説明

キャビテーション安定器

【課題】 液中噴射流を用いる装置において配管系の影響によることなく常に安定したキャビテーションの発生を可能とするキャビテーション安定器の提供。
【解決手段】 液中噴射ノズルと、該ノズルへ高圧液体を供給する配管先端との間に装着されるキャビテーション安定器であって、前記配管先端から供給される高圧液体を受け入れ、配管の開口に対して予め定められた絞り比で縮径した流路断面積の筒状ストレート通路を入口側に有すると共に、この筒状ストレート通路の出口に直線的に連通し、該筒状ストレート通路からの噴流を複数の平行な分流に分けて前記噴射ノズルの高圧液体流入口に送り込む複数の貫流通路を出口側に備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液中噴射用ノズルに装着され、ノズルからの液体噴流により発生するキャビテーションを安定させるための安定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、噴射ノズルからの高圧液体の噴射による噴流が切削等の加工装置や乳化装置、洗浄装置など様々な技術分野で利用されている。なかでも液体中に噴射する所謂水中噴流においては、本来周辺機材に対してエロージョン作用を生じるために防止すべきものとされていたキャビテーションの破砕効果を積極的に利用するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような水中噴流は、噴射水と周囲の水との間に生じる非常に大きな速度勾配によってキャビテーションを発生するものであり、このキャビテーションによる物理現象を洗浄装置などに利用するものである。
【0004】
【特許文献1】特公平4−43712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような水中噴流のキャビテーションを利用した装置では、通常は噴射ノズルまでの供給流路途中で、配管のレイアウトや装置の機能を実現するために様々な配管要素が付属することが多い。例えば、流れ方向を変更するためのエルボ配管や、段差を得るための継ぎ手や、またはこれらの要素を複雑に組み合わせたようなものが用いられることもある。とくに、流路方向を360度に亘って自由に変更できるスイベルジョイントが多くの場合用いられている。
【0006】
これらのような配管要素が配置されて流れ方向が変更される場所では、その部分で発生する流れの乱れによって配管流路内の速度分布形状が変化してしまうが、この速度分布の変化が高圧供給流路における噴射ノズルの直ぐ上流で生じる場合には、水中噴流に発生するキャビテーション自体にも大きい影響が及び、キャビテーション効果の変化により最終的に装置の性能にも変化が生じてしまう。
【0007】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、液中噴射流を用いる装置において配管系の影響によることなく常に安定したキャビテーションの発生を可能とするキャビテーション安定器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係るキャビテーション安定器は、液中噴射ノズルと、該ノズルへ高圧液体を供給する配管先端との間に装着されるキャビテーション安定器であって、前記配管先端から供給される高圧液体を受け入れ、配管の開口に対して予め定められた絞り比で縮径した流路断面積の筒状ストレート通路を入口側に有すると共に、この筒状ストレート通路の出口に直線的に連通し、該筒状ストレート通路からの噴流を複数の平行な分流に分けて前記噴射ノズルの高圧液体流入口に送り込む複数の貫流通路を出口側に備えたものである。
【0009】
また、請求項2に記載の発明に係るキャビテーション安定器は、請求項1に記載のキャビテーション安定器において、入口側の筒状ストレート通路及び出口側の各貫流通路の流路長さがそれぞれ5mm以上であることを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項3に記載の発明に係るキャビテーション安定器は、請求項1又は請求項2に記載のキャビテーション安定器において、複数の貫流通路の総流路断面積が、筒状ストレート通路の流路断面積より小さいことを特徴とするものである。
【0011】
さらに、請求項4に記載の発明に係るキャビテーション安定器は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のキャビテーション安定器において、出口側の複数の貫流通路が、キャビテーション安定器を構成する本体の出口側に形成された複数の円形貫通孔からなるものである。
【0012】
また、請求項5に記載の発明に係るキャビテーション安定器は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のキャビテーション安定器において、前記出口側の複数の貫流通路が、キャビテーション安定器を構成する本体の出口側に配された格子状部材により形成された格子空間からなるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、液中噴射ノズルと、該ノズルへ高圧液体を供給する配管先端との間に装着され、配管先端から供給される高圧液体を受け入れ、配管の開口に対して予め定められた絞り比で縮径した流路断面積の筒状ストレート通路を入口側に有すると共に、この筒状ストレート通路の出口に直線的に連通し、該筒状ストレート通路からの噴流を複数の平行な分流に分けて前記噴射ノズルの高圧液体流入口に送り込む複数の貫流通路を出口側に備えたキャビテーション安定器であり、配管の屈曲部を経て速度分布が変化した高圧流体が配管先端から供給されてきても、入口側の筒状ストレート通路と複数の貫流通路とからなる安定器の整流効果によって、高圧流体は流路内の半径方向にほぼ均一な流速分布となって噴射ノズルへ供給されるため、噴射ノズルから液中噴射される噴流において、良好にキャビテーション発生力を回復させることができ、上流の配管系によることなく常に安定したキャビテーション効果が得られるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、液中噴射ノズルと、該ノズルへ高圧液体を供給する配管先端との間に装着されるキャビテーション安定器が、入口側に配管先端から供給される高圧液体を受け入れて配管の開口に対して予め定められた絞り比で縮径した流路断面積の筒状ストレート通路を有すると共に、出口側に、この筒状ストレート通路の出口に直線的に連通して該筒状ストレート通路からの噴流を複数の平行な分流に分けて噴射ノズルの高圧液体流入口に送り込む複数の貫流通路を備えたものである。
【0015】
従って、配管先端から供給される高圧流体に、配管屈曲部で乱された流れ軸と垂直な平面での流れ(以下、2次流れと記す)成分が発生して流速分布が変化して不均一となり、その2次流れ成分が発達して大きな渦流れが形成されていても、以下のようなキャビテーション安定器の整流効果によって均一な速度分布で一定流速の高圧流体として噴射ノズルへ供給される。
【0016】
即ち、まず、該安定器の入口側から筒状ストレート通路を通過することによって、流体が流れ方向に加速されて2次流れ成分が相対的に弱められると同時に配管先端の開口より流路断面積が小さくなっている筒状ストレート通路によって外周領域の大きな周速を持つ渦流れが排除された主流のみが出口側へ送られる。さらにこの主流は、出口側で複数の貫流通路へ送られて平行な分流に分けられ、流路断面積が漸減することと外周部の境界層が遮られることから、この出口側部分が整流格子として働き、高圧流体は半径方向にほぼ均一な流速分布となって一定流速の高圧流体として噴射ノズルの流入口に供給される。
【0017】
この所謂トップハット型の流速分布を持つ高圧流体は、放物型の流速分布の場合よりも噴射ノズルの出口部で周囲流体との間の速度勾配が鋭くなり、激しいキャビテーション発生を引き起こすことができる。従って、配管側に屈曲部があっても、本発明の安定器が介在することによって、上記のような流速分布がトップハット型の半径方向に均一な高圧流体を噴射ノズルへ供給することができるため、常にキャビテーション発生力を回復させて噴射ノズルからの液中噴流に安定したキャビテーションを発生させることができる。
【0018】
なお、入口側の筒状ストレート通路から出口側の複数の貫流通路へ送られる際に高圧流体をより確実に均一な流速分布とするためには、複数の貫流通路の総流路断面積を筒状ストレート通路の流路断面積より小さくなるように設計しておくことが望ましい。
【0019】
また、本発明のキャビテーション安定器を構成する入口側の筒状ストレート通路と出口側の貫流通路は、共に、長いほどキャビテーションによるエロージョン力が高く、加工装置利用におきてはその加工性を向上させることができる。そこで、本発明においては、この筒状ストレート通路と各貫流通路の流路長をそれぞれ少なくとも5mmとするのが好ましい。さらに好ましくはそれぞれ10mm以上とする。筒状ストレート通路と各貫流通路の流路長がそれぞれ5mmより短くなると、エロージョン力を充分発揮できるキャビテーション発生力の回復が困難となる。
【0020】
このようなキャビテーション安定器において、出口側の構成は、複数の貫流通路が形成されるものであれば良い。例えば、キャビテーション安定器を構成する本体の出口側に複数の円形貫通孔を形成することによって貫流通路とすることができ、また、本体の出口側に格子状部材を配すれば該部材に形成された格子空間を貫流通路とすることができる。
【0021】
これら複数の貫流通路が設けられる出口側の安定器本体部分と筒状ストレート通路が設けられる入口側の安定器本体部分とは、可能であれば同一部材として一体に成形したものとしても、またそれぞれ別体に成形したものを連続配置して構成しても良く、実際に用いる配管系に応じてより簡便に低コストでキャビテーション安定器を得られる製造方法を適宜選択すれば良い。
【実施例】
【0022】
本発明の一実施例として、本体の出口側に円形貫通孔を形成してなる貫流通路を備えたキャビテーション安定器を噴射ノズル装着状態で図1に示す。図1(a)は側断面図、(b)は入口側から見た正面図である。
【0023】
本キャビテーション安定器1は、円柱状本体2の入口側に筒状ストレート通路3を、出口側に7つの貫流通路4を備えたものである。本実施例では、これらの貫流通路4は、同心円状に中心位置に一つとその外周上に等角度間隔で5つ配置した。これら全貫流通路4の総流路断面積が、筒状ストレート通路3の流路断面積より小さく設定されている。
【0024】
上記構成のキャビテーション安定器1を、図2に示すように、90度に屈曲したエルボー部21を備えた直角曲げ配管20の先端と噴射ノズル10との間に装着した。この配管先端の開口22の流路断面積に対して、キャビテーション安定器1の入口側筒状ストレート貫流通路3の流路断面積が小さく設定されている。
【0025】
この配管系において、キャビテーション安定器1を介して噴射ノズル10から水の水中噴射を行った際に発生するキャビテーションの効果を評価した。結果を以下の表1に示す。なおこの評価は、キャビテーション効果をアルミ板に対するエロージョン(壊食)力として、質量欠損量を測定して行った。
【0026】
即ち、アルミ板(材質:A1050)を、噴射ノズル10から一定の距離に板表面がジェット噴流軸と垂直になるように設置し、一定圧力、一定水深を保ったまま、30分間噴射を続けて、対象のアルミ板に対して壊食を発生させる。アルミ板は予め質量を測定しておき、所定時間の噴射処理後に再度質量計測を行って、処理前後の質量変化量を質量欠損量として壊食力の指標とした。
【0027】
この評価テストにおけるキャブテーション安定器1は、筒状ストレート通路3が流路断面直径9.0mmで流路長5.0mm、7つの貫流通路4の各流路断面直径2.5mmで流路長5.0mmとした。また、この際の噴射処理条件としては、噴射ノズル10出口からアルミ板表面までの距離(スタンドオフ距離)を75mmとし、噴射ノズル10のノズル径が2.5mmで噴射圧力4MPa、で行った。
【0028】
上記噴射処理と共に、比較対象として、配管系を直管のみとした場合(比較例1)、直角曲げ配管のみとした場合(比較例2)、直管に本キャビテーション安定器1を装着した場合(比較例3)を、同じ処理条件で行った。結果を以下の表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1の結果から明らかなように、比較例2の直角曲げ配管で水中噴射を行うと、配管系の影響のない噴射となる比較例1の直管のみの場合に見られた壊食力が損なわれてしまうのに対して、本実施例として、直角曲げ配管に本キャビテーション安定器1を装着した場合では、壊食力が大きく回復しており、これは、本キャビテーション安定器1によってキャビテーションの発生が安定化したためである。また、直管に本キャビテーション安定器1を装着しても、壊食力の低下は見られず、キャビテーション発生に何ら悪影響を及ぼすこともないことが明らかとなった。
【0031】
なお、比較例2の場合以外、全てアルミ板上でエロージョン痕がはっきり現れており、また、水中噴射のキャビテーションエロージョンに特有の中心部分が壊食されない、いわゆるドーナツ状のエロージョン痕となっていた。
【0032】
次に、上記直角曲げ配管に装着する安定器の入口側の筒状ストレート通路3と出口側の貫流通路4とを異なる流路長にした場合のキャビテーション効果の評価を上記と同様の評価方法で行った。このとき、比較対象として、本キャビテーション安定器1の代わりに入口側の筒状ストレート通路が形成された部分のみから構成されたものを装着した場合(比較例11,12)、出口側の7つの貫流通路が形成された部分のみから構成されたものを装着した場合(比較例13)、についても同様に評価を行った。いずれの場合も筒状ストレート通路は流路断面直径9mm、貫流通路は7つで各流路断面直径2.5mm、という設計を共通に持つものとした。結果を以下の表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2の結果から明らかなように、筒状ストレート通路3と複数の貫流通路4とが共に長いほど、壊食力の回復力が高くなっている。また、比較例13で示されるように、複数の貫通流路のみでも壊食力の回復は見られるが、この場合、流路長を非常に長く設定する必要が生じ、配管設計の点からみて実際的でなく実用に適さない。
【0035】
また、本実施例の入口側に筒状ストレート通路3を設けて出口側に複数の貫流通路4を設けた場合と逆の配置で安定器を構成した場合(比較例14)について、同じ流路長(それぞれ10mm)として同様の評価を行い比較してみた。結果は以下の表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
表3に示すように、比較例14の構成、即ち、入口側に複数の貫流通路を設けて出口側に筒状ストレート通路を設けものでは、幾らかの壊食力の回復は見られたものの、本実施例タイプのものには及ばず、キャビテーション安定器としては、入口側に筒状ストレート通路を、出口側に複数の貫流通路を配する本発明の構成が壊食力の回復としてみられるキャビテーション効果の回復に最適であることも確認できた。
【0038】
以上の実施例で示されたように、本発明によるキャビテーション安定器によれば、直角曲げ配管など、屈曲のある配管系を介した高圧液体の供給の場合でも、噴射ノズルによる水中噴射流は、キャビテーション効果が良好に回復されるものであり、配管系の影響によることなく常に安定したキャビテーションの発生を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例によるキャビテーション安定器の概略構成図であり、(a)は噴射ノズルに装着された状態における側断面図、(b)は入口側から見た正面図である。
【図2】本キャビテーション安定器を直角曲げ配管と噴射ノズルとの間に装着した状態を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1:キャビテーション安定器
2:安定器本体
3:筒状ストレート通路
4:貫流通路
10:噴射ノズル
20:直角曲げ配管
21:エルボー部
22:配管先端開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液中噴射ノズルと、該ノズルへ高圧液体を供給する配管先端との間に装着されるキャビテーション安定器であって、
前記配管先端から供給される高圧液体を受け入れ、配管の開口に対して予め定められた絞り比で縮径した流路断面積の筒状ストレート通路を入口側に有すると共に、この筒状ストレート通路の出口に直線的に連通し、該筒状ストレート通路からの噴流を複数の平行な分流に分けて前記噴射ノズルの高圧液体流入口に送り込む複数の貫流通路を出口側に備えたことを特徴とするキャビテーション安定器。
【請求項2】
入口側の筒状ストレート通路及び出口側の各貫流通路の流路長さがそれぞれ5mm以上であることを特徴とする請求項1に記載のキャビテーション安定器。
【請求項3】
複数の貫流通路の総流路断面積が、筒状ストレート通路の流路断面積より小さいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のキャビテーション安定器。
【請求項4】
出口側の複数の貫流通路が、キャビテーション安定器を構成する本体の出口側に形成された複数の円形貫通孔からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のキャビテーション安定器。
【請求項5】
前記出口側の複数の貫流通路が、キャビテーション安定器を構成する本体の出口側に配された格子状部材により形成された格子空間からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のキャビテーション安定器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−122834(P2006−122834A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316384(P2004−316384)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000132161)株式会社スギノマシン (144)
【Fターム(参考)】