説明

キャパシタ

【解決手段】誘電体層が、溶射法によって形成された希土類元素酸化物で構成され、かつ該誘導体層を介して互いに対向する一対の電極を具備したことを特徴とするキャパシタ。
【効果】本発明によれば、溶射法による簡便で短い工程にて、薄型で高耐圧のキャパシタを得ることができ、産業上その利用価値は極めて高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便な工程により製造することができ、高耐圧かつ薄型で、高い信頼性をもつことを特徴とする、誘電体層が希土類元素酸化物で形成されたキャパシタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高耐圧の薄型キャパシタとしては、電気的特性や信頼性などの面から、チタン化合物を誘電体層として用いたセラミックスキャパシタが広く使われている。
【0003】
これらキャパシタは下記のとおり製造工程が長く、高コストである。しかも、高温の焼結工程が必要なため、樹脂やガラスなどの比較的熱に弱い基板上に直接キャパシタを形成することは不可能であった。
【0004】
<一般的キャパシタの製造工程>
原料粉の解砕→バインダー混合→乾燥→成型→脱脂→焼結→電極ペースト塗布→乾燥
→焼付け。
【0005】
これに対し、特開2006−66854号公報(特許文献1)には、樹脂プリント基板上に溶射法によって直接キャパシタを作り込む方法が提案されている。この方法は工程も少なく、部品実装の手間も省けるという大きな利点があるものの、使われている材料は価数の変動しやすいチタン化合物やTa25及びAl23である。溶射法は比較的低酸素雰囲気下での高温溶融→噴射→急冷という変化を伴うため、これらの材料では酸素欠陥が発生してしまい、誘電特性が安定せず、絶縁耐力の低い膜になるという問題点があった。
【0006】
【特許文献1】特開2006−66854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、希土類元素酸化物を誘電体材料として使用し、かつ、溶射法による簡便で短い工程にて形成される、薄型で高耐圧のキャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、価数の変動を起こし難くかつ絶縁耐圧特性に優れた誘電体材料を探索した結果、希土類元素酸化物であれば、溶射法によってキャパシタを形成した場合でも酸素欠陥が生じず、絶縁耐力も高いことを知見して、本発明を完成した。
【0009】
従って、本発明は、下記のキャパシタを提供する。
請求項1:
誘電体層が、溶射法によって形成された希土類元素酸化物で構成され、かつ該誘導体層を介して互いに対向する一対の電極を具備したことを特徴とするキャパシタ。
請求項2:
電極の一方又は双方が、溶射法によって形成された導電材料で構成されることを特徴とする請求項1記載のキャパシタ。
請求項3:
誘電体層の膜厚が0.3mmのときの絶縁破壊電圧が3kV以上であり、その膜厚での単位面積あたりの静電容量が0.3μF/m2以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のキャパシタ。
請求項4:
電極が、絶縁体基材上に溶射法によって形成された構造を有する請求項1,2又は3記載のキャパシタ。
請求項5:
絶縁体基材が、ガラス、樹脂又はセラミックスからなることを特徴とする請求項4記載のキャパシタ。
請求項6:
絶縁体基材が、電気回路の一部である導体を複合化させた構造となっており、その導体と溶射による電極とが電気的に接合されていることを特徴とする請求項4又は5記載のキャパシタ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶射法による簡便で短い工程にて、薄型で高耐圧のキャパシタを得ることができ、産業上その利用価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明のキャパシタは、誘電体層が、溶射法によって形成された希土類元素酸化物で構成され、該誘電体層を介して互いに対向する一対の電極を具備した構造のキャパシタである。
【0012】
本発明において、希土類元素としては、Sc,Y,La,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luが好適であり、これらの酸化物を使用することが有効である。
希土類元素酸化物は他の酸化物と比較して酸素との結びつきが強く、高温溶融→噴射→急冷という溶射条件の下でも酸素欠陥を発生することなく安定に存在する。但し、希土類元素の中でも、CeやPr,Tbといった元素は価数が変動しやすいために、電気特性が変動しやすく、よって本用途には適用しないことが好ましい。
【0013】
本発明のキャパシタは、第1のステップとして、基材となる電極上に溶射法によって希土類元素酸化物を溶融、噴射、堆積させて誘電体膜を形成し、第2のステップとして、希土類元素酸化物からなる誘電体膜上に対向電極として導電材料を製膜すること、更に必要により第3のステップとして、キャパシタの表面を絶縁材料で覆うことにより製造することができる。
【0014】
ここで、基材となる電極としては、単一のキャパシタを形成する場合には、銅、真鍮、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、タングステン等の金属などの導体で金属板や金属管を作製し、このような導電性基体を用いることができ、導電性基体それ自体を一方の電極とすることができる。また、ガラス、樹脂、セラミックス等の絶縁体にて形成し、この絶縁体基材に金属などの導体により電極を形成することができる。この電極の作製法については特に制限されるものではないが、溶射法によって形成することが好ましい。なお、このように溶射法によって電極を作製する場合、溶射膜(電極)を形成するには銅、真鍮、ステンレスチール、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、タングステン等の平均粒子径5〜200μm、特に20〜200μmの金属粉末を使用し、厚さ10〜300μm、特に50〜200μmに形成することが好ましい。平均粒子径が上記範囲外では膜密度が低くなり、キャパシタの信頼性が低下する場合がある。また、厚さが10μmより小さいと、下地になる誘電体膜や絶縁体基材が完全に覆われずに露出する部分が生じ、キャパシタの信頼性が低下する場合があり、300μmを超えると、コストの点で問題が生じる場合がある。
【0015】
更に、基材として、プリント基板等のように樹脂等の絶縁体基材上に銅等の金属による電気回路が形成されて、絶縁体基材に電気回路の一部である導体を複合化させたものを使用することもできる。このように、プリント基板などの電気回路を含む絶縁性基材上に直接キャパシタを形成する場合には、まず、導電材料を溶射法などによって基材上の必要な部分に製膜し、これを電極としてもよい。
【0016】
本発明の第1のステップは、基材となる上記電極上に溶射法によって希土類元素酸化物を溶融、噴射、堆積させて誘電体膜を形成することである。
【0017】
本発明において使用する希土類元素酸化物は、平均粒子径が5〜80μm、好ましくは10〜40μmの粉末状である。平均粒子径が5μm未満であると、粒子が十分に加速されないために誘電体膜の相対密度が90%未満となり、絶縁耐圧が低くなってしまう。80μmを超えると、プラズマ溶射のような最高温の溶射方法によっても不完全溶融状態で粒子が製膜されるため、やはり誘電体膜の相対密度が90%未満となり、絶縁耐圧が低くなってしまう。
なお、本発明において、平均粒子径は日機装製MICRTRAC FRA型粒度分布測定装置により測定した値である。
【0018】
この場合、溶射法、溶射条件としては、公知の方法、公知の条件を採用することができ、例えばプラズマ溶射法等を採用することができるが、特に基材がプリント基板等の樹脂にて形成されている場合には、その上に誘電体層を溶射法により形成するに際し、希土類酸化物はチタン化合物などと比較して融点が高いため、フレーム溶射法などの比較的低温の溶射法よりはプラズマ溶射法のような高温の溶射法を選択したほうが、粒子が完全に溶融するために膜密度が上がりやすく、絶縁耐圧特性がより良好になる。
【0019】
なお、上記溶射による誘電体膜の厚さは0.3mm以上が望ましく、所望の静電容量及び耐電圧特性によって適宜選定することができるが、通常5mm以下である。
【0020】
本発明において、上記誘電体膜は、膜厚が0.3mmのときの絶縁破壊電圧が3kV以上で、高いほど好ましいが、通常20kV以下であり、その膜厚での単位面積あたりの静電容量が0.3μF/m2以上で、この場合も高いほどよいが、通常10μF/m2以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の第2のステップは、希土類元素酸化物からなる誘電体膜上に上記電極に対する対向電極として導電材料を製膜することである。
【0022】
対向電極の形成方法としては、同じく溶射法を用いることが好ましい。溶射法により形成された誘電体被膜の最表面は比較的荒れて疎な状態にあるが、その上から導電材料を溶射することによって、押し固め効果により誘電体層の界面部分も密度の高い状態にすることができ、絶縁耐圧特性がより良好になる。導電ペーストやメッキなどの方法では、誘電体層と電極層との間に微細な空孔ができやすく、高電圧下で使用すると空孔内で放電現象が起きるおそれがある。
【0023】
なお、溶射法による対向電極の作製法としては、上述した一方の電極を溶射で作製する場合と同様に操作することができ、その膜厚も10〜300μm、特に50〜200μmとすることが好ましい。
【0024】
更に、必要であれば、本発明の第3のステップとして、キャパシタの表面を絶縁材料で覆うこともできる。絶縁材料としては、エポキシ樹脂などの有機絶縁材料でもよいし、Al23や希土類元素酸化物のような無機絶縁材料でもよい。これら絶縁材料によるキャパシタ表面のコーティングは、溶射法により形成することもできる。
【0025】
なお、この絶縁材料によるコーティング層の厚さは、放電防止やキャパシタの保護ができればよく、10〜300μm程度が適当である。
上記のようにして得られた、互いに対向する一対の電極を常法により接続することにより、キャパシタを作製することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0027】
〔実施例1〕
図1の工程図に示すように、電極基材として真鍮製の円筒管1を使用し、その外表面に誘電体として酸化イットリウム粉を溶射し、0.3mm厚の誘電体層2を形成した。次に、端部をマスキング3した上で誘電体層の外表面に真鍮粉を溶射し、0.1mm厚の対向電極層4を形成し、その後、マスク3を除去した。完成したキャパシタの電気的特性を測定した結果、静電容量63.8pF,絶縁破壊電圧4.8kVであった。単位面積あたりの静電容量は0.38μF/m2であり、薄型で高耐圧のキャパシタが得られた。
【0028】
〔実施例2〕
誘電体として酸化エルビウムを用いた以外は実施例1と同様にしてキャパシタを形成した。このキャパシタの電気的特性は、静電容量81.6pF,絶縁破壊電圧5.7kVであった。単位面積あたりの静電容量は0.49μF/m2であり、薄型で高耐圧のキャパシタが得られた。
【0029】
〔実施例3〕
図2の工程図に示すように、電極基材としてアルミニウム製の円筒ケース5を使用し、その外表面に酸化イットリウム粉を溶射し、0.3mm厚の誘電体層6を形成した。次に、端部をマスキング7した上で誘電体層6の外表面にアルミニウム粉を溶射し、0.1mm厚の対向電極層8を形成し、その後、マスク7を除去した。完成したキャパシタの電気的特性を測定した結果、静電容量57.5pF,絶縁破壊電圧4.4kVであった。単位面積あたりの静電容量は0.39μF/m2であり、薄型で高耐圧のキャパシタが得られた。
【0030】
〔実施例4〕
図3の工程図に示すように、基材として銅張りエポキシ基板9を使用した[図3(a)]。なお、10は銅回路、11は導電ピンを示す。この基材9の一部をマスキング12した[図3(b)]上で表面に真鍮粉を溶射し、0.1mm厚の基材電極層13を形成した[図3(c)]。次に、上記マスク12の一部を除去すると共に、別途一部のマスキング14を施し[図3(d)]、基材電極層13の表面に酸化イットリウム粉を溶射し、0.3mm厚の誘電体層15を形成した[図3(e)]。次いで、一部のマスクを除去した[図3(f)]上で誘電体層15の外表面に真鍮粉を溶射し、0.1mm厚の対向電極層16を形成した[図3(g)]。更に、マスクを全て除去した[図3(h)]上で、全体に酸化イットリウム粉を溶射し、0.2mm厚の絶縁体層17を形成した[図3(i)]。形成されたキャパシタの電気的特性を測定した結果、静電容量47.7pF,絶縁破壊電圧5.1kVであった。単位面積あたりの静電容量は0.48μF/m2であり、薄型で高耐圧のキャパシタがプリント基板上に得られた。
【0031】
〔比較例1〕
誘電体が酸化アルミニウムであること以外は実施例1と同様にしてキャパシタを形成した。このキャパシタの電気的特性は、静電容量43.2pF,絶縁破壊電圧2.4kVであった。単位面積あたりの静電容量は0.26μF/m2であり、静電容量,耐電圧特性の劣るキャパシタが得られた。
【0032】
〔比較例2〕
誘電体がチタン酸バリウムであること以外は実施例1と同様にしてキャパシタを形成した。このキャパシタの電気的特性は、1470pF,絶縁破壊電圧0.8kVであった。単位面積あたりの静電容量は8.8μF/m2であり、静電容量は高いものの、耐電圧特性の劣るキャパシタが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1のキャパシタを得る工程図を示し、(a)は、実施例1の真鍮製円筒管の断面図、(b)は、実施例1の誘電体溶射後の断面図、(c)は、実施例1のマスク貼り付け後の断面図、(d)は、実施例1の導電材溶射後の断面図、(e)は、実施例1のマスク除去後の断面図である。
【図2】実施例3のキャパシタを得る工程図を示し、(a)は、実施例3のアルミニウム製円筒ケースの断面図、(b)は、実施例3の誘電体溶射後の断面図、(c)は、実施例3のマスク貼り付け後の断面図、(d)は、実施例3の導電材溶射後の断面図、(e)は、実施例3のマスク除去後の断面図である。
【図3】実施例4のキャパシタを得る工程図を示し、(a)は、実施例4の銅張りエポキシ基板の断面図、(b)は、実施例4のマスク貼り付け後の断面図、(c)は、実施例4の導電材溶射後の断面図、(d)は、実施例4の一部マスク除去、一部貼り付け後の断面図、(e)は、実施例4の誘電体溶射後の断面図、(f)は、実施例4の一部マスク除去後の断面図、(g)は、実施例4の導電材溶射後の断面図、(h)は、実施例4のマスク除去後の断面図、(i)は、実施例4の絶縁体溶射後の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 真鍮製円筒管
2,6,15,17 誘電体層
3,7,12,14 マスク
4,8,13,16 電極層
5 アルミニウム製円筒ケース
9 銅張りエポキシ基板
10 銅回路
11 導電ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層が、溶射法によって形成された希土類元素酸化物で構成され、かつ該誘導体層を介して互いに対向する一対の電極を具備したことを特徴とするキャパシタ。
【請求項2】
電極の一方又は双方が、溶射法によって形成された導電材料で構成されることを特徴とする請求項1記載のキャパシタ。
【請求項3】
誘電体層の膜厚が0.3mmのときの絶縁破壊電圧が3kV以上であり、その膜厚での単位面積あたりの静電容量が0.3μF/m2以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のキャパシタ。
【請求項4】
電極が、絶縁体基材上に溶射法によって形成された構造を有する請求項1,2又は3記載のキャパシタ。
【請求項5】
絶縁体基材が、ガラス、樹脂又はセラミックスからなることを特徴とする請求項4記載のキャパシタ。
【請求項6】
絶縁体基材が、電気回路の一部である導体を複合化させた構造となっており、その導体と溶射による電極とが電気的に接合されていることを特徴とする請求項4又は5記載のキャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−21895(P2008−21895A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193653(P2006−193653)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】