説明

キャパシタハイブリッド鉛蓄電池及びその製造方法

【課題】キャパシタ電極の抵抗を減少させ、放電容量の大きいキャパシタハイブリッド鉛蓄電池を得る。
【解決手段】キャパシタ電極を正極と対向するように配置したキャパシタハイブリッド鉛蓄電池において、前記キャパシタ電極の集電体が鉛又は鉛合金からなり、前記キャパシタ電極の集電体とキャパシタ電極材料とが硫酸鉛の層を介することなく接合されていることを特徴とする。集電体にアンダーコートを形成、キャパシタ電極と化成済み負極を接続した状態で注液、キャパシタ電極を充電しながら注液という手段を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池とキャパシタを同一セル内に組み込んだキャパシタハイブリッド鉛蓄電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、自動車のバッテリーとして広く利用されているのをはじめ、産業用として商用電源が途絶えた時のバックアップ電源の用途や、フォークリフト・ゴルフカートといった電動車用主電源等にも用いられている。
【0003】
近年、自動車用鉛蓄電池には、エンジンが冷えた状態からでも常に始動できるように、瞬間的に大電流を取り出すことができる高い出力のものが要求されている。また、車両に搭載されるモータ等の負荷が益々増加していく傾向を考慮すると、従来の鉛蓄電池と比較して高い出力を発揮するものが望まれている。さらに、アイドリングストップ車やハイブリッド車においては、鉛蓄電池は、PSOC(Partial State of Charge)と呼ばれる充電不足状態に保たれ、しかも大電流のパルス充放電が行われるなど、従来にない過酷な使用条件が要求されている。
【0004】
上記のような過酷な使用条件に対応するための電池性能改善策として電気二重層キャパシタ(スーパーキャパシタ)を並列接続したバッテリーキャパシタモジュールが提案されている。しかしながら、電気二重層キャパシタは、コストが高い、体積エネルギー密度が低い、電池とのハイブリッド化には制御回路が必要でコストと体積で不利になるなど、バッテリーキャパシタモジュールの実用化には課題が多い。
【0005】
そこで、上記のPSOC課題を解決するものとして、鉛蓄電池とスーパーキャパシタを極板レベルで結合したハイブリッドバッテリーが開発されている(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【0006】
上記のキャパシタハイブリッドバッテリーは、同一セル内に鉛負極とキャパシタ電極が並列に接続された負極と正極が配置され、負極ではキャパシタ電極が鉛負極の負荷の一部を負担している。また、同一セル内に鉛蓄電池と非対称キャパシタを組み込んだ構成であるため、特別な電子制御回路などは必要としないという特徴を有するものである。
【0007】
しかしながら、上記の文献には、キャパシタハイブリッドバッテリーに使用するキャパシタ電極の集電体の材質、キャパシタ電極材料などについては、具体的に記載されていない。
【0008】
一方、キャパシタハイブリッド鉛蓄電池に関する基本発明(特許文献1参照)として、「少なくとも1個の鉛ベース負極と、少なくとも1個の二酸化鉛ベース正極と、少なくとも1個のコンデンサ電極と、前記の諸電極と接触している電解質とを有する鉛蓄電池であって、蓄電池部分は、前記鉛ベース負極と前記二酸化鉛ベース正極とによって形成されており;非対称コンデンサ部分は、前記コンデンサ電極と、該鉛ベース負極及び該二酸化鉛ベース正極から選ばれた一方の電極とによって形成されており;しかも、全ての負極は負極用母線に接続されており、全ての正極は正極用母線に接続されている、鉛蓄電池。」(請求項1)、「少なくとも1個の鉛ベース負極と、少なくとも1個の二酸化鉛ベース正極と、少なくとも1個のコンデンサ負極と、前記の諸電極と接触している電解質とを有する鉛蓄電池であって、該正極及び該鉛ベース負極は蓄電池部分を規定しており、該正極及び該コンデンサ負極は非対称コンデンサ部分を規定しており、該正極は該蓄電池部分と該非対称コンデンサ部分とによって共用されており、しかも、該鉛ベース負極及び該コンデンサ負極は負極用母線に接続されており、1個以上の該正極は正極用母線に接続されている、鉛蓄電池。」(請求項26)が公知である。
【0009】
上記特許文献1には、「一般的に、前記の鉛電極及び二酸化鉛電極と同様、前記コンデンサ電極は、(通常、鉛合金から作られた)金属グリッドと、(通常、結合剤と共に)前記コンデンサ材料を含有するペースト塗布されたコーティングとを有している。」(段落[0025])と記載され、また、実施例2について、「それらの複合負極は、該複合負極の1つの領域(表面)18に施用されている上述の鉛含有ペースト組成物、及び、対面19に施用されている高表面積炭素コンデンサ電極材料含有ペーストと一緒に、集電体(current collector)又はグリッド17を有している。」(段落[0059])、実施例4について、「コンデンサ−蓄電池電極23は、金属製集電体を有しており、該集電体の上に、活性炭素(60重量%)とカーボンブラック(20重量%)と酸化鉛10重量%との混合物がペースト塗布されている。」(段落[0066])と記載されているから、片側に鉛含有ペースト組成物が施用されている実施例2の複合負極(キャパシタ負極)の「集電体(current collector)又はグリッド17」は、「鉛合金」である可能性が高く、実施例4のコンデンサ−蓄電池電極(キャパシタ電極)の「金属製集電体」も、「鉛合金」である可能性が高いといえる。
【0010】
しかしながら、上記のようなキャパシタハイブリッド鉛蓄電池のキャパシタ電極の集電体に鉛又は鉛合金を使用した場合には、注液直後からのキャパシタ電極電位は鉛負極の電位とは異なって、すぐに貴な電位となり、この電位での鉛はPb2+の状態であるため、硫酸と反応してすぐに硫酸鉛となってしまい、これが抵抗層となり、放電容量が低下するという問題があった。
【0011】
また、電気二重層キャパシタ材料を最大限有効活用することで活性炭添加効果を増大させ、デバイスの高入出力化、高エネルギ密度化を実現する目的で、キャパシタ層を設けた鉛蓄電池も公知である(特許文献2参照)。
特許文献2には、「正極板1aは、公知のものでよく、例えば、鉛−カルシウム−錫合金からなる集電体格子に、鉛粉、鉛丹、充填剤等を含む正極用活物質ペーストを充填した後に、これを乾燥させて得ることができる。・・・この正極板1aには、正極集電体端子3が取り付けられている。」(段落[0034])、「負極板6aは、公知のものでよく、例えば、鉛−カルシウム−錫合金からなる集電体格子に、活物質8’(負極活物質)としての鉛(Pb)粉、カーボン粉末、充填剤等を含む負極用活物質ペーストを充填した後に、これを乾燥させて得ることができる。この負極板6aには、負極集電体端子4が取り付けられている。」(段落[0035])、「正極側キャパシタ層5aおよび負極側キャパシタ層5bのそれぞれは、正極板1aおよび負極板6aのそれぞれの活物質と電気的に接触した状態で正極板1aおよび負極板6aのそれぞれと接している。この正極側キャパシタ層5aおよび負極側キャパシタ層5bは、電荷を蓄えるものであり、活性炭と、結着剤と、導電助剤とを含んでいる。」(段落[0036])と記載されている。
【0012】
特許文献2に記載された鉛蓄電池は、集電体の材質が明示されているが、上記のようにキャパシタ層が鉛蓄電池の正極板および負極板と一体化されており、キャパシタ電極が鉛蓄電池の正極と別個に設けられているキャパシタハイブリッド鉛蓄電池とは異なるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】FBテクニカルニュースNo.62,10(2006)第10頁〜第14頁
【非特許文献2】48th電池討論会1C12,第308頁〜第309頁
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2007−506230号公報
【特許文献2】特開2008−210636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、キャパシタ電極の集電体に鉛又は鉛合金を用いたキャパシタハイブリッド鉛蓄電池において、キャパシタ電極の抵抗を減少させ、放電容量の大きいキャパシタハイブリッド鉛蓄電池を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記の課題を解決するために以下の手段を採用する。
(1)キャパシタ電極を正極と対向するように配置したキャパシタハイブリッド鉛蓄電池において、前記キャパシタ電極の集電体が鉛又は鉛合金からなり、前記キャパシタ電極の集電体とキャパシタ電極材料とが硫酸鉛の層を介することなく接合されていることを特徴とするキャパシタハイブリッド鉛蓄電池。
(2)前記キャパシタ電極の集電体の表面にアンダーコートを設けて前記キャパシタ電極材料が配置されていることを特徴とする前記(1)のキャパシタハイブリッド鉛蓄電池。
(3)キャパシタ電極を正極と対向するように配置したキャパシタハイブリッド鉛蓄電池の製造方法において、前記キャパシタ電極の集電体として鉛又は鉛合金を用い、前記キャパシタ電極と化成済み負極の端子を接続した状態で電解液を注入し、前記キャパシタ電極の集電体とキャパシタ電極材料の界面に硫酸鉛の生成を防止したことを特徴とするキャパシタハイブリッド鉛蓄電池の製造方法。
(4)キャパシタ電極を正極と対向するように配置した鉛蓄電池の製造方法において、前記キャパシタ電極の集電体として鉛又は鉛合金を用い、前記キャパシタ電極と前記正極との間に充電電源を接続した状態で電解液を注入し、前記キャパシタ電極の集電体とキャパシタ電極材料の界面に硫酸鉛の生成を防止したことを特徴とするキャパシタハイブリッド鉛蓄電池の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鉛又は鉛合金からなるキャパシタ電極の集電体とキャパシタ電極材料とが硫酸鉛の層を介することなく接合されていることにより、キャパシタ電極の抵抗が減少し、放電容量の大きいキャパシタハイブリッド鉛蓄電池を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】キャパシタ電極の充放電挙動を示す図である。
【図2(a)】実施例1の集電体とキャパシタ材料層との境界面を示す写真である(初期)。
【図2(b)】実施例1の集電体とキャパシタ材料層との境界面を示す写真である(一晩放置後)。
【図3(a)】実施例3の集電体とキャパシタ材料層との境界面を示す写真である(初期)。
【図3(b)】実施例3(注液時充電あり)の集電体とキャパシタ材料層との境界面を示す写真である(一晩放置後)。
【図3(c)】実施例3(注液時充電あり→放電)の集電体とキャパシタ材料層との境界面を示す写真である(一晩放置後)。
【図4(a)】比較例2(注液時充電なし)の集電体とキャパシタ材料層との境界面を示す写真である(初期)。
【図4(b)】比較例2(注液時充電なし)の集電体とキャパシタ材料層との境界面を示す写真である(一晩放置後)。
【図4(c)】比較例2(注液時充電なし)の集電体とキャパシタ材料層との境界面を示す写真である(一晩放置後の拡大写真)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の構成及び作用について詳細に説明する。但し、本明細書中に記載する作用機構には推定が含まれており、その正否は本発明を何ら制限するものではない。
【0020】
本発明のキャパシタハイブリッド鉛蓄電池は、キャパシタ電極を正極と対向するように配置したものであるが、特許文献1に記載されているような「負極/セパレータ/正極/セパレータ/キャパシタ電極/セパレータ/正極/セパレータ/負極・・・」という構成に限らず、非特許文献1及び2に記載されているキャパシタハイブリッドバッテリーのような「負極+キャパシタ電極/セパレータ/正極/セパレータ/負極+キャパシタ電極/セパレータ/正極・・・」という構成のものも含む。
【0021】
キャパシタ電極は、鉛又は鉛合金シートを集電体とし、アンダーコート剤を塗布した集電体、又は、何も施していない集電体に、活性炭、導電性カーボン(アセチレンブラック)、バインダー(天然ゴム)+増粘剤(CMC)を混合して作製したキャパシタ材料が塗布されたものである。集電体としては、純鉛、鉛−カルシウム系合金、鉛−アンチモン系合金等からなるものが挙げられる。集電体の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1〜2mmとすることができる。なかでも、0.4mm以上とすることにより、鉛金属が柔らかいことに起因する取り扱い上の問題を低減できるため好ましい。
キャパシタ材料は、限定されるものではないが、活性炭50〜70質量%、導電性カーボン15〜35質量%、バインダー+増粘剤2〜20質量%のものを用いることができる。
【0022】
正極としては、通常の鉛蓄電池用正極を用いることができる。正極板の作製においては、まず、鉛粉に対して水と希硫酸(比重1.40,20℃)を加え、これを混練して正極活物質ペーストを作製する。この正極活物質ペーストを、集電体格子に充填して、熟成した後に、乾燥させ、未化成の正極板を作製する。集電体格子の材質としては、キャパシタ電極と同様のものが挙げられる。例えば、上記のようにして作製した正極活物質ペースト48gを、長さ82mm−幅76mm−厚さ1.7mmの鉛−カルシウム−スズ系合金からなる集電体格子に充填する。熟成条件は、温度35〜85℃、湿度50〜90RH%の雰囲気で40〜72時間とすることができる。乾燥条件は、温度50〜80℃で18〜30時間とすることができる。
【0023】
負極としても、通常の鉛蓄電池用負極を用いることができる。負極板の作製においては、まず、鉛粉に対して、所定量のリグニンと硫酸バリウム等を添加し、混練機で混練した混合物を準備し、次に、所定量の水を鉛粉に加えて混合し、さらに希硫酸(比重1.40,20℃)を加えて負極活物質ペーストを作製する。この負極活物質ペーストを、集電体格子に充填して、熟成した後に、乾燥させ、未化成の負極板を作製する。集電体格子、補強材としては、正極と同様のものを用いることができる。例えば、上記のようにして作製した負極活物質ペースト30gを、長さ82mm−幅60mm−厚さ1.4mmの鉛−カルシウム−スズ系合金からなる集電体格子に充填する。熟成条件、乾燥条件は、正極と同様の条件を採用することができる。
【0024】
以上のようにして作製したキャパシタ電極、正・負極板を用いて、以下のようにキャパシタハイブリッド鉛蓄電池を作製することができる。
一例を挙げれば、負極板5枚、キャパシタ電極5枚(負極とキャパシタ各1枚ずつを横に並べて配置)と正極板4枚とをAGMセパレータを介して積層し、同極性の極板同士をストラップで連結させて極板群とする。この極板群を電槽内に配置して未注液電池を作製する。なお、この電池には極板群が3つあるため、端子が3本ある状態である。上記未注液電池に比重1.30(20℃)の希硫酸を入れ、公称容量14Ahの電池を作製する。
【0025】
ところで、本発明者は、キャパシタハイブリッド鉛蓄電池のキャパシタ電極の集電体に鉛又は鉛合金を使用した場合に抵抗が高くなる原因として、注液直後からのキャパシタ電極電位は鉛負極の電位とは異なって、すぐに貴な電位となり、この電位での鉛はPb2+の状態であるため、硫酸と反応してすぐに硫酸鉛となってしまい、これが抵抗層となることを突き止めた。これは、注液直後からキャパシタ電極表面に電荷を蓄えようとするためであると考えられる。
【0026】
本発明のキャパシタハイブリッド鉛蓄電池は、上記のような硫酸鉛の生成を防止し、キャパシタ電極の集電体とキャパシタ電極材料とが硫酸鉛の層を介することなく接合されているものであり、そのために、放電時のキャパシタ電極の抵抗は小さく、放電容量は大きくなる。硫酸鉛の層の形成を防止する手段としては、上記[課題を解決するための手段]に記載したとおり3つ(以下、本発明A、本発明B、本発明Cという)ある。
本発明A・・・キャパシタ電極の集電体にアンダーコートを形成
本発明B・・・キャパシタ電極と化成済み負極を接続した状態で注液
本発明C・・・キャパシタ電極を充電しながら注液
【0027】
本発明Aについて説明する。
上記の段落[0021]に記載したように、鉛又は鉛合金シートをキャパシタ電極の集電体とし、アンダーコート剤を塗布するものであるが、アンダーコート剤としては、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等の導電性カーボンをエポキシ樹脂等に分散させた導電性塗料を用いることができる。アンダーコート剤を塗布して、集電体の表面に0.01〜0.5mmのアンダーコートを設けることが好ましい。このようなアンダーコートを設けることにより、集電体とキャパシタ材料層との境界面に不動態膜(硫酸鉛の層)の生成を防止することができる。
【0028】
本発明Bについて説明する。
キャパシタ電極が化成済み負極と接続されていることにより、キャパシタ電極の電位が常に負極電位に保たれるため、集電体とキャパシタ材料層との境界面に不動態膜(硫酸鉛の層)の生成を防止することができる。
化成済み負極としては、初充電が終了した負極であればどのような負極でもよく、化成条件は限定されない。
例えば、上記未化成の負極板を、正極板と負極板を複数枚対向させて、タンク化成で行う。化成の電解液比重は、1.05〜1.15、充電量は正極の理論容量に対して150〜200%の電気量、充電時間は8〜20時間とすることができる。
しかし、キャパシタ電極を未化成負極と接続しても、キャパシタ電極の電位が、通常の鉛電極電位(Pb/PbSOの平衡電位)よりも貴となるため、後述する比較例にあるように、集電体とキャパシタ材料層との境界面に硫酸鉛の層が生成してしまう。
【0029】
本発明Cについて説明する。
キャパシタ電極を充電しながら注液することにより、集電体の鉛が充電状態に置かれ、通常の鉛電極電位よりも卑な電位となるため、集電体とキャパシタ材料層との境界面に不動態膜(硫酸鉛の層)の生成を防止することができる。
集電体の鉛が充電状態に置かれていればよく、限定されるものではないが、充電電圧を印加する場合には、2.2〜2.5V、充電電流を流す場合には、0.02〜0.1CAとすることができる。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例を例示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
(キャパシタ電極Aの作製)
幅15mm、高さ78mm、厚さ1.4mmの鉛−カルシウム−スズ系合金からなる鉛合金シートに、導電性カーボンを分散させた導電性塗料を塗布し、乾燥して約0.1mmのアンダーコートを有する集電体Aを得た。活性炭60質量%、アセチレンブラック25質量%、並びに、天然ゴム及びカルボキシメチルセルロースが混合されてなる高分子材料15質量%の割合で混合されたキャパシタ材料1.7gを含むペースト全量を前記集電体Aの両面に塗布、乾燥し、キャパシタ電極Aを作製した。
【0032】
(鉛蓄電池用正極の作製)
まず、鉛粉に対して水と希硫酸(比重1.40,20℃)を加え、これを混練して正極活物質ペーストを作製した。この正極用活物質ペースト10gを、集電体Aと同程度の大きさの鉛−カルシウム−スズ系合金からなる集電体格子に充填して、温度50℃、湿度50RH%の雰囲気下で48時間放置して熟成した後に、温度50℃で24時間放置して乾燥させ、未化成の正極板(鉛電池用正極)を作製した。
【0033】
(評価用セルの作製)
ガラス繊維製不織布セパレータを介して前記キャパシタ電極Aの両側をそれぞれ前記鉛電池用正極で挟み、簡易的に圧迫して実施例1の評価用セルを作製した。
【0034】
(実施例2)
(キャパシタ電極Bの作製)
15mm、高さ78mm、厚さ1.4mmの鉛−カルシウム−スズ系合金からなる鉛合金シートをそのまま集電体Bとした。活性炭60質量%、アセチレンブラック25質量%、並びに、天然ゴム及びカルボキシメチルセルロースが混合されてなる高分子材料15質量%の割合で混合されたキャパシタ材料1.7gを含むペースト全量を前記集電体Bの両面に塗布、乾燥し、キャパシタ電極Bを作製した。
【0035】
(鉛蓄電池用未化成負極の作製)
まず、鉛粉にリグニン、硫酸バリウム、さらに水と希硫酸(比重1,40,20℃)を加え、これを混練して負極活物質ペーストを作製した。この負極活物質ペースト10gを、集電体Bと同程度の大きさの鉛−カルシウム−スズ系合金からなる集電体格子に充填して、温度50℃,湿度50RH%の雰囲気下で48時間放置して熟成した後に、温度50℃で24時間放置して乾燥させ、未化成の負極板を作製した。
【0036】
(鉛蓄電池用負極の化成)
前記未化成の負極板の化成を、比重1.10(20℃)の希硫酸中で.0.25A、20時間の条件で行い、化成済み鉛電池用負極とした。
【0037】
(評価用セルの作製)
ガラス繊維製不織布セパレータを介して前記キャパシタ電極Bの両側をそれぞれ実施例1で作製した鉛電池用正極で挟み、さらにその両側に、同じセパレータを介して前記化成済み鉛電池用負極で挟み、簡易的に圧迫して実施例2の評価用セルを組み立てた。次いで、前記キャパシタ電極B及び前記化成済み鉛電池用負極の外部端子同士を導線で接続した。
【0038】
(実施例3)
ガラス繊維製不織布セパレータを介して前記キャパシタ電極Bの両側をそれぞれ実施例1で作製した鉛電池用正極で挟み、簡易的に圧迫して実施例3の評価用セルを作製した。但し、注液時に充電電圧2.3Vで充電を行った。
【0039】
(比較例1)
実施例2と同じ手順により、比較例1の評価用セルを組み立てた。但し、外部端子同士は接続していない。
【0040】
(比較例2)
化成済み負極に代えて、未化成負極を用いたことを除いては、実施例2と同様の手順で、比較例2の評価用セルを組み立てた。次いで、前記キャパシタ電極B及び前記鉛電池用未化成負極の外部端子同士を導線で接続した。注液時に充電を行わなかった。
【0041】
(充放電試験)
実施例1〜3、比較例1、2のキャパシタ電極の特性を以下の条件で充放電を行い、測定した。
電解液:希硫酸
化成後の電解液比重:1.30
充電:500mA定電流充電
放電:500mA定電流放電
【0042】
測定結果を表1及び図1に示す。
表1における放電時の抵抗は、放電直後の電圧ドロップから、E=IRで求めた。放電容量は、キャパシタの電圧が0Vになった時の時間と、放電電流を積算して求めた。
図1は、充電開始前のキャパシタ電極の電位を0Vとしたときの相対電位を示している。
また、実施例1、実施例3、比較例2の集電体とキャパシタ材料層との境界面の写真を図2〜図4に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1及び図1〜図4より、次のようなことがわかる。
実施例1においては、鉛合金シートにアンダーコートが設けられているため、実施例2においては、化成済み負極と接続されていることによりキャパシタ電極の電位が常に負極電位に保たれるため、実施例3においては、充電電圧を印加した状態で電解液が注入されているため、図2(b)及び図3(b)、(c)に示されるように、集電体とキャパシタ材料層との境界面に不動態膜(硫酸鉛の層)が形成されない。なお、図2(a)及び(b)において、鉛合金シートとキャパシタ材料層との境界面にある薄い膜状のものは、導電性カーボンを含む樹脂(アンダーコート)であり、このアンダーコート以外に膜は形成されていない。したがって、表1及び図1に示されるように、放電時のキャパシタ電極の抵抗は小さく、放電容量は大きくなる。
【0045】
これに対して、比較例1及び2においては、充電電圧を印加しない状態で電解液が注入されているため、鉛合金からなる集電体とキャパシタ電極との電位差によって集電体表面が酸化され、図4(b)及び(c)に示されるように、電解液の硫酸と反応して集電体とキャパシタ材料層との境界面に不動態膜(硫酸鉛の層)が形成されてしまう。したがって、表1及び図1に示されるように、放電時のキャパシタ電極の抵抗は大きく、放電容量は小さくなる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、放電容量の大きなキャパシタハイブリッド鉛蓄電池が得られるから、ハイブリッド車等の新たな自動車用途や、風力発電システムの蓄電等の新たな産業用途に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャパシタ電極を正極と対向するように配置したキャパシタハイブリッド鉛蓄電池において、前記キャパシタ電極の集電体が鉛又は鉛合金からなり、前記キャパシタ電極の集電体とキャパシタ電極材料とが硫酸鉛の層を介することなく接合されていることを特徴とするキャパシタハイブリッド鉛蓄電池。
【請求項2】
前記キャパシタ電極の集電体の表面にアンダーコートを設けて前記キャパシタ電極材料が配置されていることを特徴とする請求項1に記載のキャパシタハイブリッド鉛蓄電池。
【請求項3】
キャパシタ電極を正極と対向するように配置したキャパシタハイブリッド鉛蓄電池の製造方法において、前記キャパシタ電極の集電体として鉛又は鉛合金を用い、前記キャパシタ電極と化成済み負極の端子を接続した状態で電解液を注入し、前記キャパシタ電極の集電体とキャパシタ電極材料の界面に硫酸鉛の生成を防止したことを特徴とするキャパシタハイブリッド鉛蓄電池の製造方法。
【請求項4】
キャパシタ電極を正極と対向するように配置した鉛蓄電池の製造方法において、前記キャパシタ電極の集電体として鉛又は鉛合金を用い、前記キャパシタ電極と前記正極との間に充電電源を接続した状態で電解液を注入し、前記キャパシタ電極の集電体とキャパシタ電極材料の界面に硫酸鉛の生成を防止したことを特徴とするキャパシタハイブリッド鉛蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【公開番号】特開2011−9128(P2011−9128A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153205(P2009−153205)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】