説明

ガラス成形型の被膜除去方法およびガラス成形型の製造方法

【課題】従来よりも型基材部表面が傷付き難いガラス成形型の被膜除去方法を提供すること。また他の課題は、上記被膜除去方法を用いたガラス成形型の製造方法を提供すること。
【解決手段】型基材部表面に少なくとも1層以上の被膜が形成されているガラス成形型の被膜を、ゴム中に砥粒が分散された研磨材を用いて、上記ガラス成形型の表面をブラスト処理して除去する。上記ガラス成形型の最表面には、Ir含有被膜またはダイヤモンドライクカーボン被膜が形成されていると良い。また、露出された型基材部表面に、少なくとも1層以上の被膜を形成しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス成形型の被膜除去方法およびガラス成形型の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種産業分野において、材料に形状を付与するため、成形型による成形が行われている。成形型による成形は、研削加工などに比べ、同形状の物を比較的量産しやすいなどの利点を有している。
【0003】
このような成形による利点を活かすべく、近年、ガラス製部材の製造分野においても、ガラス成形型を用いてガラス製部材をプレス成形する試みがなされている。
【0004】
上記ガラス成形型の基材部表面には、各種機能膜が積層される場合があり、例えば、ガラス成形型の最表面には、ガラスとの離型を促す機能を有する離型被膜が設けられることがある。
【0005】
上記離型被膜には金属被膜などが用いられることがあるが、高温での使用などによって離型被膜が酸化などにより劣化し、ガラスが成形型に融着しやすくなり、成形が困難になる場合があった。
【0006】
上記ガラス成形型の母材にはWCなどの高価な材料が用いられることが多い。そのため、劣化した被膜を除去してガラス成形型を再利用する試みが行われている。
【0007】
これまで、劣化した被膜を除去する方法としては、例えば、シアン(CN)系やHBr系の除膜剤に浸漬させて化学的に溶解させる方法、電解液に浸漬させ電気分解を利用して電気化学的に被膜を溶解させる方法、酸素アッシングにより被膜を酸化させて除去する方法などが検討されてきたが、これらの方法では、劣化した被膜を十分に除去することが難しかった。
【0008】
特に、ガラス成形型では、ガラス成形物の製造時に被膜が剥離するのを防ぐ観点から、基材部表面と被膜との密着性が高いほど良い。そのため、ガラス成形型から被膜を剥離させることは、密着性を高めることと相反する関係であるために、非常に困難であった。
【0009】
そこでこのような問題を改善するために、例えば、特許文献1には、BeO、CeO2やMgOなどの酸化物粒子を用いて、ガラスなどを成形する光学素子成形用型の成形面にサンドブラストを行い、劣化した被膜を物理的に除去する方法が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2002−255572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1のように、硬い酸化物粒子のみを用いてガラス成形型の型基材部表面をブラスト処理して被膜を除去する方法では、型基材部表面に傷が付き、さらに、型基材部表面の粗さが増加してしまうという問題があった。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、従来よりも型基材部表面が傷付き難いガラス成形型の被膜除去方法を提供することにある。また他の課題は、上記被膜除去方法を用いたガラス成形型の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係るガラス成形型の被膜除去方法は、型基材部表面に少なくとも1層以上の被膜が形成されているガラス成形型の被膜を、ゴム中に砥粒が分散された研磨材を用いて、上記ガラス成形型の表面をブラスト処理することを要旨とするものである。
【0014】
そして、上記ガラス成形型の最表面には、Ir含有被膜またはダイヤモンドライクカーボン被膜が形成されていると良い。
【0015】
また、上記Ir含有被膜は、Ir被膜、Ir−Pt被膜、または、Ir−Re被膜であると良い。
【0016】
また、上記砥粒はアルミナおよび/またはシリカであると良い。
【0017】
一方、本発明に係るガラス成形型の製造方法は、型基材部表面に少なくとも1層以上の被膜が形成されているガラス成形型の表面を、ゴム中に砥粒が分散された研磨材を用いてブラスト処理し、型基材部表面を露出させる工程を有することを要旨とするものである。
【0018】
さらに、露出された型基材部表面に、少なくとも1層以上の被膜を形成する工程を有すると良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るガラス成形型の被膜除去方法によれば、ゴム中に砥粒が分散された研磨材を用いてガラス成形型の表面をブラスト処理するので、従来よりもガラス成形型の型基材部表面が傷付き難い。また、型基材部表面の粗さが増加するのを抑えることができる。
【0020】
これは、ゴムが粘着性を有しているため、研磨材をガラス成形型の表面にブラストする際に、砥粒による被膜への衝突による衝撃とともに、ゴムが被膜に粘着して、効果的に被膜を引き剥がすことができるためであると推察される。
【0021】
また、上記方法によれば、ガラス成形型の型基材部表面にミクロンオーダーなどの微細な加工が施されていても、型基材部表面の粗さが増加するのを抑えることができ、効率的に被膜を除去することができる。
【0022】
また、上記ガラス成形型の最表面に、金属被膜や硬質被膜が形成されていても、ブラスト処理の際に、従来よりもガラス成形型の型基材部表面に傷が付くのを抑えることができる。
【0023】
また、上記砥粒はアルミナおよび/またはシリカであれば、上記作用効果に一層優れる。
【0024】
さらに、本発明に係るガラス成形型の製造方法によれば、ゴム中に砥粒が分散された研磨材を用いてガラス成形型の表面をブラスト処理するので、従来よりもガラス成形型の型基材部表面に傷が付き難い。
【0025】
そして、上記ブラスト処理により露出されたガラス成形型の型基材部表面に、少なくとも1層以上の被膜を形成する工程を有している場合、型基材部表面の粗さが、再形成した被膜に影響を与え難い。そのため、上記方法で再生したガラス成形型では、新しいガラス成形型とほとんど差異のないガラス成形物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明に係るガラス成形型の被膜除去方法では、ゴム中に砥粒が分散された研磨材を用いて、ガラス成形型の型基材部表面に形成された被膜を、ブラスト処理により除去する。
【0028】
上記研磨材の母材に用いられるゴムには、例えば、ブタジエン系ゴム(BR、NBR、SBRなど)、天然ゴム(NR)、イソプレン系ゴム(IR)、エチレン−プロピレン系ゴム(EPR、EPDM)などを例示することができる。好ましくは、ブタジエン系ゴムを用いることができる。そして、上記ゴムは、架橋されていると良い。架橋を施すことにより、研磨材同士が凝集するのを抑えることができるからである。
【0029】
上記研磨材に用いられる砥粒には、ビッカース硬度が1000〜5000Hvの範囲内にあるものを用いることができる。好ましくは1000〜3000Hvの範囲内にあると良い。上記研磨材のビッカース硬度が1000Hv以上であれば、砥粒による被膜への衝突による衝撃が十分に与えられるからである。また、5000Hv以下であれば、ガラス成形型の型基材部表面に傷が付き難いからである。
【0030】
砥粒の材質として、具体的には、アルミナ(ビッカース硬度:3000Hv)および/またはシリカ(ビッカース硬度:1400Hv)を用いると良い。
【0031】
また、砥粒の粒子径は特に限定されないが、好ましくは、1〜10μm、より好ましくは、1〜5μmが良い。上記研磨材の粒子径が、1μm以上であれば、被膜を効率的に除去できるからである。また、10μm以下であれば、ガラス成形型の型基材部表面に傷が付き難いからである。砥粒の粒子径は、同一のものを用いても良いし、異なる粒子径のものを用いても良い。
【0032】
上記ゴムおよび砥粒からなる研磨材の粒子径は、好ましくは、500〜3000μm、より好ましくは、500〜1500μmが良い。上記研磨材の粒子径が、500μm以上であれば、研磨材が被膜に十分に粘着して、効果的に被膜を引き剥がすことができるからである。また、3000μm以下であれば、ガラス成形型の型基材部表面にミクロンオーダーなどの微細な加工が施されていても、被膜を効率的に除去することができるからである。研磨材の粒子径は、同一のものを用いても良いし、異なる粒子径のものを用いても良い。
【0033】
そして、研磨材中の砥粒の割合は、母材や被膜の種類、ブラスト処理条件などに応じて適宜変更することができ、特に限定されないが、好ましくは、研磨材全体の体積に対して10〜90%の範囲内で含有されているのが良い。より好ましくは、20〜60%の範囲内が良い。上記研磨材中の砥粒の割合が、研磨材全体の体積に対して10%以上であれば、砥粒による被膜への衝突による衝撃が十分に与えられるからである。また、90%以下であれば、ガラス成形型の型基材部表面に傷が付き難いからである。
【0034】
また、研磨材中の砥粒の割合は、同一のものを用いても良いし、異なる割合のものを混合して用いても良い。
【0035】
上記研磨材は、例えば、押出成形により製造することができる。
【0036】
押出成形により研磨材を製造する場合、まず、混練機を用いてゴムと砥粒を混練すると良い。このとき、無機充填剤や架橋剤などの各種フィラーを添加しても良い。
【0037】
上記混練操作により調整された混練物は、混練機より押し出して取り出される。このとき、ペレタイザーによりペレット状に成形しても良い。そして、ペレット状に成形した混練物を、必要に応じて架橋し、液体窒素で冷凍した後、粉砕機などを用いて粉砕し、粒子状の研磨材を得ることができる。
【0038】
次に、上記のようにして得られた研磨材を用いて、ブラスト処理されるガラス成形型の構造について説明する。
【0039】
ガラス成形型は、型基材部と、積層構造とを基本構成として有している。型基材部は、型本体をなす。型基材部表面には、通常、成形材料に所望形状を転写しうる転写面が形成されている。また、型基材部表面の転写面上には、少なくとも1層以上の被膜よりなる積層構造が設けられている。
【0040】
上記ガラス成形型の最表面には、ガラスとの離型を促す機能として、離型被膜が設けられていても良い。離型被膜の材質としては、具体的には、例えば、Ir、Ir合金、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、Pt、Pt合金、Pd、Pd合金、TiC、TiN、TiCN、(TiAl)N、(TiCr)N、Cr/CrN、Cr/TiNなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0041】
離型性などの観点から、好ましくは、Ir含有被膜またはダイヤモンドライクカーボン被膜が用いられる。また、上記Ir含有被膜としては、とりわけ離型性に優れるなどの観点から、具体的には、例えば、Ir被膜、Ir−Pt被膜、Ir−Re被膜などを例示することができる。
【0042】
上記離型被膜は、型基材部表面の直上に形成されていても良い。また、上記離型被膜の下層には、拡散防止被膜やボンド被膜が設けられていても良い。
【0043】
上記拡散防止被膜は、上記離型被膜の直下に設けられていると良く、基本的には、型基材部成分およびボンド被膜成分のうち、成形性に悪影響を与えたり、成形物に付着・混入するとその成形物の商品価値を低下させたりする少なくとも1つ以上の成分の拡散を防止可能であれば良い。
【0044】
このような成分としては、具体的には、例えば、型基材部に含まれることがあるTi、Cr、Fe、Co、Ni、Ta、Wなどや、ボンド被膜に含まれることがあるTi、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Ta、W、Auなどの成分などを例示することができる。
【0045】
拡散防止被膜の材質としては、具体的には、例えば、Nb、Mo、Ru、RhおよびTaから選択される少なくとも1種の金属および/またはこれら金属を1種以上含む合金などを例示することができる。好ましくは、Rhが良い。
【0046】
また、上記ボンド被膜は、型基材部と拡散防止被膜との間に設けられていると良く、両者を結合する機能を主に有している。
【0047】
ボンド被膜の材質としては、具体的には、例えば、Cr、Co、Ni、Cu、AgおよびAuから選択される少なくとも1種の金属および/またはこれら金属を1種以上含む合金などを例示することができる。好ましくは、Auが良い。
【0048】
そして、上記積層構造は、少なくとも1層以上の被膜が形成されていれば、その積層数は特に限定されない。
【0049】
上記積層構造の形成手法は、特に限定されない。例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、MBE法、レーザーアブレーション法などの物理的気相成長法(PVD)、熱CVD法、プラズマCVD法などの化学的気相成長法(CVD)などといった気相法や、電解めっき、無電解めっきなどのめっき法、陽極酸化法、塗布法、ゾル−ゲル法などといった液相法などにより形成されていても良い。また、各層は、それぞれ同じ手法を用いて形成されていても良いし、それぞれ異なる手法を用いて形成されていても良い。
【0050】
上記型基材部の材質は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、WC系の超硬合金、グラッシーカーボン、ステンレス鋼、Siおよびその複合体からなるセラミックスなどを例示することができる。耐久性、耐熱性に優れるなどの観点から、好ましくは、WC系の超硬合金、セラミックスなどが良い。
【0051】
本発明では、上記研磨材を用い、上記ガラス成形型の型基材部表面をブラスト処理して被膜の除去を行う。
【0052】
本発明のブラスト処理に用いられるブラスト加工装置は、特に限定されるものではなく、汎用機を用いることができる。
【0053】
ブラスト処理の条件として、噴射圧力は、0.01〜0.5MPaの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.03〜0.1MPaの範囲内にあると良い。上記噴射圧力が、0.01MPa以上であれば、研磨材をガラス成形型の型基材部表面に、十分に衝突させることができるからである。また、0.5MPa以下であれば、適度な研磨材の噴射速度が得られ、ガラス成形型の型基材部表面に傷が付き難いからである。
【0054】
そして、噴射角度は、20〜45度の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、30〜45度の範囲内にあるとよい。上記噴射角度が20度以上であれば、ガラス成形型の型基材部表面に対して衝突する研磨材の数が適度である。また、45度以下であれば、ガラス成形型の型基材部表面に研磨材が食い込むのを抑えることができるからである。また、型基材部表面に傾斜などの転写面がある場合には、上記転写面に対して噴射角度を調整することで転写面の被膜の除去を行うことが可能である。
【0055】
また、噴射量は特に限定されるものではなく、使用するブラスト加工装置や被膜などの種類に応じて、適宜変更することができる。
【0056】
また、除去する被膜の層数は特に限定されず、例えば、最表面の1層のみの被膜を除去して型基材部表面に1層以上の被膜を残しても良く、また、型基材部表面をすべて露出させても良い。好ましくは、型基材部表面を露出させると良い。型基材部表面をすべて露出させておけば、ガラス成形型を再利用する際に、形成する被膜の種類が限定されないからである。
【0057】
また、ブラスト処理後の型基材部表面の平均粗さRaは、0.1μm以下が好ましい。より好ましくは、0.07μm以下が良い。ブラスト処理後の型基材部表面の平均粗さRaが0.1μm以下であれば、型基材部表面の粗さが、型基材部表面に再形成される被膜に影響を与え難く、良好な成形体が得られやすいからである。
【0058】
本発明に係るガラス成形型の製造方法は、上記被膜除去方法によりガラス成形型の基材部表面を露出させる工程を有している。
【0059】
また、本発明に係るガラス成形型の製造方法は、上記被膜除去方法により露出させた型基材部表面に少なくとも1層以上の被膜を形成する工程を有していると良い。
【0060】
上記露出させた型基材部は、被膜を形成する前に、表面に付着した塵などを除去するため、洗浄処理を行っても良い。
【0061】
被膜を形成する手法としては、具体的には、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、MBE法、レーザーアブレーション法などの物理的気相成長法(PVD)、熱CVD法、プラズマCVD法などの化学的気相成長法(CVD)などといった気相法や、電解めっき、無電解めっきなどのめっき法、陽極酸化法、塗布法、ゾル−ゲル法などといった液相法などを例示することができる。また、各層は、それぞれ同じ手法を用いて形成しても良いし、それぞれ異なる手法を用いて形成しても良い。
【0062】
形成する被膜の厚さは特に限定されるものではないが、過度に厚くなると、型基材部表面に形成された凹凸パターンが成形物に転写し難くなるので、型基材部表面の凹凸の高さに応じて適宜変更すると良い。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0064】
1.1.ガラス成形型の準備
ガラス成形型の型基材部には、プレート形状(φ34mm、板厚5mm)で、WCを主成分とする超硬合金製型(冨士ダイス株式会社製、「J05」)を用いた。
【0065】
1.2.被膜の形成(1)
上記型基材部表面を洗浄処理した後、型基材部表面直上に、スパッタリング法により、Au被膜を100nm形成した。そして、上記Au被膜直上に、めっき法により、Rh被膜を300nm形成した。さらに、スパッタリング法により、Ir−Pt合金(Ir:50wt%、Pt:50wt%)よりなるIr−Pt被膜を300nm形成し、ガラス成形型を作製した。(以下本ガラス成形型を「Ir−Pt被膜型(1)」という。)
【0066】
1.3.被膜の形成(2)
上記型基材部表面を洗浄処理した後、型基材部表面直上に、スパッタリング法により、ダイヤモンドライクカーボン被膜を100nm形成した。(以下本ガラス成形型を「DLC被膜型(2)」という。)
【0067】
1.4.被膜の除去
上記ガラス成形型の型基材部表面に形成した被膜を、ブラスト加工装置(不二製作所社製、「SIRIUS LDQ−SR−3」)を用いて、所定の研磨剤を用い、ブラスト処理により除去した。
【0068】
また、ブラスト処理の条件として、噴射圧力を0.05MPa、噴射角度を30度、噴射量を200g/min、噴射距離を150mm、噴射時間を5〜20minとした。
【0069】
(実施例1)
本実施例1では、Ir−Pt被膜型(1)を、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)に平均粒子径2μm、粒度#8000のアルミナを分散させた、粒子径500μmの研磨材を用いて、噴射時間20minでブラスト処理を行い、被膜の除去を行った。
【0070】
(実施例2)
本実施例2では、Ir−Pt被膜型(1)を、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)に平均粒子径5μm、粒度を#3000のアルミナを分散させた、粒子径500μmの研磨材を用いて、噴射時間5minでブラスト処理を行い、被膜の除去を行った。
【0071】
(実施例3)
本実施例3では、Ir−Pt被膜型(1)を、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)に平均粒子径5μm、粒度を#3000のアルミナを分散させた、粒子径500μmの研磨材を用いて、噴射時間10minでブラスト処理を行い、被膜の除去を行った。
【0072】
(実施例4)
本実施例4では、DLC被膜型(2)を、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)に平均粒子径5μm、粒度を#3000のアルミナを分散させた、粒子径500μmの研磨材を用いて、噴射時間10minでブラスト処理を行い、被膜の除去を行った。
【0073】
(比較例1)
本比較例1では、Ir−Pt被膜型(1)を、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)のみからなる粒子径500μmの研磨材を用いて、噴射時間20minでブラスト処理を行い、被膜の除去を行った。
【0074】
(比較例2)
本比較例2では、Ir−Pt被膜型(1)を、アルミナのみからなる粒子径5μmの研磨材を用いて、噴射時間5minでブラスト処理を行い、被膜の除去を行った。
【0075】
(比較例3)
本比較例3では、Ir−Pt被膜型(1)を、SiCのみからなる粒子径5μmの研磨材を用いて、噴射時間5minでブラスト処理を行い、被膜の除去を行った。
【0076】
2.硬度測定
ガラス成形型の型基材部表面に形成したIr−Pt被膜およびダイヤモンドライクカーボン被膜、アルミナ、SiC、WCを主成分とする超硬合金製型の硬度を、JIS Z2244に準拠して測定した。この際、硬度測定装置には、ナノテック(株)製の「ナノハードネステスターNHT」を用いた。アルミナ、SiCは砥粒に細粒する前のバルク形状のものを測定した。
【0077】
その結果、各ビッカース硬度は、Ir−Pt被膜:200Hv、ダイヤモンドライクカーボン被膜:4000Hv、アルミナ:3000Hv、SiC:1400Hv、WCを主成分とする超硬合金製型:2040Hvであった。
【0078】
3.表面粗さ測定
表面粗さ測定装置(テーラーボブソン社製、「フォームタリサーフシリーズ2」)を用い、ブラスト処理後の型基材部表面の平均粗さRaを、JIS B0601に準拠して測定し、表面粗さを評価した。また、被膜を形成する前の型基材部表面の平均粗さRaは、0.030μmであった。
【0079】
4.被膜除去評価
ブラスト処理後の型基材部の表面組成を、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)(株式会社日立製作所製、「E−MAX」)を用いて分析し、被膜が除去されているか否かを評価した。型基材部成分に由来するW、C、Coのみを検出した場合を合格とした。また、(実施例4)のダイヤモンドライクカーボン被膜を形成したガラス成形型は、被膜と型基材部成分の両方にCが含まれるため、WおよびCo成分が一様に検出されていれば、合格とした。
【0080】
表1に、実施例および比較例で用いたガラス成形型の種別、ブラスト処理条件、表面粗さ測定の結果および、被膜除去評価の結果を示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1より、比較例1に係るガラス成形型では、表面組成分析の結果から、Ir、Ptが検出され、被膜の除去が十分にできていないことがわかった。これは、アクリロニトリルブタジエンゴムのみからなる研磨材を用いてブラスト処理したため、被膜へ衝突による衝撃が十分に与えられなかったためであると推察される。
【0083】
また、比較例2に係るガラス成形型では、平均粗さRaが0.950μm、比較例3に係るガラス成形型では、0.350μmとなり、型基材部表面の粗さが大きく増加した。これは、アルミナもしくはSiCのみからなる研磨材を用いてブラスト処理したため、型基材部表面に傷が付いたことによるものと推察される。
【0084】
これに対して、実施例1〜4に係るガラス成形型では、平均粗さRaが0.1μm以下と小さく、型基材部表面の粗さが増加するのを抑えることができた。また、表面組成分析の結果から、実施例1〜4に係るガラス成形型では、被膜が除去できていることが確認できた。
【0085】
以上のことから、ゴム中に砥粒が分散された研磨材を用いて、ガラス成形型の型基材部表面に形成された被膜をブラスト処理により除去すれば、型基材部表面に傷が付き難いことが確認できた。
【0086】
また、上記実施例1〜4で被膜を除去したガラス成形型の基材部表面に、本実施例の「1.2.被膜の形成(1)」の条件で新たな被膜を形成し、ガラス成形型を再生した。そして、上記再生したガラス成形型を用いて、ガラス材料を実際に成形したところ、新しいガラス成形型を用いて成形したガラス成形物とほとんど差異のないものが得られた。
【0087】
以上、本実施形態、実施例に係るガラス成形型の被膜除去方法およびガラス成形型の製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型基材部表面に少なくとも1層以上の被膜が形成されているガラス成形型の被膜除去方法であって、
ゴム中に砥粒が分散された研磨材を用いて、前記ガラス成形型の表面をブラスト処理することを特徴とするガラス成形型の被膜除去方法。
【請求項2】
前記ガラス成形型の最表面には、Ir含有被膜またはダイヤモンドライクカーボン被膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のガラス成形型の被膜除去方法。
【請求項3】
前記Ir含有被膜は、Ir被膜、Ir−Pt被膜、または、Ir−Re被膜であることを特徴とする請求項2に記載のガラス成形型の被膜除去方法。
【請求項4】
前記砥粒はアルミナおよび/またはシリカであることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のガラス成形型の被膜除去方法。
【請求項5】
型基材部表面に少なくとも1層以上の被膜が形成されているガラス成形型の表面を、ゴム中に砥粒が分散された研磨材を用いてブラスト処理し、型基材部表面を露出させる工程を有することを特徴とするガラス成形型の製造方法。
【請求項6】
露出された型基材部表面に、少なくとも1層以上の被膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項5に記載のガラス成形型の製造方法。

【公開番号】特開2008−239417(P2008−239417A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83286(P2007−83286)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】