説明

キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質及びその利用

【課題】キシロースをキシルロースに異性化する活性(キシロース−キシルロース異性化活性)に優れるタンパク質を提供する。
【解決手段】キシロースイソメラーゼ活性を有する野生型タンパク質において、配列番号2における第54位及び第370位の双方又はいずれかに対応する位置において変異を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、キシロースイソメラーゼ活性を有する新規なタンパク質の提供とその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物系バイオマスの有効利用の観点から、植物系バイオマス資源の廃棄物や未利用資源に多く含まれるセルロースを利用してアルコールを発酵生産させたり、生分解性プラスチックの原料である乳酸を発酵生産させたりする試みがなされている。例えば、L−乳酸やD−乳酸の脱水素酵素遺伝子を酵母サッカロマイセス・セレビシエ属に導入して、セルロースの糖化により得られるグルコースから乳酸を生産する試みに関しては多数の報告がなされている。
【0003】
こうした植物系バイオマスを有効利用するには、主成分であるセルロースに次いで多く含まれるヘミセルロースを利用することが望まれる。ヘミセルロースの一種であるキシランやその他の高分子の主な構成糖であるキシロースを資化し、乳酸等の有機酸やエタノールを生産する組換え酵母の開発が望まれる。しかしながら、一般的な発酵酵母はキシロースを資化することができなかった。
【0004】
そこで、キシロース資化経路として図2に示す経路、すなわち、キシロースからキシリトールを経由してキシルロース及びキシルロース5リン酸を生成する経路を新たに構築するために、キシロースレダクターゼ(XR)及びキシロースデヒドロゲナーゼ(XDH)を酵母に導入する試みがなされてきた。しかしながら、XRの補酵素はNADPHであり、XDHの補酵素はNADであるため、これら酵素の発現によって酸化還元のバランスが崩れてNAD欠乏となり最終的な発酵効率が悪くなってしまうという欠点があった。
【0005】
そこで、XDHの補酵素要求性をNADH型からNADPH型に改良した変異型XDHの利用が試みられている(特許文献1)。他方、一段階の反応でキシロースからキシルロースを生成するキシロースイソメラーゼ(XI)の酵母への導入も検討されている(特許文献2〜4)。また、カビ由来の新規XIを取得して酵母に導入してキシロースを資化させる試みも開示されている(特許文献5、6)。
【特許文献1】特開2006−6213号公報
【特許文献2】米国特許第6475768号明細書
【特許文献3】米国特許第5041378号明細書
【特許文献4】米国特許第4894331号明細書
【特許文献5】特表2005−514951号公報
【特許文献6】国際公開WO2006/9434号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現状において、キシロースイソメラーゼ活性自体の向上は試みられていない。また、これまでのXIの酵母への導入例は、酵母にXIを導入してもわずかにキシロースをキシルロースに異性化する活性が向上するにとどまるか、あるいはこの異性化活性よりもグルコースをフルクトースに異性化する活性が着目されているにすぎなかった。
【0007】
そこで、本発明は、キシロースをキシルロースに異性化する活性(キシロース−キシルロース異性化活性)に優れるタンパク質及び当該タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供することを一つの目的とする。また、本発明は、優れたキシロース−キシルロース異性化活性を有するタンパク質を発現する形質転換体を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、本発明のタンパク質又は形質転換体を用いた物質生産方法を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、Piromyces sp. E2(ATCC76762)のXIに分子進化的手法により変異を導入し、第54位及び第370位のいずれか又は双方において変異を導入することで高いキシロース−キシルロースイソメラーゼ活性を有する改変型XIを得ることに成功し、本発明を完成した。本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0009】
本発明によれば、キシロースイソメラーゼ活性を有する野生型タンパク質において、配列番号2における第54位及び第370位の双方又はいずれかに対応する位置において変異を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質が提供される。
【0010】
本発明のタンパク質においては、配列番号2に記載のアミノ酸配列の第54位及び第370位の双方又はいずれかに対応するアミノ酸が置換されているアミノ酸配列を有することができる。前記第54位に対応するアミノ酸がシステインよりも塩基性のアミノ酸で置換されていてもよいし、当該アミノ酸がアルギニン、リシン及びヒスチジンのいずれかで置換されていてもよい。アルギニンで置換されていることが好ましい。また、前記第370位に対応するアミノ酸が側鎖に水酸基を有するアミノ酸で置換されていてもよく、当該アミノ酸がセリンで置換されていてもよい。さらに、前記第54位に対応するアミノ酸がアルギニンで置換され、前記第370位に対応するアミノ酸がセリンで置換されているアミノ酸配列を有することが好ましい。さらに、本発明のタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において第54位及び第370位に対応する位置以外において1又は2以上の変異を有する酸配列を有することもできる。
【0011】
本発明のタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質が備えるキシロースイソメラーゼ活性よりも高いキシロースイソメラーゼ活性を備えることが好ましく、より好ましくは、1.5倍以上のキシロースイソメラーゼ活性を備える。
【0012】
本発明によれば、キシロースイソメラーゼ活性を有する野生型タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号2における第54位及び第370位の双方又はいずれかに対応する位置に変異を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが提供される。本発明のポリヌクレオチドは、以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードすることができる。
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列の第54位に対応するアミノ酸が置換されているアミノ酸配列
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列の第370位に対応するアミノ酸が置換されているアミノ酸配列
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列の第54位及び第370位に対応するアミノ酸が置換されているアミノ酸配列
【0013】
本発明のポリヌクレオチドにおいて、前記タンパク質はキシロースイソメラーゼ活性を有することができ、前記(a)のアミノ酸配列は、前記第54位に対応するアミノ酸がリシン、ヒスチジン及びアルギニンのいずれかで置換されているアミノ酸配列であってもよいし、前記(b)のアミノ酸配列は、前記第370位に対応するアミノ酸がスレオニン、チロシン及びセリンのいずれかで置換されているアミノ酸配列であってもよいし、前記(c)のアミノ酸配列は、前記第54位に対応するアミノ酸がリシン、ヒスチジン及びアルギニンのいずれかで置換され、前記第370位に対応するアミノ酸がスレオニン、チロシン及びセリンのいずれかで置換されているアミノ酸配列であってもよい。さらに、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列において第54位及び第370位に対応する位置以外において1又は2以上の変異を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするものであってもよい。さらにまた、配列番号1、3、5及び7に記載の塩基配列又はその一部若しくはこれらの相補鎖とハイブリダイズするポリヌクレオチドであってもよい。
【0014】
本発明によれば、上記いずれかに記載のポリヌクレオチドを当該ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現可能に保持する細胞が提供される。本発明の細胞は、酵母とすることができ、また、有機酸生産に関連する1種又は2種以上の酵素をコードするポリヌクレオチドを前記酵素を発現可能に保持する細胞とすることができる。前記有機酸は乳酸であり、前記酵素は乳酸脱水素酵素とすることができる。さらに、本発明の細胞は、エタノール生産に関連する1種あるいは2種以上の酵素をコードするポリヌクレオチドを、前記酵素を発現可能に保持することもできる。
【0015】
本発明によれば、上記いずれかに記載のタンパク質を用いてキシロースをキシルロースに変換する方法が提供され、さらに、上記いずれかに記載の細胞を用いて、キシロースをキシルロースに変換する方法も提供される。さらに、有機酸生産に関連する酵素を発現する細胞を用いて有機酸を生産する工程、を備える、有機酸の生産方法も提供され、エタノール生産酵素を発現する細胞を用いてエタノールを生産する工程、を備える、エタノールの生産方法も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のキシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質は、キシロースイソメラーゼ活性を有する野生型タンパク質のアミノ酸配列において配列番号2に記載のアミノ酸配列の第54位及び第370位の双方又はいずれかに対応する位置に変異を有することができる。当該位置において有することでこのタンパク質のキシロースイソメラーゼ活性を変化させることができる。例えば、第54位に塩基性アミノ酸であるアルギニンを有することでキシロースイソメラーゼ活性を向上させることができる。また、第370位に水酸基を有するアミノ酸を有することでもキシロースイソメラーゼ活性を向上させることができる。以下、本発明のタンパク質及びこのタンパク質をコードするポリヌクレオチド、これらの利用について説明する。
【0017】
(キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質)
本発明のタンパク質は、キシロースイソメラーゼ活性を有する野生型タンパク質のアミノ酸配列を改変した新規なタンパク質に関する。キシロースイソメラーゼ活性を有する野生型タンパク質、すなわち、キシロースイソメラーゼ(EC5.3.1.5)は、D−キシロースをD−キシルロースに異性化する酵素である。本発明においてキシロースイソメラーゼ活性を有する野生型タンパク質には、二量体以上の形態でキシロースイソメラーゼ活性を発揮する場合、当該二量体以上の形態のほか、当該多量体を構成する単量体タンパク質を含んでいる。本明細書において示す配列番号2に記載のアミノ酸配列は、Piromyces sp. E2(ATCC76762)のXIのアミノ酸配列である。Piromyces sp. E2(ATCC76762)のXIは、ホモ4量体構造を有し、キシロースイソメラーゼ活性部位は4量体が会合することによって形成されていると推測されている。
【0018】
本発明のタンパク質は、キシロースイソメラーゼ活性を有する野生型タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号2に記載のアミノ酸配列の第54位及び第370位の双方又はいずれかにおいて変異を有するアミノ酸配列を有している。すなわち、本発明の第1の態様のタンパク質は、配列番号2に記載のPiromyces sp. E2(ATCC76762)のXIのアミノ酸配列の第54位及び第370位の双方又はいずれかに変異を有するアミノ酸配列を有している。Piromyces sp. E2(ATCC76762)のXIのアミノ酸配列は、配列番号2に記載されるほか、NCBIのHP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)においてアクセッション番号CAB76571により取得できる。
【0019】
また、本発明の第2の態様のタンパク質は、キシロースイソメラーゼ活性を有するPiromyces sp. E2(ATCC76762)のXI以外の野生型タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号2における第54位及び第370位の双方又はいずれかに相当する位置において変異を有するアミノ酸配列を有している。配列番号2に記載のアミノ酸配列は、Piromyces sp. E2(ATCC76762)のXIであるが、アミノ酸配列のホモロジーを利用して、このアミノ酸配列の特定配列位置を、他のキシロースイソメラーゼ活性を有する野生型タンパク質のアミノ酸配列において特定することができる。他の野生型タンパク質のアミノ酸配列において、Piromyces sp. E2(ATCC76762)のXIにおける第54位及び/又は第370位に対応する位置において変異を導入することで、その野性型タンパク質においてもキシロースイソメラーゼ活性を変化させることができる。
【0020】
こうした野性型タンパク質としては、種々の微生物等に由来するXIが挙げられる。例えば、Piromyces sp. E2(ATCC76762)のXIのオルソログが挙げられる。具体的には、シロイヌナズナ、イネ等の植物のXI、Neocallimastrix、Caecomyces、Piromyces、Bacterloides、 Orpinomyce等の微生物由来のキシロースイソメラーゼが挙げられる。オルソログ等である他のキシロースイソメラーゼは、配列番号2に記載のアミノ酸配列に基づくホモロジー検索等により取得することができる。また、配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド又はその一部を用いてハイブリダイゼーション技術やPCR技術を利用することにより取得したDNAに基づいて取得することができる。また、対応する配列上の位置の決定に際しては、例えば、GENETIXやClustal W(EMBL-EBI、DDBJにおいて利用可能)などの解析プログラムを利用することができる。
【0021】
例えば、GENETIXによれば、配列番号2に記載のアミノ酸配列の第54位及び第370位は、大腸菌のXIのアミノ酸配列の第53位及び第369位にそれぞれ対応し、BacteroidesのXIのアミノ酸配列の第55位及び第371位にそれぞれ対応している。
【0022】
配列番号2に記載のアミノ酸配列の第54位及び第370位の他の野生型XIにおける対応位置は、アミノ酸配列のアラインメントに基づくほか、タンパク質のX線三次元構造解析を利用して特定してもよい。Protein Data Bank(http://www.rcsb.org/pdb/Welcome.do)にPDB ID:1A0Cとして開示されているXI(Clostridium thermosulfurogenes)の結晶構造解析データに基づいてInsightII(アクセルリス社)などによってホモロジーモデリングを行ったところ、配列番号2に記載のアミノ酸配列の第54位は、キシロースイソメラーゼの活性中心に面した部位に位置し、同第370位は単量体が会合する界面に位置することがわかっている。したがって、上記第37位は、キシロースイソメラーゼの活性中心及びその近傍のいずれかの位置であってもよく、また、上記第370位は、キシロースイソメラーゼの単量体の会合部位のいずれかの位置であってもよい。
【0023】
ここで、「キシロースイソメラーゼの活性中心及びその近傍」とは、キシロースイソメラーゼの立体構造に基づいて推定される活性中心に面した位置及び当該位置の近傍をいう。活性中心に面した位置の近傍にあるアミノ酸残基は、例えば、活性中心のアミノ酸残基に対して、共有結合、イオン性相互作用、イオン−双極子間相互作用、双極子−双極子間相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、静電気相互作用、疎水性相互作用等に関与することができる。キシロースイソメラーゼの立体構造及び活性中心は、タンパク質の3次元構造を解析するための公知のコンピュータ・プログラムであるInsightII(アクセルリス社)などによって求めることができる。
【0024】
第54位に対応する位置及び第370位に対応する位置における変異は、置換、欠失及び挿入のいずれかであるが、キシロースイソメラーゼ活性の向上の観点から好ましくは置換である。第54位において好ましいアミノ酸は、野生型タンパク質の当該部位のアミノ酸よりも塩基性のアミノ酸である。例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質(Piromyces sp. E2(ATCC76762)のXI)において、第54位はシステインであるため、システイン(等電点pI:5.1)よりも塩基性のアミノ酸、すなわち、等電点pIがよりアルカリ側にあるアミノ酸であることが好ましい。また、他の野生型タンパク質においても、置換アミノ酸は、システインよりも塩基性のアミノ酸であることが好ましい。システインよりも塩基性のアミノ酸としては、システインよりも等電点pIがアルカリ側であればよく、メチオニン、グルタミン、アルパラギン、ヒスチジン、プロリン、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、トレオニン、セリン、イソロイシン、ロイシン、バリン、アラニン、グリシン、アルギニン及びリシンが挙げられる。好ましくは、アルギニン、リシン及びヒスチジンからなる塩基性アミノ酸のいずれかである。塩基性の観点からより好ましくはアルギニンである。本発明のタンパク質が有することができるアミノ酸配列の一例である配列番号2に記載の第54位がアルギニンであるアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0025】
第370位において好ましいアミノ酸は、野生型タンパク質の当該部位のアミノ酸よりも親水性の側鎖を有するアミノ酸である。例えば、側鎖に水酸基を有するアミノ酸である。こうしたアミノ酸としては、セリン、トレオニン及びチロシンが挙げられる。好ましくはセリンである。本発明のタンパク質が有することができるアミノ酸配列の一例である配列番号2に記載の第370位がセリンであるアミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0026】
本発明のタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において第54位及び第370位に対応するアミノ酸がそれぞれ上記したようなシステインより塩基性のアミノ酸(好ましくは、アルギニン、リシン及びヒスチジンであり、より好ましくはアルギニン)及び側鎖に水酸基を有する上記アミノ酸(好ましくはセリン)であるアミノ酸配列を有していることが好ましい。こうしたタンパク質が有することができるアミノ酸配列の一例を配列番号8に示す。
【0027】
本発明のタンパク質は、上記のように、上記第54位及び上記第370位の双方に上記変異を有していてもよいし、また、いずれか一方において変異を有していてもよい。さらに、本発明のタンパク質は、上記第54位及び上記第370位以外において1又は2以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入及び付加から選択されるいずれかの変異を有していてもよい。上記第54位及び第370位における変異によるキシロースイソメラーゼ活性の変化を阻害しない範囲で他の部位における配列修飾が可能である。
【0028】
また、本発明のタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸との相同性が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは98%以上である。配列の相同性はBLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)やFASTA(ftp.virginia.edu/pub/fasta)など公知のプログラムを用いて決定することができる。
【0029】
(キシロースイソメラーゼ活性)
本発明のタンパク質は、キシロースイソメラーゼ活性を有している。キシロースイソメラーゼ活性は、既に説明したように、キシロースをキシルロースに変換する活性であり、マグネシウム要求性の酵素反応によるものである。キシロースイソメラーゼ活性は、35℃、pH5.5で、基質であるキシロースほかMgの存在下、酵素反応を行い、その後、キシルロースを定量することにより、測定できる。酵素反応は、詳しくは、200mMマレイン酸緩衝液(pH5.5)、20mM MgSO4、1mM CoCl2、1mM MnCl2、10mM キシロースの存在下、35℃で2時間反応させた後、システイン−カルバゾール−硫酸法によりキシルロースを定量する。システイン−カルバゾール−硫酸法は、システイン−カルバゾール−硫酸溶液を加えて室温で30分間呈色させて吸光度(540nm)を測定することで、キシルロースを定量できる(J. B. C.(1951, VOL.192, p583-587)。なお、キシルロースは、HPLC法等によっても測定することができる。
【0030】
本発明のタンパク質は、Piromyces sp. E2(ATCC76762)のXIのキシロースイソメラーゼ活性よりも高いキシロースイソメラーゼ活性を有していることが好ましい。この野生型も比較的高いキシロースイソメラーゼ活性を有しているが、工業的にはこのキシロースイソメラーゼよりもさらに高い活性が求められるからである。本発明のタンパク質が有する好ましいキシロースイソメラーゼ活性は、Piromyces sp. E2(ATCC76762)のXIよりも、1.2倍以上であり、より好ましくは1.5倍以上であり、さらに好ましくは1.8倍以上である。
【0031】
特に、本発明のタンパク質は、35℃、pH5.5の反応条件下で、Piromyces sp. E2(ATCC76762)のXIのキシロースイソメラーゼ活性よりも高いキシロースイソメラーゼ活性を有していることが好ましい。35℃、pH5.5は、酵母の好適な発酵条件に合致しており、この反応条件下において、優れたキシロースイソメラーゼ活性を有することで、本発明のタンパク質を発現する酵母を用いて発酵によってキシラン又はキシロースを炭素源として発酵により物質生産させることができる。
【0032】
本発明のタンパク質は、例えば、変異PCR法やDNAシャッフリングなどの分子進化学的手法に基づくスクリーニングによって得ることができる。また、配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードするDNA又はその一部をプローブとして、一般的なハイブリダイゼーション技術(Southern, EM., J Mol Biol, 1975,98,503.)により得たDNAから合成することができる。また、かかるタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードするDNAに特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCR技術(Saiki, RK.Science,1985,230,1350., et al.,Saiki, RK.et al.,Science,1988,239,487 )により得たDNAから合成することもできる。なお、ハイブリダイゼーション条件としてストリンジェンシーの低い条件を選択すれば、塩基の変異を容易に導入し、アミノ酸変異を導入することができる。
【0033】
さらに、Site-directed mutagenesis法(Kramer, W.& Fritz,HJ.,Method Enzymol.,1987,154,350)によって、配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードするDNAに人工的に変異を導入することによっても得ることができる。
【0034】
(ポリヌクレオチド)
本発明のポリヌクレオチドは、キシロースイソメラーゼ活性を有する野生型タンパク質のアミノ酸配列において配列番号2に記載のアミノ酸配列の第54位及び第370位の双方又はいずれかに対応する位置に変異を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードしている。本発明のポリヌクレオチドによれば、野生型タンパク質のキシロースイソメラーゼ活性を変化させた改変型のタンパク質を得ることができる。改変型タンパク質は、キシロースイソメラーゼ活性を有していることが好ましい。配列番号2に記載のアミノ酸配列における第54位及び第370位の双方又はいずれかに対応する位置における好ましい変異、すなわち、アミノ酸の置換については既に記載したとおりである。また、本発明のタンパク質が有する好ましいアミノ酸配列についても既に記載したとおりである。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のタンパク質が採りうる好ましい態様のタンパク質のほか本発明のタンパク質が採り得る各種態様のタンパク質をコードすることができる。すなわち、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列において第54位及び第370位に対応する位置以外において1又は2以上の変異を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードしていてもよい。
【0035】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のタンパク質をコードする限り、コドン用法については特に限定されない。したがって、改変した野生型タンパク質と同じコドン用法によるポリヌクレオチドであってもよいし、異なるコドン用法によるポリヌクレオチドであってもよい。本発明のポリヌクレオチドを、本発明のタンパク質を発現可能に適当な宿主に導入して形質転換体を構築するときにおいては、宿主のコドン用法を考慮したポリヌクレオチドとすることができる。
【0036】
本発明のポリヌクレオチドは、その用途において、本発明のタンパク質をコードしているものとして使用できればよい。したがって、DNA、RNA、DNA/RNAキメラ、DNA/RNAハイブリッド、PNA、あるいは修飾塩基を有していてもよく、二重鎖であっても一重鎖(コーディング鎖又はその相補鎖)であってもよい。
【0037】
本発明のポリヌクレオチドとしては、配列番号3に記載の塩基配列を挙げることができる。この塩基配列は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において第54位がアルギニンで置換されているアミノ酸配列をコードしている。また、配列番号5に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。この塩基配列は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において第370位がセリンで置換されているアミノ酸配列をコードしている。また、配列番号7に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。この塩基配列は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において第54位がアルギニンで、第370位がセリンで置換されているアミノ酸配列をコードしている。さらに、本発明のポリヌクレオチドとしては、配列番号1、3、5及び7に記載の塩基配列又はその一部若しくはこれらの相補鎖とハイブリダイズするポリヌクレオチドが挙げられる。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーによって得られる配列相同性が異なるが、ハイブリダイゼーション条件としては、例えば、温度60℃〜70℃、塩濃度0.5〜1M NaCl、20時間)を採用することができる。また、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1、配列番号3、配列番号5及び配列番号7のいずれかに記載の塩基配列との相同性が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは98%以上である。配列の相同性はBLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)やFASTA(ftp.virginia.edu/pub/fasta)など公知のプログラムを用いて決定することができる。
【0038】
(形質転換体)
本発明の細胞は、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、前記タンパク質を発現可能に保持することができる。宿主となる細胞としては、特に限定しないが、Eshrichia coli、Bacillus subtilisなどの細菌のほか、サッカロマイセス・セレビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)などのサッカロマイセス属酵母、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などの酵母、sf9、sf21等の昆虫細胞、COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)などの動物細胞、サツマイモ、タバコなどの植物細胞などとすることができるが、好ましくは酵母である。酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエなどのサッカロマイセス属を好ましく用いることができる。本発明のポリヌクレオチドは、宿主の染色体上及び染色体外において保持させることができる。
【0039】
本発明の細胞は、本発明のタンパク質を細胞内で発現可能にポリヌクレオチドを保持することができる。すなわち、本発明のタンパク質を細胞内で生産できる。細胞内で本発明のタンパク質を生産させることで、キシロースを細胞内でキシルロースに効果的に変換できる。また、本発明の細胞は、細胞内で細胞表層提示型タンパク質又は分泌型タンパク質として発現可能にポリヌクレオチドを保持していてもよい。細胞表層型タンパク質又は分泌型タンパク質として本発明のタンパク質を備えることで、キシロースを細胞外で効率的にキシルロースに変換できるとともに炭素源として利用しやすくなる。また、分泌型の場合には、キシロースイソメラーゼのみを効率的に生産することができる。本発明のタンパク質の分泌又は細胞表層提示のためには、ポリヌクレオチドは本発明のタンパク質のコード領域のほか、用いる微生物の種類に応じた分泌タンパク質や、分泌タンパク質と細胞表層にタンパク質を保持させるためのタンパク質とをコードする領域を備えていることが好ましい。なお、所望のタンパク質を細胞表層提示する技術は、WO 01/79483号公報や、藤田らの文献(藤田ら,2004. Appl Environ Microbiol 70:1207-1212および藤田ら, 2002. ApplEnviron Microbiol 68:5136-5141.)、村井ら, 1998. Appl Environ Microbiol 64:4857-4861.に開示されており、これらの記載に基づいて行うことができる。分泌タンパク質としては、例えば、Rhizopus oryzaeのグルコアミラーゼ遺伝子の分泌シグナルなどが挙げられる。また、細胞表層に保持可能とするタンパク質としては、凝集性タンパク質あるいはその一部が挙げられ、例えば、性凝集素タンパク質であるα−アグルチニンをコードするSAG1遺伝子の5’領域の320アミノ酸残基からなるペプチドが挙げられる。
【0040】
以上説明したような本発明の細胞は、周知の遺伝子工学的手法により取得することができる。例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い実施できる。なお、目的のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための組換え用DNA構築物は、特に限定しないで、線状等のDNA断片、プラスミド(DNA)、ウイルス(DNA)、レトロトランスポゾン(DNA)、人工染色体(YAC)を、外来遺伝子の導入形態(染色体外あるいは染色体内)等に応じて選択してベクターとしての形態をとることができる。
【0041】
なお、DNA構築物には、上記したポリヌクレオチドのほか、ストレス誘導タンパクHOR7プロモーター(HOR7プロモーター)、グリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素遺伝子プロモーター(TDHプロモーター)やピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子プロモーター(PDCプロモーター)などのプロモーターやCYC1ターミネーターやTDH3ターミネーターなどのターミネーターの他、必要に応じてエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)を連結することができる。選択マーカーとしては、特に限定しないで、薬剤抵抗性遺伝子、栄養要求性遺伝子などを始めとする公知の各種選択マーカー遺伝子を利用できる。
【0042】
本発明の細胞は、β−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを当該タンパク質を発現可能に備えることもできる。β−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質を発現させることで発酵原料としてセルロースあるいはセルロース由来のオリゴ糖を効率的に利用することができる。β−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質としては、例えば、サーモアナエロバクター・セルロリティカス(Thermoanaerobacter cellulolyticus)由来の耐熱性に優れたβ−グルコシダーゼや好熱性真正細菌であるサーモトガ・マリチマ(Thermotoga maritima)由来のβ−グルコシダーゼ又はこれらの改変型とすることができる。本発明の細胞は、有機酸生産に関連する1種又は2種以上の酵素をコードするポリヌクレオチドを前記酵素を発現可能に保持することができる。本発明のタンパク質を発現する細胞において有機酸生成酵素が発現される場合、本発明のタンパク質によりキシロースからキシルロースが効率的に生産された後、宿主細胞が有する糖代謝系酵素及び有機酸生成酵素によりヘミセルロースを含む資源から直接に有機酸を生産することができる。有機酸生産酵素は内在性であっても外来性であってもよい。
【0043】
本明細書において、「有機酸」とは、酸性を示す有機化合物であって、遊離の酸あるいはその塩である。「有機酸」が備える酸性基としては、カルボン酸基であることが好ましい。このような「有機酸」としては、乳酸、酪酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、アジピン酸などが挙げられる。これらの「有機酸」は、D体、L体のほか、DL体であってもよい。「有機酸」は好ましくは、乳酸である。乳酸は、生分解プラスチックの原料である他、各種医薬、食品、飼料原料として有用である。有機酸生成酵素としては、前記有機酸が生成する過程において作用する酵素を意味し、例えば、有機酸が乳酸の場合にはピルビン酸から乳酸を生成する乳酸脱水素酵素である。また、コハク酸からフマル酸を生成するコハク酸脱水素酵素などの脱水素酵素や、オキサロ酢酸からクエン酸を生成するクエン酸シンターゼなどが挙げられる。有機酸生成酵素は、由来など特に限定しないで各種生物由来の有機酸生成酵素を用いることができる。これらの有機酸生成酵素は、得ようとする有機酸の種類や用いる微生物の種類により、必要に応じ1種あるいは2種以上が組み合わされる。また、有機酸生成酵素をコードするポリヌクレオチドも、上記したプロモーター等の発現用の要素とともに本発明の細胞に導入されることが好ましい。
【0044】
本発明の細胞は、エタノール生産に関連する1種あるいは2種以上の酵素をコードするポリヌクレオチドを前記酵素を発現可能に保持することができる。本発明の細胞がエタノール生産酵素を発現することで、本発明のタンパク質によりキシロースからキシルロースが効率的に生産された後、宿主細胞が有する糖代謝系酵素及びエタノール発酵酵素によりヘミセルロースを含むヘミセルロース系原料から直接にエタノールを生産することができる。なお、エタノール生産酵素は内在性であっても外来性であってもよい。
【0045】
エタノール生成酵素としては、前記エタノールが生成する過程において作用する酵素を意味し、ピルビン酸からアセトアルデヒドを生成するピルビン酸脱炭酸酵素やアセトアルデヒドからエタノールを生成するアルコール脱水素酵素が挙げられる。エタノール生成酵素は、由来など特に限定しないで各種生物由来のエタノール生成酵素を用いることができる。これらのエタノール生成酵素は、用いる微生物の種類により、必要に応じ1種あるいは2種以上が組み合わされる。なお、発酵酵母においてはエタノール生成酵素を本来的に有するとともに強力なプロモーターの制御下にあるため、エタノール生成酵素の導入を省くことができる。
【0046】
(物質生産方法等)
本発明のキシロースのキシルロースへの変換方法は、本発明のタンパク質を用いることができる。本発明のタンパク質を用いた酵素反応により、効率的にキシロースをキシルロースに変換することができる。また、本発明の変換方法は、上記した本発明の細胞を用いることもできる。本発明の細胞を用いることで、キシロースあるいはヘミセルロースを含む原料を用いて効率的にキシロースからキシルロースへと変換させることができ、結果として細胞による物質生産及び細胞増殖を、ヘミセルロースを含むヘミセルロース系原料を用いても効率的に実施することができる。
【0047】
本タンパク質を発現するとともに内在性及び/又は外来性の有機酸生産系酵素を発現する細胞によれば、ヘミセルロース系原料を用いて効率的に有機酸を生産することができる。さらにまた、本発明のタンパク質を発現するとともに内在性及び/又は外来性のエタノール生産系酵素を発現する細胞によれば、ヘミセルロース系原料を用いて効率的にエタノールを生産することができる。
【0048】
本発明の細胞の培養にあたっては、細胞の種類に応じて培養条件を選択することができる。有機酸の生産にあたっては、必要に応じて産物である有機酸等の中和を行うか、あるいは、連続的に有機酸又はエタノールを除去する等の処理を行うこともできる。
【0049】
細胞を培養する培地としては、本発明の細胞に対応した炭素源の他、窒素源、無機塩類等を含有し、本細胞の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれも使用することができる。特に、炭素源としては、植物バイオマス資源から分離あるいは抽出されたフラクションを含むことが好ましい。ここで、植物バイオマス資源とは、植物に由来する有機性資源であって化石資源を除いたものを意味している。また、植物バイオマス資源には、廃棄物や未利用資源も含まれる。なかでも、本発明においては、糖質系の植物バイオマス資源を用いることが好ましく、糖質系植物バイオマス資源としては、例えば、針葉樹や広葉樹などの木本植物材料、ケナフ、麻、綿の他、サトウキビなどのキビ類、イモ類などの各種作物植物などを含む草本植物材料、各種海藻を含む藻類、海草などの海洋植物材料などのほか、これらを利用するにあたって排出される廃棄物、未利用物が挙げられる。廃棄物および未利用物としては、廃棄される紙、紙加工品、おがくず、チップなどの製材工場廃材、建設廃材、バガス、イネワラ、ムギワラ、モミガラなどの農業廃棄物、茶ガラや野菜くずなどの食品廃棄物、間伐材や被害木などの林地残材が挙げられる。これらの糖質系植物バイオマス資源を本発明の炭素源に用いる場合には、これらに含まれる多糖類等が分解酵素により分解されやすくなっていることが好ましく、キシロース等の糖質を含むように化学処理若しくは酵素処理され、分離されあるいは抽出されたフラクションであることが好ましい。
【0050】
また、植物バイオマス資源では、セルロースが結晶構造を有して存在していることが多いため、セルロースを非晶質化しておくことが好ましい。セルロースの非晶質化は同時に低分子化を伴うことが多い。例えば、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸などの無機酸による酸性条件下、セルロースを部分加水分解することにより、セルロースの非晶質化あるいは低分子化できる。この他、超臨界水、アルカリ、加圧熱水などの処理によってもセルロースの非晶質化又は低分子化を行うことができる。
【0051】
また、培養工程においては、炭素源の一部としてセルロース又はセルロースから分解酵素により生成されるオリゴ糖類又は単糖類を添加することができる。こうすることで、特に培養開始時から培養初期において微生物に効果的に単糖類を供給できる。なお、糖類は、分解酵素を抑制しない程度に添加され、好ましくは培養開始時から培養初期(培養開始から2〜10時間以内程度)まで一定期間にのみ糖類を添加するようにする。
【0052】
なお、培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができ、嫌気条件下または微好気条件下、25℃〜35℃(好ましくは30℃〜35℃)で6〜72時間程度とすることができる。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。
【0053】
培養工程終了後、培養物から有機酸又はエタノール等の産物を分離する工程を実施することにより、有機酸又はエタノールを得ることができる。なお、本発明において培養物とは、培養上清の他、培養細胞あるいは菌体、細胞若しくは菌体の破砕物を包含している。
【0054】
以上説明したように、本発明の物質生産方法によれば、所定の微生物を用いてヘミセルロース系原料から直接有機酸又はエタノールなどの有用物質を得ることができる。このため、従来に比して効率的にヘミセルロース系原料から有機酸又はエタノールなどの有用物質を得ることができるとともに、炭素資源のCOへの変換を抑制してよりよい循環利用が可能となる。
【0055】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。また、PCRによる遺伝子増幅は、特に述べない限り、KOD plus DNA polymerase(TOYOBO)を用い、添付のプロトコルに従って行った。PCR増幅装置はGene Amp PCR system 9700(PE Applied Biosystems)を使用した。ライゲーション反応にはLigaFast Rapid DNA Ligation System(Promega)を用いた。
【実施例】
【0056】
(改変キシロースイソメラーゼのスクリーニング)
Piromyces sp E2由来キシロースイソメラーゼ遺伝子xyla(Genbank: AJ249909)(配列番号1)をerror-prone PCR(10 mM Tris-HClpH 9.0, 50 mM KCl, 0.1% TritonX-100, 2-6 mM MgCl2, 0.2-0.6mM MnCl2, 0.2 mM dATP, 0.2 mM dGTP,1 mM dCTP,1 mM dTTP,1-100 ng/μl MnP, 0.3μM primer, 25 mU/μl Promega Taq DNA polymerase)により増幅し、100塩基当たり平均1個の変異(error率1%)をランダムに導入したライブラリーを作製した。ライブラリーに含まれる各クローンにつき、200mMマレイン酸緩衝液(pH5.5)、20mM MgSO4、1mM CoCl2、1mM MnCl2、10mM キシロースの存在下、35℃で2時間反応させた後、システイン−カルバゾール−硫酸法によりキシルロースを定量して、キシロースイソメラーゼ活性を測定した。システイン−カルバゾール−硫酸法は、上記反応後に、システイン−カルバゾール−硫酸溶液を加えて室温で30分間呈色させ、吸光度(540nm)を測定して行った。
【0057】
図1に示すように、キシロースイソメラーゼ活性によるスクリーニングの結果、キシロースイソメラーゼ活性が親株よりも向上した2種類の変異体(変異体1、変異体2)を得た。これらの2種類の株は、変異導入前の親株と比較して、キシルロース生成能が2倍弱に向上していた。これらの変異体1、2のアミノ酸配列の決定を行ったところ、変異体1では54番目がC(システイン)からR(アルギニン)へ、変異体2では370番目がN(アスパラギン)からS(セリン)へ変異していた。変異体1のアミノ酸配列を配列番号4に示し、変異体2のアミノ酸配列を配列番号6に示す。また、変異体1をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号3に示し、変異体2をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号5に示す。
【0058】
次に、得られた2種類のクローン遺伝子を用いて変異体3(C54R/N370S)を作製し、キシロースイソメラーゼ活性を測定した。その結果、変異体3は、図1に示すように、変異導入前の親株と比較して、キシルロース生成能が2倍強に向上していた。変異体3のアミノ酸配列を配列番号8に示し、変異体3をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号7に示す。
【0059】
また、Protein Data Bank(http://www.rcsb.org/pdb/Welcome.do)にPDB ID:1A0Cとして開示されているキシロースイソメラーゼ(Clostridium thermosulfurogenes)を参照して、InsightIIによるホモロジーモデリングを行った結果、親株タンパク質及び変異体1〜3の54番目のアミノ酸は活性中心に面した位置にあることが推測された。また、親株タンパク質及び変異体1〜3の370番目のアミノ酸はドメイン間の接触面に位置していることが推測された。これらの変異が活性向上に寄与したものと考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例における改変型キシロースイソメラーゼのキシロースイソメラーゼ活性を示すグラフ図である。
【図2】キシランからペントース−リン酸経路への代謝経路を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシロースイソメラーゼ活性を有する野生型タンパク質において、配列番号2における第54位及び第370位の双方又はいずれかに対応する位置において変異を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項2】
配列番号2に記載のアミノ酸配列の第54位及び第370位の双方又はいずれかに対応するアミノ酸が置換されているアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
前記第54位に対応するアミノ酸がシステインよりも塩基性のアミノ酸で置換されているアミノ酸配列を有する、請求項1又は2に記載のタンパク質。
【請求項4】
前記第54位に対応するアミノ酸がアルギニン、リシン及びヒスチジンのいずれかで置換されているアミノ酸配列を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項5】
前記第54位に対応するアミノ酸がアルギニンで置換されているアミノ酸配列を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項6】
前記第370位に対応するアミノ酸が側鎖に水酸基を有するアミノ酸で置換されているアミノ酸配列を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項7】
前記第370位に対応するアミノ酸がセリンで置換されているアミノ酸配列を有する、請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項8】
前記第54位に対応するアミノ酸がアルギニンで置換され、前記第370位に対応するアミノ酸がセリンで置換されているアミノ酸配列を有する、請求項1又は2に記載のタンパク質。
【請求項9】
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質が備えるキシロースイソメラーゼ活性よりも高いキシロースイソメラーゼ活性を備える、請求項1〜8のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項10】
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質が備えるキシロースイソメラーゼ活性に対して1.5倍以上のキシロースイソメラーゼ活性を備える、請求項9に記載のタンパク質。
【請求項11】
配列番号2に記載のアミノ酸配列において第54位及び第370位に対応する位置以外において1又は2以上の変異を有する酸配列を有する、請求項1〜10のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項12】
キシロースイソメラーゼ活性を有する野生型タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号2における第54位及び第370位の双方又はいずれかに対応する位置に変異を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項13】
以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、請求項12に記載のポリヌクレオチド。
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列の第54位に対応するアミノ酸が置換されているアミノ酸配列
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列の第370位に対応するアミノ酸が置換されているアミノ酸配列
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列の第54位及び第370位に対応するアミノ酸が置換されているアミノ酸配列
【請求項14】
前記タンパク質はキシロースイソメラーゼ活性を有する、請求項12又は13に記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
前記(a)のアミノ酸配列は、前記第54位に対応するアミノ酸がリシン、ヒスチジン及びアルギニンのいずれかで置換されているアミノ酸配列である、請求項12又は13又は14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項16】
前記(b)のアミノ酸配列は、前記第370位に対応するアミノ酸がスレオニン、チロシン及びセリンのいずれかで置換されているアミノ酸配列である、請求項13〜15のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
前記(c)のアミノ酸配列は、前記第54位に対応するアミノ酸がリシン、ヒスチジン及びアルギニンのいずれかで置換され、前記第370位に対応するアミノ酸がスレオニン、チロシン及びセリンのいずれかで置換されているアミノ酸配列である、請求項13又は14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
配列番号2に記載のアミノ酸配列において第54位及び第370位に対応する位置以外において1又は2以上の変異を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、請求項13又は14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
配列番号1、3、5及び7に記載の塩基配列又はその一部若しくはこれらの相補鎖とハイブリダイズするポリヌクレオチドである、請求項12〜18のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項20】
請求項12〜19のいずれかに記載のポリヌクレオチドを当該ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現可能に保持する細胞。
【請求項21】
前記細胞は酵母である、請求項20に記載の細胞。
【請求項22】
有機酸生産に関連する1種又は2種以上の酵素をコードするポリヌクレオチドを前記酵素を発現可能に保持する、請求項20又は21に記載の細胞。
【請求項23】
前記有機酸は乳酸であり、前記酵素は乳酸脱水素酵素である、請求項22に記載の細胞。
【請求項24】
エタノール生産に関連する1種あるいは2種以上の酵素をコードするポリヌクレオチドを前記酵素を発現可能に保持する、請求項20〜23のいずれかに記載の細胞。
【請求項25】
請求項1〜11のいずれかに記載のタンパク質を用いてキシロースをキシルロースに変換する方法。
【請求項26】
請求項20〜24のいずれかに記載の細胞を用いて、キシロースをキシルロースに変換する方法。
【請求項27】
請求項22又は23に記載された細胞を用いて有機酸を生産する工程、を備える、有機酸の生産方法。
【請求項28】
請求項24に記載された細胞を用いてエタノールを生産する工程、を備える、エタノールの生産方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−79564(P2008−79564A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265829(P2006−265829)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】