説明

キャビテーション再現装置およびキャビテーション再現方法

【課題】 冬季などにおいても容易に、かつ簡易な構造でキャビテーションを再現する。
【解決手段】 貯水タンク2内の水Wの温度をヒータ3で上昇させ、ポンプ4によって貯水タンク2内の水Wを吸い出し、圧力調整弁51でポンプ4の吸込口側の圧力を下げてキャビテーションを発生させる。これにより、気温が低い冬季などにおいても、水温が高く水Wの飽和蒸気圧が高いため、ポンプ4の吸込口側の圧力を大きく下げなくてもキャビテーションを発生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、キャビテーション(空洞現象)を実験的に再現するキャビテーション再現装置およびキャビテーション再現方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャビテーションは、液体の流れの中で圧力差により短時間に気泡の発生と消滅が起きる物理現象である。このようなキャビテーションを実験的に再現して体感させる装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この装置は、ポンプの吸込口側の圧力(入口圧力)を飽和蒸気圧以下に下げることにより、吸込口側の透明パイプ内などにキャビテーションを発生させ、外から気泡の発生などを観察できるようにしたものである。
【特許文献1】実用新案登録第3070329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、飽和蒸気圧は温度によって異なり、水温が高いと飽和蒸気圧は高く、水温が低いと飽和蒸気圧は低くなる。例えば、水温が30℃では飽和蒸気圧が31.8mmHgであるのに対して、水温が10℃では飽和蒸気圧が9.20mmHgとなる。このため、水温が低くなる冬季に従来の装置によってキャビテーションを再現させる場合、飽和蒸気圧が低いためにポンプの吸込口側の圧力を飽和蒸気圧以下に下げることが困難な場合がある。また、ポンプの吸込口側の圧力を大きく下げると、負圧が大きくなり、透明パイプなどをこの負圧に耐えられる構造にしなければならならず、設備費がかさむことになる。
【0004】
そこでこの発明は、冬季などにおいても容易に、かつ簡易な構造でキャビテーションを再現することができるキャビテーション再現装置およびキャビテーション再現方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、液体を溜めるタンクと、前記タンク内の液体を吸い出すポンプと、前記ポンプの吸込口側の圧力を調整する圧力調整手段と、前記タンク内の液体の温度を調整する温度調整手段と、を備えることを特徴とするキャビテーション再現装置である。
【0006】
この発明によれば、温度調整手段によってタンク内の液体の温度を所定・所望の温度に調整した状態で、ポンプによってタンク内の液体を吸い出し、ポンプの吸込口側の圧力を圧力調整手段で調整することで、キャビテーションが発生する。
【0007】
請求項2に記載の発明は、タンク内の液体の温度を調整し、ポンプによって前記タンク内の液体を吸い出し、前記ポンプの吸込口側の圧力を調整してキャビテーションを発生させる、ことを特徴とするキャビテーション再現方法である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1および2に記載の発明によれば、気温が低くなる冬季などに、タンク内の液体の温度を加熱調整することで飽和蒸気圧が上昇するため、ポンプの吸込口側の圧力を大きく下げなくてもキャビテーションを発生させることができる。しかも、タンク内の液体の温度を加熱調整するだけでよいため、構造が簡易で設備費を抑えることができる。また、タンク内の液体の温度変化によるキャビテーションを再現することができる。すなわち、従来は、ポンプの吸込口側の圧力を飽和蒸気圧以下に下げることのみによって、キャビテーションを再現させていた。これに対してこの発明によれば、液体の温度によって飽和蒸気圧が変動するため、液体の温度変化に伴って発生するキャビテーションを再現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0010】
図1は、この発明の実施の形態に係るキャビテーション再現装置1を示す概略構成図である。このキャビテーション再現装置1は、キャビテーション(ポンプキャビテーション)を実験的に再現する装置であり、貯水タンク(タンク)2、ヒータ(温度調整手段)3、ポンプ4などを備えている。
【0011】
貯水タンク2は、水(液体)Wを溜めるタンクで、貯水タンク2内にはヒータ3と水温計31とが配設されている。ヒータ3は、貯水タンク2内の水Wを加熱する加熱器で、水温計31は水Wの温度を常時計測する温度計で、このヒータ3と水温計31は、制御盤32に接続されている。制御盤32は、温度を設定、入力する入力部を備え、貯水タンク2内の水Wの温度が、この入力部で設定された温度になるように、水温計31からの計測結果に基づいてヒータ3を稼働する。すなわち、水温が設定温度よりも低い場合には、ヒータ3を稼動して水Wを加熱し、水温を設定温度に調整する。一方、水温が設定温度以上の場合には、ヒータ3を稼動しない。
【0012】
このようにこの実施の形態では、水Wを加熱することで水温を所定・所望の温度以上に調整しているが、これは後述するように、キャビテーションの再現を容易にすることを主たる目的とするからである。これに対して、常に一定の水温(例えば25℃)でキャビテーションの再現を行いたいなどの場合には、ヒータ3の他に冷却器などを配設して、水Wを加熱および冷却するようにしてもよい。
【0013】
貯水タンク2は、第1の配管21を介してポンプ4の吸込口側と接続されている。ポンプ4は、モータMを動力として貯水タンク2内の水Wを吸い出すポンプで、第1の配管21には圧力調整弁(圧力調整手段)51が配設され、さらに、ポンプ4の吸込口側には、観察用パイプ41が配設されている。圧力調整弁51は、ポンプ4の吸込口側の圧力を調整するバルブであり、後述するようにこの圧力調整弁51を絞ることで、ポンプ4の吸込口側の圧力を下げるものである。観察用パイプ41は、透明または半透明のアクリル製で、図2に示すように、ポンプ4の吸込口側(入口側)も透明または半透明のアクリルカバー4aでケーシングされている。そして、観察用パイプ41とアクリルカバー4aとが接続されている。
【0014】
ポンプ4の吐出口側には、第2の配管22が接続され、この第2の配管22の他端部は貯水タンク2に接続されている。これにより、ポンプ4から吐き出された水Wが第2の配管22を経由して貯水タンク2に還流されるようになっている。また、第2の配管22には出口弁52が配設され、ポンプ4の吸込口側および吐出口側にはそれぞれ、第1の圧力計61および第2の圧力計62が配設されている。
【0015】
次に、このような構成のキャビテーション再現装置1の作用および、このキャビテーション再現装置1によるキャビテーション再現方法について説明する。
【0016】
まず、貯水タンク2内の水Wの温度を所定の温度に調整する。すなわち、上記のように、制御盤32の入力部で設定温度を入力する。ここで、季節などによる気温の変化に係らず、円滑、容易にキャビテーションを発生させることができるような温度、つまり水Wの飽和蒸気圧が高くなるような温度に設定する。この実施の形態では、例えば30℃に設定する。これにより、気温が低く貯水タンク2内の水温が低い場合であっても、上記のようにしてヒータ3によって水Wが加熱され、水温が30℃に維持される。
【0017】
この状態で、圧力調整弁51を「開」、出口弁52を「閉」とする。次に、ポンプ4を起動して貯水タンク2内の水Wを吸い出し、出口弁52を徐々に開き、ポンプ4の吐出口側の圧力(第2の圧力計62による計測結果)を所定の圧力に調整する。この状態で、観察用パイプ41やアクリルカバー4aを見て、ポンプ4の吸込口側に気泡が発生しておらず、かつポンプ4が正常に稼働していることを確認する。
【0018】
次に、圧力調整弁51を徐々に絞ってポンプ4の吸込口側の圧力を下げ、キャビテーションを発生させる。このとき、ポンプ4の吸込口側の圧力(第1の圧力計61による計測結果)が所定の圧力以下にならないように、圧力調整弁51を絞る。そして、キャビテーションの発生状況を確認する。すなわち、ポンプ4や第1の配管21に振動や異常音が発生しているか、圧力計61、62にハンチング(針が激しく振れる現象)が発生しているか、観察用パイプ41やアクリルカバー4aを見てポンプ4の吸込口側に気泡が発生しているか、を確認する。このようにしてキャビテーションの発生状況を確認した後に、圧力調整弁51を全開、出口弁52を全閉にし、ポンプ4を停止するものである。ここで、これらの操作は、手動によって行ってもよいし、プログラムによって自動制御してもよい。
【0019】
以上のように、このキャビテーション再現装置1およびキャビテーション再現方法によれば、気温が低くなる冬季などにおいても、貯水タンク2内の水Wの温度が常に30℃で、飽和蒸気圧が高く維持されている。このため、ポンプ4の吸込口側の圧力を大きく下げなくても容易にキャビテーションを発生させることができる。この結果、観察用パイプ41やアクリルカバー4aなどを大きな負圧に耐えられる構造にする必要がない。しかも、貯水タンク2内の水Wを加熱するだけでよいため、構造が簡単で設備費を抑えることができる。
【0020】
ところで、従来は、ポンプの吸込口側の圧力を飽和蒸気圧以下に下げることのみによって、キャビテーションを再現させていたが、この実施の形態によれば、貯水タンク2内の水Wの温度変化によるキャビテーションを再現することができる。例えば、ポンプ4の吸込口側の圧力を一定とし、貯水タンク2内の水Wの温度を徐々に上昇させることで、水温の上昇に伴って飽和蒸気圧が上昇することによるキャビテーションの発生を再現することができる。このように、この実施の形態によれば、圧力と温度の両要因によるキャビテーションの発生を再現、体験することができる。
【0021】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、キャビテーション再現装置1を単一現象の再現装置としているが、複数の現象を再現する装置において、キャビテーションを再現させる機構に上記のキャビテーション再現装置1の機構を適用してもよい。すなわち、貯水タンクやポンプ、制御装置などを共用化し、キャビテーションやウォーターハンマ、仕切弁逆流などの複数の現象を再現させる装置において、キャビテーションを再現させる際に、貯水タンク内の水を加熱して飽和蒸気圧を上昇させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施の形態に係るキャビテーション再現装置を示す概略構成図である。
【図2】図1のキャビテーション再現装置のポンプと観察用パイプの接続状態を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 キャビテーション再現装置
2 貯水タンク(タンク)
21 第1の配管
22 第2の配管
3 ヒータ(温度調整手段)
31 水温計
32 制御盤
4 ポンプ
4a アクリルカバー
41 観察用パイプ
51 圧力調整弁(圧力調整手段)
52 出口弁
61 第1の圧力計
62 第2の圧力計
W 水(液体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を溜めるタンクと、前記タンク内の液体を吸い出すポンプと、前記ポンプの吸込口側の圧力を調整する圧力調整手段と、前記タンク内の液体の温度を調整する温度調整手段と、を備えることを特徴とするキャビテーション再現装置。
【請求項2】
タンク内の液体の温度を調整し、ポンプによって前記タンク内の液体を吸い出し、前記ポンプの吸込口側の圧力を調整してキャビテーションを発生させる、ことを特徴とするキャビテーション再現方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−134383(P2010−134383A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312638(P2008−312638)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】