説明

ガラス物品及びガラス物品表面の表示形成方法

ガラス物品は、その表面に表示を有する。この表示は、光沢感があり、光揮性が高く、多様な色調を付与し得る。この表示は、ガラスよりも高屈折率の金属酸化物でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料及び/又は金属でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料を含有する組成物により形成される。この表示は、この光沢顔料及び/又は金属でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料を含有する塗料を塗着し、その後、必要に応じ焼き付けることにより形成される。表示を覆うように非光沢無機顔料層を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は表面に表示が設けられたガラス物品に係り、特に光沢感があり、光揮性が高く、多様な色調を付与し得る表示が表面に設けられたガラス物品に関する。また、本発明はこの表示の形成方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
自動車や建物の窓ガラスなどのガラス物品の表面に表示を設ける方法として、特開2001−220960号公報に、自動車の窓ガラスに直接細かい砂を吹き付け、細かい傷によって装飾を施す方法が記載されている。
【0003】
特開2001−220960号公報のようにサンドブラスト工法によって自動車の窓ガラスに装飾を施す方法にあっては、基本的にガラスに傷を付けているため、広範囲にわたる表示ではガラス自体の面強度が低下する問題がある。また、光沢感及び光揮性(きらきらと輝く性質)が得られず、ヘーズがかった白色の色調しか得られない。
【0004】
特開平11−161215号公報には、ガラス板表面にくりぬき部を有する被覆層を形成し、このくりぬき部を含み被覆層まで延在するように光装飾フィルムを積層して光装飾フィルム付き車両用窓ガラスを形成する方法が記載されている。
【0005】
特開平11−161215号公報のように光装飾フィルム付き車両用窓ガラスを製造する方法にあっては、くりぬき部を有する被覆層が必要となり、また、光装飾フィルムの構造が複雑なものとなる。さらに、光装飾フィルムとくりぬき部を有する被覆層との間に隙間を発生させないようにするために、光装飾フィルムを構成する層の厚さを制御する必要がある。
【0006】
特開平11−157873号公報、特開平11−228177号公報及び特開2002−20140号公報には、自動車用ガラスと車体との取付に用いられる有機接着剤が太陽光によって劣化するのを防止し、またガラス側にはみ出した有機接着剤を隠蔽するために、ガラスの周辺部分にセラミックペーストをスクリーン印刷する方法が記載されている。
【0007】
特開平11−157873号公報、特開平11−228177号公報及び特開2002−20140号公報のセラミックペーストをスクリーン印刷する方法をガラス物品に表示を設けるために適用することが考えられるが、この場合、表示はセラミックよりなるため、光揮性が得られない。特に自動車用ガラスでは、周辺部分にもセラミックプリントが施されているため、表示が周辺部分と同色となり、目立たないものとなる。また、セラミックカラーの場合、黒色以外の色調を得ることはできない。
【0008】
特許第3284349号公報(特願平8−530192号)には、平均粒径が10nm以下の金微粒子が分散した透明ないし半透明の着色膜をガラス板上に焼き付けることによって着色膜付きガラス板を形成する方法が記載されている。
【0009】
特許第3284349号公報の着色膜をガラスに焼き付ける方法をガラス物品に表示を設けるために適用する場合、この着色膜はシェードバンド付き自動車用ガラスのシェードバンドとして使用されているものであるため(第3頁左欄第44行〜第46行)、この着色膜を表示に適用すると、反射率は高いものの光揮性及び光沢感が不足するものとなる。また、色調もグレー系のみであり(第3頁左欄第41行及び同頁左欄第31行)、色調の多様性がない。
【0010】
特開平10−212137号公報には、フロート法で製造されるガラスリボンの表面に熱分解法によって熱線遮蔽膜を形成し、この熱線遮蔽膜のうち不要な範囲を部分的に除去又は改質して自動車用窓ガラスとする方法が記載されている。
【0011】
特開平10−212137号公報の熱分解法によって熱線遮蔽膜をガラスリボンに形成する方法をガラス物品の表面の表示に適用する場合、熱分解法によって形成される膜が平滑な反射膜となるために、反射光に対して光沢感や光揮性に欠け、奥行き感が損なわれる。また、この膜はフロート法で製造されるガラスリボン表面に熱分解によって形成されるため、処理面積が大きく、設備も大掛かりなものとなる。また、図などのワンポイント程度であれば、除去面積の方が大きくなり、効率が悪い。
【発明の概要】
【0012】
本発明は上記問題点を解消し、光沢感があり、光揮性が高く、多様な色調を付与し得る表示が表面に設けられたガラス物品及びこの表示の形成方法を提供することを目的とする。
【0013】
本発明のガラス物品は、表面に設けられた表示を有する。該表示は、ガラスよりも高屈折率の金属酸化物でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料及び/又は金属でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料を含有する組成物により形成される。
【0014】
この表示は、ガラスよりも高屈折率の金属酸化物でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料及び/又は金属でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料を含有する塗料を塗着することにより形成される。
【発明の好ましい形態の詳細な説明】
【0015】
本発明のガラス物品の表面に形成された表示は、光沢感があり、光揮性が高く、また、多様な色調を付与し得るものである。
【0016】
上記の光沢顔料は、表面が極めて平滑なフレーク状ガラスを基材とするものであり、その一粒一粒が微細な鏡のように機能するため、光沢感があり、光輝性が著しく優れている。したがって、この光沢顔料を用いた表示は、従来にない鮮明で光沢感があり、光輝性豊かな仕上がりを呈する。フレーク状ガラスに被覆するガラスよりも高屈折率の金属酸化物及び/又は金属の種類や被覆厚さを変えることにより、表示に多様な色調を付与することも可能となる。
【0017】
フレーク状ガラスに被覆するガラスよりも高屈折率の金属酸化物として酸化チタン、酸化鉄、酸化ジルコン、酸化クロム、酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化スズから選ばれた少なくとも1つを用い、フレーク状ガラスに被覆する金属として金、銀、白金、パラジウム、チタン、コバルト、ニッケル又はそれらの合金を用いると、高屈折率の被覆材料となり、強い光輝性を得ることができる。
【0018】
フレーク状ガラスの厚さが0.1〜7μmであると、フレーク状ガラスが破砕されることを防止すると共に、表示の仕上がりにムラが生じることがなく、本発明のガラス物品の外観は良好なものとなる。また、フレーク状ガラスの粒径が5〜250μmであると、表示の仕上がりが良好なものとなると共に強い光揮性を得ることができる。
【0019】
上記表示が低融点ガラスを含有する組成物により形成されている場合、表示がガラス物品表面へ強力に固着されるため、剥がれ難いものとなる。
【0020】
上記表示を覆う非光沢無機顔料含有層を設けた場合、表示の表面を保護することができると共に、非光沢無機顔料含有層の厚さの変更、非光沢無機顔料含有層内に存在する非光沢無機顔料の種類、含有量の変更などによって光沢感の程度の制御を行うことができる。
【0021】
上記ガラス物品は、自動車用強化ガラス、自動車用合わせガラス、車両用ガラス、建材用窓ガラスなどのガラス板として適用することができるが、これに限定されない。
【0022】
本発明のガラス物品表面の表示形成方法によると、光沢感があり、光揮性が高く、また、多様な色調を付与し得る表示を、ガラス物品の表面に容易に形成することができる。
【0023】
上記塗料に低融点ガラス粉末を含有させ、塗料の塗着後、焼き付けることにより表示をガラス物品の表面に容易に固着させることができる。焼き付けの際の高温加熱によって上記低融点ガラス粉末が溶融し、光沢顔料を十分にぬらすと共に、ガラス物品のガラス素材ともその界面で固着することにより、強力な密着力が発生する。
【0024】
塗料を塗着した後、その上から非光沢無機顔料及び低融点ガラス粉末を含有した被覆用塗料を塗着し、その後、焼き付けを行うことにより、表示を容易に固着させることができる。また、焼き付けの際の高温加熱によって上記低融点ガラス粉末が溶融し、非光沢無機顔料を十分にぬらすと共に、その下層の塗料ともその界面で固着することにより、強力な密着力が発生する。
【0025】
以下に、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0026】
本発明のガラス物品は、表面に表示が設けられている。この表示は、金属でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料及び/又はガラスよりも高屈折率の金属酸化物でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料を含有する組成物により形成されている。
【0027】
フレーク状ガラスの被覆に使用される金属としては、金、銀、白金、パラジウム、チタン、コバルト、ニッケル又はそれらの合金などが挙げられる。これらの中でも、コストと品質面で優れた銀、ニッケル又はその合金が好ましい。フレーク状ガラスに金属を被覆する場合、その被覆膜の厚さは0.04〜0.2μmが好ましい。この厚さが0.04μm未満の場合は、金属本来の光沢が著しく減少し、光沢顔料としての機能が消失する。一方、0.2μmを超えると、金属の使用量の割りには、光輝性が向上しなくなり、コスト的に問題となる。
【0028】
被覆に使用されるガラスよりも高屈折率の金属酸化物としては、屈折率の高いものが好ましく、例えばアナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、酸化鉄、酸化ジルコン、酸化クロム、酸化コバルト、酸化亜鉛又は酸化スズなどが挙げられる。これらの中でも、特に化学的耐久性やコスト面からアナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン又は酸化鉄が好ましい。とりわけ、ルチル型二酸化チタン又は酸化鉄が好ましい。金属酸化物の被覆膜の厚さは、金属酸化物の種類や要求される光輝性の程度、あるいは干渉色などによって適宜調整されるが、0.03〜0.8μmが好ましい。この被覆膜の厚さが、過度に薄いと十分な光沢が得られず、一方過度に厚いと経済性が損なわれる。
【0029】
この金属酸化物の屈折率は、基材であるガラスの屈折率よりも高いことが必要である。金属酸化物の屈折率が高いことによって、光沢顔料の粒子面からの全反射が生じ易くなり、より高い光輝性が得られる。ガラスの屈折率は通常1.5〜1.6程度であるから、屈折率が約2.5のアナターゼ型二酸化チタンや約2.7のルチル型二酸化チタン又は約2.4〜2.7の酸化鉄などが好ましく、これらであれば前記の全反射による強い光輝性が得られる。また、二酸化チタンの被覆膜は、干渉フィルターとして機能するので、その厚さが変わることによって、様々な色の光輝性が得られる。すなわち、金属酸化物の被覆膜の厚さを調整することにより、印刷外観に微妙な有彩色の光輝性を付与し、その高級感をさらに高めることができる。二酸化チタンの被覆膜の厚さが0.05μm付近ではシルバー色、約0.14μmでは赤紫色、0.2μm程度では黄緑色の反射色を呈する。この有彩色の光輝性は、従来の色材例えばパールマイカなどを使用した印刷面に比べ著しく優れており、奥行き感のある豊かな外観が形成される。
【0030】
この光沢顔料の形状は、より高い光輝性を得るため、比表面積が大きいフレーク状であることが必要である。
【0031】
光沢顔料の基材としてのフレーク状ガラスの厚さは0.1〜7μm、粒径は5〜250μmであることが好ましい。粒径が250μmを超える場合は、表示の仕上がりが悪くなり、一方5μm未満になると、光輝性の低下が著しくなる。また、厚さが0.1μm未満のものは破砕され易く、一方7μmを超えると表示の仕上がりムラによる外観不良を起こし易くなる。
【0032】
上述の被覆膜の干渉フィルター機能は、被覆膜の表面及びフレーク状ガラスの表面の平滑性が大きく影響する。すなわち、これらの表面がより平滑であるほど、反射光の散乱が抑えられ、干渉フィルターが有効に機能し、一方向に極めて強い反射光が生じる。したがって、表面平滑性に優れたフレーク状ガラスが光沢顔料の基材として最適である。
【0033】
この光沢顔料は、フレーク状ガラスの表面に通常の無電解めっき法又は粉末スパッター法などにより金属を被覆することで製造される。例えば、特開平2−58582号公報には、無電解めっき法により平均粒径40μm、厚さ3μmのフレーク状ガラスの表面に金属被覆を施す方法が記載されている。また、特開昭60−86177号公報には、スパッター法により厚さ約3μm、粒度約300〜700μmのフレーク状ガラスに金属被覆を施す方法が記載されている。
【0034】
金属酸化物でフレーク状ガラスを被覆する方法としては、その表面にゾルゲル法又は液相法で金属水酸化物を被覆して、その後加熱脱水する方法が知られている。例えば、ゾルゲル法の例として特開平9−176515号公報には、平均形状比(平均厚さ/平均粒度)1/9〜1、平均粒度25〜500μmの金属酸化物で被覆されたフレーク状ガラスが記載されている。本発明は、このフレーク状ガラスを採用し得る。
【0035】
液相法の例として米国特許5753371号公報には、Cガラス製フレーク状ガラスを酸性水溶液中に分散した後、pHを調整しながらTiCl水溶液を注加し、所定の干渉色に達したら反応を終了し、濾過水洗してから所定の温度で加熱焼成する方法が記載されている。本発明はこの方法を採用し得る。
【0036】
特開2001−31421号公報によれば、この液相法をさらに発展させ、金属水酸化物をムラなく均一に、かつ、安定して被覆する方法(以下、「p液相法」という)によっても金属酸化物でフレーク状ガラスを被覆することができる。すなわち、前処理操作としてフレーク状ガラスを塩酸酸性水溶液中で塩化スズにより表面処理した後、ヘキサクロロ白金酸で処理する。前処理されたフレーク状ガラスをpH約1.0に調整した塩酸酸性水溶液に加えスラリー液を得る。そのスラリー液の温度を75℃に昇温し、pHをpH1に調整しながらTiCl水溶液をスラリー液に注加して、所定の干渉色に達したら反応を終了し、反応生成物を得る。この反応生成物を濾過水洗して所定の温度、例えば600℃で加熱焼成する。このp液相法によれば、米国特許5753371号公報の方法よりも、ムラ付きがなく均一に、かつ、安定して金属酸化物被覆品を得ることができる。本発明はこの方法を採用し得る。
【0037】
酸化鉄の場合は、フレーク状ガラスをpH2〜4に調整した塩酸酸性水溶液に加えスラリー液を得、そのスラリー液の温度を50℃〜75℃に昇温し、pHを2〜4に維持しながらFeCl水溶液をスラリー液に注加して、所定の干渉色に達したら反応を終了し、反応生成物を得る。この反応生成物を濾過水洗して所定の温度、例えば600℃で加熱焼成する。また、還元することにより異なる意匠を有した光沢顔料にしても良い。
【0038】
上記の金属又は金属酸化物で被覆されるフレーク状ガラスのガラス組成は、特に限定されるものではなく、二酸化ケイ素を主成分とし、酸化アルミニウム、酸化カルシウム及び酸化ナトリウムなどを相当量含むものなどを用いることができる。ガラスの種類も特に限定されるものではなく、例えば現在多用されているEガラスやCガラス、その他耐アルカリガラス、高強度ガラス、シリカガラス、ボロンフリーEガラス、ボロンフリーアルカリガラス又はソーダ石灰ガラス(Aガラス)などが挙げられる。これらの代表的なガラスの組成を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
ガラス物品に設けられる表示は、上記光沢顔料に加えて、低融点ガラス及び/又は非光沢無機顔料を含有する組成物としてもよい。低融点ガラスを含有する場合、加熱時に低融点ガラス粉末が溶融し、光沢顔料などを十分にぬらして発色し且つ膜化する。また、ガラス物品に設けられる表示は、ガラス物品ともその界面で固着し、強力な密着力が発生する。非光沢無機顔料を含有する場合、非光沢無機顔料と光沢顔料との配合割合を変えることにより、光沢感の程度の制御を行うことができる。
【0041】
さらに、表示は、体質顔料、補助剤、無機フィラーなどを含有していても良い。
【0042】
ガラス物品の表面に表示を形成する好適な方法は、上記光沢顔料及び樹脂の溶剤溶液(ヴィヒクル)などから構成される塗料をガラス物品の表面に塗布する方法などである。塗料は、例えば、ペイントコンディショナー、ディゾルバー、ハイスピードミキサー、ホモミキサー、ニーダー、ロールミル又はサンドミルなどを用いて光沢顔料、樹脂の溶剤溶液などを混合、分散させることにより得られる。
【0043】
上記樹脂の溶剤溶液(ヴィヒクル)の原料としては、従来の各種の樹脂及び溶剤を使用できる。該樹脂としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、ライムロジン、ロジンエステル、マレイン酸樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂、ニトロセルロース、酢酸セルロース、エチルセルロース、塩化ゴム、環化ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ブチラール樹脂、ビニールピロリドン樹脂もしくはアルキド樹脂などの樹脂又はそれらの混合物、あるいは前記樹脂を水溶化した水溶性樹脂もしくは水性エマルジョン樹脂などが好ましく使用できる。該溶剤としては、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類もしくは水などが好ましく使用できる。具体的には、パインオイル、α−ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングライコールなどが好ましく使用できる。
【0044】
樹脂の溶剤溶液(ヴィヒクル)としては、前述した樹脂10〜50質量%を溶剤50〜90質量%に溶解したものを使用できる。
【0045】
塗料における光沢顔料の含有率は、3〜40質量%であることが好ましい。この含有率が3質量%未満であると、光沢顔料が少な過ぎて表示の光輝性が不足し易い。一方、40質量%を超えると、塗料中の流動性が低下し、また塗料中の光沢顔料の分散性が低下して凝集が発生し易くなる。
【0046】
この塗料をガラス物品の表面に塗布する塗布法としては、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、スプレー塗装、ロールコーター法などがあるが、スクリーン印刷法が最も簡便で、部分塗布に適している。
【0047】
塗料には、光沢顔料、樹脂の溶剤溶液(ヴィヒクル)の他に低融点ガラスを加えると、塗料を焼き付け、ガラス上に強固に固着することができるため好ましい。
【0048】
低融点ガラスとしては、従来よりこの種のセラミックカラーに汎用されている各種のものを使用することができ、例えばPbO、Si2O及びB23を主成分とする硼珪酸鉛ガラス、Bi23、SiO2及びB23を主成分とする硼珪酸ビスマスガラス、ZnO、SiO2及びB23を主成分とする硼珪酸亜鉛ガラスなどを使用することができる。
【0049】
塗料には、更に非光沢無機顔料、体質顔料、補助剤及び無機フィラーなどを光沢顔料の光沢性を低下させない範囲において含有してもよい。
【0050】
非光沢無機顔料としては、従来より使用されているものと同様のものを使用することができ、例えばCuO・Cr23(ブラック)、CoO・Cr23(ブラック)、Fe23(ブラウン)、TiO2(ホワイト)、CoO・Al23(ブルー)、NiO・Cr23(グリーン)などを使用することができる。
【0051】
該非光沢無機顔料粉末は、塗料中に0〜40%の範囲で配合されるのが適当である。40%を超えると必然的に低融点ガラスの割合が減少し、膜の緻密性が不十分となり、接着工程で接着プライマーが膜の中にしみこむ不具合を生じる。
【0052】
無機フィラーとしては、高温時、溶融しないものから選択される。例えばAl、Zn、Fe、Ni、Sn、Cuなどの金属粉末を無機フィラーとして添加するのがよい。また、塗料が高温で加熱された時の流動性を制御するために、アルミナ、シリカ、ジルコン、ケイ酸ジルコンなどの金属酸化物もまた上記無機フィラーとして添加することができる。さらに、塗料の熱膨張係数を調整するため、特に低膨張の粉末、例えばβ−ユークリプトタイト、β−スポジューメン、コージェライト、溶融シリカなどを上記無機フィラーとして添加することもできる。
【0053】
無機フィラー粉末の粒径は、これらの本来の作用効果が、該粒子の表面積に依存することが多いため、細かい程よいが、細かすぎると塗料の融着温度を急上昇させる不利があるので、一般には、約0.05〜5.0μm程度、好ましくは約0.1〜1.0μm程度の範囲から選択されるのが好ましい。
【0054】
上記無機フィラー粉末の添加量が10%を超えると塗料の融着温度が上昇し、ガラス物品との密着不良などの不具合を生じる。しかしながら無機フィラー粉末の添加は、その目的が他の方法で克服できたり、低融点ガラスそのものの特性で解決できれば、特に必須とされる必要はない。
【0055】
体質顔料としては、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、アルミナ白、タルク、珪酸カルシウム又は沈降性炭酸マグネシウムなどからなるものが例示される。
【0056】
補助剤としては、可塑剤、酸化防止剤、紫外線防止剤又は帯電防止剤などが例示される。
【0057】
この塗料における、樹脂の溶剤溶液(ヴイヒクル)の含有率は、得られる塗料の適用されるコーティング方法に応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば低融点ガラスを含有する塗料において、スクリーン印刷などに適したインキ形態の場合には、10〜40質量%の範囲から選ばれるのがよく、スプレー塗装法、ロールコータ−法などの塗料の場合では、30〜70質量%の範囲から選ばれるのが適切である。
【0058】
本発明の表示は、ガラス物品に塗布された塗料を乾燥することにより得られる。塗料の乾燥は、例えば100〜200℃程度で3〜15分間行われる。
【0059】
塗料が低融点ガラスを含有する場合、ガラス物品に塗布された塗料を乾燥後、炉内で加熱することにより、焼き付けを行うことが可能である。加熱は500〜800℃程度例えば700℃で1〜10分間程度行われる。
【0060】
焼付け時に塗料は高温(500℃以上)にさらされるため、有機物は分解逸散する。従って、有機物は焼き付けられた塗膜中に残らない。焼き付けの際、上記低融点ガラス粉末は塗布されたガラス物品上で高温(ガラス物品が溶融する程高温ではない)加熱によって溶融し、光沢顔料などを十分にぬらす。従って、塗料は発色し且つ膜化する。また、塗料はガラス物品ともその界面で固着し強力な密着力が発生する。
【0061】
従来、炉内で自動車用板ガラスなどをモールドとモールドの間に圧着して曲げ加工する成形工程や炉内で板ガラスをモールドに真空吸引して曲げ加工する成形工程が採用されている。これらガラスにおける上記加工工程は、通常、温度が常温より660℃程度までのトンネル炉での予備加熱工程と、このトンネル炉に連結され、温度が640〜720℃のバッチ炉での曲げ成形工程を備える。塗料を予備加熱工程でガラス板に焼付け、かつ結晶化させておくと、次の曲げ成形工程で曲げ加工する時点で塗料は結晶化しているため流動性をなくしており(ガラス粘度の低下がなく)、仕上がりが良くなる。
【0062】
この塗料を塗着してなる表示は、耐久性の向上を目的として、その最表面に保護膜をコーティングしてもよい。この保護膜には、例えばアクリル樹脂やポリエステル樹脂などのような有機材料、あるいは二酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどの無機系材料を使用することができる。必要に応じて保護膜の表面をカップリング剤などの表面処理剤で処理してもよい。このように耐久性などを向上させる具体的な手段としては、例えば特開昭62−91567号公報、特開平7−268241号公報又は米国特許5436077号公報に記載されている方法などを採用することができる。
【0063】
このガラス物品は、表示を覆う非光沢無機顔料含有層を有していてもよい。この非光沢無機顔料含有層を設けることにより、表示の表面を保護することができると共に、非光沢無機顔料含有層の厚さの変更、非光沢無機顔料含有層内に存在する非光沢無機顔料の種類、含有量の変更などによって光沢感の程度の制御を行うことができるという作用効果が得られる。この場合、上記塗料の塗着及び乾燥後、その上から非光沢無機顔料及び低融点ガラス粉末を含有した被覆用塗料を塗着し、その後、焼き付けを行うことにより、この非光沢無機顔料含有層を形成することができる。この非光沢無機顔料及び低融点ガラスとしては上記表示用塗料と同様のものを用いることができる。
【実施例及び比較例】
【0064】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0065】
〔実施例1〕
表2の実施例1に示す配合割合で配合することにより、光沢顔料を含む第1層用塗料を作成した。この第1層用塗料を、パターニングを施した#120メッシュのスクリーンを用いてソーダ石灰ガラス板上にスクリーン印刷し、この第1層用塗料を180℃で4分間乾燥した。なお、この第1層用塗料に配合した光沢顔料における、フレーク状ガラスの平均厚さ及び平均粒径並びに酸化チタンの被覆厚さは、表3の通りである。その後、表4に示す配合割合で配合した非光沢無機顔料を含む第2層用塗料を同様に重ねてスクリーン印刷し、180℃で4分間乾燥した。その後、700℃で100秒間加熱し、エアーで急冷することにより、ガラス板上に第1層として光沢顔料含有層、第2層として非光沢無機顔料含有層がこの順に形成された試料を得た。
【0066】
表2における低融点ガラス含有樹脂の溶剤溶液としてG1−1334(奥野製薬工業(株)製)を、樹脂の溶剤溶液としてオイル1063S(奥野製薬工業(株)製)を、第2層用塗料としてPFA−1130KC−BK(奥野製薬工業(株)製)を用いた。
【0067】
得られた試料の厚さを光学顕微鏡−画像解析法によって測定した。また、得られた試料の外観(光沢感、奥行き感、光揮性及び色調)を自然光の下で目視観察した。これらの結果を表5に示す。
【0068】
表5に示す通り、得られた試料は光沢感のある銀色の色調を有し、奥行き感があり、強い光揮性を示した。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
[実施例2]
第1層用塗料を表2及び表3の実施例2の通り変更したこと以外は実施例1と同様にして試料を作製し、実施例1と同様にして第1層及び第2層の平均厚さの測定及び目視観察を行った。その結果を表5に示す。
【0074】
得られた試料は、光沢感のある緑色の色調を有し、奥行き感があり、強い光揮性を示した。
【0075】
[実施例3]
第1層用塗料を表2及び表3の実施例3の通り変更したこと以外は実施例1と同様にして試料を作製し、実施例1と同様にして第1層及び第2層の平均厚さの測定及び目視観察を行った。その結果を表5に示す。
【0076】
得られた試料は、光沢感のある赤色の色調を有し、奥行き感があり、強い光揮性を示した。
【0077】
[比較例1]
第1層用塗料を表6の比較例1に示すシェードバンド用塗料とし、第2層を設けずに第1層のみを実施例1と同様にして作製し、実施例1と同様にして第1層の平均厚さの測定及び目視観察を行った。その結果を表5に示す。
【0078】
【表6】

【0079】
得られた試料は、グレー色の色調を有し、光沢感、奥行き感、光揮性に劣るものであった。
【0080】
[比較例2]
第1層用塗料として表6の比較例2に示す黒色セラミック塗料を使用したこと以外は実施例1と同様にして試料を作製し、実施例1と同様にして第1層及び第2層の平均厚さの測定及び目視観察を行った。その結果を表5に示す。
【0081】
得られた試料は黒色の色調を有し、光沢感、奥行き感、光揮性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に表示が設けられたガラス物品において、該表示は、ガラスよりも高屈折率の金属酸化物でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料及び/又は金属でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料を含有する組成物により形成される。
【請求項2】
請求項1において、前記ガラスよりも高屈折率の金属酸化物は酸化チタン、酸化鉄、酸化ジルコン、酸化クロム、酸化コバルト、酸化亜鉛又は酸化スズから選ばれた少なくとも1つであり、前記金属は金、銀、白金、パラジウム、チタン、コバルト又はニッケルから選ばれた少なくとも1つであることを特徴とするガラス物品。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記フレーク状ガラスの厚さが0.1〜7μm、粒径が5〜250μmであることを特徴とするガラス物品。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記表示は前記光沢顔料及び低融点ガラスを含有する組成物により形成される表示であることを特徴とするガラス物品。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記表示を覆う非光沢無機顔料含有層を有することを特徴とするガラス物品。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、ガラス物品はガラス板であることを特徴とするガラス物品。
【請求項7】
請求項1に記載のガラス物品を製造する方法において、ガラスよりも高屈折率の金属酸化物でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料及び/又は金属でフレーク状ガラスを被覆した光沢顔料を含有する塗料を塗着することにより該表示を形成する。
【請求項8】
請求項7において、前記塗料は低融点ガラス粉末を含有し、
塗料の塗着後、焼き付けにより表示をガラス物品の表面に固着させることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8において、前記塗料を塗着した後、その上から非光沢無機顔料及び低融点ガラス粉末を含有した被覆用塗料を塗着し、その後、焼き付けを行うことを特徴とするガラス物品の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/075369
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517781(P2005−517781)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001821
【国際出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】