説明

キナーゼ阻害剤と組み合わせられたアルファチモシンペプチドによる黒色腫の処置の方法

アルファチモシンペプチドおよびキナーゼ阻害剤を含む、黒色腫を処置する組み合わせを、処置計画中のヒト黒色腫患者へ投与する工程を含む組み合わせ治療において、ヒト患者における黒色腫またはその転移が処置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その開示が参照により本明細書に完全に組み入れられる2007年12月13日出願の米国仮出願第61/013,476号の恩典を主張する。
【0002】
発明の領域
本発明は黒色腫処置の領域に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
皮膚癌は米国において最も一般的な癌の型である。2007年、American Cancer Societyは、この国で、およそ8,110人が黒色腫によって死亡し、今後、さらに59,940例の黒色腫が診断されることが予想される、と推定している。
【0004】
黒色腫は、主に皮膚に見出され、腸および眼(ブドウ膜黒色腫)にも見出されるメラノサイトの悪性腫瘍である。それは、皮膚癌の比較的稀な型のうちの一つであるが、皮膚癌に関連する死亡の過半数を引き起こしている。
【0005】
その処置には、腫瘍の外科的除去;補助処置;化学療法および免疫療法、または放射線治療が含まれる。特に危険であるのは、原発性黒色腫腫瘍の転移である。
【0006】
黒色腫の改善された処置が当技術分野において必要とされ続けている。
【発明の概要】
【0007】
本発明により、アルファチモシンペプチドおよびキナーゼ阻害剤を含む、黒色腫を処置する組み合わせを、処置計画中のヒト黒色腫患者へ投与する工程を含む組み合わせ治療において、ヒト患者における黒色腫またはその転移を処置する方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
好ましい態様の説明
本発明は、ヒト患者における黒色腫またはその転移を処置する方法に関する。方法は、アルファチモシンペプチドおよびキナーゼ阻害剤を含む黒色腫を処置する有効な組み合わせを、ヒト黒色腫患者へ投与する工程を含む。
【0009】
ある種の態様において、組み合わせは、黒色腫に対抗するかまたは黒色腫を処置するための一つまたは複数の付加的な薬剤をさらに含む。
【0010】
アルファチモシンペプチドには、天然に存在するTA1を含むチモシンアルファ1(TA1)ペプチドのみならず、天然に存在するTA1のアミノ酸配列、それに実質的に類似したアミノ酸配列、またはそれらの短縮配列型を有する合成TA1および組換えTA1、ならびにTA1のものに実質的に類似した生理活性を保有している、置換、欠失、延長、交換、またはその他の修飾を受けた配列を有するそれらの生物学的に活性のアナログ、例えば、TA1と実質的に同一の活性を有し、実質的に同一の方式で機能するために十分なTA1とのアミノ酸相同性を有するTA1由来ペプチドも含まれる。アルファチモシンペプチドの適当な投薬量は、約0.001〜10mg/kg/日の範囲内にあり得る。
【0011】
「チモシンアルファ1」および「TA1」という用語は、その開示が参照により本明細書に完全に組み入れられる米国特許第4,079,137号に開示されたアミノ酸配列を有するペプチドをさす。
【0012】
最初、チモシンフラクション5(TF5)から単離されたチモシンアルファ1(TA1)は、配列決定され化学合成されている。TA1は、3108という分子量を有する28アミノ酸ペプチドである。
【0013】
アルファチモシンペプチドの有効量は、TA1約0.1〜20mg、TA1約1〜10mg、TA1約2〜10mg、TA1約2〜7mg、またはTA1約3〜6.5mgに相当する範囲内の投薬単位であり得る量であり、約1.6mg、約3.2mg、もしくは約6.4mgのTA1、または約3.2mgもしくは約6.4mgのTA1を含んでいてもよい。投薬単位は、1日1回投与されてもよいし、または1日複数回投与されてもよい。
【0014】
黒色腫は、0期、I期、II期、III期、およびIV期、ならびにそれらの亜病期を含み得る様々な病期を有する。ある種の態様において、処置される黒色腫は、悪性転移性黒色腫である。ある種の態様において、処置される黒色腫は、I期、II期、III期、またはIV期である。その他の態様において、処置される黒色腫は、M1a期、M1b期、またはM1c期の黒色腫である。
【0015】
アルファチモシンペプチドは、キナーゼ阻害剤の患者への投与を含む処置計画において投与される。これらには、非限定的に、ソラフェニブが含まれる。
【0016】
本発明の方法は、処置計画の過程で、キナーゼ阻害剤を投与すると共に、アルファチモシンペプチドを投与することを含む。キナーゼ阻害剤は、連続的に(即ち、毎日)投与されてもよいし、1日複数回投与されてもよいし、隔日投与されてもよく、処置計画の間にアルファチモシンペプチドと同時に投与されてもよいし、または別々に投与されてもよく、例えば、処置計画の過程で、アルファチモシンペプチドと同一の日に投与されてもよいし、または異なる日に投与されてもよい。ある種の態様において、キナーゼ阻害剤は、例えば、約10〜2000mg/投与日、約50〜1000mg/日、または約50〜800mg/日の投薬量範囲で投与される。一日投薬量は、例えば、約50mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、800mg等であり得る。
【0017】
驚くべきことに、アルファチモシンペプチドのキナーゼ阻害剤との共投与が、キナーゼ阻害剤の対象への投与に起因する対象に対する(例えば、体重減少を含む)毒性の予想外の低下、および毒性に対する保護を提供することが見出された。
【0018】
上述のように、ある種の態様において、組み合わせは、黒色腫に対抗するかまたは黒色腫を処置するための一つまたは複数の付加的な薬剤をさらに含む。そのような付加的な薬剤は、これに限定はされないが、ダカルバジン(DTIC)を含む、アルキル化抗悪性腫瘍剤(AlkAA)のような抗悪性腫瘍剤であり得る。アルキル化抗悪性腫瘍剤剤(AlkAA)のような、組み合わせの付加的な薬剤は、例えば、約700〜1300mg/m2/日、約800〜1200mg/m2/日、または約1000mg/m2/日の投薬量範囲内で患者に投与され得る。
【0019】
組み合わせの様々な成分は、処置計画中、その他の成分と同時に投与されてもよいし、または別々に投与されてもよい。
【0020】
ある種の態様において、処置計画は、複数の日を含み、アルファチモシンペプチドはチモシンアルファ1(TA1)を含み、かつTA1は約0.5〜10mg/日の範囲内の投薬量で処置計画の少なくとも一部分の間に患者に投与さる。ある種の態様において、TA1投薬量は、約1.5〜7mg/日の範囲内、または約1.6〜6.4mg/日の範囲内にある。ある種の態様において、TA1投薬量は、約1.7〜10mg/日、約1.7〜7mg/日、または約3〜7mg/日の範囲内にある。例示的な投薬量には、約1.6mg/日、3.2mg/日、または6.4mg/日が含まれる。
【0021】
ある種の態様において、処置計画は、約1〜10日の期間、アルファチモシンペプチドを投与すること、それに続く約1〜5日間のアルファチモシンペプチドの非投与を含み;または、アルファチモシンペプチドは、約3〜5日間毎日投与され、その後、約2〜4日間のアルファチモシンペプチドの非投与が続いてもよい。または、アルファチモシンペプチドは、約4日間毎日投与され、その後、約3日間のアルファチモシンペプチドの非投与が続いてもよい。
【0022】
一つの態様によると、本発明は、ヒト黒色腫患者における黒色腫またはその転移を処置するための処置計画において使用するための黒色腫を処置する有効な薬学的組み合わせまたは医薬の製造における、アルファチモシンペプチドおよびキナーゼ阻害剤の使用を含む。
【0023】
一つの態様によると、医薬は、黒色腫またはその転移の処置のために有意義な量で、処置計画中の患者への任意の免疫刺激性サイトカインを実質的に排除する処置計画において使用するためのものである。
【0024】
一つの態様によると、LDH血中レベルは475IU/L未満である。
【0025】
一つの態様によると、LDH血中レベルは100〜335IU/Lである。
【0026】
一つの態様は、処置計画の過程において使用するための、アルファチモシンペプチドを含み、キナーゼ阻害剤をさらに含む薬学的組み合わせの製造である。ここで、アルファチモシンペプチドおよびキナーゼ阻害剤は、別々に投与されてもよいし、または一緒に投与されてもよい。
【0027】
一つの態様によると、キナーゼ阻害剤はソラフェニブである。
【0028】
一つの態様によると、医薬は複数の日を含む処置計画において使用するためのものであり、アルファチモシンペプチドはチモシンアルファ1(TA1)を含み、かつTA1は0.5〜10mg/日の範囲内の投薬量で処置計画の少なくとも一部分の間に患者への投与において使用するためのものである。
【0029】
一つの態様によると、TA1投薬量は、1.5〜7mg/日の範囲内にある。
【0030】
一つの態様によると、TA1投薬量は、3.2mg/日である。
【0031】
一つの態様によると、TA1投薬量は、6.4mg/日である。
【0032】
一つの態様によると、アルファチモシンペプチドはTA1であり、医薬は、約1〜10日の期間のTA1の毎日投与、それに続く約1〜5日間のTA1の非投与を含む処置計画において使用するためのものである。
【0033】
一つの態様によると、TA1は、約3〜5日間の毎日投与、それに続く約2〜4日間のTA1の非投与において使用するためのものである。
【0034】
一つの態様によると、TA1は、約4日間の毎日投与、それに続く約3日間のTA1の非投与において使用するためのものである。
【0035】
本発明は、黒色腫患者への投与のための薬学的組み合わせの製造における、アルファチモシンペプチドおよびキナーゼ阻害剤の使用にも関し、ここで、アルファチモシンペプチドおよびキナーゼ阻害剤は、別々に投与されてもよいし、または一緒に投与されてもよい。本発明はさらに、アルファチモシンペプチド、キナーゼ阻害剤を含み、任意で、黒色腫の処置における使用に関する説明書を含むキットにも関する。
【実施例】
【0036】
実施例1
皮下B16黒色腫保持マウスにおけるチモシンアルファ-1、DTIC、およびソラフェニブの組み合わせ処置の抗腫瘍効力
【0037】
略語
BW 体重
CO2 二酸化炭素
DTIC ダカルバジン
g グラム
IR 阻害率
kg キログラム
L 長さ
mg ミリグラム
mL ミリリットル
NA 適用不可
PBS リン酸緩衝生理食塩水
SD 標準偏差
TA-1 チモシンアルファ-1
TV 腫瘍体積
TW 腫瘍重量
W 幅
【0038】
概要
この研究においては、化学療法薬DTICおよびソラフェニブと組み合わせられたTA-1の抗腫瘍効果を、B16黒色腫細胞を保持しているC57BL/6マウスにおいて評価した。投薬計画の毒性効果もモニタリングした。計90匹のマウスに、マウスB16細胞を皮下移植した後、14日連続で、単独で、または組み合わせて、TA-1、ソラフェニブ、またはDTICにより処置した。一方、9H10は、3日目、6日目、および9日目に、i.p.を介して、二つの群に与えられた。TA-1およびDTICはs.c.により毎日投与され、ソラフェニブはp.o.で毎日投与された。全部で9つの群を使用した:群1:媒体;群2:ソラフェニブ 80mg/kg;群3:DTIC 5mg/kg;群4:TA-1 6mg/kg;群5:TA-1 6mg/kg+ソラフェニブ 80mg/kg;群6:ソラフェニブ 80mg/kg+DTIC 5mg/kg;および群7:ソラフェニブ 80mg/kg+DTIC 5mg/kg+TA-1 6mg/kg。腫瘍体積および体重を3日毎に測定し、腫瘍重量を研究終了時16日目に測定した。
【0039】
腫瘍測定データは、12日目および15日目、群3を除く全ての処置の平均腫瘍体積が、群1のものより統計的に有意に小さかったことを示した。16日目には、全ての処置群の平均腫瘍重量が、群1より低かった。群2、群3、群4、群5、群6、および群7のPItw値は、それぞれ、85.76%、28.41%、43.35%、70.41%、86.34%、および84.05%であり、このことから、全ての処置計画の有効性が示された。
【0040】
研究の過程を通じて、ソラフェニブ処置群(群6および7)において、2匹の動物の死亡が認められた。さらに、ソラフェニブ処置群における平均体重は、有意に減少した。これらの観察は、ソラフェニブ処置の強い毒性効果を示唆した。単独で使用された場合、TA-1は、研究の過程を通じて体重減少を引き起こさず、このことから、TA-1が毒性でないことが示された。TA-1は、ソラフェニブと組み合わせられた場合、ソラフェニブ処置に関連した体重減少を減弱させた。
【0041】
要約すると、腫瘍成長が陽性対照薬DTICによって阻害されたように、この研究において使用された腫瘍モデルは妥当であった。6mg/kgの被験物TA-1の毎日投与は、腫瘍成長に対して有効であった。ソラフェニブ処置も、モデルにおける腫瘍阻害に有効であった。結果は、TA-1が、黒色腫患者のため設計された化学療法および/または免疫療法の抗腫瘍効果を増強するために有益であるかもしれないことを示唆している。さらに、TA-1の化学療法との組み合わせは、化学療法の毒性の有害作用を低下させるためにさらに有益であるかもしれない。
【0042】
序論
チモシンアルファ-1(TA-1)は、可能性のある抗腫瘍活性を保有している免疫調整剤である。ダカルバジン(DTIC)は、黒色腫を有する患者のための従来の化学療法薬である。ソラフェニブは、黒色腫患者のための治検薬である。本明細書において、TA-1、ソラフェニブ、およびDTICの組み合わせ抗腫瘍効果を、同系黒色腫モデルとしてB16細胞を皮下移植されたC57BL/6マウスにおいて評価した。黒色腫の処置のための組み合わせの治療的可能性を探求するため、腫瘍成長を調査した。宿主動物の体重を、組み合わせ処置の毒性効果を評価するため測定した。
【0043】
材料および方法
被検物および対照物
本研究においては、PBSを、陰性対照物(媒体)として使用した。被検物TA-1(SciClone)を、表1に示されるような適切な用量濃度を得るため、PBS溶液に溶解させた。TA-1溶液は、2〜8℃で保管され、1週間以内に全て使用された。DTIC(Sigma)は、まず、0.01N HClに溶解させ、次いで、PBSで1mg/mLに希釈した。DTIC投薬溶液は、氷上に維持され、遮光され、1日以内に使用された。ソラフェニブ(Shanghai Yingxuan Pharmaceutical Co., LTD)は、64mg/mL(投薬濃度の4倍に相当、表1)で、Cremophor EL/エタノールの混合物(50:50;Sigma Cremophor EL、95%エチルアルコール)に溶解させ、ホイルで覆い、室温で保管した。この4倍ストック溶液を3日毎に新鮮調製した。使用日に、ストック溶液を水で1倍に希釈することにより、最終的な投薬溶液を調製した。
【0044】
(表1)用量処方

【0045】
試験系および動物管理
マウスB16黒色腫細胞
マウスB16黒色腫細胞は、Cell Culture Center,Institute of Basic Medical Sciences,Peking Union Medical College and Chinese Academy of Medical Sciences(PUMC & CAMS,Beijing,P.R.China)のストックから解凍された。腫瘍細胞は実験において使用する前にC57BL/6マウスにおいて順応させられた。細胞順応の詳細に関してはセクション4.3.1を参照されたい。
【0046】
試験系
健康な未感作C57BL/6マウス雄45匹および雌45匹を、Institute of Laboratory Animal Science,CAMS,Beijing,P.R.Chinaより受け取った。研究開始時、動物は6週齢であり、体重18〜22グラムであった。
【0047】
動物管理
オートクレーブ処理された木材チップを床材料として有するオートクレーブ処理されたシューボックス型ケージに、動物を集団収容した。動物飼育室の温度を22〜25℃に維持し、相対湿度を40〜60%に維持した。研究に関連する事象によって中断される時以外は、12時間明/12時間暗のサイクルを維持した。滅菌水およびBeijing KeAoXieLi Rodent Diet(認可済)を動物に自由に摂取させた。全ての動物を腫瘍接種前に3日間順化させた。
【0048】
実験手順
腫瘍細胞順応
無菌組織培養手順を使用して、B16黒色腫細胞の一つのバイアルを液体窒素ストックから取り出し、37℃の水浴中に置いた。バイアルの内容物が解凍されるまで、温和な回旋を実施した。組織培養/滅菌手順を使用して、直ちに、1000rpmで、20〜25℃で、5分間、TD5A-WS遠心機により細胞を遠心分離した。遠心分離後、細胞を0.1〜0.5mLの普通生理食塩水(NS)に懸濁させ、10匹のマウスに皮下注射した(0.1mL/匹、細胞約1×106個)。7〜10日後、腫瘍の直径がおよそ1cmになった時点で、動物をCO2過量投与により安楽死させ、腫瘍を切除した。適度の移植可能性を有する十分な数のB16黒色腫細胞を作成するため、その手順を20匹のマウスを用いて繰り返した。
【0049】
腫瘍細胞接種
腫瘍移植の日に、0.1mLのおよそ1×106個の細胞を、各マウスの右腋窩区域に皮下注射した。腫瘍移植の日を0日目と定義した。
【0050】
研究設計および処置計画
3日目、動物を、9つの異なる同体重同腫瘍サイズ群へとランダムに割り当てた。表2による計画を使用して、3日目に投薬を開始した。簡単に説明すると、TA-1、DTIC、およびソラフェニブを、3〜15日目まで、毎日1回投与した。
【0051】
(表2)処置計画および研究設計

【0052】
抗腫瘍効果の評価
1日目から15日目まで、死亡率および瀕死を1日2回チェックし、3日毎に体重を記録し、3日毎にノギスを使用して腫瘍を測定した。研究終了時(16日目)、動物をCO2窒息によって安楽死させ、腫瘍を切除し、計量した。
【0053】
腫瘍サイズに基づき、腫瘍体積(TV)を式:[TV=(長さ×幅×幅)/2]により計算した。TVの阻害率(PI)(PITV)を下記方程式により計算した:
PITV(%)=(媒体TV-薬物処理TV)/媒体TV×100
【0054】
被験物の抗腫瘍効果を、剖検日(16日目)に測定された腫瘍重量(TW)によりさらに評価した。TWのPIを、下記方程式を使用して計算した:
PITW(%)=100×(媒体TW-薬物処理TW)/媒体TW
【0055】
PITVおよびPITWの計算は、Excelスプレッドシートを使用して実施され、スタディ・ディレクターによって再調査された。
【0056】
処置の毒性の評価
薬物により誘導された動物死と共に、実験動物の体重により、全ての処置計画の毒性を評価した。体重の阻害は、下記方程式に従って、Excelを使用して計算された:
PIBW(%)=100×(媒体BW-薬物処理BW)/媒体BW
【0057】
統計分析
腫瘍体積、腫瘍重量、および体重に関して、スチューデントt検定を使用して、群間比較を実施した。0.05未満のP値を、統計的に有意と見なした。
【0058】
結果
死亡率
研究の過程を通じて、2匹の動物の死亡があった。群7(ソラフェニブ+DTIC+TA-1)の1匹が7日目に死亡し、群6(ソラフェニブ+DTIC)の1匹が13日目に死亡した。死亡が認められた時、死亡した動物には、測定可能な腫瘍負荷が存在しないか、または極めて小さい腫瘍負荷が存在した。さらに、有意に減少した体重が死亡前に観察された。これらの観察は、総合的に、死亡が、腫瘍成長の結果というよりは薬物処置に関係していたことを示唆している。
【0059】
腫瘍サイズ
腫瘍サイズの生測定データは、付録1〜10の表に示される。各処置群対媒体群の平均腫瘍体積計算値および統計試験の結果が、表3〜7に示される。
【0060】
3日目および6日目には、極少数のマウスが触知可能な腫瘍を有しており、媒体対照群と処置群との間に腫瘍体積の統計的な差は存在しなかった。9日目には、群1(媒体対照)、群3(DTIC)、および群4(TA-1)の大部分のマウス、群2(ソラフェニブ)、群5(ソラフェニブ+TA-1)の極少数のマウスが触知可能な腫瘍を有し、群6(ソラフェニブ+DTIC)および群7(ソラフェニブ+DTIC+TA-1)には腫瘍が記録されなかった;群2および群5〜7における各群の平均腫瘍体積は、群1より統計的に有意に小さかった(p<0.05)。12日目および15日目、群1〜7の全ての生存マウスが、触知可能な腫瘍を示し、群3(DTIC)を除く各薬物処置群の平均腫瘍体積が、媒体対照群より統計的に有意に小さかった(p<0.05)。
【0061】
腫瘍重量
16日目に測定された腫瘍重量の生データは、付録11の表に示される。腫瘍重量に基づき計算された阻害率(PItw)値、および各薬物処置群と媒体群との間の統計的比較の結果は、表8に示される。表8に示されるように、各処置群の平均腫瘍重量は媒体群のものより低かった。群2、群3、群4、群5、群6、および群7のPItw値は、それぞれ、85.76%、28.41%、43.35%、70.41%、86.34%、および84.05%であった。
【0062】
体重
体重測定の生データは付録12〜17にリストされる。各処置群対媒体群の統計的比較の結果は、表9〜14に示される。
【0063】
表9〜14に示されるように、0日目、3日目、および6日目、各処置群と媒体対照群との間に有意差は存在しなかった。9日目、媒体群と比較して、群6(ソラフェニブ+DTIC)および群7(ソラフェニブ+DTIC+TA-1)が、それぞれ、7.89%(p<0.05)および7.67%(p<0.05)の体重の減少を示し、他の群については体重の統計的に有意な差は存在しなかった。12日目、群2(ソラフェニブ単独)、群6(ソラフェニブ+DTIC)、および群7(ソラフェニブ+DTIC+TA-1)の体重は、それぞれ、8.22%(p<0.05)、7.99%(p<0.05)、および11.88%(p<0.01)、媒体群のものより低かった。三つのソラフェニブ処置群とは対照的に、その他の処置群は、媒体群と比べて体重の差を示さなかった。15日目の群7(ソラフェニブ+DTIC+TA-1)のPIBW値は、8.71%(p<0.05)であったが、その他の処置群の体重は、媒体群と統計的に有意に違わなかった。これらの結果は、研究の過程を通じて、群3(DTIC単独)、および群4(TA-1単独)、および群5(ソラフェニブ+TA-1)の体重の統計的な差が存在しなかったことを示している。化学療法薬ソラフェニブは、単独で使用された場合にも、DTICと組み合わせて使用された場合にも、体重減少と関連し、特に、DTICと組み合わせて使用された場合、そうであった。ソラフェニブとTA-1との組み合わせは、ソラフェニブに関連した体重減少を減弱させるようである。例えば、12日目のソラフェニブ単独群には8.22%(p<0.05)の体重減少が存在したが、ソラフェニブ+TA-1群における体重減少は4.20%であって、統計的に有意ではなかった。しかしながら、TA-1と2種の化学療法薬(ソラフェニブ+DTIC)との組み合わせは、体重減少を低下させなかった。これは、化学療法薬の組み合わせの毒性効果が、あまりにも強く、TA-1によって減弱され得なかったことを示唆しているかもしれない。
【0064】
結論および考察
結論として、腫瘍成長が陽性対照薬ソラフェニブによって阻害されたように、この研究において使用された腫瘍モデルは妥当であった。6mg/kgの被検物TA-1の毎日投与は、腫瘍成長に対して有効であった。研究の過程を通じて、TA-1処置を受けた群4の動物の平均腫瘍体積は、媒体対照群のものと比較して50〜60%、有意に低下した。16日目に測定された腫瘍重量は、TA-1処置動物において43.35%低下した。ソラフェニブ処置は、16日目に行われた腫瘍重量測定に基づき腫瘍成長の85.76%の阻害をもたらした。ソラフェニブまたはソラフェニブ+DTICがTA-1と組み合わせ使用された場合、付加的な腫瘍阻害は存在しなかった。これは、ソラフェニブによる腫瘍阻害があまりにも強く、TA-1が相加的または相乗的な効果を発揮する余地がほとんどなかったという事実によるかもしれない。DTICは中程度の腫瘍成長の阻害(例えば、腫瘍重量に基づき28.41%)を引き起こしたが、DTICとTA-1との組み合わせ効果は本研究においては探究されなかった。9H10+DTICをさらにTA-1と組み合わせた場合、腫瘍阻害率は62.05%にまで上昇した(表8)。これらの変化(例えば、28.41%から51.35%へ)は中程度であり、統計的に有意ではなかったが、観察は、TA-1が、黒色腫患者のため設計された従来の化学療法および/または免疫療法の抗腫瘍効果を増強するために有益であるかもしれないことを示唆している。試験プロトコルの改良(例えば、ソラフェニブ用量の低下、試験の延長、生存終点の使用)は、TA-1の相加的または相乗的な効果の解明を助けるかもしれない。
【0065】
ソラフェニブ処置群における平均体重は有意に低下した。このことは、ソラフェニブ処置群において観察された動物死亡と併せて、化学療法の強い毒性効果を示している。単独で使用された場合、TA-1は、研究の過程を通じて統計的に有意な体重減少を引き起こさず、このことから、TA-1が毒性でないことが示唆された。TA-1は、ソラフェニブと組み合わせて使用された場合、ソラフェニブ処置により引き起こされる体重減少を実際に減弱させた。従って、TA-1の化学療法との組み合わせ使用は、付加的な有益性を証明するかもしれない。
【0066】
(表3)3日目の腫瘍サイズの統計的結果

【0067】
(表4)6日目の腫瘍サイズの統計的結果

【0068】
(表5)9日目の腫瘍サイズの統計的結果

【0069】
(表6)12日目の腫瘍サイズの統計的結果

【0070】
(表7)15日目の腫瘍サイズの統計的結果

【0071】
(表8)16日目の腫瘍重量の統計的結果

【0072】
(表9)0日目の体重の統計的結果

【0073】
(表10)3日目の体重の統計的結果

【0074】
(表11)6日目の体重の統計的結果

【0075】
(表12)9日目の体重の統計的結果

【0076】
(表13)12日目の体重の統計的結果

【0077】
(表14)15日目の体重の統計的結果

【0078】
付録
(付録1)3日目の腫瘍測定(cm)

注:記号「-」は腫瘍が測定可能なサイズに達していないことを示す。
【0079】
(付録2)3日目の腫瘍体積(cm3

腫瘍体積は、付録1にリストされたデータに基づき、式「腫瘍体積=(長さ×幅×幅)/2」を使用して計算された。
【0080】
(付録3)6日目の腫瘍測定(cm)

注:記号「-」は腫瘍が測定可能なサイズに達していないことを示す。
【0081】
(付録4)6日目の腫瘍体積(cm3

腫瘍体積は、付録3にリストされたデータに基づき、式「腫瘍体積=(長さ×幅×幅)/2」を使用して計算された。
【0082】
(付録5)9日目の腫瘍測定(cm)

注:記号「-」は腫瘍が測定可能なサイズに達していないことを示し、記号「/」は死亡した動物を示す。
【0083】
(付録6)9日目の腫瘍体積(cm3

腫瘍体積は、付録5にリストされたデータに基づき、式「腫瘍体積=(長さ×幅×幅)/2」を使用して計算された。
【0084】
(付録7)12日目の腫瘍測定(cm)

注:記号「-」は腫瘍が測定可能なサイズに達していないことを示し、記号「/」は死亡した動物を示す。
【0085】
(付録8)12日目の腫瘍体積(cm3

腫瘍体積は、付録7にリストされたデータに基づき、式「腫瘍体積=(長さ×幅×幅)/2」を使用して計算された。
【0086】
(付録9)15日目の腫瘍測定(cm)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0087】
(付録10)15日目の腫瘍体積(cm3

腫瘍体積は、付録9にリストされたデータに基づき、式「腫瘍体積=(長さ×幅×幅)/2」を使用して計算された。
【0088】
(付録11)16日目の腫瘍重量(g)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0089】
(付録12)0日目の体重(g)

【0090】
(付録13)3日目の体重(g)

【0091】
(付録14)6日目の体重(g)

【0092】
(付録15)9日目の体重(g)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0093】
(付録16)12日目の体重(g)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0094】
(付録17)15日目の体重(g)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0095】
実施例2
この計画においては、TA-1が、0.5〜10mg/日の範囲内の投薬量で、処置計画中の黒色腫患者に投与される。
【0096】
黒色腫患者は、400mg/kgの用量レベルのソラフェニブによっても1日2回処置される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色腫を処置する有効な組み合わせを処置計画中のヒト黒色腫患者へ投与する工程を含む組み合わせ治療においてヒト患者における黒色腫またはその転移を処置する方法であって、組み合わせが、アルファチモシンペプチドおよびキナーゼ阻害剤を含む、方法。
【請求項2】
キナーゼ阻害剤がソラフェニブを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
処置計画が複数の日を含み、アルファチモシンペプチドがチモシンアルファ1(TA1)を含み、かつTA1が約0.5〜10mg/日の範囲内の投薬量で処置計画の少なくとも一部分の間に患者に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
投薬量が約1.5〜7mg/日の範囲内にある、請求項3記載の方法。
【請求項5】
投薬量が約3〜7mg/日の範囲内にある、請求項3記載の方法。
【請求項6】
投薬量が約3.2mg/日である、請求項3記載の方法。
【請求項7】
投薬量が約6.4mg/日である、請求項3記載の方法。
【請求項8】
アルファチモシンペプチドがTA1であり、かつ、処置計画が、約1〜10日の期間のTA1の毎日投与、それに続く、約1〜5日間のTA1の非投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
TA1が約3〜5日間毎日投与され、その後、約2〜4日間のTA1の非投与が続く、請求項8記載の方法。
【請求項10】
TA1が約4日間毎日投与され、その後、約3日間のTA1の非投与が続く、請求項8記載の方法。
【請求項11】
キナーゼ阻害剤が約10〜2000mg/日の範囲内の投薬量で患者に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
キナーゼ阻害剤が約50〜800mg/日の投薬量で患者に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
組み合わせが、アルキル化抗悪性腫瘍剤(AlkAA)の投与をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
アルキル化抗悪性腫瘍剤(AlkAA)がダカルバジン(DTIC)を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
アルキル化抗悪性腫瘍剤(AlkAA)が約700〜1300mg/m2/日の範囲内の投薬量で患者に投与される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
アルキル化抗悪性腫瘍剤(AlkAA)が約800〜1200mg/m2/日の範囲内の投薬量で患者に投与される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
アルファチモシンペプチドが、患者におけるキナーゼ阻害剤の毒性を低下させる、請求項1記載の方法。
【請求項18】
毒性が患者における体重減少を含む、請求項17記載の方法。

【公表番号】特表2011−506473(P2011−506473A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538181(P2010−538181)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/086545
【国際公開番号】WO2009/076587
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(593199563)サイクローン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】SciClone Pharmaceuticals,Inc.
【住所又は居所原語表記】950 Tower Lane, Suite 900, Foster City, California 94404, United States of America
【Fターム(参考)】