説明

キャパシタ用電極材料およびそれを用いた電気二重層キャパシタ

【課題】導電性高分子を分極性電極として使用する電気二重層キャパシタにおいて、より簡易に、より高い静電容量およびより優れたサイクル特性を備える電気二重層キャパシタを与えるポリアニリン炭素複合体を提供する。
【解決手段】アニリンおよび/またはその誘導体と、下記式(I)の化合物(I)と、ドーパントとを非極性有機溶媒中で酸化重合し、その後、脱ドープ処理および炭素系材料との複合化処理を施して得られる、数平均分子量が10,000〜1,000,000であるポリアニリン共重合体と、前記炭素系材料とが複合化したポリアニリン炭素複合体によって、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアニリン炭素複合体、キャパシタ用電極材料およびそれを用いた電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気二重層キャパシタの分極性電極として、活性炭または繊維状活性炭を用いていた。しかし、これは放電容量が小さく、実用に際して長時間にわたる放電を維持することができないという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1および特許文献2は活性炭(またはカーボン)の懸濁液中で導電性高分子を電解重合することにより作成した導電性高分子/炭素複合体を電気二重層キャパシタの分極性電極とすることを提案し、ポリアニリン/炭素複合体を分極性電極として実施に用いている。これによれば、従来の分極性電極を使用した場合よりも比静電容量が大きく、かつ内部抵抗も小さくなる利点がある。しかし、電解重合法は、得られる電極面積が限定されるために、大面積での重合が難しく工業的でないという問題がある。
【0004】
また、特許文献3は多孔性炭素系材料(例えば活性炭)の存在下において、アニリンを水溶液中で化学重合させることによって、多孔性炭素系材料とポリアニリンからなるポリアニリン/炭素複合体を得、これを分極性電極として用いることを提案しているが、得られるポリアニリン/炭素複合体を水洗する必要があるため、操作が煩雑になるという問題がある。また、特許文献3の複合体では、多孔性炭素系材料にアニリンを含浸させた後、アニリンを重合し、多孔性炭素系材料上にポリアニリンを形成するため、多孔性炭素系材料の細孔を減少させ、静電容量の大幅な向上が難しいという問題がある。
【0005】
また特許文献4によれば、ポリアニリンスルホン酸類と電極活物質(例えば活性炭)とカーボン系導電性物質を水中で混合した後、混合溶媒である水を真空留去することによりポリアニリン/炭素複合体を得、これをキャパシタ用電極として用いることを提案している。しかしながら、水系電解液を用いたキャパシタでは、水溶性であるポリアニリンスルホン酸類が、電極から溶出しやすく、キャパシタ用電極としては、長期安定性に劣るという問題がある。また、有機溶媒系電解液を用いたキャパシタでは、ポリアニリンスルホン酸類の水に対する高い親和性から、電極製造時に用いた水を電極中から完全に除去することができず、駆動電圧の低下および長期サイクル特性に劣るという問題がある。また、ポリアニリンスルホン酸類の側鎖スルホン酸基により、駆動電圧が低下するという問題もある。また、脱ドープポリアニリン(エメラルディン塩基型)は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散・溶解可能であることから、ポリアニリン/NMP溶液と電極活物質(例えば活性炭)とカーボン系導電性物質を混合した後、混合溶媒であるNMPを加熱真空留去することによりポリアニリン/炭素複合体を得、これをキャパシタ用電極として用いることが提案されている。しかしながら、ポリアニリン/NMP溶液は、ポリアニリン粒子がNMPに溶解した状態とポリアニリン凝集体がNMP中に分散した状態を含んだものであり、上記ポリアニリン/炭素複合体には、ポリアニリン凝集体も含有してしまう。ポリアニリン凝集体は、高速かつ定量的な電気化学反応を行なうことが出来ないため、上記複合体を用いた電極では、複合化されたポリアニリンが放電容量の向上に十分寄与できず、ポリアニリンの複合化量に対応した放電容量の向上が困難であった。
【0006】
そこで特許文献5は、前述の従来技術の問題点を排除して、導電性高分子を分極性電極として使用する電気二重層キャパシタにおいて、より簡易に、高静電容量およびサイクル特性に優れた電気二重層キャパシタを与えるポリアニリンまたはその誘導体/炭素複合体を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−201676号公報
【特許文献2】特開2002−25868号公報
【特許文献3】特開2002−25865号公報
【特許文献4】特開2003−17370号公報
【特許文献5】特開2008−160068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、現在、電気二重層キャパシタには、より高い静電容量およびより優れたサイクル特性を備えることが要求されている。
本発明は、前述の従来技術の問題点を排除して、導電性高分子を分極性電極として使用する電気二重層キャパシタにおいて、より簡易に、より高い静電容量およびより優れたサイクル特性を備える電気二重層キャパシタを与えるポリアニリン炭素複合体を提供することを目的とする。また、当該ポリアニリン炭素複合体を用いた電気二重層キャパシタ用電極材料およびこの電極材料で構成された分極性電極を有する電気二重層キャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の(a)〜(e)である。
(a)アニリンおよび/またはその誘導体と、下記式(I)に示す化合物(I)と、ドーパントとを非極性有機溶媒中で酸化重合し、その後、脱ドープ処理および炭素系材料との複合化処理を施して得られる、数平均分子量が10,000〜1,000,000であるポリアニリン共重合体と前記炭素系材料とが複合化したポリアニリン炭素複合体。
【化1】


式(I)中、Aは5または6員環の芳香環を示し、環を構成する原子に窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含んでいてもよい。
(b)前記非極性有機溶媒が水およびトルエンを含み、前記ドーパントがスルホン酸を含む、上記(a)に記載のポリアニリン炭素複合体。
(c)前記ポリアニリン共重合体を構成する、前記アニリンおよびその誘導体に由来するモノマーユニットのモル数(i)と、前記化合物(I)に由来するモノマーユニットのモル数(ii)との合計モル数((i)+(ii))に対するモル数(ii)の比((ii)/((i)+(ii)))が0.1〜0.5である、上記(a)または(b)に記載のポリアニリン炭素複合体。
(d)上記(a)〜(c)のいずれかに記載のポリアニリン炭素複合体を用いた電気二重層キャパシタ用電極材料。
(e)上記(d)に記載の電極材料で構成された分極性電極を有する電気二重層キャパシタ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前述の従来技術の問題点を排除して、導電性高分子を分極性電極として使用する電気二重層キャパシタにおいて、より簡易に、より高い静電容量およびより優れたサイクル特性を備える電気二重層キャパシタを与えるポリアニリン炭素複合体を提供することができる。また、当該ポリアニリン炭素複合体を用いた電気二重層キャパシタ用電極材料およびこの電極材料で構成された分極性電極を有する電気二重層キャパシタを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、アニリンおよび/またはその誘導体と、特定構造の化合物(I)と、ドーパントとを非極性有機溶媒中で酸化重合し、その後、脱ドープ処理および炭素系材料との複合化処理を施して得られる、数平均分子量が10,000〜1,000,000であるポリアニリン共重合体と、前記炭素系材料とが複合化したポリアニリン炭素複合体である。
このようなポリアニリン炭素複合体を、以下では「本発明の複合体」ともいう。
【0012】
また、アニリンおよび/またはその誘導体と、特定構造の化合物(I)と、ドーパントとを非極性有機溶媒中で酸化重合して得られる、脱ドープ処理を施す前のポリアニリン共重合体を、以下では「本発明の共重合体α」ともいう。
また、本発明の共重合体αに脱ドープ処理を施した後のポリアニリン共重合体であって、上記の特定範囲の数平均分子量を有するものを、以下では「本発明の共重合体β」ともいう。
よって、本発明の共重合体βと前記炭素系材料とを複合化すると、本発明の複合体が得られる。
【0013】
本発明の共重合体αについて説明する。
本発明の共重合体αは、アニリンおよび/またはその誘導体と、特定構造の化合物(I)と、ドーパントとを非極性有機溶媒中で酸化重合して得られる。
【0014】
本発明の共重合体αを得るために用いることができるアニリンの誘導体は、アニリンの4位以外の位置に、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基を置換基として少なくとも一つ有するアニリン誘導体が例示できる。好ましくは炭素数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、好ましくは炭素数6〜10のアリール基を置換基として少なくとも一つ有するアニリン誘導体が例示できる。
【0015】
本発明の共重合体αを得るために用いる化合物(I)は、下記式(1)に示す構造を備える。
【0016】
【化2】


式(I)中、Aは5または6員環の芳香環を示す。また、環を構成する原子に窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0017】
このような化合物(I)としては、ジチオジアニリン、ジチオビス(アミノチアジアゾール)、ジチオビス(アミノピリミジン)、ジチオビス(アミノピリジン)、ジチオビス(アミノトリアゾール)、ジチオビス(アミノチオフェン)、ジチオビス(アミノチアゾール)等が挙げられる。
本発明において、化合物(I)は、電解還元によりS−S結合が開裂されて、電解酸化により元のS−S結合を形成する硫黄原子を有する物質である。なお、本発明において、S−S結合は単独でも良く、或いは、S−S−Sのように連続していても良い。
このような化合物(I)の使用量は、特に限定はないが、上記のアニリンおよびその誘導体の合計の1モル当り、0.01〜5モル使用するのが望ましく、0.1〜3モル使用するのがさらに好ましい。
【0018】
本発明の共重合体αを得るために用いるドーパントは、前記化合物(I)と反応して、後述する非極性有機溶媒に可溶な塩を形成するものあれば特に限定されないが、スルホン酸であることが好ましい。ここでスルホン酸は、一つまたは複数のスルホン酸基を有する脂肪族または芳香族スルホン酸およびこれらの塩であり、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、高級脂肪族エステルのスルホン酸、(ジ)アルキルスルホコハク酸、高級脂肪族アミドのスルホン酸、カンファースルホン酸およびこれらの塩類を挙げることができ、好ましくはドデシルベンゼンスルホン酸、テトラデシルベンゼンスルホン酸、オクタデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸、テトラデシルスルホン酸、オクタデシルスルホン酸、ドデシルスルホコハク酸、ジドデシルスルホコハク酸およびその塩等が挙げられる。
これらのドーパントの使用量は特に限定されないが、上記のアニリンおよびその誘導体ならびに前記化合物(I)の合計の1モル当り、0.01〜5モル使用するのが望ましく、0.1〜3モル使用するのがさらに好ましい。
【0019】
なお、本発明の共重合体αを得るために用いるドーパントとして塩酸は用いないことが好ましい。この場合、アニリンまたはその誘導体と前記化合物(I)との重合反応が進行し難く、前記化合物(I)に由来するユニットを少なく有するポリアニリン共重合体しか得られないからである。この場合、静電容量が低い電気二重層キャパシタしか得ることができない。
【0020】
前記アニリンおよび/またはその誘導体と前記化合物(I)と前記ドーパントとを酸化重合させるために用いる酸化剤は特に限定されないが、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸類、過酸化水素、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、重クロム酸カリウム、過マンガン酸カリウム、過酸化水素−第一鉄塩等のレドックス開始剤等が好ましく用いられる。これら酸化剤は単独で使用しても2種以上併用してもよい。
これら酸化剤の使用量は特に限定されないが、上記のアニリンおよびその誘導体ならびに前記化合物(I)の合計の1モル当り、0.01〜10モル使用するのが望ましく、0.1〜5モル使用するのがさらに好ましい。
【0021】
本発明の共重合体αを得る際には、さらに分子量調整剤を用いて上記の酸化重合を行ってもよい。分子量調整剤としては、例えば4位に置換基を有するアニリン誘導体、N位に置換基を有するアニリン誘導体、チオール化合物、ジスルフィド化合物、α−メチルスチレンダイマーが挙げられる。これらの中の2以上のものを同時に用いることもできる。
【0022】
ここで、4位に置換基Xを有するアニリン誘導体としては、次の式(II)で示される化合物が挙げられる。
【0023】
【化3】

【0024】
式(II)において、Xはアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基、ハロゲン基を表し、Yは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基、ハロゲン基を表し、nは0〜4の整数を表し、nが2〜4の整数の場合、Yは同一であっても異なっていても良い。好ましい置換基Xは、炭素数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、炭素数6〜10のアリール基であり、好ましい置換基Yは、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、炭素数6〜10のアリール基である。
【0025】
N位に置換基Zを有し、4位以外に置換基Wを有するアニリン誘導体としては、次の式(III)で示される化合物が挙げられる。
【0026】
【化4】

【0027】
Zはアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基を表し、nは1〜2の整数を表す。好ましいnは2である。W1〜W4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基、ハロゲン基を表し、W1〜W4は同一であっても異なっていても良い。好ましい置換基Zは、炭素数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、炭素数6〜10のアリール基である。好ましい置換基Wは、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、炭素数6〜10のアリール基である。
【0028】
また、ここでチオール化合物および/またはジスルフィド化合物としては、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタン、テトラデシルメルカプタン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−メチレンチオールなどのチオール化合物、ジエチルジスルフィド、ジブチルジスルフィド等のアルキルジスルフィド類、ジフェニルジスルフィド、ジベンジルジスルフィド等の芳香族ジスルフィド類、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィドなどのキサントゲンジスルフィド類、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィドなどのチウラムジスルフィド類などのジスルフィド化合物を挙げることができる。これらは公知の化合物であり、その多くは一般に市販されている。
【0029】
分子量調整剤の使用量にも特に限定はないが、上記のアニリンおよびその誘導体ならびに化合物(I)の合計の1モル当り、5.0×10-5〜5.0×10-1モル使用するのが好ましく、2.0×10-4〜2.0×10-1モル使用するのがさらに好ましい。
【0030】
本発明の共重合体αを得る際には、さらに相間移動触媒を用いて前記酸化重合を行ってもよい。相間移動触媒としては、一般に相間移動触媒として用いられているものであれば特に限定されない。具体的には、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムアイオダイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド等のテトラアルキルアンモニウムハライド類;テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド等のテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド類;メチルトリフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラアルキルホスホニウムハライド類;12−クラウン−4,15−クラウン−5,18−クラウン−6等のクラウンエーテル類等が挙げられ、このうち反応後の触媒の除去等の取り扱い易さの点でテトラアルキルアンモニウムハライド類が好ましく、特には工業的に安価に入手できるテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドまたはテトラ−n−ブチルアンモニウムクロライドが好ましい。
【0031】
本発明において必要に応じ使用する相間移動触媒の量は特に限定されないが、前記酸化剤に対して好ましくは0.0001モル倍量以上、より好ましくは0.005モル倍量以上用いられる。ここで相間移動触媒を過剰に用いすぎると反応終了後の単離、精製工程が困難になる。したがって使用する場合には、好ましくは5モル倍量以下、より好ましくは、等モル量以下の範囲で用いられる。
【0032】
本発明の共重合体αを得る際には、さらにその他の汎用添加剤を用いてもよい。
【0033】
本発明の共重合体αを得るために用いる非極性有機溶媒は、前記アニリン、前記アニリンの誘導体および前記化合物(I)と前記ドーパントとが反応してなる塩を溶解するものであれば特に限定されないが、水および有機溶媒といった2種類の液体媒体であることが好ましい。有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;ジクロロエタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル等のエステル類が挙げられ、このうち好ましくは、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類およびハロゲン化炭化水素類であり、さらに好ましくは、安価で毒性の低いトルエンおよびキシレンである。前記有機溶媒は、2種以上を混合して用いても良い。
前記非極性有機溶媒は水およびトルエンを含むことが好ましく、実質的に水およびトルエンからなることがより好ましい。ここで水とトルエンとの混合比(質量比)が20:1〜1:30であることが好ましく、10:1〜1:10であることがより好ましい。
【0034】
なお、非極性有機溶媒として水のみを用いることはない。この場合、アニリンまたはその誘導体と前記化合物(I)との重合反応が進行し難く、前記化合物(I)に由来するユニットを少なく有するポリアニリン共重合体しか得られないからである。この場合、静電容量が低い電気二重層キャパシタしか得ることができない。
【0035】
本発明の共重合体αを得るために用いるドーパントとして実質的にスルホン酸(好ましくはドデシルベンゼンスルホン酸)のみを用い、かつ、非極性有機溶媒としてトルエンと水との混合液体を用いると、アニリンまたはその誘導体と前記化合物(I)との重合反応が進行し易く、前記化合物(I)に由来するユニットを多く有するポリアニリン共重合体が得られる。この場合、より高い静電容量を備える電気二重層キャパシタが得られるので好ましい。
【0036】
前記非極性有機溶媒の使用量としては撹拌可能な量であれば良く、通常はアニリン、その誘導体および前記化合物(I)の合計質量に対して、好ましくは1〜500質量倍量、より好ましくは2〜300質量倍量用いる。ここで有機溶剤の使用量は、水に対して、好ましくは0.05〜30質量倍量、より好ましくは0.1〜10質量倍量用いる。
【0037】
本発明の共重合体αを得る方法は特に限定されず、従来公知の方法を適用することができる。例えば、非極性有機溶媒に、アニリンおよび/またはアニリンの誘導体、前記化合物(I)、ドーパントならびに必要に応じて分子量調節剤および相間移動触媒を添加し、−10〜80℃に調整した後、前記酸化剤を添加して酸化重合反応させることで得ることができる。
ここで本発明の共重合体αは、ドーパントの立体効果およびドーパントの非極性溶媒との親和性によって、ドープされた状態で非極性有機溶媒中に安定に分散されている。また、本発明の共重合体αは、粒径0.5μm以下、粒度分布も単分散で非極性有機溶媒中に安定に分散されている。
【0038】
本発明の共重合体βは、このような本発明の共重合体αに脱ドープ処理を施して得ることができる。
脱ドープ処理については後述する。
【0039】
本発明の共重合体βの数平均分子量は10,000〜1,000,000であり、10,000〜200,000であることが好ましく、10,000〜150,000であることがより好ましく、10,000〜100,000であることがさらに好ましい。このような範囲であると、本発明の複合体を用いてなる電気二重層キャパシタの静電容量が高くなり、優れたサイクル特性となる。なお、本発明の共重合体βの数平均分子量は、NMP、ジメチルホルムアミドを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した値を意味するものとする。
【0040】
また、本発明の共重合体βを構成するアニリンおよびその誘導体に由来するモノマーユニットのモル数を「モル数(i)」とし、本発明の共重合体βを構成する前記化合物(I)に由来するモノマーユニットのモル数を「モル数(ii)」とした場合、モル数(i)とモル数(ii)との合計モル数((i)+(ii))に対するモル数(ii)の比、すなわち、(ii)/((i)+(ii))は0.1〜0.5であることが好ましい。この比は0.1〜0.4であることがより好ましく、0.1〜0.3であることがさらに好ましい。このような範囲であると本発明の共重合体βを用いて得られる電気二重層キャパシタの静電容量がより高くなるからである。上記の範囲よりも大きすぎると静電容量は低くなる傾向がある。
なお、上記の「モル数(i)」および「モル数(ii)」は、共重合体βのH−NMR測定及び/又は共重合体βの赤外吸収スペクトル測定により求めた値である。赤外吸収スペクトル測定による算出は、予めアニリン及びその誘導体と化合物(I)を様々な重量比で混合した混合物の赤外吸収スペクトルから作製した検量線を用いて行った。検量線は、アニリン及びその誘導体と化合物(I)の混合物の赤外吸収スペクトルの吸光度比とアニリン及びその誘導体と化合物(I)の重量から算出したモル比から作製したものである。
【0041】
本発明の複合体の製造方法として、次に示す操作(1)〜(5)が例示できる。
操作(1):本発明の共重合体αの分散液に炭素系材料を添加し混合したものを脱ドープ処理することにより、本発明の共重合体βおよび炭素系材料を含む分散液を得る。その後、当該分散液中の固形分を濾別、洗浄することにより本発明の複合体が得られる。
操作(2):本発明の共重合体αの分散液に炭素系材料を添加し混合したものから溶媒を除去することにより、本発明の共重合体αと炭素系材料との混合物を得る。得られた混合物を脱ドープ処理することにより本発明の複合体が得られる。
操作(3):本発明の共重合体αの分散液と非プロトン性溶媒とを混合した分散液を脱ドープ処理することにより、本発明の共重合体βを含む分散液を得る。当該分散液に炭素系材料を混合した後、固形分を濾別、洗浄することにより、本発明の複合体が得られる。
操作(4):本発明の共重合体αの分散液と炭素系材料と非プロトン性溶媒とを混合した分散液を脱ドープ処理することにより、本発明の共重合体βと炭素系材料とを含む分散液を得る。当該分散液中の固形分を濾別、洗浄することにより、本発明の複合体が得られる。
操作(5):本発明の共重合体αの分散液を脱ドープ処理して生成した沈殿物を濾別、洗浄することにより、粉末状の本発明の共重合体βを得る。得られた本発明の共重合体βと炭素系材料とを混合することにより、本発明の複合体が得られる。または、粉末状の本発明の共重合体βを非プロトン性溶媒中に分散、溶解させた分散液と炭素系材料とを混合した後、溶媒を除去することにより、本発明の複合体を得ることもできる。
【0042】
上記の操作(1)〜(5)において混合は、従来の混合機を用いて行うことができる。例えばサンドミル、ビーズミル、ボールミル、遊星型ボールミル、3本ロールミル、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ヘンシェルミキサー、ジェットミル、プラネタリーミキサー等の混合分散機を用いることができる。
【0043】
脱ドープ処理について説明する。
脱ドープ処理は、本発明の共重合体αを脱ドーピングし、ドーパント(例えばスルホン酸)を中和できる方法であれば特に限定されない。例えば本発明の共重合体αに塩基性物質を作用させる方法が挙げられる。
【0044】
塩基性物質としては、好ましくはアンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物;メチルアミン、エチルアミンまたはトリエチルアミン等のアミン;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の水酸化アルキルアンモニウム;ヒドラジン、フェニルヒドラジン等のヒドラジン化合物;ジエチルヒドロキシルアミン、ジベンジルヒドロキシルアミン等のヒドロキシルアミン化合物が用いられる。
【0045】
塩基性物質を作用させる脱ドープ処理としては、例えば上記の操作(1)の場合であれば、本発明の共重合体αの分散液に炭素系材料を添加した後に、さらに塩基性物質を添加して混合する方法が挙げられる。
また、例えば操作(2)の場合であれば、得られた本発明の共重合体αと炭素系材料との混合物に、液体状態または気体状態の塩基性物質を接触させる方法が挙げられる。
また、例えば操作(3)の場合であれば、本発明の共重合体αの分散液と非プロトン性溶媒とを混合した分散液に、さらに塩基性物質を添加して混合する方法が挙げられる。
また、例えば操作(4)の場合であれば、本発明の共重合体αの分散液と炭素系材料と非プロトン性溶媒とを混合した分散液に、さらに塩基性物質を添加して混合する方法が挙げられる。
また、例えば操作(5)の場合であれば、本発明の共重合体αの分散液に塩基性物質を添加して混合する方法が挙げられる。
【0046】
塩基性物質は有機溶媒に溶解させて用いることもできる。塩基性物質を溶解させる有機溶媒としては、塩基性物質が溶解するものであれば特に限定されないが、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等エステル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0047】
上記の操作(3)〜(5)において用いた非プロトン性溶媒としては、例えばジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド等のホルムアミド類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホオキシド類;炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類;アセトニトリル、プロピオノニトリル等のニトリル類;N−メチル−2−ピロリドン等を例示できる。
【0048】
本発明の共重合体βは、本発明の共重合体αのドーパントを脱ドープすることにより得ることができるが、本発明の共重合体αのドーパントの少なくとも一部を脱ドープしたものであればよく、本発明の共重合体α中のドーパントが完全に脱ドープされたものでなくてもよい。脱ドープ処理により得られる本発明の共重合体β中に含有するドーパント量は、本発明の共重合体βのモノマーユニットあたりモル比で0〜0.3であり、好ましくは0〜0.1である。
【0049】
複合化処理について説明する。
複合化処理は特に限定されず、本発明の共重合体αまたは本発明の共重合体βと炭素系材料とに脱ドープ処理と合わせて施すことで、本発明の複合体を得ることができる処理であればよい。
例えば上記の操作(1)の場合であれば、本発明の共重合体αの分散液に炭素系材料を添加し混合することが、複合化処理に該当する。
また、例えば上記の操作(2)の場合であれば、本発明の共重合体αの分散液に炭素系材料を添加し混合し溶媒を除去することが、複合化処理に該当する。
また、例えば上記の操作(3)の場合であれば、脱ドープ処理した後に得た本発明の共重合体βを含む分散液に炭素系材料を混合し、固形分を濾別、洗浄することが、複合化処理に該当する。
また、例えば上記の操作(4)の場合であれば、本発明の共重合体αの分散液と炭素系材料と非プロトン性溶媒とを混合することが、複合化処理に該当する。
また、例えば上記の操作操作(5)の場合であれば、得られた粉末状の本発明の共重合体βと炭素系材料とを混合することが複合化処理に該当する。また、粉末状の本発明の共重合体βを非プロトン性溶媒中に分散、溶解させた分散液と炭素系材料とを混合し、溶媒を除去することが、複合化処理に該当する。
【0050】
本発明の複合体が備える炭素系材料について説明する。
炭素系材料は特に限定されないが、例えば粉末状、粒状、繊維状または成形体状の活性炭、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレン等であり、比表面積が20m2/g以上(窒素吸着法にて測定)の炭素系材料が望ましい。これらの炭素系材料は、単独でも各種炭素系材料を混合して用いてもよい。炭素系材料は公知であり、例えばクラレケミカル(株)製ファイン活性炭RP、ファイン活性炭YP、ライオン(株)製ケッチェンブラックEC300J、ケッチェンブラックEC600JD、電気化学工業(株)製デンカブラックFX−35、HS−100、昭和電工(株)製気相法炭素繊維VGCF、フロンティアカーボン(株)製ナノムミックス、ナノムパープル、ナノムブラックなどとして市販されている。
【0051】
本発明の複合体における本発明の共重合体βと炭素系材料との比は特に限定されないが、炭素系材料100質量部あたり、本発明の共重合体βが1〜300質量部であることが好ましい。この比率が小さいと充分な容量増加が見られないおそれがあり、逆に多いと本発明の共重合体βの混合量に見合った効果が得られないばかりでなく、炭素系材料との複合化が困難となるので好ましくない。
【0052】
本発明によれば、本発明の複合体を活物質とした電極材料を用いて、これと集電体から分極性電極を構成することができる。集電体としては、特に制限はなく、通常電気二重層キャパシタの集電体として用いられる公知のものが好適に用いられる。白金、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、ニッケル等の金属、アルミニウム等の合金、黒鉛などの炭素材料や、導電材を混入させた導電性ゴムなどが挙げられる。
【0053】
分極性電極の具体的な製造方法として、例えば本発明の複合体をディスク状またはシート状の比較的厚めの電極として形成させる場合、前記手法で形成された粉末状及び/又は溶媒中に分散したスラリー状の本発明の複合体を、常温または加熱下で錠剤成形機やロールプレス機を用いて必要とされる形状に成型する方法が好ましく用いることができる。この場合、集電体と本発明の複合体電極との接合は、圧接法、接着法、溶射法のいずれを用いてもよい。
【0054】
また、本発明の複合体を、厚さ10〜750μm程度以下の比較的薄い電極として形成させる場合、前記手法で得られた溶媒中に分散したスラリー状態の本発明の複合体を集電体上に塗工・乾燥する方法が好ましい。また乾燥後、常温または加熱してプレスすることによって本発明の複合体の充填密度を大きくすることも可能である。ただし、電極の作製方法は、上記例示の方法に限られることなく、他の方法によることもできる。
【0055】
また、本発明においては、前述の如く高分子化合物であるポリアニリンを用いているため、結着剤は必ずしも必要ではないが、本発明の複合体を調製する際および/または前記分極性電極を作製する際に用いてもよい。使用できる結着剤には特に限定はなく、例えば、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフロロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化塩化エチレン、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸及びその共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル及びその共重合体、ポリイミドなどが挙げられる。
【0056】
また、本発明においては、炭素系材料と複合化させる本発明の共重合体が、導電性ポリアニリンであるため、導電剤は必ずしも必要でないが、本発明の複合体を調製する際および/または前記分極性電極を作製する際に用いてもよい。使用できる導電剤には特に限定はなく、例えばカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、炭素繊維、金属ファイバ、酸化チタン、酸化ルテニウム等が使用できる。特にカーボンブラックの一種であるケッチェンブラック又はアセチレンブラック等や炭素繊維の一種である気相法炭素繊維(昭和電工製、商品名VGCF)やカーボンナノチューブ(GSIクレオス製、商品名カルベール)等は、少量でも効果が大きく好ましい。
【0057】
本発明によれば、上述の如く、導電性が高く、高静電容量の電気二重層キャパシタを得ることができる。前記分極性電極及び電気二重層キャパシタは本発明の複合体を用いる以外は一般的な方法で作成することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されない。
【0059】
<実施例1>
(ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α1)の調整)
トルエン250gにアニリン(3.86g)とジチオジアニリン(1.14g)とを合計で5g、ドデシルベンゼンスルホン酸15.0gおよび2,4,6−トリメチルアニリン0.02gを溶解させた。アニリンとジチオジアニリンとのモル比は9:1とした。その後、6N塩酸7.7mLを溶解した蒸留水150gを加えた。この混合溶液にテトラブチルアンモニウムブロマイド0.05gを添加し、5℃以下に冷却した後、過硫酸アンモニウム11.5gを溶解させた蒸留水50gを加えた。5℃以下の状態で6時間酸化重合を行なった後、トルエン100g、ついでメタノール水混合溶媒(水/メタノール=2/3(質量比))を加え攪拌を行なった。攪拌終了後、トルエン層を水層に分離した反応溶液のうち、水層のみを除去することによりポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α1)のトルエン分散液を得た。
【0060】
(ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体β1)の調整)
ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α1)のトルエン分散液100gに2モル/リットルのトリエチルアミンメタノール溶液500mLを添加した後、5時間攪拌混合行なった。攪拌終了後、沈殿物を口別回収し、メタノールで洗浄した。この時の濾液及び洗浄液は無色透明であった。洗浄精製された沈殿物を真空乾燥することにより脱ドープされたポリアニリン共重合体の粉末(本発明の共重合体β1)を得た。
この粉末を一部採取し、ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体β1)のアニリンモノマーユニットとジチオジアニリンとのモル比を求めた。また数平均分子量を求めた。当該質量比および分子量を第1表に示す。
【0061】
(ポリアニリン炭素複合体の調製)
ポリアニリン共重合体α1のトルエン分散液525gに導電性カーボンブラック(ライオン(株)製、ケッチェンブラックECP600JD)2.5gを添加混合して、ポリアニリン共重合体α1とカーボンブラックとの分散液を得た。ここでトルエン分散液に分散しているポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α1)の質量と、導電性カーボンブラックの質量との比が36:5となるように混合した。次に、この混合分散液に2モル/リットルのトリエチルアミンメタノール溶液200mLを添加した後、5時間攪拌混合行なった。攪拌終了後、沈殿物を口別回収し、メタノールで洗浄した。この時の濾液および洗浄液は無色透明であった。洗浄精製された沈殿物を真空乾燥することによりポリアニリン炭素複合体1(本発明の複合体1)を調製した。
【0062】
(電極1の作製)
ポリアニリン炭素複合体1(2g、ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体β1)の質量と、導電性カーボンブラックの質量との比が3:1)と活性炭(比表面積2000m2/g、平均粒子径10μm)(7.5g)とカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(アルドリッチ社製、粘度1500−3000cP(1%水溶液))(0.5g)とを十分乳鉢で混合分散させた後、水(30g)を徐々に加えながらさらに乳鉢で混合してペースト状にした。このペーストをアルミニウム箔(膜厚30μm)に活物質層の厚さが100μmとなるように塗布した。150℃で24時間乾燥させた後、150℃、2時間真空乾燥を行なった。このシート状の電極を20MPaで加圧処理した後、1cm×1cmの寸法で切り出し、評価用電極1を作製した。
【0063】
(静電容量、サイクル特性の測定)
上記作製した評価用電極1を正負両極として、ガラス繊維濾紙(ワットマン濾紙GF/A)を介して対向させ、1Mテトラエチルアンモニムテトラフルオロボレートのプロピレンカーボネート溶液を電解液として用いて電気二重層キャパシタを作製した。
この電気二重層キャパシタの充放電試験は、充放電試験機(北斗電工製HJ1001SM8A)を用い、定電流(電極重量あたり100mA/g)−電圧規制にて行なった。充電は2.5V、放電は0Vまで行った。充放電測定は室温下で繰り返して行った。
キャパシタの静電容量は、初期の定電流放電曲線から「電気二重層キャパシタと蓄電システム、第3版、岡村廸夫著、2005、日刊工業新聞、p102」に記載のエネルギー換算法に基づいて算出した。キャパシタのサイクル特性は、5サイクル目の放電曲線から算出した静電容量を初期値とし、この値が95%以下となるサイクル数を求めた。
第1表に電極1を用いた電気二重層キャパシタの静電容量およびサイクル特性を示す。
【0064】
<実施例2>
(ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α2)の調整)
トルエン250gにアニリン(1.87g)とジチオジアニリン(3.13g)とを合計で5g、ドデシルベンゼンスルホン酸10.7gおよび2,4,6−トリメチルアニリン0.02gを溶解させた。アニリンとジチオジアニリンとのモル比は6:4とした。その後、6N塩酸5.5mLを溶解した蒸留水150gを加えた。この混合溶液にテトラブチルアンモニウムブロマイド0.036gを添加し、5℃以下に冷却した後、過硫酸アンモニウム8.17gを溶解させた蒸留水50gを加えた。5℃以下の状態で6時間酸化重合を行なった後、トルエン100g、ついでメタノール水混合溶媒(水/メタノール=2/3(質量比))を加え攪拌を行なった。攪拌終了後、トルエン層を水層に分離した反応溶液のうち、水層のみを除去することによりポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α2)のトルエン分散液を得た。
【0065】
(ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体β2)の調整)
実施例1と同じ方法で行った。この粉末を一部採取し、ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体β2)のアニリンモノマーユニットとジチオジアニリンとのモル比を求めた。また数平均分子量を求めた。当該質量比および分子量を第1表に示す。
【0066】
(ポリアニリン炭素複合体の調製)
ポリアニリン共重合体α2のトルエン分散液525gに導電性カーボンブラック(ライオン(株)製、ケッチェンブラックECP600JD)2.5gを添加混合して、ポリアニリン共重合体α2とカーボンブラックとの分散液を得た。ここでトルエン分散液に分散しているポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α2)の質量と、導電性カーボンブラックの質量との比が6:1となるように混合した。以下の操作は、実施例1と同じ方法で、ポリアニリン炭素複合体2(本発明の複合体2)を調製した。
【0067】
(電極2の作製)
電極2は、実施例1で示した電極1と同じ方法で作製した。
【0068】
(静電容量、サイクル特性の測定)
電極2の静電容量、サイクル特性は、実施例1と同じ方法で求めた。
【0069】
<実施例3>
(ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α3)の調整)
トルエン250gにアニリン(3.86g)とジチオジアニリン(1.14g)とを合計で5g、ドデシルベンゼンスルホン酸15.0gおよびN,N−ジエチルアニリン0.02gを溶解させた。アニリンとジチオジアニリンとのモル比は9:1とした。その後、6N塩酸5.5mLを溶解した蒸留水150gを加えた。この混合溶液にテトラブチルアンモニウムブロマイド0.036gを添加し、5℃以下に冷却した後、過硫酸アンモニウム8.17gを溶解させた蒸留水50gを加えた。5℃以下の状態で6時間酸化重合を行なった後、トルエン100g、ついでメタノール水混合溶媒(水/メタノール=2/3(質量比))を加え攪拌を行なった。攪拌終了後、トルエン層を水層に分離した反応溶液のうち、水層のみを除去することによりポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α3)のトルエン分散液を得た。
【0070】
(ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体β3)の調整)
実施例1と同じ方法で行った。この粉末を一部採取し、ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体β3)のアニリンモノマーユニットとジチオジアニリンとのモル比を求めた。また数平均分子量を求めた。当該質量比および分子量を第1表に示す。
【0071】
(ポリアニリン炭素複合体の調製)
ポリアニリン共重合体α3のトルエン分散液525gに導電性カーボンブラック(ライオン(株)製、ケッチェンブラックECP600JD)2.5gを添加混合して、ポリアニリン共重合体α3とカーボンブラックとの分散液を得た。ここでトルエン分散液に分散しているポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α3)の質量と、導電性カーボンブラックの質量との比が6:1となるように混合した。以下の操作は、実施例1と同じ方法で、ポリアニリン炭素複合体3(本発明の複合体3)を調製した。
【0072】
(電極3の作製)
電極3は、実施例1で示した電極1と同じ方法で作製した。
【0073】
(静電容量、サイクル特性の測定)
電極3の静電容量、サイクル特性は、実施例1と同じ方法で求めた。
<比較例1>
ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α10)の分散液を調製する際に用いたトルエンの代わりに水を用い、さらにドデシルベンゼンスルホン酸の代わりに塩酸を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリアニリン炭素複合体10を調整した。
【0074】
<比較例2>
ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α20)の分散液を調製する際に用いたトルエンの代わりに水を用いる以外は、実施例1と同様にしてポリアニリン炭素複合体20を調整した。
【0075】
<比較例3>
ポリアニリン共重合体(本発明の共重合体α30)の分散液を調製する際に用いたトルエンの代わりに水を用い、さらにドデシルベンゼンスルホン酸の代わりに塩酸を用いたこと以外は、実施例2と同様にしてポリアニリン炭素複合体30を調整した。
【0076】
<比較例4>
ポリアニリン共重合体分散液の調製において、特開2002−88151で開示されている、アニリンとジチオジアニリンとの組成が2:1(モル比)で構成されているジスルフィド基含有アニリン類をモノマーとして用いる以外は、実施例1と同様にしてポリアニリン炭素複合体40を調製した。
【0077】
<比較例5>
ポリアニリン共重合体分散液の調製において、トルエンに溶解させるアニリンとジチオジアニリンとの質量比を10:0に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリアニリン炭素複合体50を調製した。
【0078】
【表1】

【0079】
実施例1、2、3ではアニリン/ジチオジアニリンの仕込み比(モル比)と、ポリアニリン共重合体(脱ドープ後)におけるアニリン/ジチオジアニリンの組成比(モル比)が一致している。これに対して比較例1、2、3ではこの比が一致していない。これは実施例1、2、3が非極性有機溶媒としてトルエンおよび水を用いており、かつドーパントとしてドデシルベンゼンスルホン酸を用いているからである。比較例1、2、3は実施例1、2とは異なる溶媒およびドーパントを用いているため、ジチオジアニリンが多く含まれるポリアニリン共重合体を得ることができない。
また、比較例4は実施例1、2、3と同じ非極性有機溶媒およびドーパントを用いているものの、充放電を繰り返したところ静電容量の減少が観察された(すなわち、サイクル特性が少なくなった(10回))。また、ポリアニリン共重合体が電解液中へ溶け出していることが観察された。これは、ポリアニリン共重合体(脱ドープ後)の数平均分子量が10000未満であり、低すぎるためと考えられる。また、比較例5はジチオジアニリンを用いていないので、静電容量が低くなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニリンおよび/またはその誘導体と、下記式(I)に示す化合物(I)と、ドーパントとを非極性有機溶媒中で酸化重合し、その後、脱ドープ処理および炭素系材料との複合化処理を施して得られる、数平均分子量が10,000〜1,000,000であるポリアニリン共重合体と前記炭素系材料とが複合化したポリアニリン炭素複合体。
【化1】


式(I)中、Aは5または6員環の芳香環を示し、環を構成する原子に窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含んでいてもよい。
【請求項2】
前記非極性有機溶媒が水およびトルエンを含み、前記ドーパントがスルホン酸を含む、請求項1に記載のポリアニリン炭素複合体。
【請求項3】
前記ポリアニリン共重合体を構成する、前記アニリンおよびその誘導体に由来するモノマーユニットのモル数(i)と、前記化合物(I)に由来するモノマーユニットのモル数(ii)との合計モル数に対するモル数(ii)の比((ii)/((i)+(ii)))が0.1〜0.5である、請求項1または2に記載のポリアニリン炭素複合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリアニリン炭素複合体を用いた電気二重層キャパシタ用電極材料。
【請求項5】
請求項4に記載の電極材料で構成された分極性電極を有する電気二重層キャパシタ。

【公開番号】特開2010−186937(P2010−186937A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31260(P2009−31260)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】