説明

ガラス破壊検出装置

【課題】ガラスの破壊を振動センサのみを用いた単一の検出原理で精度良く検出可能であり、低消費電力で電池寿命が長いガラス破損検出器を提供する。
【解決手段】ガラス破壊検出装置1は、ガラスの振動を検出し、電気的に変換して出力信号とする振動検出手段2と、前記出力信号から低域の周波数成分の信号を抽出する低域回路3と、前記出力信号から高域の周波数成分の信号を抽出する高域回路4とを有し、低域回路が所定強度以上の信号を抽出してから第1所定時間が経過した後、第2所定時間内に高域回路4が抽出した信号が所定強度以上であると判定部6が判定した場合に、出力部7が警報を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物のガラスやショーケースのガラスが破損した時に、これを検知して警報を発するガラス破壊検出装置に係り、特にガラスの破壊により発生した振動波のみを利用して、打撃破壊だけでなく、こじ破りのように小さな振動しか発生しないガラス破壊をも共通のロジックで確実に検出可能とするガラス破壊検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物などのガラスの破壊を検出する装置として、下記特許文献1に示されるように、ガラスに圧電振動子を貼り付け、ガラスに衝撃が加えられた時に発生する高い周波数の振動成分の強度に基づいてガラスが破損したかどうかを判定する装置が知られている。
また下記特許文献2には、音響及び振動を検出して窓ガラスの破損を検知する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭57−57970号公報
【特許文献2】特開2005−44180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のガラス板破壊検出装置は、ガラスをハンマーやバール、投石などにより、大きな衝撃を与えて破壊する行為を検出対象としている。
しかし、建物へ侵入しようとする者が、ガラスを破壊する手口としては、クレセント付近の窓ガラスのサッシとガラスの隙間にマイナスドライバーを差し込み、こじってガラスに亀裂を入れる行為を繰り返すことにより、ガラス破片をサッシから抜き取って開口部を作る「こじ破り」と呼ばれる方法がある。
【0005】
このこじ破りは、大きな音を立てないでガラスを破壊する方法であるため、前述のハンマー等による破壊方法と比較すると、圧電振動子で検出される振動レベルは小さく、従来のガラス破損検出装置で検知しようとすると高い増幅率のアンプが必要となる。しかし、このように高い増幅率のアンプを用いると、破壊に至らない程度にガラスを殴打して衝撃を与えた場合や、強風により砂がガラスにぶつかる程度の場合でも装置が反応してしまうという問題があった。
【0006】
さらに、かかるガラス破壊検出装置では、ガラス面に接着した振動子と異常判定部を有線で接続するようになっているか、又はガラス面に接着した振動子を含む検出部と、検出した異常信号を遠隔の監視装置に通報する通報部との間を有線で接続するようになっている。
【0007】
しかし、建物の美観上の問題や、引き違い窓への接着を行うにあたって、上述の有線部分を無線にすることが望まれている。そのためには、ガラス破壊検出装置を電池駆動として、異常信号を無線信号により警備装置へ送信するようにする必要があるが、上述のように高い増幅率のアンプを用いると電池寿命が短くなるため、電池交換を頻繁に行う必要があるという問題がある。
【0008】
一方、特許文献2に記載したガラス破損検出装置は、打ち破り等のダイナミックな破壊行為と、こじ破りによる静的な破壊を異なるロジックで検出しようとしたものである。
しかしながら特許文献2のガラス破損検出装置では、振動検出手段のほかに音波検出手段が必要となり、さらに、各々の破壊方法を検出するためのロジックがそれぞれ独立に必要となるため、製造コストが高く、また高消費電力とならざるを得ず、ガラスが多数存在する建物には不向きであった。
【0009】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、ガラスをハンマーなどで打撃して破壊する打ち破りや、マイナスドライバーでひびを入れて破壊するこじ破りのような破壊行為についても、振動センサのみを用いた単一の検出原理で精度良く検出可能であり、かつ低消費電力で電池の長寿命化を実現したガラス破壊検出器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のガラス破壊検出装置は、
ガラスの振動を検出し、電気的に変換して出力信号とする振動検出手段と、
前記振動検出手段の前記出力信号から所定の周波数成分の信号を抽出する第1の抽出手段と、
前記振動検出手段の前記出力信号から前記第1の抽出手段よりも低い周波数成分を含む信号を抽出する第2の抽出手段とを有するガラス破壊検出装置であって、
前記第2の抽出手段が所定強度以上の信号を抽出してから第1の所定時間が経過した後、第2の所定時間内に前記第1の抽出手段が抽出した信号が所定強度以上である場合に警報を出力することを特徴としている。
【0011】
また本発明に係るガラス破壊検出装置は、
通常時は前記第2の抽出手段を駆動して前記第1の抽出手段は停止させ、前記第2の抽出手段が所定強度以上の信号を検出した場合に前記第1の抽出手段を駆動させるようにすることもできる。
【0012】
また本発明に係るガラス破壊検出装置は、
前記第2の抽出手段が所定強度以上の信号を検出してから前記第1の所定時間が経過するまでの間は、前記第1の抽出手段が抽出した信号が所定強度以上であるか否かの判定を禁止する禁止手段を有することを特徴としている。
【0013】
また本発明に係るガラス破壊検出装置は、
前記第2の抽出手段が所定強度の信号を抽出してから前記第1の所定時間より短い第3の所定時間の経過の後に、前記第1の抽出手段を駆動させるようにすることもできる。
【0014】
さらに本発明のガラス破壊検出装置は、
前記第1の抽出手段が抽出する信号の周波数成分は、前記第2の抽出手段が抽出する信号の周波数成分に含まれるようにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るガラス破壊検出装置によれば、振動検出手段のみを用い、前記第2の抽出手段である低域監視回路が所定の周波数成分で所定強度以上の信号を検出してから所定時間が経過した後、一定の所定時間内に、前記第1の抽出手段である高域監視回路が抽出した所定の周波数成分の信号が所定強度以上である場合に警報を出力するという単一の検出原理によって、ガラスをハンマーなどで打撃して破壊する打ち破りだけでなく、マイナスドライバーでひびを入れて破壊するこじ破りのような破壊行為についても精度良く検出できるという効果が得られる。
【0016】
また本ガラス破壊検出装置によれば、通常時には低域監視回路は駆動しているが、高域監視回路は停止させておいて必要な場合にのみ駆動させるので、全体として低消費電力であり、電源である電池等を長寿命化できる。
【0017】
また本ガラス破壊検出装置によれば、低域監視回路が所定強度以上の信号を検出してから所定時間が経過するまでの間は、高域監視回路が抽出した信号が所定強度以上であるか否かの判定を禁止する禁止手段を有しているので、振動時間の短いガラス殴打時などの誤警報の発生を確実に防止し、振動検出手段のみを用いた単一の検出原理による破壊行為の高精度な検出をさらに確実に実行することができる。
【0018】
また本ガラス破壊検出装置によれば、低域監視回路が所定強度以上の信号を抽出してから上記所定時間より短い時間の経過の後に、高域監視回路を駆動させるようになっているので、高域監視回路の駆動時間を最小限にすることが可能となり、電源である電池等をさらに長寿命化できる。
【0019】
さらに本発明のガラス破壊検出装置によれば、高域監視回路が抽出する信号の周波数成分が、低域監視回路が抽出する信号の周波数成分に含まれているので、前段の低域監視回路と後段の高域監視回路を直列に接続する構成とすれば、高域監視回路に入力される信号はすでに低域監視回路で増幅されているので、高域監視回路における増幅の程度を抑えることができ、これによって電力の消費を一層節約し、電源である電池等をさらに長寿命化できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガラス破壊検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るガラス破壊検出装置のガラス板への実装状態を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るガラス破壊検出装置において、ガラス破壊時及びガラス殴打時に、ガラスに発生した振動を検出した振動検出手段の出力信号を受けて、低域監視回路及び高域監視回路が出力する信号の波形図であって、本ガラス破壊検出装置による破壊検出の検出原理を示すために同原理において設定が必要な各種時間や高域監視回路のONタイミング等の表示を重ねて示した図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るガラス破壊検出装置における制御手順を示す流れ図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るガラス破壊検出装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係るガラス破壊検出装置を説明する。
1.ガラス破壊検出装置1の構成 (図1)
図1は、本発明に係るガラス破壊検出装置1の構成を示したブロック図である。
振動検出手段としての振動センサである振動ピックアップ2は、ガラス破損時に発生する振動波を検出し、その振動波を強度に応じた電気信号に変換し、出力信号として出力する。振動ピックアップ2としては、圧電振動子を用いることができる。
【0022】
第2の抽出手段としての低域監視回路3(低域回路3とも称する)は、ハイパスフィルタ(以下HPF1)と、増幅器1を有し、後述する第1の抽出手段である高域監視回路4よりも低い周波数帯域を含む信号の有無を監視する。
【0023】
HPF1は振動ピックアップ2が検出した振動波から所定周波数(例えば20kHz以上)以上の周波数成分を透過させ、それ以外の低域の周波数成分をカットするハイパスフィルタである。増幅器1はHPF1の出力を所定のレベルまで増幅するためのものである。
【0024】
第1の抽出手段としての高域監視回路4(高域回路4とも称する)は、ハイパスフィルタ(以下HPF2)と、増幅器2を有し、前述の低域監視回路3よりも高い周波数帯域の信号の有無を監視する。
【0025】
HPF2は振動ピックアップ2が検出した振動波から所定周波数以上の周波数成分を透過させ、それ以外の低域の周波数成分をカットするハイパスフィルタである。ここでのカットオフ周波数は、HPF1よりも高い周波数(例えば150kHz以上)に設定される。尚ここでは、高域監視回路4で監視する周波数帯域は、低域監視回路3で監視する周波数帯域に含まれるように設定される。
【0026】
増幅器2は、HPF2からの出力を所定のレベルまで増幅するアンプである。増幅器2の増幅率は、こじ破りのように小さな振動波を検出するために増幅器1の増幅率よりも高く設定される。このため、高域監視回路4は低域監視回路3と比較して電力の消費が大きい。そこで通常時は高域監視回路4の増幅器2は停止状態としておき、低域監視回路3に所定強度以上の信号成分が入力されると駆動を開始させるよう構成する。
【0027】
切替手段であるSW1は、低域監視回路3から所定強度以上の信号入力があると、高域監視回路4および遅延回路5への電源供給を開始させるようにするスイッチ機能を有する。
【0028】
遅延回路5は、低域監視回路3で所定値以上の信号を検出してから所定の遅延時間だけ、高域監視回路4が抽出した所定の周波数成分の信号が所定強度以上であるか否かの判定を禁止する禁止手段としての機能を有する。遅延時間は、例えばガラス破壊以外のガラス殴打時に高域成分の信号が収束する時間、或いは高域監視回路4の増幅器2を駆動開始してから安定するまでに要する時間のいずれか長い方に合せ、後述する第1の所定時間として設定される。この遅延時間乃至第1の所定時間の設定については後に詳述する。
【0029】
切替手段であるSW2は、遅延回路5からの信号を受けると高域監視回路4からの信号を判定部へ伝える回路をオンにするスイッチ機能を有する。
【0030】
判定部6は、高域監視回路が出力する所定の周波数成分の信号が、所定強度以上であるか否かの判定を行い、その結果により前記信号が由来するガラスの振動が、ガラス破壊に起因するものであるか否かを判定する。
【0031】
出力部7は、判定部6がガラス破壊と判定した場合に、警報として発報信号を外部に出力する。外部に出力する発報信号の例としては、遠隔の警備装置等に送信する無線信号や、ランプ表示、ブザー鳴動等がある。
【0032】
ガラス破壊検出装置1は、簡易なアナログ回路として実現できる。アナログ回路として実現する場合の構成要素の一例を示す。HPF1,2は、L、Cからなるアナログフィルタで実現できる。増幅器1,2はオペアンプ等を用いて実現できる。SW1、SW2は、FETを用いたアナログスイッチで実現できる。遅延回路5はコンデンサを適宜選択して遅延時間を制御する回路を実現できる。
なお、図示しないが、各部には電源としての電池から電力が供給される。
【0033】
2.ガラス破壊検出装置1の装着(図2)
ガラス破壊検出装置1は、監視対象となるガラス10の表面に取り付けられる。
例えば、図2に示すように、ガラス破壊検出装置1はガラス10の隅の比較的目立たない部分に接着剤又は両面テープなどで取り付けられる。ガラス破壊検出装置1が、ガラス10が破壊されたことを検出すると、異常信号を通報装置11へ無線で送信し、通報装置11はさらに遠隔の図示しない監視装置へ異常信号を送信する。
【0034】
尚、本発明で対象とするガラスは通常のフロートガラスに限定されず、強化、合わせガラス等も対象とすることが可能である。対象とするガラスの種類、大きさ、厚さに応じて低域監視回路3、高域監視回路4のカットオフ周波数、増幅器1,2の増幅率等、各種閾値が決定される。
【0035】
例えば、一般家庭向け引き違い窓を対象とする場合、最大の大きさのサッシ枠に対し、クレセントの位置から最も遠い位置(隅部)に検出器を取り付け、クレセント付近がこじ破りにより破壊された場合に検知可能であるように上記各種の値が決定される。
【0036】
また、合わせガラスまで検知対象とする場合には、ガラス間の中間膜の存在により振動波の減衰が大きくなるため、増幅器1,2の増幅率は通常のフロートガラスだけを対象と する場合よりも高い値に設定する必要がある。
【0037】
これらカットオフ周波数、増幅率等の値は各ガラスに対する実験結果より実験値の分布を求め、当該分布に従ってガラス破壊時を確実に検知可能であり、しかも破壊に至らない衝撃を受けた場合に異常信号を出さないように適切に設定される。
【0038】
3.ガラス破壊検出装置1によるガラス破壊の検出原理(図3)
次に本実施形態のガラス破壊検出原理について図3を用いて説明する。本発明の目的は、ガラスが手で叩かれた場合や、破壊に至らない程度に小石がガラスへ衝突した場合等に発生する誤警報を排除し、ガラスのハンマー等による打撃破壊や、マイナスドライバーを用いたこじ破り等による破壊を確実に検知するガラス破壊検出装置1を簡易な構成で実現することにある。
【0039】
本発明者らは、
・ガラスをハンマーなどで打撃して破壊する場合(打撃破壊)
・こじ破り等でガラスにひびを入れて破壊する場合(こじ破り)
・ガラスに対し破壊に至らない程度の打撃を加える場合(ガラス殴打)
の各現象について以下のような特徴が得られることを実験により見出した。尚下記において低域成分とは低域監視回路3が出力する信号(HPF1の出力)であり、高域成分とは高域監視回路4が出力する信号(HPF2の出力)を意味する。
【0040】
[打撃破壊](破壊)
ガラスに対して大きな力を加えて破壊するため、ガラス全体が振動するとともに破壊によって高周波成分が発生するため、ガラス破壊時に検出される振動波は広い周波数(低域から高域まで)成分が含まれ、比較的長時間にわたって振動波が観測される。
【0041】
[こじ破り](破壊)
ガラスとサッシの隙間にマイナスドライバーを差し込み、捻ることでガラスが割れる瞬間に局所的に大きな力が加わるため、検出される振動波にはある程度の大きさの低域成分が観測される(図3(a)参照)。
【0042】
また、打撃行為によりガラスが破壊され、破壊現象自体が短時間で終わる打撃破壊と比較すると、こじ破りはガラスにひびが入った時点ではガラスが形状を保っているため、マイナスドライバーをひねり続けることで継続的にガラスに力が加えられ、破壊現象が打撃破壊時よりも長い時間に亘って継続する。そのため、破壊現象により発生する高域成分は、打撃破壊時と比較すると振動強度は小さいが、長い時間にわたる断続的な信号として観測される(図3(b)参照)。
【0043】
[ガラス殴打](非破壊)
ガラス殴打によりガラス全体に振動が伝わるため、観測される振動波には、低域成分を主体とした振動波が長い時間観測される(図3(c)参照)。高域成分もある程度含まれるが、破壊現象を伴わないため短い時間で減衰する(図3(d)参照)。又、図示はしていないが、ガラスに砂がぶつかる場合等は低域成分を含まず、高域成分のみの振動波が観測される。
【0044】
上記特徴を踏まえると、まず低域成分の強度が所定値未満の場合は、上述のガラスに砂がぶつかる場合等が誤報要因として識別できる。そして、低域成分の強度が所定値以上であり、さらに低域成分が検出された時点から、高域成分が所定時間以上に亘って観測される場合にガラス破壊と判断することができるが、破壊に至らないガラス殴打時にも高域成分が発生するため、このようなガラス殴打時の信号が収束する時間(第1の所定時間)、および連続的にガラス殴打する場合の時間間隔を考慮して監視区間の時間(第2の所定時間)を決定する必要がある。
【0045】
即ち、監視区間の開始を、低域成分を検出してから、破壊に至らないガラス殴打時の振動が減衰しきる時間(第1の所定時間)が経過した時点とし、監視区間の終了を、ガラス殴打を連続的に繰り返すような場合を検出しないような時間(第2の所定時間)が経過した時点とすることで、監視区間中の高域成分の有無だけでガラス破壊か否かの判定を行うことが可能となり、簡易な共通の原理で複数の方法によるガラス破壊とその他の誤報要因を識別することが可能となる。
【0046】
以上の判断手法を、図3(a)及び(b)に示したガラス破壊時の低域回路3及び高域回路4が出力する信号の波形図で説明すると、同図(a)において所定強度以上の信号が検出されると、同図(b)に「高域回路ON(1)」で示すように高域回路がONとなり、その時点から、破壊に至らないガラス殴打時の振動が減衰しきる時間に合せて設定した第1の経過時間T1が経過するまでは、高域回路4が抽出した信号についての判断は保留し、第1の経過時間T1が経過したところで、次に第2の経過時間T2が経過するまでに、高域回路4が抽出した信号が所定強度以上であるか否かの判断が行なわれる。
【0047】
4.ガラス破壊検出装置1によるガラス破壊検出処理の具体的手順(図4)
次に、本実施形態におけるガラス破壊検出のための処理の具体的手順について、実行される処理のフローを示す図4を用いて説明する。
開始時には低域監視回路3の増幅器1のみ駆動中であり、高域監視回路4の増幅器2は停止状態にある。
【0048】
ステップS001ではSW1に低域監視回路3から強度についての所定値Th1以上の信号が入力されているか否かを判定する。Th1以上である場合には、ガラスに対して破壊を含む何らかの衝撃が加わった可能性があるためステップS002へ進む。Th1未満の場合にはステップS001に戻り低域監視回路3により入力信号の監視を続ける。
【0049】
尚、Th1は前述のように対象とするガラスの種類に応じて打撃破壊、こじ破り等の破壊実験から得られる実験値の分布より適切に設定される。
【0050】
ステップS002では、SW1をオンにして高域監視回路4の増幅器2に電源から電力を供給させ、高域監視回路4の駆動を開始させる。
【0051】
ステップS003では、予め設定した遅延時間(第1の所定時間)が経過したか否かを判定する。
この遅延時間は、ガラスを破壊に至らない程度に殴打した場合に観測される振動波が収束する時間(例えば5ms)に設定される。即ち、高域監視回路4の監視をこの遅延時間の経過後とすることで、ガラス破壊時とガラス殴打時の識別を可能とする。この遅延時間も対象とするガラスの種類に応じて実験値の分布より適切に決定される。
【0052】
また、高域監視回路4の増幅器2を起動してから安定するまでには一定時間(数ms程度)必要である。従って、高域監視回路4が安定してから監視を観測させるという効果もある。通常は、この高域監視回路4が安定するまでの時間は、ガラス殴打時の高域成分が収束する時間よりも短いが、選択周波数帯域や使用アンプの特性上、両者が逆転する場合は遅延時間は長い方に設定される。
【0053】
ガラス殴打時の収束時間が高域監視回路4が安定になるまでの時間よりも長い場合は、この収束時間が遅延時間として設定される。この場合に、高域監視回路4の駆動開始は、図3(b)中に「高域回路ON(1)」で示したように、低域監視回路3に所定強度以上の信号が入力したタイミングにする必要は必ずしもない。例えば、低域監視回路3で所定強度以上の信号が入力してから、前記遅延時間T1から高域回路の安定時間Tsを差し引いた第3の所定時間T3経過後としてもよい。すなわち、この所定時間T3が経過したところで、図3(b)中に「高域回路ON(2)」で示したように、高域監視回路4の駆動を開始してもよい。これは、図1中に破線で示すように、SW1と増幅器2の間に新たな遅延回路9を設けることで実現できる。これにより、高域監視回路4の駆動時間を最小限にすることが可能となり、電源のさらなる長寿命化が可能となる。
【0054】
ステップS003で遅延時間が経過すると、ステップS004でSW2がオンとなり、高域監視回路4の監視が開始される。
【0055】
ステップS005では、判定部6により高域監視回路4で強度についての所定値Th2以上の信号があるか否かが判定される。Th2もTh1と同様、対象とするガラスに応じて実験により決定される値である。
【0056】
ここでの判定は、所定値Th2以上の信号が1回でもあれば警報を出力することとしてもよいし、複数回カウントした場合に始めて警報を出力するようにしてもよい。
【0057】
ステップS005で高域監視回路4で所定値Th2以上の振動があると、ステップS007で出力部7から警報が出力される。警報としては前述したような警備装置への異常信号の無線送信や、ブザー鳴動、ランプ点滅などがある。
【0058】
ステップS005で高域監視回路4に所定値Th2以上の振動が観測されない場合は、ステップS006で、高域監視回路4による監視時間が経過したか否かを判定する。この監視時間は、例えば、こじ破り時に高域成分を監視するのに十分な時間に設定される。ただし、長く設定しすぎると、ガラスを連続的に殴打する場合を検出してしまうので、このような場合を検出しないよう適切な時間に設定される(例えば300ms)。
【0059】
監視時間が経過してない場合はステップS005に戻り、引き続き高域成分の信号の有無を判定する。
【0060】
ステップS006で監視時間が経過すると、ステップS008でSW1、SW2をオフとし、高域監視回路4が停止状態となる。この場合は、低域監視回路3に入力した信号はガラス破壊ではないと判定されたことになり、再びステップS001に戻り、低域監視回路3による低域成分の信号の強度が所定値Th1以上であるか否かが監視される。
【0061】
尚、上述の例では、高域監視回路4の駆動時間は、遅延時間+監視時間となるが、この間低域監視回路3での監視は必要としないため、高域監視回路4が駆動中は停止状態としてもよく、高域監視回路4の監視が終了すると同時に駆動して監視を再開するようにしてもよい。
【0062】
本実施形態によれば、通常時は、高域監視回路4をオフにしておくため、電源として電池を用いている場合には、装置を長寿命化できる。
【0063】
また、低域監視回路3で所定強度以上の信号(振動)を検出してから、高域監視回路4での監視を所定時間を遅延させ、遅延時間後から監視を行うことで、振動時間の短いガラス殴打時による誤警報の発生を防ぐことができる。
【0064】
また、図1で用いているHPF2の監視周波数帯域をHPF1に含まれるよう設定することで、回路の設計については柔軟に対応することが可能となる。例えば図5に示す本実施形態の変形例に係るガラス破壊検出装置1’のように、低域監視回路3と高域監視回路4を直列に接続することも可能である。図5のような構成をとると、入力信号は増幅器1で増幅されているため、高域監視回路4における増幅器2の増幅率を抑えることが可能となる。このため、電力の消費を一層節約し、電源である電池等をさらに長寿命化できる。
【0065】
もちろん、図1の構成のままで、ハイパスフィルタにローパスフィルタを組み合わせてバンドパスフィルタを構成するようにすることもできる。
【0066】
また、先に本ガラス破壊検出装置1を簡易なアナログ回路として実現した場合の具体的構成について説明したが、本ガラス破壊検出装置1において低域監視回路3と高域監視回路4の出力をデジタル処理する回路として実現することもできる。この場合、増幅器1、2で増幅した信号をA/D変換器によりでデジタル信号に変換し、他の処理(SW1,SW2、遅延回路5、判定部6)を例えばDSP(デジタルシグナルプロセッサ)によりデジタル信号処理で行うようにすることもできる。
【0067】
この場合は、低域監視回路3で所定強度以上の信号(振動)を検出してから、高域監視回路4の出力を所定時間無効とし、その後の出力結果により判定を行うことで振動時間の短いガラス殴打時に誤警報を発することを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0068】
1,1’…ガラス破壊検出装置
2…振動検出手段としての振動ピックアップ
3…第2の抽出手段としての低域監視回路
4…第1の抽出手段としての高域監視回路
5…禁止手段としての遅延回路
6…判定部
7…出力部
9…第2の遅延回路
10…ガラス
11…通報装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスの振動を検出し、電気的に変換して出力信号とする振動検出手段と、
前記振動検出手段の前記出力信号から所定の周波数成分の信号を抽出する第1の抽出手段と、
前記振動検出手段の前記出力信号から前記第1の抽出手段よりも低い周波数成分を含む信号を抽出する第2の抽出手段とを有するガラス破壊検出装置であって、
前記第2の抽出手段が所定強度以上の信号を抽出してから第1の所定時間が経過した後、第2の所定時間内に前記第1の抽出手段が抽出した信号が所定強度以上である場合に警報を出力することを特徴とするガラス破壊検出装置。
【請求項2】
通常時は前記第2の抽出手段を駆動して前記第1の抽出手段は停止させ、前記第2の抽出手段が所定強度以上の信号を検出した場合に前記第1の抽出手段を駆動させることを特徴とする請求項1のガラス破壊検出装置。
【請求項3】
前記第2の抽出手段が所定強度以上の信号を検出してから前記第1の所定時間が経過するまでの間は、前記第1の抽出手段が抽出した信号が所定強度以上であるか否かの判定を禁止する禁止手段を有することを特徴とする請求項2に記載のガラス破壊検出装置。
【請求項4】
前記第2の抽出手段が所定強度の信号を抽出してから前記第1の所定時間より短い第3の所定時間の経過の後に、前記第1の抽出手段を駆動させることを特徴とする請求項2又は3に記載のガラス破壊検出装置。
【請求項5】
前記第1の抽出手段が抽出する信号の周波数成分は、前記第2の抽出手段が抽出する信号の周波数成分に含まれることを特徴とする請求項2乃至4に記載のガラス破壊検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−187018(P2011−187018A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54596(P2010−54596)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000108085)セコム株式会社 (596)
【Fターム(参考)】