説明

キトサンと生体由来高分子の構造体における有機溶媒の除去方法

【課題】キトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物に含まれる残留有機溶媒の除去方法を提供すること。
【解決手段】キトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物に含まれる有機溶媒を除去する方法であって、該構造物を該有機溶媒とは別の溶媒の雰囲気下に置くことを含む、上記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キトサンと生体由来高分子の構造体に含まれる有機溶媒の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、工業的には主として、カニやエビなどの甲殻類の外骨格から得られるキチンを、濃アルカリ中での煮沸処理等により脱アセチル化して得られるアミノ多糖類である。一般に酢酸水溶液に容易に溶解し、その溶解液からフィルム、繊維、スポンジなど種々の成形体を作成することが可能であるため、化粧品分野、医療分野、食品分野などで広く使用され、天然の素材として好ましく使用されている。
【0003】
このうち、特に生体表面又は生体内で用いる材料としてキトサンを用いる場合、生物的、化学的、物理的および構造的要素の最適化が必要である。これらの総和として得られる生体内分解性は生体内で用いる材料にとって最も重要な要素の一つであるが、これらの要素をキトサン単独では好ましい範囲にすることが困難な場合があり、生体由来の別の高分子との複合材料が検討されている。このうち、生体由来高分子の代表格であるコラーゲンの複合材は従来から検討されており、人工皮膚、人工血管又は創傷被覆材、癒着防止剤としての用途が検討されている。(特許文献1)
【0004】
しかしながら、作成されたキトサン/生体由来高分子複合体を、特に医療分野、化粧品分野に用いる場合には、製造時に使用する酢酸の残留による炎症が懸念される。キトサンの特殊な性質のひとつは、水だけでは溶解せず、酢酸水溶液に溶解することである。このため、キトサン構造体の製造方法としては、酢酸を使用するのが極めて一般的で、過去提案されているキトサンスポンジの製造方法は、ほとんど酢酸を使用している。通常、酢酸は、最終的に真空乾燥で除去するが、除去量には限界があり、少なくとも0.1〜0.5重量%残留し、多い場合にはそれ以上残留する。現実にシート自体に酢酸臭の感じられる場合がある。
【0005】
キトサンスポンジから酢酸を除去する方法として、酢酸とともに酢酸以外の弱酸を添加する方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この方法はキトサン−コラーゲン複合材料にはそのまま適用できるものではない。また、近年、先進医療領域で使用される材料は、体内に埋め込んで使用されることも想定されるため、他の用途で使用される材料に比べて高純度が求められる。つまり、工程内で用いる溶媒等の不純物は完全に除去または安全な量にまで減少させて用いる必要があるため、これらの材料を高度な先端医療用途で使用する際には特に厳密な酢酸の除去が求められる。このため、加熱乾燥により酸を除去する方法が開示されている(特許文献3)。しかしながら、この方法では酢酸除去量が不十分であり、キトサンスポンジから酢酸臭が観察される場合があった。
【0006】
【特許文献1】特公昭63−59706号公報
【特許文献2】特開2007−2203号公報
【特許文献3】特開2003−292501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、キトサン及び生体由来高分子(例えば、ゼラチン)の混合物からなる構造物に含まれる残留有機溶媒の除去方法を提供することを解決すべき課題とした。
【0008】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、有機溶媒中にキトサン及び生体由来高分子を含む混合物を乾燥することによってキトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物を作製し、次いで、該構造物を該有機溶媒とは別の溶媒の雰囲気下に置くことによって、該構造物に含まれる残留有機溶媒を除去することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明によれば、キトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物に含まれる有機溶媒を除去する方法であって、該構造物を該有機溶媒とは別の溶媒の雰囲気下に置くことを含む、上記方法が提供される。
【0010】
さらに本発明によれば、有機溶媒を含む溶媒中にキトサン及び生体由来高分子を含む混合物を乾燥することによってキトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物を作製する工程、及び該構造物を該有機溶媒とは別の溶媒の雰囲気下に置く工程を含む、キトサン及び生体由来高分子を含む構造物の製造方法が提供される。
【0011】
好ましくは、生体由来高分子は、生体由来ゼラチン、又は遺伝子組み換えゼラチンである。
好ましくは、キトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物に含まれる有機溶媒は、酢酸である。
【0012】
好ましくは、該有機溶媒とは別の溶媒は、該有機溶媒と相溶性がある溶媒である。
好ましくは、該有機溶媒と相溶性のある溶媒は、水、アルコールまたはケトンを含む溶媒である。
好ましくは、該有機溶媒と相溶性のある溶媒は水である。
【0013】
好ましくは、該生体由来高分子は、架橋されている。
好ましくは、架橋は、熱、光、縮合剤、又は酵素を用いて行われる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、キトサン及び生体由来高分子(例えば、ゼラチン)の混合物からなる構造物中に含まれる残留有機溶媒を厳密に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<キトサン>
本発明で用いるキトサンとは、カニ、エビ等甲殻類の外骨格等に含まれるアミノ多糖類キチンの脱アセチル化物のことで、化学構造は、グルコサミン又はグルコサミンと少量のN−アセチルグルコサミンを繰り返し単位とする天然高分子である。一般的にはキトサンは甲殻類の外骨格などをアルカリ水溶液で脱蛋白し、塩酸水溶液で脱カルシウム処理して得られるキチンを、さらに苛性ソーダなどの高濃度アルカリ水溶液で脱アセチル化したものを言う。一般的には、キトサンの脱アセチル化度は60%以上であり、これらは水に溶解せず酢酸をはじめとした有機溶媒を含有する水溶液に溶解する性質がある。
【0016】
キトサンの製造方法は、例えば新鮮な紅ズワイガニ殻を苛性ソーダなどの希アルカリ水溶液処理により脱蛋白処理し、塩酸などの希酸水溶液により脱カルシウム処理することによって得たキチンを、40〜60重量%程度の濃いアルカリ水溶液中で90℃程度以上の温度を保持しながら、5〜20時間程度処理が一般的である。この製造で得られるものは通常固形のフレーク状であり、乾燥してこれを粉末として使用するのが一般的である。得られたキトサンは、高分子であり精製後も高い分子量を有するが、一般的には10万〜300万程度である。通常分子量は、一定の酢酸水溶液に溶解させて、溶液粘度を測定し、管理することが出来る。標準の粘度測定は、通常0.5重量%のキトサンを、酢酸水溶液に溶解し、20℃にてB型粘度計で粘度を測定する。 通常のキトサンの粘度は、上記の測定方法で、3〜500mPa・sであり、一般的には10〜250mPa・sである。例えば、分子量約30万のキトサンの溶液粘度は約10mPa・sである。
【0017】
<生体由来高分子>
生体由来高分子としては特に規定はないが、好ましくはタンパク質、多糖、又はそれらの誘導体、塩類である。タンパク質の場合は、球状、繊維状等のタンパク質のいずれでもよい。生体高分子は、好ましくは、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、ラミニン、カゼイン、フィブロイン、フィブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ヒアルロン酸、およびヒアルロン酸エステルである。さらに好ましくは、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、フィブロインである。最も好ましくはコラーゲンまたはゼラチンである。タンパク質の由来は特に限定せず、ヒト、牛、豚、魚、および遺伝子組み換え体のいずれを用いても良い。以下ゼラチンについて説明する。
【0018】
本明細書でいう「ゼラチン」とは、コラーゲンに特徴的なGXY部分を有するゼラチンのことを意味する。コラーゲンに特徴的なGXY部分とは、ゼラチン・コラーゲンのアミノ酸組成および配列における、他のタンパク質と比較して非常に特異的な部分構造である。この部分においてはグリシンが全体の約3分の1を占め、アミノ酸配列では3個に1個の繰り返しとなっている。グリシンは最も簡単なアミノ酸であり、分子鎖の配置への束縛も少なく、ゲル化に際してのヘリックス構造の再生に大きく寄与している。X及びYであらわされるアミノ酸はイミノ酸(プロリン、オキシプロリン)が多く含まれ、全体の10%〜45%を占める。
【0019】
本明細書で用いられる遺伝子組み換えゼラチンは、例えばEP0926543B、WO02/052342、EP1063565B、WO2004085473、EP1014176A、米国特許6,992,172号などに記載の手法及びものを目的に応じて用いることができる。
【0020】
本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンは当然生体適合性や非感染性には優れている。また、本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンは天然のものに比して均一であり、配列が決定されているので、強度、分解性においても後述の架橋等によってブレを少なく精密に設計することが可能である。
【0021】
本明細書で用いられる遺伝子組み換えゼラチンは、以下の特徴(1)を有するゼラチン、及び以下の特徴(2)を有するゼラチンが特に好ましい。
(1)構成する全アミノ酸のうち、極性アミノ酸の割合が30〜60%であり、且つ該極性アミノ酸中の無電荷アミノ酸の割合が70%以上である遺伝子組み換えゼラチン。
本発明者らは上記のアミノ酸配列を有する遺伝子組み換えゼラチンを用いることによって、ゼラチン組成物の生分解性を抑えることができることを見出した。一般的なゼラチンは極性アミノ酸のうち、電荷を持つものと無電荷のものが1:1で存在する。ここで、極性アミノ酸とは具体的にシステイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシンを指し、このうち極性無電荷アミノ酸とはシステイン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシンを指す。極性アミノ酸として好ましくはセリン、グルタミン、アスパラギンであり、これらを合計した割合が全アミノ酸の30〜60%であることがより好ましい。
【0022】
また、好ましくは、極性無電荷アミノ酸におけるグルタミン組成が30%以上80%以下であるゼラチンであり、より好ましくは40%以上60%以下である。また、極性の無電荷アミノ酸における側鎖の1級アミドに対するヒドロキシル基の割合が50%以下であることが好ましく、30%以下がより好ましい。より具体的には、グルタミン数に対するセリンとトレオニン数の和の割合が60%以下である。より好ましくは40%以上60%以下である。より好ましくは、グルタミン数に対するセリン数の割合が40%以上60%以下である。さらに好ましくは50%である。
【0023】
(2)アミノ酸配列が、1分子中3〜50個のRGD配列を含むことを特徴とする、ゼラチン。
本発明者らは上記のアミノ酸配列を有する遺伝子組み換えゼラチンを用いることによって、ゼラチン組成物の生分解性を促進することができることを見出した。
【0024】
一般にポリペプチドにおいて、RGD配列は細胞接着シグナルとして働く最小アミノ酸配列として知られている。(例えば、株式会社永井出版発行「病態生理」Vol.9、No.7(1990年)527頁)。本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンでは、1分子中3〜50個のRGD配列を有することが好ましく、さらに好ましくは4〜30個、特に好ましくは5〜20個である。本発明の遺伝子組み換えゼラチンにおいてはこれらの配列を制御して発現させることで目的を達成した。
【0025】
上記した(1)又は(2)に記載した遺伝子組み換えゼラチンを含めた本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンは、天然コラーゲンをコードする核酸により調製された実質的に純粋なコラーゲン用材料である。遺伝子組み換えゼラチンは部分的に加水分解されていてもよい。該ゼラチンは生体由来のコラーゲンの配列とのアミノ酸同一性が40%であればよく、より好ましくは50%以上である。より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。ここで言うコラーゲンとは天然に存在するものであればいずれであっても構わない。一般に、必要とされる配列の種類は治療用途により大きく異なる。すなわち、それぞれの組織に必要なコラーゲンの配列に近いものが望ましい。例えば、軟骨を治療する材料表面の場合はII型コラーゲンの配列であることが望ましい。血管であれば、外膜はI型、内膜はIV型であることが望ましい。好ましくはI型、II型、III型、IV型、およびV型である。より好ましくは、I型、II型、III型である。別の形態によると、該コラーゲンの由来は好ましくは、ヒト、ウシ、ブタ、マウス、ラットである。より好ましくはヒトであり、最も好ましくはヒトコラーゲンα1のアミノ酸配列との相同性が80%以上である。また、遺伝子組み換えゼラチンの等電点は4〜10であり、好ましくは6〜10であり、より好ましくは7〜9である。遺伝子組み換えゼラチンはコラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量が2 KDa以上100 KDa以下である。より好ましくは2.5 KDa以上95KDa以下である。より好ましくは5 KDa以上90 KDa以上である。最も好ましくは、10 KDa以上90KDa以下である。
【0026】
遺伝子組み換えゼラチン単独では性能が不十分である場合は、他の材料と混合や複合化を行っても構わない。例えば、天然及び種類の異なる遺伝子組み換えゼラチンや他の生体高分子や合成高分子と混合しても構わない。生体高分子としては、多糖、ポリペプチド、タンパク質、核酸、抗体等があげられる。好ましくは、多糖、ポリペプチド、タンパク質である。多糖、ポリペプチド、タンパク質としては例えば、ヒアルロン酸やヘパリンに代表されるグリコサミノグリカン、キチン、キトサン、ポリ−γ−グルタミン酸、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、フィブロイン、カゼインが挙げられる。さらにこれらは必要に応じて部分的に化学修飾を施されていても構わない。例えば、ヒアルロン酸エチルエステルを用いてもよい。
【0027】
本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンは用途に応じて、化学的に修飾することができる。化学的な修飾としては、遺伝子組み換えゼラチンの側鎖のカルボキシル基やアミノ基への低分子化合物あるいは各種高分子(生体高分子(糖、タンパク質)、合成高分子、ポリアミド)の導入や、遺伝子組み換えゼラチン間の架橋が挙げられる。該遺伝子組み換えゼラチンへの低分子化合物の導入としては、例えばカルボジイミド系の縮合剤が挙げられる。
【0028】
本発明において、生体由来高分子は、架橋されていてもよい。架橋は、好ましくは、熱、光、縮合剤、又は酵素を用いて行うことができる。本発明で用いる架橋剤は本発明を実施可能である限りは特に限定はなく、化学架橋剤でも酵素でもよい。化学架橋剤としては、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、シアナミドなどが挙げられる。好ましくは、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドであり、最も好ましくはグルタルアルデヒドである。
【0029】
酵素による架橋を行う場合、酵素としては、遺伝子組み換えゼラチン鎖間の架橋作用を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはトランスグルタミナーゼおよびラッカーゼ、最も好ましくはトランスグルタミナーゼを用いて架橋を行うことができる。トランスグルタミナーゼで酵素架橋するタンパク質の具体例としては、リジン残基およびグルタミン残基を有するタンパク質であれば特に制限されない。トランスグルタミナーゼは、哺乳類由来のものであっても、微生物由来のものであってもよく、具体的には、味の素(株)製アクティバシリーズ、試薬として発売されている哺乳類由来のトランスグルタミナーゼ、例えば、オリエンタル酵母工業(株)製、Upstate USA Inc.製、Biodesign International製などのモルモット肝臓由来トランスグルタミナーゼ、ヤギ由来トランスグルタミナーゼ、ウサギ由来トランスグルタミナーゼなど、ヒト由来の血液凝固因子(Factor XIIIa、Haematologic Technologies, Inc.社)などが挙げられる。該遺伝子組み換えゼラチンをトランスグルタミナーゼにより架橋する際には、グルタミン組成が高いことで、架橋効率を向上することができる。従って、好ましくは、アミノ酸の側鎖の1級アミド基がカルボン酸基の2倍以上である。好ましくは3倍以上である。1級アミドとしてより詳しくは、グルタミンがグルタミン酸に対して多いことが望ましい。好ましくはグルタミン数がグルタミン酸の2倍以上である。より好ましくは3倍以上である。
【0030】
遺伝子組み換えゼラチンの架橋にはゼラチン溶液と架橋剤を混合する過程とそれらの均一溶液の反応する過程の2つの過程を有する。
【0031】
本発明においてゼラチンを架橋剤で処理する際の混合温度は、溶液を均一に攪拌できる限り特に限定されないが、好ましくは0℃〜40℃であり、より好ましくは0℃〜30℃であり、より好ましくは3℃〜25℃であり、より好ましくは3℃〜15℃であり、さらに好ましくは3℃〜10℃であり、特に好ましくは3℃〜7℃である。
【0032】
ゼラチンと架橋剤を攪拌した後は温度を上昇させることができる。反応温度としては架橋が進行する限りは特に限定はないが、生体高分子の変性や分解を考慮すると実質的には0℃〜60℃であり、より好ましくは0℃〜40℃であり、より好ましくは3℃〜25℃であり、より好ましくは3℃から15℃であり、さらに好ましくは3℃〜10℃であり、特に好ましくは3℃〜7℃である。
【0033】
<キトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物の製造方法>
次に、本発明におけるキトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物の製造方法について説明する。本発明の構造物の製造方法は、本発明の方法を用いる限り特に限定されないが、例えば、特公昭63−59706実施例に記載されている方法に準拠して作成することができる。
【0034】
例えば、有機溶媒を含む溶媒中にキトサン及び生体由来高分子を含む混合物を乾燥することによってキトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物を作製することができる。ここで用いる有機溶媒(即ち、キトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物に含まれる有機溶媒)としては、酢酸を挙げることができる。酢酸などの有機溶媒を含む溶媒中におけるキトサン及び生体由来高分子の含有量は特に限定されないが、キトサン及び生体由来高分子の溶解性の観点から、一般的には、キトサンは0.05から5重量%であり、生体由来高分子は0.02から10重量%である。
【0035】
本発明では、有機溶媒を含む溶媒中にキトサン及び生体由来高分子を含む混合物を乾燥することによってキトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物を作製した後に、該構造物を該有機溶媒とは別の溶媒の雰囲気下に置くことによって、該構造物に含まれる有機溶媒を除去する。
【0036】
医療用途での使用の際には有機溶媒の残留が問題となる。該構造物中の有機溶媒の残留量は好ましくは1重量%以下である。より好ましくは0.1重量%以下である。最も好ましくは0.01重量%以下である。
【0037】
該有機溶媒とは別の溶媒(気体中に用いる溶媒)の選択の基準は数多くあり、沸点、残留溶媒を含む構造物との親和性、安全性、構造物に含まれる化合物(薬剤や色素)等が挙げられる。気体中に用いられる溶媒と残留溶媒の沸点についての規定は特にないが、より好ましくは残留溶媒の沸点より高いことである。また別の基準において、生体内で用いられる構造物を作成する場合、該気体中に用いる溶媒としては、好ましくは水、アルコールまたはケトンであり、より好ましくは水またはアルコールである。さらに好ましくは水またはエタノール、またはイソプロパノールである。より好ましくは水またはエタノールである。最も好ましくは水である。また、気体中に用いられる溶媒としては、1種類の溶媒でもよいし、または2種類以上の溶媒の混合気体として用いることもできる。また、気体中に用いる溶媒の選択の別の基準として、好ましくは該構造物を溶解または膨潤可能であることである。
【0038】
気体中の該温度における溶媒の飽和蒸気圧に対する割合の合計は特に規定はないが、好ましくは55%以上である。より好ましくは70%以上である。最も好ましくは80%以上である。例えば、気体中の溶媒が水の場合、該溶媒の蒸気圧の飽和蒸気圧に対する割合は湿度である。即ち、有機溶媒とは別の溶媒が水である場合は、湿度は好ましくは55%以上、より好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上である。また、飽和水蒸気量は温度により大きく変化するため、該溶媒を除去する温度における必要な湿度は変化する可能性がある。また、気体の温度は特に規定はないが、好ましくは25℃以上200℃以下である。より好ましくは30℃以上100℃以下である。最も好ましくは35℃以上80℃以下である。系の温度は残留する溶媒および混合物の種類により大きく変わるが、好ましくは残留する溶媒の沸点の少し下の温度(具体的には**)であることである。
【0039】
<キトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物>
キトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物の形態は特に限定されないが、例えばゲル、スポンジ、フィルム、不織布、ファイバー(チューブ)、粒子などが挙げられるが、フィルムまたはスポンジであることが好ましい。スポンジは均質の多孔質構造からなるもので、平均ポアーサイズは、直径10〜200μmを呈し、密度は、0.05以下のものが一般的である。
【0040】
形状はいずれの形状でも適用可能であるが、例えば角錐、円錐、角柱、円柱、球、紡錘状の構造物および任意の型により作成した構造物が挙げられる。好ましくは、角柱、円柱、紡錘状の構造物および任意の型により作成した構造物である。より好ましくは、角錐、円錐、角柱、円柱である。最も好ましくは角柱、円柱である。該構造物の大きさは特に限定されないが、ゲル、スポンジ、不織布であれば好ましくは500 cm四方以下である。好ましくは100 cm以下である。特に好ましくは50cm以下である。最も好ましくは10 cm以下である。ファイバー(チューブ)であれば、ファイバーまたはチューブの直径(または一辺)は1 nm以上10 cm以下である。好ましくは1nm以上1 cm以下である。より好ましくは1 nm以上100 μmである。特に好ましくは1 nm以上1μm以下である。最も好ましくは1 nm以上10 nm以下である。また、長さは特に限定されるものではないが、好ましくは10 μm以上100 m以下である。より好ましくは100 μm以上10 m以下である。さらに好ましくは1 mm以上1 m以下である。最も好ましくは1 cm以上30 cm以下である。粒子であれば、好ましくは直径1 nmから1 mm、より好ましくは10 nmから200 μm、さらに好ましくは50 nmから100 μm、特に好ましくは100 nmから10μmである。
【0041】
構造物の厚さについては特に限定されないが、好ましくは1 nm以上である。より好ましくは、10 nm以上である。より好ましくは100 nm以上である。より好ましくは1 μm以上である。さらに好ましくは10 μm以上である。最も好ましくは100 μm以上である。
【0042】
該組成物には必要に応じて添加剤を加えても良い。添加剤の例としては、薬剤、色素剤、柔軟剤、経皮吸収促進剤、保湿剤、界面活性剤、防腐剤、香料、pH調整剤が挙げられる。
【0043】
薬剤の具体例としては、例えば抗癌剤(例えば、パクリタキセル、トポテシン、タキソテール、5-フルオロウラシル)、免疫抑制剤(例えば、ラパマイシン、タクロリムス、シクロスポリン)、抗炎症剤、抗血栓剤、抗精神剤、抗うつ剤、抗酸化剤、抗アレルギー剤、増殖因子、ホルモン、サプリメント成分、化粧品成分が挙げられる。
【0044】
構造物の用途は特に限定することはないが、創傷被覆材、経皮吸収剤、局所治療剤、経口治療剤、化粧品、サプリメント、食品および色素材である。好ましくは、創傷被覆材、経皮吸収剤、局所治療剤、経口治療剤、化粧品である。さらに好ましくは経皮吸収剤、局所治療剤、経口治療剤、創傷被覆材であり、最も好ましくは経皮吸収剤、局所治療剤、創傷被覆材である。
【0045】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
実施例1:キトサン−ゼラチン混合物からの酢酸の除去
キトサンLL-40 1g、酸処理ゼラチン(20%、PSPゼラチン、ニッピ社製)1gを1重量%の酢酸水溶液100gに徐々に添加して40℃で2時間攪拌して溶解し、放置脱泡した。この溶液をプラスチック製トレイ(長さ10cm×10cm、深さ1cm)に流し込み、室温で20時間真空乾燥した。
該シートを50℃、湿度80%の雰囲気下で2時間置いた後、再度3時間真空乾燥を行った。該シートを水溶液に一晩浸漬し、残留の酢酸を抽出した。該酢酸量をGCMS(GCMS-QP2010、島津社製、カラム:DB-624, 60m, = 0.25 mm)により定量した。
【0047】
加湿条件下におかなかった場合には残留酢酸量は0.40%であった。一方、気中に水を加える、すなわち湿度を80%として溶媒を除去すると、残留酢酸量が大幅に減少し、3時間で0.008%まで減少した。酢酸の除去する際に、気体中に水蒸気を多量に加えることで、酢酸量を効率よく減少することができた。
【0048】
実施例2:キトサン−ゼラチン混合物からの酢酸の除去
キトサンLL-40 1g、酸処理ゼラチン(20%、PSPゼラチン、ニッピ社製)1gを1重量%の酢酸水溶液100gに徐々に添加して40℃で2時間攪拌して溶解した。この溶液にグルタルアルデヒドを0.5g添加し、5℃で30分間攪拌した。この溶液を放置脱泡した後、プラスチック製トレイ(長さ10cm×10cm、深さ1cm)に流し込み、―40℃で6時間凍結乾燥した後、24時間真空乾燥することにより、スポンジ状シートを得た。
該シートを50℃、湿度90%の雰囲気下で3時間置いた後、再度3時間真空乾燥をいった。実施例1と同様にして残留の酸を定量したところ、酢酸量は0.009%であった。
【0049】
比較例1:
キトサンLL-40 1g、酸処理ゼラチン(20%、PSPゼラチン、ニッピ社製)1gを1重量%の酢酸水溶液100gに徐々に添加して40℃で2時間攪拌して溶解し、放置脱泡した。この溶液をプラスチック製トレイ(長さ10cm×10cm、深さ1cm)に流し込み、―40℃で6時間凍結乾燥した後、室温にて24時間真空乾燥することにより、スポンジ状シートを得た。
これを更に60℃で12時間真空乾燥を行ったところ、残留酢酸量は0.34%であった。
【0050】
比較例2:
1重量%の酢酸と0.15重量%のクエン酸を溶解させた水溶液を作成した。この水溶液100gにキトサンLL-40 1g、酸処理ゼラチン(20%、PSPゼラチン、ニッピ社製)1gを徐々に添加して40℃で2時間攪拌して溶解し、放置脱泡した。この溶液をプラスチック製トレイ(長さ10cm×10cm、深さ1cm)に流し込み、―40℃で6時間凍結乾燥した後、室温にて24時間真空乾燥することにより、スポンジ状シートを得た。実施例1と同様にして残留の酸を定量したところ、酢酸は0.16%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物に含まれる有機溶媒を除去する方法であって、該構造物を該有機溶媒とは別の溶媒の雰囲気下に置くことを含む、上記方法。
【請求項2】
生体由来高分子が、生体由来ゼラチン、又は遺伝子組み換えゼラチンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
キトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物に含まれる有機溶媒が、酢酸である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該有機溶媒とは別の溶媒が、該有機溶媒と相溶性がある溶媒である、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
該有機溶媒と相溶性のある溶媒が、水、アルコールまたはケトンを含む溶媒である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該有機溶媒と相溶性のある溶媒が水である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
該生体由来高分子が、架橋されている、請求項1から6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
架橋が、熱、光、縮合剤、又は酵素を用いて行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
有機溶媒を含む溶媒中にキトサン及び生体由来高分子を含む混合物を乾燥することによってキトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物を作製する工程、及び該構造物を該有機溶媒とは別の溶媒の雰囲気下に置く工程を含む、キトサン及び生体由来高分子を含む構造物の製造方法。
【請求項10】
生体由来高分子が、生体由来ゼラチン、又は遺伝子組み換えゼラチンである、請求項9に記載の方法
【請求項11】
キトサン及び生体由来高分子の混合物からなる構造物に含まれる有機溶媒が、酢酸である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
該有機溶媒とは別の溶媒が、該有機溶媒と相溶性がある溶媒である、請求項9から11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
該有機溶媒と相溶性のある溶媒が、水、アルコールまたはケトンを含む溶媒である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該有機溶媒と相溶性のある溶媒が水である、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
該生体由来高分子が、架橋されている、請求項9から14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
架橋が、熱、光、縮合剤、又は酵素を用いて行われる、請求項15に記載の方法。

【公開番号】特開2010−51438(P2010−51438A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217790(P2008−217790)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】