説明

キャリブレーション方法ならびにそれを利用した基地局装置、端末装置および無線装置

【課題】 キャリブレーションの結果に含まれる誤差を小さくしたい。
【解決手段】 調査部70は、通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうちの少なくともひとつについて、電波環境を調査する。選択部72は、調査部70での調査の結果をもとに、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択する。実行部74は、選択部72において選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナ12から端末装置への信号を送信し、かつ複数のアンテナ12によって端末装置からの信号を受信することによって、複数のアンテナ12に対するキャリブレーションを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリブレーション技術に関し、特に複数のアンテナにおけるミスマッチを補正するキャリブレーション方法ならびにそれを利用した基地局装置、端末装置および無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速なデータ伝送を可能にしつつ、マルチパス環境下に強い通信方式として、マルチキャリア方式のひとつであるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式がある。このOFDM変調方式は、無線LAN(Local Area Network)の標準化規格であるIEEE802.11a,gやHIPERLAN/2に適用されている。このような無線LANにおけるバースト信号は、一般的に周波数選択性フェージングの影響を受けるので、受信装置は、伝送路推定を動的に実行する。
【0003】
受信装置が伝送路推定を実行するために、バースト信号内に、2種類の既知信号が設けられている。ひとつは、バースト信号の先頭部分において、すべてのキャリアに対して設けられた既知信号であり、いわゆるプリアンブルやトレーニング信号といわれるものである。もうひとつは、バースト信号のデータ区間中において、一部のキャリアに対して設けられた既知信号であり、いわゆるパイロット信号といわれるものである(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】Sinem Coleri,Mustafa Ergen,Anuj Puri, and Ahmad Bahai,"Channel Estimation Techniques Based on Pilot Arrangement in OFDM Systems",IEEE Transactions on broadcasting,vol.48,No.3,pp.223−229,Sept.2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤレス通信において、周波数資源を有効利用するための技術のひとつが、アダプティブアレイアンテナ技術である。アダプティブアレイアンテナ技術は、複数のアンテナのそれぞれに対応した信号の振幅と位相を制御することによって、アンテナの指向性パターンを制御する(以下、このような指向性パターンを「適応的なパターン」という)。このようなアダプティブアレイアンテナ技術によってデータレートを高速化するための技術が、MIMO(Multiple Input Multiple Output)システムである。MIMOシステムでは、送信装置と受信装置がそれぞれ複数のアンテナを備え、それぞれのアンテナに対応したチャネルを設定する。そのため、MIMOシステムは、送信装置と受信装置との間の通信に対して、最大アンテナ数までのチャネルを設定することによって、データレートを向上させる。さらに、このようなMIMOシステムに、OFDM変調方式を組合せれば、データレートはさらに高速化される。
【0005】
MIMOシステムでの送信装置と受信装置におけるアンテナの指向性パターンの組合せは、例えば、以下のように示される。ひとつは、送信装置のアンテナがオムニパターンを有し、受信装置のアンテナが適応的なパターンを有する場合である。別のものは、送信装置のアンテナと受信装置のアンテナの両者が、適応的なパターンを有する場合である。前者の方がシステムを簡略化できるが、後者の方が、アンテナの指向性パターンをより詳細に制御するので、特性を向上できる。後者の場合、送信装置が送信のアダプティブアレイ信号処理を実行するために、受信装置から、伝送路推定用の既知信号が予め提供される。さらに、アダプティブアレイアンテナ制御の精度を向上させるために、送信装置は、送信装置に含まれた複数のアンテナと、受信装置に含まれた複数のアンテナ間において、すべての組み合わせに対応した伝送路特性を取得すべきである。そのため、受信装置は、すべてのアンテナから伝送路推定用の既知信号を送信する。以下、データの通信に使用すべきアンテナの本数に関係なく、複数のアンテナから送信される伝送路推定用の既知信号を「トレーニング信号」という。
【0006】
本発明者はこうした状況下、以下の課題を認識するに至った。送信装置を含む無線装置が、送信の際にアダプティブアレイ信号処理を実行する場合、送信のためのアナログ回路と受信のためのアナログ回路とのミスマッチ(以下、単に「ミスマッチ」という)が、アンテナ単位に異なっていれば、送信の際の指向性パターンが所望のものと異なってくる。すなわち、無線装置は、受信した信号をもとに、送信の際の指向性パターンを形成するためのウエイトを計算するが、アンテナ単位に異なったミスマッチによって、ウエイトによって実現されるべき指向性パターンでない指向性パターンを実現する。そのため、複数のアンテナに対するキャリブレーションが必要になる。キャリブレーションの結果に含まれる誤差は、通信品質の悪化につながるので、キャリブレーションの結果に含まれる誤差の低減が必要とされる。また、無線装置を起動したときや、通信に使用すべき周波数を変更したときに、キャリブレーションを実行する方が望ましい。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、キャリブレーションの結果に含まれる誤差を低減するキャリブレーション技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の基地局装置は、通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうちの少なくともひとつについて、電波環境を調査する調査部と、調査部での調査の結果をもとに、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択する選択部と、選択部において選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナから端末装置への信号を送信し、かつ複数のアンテナによって端末装置からの信号を受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行する実行部と、を備える。
【0009】
この態様によると、伝搬環境の調査の結果から選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、キャリブレーションを実行するので、複数の周波数チャネルの中のキャリブレーションに適した周波数チャネルを選択でき、キャリブレーションの結果に含まれる誤差を低減できる。
【0010】
複数の端末装置からの信号を受信する受信部をさらに備えてもよい。実行部は、受信部において受信した信号をもとに、複数の端末装置から、キャリブレーションに使用可能な端末装置を選択してもよい。この場合、受信した信号をもとに、複数の端末装置の中からキャリブレーションに使用可能な端末装置を選択するので、キャリブレーションに適した端末装置を選択でき、キャリブレーションの結果に含まれる誤差を低減できる。
【0011】
実行部は、受信部において受信した信号の品質を導出し、導出した信号の品質を端末装置の選択に使用してもよい。「品質」は、信号強度、SINR(Signal−to−Interference−plus−Noise Ratio)、EVM(Error Vector Magnitude)を含む。この場合、信号の品質の高い端末装置をキャリブレーションのために選択するので、キャリブレーションの結果に含まれる誤差を低減できる。
【0012】
実行部において実行したキャリブレーションの結果であって、かつ選択部において選択したひとつの周波数チャネルにおけるキャリブレーションの結果を記憶する記憶部をさらに備えてもよい。この場合、ひとつの周波数チャネルにおけるキャリブレーションの結果を記憶すればよいので、記憶容量を小さくできる。
【0013】
実行部において実行したキャリブレーションの結果であって、かつ選択部において選択したひとつの周波数チャネルにおけるキャリブレーションの結果と、キャリブレーションに使用した周波数チャネルを識別するための番号を対応づけながら記憶する記憶部をさらに備え、実行部は、キャリブレーションを実行する際に、記憶部に記憶されたキャリブレーションの結果と周波数チャネルを識別するための番号を参照してもよい。この場合、キャリブレーションの結果と周波数チャネルを識別するための番号を記憶しているので、同一の周波数チャネルをキャリブレーションに使用するとき、記憶したキャリブレーションの結果を参照すれば、キャリブレーションの結果を簡易に導出できる。
【0014】
本発明の別の態様は、端末装置である。この装置は、通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうちのいずれかを使用している基地局装置を選択する選択部と、選択部において選択したひとつの基地局装置への信号を複数のアンテナから送信し、かつ選択した基地局装置からの信号を複数のアンテナによって受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行する実行部と、を備える。
【0015】
この態様によると、複数の周波数チャネルのうちのいずれかを使用している基地局装置を選択するので、キャリブレーションを実行できる。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、無線装置である。この装置は、通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうち、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択する選択部と、選択部において選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナから所定の無線装置への信号を送信し、かつ複数のアンテナによって所定の無線装置からの信号を受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行する実行部と、を備える。
【0017】
この態様によると、複数の周波数チャネルのうち、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択してから、キャリブレーションを実行するので、複数の周波数チャネルの中のキャリブレーションに適した周波数チャネルを選択でき、キャリブレーションの結果に含まれる誤差を低減できる。
【0018】
本発明のさらに別の態様もまた、無線装置である。この装置は、通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうちの少なくともひとつについて、電波環境を調査する調査部と、調査部での調査の結果をもとに、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択する選択部と、選択部において選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナから他の無線装置への信号を送信し、かつ複数のアンテナによって他の無線装置からの信号を受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行する実行部と、を備える。
【0019】
この態様によると、伝搬環境の調査の結果から選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、キャリブレーションを実行するので、複数の周波数チャネルの中のキャリブレーションに適した周波数チャネルを選択でき、キャリブレーションの結果に含まれる誤差を低減できる。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、キャリブレーション方法である。この方法は、通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうち、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択し、当該周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナから無線装置への信号を送信し、かつ複数のアンテナによって無線装置からの信号を受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行する。
【0021】
本発明のさらに別の態様もまた、キャリブレーション方法である。この方法は、通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうち、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択するステップと、選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナから所定の無線装置への信号を送信し、かつ複数のアンテナによって所定の無線装置からの信号を受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行するステップと、を備える。
【0022】
複数の端末装置からの信号を受信するステップをさらに備え、実行するステップは、受信した信号をもとに、複数の端末装置から、キャリブレーションに使用可能な端末装置を選択してもよい。実行するステップは、受信した信号の品質を導出し、導出した信号の品質を端末装置の選択に使用してもよい。実行したキャリブレーションの結果であって、かつ選択したひとつの周波数チャネルにおけるキャリブレーションの結果をメモリに記憶するステップをさらに備えてもよい。実行したキャリブレーションの結果であって、かつ選択したひとつの周波数チャネルにおけるキャリブレーションの結果と、キャリブレーションに使用した周波数チャネルを識別するための番号を対応づけながらメモリに記憶するステップをさらに備え、実行するステップは、キャリブレーションを実行する際に、メモリに記憶されたキャリブレーションの結果と周波数チャネルを識別するための番号を参照してもよい。
【0023】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、キャリブレーションの結果に含まれる誤差を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を具体的に説明する前に、概要を述べる。本発明の実施例は、基地局装置と端末装置によって構成されるMIMOシステムに関する。基地局装置と端末装置は、共にアダプティブアレイ信号処理を実行する。また、MIMOシステムによって使用される周波数帯には、複数の周波数チャネルが規定されており、基地局装置は、複数の周波数チャネルのうちのひとつを選択する。また、基地局装置や端末装置は、信号を送信する際にもアダプティブアレイ信号処理を実行しているので、アンテナ単位に異なったミスマッチを低減することを目的として、キャリブレーションを実行する。前述のごとく、キャリブレーションの結果に含まれる誤差が大きくなれば、アダプティブアレイ信号処理の精度が低下するので、通信品質が悪化するおそれがある。そのため、本実施例では、以下のように、キャリブレーションを実行する。なお、以下では、説明を明瞭にするために、基地局装置に関するキャリブレーションを説明する。
【0026】
基地局装置は、複数の周波数チャネルに対して、チャネルサーチ、すなわち他の信号による干渉量を測定する。さらに、基地局装置は、干渉量の少ない周波数チャネルを選択する。端末装置に伝送路特性を推定させるために、基地局装置は、トレーニング信号を送信する。端末装置は、基地局装置の複数のアンテナと、端末装置の複数のアンテナとの組み合わせにそれぞれ対応した伝送路特性を推定する(以下、組み合わせのそれぞれ対応した伝送路特性、およびそれらの伝送路特性を行列の形式等にまとめたものを「伝送路特性」といい、両者を区別しないものとする)。また、端末装置おいて推定された伝送路特性は、下り回線の伝送路特性に相当する。
【0027】
さらに、基地局装置に伝送路特性を推定させるために、端末装置は、トレーニング信号を送信する。その際、端末装置は、下り回線の伝送路特性をデータとして送信する。基地局装置は、基地局装置の複数のアンテナと、端末装置の複数のアンテナとの組み合わせにそれぞれ対応した伝送路特性を推定する。当該伝送路特性は、上り回線の伝送路特性に相当する。基地局装置は、上り回線の伝送路特性と下り回線の伝送路特性をもとに、キャリブレーションを実行することによって、複数のアンテナ間におけるミスマッチの差異を導出する。このように、キャリブレーションを実行する際に、基地局装置は、他の信号による干渉の少ない周波数チャネルを選択するので、本実施例は、キャリブレーションの結果に含まれる誤差を低減できる。
【0028】
図1は、本発明の実施例に係るマルチキャリア信号のスペクトルを示す。特に、図1は、OFDM変調方式での信号のスペクトルを示す。OFDM変調方式における複数のキャリアのひとつをサブキャリアと一般的に呼ぶが、ここではひとつのサブキャリアを「サブキャリア番号」によって指定するものとする。ここでは、IEEE802.11a規格と同様に、サブキャリア番号「−26」から「26」までの53サブキャリアが規定されている。なお、サブキャリア番号「0」は、ベースバンド信号における直流成分の影響を低減するため、ヌルに設定されている。それぞれのサブキャリアは、可変に設定された変調方式によって変調されている。
【0029】
変調方式には、BPSK(Binary Phase Shift Keying)、QSPK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、64QAMのいずれかが使用される。また、これらの信号には、誤り訂正方式として、畳み込み符号化が適用されている。畳み込み符号化の符号化率は、1/2、3/4等に設定される。さらに、MIMOシステムにおいて使用されるアンテナの本数は、可変に設定される。その結果、変調方式、符号化率、アンテナ本数の値が可変に設定されることによって、データレートも可変に設定される。
【0030】
図2は、本発明の実施例に係る通信システム100の構成を示す。通信システム100は、基地局装置10、端末装置90を含む。また、基地局装置10は、アンテナ12と総称される第1アンテナ12a、第2アンテナ12b、第3アンテナ12c、第4アンテナ12dを含み、端末装置90は、アンテナ14と総称される第1アンテナ14a、第2アンテナ14b、第3アンテナ14c、第4アンテナ14dを含む。下り回線では、基地局装置10が送信装置に相当し、端末装置90の受信装置に相当する。上り回線では、下り回線と反対の対応になる。
【0031】
通信システム100の構成を説明する前に、MIMOシステムの概略を説明する。下り回線を説明の対象とし、データは、基地局装置10から端末装置90に送信されているものとする。基地局装置10は、第1アンテナ12aから第4アンテナ12dのそれぞれから、異なったデータを送信する。その結果、データレートが高速になる。端末装置90は、第1アンテナ14aから第4アンテナ14dによって、データを受信する。さらに、端末装置90は、アダプティブアレイ信号処理によって、第1アンテナ12aから第4アンテナ12dのそれぞれから送信されたデータを独立に復調する。
【0032】
ここで、アンテナ12の本数は「4」であり、アンテナ14の本数も「4」であるので、アンテナ12とアンテナ14の間の伝送路の組合せは「16」になる。第iアンテナ12iから第jアンテナ14jとの間の伝送路特性をhijと示す。図中において、第1アンテナ12aと第1アンテナ14aとの間の伝送路特性がh11、第1アンテナ12aから第2アンテナ14bとの間の伝送路特性がh12、第2アンテナ12bと第1アンテナ14aとの間の伝送路特性がh21、第2アンテナ12bから第2アンテナ14bとの間の伝送路特性がh22、第4アンテナ12dから第4アンテナ14dとの間の伝送路特性がh44と示されている。なお、これら以外の伝送路は、図の明瞭化のために省略する。
【0033】
端末装置90は、アダプティブアレイ信号処理によって、第1アンテナ12aから第2アンテナ12bによってそれぞれ送信されたデータを独立して復調できるように動作する。さらに、基地局装置10も、送信の際に第1アンテナ12aから第4アンテナ12dに対してアダプティブアレイ信号処理を実行する。このように送信側の基地局装置10もアダプティブアレイ信号処理を実行することによって、MIMOシステムにおける空間の分割が確実になる。その結果、複数のアンテナ12において送信される信号間の干渉が小さくなるので、本実施例は、通信品質を向上できる。なお、基地局装置10と端末装置90の動作が、反対になってもよい。
【0034】
図3(a)−(b)は、通信システム100でのバーストフォーマットの構成を示す。図3(a)は、使用されるアンテナ12の数が「2」である場合のバーストフォーマットである。図の上段が、第1アンテナ12aから送信されるバースト信号を示し、図の下段が、第2アンテナ12bから送信されるバースト信号を示す。「Legacy STS(Short Training Sequence)」、「Legacy LTS(Long Training Sequence)」、「Legacy シグナル」は、IEEE802.11a規格に準拠した無線LANシステムのごとく、MIMOに対応していない通信システムと互換性を有する信号である。
【0035】
「Legacy STS」は、AGC(Automatic Gain Control)の設定およびタイミング同期等に使用され、「Legacy LTS」は、伝送路特性の推定に使用され、「Legacy シグナル」は、制御情報を含む。「MIMOシグナル」以降は、MIMOシステムに特有の信号であり、「MIMOシグナル」は、MIMOシステムに対応した制御情報を含む。「第1MIMO−STS」と「第2MIMO−STS」は、AGCの設定およびタイミング同期等に使用され、「第1MIMO−LTS」と「第2MIMO−LTS」は、伝送路特性の推定に使用され、「第1データ」と「第2データ」は、送信すべきデータである。
【0036】
図3(b)は、図3(a)と同様に、データの送信のために「2」本のアンテナ12が使用される場合のバーストフォーマットである。しかしながら、前述のトレーニング信号が付加されている。トレーニング信号は、図中において、「第1MIMO−LTS」から「第4MIMO−LTS」に対応する。また、「第3MIMO−LTS」と「第4MIMO−LTS」に対応するように、「第3MIMO−STS」と「第4MIMO−STS」とが付加される。ここで、「第1MIMO−STS」、「第1MIMO−LTS」から「第4MIMO−STS」、「第4MIMO−LTS」は、第1アンテナ12aから第4アンテナ12dによってそれぞれ送信される。以下、「第1MIMO−STS」から「第4MIMO−STS」を「MIMO−STS」と総称し、「第1MIMO−LTS」から「第4MIMO−LTS」を「MIMO−LTS」と総称し、「第1データ」と「第2データ」を「データ」と総称する。
【0037】
トレーニング信号を送信する際のバーストフォーマットは、図3(b)に限定されない。例えば、MIMO−LTSのいずれかが、異なるタイミングとなるように配置されていてもよい。また、MIMO−LTSが4つのアンテナ12に対応してなくてもよい。また、「2」本のアンテナ12に対応したデータが、分離され、「4」本のアンテナに対応してもよい。また、MIMO−LTSを送信するアンテナ12のすべてから、MIMO−STSが送信されなくてもよい。さらに、図3(a)や(b)が、アンテナ12から送信される際のバーストフォーマットでなく、その前段におけるバーストフォーマットであってもよい。この場合は、前述のアンテナ12を系列と読み替えればよい。バーストフォーマットの少なくとも一部に、ステアリング行列が乗算されることによって、バースト信号は、より多くのアンテナ12に対応したフォーマットになる。つまり、伝送路特性を推定させるために必要なアンテナ12からトレーニング信号が送信されればよい。すなわち、「トレーニング信号」とは、端末装置90に伝送路特性を推定させるために、送信すべきデータの数にかかわらず、推定させるべき伝送路特性に応じた系列の数のMIMO−LTSに相当する。
【0038】
「第1MIMO−STS」から「第4MIMO−STS」は、互いの干渉が小さくなるようなパターンによって構成されている。「第1MIMO−LTS」から「第4MIMO−LTS」も同様である。ここでは、これらの構成の説明を省略する。一般的に、「Legacy LTS」や図3(a)における「第1MIMO−LTS」等が、トレーニング信号といわれる場合もあるが、ここでは、前述のような図3(b)の信号がトレーニング信号と呼ばれる。
【0039】
図4は、基地局装置10の構成を示す。基地局装置10は、無線部20と総称される第1無線部20a、第2無線部20b、第4無線部20d、処理部22と総称される第1処理部22a、第2処理部22b、第4処理部22d、変復調部24と総称される第1変復調部24a、第2変復調部24b、第4変復調部24d、IF部26、制御部30、調査部70、選択部72、実行部74、記憶部76、設定部78を含む。また信号として、時間領域信号200と総称される第1時間領域信号200a、第2時間領域信号200b、第4時間領域信号200d、周波数領域信号202と総称される第1周波数領域信号202a、第2周波数領域信号202b、第4周波数領域信号202d、補正値信号204を含む。なお、端末装置90も同様の構成を有する。なお、以下の説明において、送信動作は、下り回線の通信に相当し、受信動作は、上り回線の通信に相当する。
【0040】
無線部20は、受信動作として、アンテナ12によって受信した無線周波数の信号を周波数変換し、ベースバンドの信号を導出する。無線部20は、ベースバンドの信号を時間領域信号200として処理部22に出力する。一般的に、ベースバンドの信号は、同相成分と直交成分によって形成されるので、ふたつの信号線によって伝送されるべきであるが、ここでは、図を明瞭にするためにひとつの信号線だけを示すものとする。また、AGCやA/D変換部も含まれる。無線部20は、送信動作として、処理部22からのベースバンドの信号を周波数変換し、無線周波数の信号を導出する。ここで、処理部22からのベースバンドの信号も時間領域信号200として示す。無線部20は、無線周波数の信号をアンテナ12に出力する。また、PA(Power Amplifier)、D/A変換部も含まれる。時間領域信号200は、時間領域に変換されたマルチキャリア信号であり、デジタル信号であるものとする。さらに、無線部20において処理される信号は、バースト信号を形成しており、そのバーストフォーマットは、図3(a)−(b)に示した通りである。
【0041】
処理部22は、受信動作として、複数の時間領域信号200をそれぞれ周波数領域に変換し、周波数領域の信号に対してアダプティブアレイ信号処理を実行する。処理部22は、アダプティブアレイ信号処理の結果を周波数領域信号202として出力する。ひとつの周波数領域信号202が、図2におけるひとつのアンテナ14から送信された信号に対応する。処理部22は、送信動作として、変復調部24から、周波数領域の信号としての周波数領域信号202を入力し、周波数領域の信号に対してアダプティブアレイ信号処理を実行する。すなわち、ビームフォーミングが実行される。また、処理部22は、後述する補正値信号204によって、アダプティブアレイ信号処理した信号を補正する。
【0042】
補正値信号204は、アンテナ12単位で異なった値を有する。そのため、補正値信号204は、アンテナ12のそれぞれに対応するように、図示しない第1補正値信号204aから第4補正値信号204dを含む。図では、ひとつの補正値信号204によって代表させている。処理部22は、補正した信号を時間領域に変換し、時間領域信号200として出力する。送信処理において使用すべきアンテナ12の数は、制御部30によって指定されるものとする。ここで、周波数領域の信号である周波数領域信号202は、図1のごとく、複数のサブキャリアの成分を含むものとする。図を明瞭にするために、周波数領域の信号は、サブキャリア番号の順に並べられて、シリアル信号を形成しているものとする。
【0043】
図5は、周波数領域の信号の構成を示す。ここで、図1に示したサブキャリア番号「−26」から「26」のひとつの組合せを「OFDMシンボル」というものとする。「i」番目のOFDMシンボルは、サブキャリア番号「1」から「26」、サブキャリア番号「−26」から「−1」の順にサブキャリア成分を並べているものとする。また、「i」番目のOFDMシンボルの前に、「i−1」番目のOMDMシンボルが配置され、「i」番目のOFDMシンボルの後ろに、「i+1」番目のOMDMシンボルが配置されているものとする。
【0044】
図4に戻る。変復調部24は、受信処理として、処理部22からの周波数領域信号202に対して、復調および復号を実行する。なお、復調および復号は、サブキャリア単位でなされる。変復調部24は、復号した信号をIF部26に出力する。また、変復調部24は、送信処理として、符号化および変調を実行する。変復調部24は、変調した信号を周波数領域信号202として処理部22に出力する。送信処理の際に、変調方式および符号化率は、制御部30によって指定されるものとする。
【0045】
IF部26は、受信処理として、複数の変復調部24からの信号を合成し、ひとつのデータストリームを形成する。IF部26は、データストリームを出力する。また、IF部26は、送信処理として、ひとつのデータストリームを入力し、これを分離する。さらに、分離したデータを複数の変復調部24に出力する。
【0046】
調査部70は、通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうちの少なくともひとつについて、電波環境を調査する。すなわち、チャネルサーチを実行する。MIMOシステムには、使用可能な周波数チャネルが、予め複数規定されている。調査部70は、それぞれの周波数チャネルにおいて、無線部20によって受信した信号の強度、例えばRSSI(Received Signal Strength Indicator)を測定する。基地局装置10は、測定を実行している周波数チャネルにおいて通信を実行していないので、測定された信号の強度は、他の通信装置による干渉の強度に相当する。調査部70は、複数の周波数チャネルに対して、以上の測定を実行する。図6は、調査部における調査の結果のデータ構造を示す。図示のごとく、周波数チャネルが、「1」から「X」まで規定されており、それぞれの周波数チャネルにおいて、信号強度が「Y1(dB)」のように測定される。
【0047】
図4に戻る。選択部72は、調査部70での調査の結果をもとに、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択する。具体的に説明すると、選択部72は、複数の周波数チャネルに対する信号強度の中から、最も信号強度の小さい周波数チャネルを選択する。このような周波数チャネルは、他の通信装置による干渉の強度の小さい周波数チャネルに相当する。選択部72は、選択した周波数チャネルの情報を実行部74に通知するとともに、図示しない信号線を介して、制御部30にも通知する。制御部30は、通知された周波数チャネルによって通信を実行するように、無線部20等を制御する。なお、調査部70と選択部72の動作は、基地局装置10自体を起動したときや、現在使用してる周波数チャネルを切りかえる際に実行される。また、調査部70と選択部72の動作を一体的に実行してもよい。すなわち、調査部70と選択部72は、ひとつの周波数チャネルにおいて、信号の強度を測定し、測定した信号強度をしきい値と比較する。信号の強度がしきい値よりも低ければ、調査部70と選択部72は、当該周波数チャネルを選択する。この場合、残りの周波数チャネルは、測定されない。そのため、処理の期間が短縮される。信号の強度がしきい値よりも低くなければ、調査部70と選択部72は、次の周波数チャネルに移行してから、同様の動作を実行する。
【0048】
無線部20、処理部22、変復調部24は、複数の端末装置90からの信号を受信する。信号は、任意のものでよく、例えば、端末装置90からの接続要求であってもよい。基地局装置10は、信号に含まれた端末装置90の識別番号、例えば、MACアドレス等を抽出する。また、無線部20が信号の強度を測定する。このようにして、複数の端末装置90に対して、識別番号と信号強度とが対応づけられる。
【0049】
実行部74は、複数の端末装置90に対する信号の強度をもとに、複数の端末装置90から、キャリブレーションに使用可能な端末装置90を選択する。ここでは、信号の強度が最大になる端末装置90を選択する。基地局装置10は、後述のごとく、端末装置90との間において、信号を送受信し、送受信された信号を使用しながら、キャリブレーションを実行する。そのため、信号の強度がある程度大きい方が、キャリブレーションの精度が向上する。実行部74は、選択部72において選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナ12から端末装置90への信号を送信する。ここで、送信する信号は、前述のトレーニング信号に相当する。また、実行部74は、複数のアンテナ12を介して、端末装置90からのトレーニング信号を受信してから、複数のアンテナ12に対するキャリブレーションを実行する。
【0050】
このようなキャリブレーションの動作を説明する。ここでは、基地局装置10のアンテナ12に対するキャリブレーションを説明する。送信側の応答は、次のように示される。
【数1】

αは応答の成分を示しており、αはアンテナ12の数だけ含まれる。図4において、アンテナ12の数は、「4」であるが、ここでは、これを抽象化して「N」とする。iは、装置を識別しており、「1」が基地局装置10に相当し、「2」が端末装置90に相当する。また、受信側の応答は、次のように示される。
【数2】

【0051】
βは応答の成分を示しており、それ以外は、送信側の表記と同様である。なお、説明を明瞭にするために、基地局装置10と端末装置90に対して、アンテナの数が等しいとした。基地局装置10から端末装置90への伝送路特性の行列をH(1→2)によって示す。ここで、行列H(1→2)は、「アンテナ12の数×アンテナ14の数」の成分を有する。また、各成分の値は、図2のh11等となる。さらに、このような伝送路特性、送信側の応答、受信側の応答を考慮した総合的な伝送路特性は、次のように示される。
【数3】

これを行列の要素として示せば、次のように示される。
【数4】

【0052】
h’(1→2)(k2k1)は、基地局装置10のk1番目のアンテナ12から端末装置90のk2番目のアンテナ14への総合的な伝送路特性に相当する。なお、このような行列は、端末装置90によって導出される。その際に、基地局装置10によって送信されたトレーニング信号が使用される。また、端末装置90は、基地局装置10に対してトレーニング信号を送信する際に、導出した総合的な伝送路特性の値をデータとして送信する。そのため、実行部74は、端末装置90から、以上のデータを取得する。さらに、処理部22は、端末装置90によって送信されたトレーニング信号をもとに、端末装置90のk2番目のアンテナ14から基地局装置10のk1番目のアンテナ12への総合的な伝送路特性を導出する。そのため、実行部74は、このようなデータも取得する。調査部70は、下り回線と上り回線の総合的な伝送路特性の比を次のように計算する。
【0053】
【数5】

h’(1→2)(k2k1)とh’(2→1)(k1k2)とが、等しいとした。さらに、基地局装置10のアンテナ12を第1アンテナ12aに固定すれば、次の関係が成り立つ。
【数6】

両者の比は、次のように示される。
【数7】

このような比が、複数のアンテナ12間におけるミスマッチの差異を示す。すなわち、第1アンテナ12aに対する他のアンテナ12のミスマッチの差異を導出し、これをアンテナ12のそれぞれに対する補正値とする。なお、第1アンテナ12aに対する第1アンテナ12aのミスマッチでは、分母と分子が等しくなるので、値が「1」になる。
【0054】
記憶部76は、実行部74において実行したキャリブレーションの結果、すなわちアンテナ12のそれぞれに対する補正値を記憶する。なお、キャリブレーションは、選択部72において選択したひとつの周波数チャネルにおいてなされるので、記憶部76は、ひとつの周波数チャネルに対応した補正値を記憶できるだけの記憶容量を有する。
【0055】
設定部78は、補正値を補正値信号204として処理部22に出力する。前述のごとく、補正値信号204は、各アンテナ12の数だけの成分を有する。図4では、「4」つの成分を有する。なお、前述のごとく、第1アンテナ12aに対する成分の値は、「1」である。
【0056】
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた通信機能のあるプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0057】
図7は、第1処理部22aの構成を示す。第1処理部22aは、FFT(Fast Fourier Transform)部40、合成部42、参照信号生成部44、受信ウエイトベクトル計算部54、分離部46、送信ウエイトベクトル計算部52、IFFT部48、プリアンブル付加部50、補正部64を含む。また、合成部42は、乗算部56と総称される第1乗算部56a、第2乗算部56b、第4乗算部56d、加算部60を含む。また、分離部46は、乗算部58と総称される第1乗算部58a、第2乗算部58b、第4乗算部58dを含む。また、補正部64は、乗算部62と総称される第1乗算部62a、第2乗算部62b、第4補正部64dを含む。また、信号として、補正値信号204と総称される第1補正値信号204a、第2補正値信号204b、第4補正値信号204dを含む。
【0058】
FFT部40は、複数の時間領域信号200を入力し、それぞれに対してフーリエ変換を実行して、周波数領域の信号を導出する。前述のごとく、ひとつの周波数領域の信号として、サブキャリア番号の順に、サブキャリアに対応した信号がシリアルに並べられている。
【0059】
乗算部56は、受信ウエイトベクトル計算部54からの受信ウエイトベクトルによって、周波数領域の信号を重み付けし、加算部60は乗算部56の出力を加算する。ここで、周波数領域の信号は、サブキャリア番号の順に配置されているので、受信ウエイトベクトル計算部54からの受信ウエイトベクトルもそれに対応するように配置されている。すなわち、ひとつの乗算部56は、サブキャリア番号の順に配置された受信ウエイトベクトルを逐次入力する。そのため、加算部60は、サブキャリア単位で、乗算結果を加算する。その結果、加算された信号も、図5のごとく、サブキャリア番号の順にシリアルに並べられている。また、加算された信号が、前述の周波数領域信号202である。
【0060】
なお、以下の説明においても、処理対象の信号が周波数領域に対応している場合、処理は、基本的にサブキャリアを単位にして実行される。ここでは、説明を簡潔にするために、ひとつのサブキャリアにおける処理を説明する。そのため、複数のサブキャリアに対する処理には、ひとつのサブキャリアにおける処理をパラレルあるいはシリアルに実行することによって、対応される。
【0061】
参照信号生成部44は、「Legacy STS」、「Legacy LTS」、「第1MIMO−STS」、「第1MIMO−LTS」期間中は予め記憶した「Legacy STS」、「Legacy LTS」、「第1MIMO−STS」、「第1MIMO−LTS」を参照信号として出力する。またこれらの期間以外は、予め規定しているしきい値によって、周波数領域信号202を判定し、その結果を参照信号として出力する。なお、判定は硬判定でなく、軟判定でもよい。
【0062】
受信ウエイトベクトル計算部54は、FFT部40からの周波数領域の信号、周波数領域信号202、参照信号にもとづいて、受信ウエイトベクトルを導出する。受信ウエイトベクトルの導出方法は、任意のものでよく、そのひとつはLMS(Least Mean Squeare)アルゴリズムによる導出である。また、受信ウエイトベクトルは、相関処理によって導出されてもよい。その際、周波数領域の信号と参照信号は、第1処理部22aからだけではなく、図示しない信号線によって、第2処理部22b等からも入力されるものとする。第1処理部22aにおける周波数領域の信号をx1(t)、第2処理部22bにおける周波数領域の信号をx2(t)と示し、第1処理部22aにおける参照信号をS1(t)、第2処理部22bにおける参照信号をS2(t)と示せば、x1(t)とx2(t)は、次の式のように示される。
【0063】
【数8】

なお、アンテナ12とアンテナ14の数は、「2」とする。ここで、雑音は無視する。第1の相関行列R1は、Eをアンサンブル平均として、次の式のように示される。
【数9】

参照信号間の第2の相関行列R2は、次の式のように計算される。
【0064】
【数10】

最終的に、第2の相関行列R2の逆行列と第1の相関行列R1を乗算することによって、受信応答ベクトルが導出される。
【数11】

さらに、受信ウエイトベクトル計算部54は、受信応答ベクトルから受信ウエイトベクトルを計算する。なお、導出された受信応答ベクトルは、前述のキャリブレーションの際に、総合的な伝送路特性として使用される。以下、総合的な伝送路特性と伝送路特性とを区別せずに、単に「伝送路特性」と呼ぶ。
【0065】
送信ウエイトベクトル計算部52は、受信ウエイトベクトルから、周波数領域信号202の重み付けに必要な送信ウエイトベクトルを推定する。送信ウエイトベクトルの推定方法は、任意とするが、最も簡易な方法として、受信ウエイトベクトルをそのまま使用すればよい。あるいは、受信処理と送信処理との時間差によって生じる伝搬環境のドップラー周波数変動を考慮し、従来の技術によって、受信ウエイトベクトルを補正してもよい。なお、ここでは、受信ウエイトベクトルをそのまま送信ウエイトベクトルに使用するものとする。
【0066】
乗算部58は、送信ウエイトベクトルによって、周波数領域信号202を重み付けする。乗算部62は、乗算部58の乗算結果に、補正値信号204を乗算する。前述のごとく、乗算部58の乗算結果の数、補正値信号204の数は、アンテナ12の数である。そのため、乗算部62は、乗算部58の乗算結果と補正値信号204とを対応づけられながら乗算する。例えば、第1乗算部62aは、第1乗算部58aの乗算結果と第1補正値信号204aとを乗算する。また、IFFT部48は、乗算部62からの信号に対して逆フーリエ変換を実行して、時間領域の信号に変換する。プリアンブル付加部50は、図3(a)−(b)のごとく、バースト信号の先頭部分に、プリアンブルを付加する。ここでは、「Legacy STS」、「Legacy LTS」、「第1MIMO−STS」、「第1MIMO−LTS」を付加する。プリアンブル付加部50は、プリアンブルを付加した信号を時間領域信号200として出力する。なお、以上の動作は、図4の制御部30によって制御されるものとする。図7において、第1時間領域信号200a等は、2カ所に示されている。これらは、ひとつの方向の信号であり、これらが、図4における双方向の信号である第1時間領域信号200a等に対応する。
【0067】
以上の構成による通信システム100の動作を説明する。図8は、通信システム100におけるキャリブレーションの手順を示すシーケンス図である。基地局装置10は、複数の周波数チャネルの電波環境を調査する(S10)。基地局装置10は、ひとつの周波数チャネルを選択する(S12)。端末装置90は、信号を送信する(S14)。なお、複数の端末装置90が信号を送信する。基地局装置10は、複数の端末装置90のうちのひとつを選択する(S16)。基地局装置10は、選択した端末装置90に問い合わせを送信する(S18)。問い合わせは、選択した端末装置90をキャリブレーションに使用してよいかを確認する信号に相当する。
【0068】
端末装置90は、問い合わせに対して応答する(S20)。端末装置90が問い合わせに了解しない場合、端末装置90は、応答を送信しなくてもよい。基地局装置10は、トレーニング信号を送信する(S22)。端末装置90は、トレーニング信号にもとづいて、伝送路特性を推定する(S24)。端末装置90は、トレーニング信号を送信すると共に、推定した伝送路特性をデータとして送信する(S26)。基地局装置10は、トレーニング信号にもとづいて、伝送路特性を推定する(S28)。基地局装置10は、推定した伝送路特性、および端末装置90から受けつけた伝送路特性を使用しながら、キャリブレーションを実行する(S30)。基地局装置10は、キャリブレーションの結果を記憶する(S32)。また、基地局装置10は、キャリブレーションの結果を通信に使用する。
【0069】
図9は、基地局装置10におけるキャリブレーションの手順を示すフローチャートである。調査部70は、複数の周波数チャネルの電波環境を調査する(S50)。調査部70は、調査結果にもとづいて、ひとつの周波数チャネルを選択する(S52)。無線部20等は、複数の端末装置90からの信号を受信する(S54)。実行部74は、ひとつの端末装置90を選択する(S56)。無線部20等は、選択した端末装置90に問い合わせを送信する(S58)。端末装置90からの応答がなければ(S60のN)、実行部74は、ステップ56の処理を繰り返し実行する。端末装置90からの応答があれば(S60のY)、無線部20等は、端末装置90にトレーニング信号を送信する(S62)。また、無線部20等は、端末装置90からトレーニング信号を受信すると共に、端末装置90によって推定された伝送路特性をデータとして受信する(S64)。処理部22は、伝送路特性を推定する(S66)。実行部74は、キャリブレーションを実行する(S68)。記憶部76は、キャリブレーションの結果を記憶する(S70)。また、設定部78が、キャリブレーションの結果を補正値信号204として、処理部22に設定する。
【0070】
本発明の実施例によれば、チャネルサーチの結果から選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、キャリブレーションを実行するので、複数の周波数チャネルの中のキャリブレーションに適した周波数チャネルを選択できる。また、キャリブレーションに適した周波数チャネルを選択してから、キャリブレーションを実行するので、キャリブレーションの結果に含まれる誤差を低減できる。また、チャネルサーチによって、信号強度の小さい周波数チャネルを選択するので、他の信号の影響が少ない周波数チャネルをキャリブレーションに使用できる。また、他の信号の影響が少ないことは、干渉の影響が少ないことに相当するので、干渉によるキャリブレーションの結果の誤差を低減できる。また、チャネルサーチとして、信号強度を測定しており、信号強度を測定するための機能は予め備えられているので、回路規模の増加を抑制できる。
【0071】
また、受信した信号をもとに、複数の端末装置の中からキャリブレーションに使用可能な端末装置を選択するので、キャリブレーションに適した端末装置を選択でき、キャリブレーションの結果に含まれる誤差を低減できる。また、複数の周波数チャネルに対するチャネルサーチを予め実行するので、基地局装置を起動したときのキャリブレーション処理を自動化できる。また、複数の周波数チャネルに対するチャネルサーチを予め実行するので、周波数チャネルを切りかえたときのキャリブレーション処理を自動化できる。また、キャリブレーション処理を自動化するので、適宜、キャリブレーション処理を実行できる。また、適宜、キャリブレーション処理を実行することによって、通信品質の悪化を抑制できる。また、ひとつの周波数チャネルにおけるキャリブレーションの結果を記憶すればよいので、記憶容量を小さくできる。
【0072】
これをさらに説明すれば、以下の通りになる。通常、周波数チャネル毎、その中のキャリア周波数毎にキャリブレーションの補正値を記憶する必要がある。しかしながら、本実施例では、周波数チャネルを変更するタイミングにおいて、自動的にキャリブレーションを実行し、異なる周波数チャネルでのキャリブレーションの補正値を上書きしながら記憶するので、記憶容量を小さくできる。
【0073】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0074】
本発明の実施例において、調査部70は、電波環境の調査として、RSSIを測定している。しかしながらこれに限らず例えば、調査部70は、予め記憶した信号と受信した信号との相互相関、受信した信号のうちの送信した信号の成分と予め記憶した信号との自己相関、ノイズフロアを測定し、測定結果をしきい値と比較することによって、ひとつの周波数チャネルを選択してもよい。また、調査部70は、測定結果を前回の測定結果と比較することによって、ひとつの周波数チャネルを選択してもよい。また、調査部70は、複数の周波数チャネルを使用している端末装置90や他の基地局装置10の識別番号等を使用し、識別番号の少ない周波数チャネルを選択してもよい。本変形例によれば、様々な方法によって、無線チャネルの電波環境を測定できる。つまり、キャリブレーションに適した周波数チャネルが選択できればよい。
【0075】
本発明の実施例において、通信システム100は、OFDM変調方式を使用しているものとして説明した。しかしながらこれに限らず、通信システム100は、シングルキャリア方式を使用していてもよい。本変形例によれば、本発明を様々な通信システムに適用できる。つまり、複数のアンテナによって、ビームフォーミングを実行する通信システムであればよい。
【0076】
本発明の実施例において、基地局装置10におけるキャリブレーション処理を説明した。しかしながらこれに限らず例えば、キャリブレーション処理は、端末装置90においてなされてもよい。そのときの端末装置90は、図4と同様の構成を有する。しかしながら、調査部70は、周囲に存在する基地局装置10を調査する。また、選択部72は、通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうちのいずれかを使用している基地局装置10を選択する。なお、選択は、信号強度にもとづいてなされてもよい。実行部74は、選択部72において選択したひとつの基地局装置10への信号を複数のアンテナ14から送信し、かつ選択した基地局装置10からの信号を複数のアンテナ14によって受信することによって、複数のアンテナ14に対するキャリブレーションを実行する。キャリブレーション処理等は、実施例と同一であるので、説明を省略する。
本変形例によれば、複数の周波数チャネルのうちのいずれかを使用している基地局装置10を選択するので、キャリブレーションを実行できる。
【0077】
さらに、実施例と変形例を考慮すれば、本発明を一般的な無線装置に適用できる。その際、選択部72は、通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうち、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択する。実行部74は、選択部72において選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナから所定の無線装置への信号を送信し、かつ複数のアンテナによって所定の無線装置からの信号を受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行する。また、実施例に記載した基地局装置10と同様の動作であってもよい。調査部70は、通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうちの少なくともひとつについて、電波環境を調査する。また、選択部72は、調査部70での調査の結果をもとに、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択する。さらに、実行部74は、選択部72において選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナから他の無線装置への信号を送信し、かつ複数のアンテナによって他の無線装置からの信号を受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行する。さらに、これらの構成に、実施例に記載した内容を任意に組み合わせてもよい。このような無線装置は、例えば、アドホックネットワークにおいて使用される。本変形例によれば、複数の周波数チャネルのうち、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択してから、キャリブレーションを実行するので、複数の周波数チャネルの中のキャリブレーションに適した周波数チャネルを選択でき、キャリブレーションの結果に含まれる誤差を低減できる。
【0078】
本発明の実施例において、実行部74は、キャリブレーションに使用可能な端末装置90として、信号の強度が最大になる端末装置90を選択している。しかしながらこれに限らず、実行部74は、受信した信号の品質を導出し、導出した信号の品質を端末装置90の選択に使用してもよい。例えば、実行部74は、一定期間にわたって、端末装置90からの信号の品質を調査し、その中で最も品質の高い信号に対応した端末装置90を選択する。なお、一定期間は、時間によって規定されてもよく、あるいは検出した端末装置90の数が一定の値になるときによって規定されてもよい。また、品質が高いことは、信号強度が高い場合、最もSINRが高い場合、EVMが小さい場合等に相当する。そのため、実行部74は、これらのうちの少なくともひとつを測定する。また別の例として、実行部74は、品質に対してしきい値を予め定めており、当該しきい値よりも品質の高い端末装置90を検出したときに、当該端末装置90を選択する。品質は、前述の通りである。さらに、別の例として、実行部74は、一度キャリブレーションを行った端末装置90の信号の品質を記憶しておき、当該信号の品質よりも高い品質の端末装置90を検出したときに、当該端末装置90を再び選択する。その際、キャリブレーションを再び実行してもよい。本変形例によれば、キャリブレーションの結果に含まれる誤差が低減されるような端末装置を選択できる。
【0079】
本発明の実施例において、記憶部76は、ひとつの周波数チャネルにおいてなされたキャリブレーションの結果を記憶している。しかしながらこれに限らず例えば、記憶部76は、ひとつの周波数チャネルにおけるキャリブレーションの結果と、キャリブレーションに使用した周波数チャネルを識別するための番号を対応づけながら記憶してもよい。その際、実行部74は、次回以降、キャリブレーションを実行する際に、記憶部76に記憶されたキャリブレーションの結果と周波数チャネルを識別するための番号を参照してもよい。すなわち、同一の周波数チャネルにおいて通信する場合、実行部74は、記憶したキャリブレーションの結果を使用することによって、キャリブレーションの動作をスキップできる。あるいは、実行部74は、記憶したキャリブレーションの結果を初期値とすることによって、キャリブレーションの動作を短縮できる。本変形例によれば、キャリブレーションの結果を簡易に導出できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施例に係るマルチキャリア信号のスペクトルを示す図である。
【図2】本発明の実施例に係る通信システムの構成を示す図である。
【図3】図3(a)−(b)は、図2の通信システムでのバーストフォーマットの構成を示す図である。
【図4】図2の基地局装置の構成を示す図である。
【図5】図4における周波数領域の信号の構成を示す図である。
【図6】図4の調査部における調査の結果のデータ構造を示す図である。
【図7】図4の第1処理部の構成を示す図である。
【図8】図2の通信システムにおけるキャリブレーションの手順を示すシーケンス図である。
【図9】図2の基地局装置におけるキャリブレーションの手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0081】
10 基地局装置、 12 アンテナ、 14 アンテナ、 20 無線部、 22 処理部、 24 変復調部、 26 IF部、 30 制御部、 70 調査部、 72 選択部、 74 実行部、 76 記憶部、 78 設定部、 90 端末装置、 100 通信システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうちの少なくともひとつについて、電波環境を調査する調査部と、
前記調査部での調査の結果をもとに、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択する選択部と、
前記選択部において選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナから端末装置への信号を送信し、かつ複数のアンテナによって端末装置からの信号を受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行する実行部と、
を備えることを特徴とする基地局装置。
【請求項2】
複数の端末装置からの信号を受信する受信部をさらに備え、
前記実行部は、前記受信部において受信した信号をもとに、複数の端末装置から、キャリブレーションに使用可能な端末装置を選択することを特徴とする請求項1に記載の基地局装置。
【請求項3】
前記実行部は、前記受信部において受信した信号の品質を導出し、導出した信号の品質を端末装置の選択に使用することを特徴とする請求項2に記載の基地局装置。
【請求項4】
前記実行部において実行したキャリブレーションの結果であって、かつ前記選択部において選択したひとつの周波数チャネルにおけるキャリブレーションの結果を記憶する記憶部をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の基地局装置。
【請求項5】
前記実行部において実行したキャリブレーションの結果であって、かつ前記選択部において選択したひとつの周波数チャネルにおけるキャリブレーションの結果と、キャリブレーションに使用した周波数チャネルを識別するための番号を対応づけながら記憶する記憶部をさらに備え、
前記実行部は、キャリブレーションを実行する際に、前記記憶部に記憶されたキャリブレーションの結果と周波数チャネルを識別するための番号を参照することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の基地局装置。
【請求項6】
通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうちのいずれかを使用している基地局装置を選択する選択部と、
前記選択部において選択したひとつの基地局装置への信号を複数のアンテナから送信し、かつ前記選択した基地局装置からの信号を複数のアンテナによって受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行する実行部と、
を備えることを特徴とする端末装置。
【請求項7】
通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうち、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択する選択部と、
前記選択部において選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナから所定の無線装置への信号を送信し、かつ複数のアンテナによって所定の無線装置からの信号を受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行する実行部と、
を備えることを特徴とする無線装置。
【請求項8】
通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうちの少なくともひとつについて、電波環境を調査する調査部と、
前記調査部での調査の結果をもとに、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択する選択部と、
前記選択部において選択したひとつの周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナから他の無線装置への信号を送信し、かつ複数のアンテナによって他の無線装置からの信号を受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行する実行部と、
を備えることを特徴とする無線装置。
【請求項9】
通信に使用可能な複数の周波数チャネルのうち、通信に使用すべきひとつの周波数チャネルを選択し、当該周波数チャネルを使用しつつ、複数のアンテナから無線装置への信号を送信し、かつ複数のアンテナによって無線装置からの信号を受信することによって、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行するキャリブレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−229359(P2006−229359A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38265(P2005−38265)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】