説明

ガラス基板積層構造体

【課題】
ガラス基板と光学フィルムの貼り合わせ積層体であって、光学フィルムの接着状態が強固で且つ密着性に優れ、しかも耐久性の良い積層体を提供すること、
【解決手段】
ガラス基板上に光学フィルムが接着剤層を介して積層されたガラス基板積層構造体であって、該ガラス基板における接着剤層側の表面は錫(Sn)またはその酸化物が少なくとも微粒子状に散在しかつ該接着剤層は、アクリル樹脂系接着剤層よりなる層であることを特徴とするガラス基板積層構造体。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス基板積層構造体に関する。さらに詳しくは。ガラス基板上に光学フィルムが接着剤層を介して積層した積層構造体に関し、殊にガラス基板と光学フィルムが接着剤層を介して優れた接着力で積層されかつその接着力が極めて耐久性を有している積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板は、優れた透明性、表明平滑性および剛性のために、種々の液晶表示装置やタッチパネルの基板材料として広く使用されている。例えば;ガラス基板はタッチパネルの基板材料として、特に下部基板材料として多く使用されている。タッチパネルの場合、ガラス基板は、その片面に導電性膜、例えばITO膜(Indium
Tin Oxide膜)が蒸着法やスパッタリング法などにより形成されたものが使用されている。
一方、液晶表示材料としてガラス基板は、その表面に種々の光学フィルムを積層して利用されることが多い。
光学フィルムとしては例えば、偏光フィルム、防眩フィルム、ライトコントロールフィルム(LCF)、反射防止フィルム、視野角調整フィルムまたは電磁波シールフィルムなどがある。
【0003】
光学フィルムをガラス基板上に接着剤を使用して接着させると、接着施工後は接着状態が良好であっても、しばらく経過すると両者の接着力が弱まり、時には剥離することがある。殊に光学フィルムの材料としてポリエステルフィルム(代表的にポリエチレンテレフタレート)を使用し、接着剤としてアクリル系樹脂接着剤を使用した場合、ガラス基板と光学フィルムとは、接着後経時的に両者は接着力が低下し、一部に剥離現象を起こすことがある。この剥離現象は、ガラス基板と接着剤層の界面に主として起こっていることが観察された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明者は、ガラス基板とフィルムの接着力、殊に接着耐久性を改良するために、種々のガラス基板やその表面処理したものについて、接着力を調べた。その結果、意外にもガラス表面に、或る金属もしくはその酸化物が微粒子状に散在するか或いは極薄膜状で存在すると、優れた接着力を有しさらに接着耐久性を有することが判明した。
【0005】
すなわち、ガラス基板とフィルムとの接着力に優れ、且つ接着耐久性が大幅に改善されたガラス基板は、その表面に錫(Sn)が金属或いは酸化物として微粒子状に散在するか或いは極薄膜で存在するものであった。ガラス表面において錫(Sn)は、金属乃至酸化物として、微粒子状または極薄膜上で散在すればよく、全面に均一に膜状で存在することは必ずしも必要ではない。
ガラス表面上に散在する微粒子状乃至極薄膜状の錫(またはその酸化物)が、接着力の維持に寄与する理由は明確ではないが、結果的に錫(またはその酸化物)が表面に散在するガラス基盤とフィルムとの接着剤による接着力が強固になりしかも経時的変化にも接着力の低下が抑制される効果が達成されることは確かである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記知見に基づいて達成されたものである。すなわち、
本発明によれば;ガラス基板上に光学フィルムが接着層を介して積層されたガラス基板積層構造体であって、該ガラス基板における接着剤層側の表面は錫(Sn)またはその酸化物が少なくとも微粒子状に散在しかつ該接着剤層は、アクリル樹脂系接着剤層よりなる層であることを特徴とするガラス基板積層構造体が提供される。
また本発明の好ましい態様によれば、下記のガラス基板積層構造体およびそれを利用したタッチパネルが提供される。
(1)該ガラス基板は、錫フロートバス上に溶融したガラスを流延して製造されたものである前記(1)記載のガラス基板積層構造体。
(2)該光学フィルムが、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリカーボネートあるいはポリオレフィンより形成されたフィルムである前記(1)記載のガラス基板積層構造体。
(3)該光学フィルムが、偏光フィルム、防眩フィルム、ライトコントロールフィルム、反射防止フィルム、である前記(1)記載のガラス基板積層構造体。
(4)該ガラス基板は、表面に錫(Sn)またはその酸化物が、金属として少なくとも0.5%の割合で散在する前記(1)記載のガラス基板積層構造体。
(5)該接着剤層における接着剤は、アルキル基が炭素数4〜10のアクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とするアクリル系樹脂接着剤である前記(1)記載のガラス基板積層構造体。
(6)該錫の酸化物は、SnOxで表示され、Xが0<X<2の範囲の酸化物である請求項(1)記載のガラス基板積層構造体。
(7)前記(1)記載のガラス基板積層構造体を基板として使用したタッチパネル。
【発明の効果】
【0007】
本発明のガラス基板積層構造体は、ガラス基板と光学フィルムとがアクリル系接着剤により強力に接着し且つその接着力は耐久性に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、光学フィルムを積層とする側のガラス基板の表面には、錫(Sn)またはその酸化物が微粒子状で散在していることが特徴である。ガラス基板表面における錫(Sn)またはその酸化物(SnOxと表示し、Xは0<X<2の範囲である)は、ガラス基板表面の全体に亘って微粒子状で散在すればよく、また均一な薄膜状で存在していてもよい。ガラス基板表面上に存在する錫(またはその酸化物)の量は、金属としてSn原子濃度として少なくとも0.5%、好ましくは少なくとも1%であればよい。このSn原子濃度はESCA法による測定法に基づいて表面から20Åまでの深さにおける原子の濃度として表される値である。
【0009】
以下本明細書では、ガラス基板表面に光学フィルムを積層する側の面を“Sn面”と称する。ガラス基板のSn面に、前述した量のSnまたSnOxを有するガラス基板としては、その製造方法および処理方法は特に制限されないが下記の方法が例示される。
(a)錫フロート法により得られた板ガラス
板ガラスは、種々の製法により生産されているが、その1つの方法として錫フロート法がある。この方法は溶融した錫の上面に溶融したガラスを流延して板ガラスを製造する方法である。この錫フロート法によって得られた板ガラスは、溶融錫との接触面において、錫がガラス表面に微粒子状で散在している。一方溶融錫と接触しない上面(トップ面)は、表面に錫は殆ど存在しない。本発明では錫フロート法により得られたガラス基板の錫溶融面をSn面として使用することができる。
(b)板ガラスの表面に、溶融錫を接触処理した板ガラス、
SnまたはSnOxが表面に存在しないか殆ど存在しない板ガラスの表面に溶融した錫を流布し、接触させて得られた板ガラス。
(c)板ガラスの表面に、ITO膜を形成させた板ガラス、
板ガラスの表面に、ITO(Indium Tin Oxide)膜を蒸着法、CVD法またはスパッタリング法により形成させて得られた板ガラスは表面にSnOxが存在している。
(d)板ガラスの表面に、SnOx膜を形成させた板ガラス、
板ガラスの表面にSnOx膜を蒸着法、CVD法またはスパッタリング法により形成させて得られた板ガラスは表面にSnOが膜状に存在している。
【0010】
これらの方法により得られた板ガラスはその表面にSnまたはSnOxが前記した割合で散在しているので、本発明のガラス基板として使用することができる。これらの方法のうち(a)の方法が工業的に有利である。
ガラス基板は、表面がSn面を有する限り、種々のものが使用でき、透明性の優れたものが望ましい。ガラス基板としては通常0.5〜1.8mm、好ましくは0.6〜1.4mmの厚さのものが使用される。
【0011】
本発明のガラス基板積層体は、前述したガラス基板のSn面に光学フィルムが接着剤層を介して積層されている。光学フィルムとしては、種々の目的のフィルムを使用することができるが、例えば、偏光フィルム、防眩フィルム、ライトコントロールフィルム、反射防止フィルム、視野角調整フィルム、電磁波シールフィルムなどが挙げられる。これら光学フィルムの目的は特に制限されるわけではないが、フィルムを形成するベースフィルムとしては、ポリエステルフィルムあるいはポリカーボネートあるいはポリオレフィンが選択されるが、特にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであるのが望ましい。光学フィルムの厚さは、30〜200μm、好ましくは40〜190μmであるのが有利である。PETフィルムは一軸延伸フィルムでもよく、また二軸延伸フィルムであってもよい。
【0012】
本発明のガラス基板積層体は、前述したガラス基板のSn面に光学フィルムが接着剤層を介して積層したものである。接着剤層を形成する接着剤としてはアクリル樹脂系接着剤が使用される。かかるアクリル樹脂系接着剤としては、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸アルキルエステルまたはメタアクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とするアクリル樹脂であることが望ましい。ここで主たるモノマー成分とは、全モノマー成分当り、60モル%以上、好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上が前記メタアクリル酸または(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることを言う。本明細書では、“(メタ)アクリル酸”とはアクリル酸および/またはメタアクリル酸と意味し、“(メタ)アクリル酸アルキルエステル”とはアクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタアクリル酸アルキルエステルを意味する。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキルのエステルであり、(メタ)アクリル酸としては、そのカルボキシル基の一部が、NaやKのアルカリ金属塩で中和されていてもよい。
アクリル樹脂系接着剤を構成する(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステル以外の他のモノマー成分としては、アクリル酸アミド、酢酸ビニル、スチレン、アクリルニトリル、ビニルアルコールなどが挙げられる。
【0013】
ガラス基板のSn面に、アクリル樹脂系接着剤を塗布する方法としては、ロールコート法、ミヤバーコート法、グラビアコート法などがある。アクリル樹脂系接着剤をガラス基板に塗布後、光学フィルムを張り合わせることにより積層体が得られる。アクリル樹脂系接着剤層は厚みが、10〜150μm、好ましくは20〜100μmが有利である。ガラス基板のSn面にアクリル樹脂系接着剤を塗布し、さらにその表面に光学フィルムを張り合わせた後、積層体を50℃〜100℃で1時間〜5時間加熱保持することにより、強固で密着性の優れた積層体を得ることができる。
本発明によるガラス基板積層構造体は、光学フィルムの接着状態に優れ種々の用途に使用できる。例えばタッチパネルの基板として価値あるものである。
【実施例】
【0014】
以下、実施例および比較例を示し本発明をさらに具体的に説明する
【実施例1】
【0015】
錫フロート法により得られたガラス基板(厚さ1.1mm)のSn面に、アクリル樹脂系接着剤を塗布し、その接着剤面に、ライトコントロールフィルム(LCFフィルム:厚さ430μmの3M社製の市販品(商品名:100PA)、PETフィルム)を貼り合わせた後、得られた積層体を70℃で3時間保持した。
その結果、ガラス基板面におけるLCFフィルムの密着状態は良好で剥離は全く認められなかった。
環境試験として60℃、90%RHの高温高湿槽中に24時間または48時間保持し取り出した後の表面状態を目視検査した。その結果を表(1)に示す。
【表1】

以上の結果から Sn面への貼付は効果が顕著であることが判明した。
【実施例2】
【0016】
ガラス基板(厚さ1.1mm)の片面に、ITO膜が形成された表面に、実施例1と同様にLCFを貼り合わせた後、得られた積層体を70℃で3時間保持した。
その結果、ガラス基板面におけるLCFフィルムの密着状態は良好であり剥離は全く認められなかった。
【比較例1】
【0017】
錫フロート法により得られたガラス基板(厚さ1.1mm)の空気面(Sn面の反対面)に、アクリル樹脂系接着剤を塗布し、その接着剤面に、LCFフィルム(厚さ430μmのPETフィルム)を貼り合わせた後、得られた積層体を70℃で3時間保持した。
その結果、ガラス基板面の周辺においてLCFフィルムが一部剥離していることが観察された。














【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に光学フィルムが接着剤層を介して積層されたガラス基板積層構造体であって、該ガラス基板における接着剤層側の表面は錫(Sn)またはその酸化物が少なくとも微粒子状に散在しかつ該接着剤層は、アクリル樹脂系接着剤層よりなる層であることを特徴とするガラス基板積層構造体。
【請求項2】
該ガラス基板は、錫フロートバス上に溶融したガラスを流延して製造されたものである請求項1記載のガラス基板積層構造体。
【請求項3】
光学フィルムがポリエチレンテレフタレートあるいはポリカーボネートあるいはポリオレフィンより形成されたフィルムである請求項1記載のガラス基板積層構造体。
【請求項4】
光学フィルムが、偏光フィルム、防眩フィルム、ライトコントロールフィルム(LCF)、反射防止フィルム、視野角調整フィルム、または電磁波シールドフィルムである請求項1記載のガラス基板積層構造体。
【請求項5】
該ガラス基板は、表面に錫(Sn)またはその酸化物が、Sn原子濃度として少なくとも0.5%の割合で散在する請求項1記載のガラス基板積層構造体。
【請求項6】
該接着剤層における接着剤は、アルキル基が炭素数1〜10の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とするアクリル系樹脂接着剤である請求項1記載のガラス基板積層構造体。
【請求項7】
該錫の酸化物はSnOxで表示され、Xが0<X<2の範囲の酸化物である請求項1記載のガラス基板積層構造体。
【請求項8】
請求項1記載のガラス基板積層構造体を基板として使用したタッチパネル。









【公開番号】特開2011−173312(P2011−173312A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38670(P2010−38670)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(504203354)株式会社タッチパネル研究所 (41)
【Fターム(参考)】