程フローチャートである。また、図2は、図1の貼り合わせ工程(103)で貼り合わされた一対のマザーガラス基板(1,2)を模式的に示す平面図である。さらに、図3は、図1に示す工程を経て作製された液晶表示パネルの断面構造を模式的に示す断面図である。
図1の薄膜トランジスタ形成工程101は、第1のガラス基板1(マザーガラス)上に良く知られた薄膜プロセスを用いて複数の薄膜トランジスタ素子3(アレイ)を形成する工程であり、露光、現像、エッチングなどから成るフォトリソグラフィプロセスを繰り返して形成される。その後、形成した薄膜トランジスタ素子3の上に配向膜(図示せず)が形成され、この配向膜上に液晶6を配向させるためのラビング処理が施される。
一方、カラーフィルタ形成工程102は、第2のガラス基板2(マザーガラス)上に、RGBからなるカラーフィルタ素子4を形成するカラーフィルタ形成工程である。カラーフィルタ素子4の形成は、よく知られた染料塗布法あるいは印刷法が用いられる。
【0012】
次に、第1のガラス基板1、もしくは第2のガラス基板2の少なくとも一方のガラス基板上に、個々の薄膜トランジスタ素子3(またはカラーフィルタ素子4)に対応し、表示画素を形成する領域であって、液晶6が封止込められる領域に製品シール5を、そして、複数の表示画素で構成された表示領域を形成するガラス基板の周辺には外周シール25を、よく知られたディスペンサによる塗布法やスクリーン印刷法を用いて同時に印刷する。ここでは、ディスペンサによる塗布法を用いた。
次に、貼り合わせ工程103において、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを、素子形成面同士が対向するように貼り合わせる。なお、図2において、20は貼り合わされた一対のマザーガラス基板(1,2)を示し、セル22は、後の個片化切断工程105において、個別に切断されて液晶表示パネル7となる部分である。また、図2では3×3の行列で9個のセル22が図示されているが、実際には生産効率を高めるために数百個のセル22、例えば200個のセル22が配置される。
この一対のガラス基板で構成される液晶表示パネル7を、携帯電話や携帯端末の表示ディスプレイとして使用するためには、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2の少なくとも一方のガラス基板の厚さを0.2mm程度に薄板化することが必要である。
薄板化研磨工程104は、化学研磨液を用いてガラス基板の厚さを薄くする工程である。この工程では化学研磨液を用いるため、仮にガラス基板表面に微小な傷が存在するとその傷が拡大され、液晶表示パネルとしての機能が損なわれてしまう。従って、使用する研磨液には、傷の拡大抑制が可能であるばかりでなく、ガラス基板表面全体の平坦性を維持可能な特性を有することが望まれる。
【0013】
そして、当然のことながら、シール材のシール性能に悪影響を及ぼさないことは言うまでもない。ここで、第1のガラス基板1、もしくは第2のガラス基板2の何れかが薄板化研磨を不要とする場合は、保護用のフィルムなどを貼り付ける方式が一般に行われている。
その後、個片化切断工程105は、貼り合わされた一対のマザーガラス基板(1,2)を所定の表示領域を有する液晶表示パネル7に切断するための個片化切断工程である。ガラス基板の切断には、カッターホイールを用いたスクライブ切断方法を用いた。
液晶封入・封止工程106は、前記の製品シール5で囲まれた領域に液晶を封入した後、封入口を封止する。
最後に、偏光板形成工程107は、前述の液晶表示パネル7のガラス基板の表面に偏光板を貼る工程であり、これによって液晶表示パネル7が完成する。
ところで、前述した液晶表示パネルの製造工程では、マザーガラスの状態で貼り合わせた一対のガラス基板(1,2)をマザーガラスの状態で薄板化研磨を行った。しかしながら、予め製品シール5で囲まれた領域に滴下方式で液晶を封入し、かつ、個片化切断工程105と、薄板化研磨工程104との順序を入れ替えて、所定の大きさの液晶表示パネルに個片化切断した後、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2の少なくとも一方のガラス基板の表面に対して薄板化研磨を行っても良い。
【0014】
次に、薄板化研磨工程104において使用する化学研磨液の最適化について検討した。
図4は、化学研磨液としてフッ酸及びフッ化アンモニウムの混合溶液を用い、その濃度とガラス表面に発生する傷の深さとの関係を示すグラフである。
なお、フッ酸及びフッ化アンモニウムの混合溶液は、原液の濃度50%及び40%に各々調整された溶液を所定の濃度になるように計量し、溶媒として水を用いて調合した。また、酸としては硫酸を用いた。硫酸の濃度は、50%で一定とした。調合した化学研磨液の温度は、40℃に調節して使用した。
検討に用いたガラス基板は、プラスチック製のエッチング槽(図示せず)に充填した化学研磨液に全体を浸漬させて、ガラス基板片側における平均エッチング量が30μmとなるように所定の時間エッチングを行った。エッチング後は、従来の洗浄方法にて化学研磨液を完全に除去した。
次に、化学研磨に伴うガラス基板の表面に発生する傷の評価は、次の手順で行った。先ず、予め鋭利な工具、例えばダイヤモンドペンを用いて一定の加圧力でガラス表面に傷を形成した。そして、化学研磨後に成長した傷の深さは、レーザ変位計を用いて測定した。 図4において、ガラス表面の傷の深さは、フッ酸及びフッ化アンモニウム混合溶液の濃度に対して最適値が存在する傾向を示す。
【0015】
なお、傷の深さを15μm、好ましくは12μm、より好ましくは10μm以下に制御しなければならない理由を、図5に示した模式図で説明する。
前述したように薄板化研磨後のガラス基板1もしくは2の表面には、偏光板9が貼り付けられる。ここで、ガラス基板1もしくは2の表面に比較的大きな傷8が存在する場合、偏光板9と傷8の間には空間が生じる。したがって、検査工程で傷8と偏光板9との空間で光が散乱し、光学的な不良と判定される。
一方、ガラス基板1もしくは2の表面に比較的小さな傷8’が存在する場合、偏光板9の粘着剤(図示せず)が変形し傷8’に埋め込まれるため、見かけ上傷8’を修復する効果が期待される。
この修復効果を実験的に確認するため、各種深さの傷を形成したガラス基板を用いて液晶パネルを作製した。次に、検査工程での所定の光学的な表示性能の規格値を満たす傷の深さの最大値は15μm、好ましくは12μm、より好ましくは10μmであることを確認した。
ここで、図4において、傷の深さを目標値の15μm以下に制御するためには、フッ酸及びフッ化アンモニウム混合溶液の濃度を、0.5〜10%に、また、傷の深さを目標値の12μm以下に制御するためには、フッ酸及びフッ化アンモニウム混合溶液の濃度を、1〜10%に、さらに、10μm以下に制御するためには、フッ酸及びフッ化アンモニウム混合溶液の濃度を、2〜8%に調合すればよいことが分かった。また、図示してないが、上記の濃度範囲では、ガラス基板の面あれも異常がなかった。
なお、本実施例では、フッ酸及びフッ化アンモニウム混合溶液に硫酸を混合したが、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から選ばれた少なくとも一種類の酸を加えても同様の効果が得られる。また、硫酸の濃度は、50%で一定としたが、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から選ばれた少なくとも一種類の酸の濃度は、20〜60%でも同様の効果を得ることができる。
【0016】
図6は、フッ化アンモニウムの濃度を0.5%、硫酸の濃度を50%の一定とし、フッ酸の濃度を変化させたときのガラス基板上における傷の深さとの関係を表す。ここで、溶媒として水を用いて混合溶液の濃度を調整した。また、混合溶液の温度は40℃とした。
図4の場合と同様に、傷の深さはフッ酸の濃度に反比例して小さくなる傾向を示す。傷の深さを目標値の15μm以下に制御するためには、フッ酸の濃度を、0.5〜10%に、また、傷の深さを目標値の12μm以下に制御するためには、フッ酸の濃度を、1〜9%に、さらに、10μm以下に制御するためには、フッ酸の濃度を、1.5〜7.5%に調合すればよいことが分かった。また、図示してないが、上記の濃度範囲では、ガラス基板の面あれも異常がなかった。
図7は、フッ酸の濃度を0.5%、硫酸の濃度を50%の一定とし、フッ化アンモニウムの濃度を変化させたときのガラス基板上における傷の深さとの関係を表す。ここで、溶媒として水を用いて混合溶液の濃度を調整した。また、混合溶液の温度は40℃とした。
図6の場合と同様に、傷の深さはフッ化アンモニウムの濃度に反比例して小さくなる傾向を示すが、傷の深さは、目標値の15μm以下に制御するためには、フッ化アンモニウムの濃度を、0.5〜5%に調合すればよいことが分かった。また、図示してないが、上記の濃度範囲では、ガラス基板の面あれも異常がなかった。
【0017】
図8は、フッ酸とフッ化アンモニウムの濃度を6%で一定とし、塩酸の濃度を変化させたときのガラス基板上における傷の深さとの関係を表す。ここで、溶媒としては、水を用いて混合溶液の濃度を調整した。また、混合溶液の温度は40℃とした。
図8において、傷の深さは塩酸の濃度に反比例して小さくなる傾向を示し、塩酸の濃度20%以上で傷の深さはほぼ一定値を示す。傷の深さを目標値の15μm以下に制御するためには、塩酸の濃度を、0.5%以上に、また、傷の深さを目標値の12μm以下に制御するためには、塩酸の濃度を、19%以上に、さらに、10μm以下に制御するためには、塩酸の濃度を、20%以上に調合すればよいことが分かった。なお、塩酸の濃度の上限値は、傷の深さを15μm、好ましくは12μm、より好ましくは10μm以下に制御するいずれの場合でも、40%以下であることが望ましい。
図9は、フッ酸とフッ化アンモニウムの濃度を6%で一定とし、硫酸の濃度を変化させたときのガラス基板上における傷の深さとの関係を表す。ここで、溶媒としては、水を用いて混合溶液の濃度を調整した。また、混合溶液の温度は40℃とした。
図8と同様に、傷の深さは硫酸の濃度に反比例して小さくなる傾向を示し、硫酸の濃度50%以上で傷の深さはほぼ一定値を示す。傷の深さを目標値の15μm以下に制御するためには、硫酸の濃度を、0.5%以上に、また、傷の深さを目標値の12μm以下に制御するためには、塩酸の濃度を、25%以上に、さらに、10μm以下に制御するためには、硫酸の濃度を、30%以上に調合すればよいことが分かった。
なお、硫酸の濃度の上限値は、傷の深さを15μm、好ましくは12μm、より好ましくは10μm以下に制御するいずれの場合でも、60%以下であることが望ましい。
【0018】
以上説明したように、本実施例によれば、フッ酸及びフッ化アンモニウム混合溶液の濃度、更にはそこに添加される塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から選ばれた少なくとも一種類の酸の濃度を適切に管理することによって、ガラス基板表面に発生する傷の深さを抑制することが出来ることが確認できた。
さらに、本実施例のガラス基板用化学研磨液は、従来のガラス基板用化学研磨液よりも寿命を伸ばすことができることが分かった。
しかしながら、図1のプロセスフローを経て完成した液晶表示パネル基板としての要求事項は表示特性であり、その経時的な信頼性である。そこで、上記した化学研磨液を用いて薄板化処理を施した一対の液晶表示パネル基板をモバイル機器に適用し、その表示・動作特性試験及び環境試験を実施した。
その結果、点灯試験による輝度などの光学特性や、駆動電圧、電流などの電気特性や、機械的強度試験及び環境試験の項目で液晶表示装置として要求される表示特性に問題のないことを確認した。
このように、本実施例のガラス基板用化学研磨液、及びそれを用いたガラス基板の研磨方法により、ガラス基板に傷などの欠陥が少ない表面品位に優れた液晶表示パネルを製造でき、液晶表示パネルの品質、歩留り向上や低コスト化に達成することが可能となる。
以上、本発明者によってなされた発明を、前記実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0019】
1 第1のガラス基板
2 第2のガラス基板
3 薄膜トランジスタ素子
4 カラーフィルタ素子
5 製品シール
6 液晶
7 液晶表示パネル
8 傷
8’ 比較的小さな傷
9 偏光板
20 貼り合わされた一対のマザーガラス基板
22 セル
25 外周シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ酸及びフッ化アンモニウムの混合溶液が0.5〜10容量%、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から選ばれた少なくとも1種類の酸溶液が20〜60容量%の割合で含まれていることを特徴とするガラス基板用化学研磨液。
【請求項2】
フッ酸及びフッ化アンモニウムの混合溶液が1〜10容量%、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から選ばれた少なくとも1種類の酸溶液が20〜60容量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項1に記載のガラス基板用化学研磨液。
【請求項3】
フッ酸及びフッ化アンモニウムの混合溶液が2〜8容量%、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から選ばれた少なくとも1種類の酸溶液が20〜60容量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項2に記載のガラス基板用化学研磨液。
【請求項4】
フッ酸及びフッ化アンモニウムの混合溶液、並びに塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から少なくとも1種類の酸を含み、前記フッ酸の濃度が0.5〜10容量%であることを特徴とするガラス基板用化学研磨液。
【請求項5】
フッ酸及びフッ化アンモニウムの混合溶液、並びに塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から少なくとも1種類の酸を含み、前記フッ酸の濃度が1〜9容量%であることを特徴とする請求項4に記載のガラス基板用化学研磨液。
【請求項6】
フッ酸及びフッ化アンモニウムの混合溶液、並びに塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から少なくとも1種類の酸を含み、前記フッ酸の濃度が1.5〜7.5容量%であることを特徴とする請求項5に記載のガラス基板用化学研磨液。
【請求項7】
フッ酸及びフッ化アンモニウム、並びに塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸の中から少なくとも1種類の酸を含み、前記フッ化アンモニウムの濃度が0.5〜5容量%であることを特徴とするガラス基板用化学研磨液。
【請求項8】
フッ酸、フッ化アンモニウム及び塩酸を含み、且つ塩酸の濃度が20〜40容量%であることを特徴とするガラス基板用化学研磨液。
【請求項9】
フッ酸、フッ化アンモニウム及び硫酸を含み、且つ硫酸の濃度が20〜60容量%であることを特徴とするガラス基板用化学研磨液。
【請求項10】
フッ酸、フッ化アンモニウム及び硫酸を含み、且つ硫酸の濃度が25〜60容量%であることを特徴とする請求項9に記載のガラス基板用化学研磨液。
【請求項11】
フッ酸、フッ化アンモニウム及び硫酸を含み、且つ硫酸の濃度が30〜60容量%であることを特徴とする請求項10に記載のガラス基板用化学研磨液。
【請求項12】
封止剤を介して互いに貼り合わせた第1のガラス基板と第2ガラス基板の少なくとも一方のガラス基板の表面を薄板化研磨するガラス基板の研磨方法であって、
前記請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の研磨液を、前記少なくとも一方のガラス基板の表面に研磨液を供給して研磨する工程を有することを特徴とするガラス基板の研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−236100(P2011−236100A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110904(P2010−110904)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【出願人】(506087819)パナソニック液晶ディスプレイ株式会社 (443)
【Fターム(参考)】