説明

キャリアー塗布被覆層

本発明は、基材表面上に接着性のリンを含む酸をベースとする被覆層を提供する方法を提供するものであり、その方法はリン酸、有機リン酸、ホスホン酸、およびそれらの混合物からなる基から選ばれる酸を含む被覆組成物を運搬するキャリアーと、前記酸化物表面とを、前記組成物中の酸分子の少なくとも一部分が酸化物表面と結合するのに十分な温度、十分な時間で、接触させることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2003年6月23日に出願された米国仮出願第60/480,670号に部分的に基づき、その優先権を主張するものであり、また、2002年6月24日に出願された米国出願第10/179,743号の一部継続出願であるが、その出願は2001年6月22日に出願された米国仮出願第60.300,144号に基づきその優先権を主張し、また、2000年9月22日に出願された米国出願第09/668,080号の一部継続出願であり、その出願は、同様に、1999年9月22日に出願された米国仮特許出願第60/155,398号の優先権を主張し、また、1997年2月4日に出願された米国出願第08/794,833号の一部継続出願および分割出願であり、その出願は、同様に1996年10月17日に出願された米国仮特許出願第60/028,949号および1997年1月13日に出願された米国仮特許出願第60/035,040号の優先権を主張するものである。
【0002】
本出願は、また、2003年4月1日に出願された米国出願第10/405,557号の一部継続出願でもあり、その出願は、2002年4月1日にともに出願された米国仮出願第60/369,236号および第60/369,237号に部分的に基づき、その優先権を主張するものであり、また、2002年6月24日に出願された米国出願第10/179,743号の一部継続出願であり、その出願は、2001年6月22日に出願された米国仮出願第60/300,144号の優先権を主張するものであり、その出願は同様に2000年9月22日に出願された米国出願第09/668,080号の一部継続出願でもあり、その出願は同様に1999年9月22日に出願された米国仮特許出願第60/155,398号の優先権を主張するものであり、また1997年2月4日に出願された、米国出願第08/794,833号の一部継続出願および分割出願でもあり、その出願は、同様に1996年10月17日に出願された米国仮特許出願第60/028,949号および1997年1月13日に出願された米国仮特許出願第60/035,040号の優先権を主張するものである。
【0003】
上述の先の出願のすべての開示は、本明細書に参照として引用される。
【0004】
発明の分野
本出願は、表面の被覆層として、また酸化物表面およびさらなる被覆層との間の接合部として、接着性の、自己集合した、酸化物表面上のリンを含む酸をベースとする被覆の提供に関するものである。被覆する接着性層の結合を改良する接合部、およびパターン化された骨伝導層の提供における接合部の提供とともに、以下に本願は説明されるが、本発明の方法、およびその結果得られる接着性の、リンを含む酸をベースとする被覆層は、非常に幅広い適用性があると認識している。
【背景技術】
【0005】
背景
絶縁性、金属性、導電性、または電子的特性を有する基材の表面に結合する有機層の提供は、無機材料と有機または生物学的材料との間の接合部として用いられる装置の構築に絶対不可欠である。生物学的/無機材料の接合部を使用する接合部の例としては、例えば骨の内部成長を促進する整形外科用インプラント、化学および生物学的種を検出するための生体活性層を利用した移植可能なバイオセンサーなど、インビボインプラント用の材料があげられる。そのようなバイオセンサー装置において、生物学的に活性な層(本明細書中、生体活性層とも称する)は、検出された種の量あるいは濃度に比例した電子的または視覚的なシグナルを発生させる半導体層に結合している。有機/無機材料接合部を利用している装置として、例えば、有機ベースのトランジスター(OT’s)および発光ダイオード(OLED’s)がある。
【0006】
有機または生体活性層と無機基材との間の接合部の機械的、化学的、および電子的特性は、多くの要素に依存しており、その要素は限定されないが、(a)層を含む分子部分の機構、例えば、基材表面への配列および接着;並びに(b)基材表面と有機層との間の結合の面積密度があげられる。加えて、接合部は、使用の条件下で化学的に安定であり、また強固でなければならず、さもなければ使用中に劣化するであろう。
【0007】
それぞれは全体として本明細書中に参照により引用されている、同時係属出願である、2003年11月4日に出願された米国出願第10/701,591号、2003年4月1日に出願された米国出願第10/405,557号、および2002年6月24日に出願された米国出願第10/179,743号に記載されているように、また、Kelleyらに対する米国特許第6,433,359号に記載されているように、リンを含む酸が、酸化物表面に接着する層を提供するために使用されうることが知られている。一般的に、このタイプの酸を利用する層を提供するためのアプローチは、酸を含む被覆組成物上で回転し、塗布し、または酸を含む被覆組成物を浸す(本明細書中、「ディップコーティング」とも称する)ことによって、直接的に表面を処理するものである。これらの方法では、一般的に、不完全に組織化された被覆となり、または、ディスクより大きい基材、または被覆があるパターンとして塗布されることを必要とする基材に対して、簡単には適用できない装置と技術を必要とする。
【0008】
したがって、本発明者らは、とりわけ、被覆をあるパターンで塗布する時に、組織化が向上した、および/または接着強度が向上した、および/または広い領域にわたって表面に塗布されうる、被覆の提供の必要性を認識してきた。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明はこれらの要求を満たすものである。発明者らは、驚くべきことに、接着性で、リンベースの被覆層の酸化物表面に対する用途において、リンを含む酸を有するキャリアーが使用されうることを見出した。したがって、本発明の一つの態様は、酸化物表面に結合した、接着性の、リンを含む酸をベースとする被覆層を形成する方法の提供であり、前記方法は、リン酸、有機リン酸、およびホスホン酸、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる酸を含む被覆組成物を運搬するキャリアーに、前記酸化物表面を接触させるものであり、前記接触は、前記酸化物表面に前記酸の少なくとも一部分が結合するために十分な温度および十分な時間で実行されるものである。
【0010】
好ましい実施形態においては、キャリアーは、以下を含むプロセスによって酸化物表面へ被覆組成物を運搬する;(a)溶媒中に前記酸の1または2以上を含む溶液に前記キャリアーを接触させ;(b)前記接触から前記キャリアーを除去し;そして(c)前記キャリアーの少なくとも一部分を、前記酸化物表面と接触するように置く。好ましい実施形態においては、キャリアーは、あるパターンの形態で、酸化物表面へ被覆組成物を運搬し、その結果、実質的に同様のパターンで、前記酸化物表面上にリンを含む酸をベースとする被覆層を提供する。
【0011】
本発明の他の態様においては、被覆溶液は、カルボン酸、ホスホン酸、水酸基、アミノ、およびチオールからなる群から各々の存在に対して独立して選ばれるオメガ炭素置換基を有する、少なくとも一つの酸を含み、またリンを含む酸をベースとする被覆層を提供する方法はさらに以下のことを含む:(a)前記被覆層の少なくとも一部分を、前記オメガ置換基と結合形成反応しうる試薬と接触させ;そして(b)前記接触している試薬の少なくとも一部分と前記オメガ炭素置換基の少なくとも一部分との間で結合を形成する。好ましい実施形態においては、前記オメガ炭素置換基と結合形成反応しうる試薬が、印刷媒体中の被覆層と接触し、より好ましくは、印刷技術を使用して被覆層にパターン化される。
【0012】
好ましい実施形態においては、被覆組成物中の酸が、リン酸およびホスホン酸から選ばれる。好ましい実施形態においては、被覆組成物が、以下からなる群から各々の存在に対して独立して選ばれる有機リガンドを有するホスホン酸を含む:(a)芳香族部分が、任意にそれらのいずれかの炭素で1または2以上の官能基群で置換されていてもよい、約2から約40の炭素原子を有する、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素部分;(b)いずれかの炭素が1または2以上の官能基で置換されていてもよいオリゴアレーンおよびポリアレーン部分;(c)置換されたおよび非置換のTCNQおよびTTF誘導体。
【0013】
好ましい実施形態においては、キャリアーは、親水性材料を含む。好ましい実施形態においては、キャリアーは、多孔性または網状の材料であり、より好ましくは、織布であり、さらにより好ましくは、綿繊維を含む。好ましい実施形態においては、酸化物表面は、金属、セラミック、半導体、および絶縁体の上の自然酸化物からなる群から選ばれ、より好ましくは、酸化物表面は以下から選ばれる:(a)チタン、鋼、鉄、シリコン、アルミニウム、およびこれらの各々の合金、セラミック、および半導体の上の自然酸化物;(b)基材上に蒸着された絶縁性酸化物、より好ましくは電子装置中の誘電体層;(c)基材上に蒸着された導電性酸化物、より好ましくは、ガラス上のインジウムスズ酸化物。
【0014】
発明の他の態様は、酸化物表面に塗布される接着性被覆と酸化物表面との間の接着を改善することをもたらす方法であって、酸化物層と接着性被覆との間の接合部の少なくとも一部分においてリンを含む酸をベースとする層を提供するものである。好ましくは、前記接触した酸化物表面の少なくとも一部分上に、接着性の、リンを含む酸をベースとする被覆層を形成するために十分な温度環境下で、酸化物表面上に少なくとも一つのリンを含む酸を運搬するキャリアーを酸化物表面と接触させることによって、酸化物表面上にリンを含む酸をベースとする層を形成させるものである。好ましい実施形態においては、そこから前記被覆層が形成されるリンを含む酸の種類は、オメガ官能基を有するリン酸種であり、塗布される接着層は、反応性の重合された有機種から形成される高分子層を含み、その高分子層は、前記リンを含む酸をベースとする接着層のオメガ官能基の少なくとも一部分と反応し、その結果、前記接着性高分子層の少なくも一部分に前記被覆層の少なくも一部分が結合する。
【0015】
本発明の他の態様は、上述の被覆方法のいずれかを使用して、酸化物表面上に接着性のリンを含む酸をベースとする被覆層を提供することである。
【0016】
詳細な説明
本発明の方法は、金属酸化物表面に結合した、接着性の、リンを含む酸をベースとする被覆層を提供するものである。これらの被覆層は、酸化物表面の特性を変化させるために、前記表面を被覆することに利用される。例えば、表面の化学的特性、例えば、親水性または疎水性物質に対する表面の親和性は、この方法で変えられうる。加えて、電気的特性、例えば、電化担体注入プロセスを実行するための表面能力は、この方法で変えられる可能性がある。本発明の方法および被覆層は、酸化物表面上に化学的に被覆された被覆層を提供することに広く利用される一方、本発明は、リンを含む酸をベースとする被覆の提供においてもっとも有用であり、そのリンを含む酸をベースとする被覆は、酸化物表面とその上にさらに接着された上層の間の接合部として作用し、それによって、前記上層の前記酸化物表面への接着を向上させ、または促進させることが期待される。そのような使用の例としては、金属酸化物表面への接着剤の接着の向上、例えば、チタン合金の自然酸化物表面へ結合するエポキシ接着層、および生体骨組織中の医学的インプラントにおける骨接着層の提供があげられる。本発明の方法は、酸化物表面へのリンを含む酸をベースとする接着性被覆層の提供の広い可能性を有するが、本発明の方法は、金属、半導体、および絶縁体の酸化物表面上の接着性のリンを含む酸をベースとする被覆層の提供において、最も有用であろうことが期待される。酸化物表面の例としては、限定されるものではないが、例えばスパッタにより表面に塗布される酸化物と同様に、自然発生的に形成する酸化物(自然酸化物)表面があげられる。特に、この方法は、もともとは低い活性の酸化物、例えばチタン合金の自然酸化物表面上への、リンをベースとする被覆層の提供において、多大な有用性を見出すことが期待される。最終的には、本発明の方法および接着層は、幅広い範囲の大きさの酸化物表面上に接着性のリンを含む酸をベースとする被覆層を提供する広い可能性を有するが、本発明は、例えばリンを含む酸を備えたキャリアーと被覆層が塗布される酸化物表面を含む材料のキャリアーのラミネーションによって、継続的な操作により被覆がなされる操作によって、被覆層を提供することに大きな利用性があることを見出すことが期待される。
【0017】
方法
いかなる特定の理論によって、または理論に対して拘束されるものではないが、それぞれは全体として本明細書に参照により引用されている、同時係属の、2003年11月4日に出願された米国出願第10/701,591号、2003年4月1日に出願された米国出願第10/405,557号、および2002年6月24日に出願された米国出願第10/179,743号に記載されているように、適切な温度環境下で十分な時間、リンを含む酸を酸化物表面に接触させると、酸官能基と酸化物表面との間に結合が形成されると考えられている。驚くべきことに、発明者らは、被覆されるべき酸化物表面に、1または2以上のリンを含む酸を含有する被覆組成物を運搬するためのキャリアーを利用して、接着性のリンを含む被覆層が調製されうることを見出した。いかなる特定の理論によって、理論に対して拘束されるものではないが、被覆の提供に使用されるリンを含む酸と適合するキャリアーの親水性を選択することによって、上述の同時係属の米国出願第10/179,743号中に例として記載されているような「浸漬」被覆を利用する方法を越えて、本発明の方法は、多層特性の整列および結合が改良された被覆層を提供すると考えられている。層構造および結合におけるこの改善によって、表面の被覆率を向上させ、被覆層の接着が向上し、被覆層と表面との間の化学的、電子的伝達が増加する。
【0018】
加えて、本発明の方法は、浸漬法または塗布法に較べて、広い表面領域に対して、発明の被覆を塗布する効率を改善させると考えられている。本発明の方法は、酸化物表面に継続的に発明の被覆を供給するためのウェブまたはベルトシステムを使用した、継続的な被覆操作に容易に適用可能であることが期待される。本発明の方法はまた、被覆を提供する前に被覆されるべき表面の一部をマスクすることによってのみ従来可能であったあるパターンで、酸化物表面上に被覆物を配置する簡便な方法も提供するものである。したがって、本発明の方法は、酸化物表面上のリンを含む酸をベースとするパターン化された被覆層を調製するのに必要とされる一連の操作を減少させるものである。
【0019】
本発明の方法は、十分な時間と、構成するリンを含む酸の少なくとも一部分と接触された酸化物表面との間の結合を形成するのに十分な温度環境下で、リンを含む酸を含有する被覆組成物を運搬するキャリアーを酸化物表面に接触させることを含む。本発明が、環境的な試験槽中でまたは不活性雰囲気下で行われうることがもし望まれたとしても、本発明の方法によって酸化物表面上に被覆層を提供するためには、なんら特別な環境は必要ではない。
【0020】
多くの異なる形態、例えばローラー、パッド、シート、ロール、ウェブ、またはベルトの形態でキャリアーは存在しうることが予想される。他の形態は明らかとなるであろう。被覆溶液に含まれるリンを含む酸、濃度、温度条件および被覆されるべき酸化物表面の性質と特徴によって、酸化物表面にキャリアーを接触させる方法は変化することも考えられる。
【0021】
ここで説明されている原理を維持して、酸化物表面にキャリアーを接触させるために使われうる種々の方法の例としては、酸化物表面を横断して丸められるローラーの中にキャリアーを形作ること、手動でまたは機械的手段によって酸化物表面に接触するスタンプまたは厚板の中にキャリアーを形作ること、酸化物表面の上で広げられる被覆溶液を用いてキャリアーのロールを形作ること、酸化物表面の供給のために被覆溶液が供給されるキャリアー材料のウェブまたはベルトをラミネートすることがあげられる。ウェブ、ベルト、またはシート、例えば、アクリルおよび二酸化ケイ素で被覆されているポリエチレン酸化テレフタレートPETとして酸化物表面が与えられることが可能であるときには、継続的なラミネーションプロセスが使用されうる。酸化物表面が、多かれ少なかれ硬い形態、例えばガラス上に被覆されたインジウムスズ酸化物であるときには、ラミネーション装置のベルト、チェーン、またはウェブ給紙タイプを伴う給紙機構が、キャリアーの継続的なベルトまたはウェブを用いて酸化物表面の区分をラミネートすることに適用されうると考えられる。柔軟な、または硬い基材上に備わる酸化物表面に、柔軟な、および硬い双方のキャリアー材料を接触させることに適用されうる、被覆、塗布、およびラミネート技術において、多くの他の改良が存在することが予想される。
【0022】
キャリアーと酸化物表面との間の接触持続時間は、選ばれる被覆溶液、酸化物表面、および接触の間に得られる温度条件に依存するであろう。例えば、ある酸化物表面、例えばアルミニウム上の自然金属酸化物に対して、ある酸、例えばヒドロキシウンデシルリン酸に対して、被覆層は、どんな室温、例えば約20℃またはそれ以上でも、自然に形成される。一般的には、短い接触時間で、例えば、約5分かそれ以下で、少なくとも約100℃から約200℃までの温度条件下で、接触は行われる。もし低い温度で行われたなら、または異なる酸化物表面およびリンを含む酸に対するものであれば、より長い接触時間、例えば、数時間が必要とされるであろう。種々の時間、所望の接触温度が維持されるオーブン中に、被覆されるべき酸化物表面の試料を含むクーポンと接触するように、目的の被覆溶液が供給されたキャリアーのクーポンをセットすることによって、また酸化物表面上に形成されるリンを含む酸をベースとする被覆の量を測定することによって、所望の被覆を形成する特定の温度で必要とされる接触時間を、当業者であれば容易に決定することができる。特定の被覆溶液および酸化物表面に対して、特定の温度で最小限必要な接触時間を決定する他の方法は、明らかとなるだろう。
【0023】
一般的には、本発明の方法で採用される接触時間は、室温、約20℃から約200℃までの温度で、約1分から約20分である。さらに好ましくは、約5分から約20分までの接触時間が、約50℃から約200℃までの温度で採用される。
【0024】
被覆反応を促進するために加熱が必要とされるとき、接触するキャリアーおよび酸化物表面を加熱するために多数の処理が行われると考えられる。これらには、限定されるものではないが、キャリアーの近接位は酸化物表面と接触していると同時にキャリアーの遠位側に対して加熱された本体を適用すること、加熱された領域、例えばオーブン中で、キャリアーと酸化物表面を接触させること、およびキャリアーと酸化物表面を接触させ、加熱された領域中で接触させるためにそれらを運搬することが含まれる。後者の例としては、ベルト上のオーブンまたは加熱炉を通じて、またはバッチ運搬において運搬されるシートの形態で、酸化物表面とキャリアーが存在しうる。または、例えばラミネート技術の当業者には周知であるように、接触していて、加熱された領域を接触して通過する2つのウェブの形態で、酸化物表面とキャリアーが存在しうる。他の限定されない例としては、単独で酸化物表面を加熱し、その後、キャリアーを加熱された酸化物表面と接触させることによって、被覆反応を促進する加熱がもたらされてもよい。
【0025】
酸化物表面へ被覆組成物を運搬するプロセスには、キャリアーに被覆組成物を供給することが必要である。これは、被覆溶液にキャリアーを接触させ、被覆溶液との接触からキャリアーを除去し、酸化物表面にキャリアーを接触させることによって達成されうる。被覆溶液は、被覆形成に使用されるリンを含む酸、および例えばアルコールのような溶媒を含む。好ましいプロセスにおいては、被覆溶液との接触からキャリアーを除去する段階と被覆を運搬するキャリアーを酸化物表面に接触させる段階との間で、蒸発段階が行われ、その間に、被覆溶液からキャリアーによって運搬される溶媒の一部分、好ましくは相当量が蒸発する。好ましい実施形態においては、乾燥段階の後、視覚的に調べたとき、キャリアーは「乾燥」しているようであり、溶媒を発散させることなく、処理され、運ばれ、また、パッケージされる。ある実施形態においては、被覆組成物がキャリアーに提供される時間と場所から、時間および/または位置が離れた酸化物表面上に、この方法で被覆組成物を提供されたキャリアーにより、被覆を提供することが行われるであろう。キャリアーに対して被覆組成物を提供する他の方法が行われうることは、予想される。
【0026】
いかなる特定の理論によって、または理論に対して束縛されることなく、酸化物表面にキャリアーを接触させる前のキャリアー上の被覆組成物の構成は、蒸発処理によって改良されると考えられる。
【0027】
キャリアー
上で示したように、本発明のキャリアーは、多数の柔軟な材料、および硬い材料を含みうる。一般的には、被覆溶液を構成するリンを含む酸に対して、例えば水素結合またはファンデルワールス相互作用のような親和力をもつが、それらとは反応しないようにキャリアーは選ばれる。いかなる理論によっても、または理論に対しても束縛されることはないが、被覆溶液を構成するリンを含む酸へ親和性を示すキャリアーを選択することで、表面に接触する前にキャリアーがその中の酸部分に秩序を与え、そして、その結果、少なくとも短い範囲で秩序化された部分の集合物として、酸化物表面に対する被覆がそこから得られるようなリンの酸を与え、その結果、被覆部分の少なくとも局在的な秩序をそれに与える被覆層を提供すると考えられる。また、いかなる特定の理論によっても、または理論に対しても束縛されることはないが、空気/水接触面で両親媒性膜における構造的な効果と同様であると考えられている。
【0028】
したがって、ある実施形態においては、好ましいキャリアーは、被覆溶液を構成するリンを含む酸と水素結合を形成することができる、非反応性表面水酸基群を有するものである。この例としては、セルロース材料、例えば、綿繊維があげられる。これらの一般的原理に導かれて、多かれ少なかれ親水性の性質を有するように誘導体化される表面を有する材料も用いられうることは明らかであろう。これには、例えば、種々のアルコール、エーテル、エステル、アミノ、アミドなどの部分を含む領域をその繊維が有するような材料を含む表面を含むことが予想される。これには、材料がこのタイプの機能性をもともと自然発生的に有するものであるか、または機能性が材料の化学的誘導体化によって導入されたものであるか、その双方の材料が含まれることも予想される。そのような自然発生的な材料の一つの例は、綿繊維、またはそれから製造された材料である。多数の材料の多くの表面改良によって、特定の被覆溶液に対して、キャリアーを構成する効果を最大限とするために表面の親水的性質を「微調整」することができる官能基を含む部分を結合させることが可能となることが期待される。
【0029】
本方法に対する適切なキャリアーは、被覆溶液に対して吸収性を持つもの、被覆溶液に対して吸着性を持つもの、またはその双方を含むものとする。このように、キャリアー材料は、例えば、吸収によってその中を被覆溶液が占めることができる隙間を与える網状、または多孔性の材料の形態を有することができる。キャリアーは、吸着特性を利用して、非孔性であることも可能であり、例えば、被覆溶液によりすぐに「湿った」状態になるような被覆溶液に対して親和力がある物質があげられる。適切なキャリアー材料は、一般的に、両方の特性の型の混合物であろう。したがって、ある用途においては、被覆されるべき酸化物表面に酸を運ぶための被覆溶液を構成するリンを含む酸への吸着性に依存して、非孔性の滑らかなキャリアーが用いられることが考えられる。他の用途においては、キャリアーは、多孔性または網状で、被覆溶液に対して吸収性であろう。
【0030】
好ましいキャリアーとしては、親水性の表面を有するセルロース材料、たとえば、親水的表面を有する綿織物または綿不織布および高分子織物または高分子不織布があげられる。リンを含む酸に対して非反応性である親水性材料を有する硬い材料もまた好ましい。親水性官能基を有するリンを含む酸で誘導体化された表面もまた、使用されるであろう。
【0031】
被覆溶液および組成物
本明細書中で使用される場合、被覆組成物は、キャリアー上で構成される本発明の被覆層の形成に使用される酸、被覆溶液から保持される若干の溶媒、そして、本分野で公知の、被覆溶液の安定性およびハンドリング特性を向上させるために加えられる任意の他の構成要素を含む。
【0032】
一般的に、本発明の方法の使用に適する被覆組成物は、リン酸、有機リン酸、およびホスホン酸からなる群から選ばれる酸および溶媒を含む。より好ましい実施形態においては、溶媒は水またはアルコールである。特に好ましくは、ホスホン酸およびアルコール溶媒で、特に好ましくはエタノールである。一般的に、被覆組成物は、酸の希釈溶液、一般的にはミリモル(mM)濃度の範囲で用いる。ある実施形態においては、被覆組成物は、約0.01mMから約5.0mM、より好ましくは約0.1mMから約3.0mMの酸濃度の溶液から調製される。しかしながら、周知の原理およびプロセスにおいて使用されるキャリアー材料および酸化物表面の化学的安定性に従って、溶液の濃度は、より高いまたはより低い値に調整されうる。
【0033】

本明細書で用いられる場合、「リンを含む酸」という語句は、リン酸(HPO)、有機リン酸(R1−O−PO、ここでR1は、酸素原子を通じてリン原子に結合している有機部分)、および一般式R−PO(ここでRは有機リガンド、すなわち、炭素原子はリンに直接的に結合している)を有するホスホン酸化合物を指す。一般的に、有機リン酸における有機部分は、酸素表面に結合したあとのリン酸種の安定化に関する一般的な化学法則によって導かれる、ホスホン酸有機リガンドについて下記に述べたものと同様の有機部分から選ばれうる。それぞれが本明細書に全体として参照により引用されている、同時係属である、2003年11月4日に出願された米国出願第10/701,591号、2003年4月1日に出願された米国出願第10/405,557号、2002年6月24日に出願された米国出願第10/179,743号中のいずれかにおいて調製された被覆物に対して、開示されている酸種のいずれも、本発明の被覆物を調製するための本発明の方法において用いられうる。
【0034】
本発明の使用において好ましい酸は、ホスホン酸である。好ましいホスホン酸は、約2から約40の炭素原子、より好ましくは約2から約20の炭素原子を有する脂肪族および芳香族の炭化水素部分からなる有機部分の群から選ばれる有機リガンドを有する。しかしながら、本発明は、形成された被覆の所望の特性がより大きな、またはより小さな有機的部分に影響を与えるように、この範囲の外側に存在する炭素原子量を有する有機的部分も含む。
【0035】
適切な脂肪族有機部分は、直鎖または分岐鎖であってもよいし、飽和または不飽和であってもよいし、任意に1または2以上の芳香族置換基を含む官能基で置換されていてもよい。芳香族有機部分としては、アレーン構造、例えば、単量の、オリゴマーの、またはポリマーのアレーン構造、例えばアントラセン、ペンタセンがあげられ、これらは直接的にリン酸塩部分に結合している。または、芳香族部分は、脂肪族部分を介して、リン酸塩部分に結合されていてもよい。芳香族部分は、任意に1または2以上の官能基で、どの炭素においても置換されうる。
【0036】
好ましい実施形態においては、電子ドナー特性およびアクセプタ特性を有する有機化合物に基づく有機部分からリガンドは選択され、例えば、その構造は周知であり、本技術分野で知られた電子アクセプタおよびドナー分子であるTCNQおよびTTFの誘導体に基づいた部分があげられる。知られているように、TCNQおよびTTFは、一般的には、有機導電体の提供における基礎単位として使用される。本明細書に参照により引用されている、同時係属出願である、2003年11月4日に出願された米国出願第10/701,591号に詳細に記載されているように、電子アクセプタ特性が変化したTCNQの置換された分子誘導体もまた、公知であり、たとえば、その全体が本明細書に参照により引用されているYamashitaら,Journal of Materials Chemistry,(1998),8(9),ページ1933−1944に記載されている。これらのTCNQ誘導体に基づく部分は、本開発に対する被覆溶液において用いられるリンを含む酸におけるリガンドとしても、また好ましい。
【0037】
電子供与特性が変化したTTF誘導体化合物もまた知られており、本明細書により引用されている、同時係属である、2003年11月4日に出願された米国出願第10/701,591号に詳細に記載されている。そのような分子は、例えば、本明細書に参照により引用されているHasegawaら,Synthetic Metals(1997),86,ページ1801−1802において記載されている。記載されているように、TTFは、その電子供与特性を高めるために、電子供与基で置換されうる。これらのTTF誘導体に基づく部分もまた、本発明の被覆溶液に使用されるリンを含む酸に対するリガンドとして、また好ましい。
【0038】
本発明に有用なホスホン酸の炭化水素リガンドの置換基は、炭化水素リガンドのどの炭素原子に付加されてもよい。有用な置換基は、例えば、そこから調製される被覆の親水性、および/または、疎水性に影響を与えるもの、例えば、アルキル基および反応性官能基であり、反応性官能基としては、例えば、水酸基、カルボン酸基、アミノ、チオール、スルホン酸基、ホスホン酸基およびこれらの化学誘導体からなる群から選ばれるものである。さらなる誘導体化反応を行いうるどの官能基も、使用されうると考えられる。加えて、適切な炭化水素リガンドは、ホスホン酸誘導体化反応の間、酸化物の表面に結合している他のホスホン酸部位に付加している炭化水素リガンド上の反応性置換基との重合化反応においてさらに反応する、例えば、不飽和部位などの反応部分を、これらの構造中、またはこれらの構造に付加して、含む。加えて、被覆を形成するために使用される酸の有機リガンドの1または2以上の炭素原子上に、反応性官能基が含まれうる。下記および、本明細書に参照により全体が引用されている、同時係属出願である、2003年11月4日に出願された米国出願第10/701,591号,2003年4月1日に出願された米国出願第10/405,557号,2002年6月24日に出願された米国出願第10/179,743号中に詳細に説明されているように、形成されている被覆層をさらに誘導体化するため、これらの官能基は用いられうる。
【0039】
特に好ましい実施形態においては、リガンドのオメガ炭素で官能基化された有機リガンドを有するホスホン酸から、被覆は形成される。一般的には、オメガ官能基化されたホスホン酸が、本発明の被覆層を形成するために使用されると、酸化物表面への酸の反応の後、得られるホスホン酸膜は、一般的に、表面から離れたところに位置し、共有結合またはさらなる化学修飾に利用できるオメガ炭素とともに酸化物表面に結合されたホスホン酸塩部分を含む。好ましいオメガ官能基としては、水酸基、アミノ、カルボン酸塩、およびチオール基があげられる。
【0040】
ホスホン酸有機リガンドに有利に結合されうる置換基の他の種類は、π電子が非局在化された部分である。特に有用な化合物は、π電子が非局在化された芳香族環化合物(オリゴおよびポリアレーンリガンド)である。π電子の非局在化が高い程度であるため、ホスホン酸環置換基を有する複素五員環式芳香族化合物もまた望ましい。そのような環の例としては、フラン、チオフェンおよびピロールがあげられる。
【0041】
酸化物表面
本明細書に参照により全体が引用されている、同時係属出願である、2003年11月4日に出願された米国出願第10/701,591号,2003年4月1日に出願された米国出願第10/405,557号,2002年6月24日に出願された米国出願第10/179,743号に詳細に説明されているように、自然酸化物表面および基材上に蒸着された、または存在する酸化物表面上に形成された酸化物表面、双方の上に、本発明に従ったリンを含む酸を含む被覆層が、形成されうる。従って、リンを含む酸をベースとする膜がその上に形成されうるような自然酸化物の非限定例としては、金属、導体、半導体、および絶縁体特性(これらの語句は、例えば、本明細書に参照により引用されている、A.West in Basic Solid State Chemistry,second edition, John Wiley&Sons,New York,ページ110−120によって定義されている)を有する物質があげられる。本発明のプロセスにおける使用に適している基材の例としては、限定されるものではないが、自然酸化物表面、すなわち酸化物を含むまたは外気環境にさらされると自然酸化物を形成するもの、を有する材料があげられる。酸化物材料の非限定例としては、バルク金属酸化物、例えば、シリカ、アルミナ、基材に蒸着された酸化物、例えば、導電性酸化物、例えば、各々ガラス基材上に蒸着されているインジウムドープされたスズ酸化物および亜鉛/インジウムドープされたスズ酸化物、および酸化物絶縁体、例えば、集積回路のゲート絶縁体中の低誘電率ガラス、およびプラスチック基材上に蒸着された金属酸化物、例えば(二酸化ケイ素の上層を有する)PETプラスチック上の「積み重なった」金属酸化物、例えば市販品としてはBerkaert Specialty Filmsから購入できる反射防止用プラスチックがあげられる。
【0042】
外気曝露下で自然金属酸化物表面を形成する材料の非限定例としては、ステンレス鋼、鉄などの鋼、および、例えば、チタン、チタン合金、アルミニウム、およびアルミニウム合金のような、外気環境曝露下で侵食されない酸化物被覆を得る金属があげられる。外気曝露下で自然酸化物層を得る材料のさらなる例としては、セラミック材料、例えば、窒化ケイ素、および半導体、例えばシリコンがあげられる。本発明の被覆の適用に適しているものとしては、意図的にそれらに与えられる酸化物被覆を有する材料、例えば、半導体装置中の厚膜酸化物絶縁体、および、酸化物表面を有するように誘導体化されうる材料、例えば、ガリウムヒ化物、ガリウムニトリド、およびシリコンカーバイドが、また、あげられる。本発明の被覆層の提供における使用に適するものとしては、加水分解を行うことができ、ホスホン酸官能基に対する吸着性親和力を有するむきだしの表面、例えば窒化ケイ素、もある。
【0043】
特に好ましい基材としては、電子装置の調製に有用なもの、および生物学的組織または流体と接触する機械的装置に有用なものである。電子装置の調製に有用なものの例としては、インビボおよびインビトロで病気の診断および観察に適した生体電子センサーにおいて使用されるゲート接合部上の密集した酸化物絶縁層があげられる。さらなる例としては、ガラス上に蒸着された導電性酸化物であるインジウムスズ酸化物がある。機械的装置の調製において有用な表面の例としては、埋め込み型の材料があり、例えば、骨組織の治療におけるインビボインプラントに有用なチタン補強部材がある。
【0044】
上述したように、適切な表面としては、半導体基材の表面、例えば、シリコン単結晶の表面があげられる。また、多結晶の基材表面、例えば、金属、例えば、チタンおよびその合金、アルミニウムおよびその合金、およびシリコンも含まれる。また、非結晶質の基材表面として、例えば、酸化物導体または酸化物絶縁体の表面も含まれる。導電性酸化物の例としては、Fe、インジウムおよび/または亜鉛ドープ導伝性スズ酸化物、アルミニウムドープ導電性亜鉛酸化物、亜鉛酸化物、および半化学量論的酸化物、例えば、TiOおよびVがあげられる。
【0045】
さらに、好ましいものとして、セラミック基材、例えば窒化ケイ素およびシリコンカーバイド、および半導体、例えばゲルマニウムおよび半導体のゲルマニウムベースの化合物があげられる。
【0046】
残余の金属や有機物を除去するために、通常酸化処理とそれに続く水洗浄処理によって、表面を洗浄することによって、一般的に、酸化物表面は、キャリアーと接触する前に調製される。そのような処理に対して安定である酸化物表面としては、例えば、単結晶または多結晶のシリコンウエハー表面があり、その表面は、ウエハー上に集積回路を組み立てる前にシリコンウエハーを洗浄するために通常行われる方法で、標準的な過酸化水素/硫酸の「ピラニア」溶液で表面は処理され、続いて水洗浄処理および標準的な過酸化水素/塩酸の「バザード」溶液で2回目の処理がされうる。一般的には、遊離塩基種、0価の金属、および残余の炭化水素種がない酸化物表面上で、本発明のプロセスは、最良の結果をもたらす。しかしながら、半導体標準規格の厳密なクリーニングを行わない表面、例えば、導電性酸化物に対してでさえ、本発明のプロセスは、被覆層が上に形成される酸化物表面に対して良好な接着性を有する、被覆層を提供するであろう。一般的に表面に不要な種を除去するために、特定の表面に適用される他のクリーニング方法は、当業者には、明白であろう。
【0047】
リンを含む酸ベースの被覆層の誘導体化
上述したように、またそれぞれ本明細書に参照により引用されている、同時係属出願である、2003年11月4日に出願された米国出願第10/701,591号、2003年4月1日に出願された米国出願第10/405,557号、2002年6月24日に出願された米国出願第10/179,743号で詳細に説明されているように、リンを含む酸ベースの本発明の被覆層が、二官能基または多官能基のリンを含む酸、例えば、オメガ官能基化されたホスホン酸、を含む被覆組成物から調製されると、形成される被覆層は、追加の試薬でさらに誘導体化されうる。そのような試薬の非限定の例としては、タンパク質カップリング試薬を用いてオメガ水酸基ホスホン酸から形成される被覆層のオメガ水酸基を誘導体化する、および被覆層最上層に塗布されるエポキシ接着剤中に被覆層のヒドロキシ基を組み込むものがあげられる。タンパク質カップリング試薬の例としては、マレイミドおよびサクシニミドイルカップリング試薬があげられる。上述の同時係属出願中に記載されているように、また、認識されるように、被覆層に必要な条件および一般的な化学原理に導かれて、多数の他の誘導体化反応が、1または2以上の反応性置換基を有するリンを含む酸を使用して調製される被覆層において利用できる反応性種を利用して、実行されうる。
【0048】
本発明によってもたらされる被覆層の表面上で誘導体化された種のパターンを提供するために、そのような反応が用いられる。例えば、印刷媒体に組み込まれた上述したタンパク質カップリング試薬は、印刷技術を利用する本発明のプロセスによって調製される被覆層へあるパターンで塗布されうる。この非限定例としては、インクジェット印刷機からの運搬に適した媒体中のカップリング試薬を提供することがあげられる。誘導体化試薬のそのようなパターンが適用されると、バイオセンサー装置における利用、および例えば、埋め込み可能な装置に利用されうる、設計された生物学的構造の提供への利用を見出しうる。他の非衝突および衝突印刷技術、例えばリソグラフィー、スクリーン印刷、スタンピング、およびグラビア印刷が、本発明の被覆層上に誘導体化試薬のパターンを提供するために、適用されうる。
【0049】
酸化物表面のパターニング
上述の原理および方法に従って、酸化物表面上にあるパターンで被覆層を提供するために、本発明の被覆プロセスは、使用されうる。このように、酸化物表面と酸化物組成物との間に結合を形成するのに適した温度条件下で、酸化物表面にキャリアーを接触させると、被覆組成物は、酸化物表面に転写されるパターンで、キャリアーに提供されうる。多数の手段が、キャリアー上に被覆組成物のパターンを提供するために使用されうる。非限定の例としては、あらかじめ定められた領域上にのみ、例えば、インクジェット印刷機やステンシルによって、被覆溶液を溶射することがあげられる。他の方法としては、スタンピング、リソグラフィー、およびグラビア印刷などの印刷技術を適用してあるパターンでキャリアー上に被覆溶液を塗布することが見出されうる。
【0050】
同様に、キャリアー自身が、ステンシルやスタンプのような、あるパターンの形態で提供されうる。このように、被覆組成物が酸化物表面に運搬されると、キャリアーのパターンは、同様のパターンで、酸化物表面へ被覆組成物を転写するであろう。
【0051】
被覆組成物を運搬するキャリアーが、機械的操作に適した形態、例えば、ローラーやボールの形態で存在すると、表面上でそれにそってキャリアーが方向付けられる軌道に影響を与えるパターンを有する被覆層を提供するために、酸化物表面を横断するあるパターンで、キャリアーは機械的に方向付けられる。
【0052】
以下にチタンクーポンの自然酸化物表面および柔軟なプラスチックシート上に蒸着された二酸化ケイ素を含む酸化物表面へ本発明の被覆を塗布するために、綿パッドを含むキャリアーを利用する実施例をあげる。以下の実施例は、本発明のプロセスおよびその結果形成される膜を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定することを意味するものではない。発明のプロセスと膜の範囲内である、以下に例示される物質およびプロセス段階に対して、可能な改良は多数あることが予想される。
【実施例】
【0053】
実施例
以下の例で、エタノール(試薬グレード)は、Aldrich Chemicalから購入し、入荷されたものを使用した。11−ヒドロキシウンデシルホスホン酸(直鎖で、ホスホン酸に結合したオメガ水酸基官能基を有する11炭素原子の二官能基のホスホン酸)は、公表されている手順に従って合成された。ディスクはチタンTi−6AI−4Vロッド(直径1インチ、Goodfellow,Inc.から購入)から切り出し、やすりをかけることによって使用のため調製し、続いてメタノールで洗浄した。ディスクは少なくとも1時間、使用前に乾燥させ、オーブン中200℃で貯蔵した。
【0054】
Spectra Techの拡散反射率(DRIFT)アタッチメントを備えたNicolet 730 FT−IRか、Surface Opticsの正反射率ヘッドを備えたMIDAC発光体を使用して、サンプルを分析した。Nicoletを分析に使用するときは、視射角アタッチメント、Spectra Techから購入したVariable Angle Specular Reflectance Model 500を使用して、赤外線実験を行った。表面定位と入射ビーム間の角度は、約87°であった。双方の機器に対して、表面上の水の量を減らすために、30分間窒素でサンプルをパージし、ノイズ比に対して適当なシグナルを得るために、1000スキャンを集めた。すべてのスペクトルは、不要なものが取り除かれている自然酸化物表面のスペクトルに対する比率として得られた。
【0055】
実施例1−被膜層の塗布
2インチ四方の市販の白い綿の材料見本を、蒸留水で洗浄し、空気乾燥することによって、キャリアーとして調製した。11−ヒドロキシウンデシルホスホン酸の1.0ミリモルの被覆溶液を、エタノール100ml中に、酸0.1mMを溶解させることによって調製した。溶液の約50mlを浅いディッシュの中に入れ、キャリアーを溶液の中にいれ、それで飽和させた。それから、キャリアーを溶液から取り除き、それが視覚的に乾燥する(オーバーナイト)まで、空気中に静置した。このようにして調製された、11−ヒドロキシウンデシルホスホン酸を含む被覆組成物を含むキャリアーを、上述したように調製したチタンディスク上に置いた。綿布に対してセットされた、テフロン(登録商標)コートの加熱板(Black&Decker)がある消費者用のアイロン(蒸気はない)を5分間、集合物の最上部に置いた。加熱時間の終わりに、アイロンを取り除き、酸化物基材(チタンディスク)を、外気中で冷却した。ディスクは、エタノール中で超音波分解され、大量のエタノールで洗浄し、空気乾燥した。
【0056】
上述の手順に従ったキャリアーにより覆われた領域の赤外線試験は、結合している11−ヒドロキシウンデシルホスホン酸を含む被覆層の存在を示した。シグナル強度の積分により、直接的に同様の被覆溶液で同様の表面を処理することによって一般的に観測される材料の約10倍量を、膜が含むことが示された。繰り返しの洗浄および超音波処理をしても、シグナルは減少せず、これは、被覆層が表面に強く結合していることを示す。
【0057】
クーポンの視覚検査により、キャリアーを用いて接触が行われた場所のクーポンにのみ、被覆層が塗布されることがわかる。
【0058】
実施例2−金属酸化物被覆プラスチック上への被覆層の蒸着
二酸化シリコンの上層を有する反射防止用の被覆ポリエチレンオキシドテレフタレート(PET)のシートは、Bekeert Specialty Filmsから購入することができる。実施例1で上述した処理手順に従って、上記実施例1で述べたように被覆組成物を用いて調製された綿キャリアーを塗布すると、反射防止用被覆プラスチックに対する11−ヒドロキシウンデシルホスホン酸の被覆が提供されることが見出されるであろう。
【0059】
実施例3−接着層を有する表面の誘導体化
上記実施例1で調製される被覆層(11−ヒドロキシウンデシルホスホン酸由来のホスホン酸被覆)は、表面にCytec Fiberite FM 1000(登録商標)エポキシ接着剤の膜を塗布することによって、エポキシ連結基で、さらに、誘導体化されうる。接着処理がされる前に、重ね継ぎが形成されるように、実施例1に従って調製された2つめのチタンクーポンを、エポキシと接触して置いてもよい。エポキシ化が周囲環境下で処理されるとき、本発明のプロセスによって被覆層がなされていない等価のチタンクーポンから調製された実質的に同様の集合物と比較して、重ね継ぎの強度は、大幅に低下することが見出されるであろう。ASTMテスト標準規格F1044−99に従って、これらのサンプルを比較すると、平均的に、被覆されていないクーポン間の継ぎ目は、被覆クーポン間の継ぎ目には不適合とされる圧力の2/3であることが見出されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物表面に結合する接着性のリンを含む酸をベースとする被覆層を提供する方法であって、リン酸、有機リン酸、ホスホン酸、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる酸を含む被覆組成物を運搬するキャリアーと、前記酸化物表面とを、前記組成物中の酸分子の少なくとも一部分を酸化物表面へ結合させるのに十分な温度、十分な時間で、接触させることを含む方法。
【請求項2】
前記酸がリン酸およびホスホン酸からなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)溶媒中の前記酸の1または2以上を含む溶液と前記キャリアーが接触し、前記溶液が前記キャリアー中に吸収され、あるいは吸着されるようにする;そして;(b)前記キャリアーを前記接触から除去する;ことを含むプロセスによって、キャリアーが酸化物表面に組成物を運搬する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記除去処理の後に、前記溶液から前記溶媒の少なくとも一部分を蒸発させることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
キャリアーは、前記酸組成物に対して吸収性を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
キャリアーは、前記酸組成物に対して吸着性を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記キャリアーが、多孔性材料または網状材料である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
キャリアーが、綿、リンネル、羊毛、絹、ポリエステル、およびナイロンから選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記キャリアーが親水性を有する、請求項3の方法。
【請求項10】
前記キャリアーが綿である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記溶液に接触している前記キャリアーの一部分が、前記酸分子の1または2以上の官能基に対して親和力をもつように誘導体化されている、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
結合形成を促進するのに十分な前記温度が、前記キャリアーに接触する前に酸化物表面を加熱することによってもたらされる、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
結合形成を促進するのに十分な前記温度が、酸化物表面および/またはキャリアーの少なくともひとつを、それらが接触している間に加熱することによってもたらされる、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化物表面は、(a)チタン、鋼、鉄、シリコン、アルミニウムおよびこれらの合金;(b)セラミック;(c)半導体;(d)金属;(e)基材上に蒸着された酸化物絶縁体;および(f)基材上に蒸着された酸化物導電体からなる群から選ばれる基材の酸化物表面である、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
前記酸化物表面が、基材の自然酸化物表面上に形成される金属酸化物表面である、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記酸化物表面が、基材上に蒸着された酸化物層である、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記基材が、プラスチック、ガラス、セラミック、半導体、および金属から選ばれる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項2に記載の方法によって形成されるフィルム被膜。
【請求項19】
前記被覆組成物が、(a)約2から40の炭素原子(任意に脂肪族および/または芳香族部分を含み、任意に1または2以上の官能基でそれらのいずれかの炭素が置換されている)を有する直鎖または分岐の、飽和または不飽和の、置換のまたは非置換の炭化水素部分;(b)オリゴアレーンおよびポリアレーン部分(任意に1または2以上の官能基でそれらのいずれかの炭素が置換されている);並びに(c)置換されたおよび非置換のTCNQおよびTTF誘導体;からなる群から各々の存在に対して独立して選ばれる有機リガンドを有する1または2以上のホスホン酸を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項20】
前記有機リガンドが、水酸基、アミノ、カルボン酸、ホスホン酸、チオール、マレイミド、およびサクシニミドイルの官能基からなる群から各々の存在に対して独立して選ばれる官能基を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記リガンドが、長さで約2から約20までの炭素原子の少なくとも一つの炭素鎖と、水酸基、アミノ、カルボン酸、ホスホン酸、チオール、マレイミドおよびサクシニミドイルの官能基からなる群から選ばれるオメガ置換基と、を有する直鎖のアルキルホスホン酸である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記リガンドが、置換または非置換のチオフェン部分、置換または非置換のポリチオフェン部分、置換または非置換のオリゴマーおよびポリマーのアレーン部分、有機ドナー部分、および有機アクセプタ部分、TCNQ誘導体、およびTTF誘導体からなる群から各々の存在に対して独立して選ばれる、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記フィルム被覆層中に、ドーピング種を導入することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ドーパントが、テトラシアノキノジメタンおよびテトラフルオロテトラシアノキノジメタンからなる群から選ばれる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項21に記載の方法によって形成されるフィルム被膜層。
【請求項26】
請求項22に記載の方法によって形成されるフィルム被膜層。
【請求項27】
請求項23に記載の方法によって形成されるフィルム被膜層。
【請求項28】
前記酸化物表面が、(a)チタン、鋼、鉄、シリコン、アルミニウムおよびこれらの合金;(b)セラミック;(c)半導体;(d)基材上に蒸着された酸化物絶縁体;および(e)基材上に蒸着された酸化物から各々の存在に対して独立して選ばれる材料の酸化物表面から選ばれる、請求項25の被覆層。
【請求項29】
さらにドーパントを含む、請求項26に記載の被覆層。
【請求項30】
前記炭化水素部分が、カルボン酸、ホスホン酸、水酸基、アミノ、およびチオール官能基からなる群から各々の存在に対して独立して選ばれる官能基でオメガ置換された、請求項28の被覆層。
【請求項31】
前記被覆組成物が、カルボン酸、ホスホン酸、水酸基、アミノ、およびチオール官能基からなる群から選ばれるオメガ炭素置換基を有する少なくとも一つのホスホン酸を含み;
(a)前記被覆層の少なくとも一部分を、前記オメガ炭素置換基と結合形成反応しうる試薬と接触させ;そして
(b)前記接触している試薬の少なくとも一部分と前記オメガ炭素置換基の少なくとも一部分との間に結合を形成する:
ことをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項32】
前記試薬を含む印刷媒体を、前記リンを含む酸をベースとする被覆層に塗布することによって、前記接触段階「a」が達成される、請求項32に記載の方法。
【請求項33】
インクジェット印刷、スタンピング、スクリーン印刷、およびリソグラフィーから選ばれる方法によって、前記印刷媒体が塗布される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記印刷媒体があるパターンに塗布される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記オメガ官能基の少なくとも一部が、カルボン酸および水酸基官能基からなる群から選ばれ、前記試薬がタンパク質カップリング試薬である、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
請求項31に記載の方法によって作製された被膜層。
【請求項37】
前記オメガ官能基が水酸基官能基であり、前記試薬がタンパク質カップリング試薬である、請求項36に記載の被覆層。
【請求項38】
前記酸化物表面がチタン合金の自然酸化物表面である、請求項37に記載の被覆膜。
【請求項39】
前記酸化物表面が、セラミック、金属、半導体、基材および絶縁体上に蒸着された導電性酸化物からなる群から選ばれる、請求項29に記載の被覆層。
【請求項40】
前記オメガ官能基群が、カルボン酸、ホスホン酸、水酸基、アミノ、およびチオール官能基群からなる群から、各々の存在に対して独立して選ばれ、前記試薬が遷移金属複合体である、請求項36に記載の被覆層。
【請求項41】
前記オメガ官能基が、カルボン酸、ホスホン酸、水酸基、アミノ、およびチオール官能基からなる群から各々の存在に対して独立して選ばれ、前記試薬が、イオン重合あるいは逐次反応重合から得られることをさらに特徴とする有機高分子を形成し、重合反応により1または2以上の前記オメガ官能基が高分子中に組み込まれる、請求項36に記載の被覆層。
【請求項42】
前記キャリアーの前記酸化物表面接触部分が、前記酸組成物をあるパターンで前記酸化物表面に運搬する、請求項3に記載の方法。
【請求項43】
請求項42に記載の方法によって形成されたパターン被覆層。
【請求項44】
請求項34に記載の方法によって形成されたパターン被覆層。
【請求項45】
前記ホスホン酸がオメガヒドロキシホスホン酸を含み、前記試薬がタンパク質カップリング試薬を含む、請求項44に記載のパターン被覆層。
【請求項46】
接着層と酸化物表面との間の接着強度を増加させる方法であって、請求項1の方法によって、前記酸化物表面の少なくとも一部分と前記接着層との間の、界面のリンを含む酸をベースとする被覆層を提供することを含む方法。

【公表番号】特表2007−521132(P2007−521132A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517614(P2006−517614)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/020268
【国際公開番号】WO2005/000575
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(593163391)プリンストン ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】