説明

キャブのワイパー補助装置

【課題】ワイパーによって、雨天でない場合の乾燥状態のガラス面の塵埃などによる汚れを、ワイパーそのものを変更することなく、容易に払拭することができ、視界を確保することができる、キャブのワイパー補助装置を提供する。
【解決手段】ワイパー補助装置(34)が、ワイパー(26、32)により払拭されるガラス窓(18,20)に向け流体を噴射する複数個の噴射口(36)を有した噴射体(38)と、加圧した流体を噴射体(38)に断続自在に供給する流体供給源(40)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械などのキャブにおいて、雨天でない場合においても、ワイパーによって、窓に付着した塵埃などによる汚れを効率よく拭い取ることができ、視界を確保することができるワイパー補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械などのキャブの窓には、作業視界を確保するために、ガラス面にかかる雨滴を拭い取る装置であるワイパーが備えられている(例えば、特許文献1参照)。ワイパーは電動モーターによって駆動され、適宜に、払拭速度が切換えられ、またワイパーブレードの部分からウオッシャ液が吹き出される。
【0003】
特に建設機械のキャブのガラス窓には、雨天でない場合においても、作業現場の塵、埃、泥水などの汚れが付着する。この汚れは、作業視界を確保するために、ワイパーを作動させ拭い取られる。
【0004】
建設機械の代表例であるブルドーザ、ホイールローダは、走行しながらの作業が主体である。したがって、キャブ内の運転者からの視界を確保するために、ワイパーはキャブの複数個所、例えば前面および左右両側面に装備されている。
【特許文献1】特開平8−268238号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したとおりの形態の従来のキャブのワイパーには、次のとおりの解決すべき課題がある。
【0006】
作動不具合:
ワイパーは雨天での作動を前提にしているので、雨天でない場合に乾燥したガラス面もしくは塵埃で払拭抵抗が増したガラス面を拭き続けると、ワイパーブレードの損傷、ワイパーの作動停止などの不具合が発生するか、窓を適切に拭き取れない可能性もある。
【0007】
作動不具合対策:
ワイパーの作動不具合を防止するための、ワイパーのガラス面への押付力を減らす、電動モーターの容量を上げる、ワイパーのゴムブレードをブラシなど抵抗の少ないものに変更する、などの対策は、それぞれに、拭き取り能力の低下、電動モーターの大型化、雨天時の雨滴払拭機能の低下、などの問題がある。
【0008】
ウオッシャ液:
乾燥したガラス面にワイパーのウオッシャ液を噴射すると、ウオッシャ液は粘性が高く、また噴射量が少なく、さらに噴射にむらがあるので、塵埃はウオッシャ液によって団粒化しやすい。したがって、十分な払拭視界を得るのが難しい。
【0009】
本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、ワイパーにより、雨天でない場合の乾燥状態のガラス面の塵埃などによる汚れを、ワイパーそのものを変更することなく、容易に払拭することができ、視界を確保することができる、キャブのワイパー補助装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば上記技術的課題を解決するキャブのワイパー補助装置として、ワイパーにより払拭されるガラス窓に向けて流体を噴射する複数個の噴射口を有した噴射体と、加圧した流体を噴射体に断続自在に供給する流体供給源とを備えている、ことを特徴とするキャブのワイパー補助装置が提供される。
【0011】
好適には、流体供給源は、流体のタンクと、流体の供給を断続する断続手段と、断続手段を操作する操作手段とを備えている。噴射体は、ガラス窓の縁部に沿って延びる管体を備え、管体の内外を貫通する噴射口としての貫通穴を備え、該流体は管体内に供給される。管体に取り付けた噴射口としての噴射ノズルを備え、管体内を通し流体供給源につながる配管により該流体を噴射ノズルに供給してもよい。
【0012】
また、ワイパーにより払拭されるガラス窓を有したドアの開状態を検知する検知手段を備え、検知手段が開状態を検知しているときには、噴射体への流体供給源からの流体の供給が停止される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従って構成されたキャブのワイパー補助装置は、ワイパーにより払拭されるガラス窓に向けて流体を噴射する複数個の噴射口を有した噴射体と、加圧した流体を噴射体に断続自在に供給する流体供給源を備えている。
【0014】
したがって、雨天でない場合の乾燥状態のガラス面に付着する塵埃などによる汚れは、流体を流体供給源から噴射体に適宜に供給しガラス窓に噴射することにより、ワイパーそのものを変更することなく、ワイパーによって容易に払拭することができ、視界を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に従って構成されたキャブのワイパー補助装置について、代表的な建設機械であるブルドーザのキャブにおける好適実施形態を図示している添付図面を参照して、さらに詳細に説明する。
【0016】
図4を参照して先ずブルドーザについて説明する。全体を番号2で示すブルドーザは、左右(図2の紙面に垂直方向)に一対の履帯式の走行装置4,4を有した機体6と、機体6の前端側(図2の左端側)に油圧シリンダによって昇降動を自在に装備されたドーザ装置8と、機体6の後端側(図2の右端側)に油圧シリンダによって昇降動を自在に装備されたリッパ装置10を備えている。機体6の前部にはエンジン室12が、また後部には運転席を有したキャブ14が備えられている。
【0017】
図1を参照して説明する。キャブ14は、前後左右、そして天井それぞれの面を有した略矩形形状のキャブ本体16を備えている。下面は開放され機体6(図4)の床部の上に取り付けられている。キャブ本体16の前面(図1の左側)にはガラス窓である前窓18が左側面(図1の右側)には前窓18側にドア窓であるガラス窓20を有した左ドア22およびその後方にガラス窓である左側面窓24がそれぞれ備えられている。図1において前面および左側面の裏側になる右側面には、同様にガラス窓を有した右ドアおよび右側面窓(図示していない)が備えられている。
【0018】
前窓18は、略正方形の嵌め殺し窓に形成されている。前窓18の上側縁部のキャブ本体16に、前窓18を払拭するためのワイパー26が取り付けられている。
【0019】
左ドア22は、縦長の略長方形に形成され、ガラス窓20は略全面に嵌め殺し窓に形成されている。左ドア22は、キャブ本体16に前側(前窓18側)を開閉側にして後側(左側面窓24側)を鉛直に延びるヒンジ28により開閉自在に取り付けられている。開閉ハンドル30が前窓18側に備えられている。左ドア22のヒンジ28の下方縁部には、ガラス窓20を払拭するためのワイパー32が取り付けられている。
【0020】
キャブ14は、ワイパー補助装置34を備えている。ワイパー補助装置34は、ワイパー26,32それぞれにより払拭されるガラス窓18,20に向けて流体としての水を噴射する複数個の噴射口36を有した噴射体としての管体38と、加圧した水を管体38に断続自在に供給する流体供給源40を備えている。
【0021】
キャブ14の右側面には管体38と対称に形成された管体39を備えている。右側面の右ドアにもワイパーが備えられ(図示していない)、管体39の噴射口にも流体供給源40から加圧した水が供給される。
【0022】
流体供給源40は、エンジン室12(図4)に設置された水のタンク42と、タンク42と管体38を結ぶ配管44と、配管44の途中に設置され管体38への水の供給を断続する断続手段としての電磁開閉弁46と、電磁開閉弁46を操作する操作手段としての操作スイッチ48を備えている。操作スイッチ48はキャブ14内に設置されている。
【0023】
図1ともに図2を参照して説明する。管体38は、中空材であるパイプを、前窓18および左ドア22の間の縁部に沿って延びる鉛直部38aおよび左ドア22の上方の縁部であるキャブ本体16の天井面に沿って延びる水平部38bを有する略L字型に、曲げて形成されている。管体38はキャブ本体16から離され、両端部がキャブ本体16に固定されている。管体38は、キャブ14の乗降用またキャブ14の周縁での作業用の手摺りとして兼用される。
【0024】
管体38は、中空材の内外を貫通し軸方向に複数個形成された噴射口としての貫通穴36を備えている。複数個の貫通穴36はそれぞれ、水をガラス面18、20に噴射する方向に向けられている。
【0025】
タンク42には吐出ポンプ42aが備えられている。吐出ポンプ42aは、後に述べる操作手段の操作スイッチ48のオンオフに連動して作動がオンオフされる。
【0026】
電磁開閉弁46は、通電励磁されると配管44を連通させる「開状態」になり、通電されないときは「閉状態」になる。
【0027】
ワイパー32により払拭されるガラス窓20を有した左ドア22の部分には「開状態」を検知する検知手段としてのリミットスイッチ50を備えている。リミットスイッチ50は左ドア22の「閉状態」においてオンになり「開状態」においてオフになり、電源52と操作スイッチ48の間の通電をオンオフする。
【0028】
したがって、検知手段としてのリミットスイッチ50が左ドア22の「開状態」を検知しているときには、管体38への流体供給源40からの水の供給は停止される。
【0029】
右側面の管体39には、電磁開閉弁44を通した配管44が分岐されて接続されている。右ドアには左ドア22と同様に「開状態」の検知手段であるリミットスイッチ50が備えられている。
【0030】
上述したとおりのキャブのワイパー補助装置34の作用効果について説明する。
【0031】
ワイパー補助装置34は、ワイパー26、32により払拭されるガラス窓18、20に向けて流体としての水を噴射する複数個の貫通穴(噴射口)36を有した管体(噴射体)38と、加圧した水を管体38に断続自在に供給する流体供給源40を備えている。
【0032】
したがって、雨天でない場合の乾燥状態のガラス面に付着する塵埃などによる汚れは、水を、流体供給源40から管体38に適宜に供給し、ガラス窓18、20に噴射することにより、ワイパー26、32そのものを変更することなく、ワイパー26、32によって容易に払拭することができ、視界を確保することができる。
【0033】
流体供給源は40、水のタンク42と、水の供給を断続する電磁開閉弁46と、この電磁開閉弁46を操作する操作スイッチ48を備えている。したがって、タンク42に必要とする十分の量の水を収容し、操作スイッチ48を操作することにより、必要なときに任意に水を噴射させることができる。
【0034】
ガラス窓の縁部に沿って延びる管体38によって噴射体が形成されている。したがって、管体38は、キャブ14の乗降用またキャブ14の周縁での作業用の手摺りと兼用することができ、ワイパー補助装置34を安価に提供できる。
【0035】
噴射体としての管体38は中空材によって形成され、噴射口は中空材の内外を貫通する貫通穴36によって形成されている。したがって、噴射体とともに噴射口を容易に安価に用意できる。
【0036】
ワイパー32により払拭されるガラス窓20を有したドア22の「開状態」を検知する検知手段としてのリミットスイッチ50を備え、「開状態」が検知されているときには、噴射体である管体38への流体供給源40からの水の供給が停止されるので、キャブ14内の作業者が不用意にドア22を開けた場合に、室内に水が噴射され侵入するのが防止される。
【0037】
以上、本発明を実施例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、例えば下記のように、本発明の範囲内においてさまざまな変形あるいは修正ができるものである。
【0038】
本発明の実施の形態においては、噴射口は管体38に備えた貫通穴36によって形成されているが、より高圧の噴射を行えるように、図3に示すように、噴射口としての噴射ノズル37を管体38に取り付け、管体38内を通し流体供給源40につながるホースなどによる配管41により流体を噴射ノズル37に供給してもよい。
【0039】
本発明の実施の形態においては、噴射体としての管体38は鉛直部38aおよび水平部38bを有した略L字型に形成されているが、キャブの形状、予想されるガラス窓の汚れ程度などによって、鉛直部、水平部は別体に形成してもよいし、いずれか一方だけにしてもよい。
【0040】
本発明の実施の形態においては、流体として水が用いられているが、流体は水に限定されるものではなく、キャブ14を取り巻く周囲環境などによって、例えば化学物質など水が使えない場合には、流体として圧縮空気を用いてもよい。
【0041】
本発明の実施の形態においては、キャブ14はブルドーザ2に装備され、ワイパー補助装置34は、キャブ14の前窓および左右のドアのガラス窓に適用されているが、キャブはブルドーザ用に限定されるものではない。また、ワイパー補助装置34が適用されるガラス窓は3個に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に従って構成されたワイパー補助装置を備えたキャブの斜視図。
【図2】図1のA−A矢印方向に見た拡大断面図。
【図3】図1のA−A矢印方向に見て他の実施形態を示した拡大断面図。
【図4】図1に示すキャブを備えたブルドーザの側面図。
【符号の説明】
【0043】
2:ブルドーザ
14:キャブ
18:前窓(ガラス窓)
20:ドア窓(ガラス窓)
26:ワイパー
32:ワイパー
34:ワイパー補助装置
36:貫通穴(噴射口)
37:噴射ノズル(噴射口)
38:管体(噴射体)
40:流体供給源
42:タンク
46:電磁開閉弁(断続手段)
48:操作スイッチ(操作手段)
50:リミットスイッチ(検知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイパーにより払拭されるガラス窓に向けて流体を噴射する複数個の噴射口を有した噴射体と、
加圧した流体を噴射体に断続自在に供給する流体供給源と
を備えている、ことを特徴とするキャブのワイパー補助装置。
【請求項2】
流体供給源が、
流体のタンクと、
流体の供給を断続する断続手段と、
断続手段を操作する操作手段と
を備えている、ことを特徴とする請求項1記載のキャブのワイパー補助装置。
【請求項3】
噴射体が、
ガラス窓の縁部に沿って延びる管体を備えている、
ことを特徴とする請求項1または2記載のキャブのワイパー補助装置。
【請求項4】
管体の内外を貫通する噴射口としての貫通穴を備え、該流体が管体内に供給される、
ことを特徴とする請求項3記載のキャブのワイパー補助装置。
【請求項5】
管体に取り付けた噴射口としての噴射ノズルを備え、該流体が管体内を通し流体供給源につながる配管により噴射ノズルに供給される、
ことを特徴とする請求項3記載のキャブのワイパー補助装置。
【請求項6】
ワイパーにより払拭されるガラス窓を有したドアの開状態を検知する検知手段を備え、
検知手段が開状態を検知しているときには、噴射体への流体供給源からの流体の供給が停止される
ことを特徴とする、請求項1から5までのいずれかに記載のキャブのワイパー補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−276675(P2007−276675A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107035(P2006−107035)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(000190297)新キャタピラー三菱株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】