説明

キースイッチ構造及びキーボード装置

【課題】溢した液体によりリンク機構やホルダー機構の回転支点部や摺動部が固まるのを防止すると共に、キートップの押下感触を良好に維持するキースイッチ構造を提供する。
【解決手段】キートップ111の下部に、キートップ111とともに上下動する可動板118を設け、キートップ111と可動板118の間にシート状弾性部材119を設ける。可動板118の裏面には、第1リンク部材112の一端を回転可能に支持する回転支持部218dと、第2リンク部材113の一端を回転可能にかつ水平方向に移動可能に支持するスライド支持部218eが設けられる。シート状弾性部材119は、可動板118の形状に合わせた絞り部119bを有し、キーボード装置全体に配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理機器、測定装置、医療機器などにおける入力装置として用いられるキーボード装置および該キーボード装置に用いられるキースイッチ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可搬型のパーソナルコンピュータ等に用いられるキーボードにおいては、キートップのどの部分を押下してもキートップが傾くことなく下降する所謂操作性を確保するようにしている。そのために従来のキースイッチ構造においては、キートップの下部にリンク機構を備えている。キートップの下部にリンク機構を備えたキースイッチ構造としては、例えば、特開2001−229764号公報に開示されるものがある。
【0003】
図6に上記文献に開示されるリンク機構を備えた従来のキースイッチ構造を示す。図6において、従来のキースイッチ10は、キートップ11と、キートップ11に対して回転可能に設けられた第1リンク部材12、キートップ11に対して摺動可能に設けられた第2リンク部材13、キートップ11が押下されることにより屈曲し、押下力が排除されるとキートップ11を元の位置に復帰させるラバードーム(弾性部材)14、第1、第2リンク部材12、13を保持するホルダー15、ラバードーム14の直下に接点部16aを有するメンブレンシート16、ホルダー15が固定されるバックプレート17とにより構成されている。第1リンク部材12と第2リンク部材13によりリンク機構が構成される。
【0004】
以上のキースイッチ構造においては、仮にキートップ11の端部が押下された場合でも、第1、第2リンク部材12、13からなるリンク機構によりキートップ11は水平状態を維持しながら下降する。例えば、図6に矢印で示すキートップ11の端部の位置が押下された場合、まず第1リンク部材12の右端部が下降する。第1リンク部材12の左端部は左側へ移動する。これにより第1リンク部材12の中央部は下降し、中央部で第1リンク部材12と連結されている第2リンク部材13も下降する。第2リンク部材13の下降によりキートップ11の左端部も下降する。このようにキートップ11の端部を押下してもキートップ11が水平状態を保ったまま下降することで、押下位置による操作感の差異がないように、即ち、操作性を確保するようにしている。
【0005】
従来のキーボード装置においては、操作者がキースイッチを操作している際に誤ってキーボード上に液体を溢した場合に備えて、防水性を具備した装置が開発され、例えば、特開2005−316694号公報に開示されるものがある。この文献に開示されるキーボード装置は、キースイッチ押下時の空気が入り込む袋状部材を設けることにより、メンブレンシートとキーボードベースの間を密閉し、メンブレンシートとキーボードベースとの隙間から水が浸入することを防止するというものである。
【0006】
この他に防水性を具備するキーボード装置として、例えば、特開2002−216575号公報に開示されるものがある。この公報に開示されるキーボード装置は、フィルム状部材からなる遮蔽部材をキートップの上面からキートップとメンブレンシートとの空隙部にかけて設けるようにしたものである。これにより水滴がメンブレンシートの接点部に流れ込むのを防止するというものである。
【特許文献1】特開2001−229764号公報
【特許文献2】特開2005−316694号公報
【特許文献3】特開2002−216575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記特許文献2に開示されるキースイッチ構造においては、メンブレンシートの下側からの接点部への液体の浸入を防止することができるが、ラバースプリングの外側にあるリンク機構やホルダー機構などに対しては防水対策が施されていない。このため例えば、コーヒーなどの砂糖入りの飲料がリンク機構やホルダー機構に掛かった場合、リンク機構やホルダー機構の回転支点部や摺動部が時間をおくと固まってしまうという問題がある。
【0008】
上記特許文献3に開示されるキーボード装置においてはこのような問題は発生しないが、特許文献3に開示されるように、遮蔽部材をキートップの上面にかぶせた場合、遮蔽部材によりキートップの押下感触が低下するという問題がある。またキートップ上面の遮蔽部材に操作者の爪が常に突き当てられるので、遮蔽部材が破損しやすい。さらにキートップの上面に遮蔽部材が配設されることから、装置としての見栄えが悪いという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、キートップを押下して接点を接触させるキースイッチ構造において、前記キートップの下部に結合され、該キートップとともに上下動する可動板と、前記キートップと前記可動板との間に配設されたシート状弾性部材とを設けたことを特徴とするものである。
【0010】
また本発明に係るキーボード装置は、キートップを押下することにより接点を接触させるキースイッチを複数備えたキーボード装置であって、キートップの下部に結合され、該キートップとともに上下動する可動板と、各キートップと各可動板との間に配設されたシート状弾性部材を設け、前記シート状弾性部材はキースイッチとキースイッチの間で撓み部を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キートップと可動板との間に配設されたシート状弾性部材により接点部に対してもリンク機構に対しても防水性が得られ、またシート状弾性部材はキートップ上面の下側に位置しているので、押下感触が低下することもなく、またシート状弾性部材が破損することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。各図面に共通する要素には同一の符号を付す。図1は本発明の実施の形態におけるキースイッチ構造を示す分解斜視図、図2は実施の形態のキースイッチ構造を示す断面図である。図1、図2において、実施の形態のキースイッチ101は、キートップ111、可動板118、シート状弾性部材119、第1リンク部材112、第2リンク部材113、ラバードーム114、ホルダー115、ラバードーム114の直下に接点部を有するメンブレンシート116、メンブレンシート116の下部に配設されたバックプレート117により構成されている。
【0013】
キートップ111の裏面には、中央部に円柱状の嵌合部111aが下方に延びるように形成され、嵌合部111aの外周には図2に示すように、嵌合溝111aaが形成されている。嵌合部111aの外側には、先端が湾曲状のリング状突起111bが形成されている。リング状突起111bの高さは嵌合部111aより低くなっている。
【0014】
可動板118は略矩形に形成され、中央部に嵌合孔118aが形成されている。嵌合孔118aの内周部には、図2に示すように、エッジ部118aaが形成されており、このエッジ部118aaが上述のキートップ111の嵌合溝111aaに嵌り込むことにより、キートップ111と可動板118が結合される。可動板118の裏面には、第1リンク部材112の一端を回転可能に支持する回転支持部118bと、第2リンク部材113の一端を回転可能にかつ水平方向に移動可能に支持するスライド支持部118cが設けられている。
【0015】
シート状弾性部材119は、シリコンゴムやポリウレタン等で形成され、キーボード装置全体を覆う大きさを有する。シート状弾性部材119の、キートップ111の中央部に対向する位置には、挿入孔119aが形成され、その周囲は可動板118の形状に合わせて絞り部119bが形成されている。絞り部119bの外周はR化(キートップ111の天面角Rよりも大きい)が施されており、円弧状に形成されている。
【0016】
シート状弾性部材119は図2に示すように、キートップ111と可動板118の間に配設される。取付け方は、まず、シート状弾性部材119の挿入孔119aにキートップ111の嵌合部111aを挿入し、次にシート状弾性部材119の下側から可動板118をキートップ111の嵌合部111aに取付ける。即ち、嵌合部111aの嵌合溝111aaに可動板118のエッジ部118aaが嵌まり込むことにより取付けられる。このときキートップ111のリング状突起111bが、図2に示すように、シート状弾性部材119を押圧し、これによりシート状弾性部材119が固定される。
【0017】
またシート状弾性部材119はキーボード装置のすべてのキースイッチに共通に設けられるが、キースイッチとキースイッチの間において、図2に示すように、撓み部119cを持たせて配設している。これによりキートップ111の押下感触に影響が出ないようにしてある。撓み部119cはキートップ111の上下方向の可動領域以上を確保している。またシート状弾性部材119の端部(キーボード装置の端部)は、図2に示すように、粘着剤120によりメンブレンシート116に固着されている。
【0018】
第1リンク部材112は、一対の脚部112a、112bを有し、該脚部112a、112bの一端には可動板118の回転支持部118bに挿入支持される第1連結棒112cが脚部112a,112bを連結するように設けられ、同様に脚部112a,112bの他端には、第2連結棒112dが脚部112a,112bを連結するように設けられていて、更に、脚部112a,112bの各々の外面には、第1連結棒112cと第2連結棒112dとをつなぐ線上にあって、かつそれぞれの連結棒112c,112dに対して等距離となる位置に軸112e,112fが設けられている。
【0019】
第2リンク部材113は一対の脚部113a,113bを有し、該脚部113a,113bの一端には可動板118のスライド支持部118cに回転可能にかつ水平方向に平行移動可能に支持される第1支持突起113c,113dが外側に向けて設けられ、他端には第1リンク部材112の両連結棒112c,112d間と等しい距離に第2支持突起113e,113fが外側に向けて設けられている。また、第1支持突起113c,113dと第2支持突起113e,113fをつなぐ線上にあってかつ各々の支持突起113c,113d;113e,113fに対して等距離となる位置に軸穴113g,113hが設けられている。更に、脚部113a,113bは第1支持突起113c,113dよりも先端側において連結部113iにより連結されている。
【0020】
ラバードーム114は、ゴム等を素材として屈曲可能な略カップ状に形成され、内面中央部に接点押下部114aが下方に向けて突出形成されている。ホルダー115は1キー単位に分割して枠状に形成され、その一端付近に第1リンク部材112の第2連結棒112dを回転可能にかつ水平方向に平行移動可能に支持するためのスライドガイド115bが設けられていて、他端付近には第2リンク部材113の第2支持突起113e,113fを回転自在に支持する回転ガイド115c,115dが設けられている。
【0021】
またホルダー115の両端中央には、ラバードーム114の外周部を固定する円弧形のガイド壁115eが対向するように設けられ、更にホルダー115の下面にはメンブレンシート116の貫通穴116fを囲むように複数個所に所定の長さの溶着用ピン115aが形成されている。
【0022】
メンブレンシート116は、図2に示すように、2枚の可撓性シート116a,116bと、この2枚の可撓性シート116a,116bに挟まれたスペーサシート116cから成り、このスペーサシート116cには、複数のキーに対応して複数の貫通穴116fが設けられている。貫通穴116fは2枚の可撓性シート116a,116b間に空間を形成し、この空間内で互いに対向して位置するように、バックプレート117側の可撓性シート116bには固定接点116dが、ラバードーム114側の可撓性シート116aには可動接点116eがそれぞれ設けられている。貫通孔116fの周囲には透孔116gが設けられている。
【0023】
バックプレート117は、以上の各部品を搭載するように下部に配置されたもので、バックプレート117にはメンブレンシート116の透孔116gに対応してメンブレンシート116とほぼ同等の厚さのスペーサ突起117bが形成されており、各スペーサ突起117bの中央にホルダー115の溶着用ピン115aを通す穴117aが貫通するように設けられている。
【0024】
図3はシート状弾性部材を示す平面図である。図3において、シート状弾性部材119はキーボード装置本体130の全体に渡って設けられ、キースイッチに対応する位置に挿入孔119aが形成されている。図からは明瞭ではないが、挿入孔119aの間には撓み部119cが形成されている。
【0025】
次に本実施の形態の動作を説明する。操作者がキートップ111を上方から押下すると、第1リンク部材112と第3リンク部材113が下降し、ラバードーム114が潰れて可動接点116eと固定接点116dが接触し、キースイッチ101が閉成状態となる。このときシート状弾性部材119は、図4に示すように、撓み部119cを有しているので、押下動作に影響を与えることはなく、キートップ111はスムーズに押下動作を行う。なお図4はキートップの押下状態を示す動作説明図である。
【0026】
ここでもし、操作者がコーヒーなどをキーボード装置上に溢した場合、コーヒーはシート状弾性部材119により第1、第2リンク部材112、113およびメンブレンシート116まで浸入することを阻止され、第1、第2リンク部材112、113やホルダー機構の回転支点部や摺動部が固まることはなく、またメンブレンシート116の接点部(116d、116e)がショートすることもない。
【0027】
またシート状弾性部材119はキートップ111の下側に設けられているので、操作者がキートップ111を何度も押下しても爪等によりシート状弾性部材119が破損することはない。またキートップ111を取り外す場合、キートップ111は可動板118のみに取付けられているので、キートップ111は簡単に取り外すことができ、その際シート状弾性部材119が破損されることはない。
【0028】
次に実施の形態の変形例を説明する。図5は変形例のキースイッチ構造を示す分解斜視図である。図5において、変形例のキースイッチ201においては、前記実施の形態と同様に、可動板218およびシート状弾性部材219が設けられ、キートップ211の裏面には、中央部に円柱状の嵌合部211aが形成され、嵌合部211aの外側にリング状突起211bが形成されている。
【0029】
可動板218は略円形に形成され、中央部に、キートップ211の嵌合部211aが嵌まり込む嵌合孔218aが形成されている。可動板218の裏面には、第1リンク部材112の一端を回転可能に支持する回転支持部218bと、第2リンク部材113の一端を回転可能にかつ水平方向に移動可能に支持するスライド支持部218cが設けられている。
【0030】
シート状弾性部材219は、シリコンゴムやポリウレタン等で形成され、キーボード装置全体を覆う大きさを有する。シート状弾性部材219の、キースイッチ101の中央部に対向する位置には、挿入孔219aが形成され、その周囲は円形の絞り部219bが形成されている。絞り部219bの外周はR化(キートップ211の天面角Rよりも大きい)が施されており、円弧状に形成されている。
【0031】
シート状弾性部材219は上記実施の形態と同様に、キートップ211と可動板218の間に配設される。取付け方も上記実施の形態と同様で、まず、シート状弾性部材219の挿入孔219aにキートップ211の嵌合部211aを挿入し、次にシート状弾性部材219の下側から可動板218をキートップ211の嵌合部211aに取付ける。そしてキートップ211のリング状突起211bがシート状弾性部材219を押圧する。その他の構成は前記実施の形態と同様である。
【0032】
本変形例の動作は上記実施の形態と同様であるので、その説明は省略する。この変形例においては、シート状弾性部材219の絞り部219bが略円形をしているので、キートップ211の端部が押下された場合の押下感触が前記実施の形態の場合よりも優れている。また前記実施の形態のキースイッチ101がモバイルPC用などの小型キーボード装置に適しているのに対し、変形例のキースイッチは、キーピッチ、キーサイズの大きいキーボード装置に適している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態におけるキースイッチ構造を示す分解斜視図である。
【図2】実施の形態のキースイッチ構造を示す断面図である。
【図3】シート状弾性部材を示す平面図である。
【図4】キートップの押下状態を示す動作説明図である。
【図5】変形例のキースイッチ構造を示す分解斜視図である。
【図6】リンク機構を備えた従来のキースイッチ構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
101、201 キースイッチ
111、211 キートップ
111a、211a 嵌合部
111b、211b リング状突起
118、218 可動板
118a、218a 嵌合孔
119、219 シート状弾性部材
119b、219b 絞り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キートップを押下して接点を接触させるキースイッチ構造において、
前記キートップの下部に結合され、該キートップとともに上下動する可動板と、
前記キートップと前記可動板との間に配設されたシート状弾性部材とを設けたことを特徴とするキースイッチ構造。
【請求項2】
前記キートップは、前記シート状弾性部材を圧接する突起部を有する請求項1記載のキースイッチ構造。
【請求項3】
前記シート状弾性部材は、前記可動板の形状に合わせた絞り部を有する請求項1または2記載のキースイッチ構造。
【請求項4】
前記絞り部の外周はR形状である請求項3記載のキースイッチ構造。
【請求項5】
前記絞り部は略円形である請求項3記載のキースイッチ構造。
【請求項6】
前記キートップを水平状態に保持するリンク機構を有し、
前記可動板は、前記リンク機構を回転可能に支持する第1の支持部と、前記リンク機構を摺動可能に支持する第2の支持部とを有する請求項1又は2記載のキースイッチ構造。
【請求項7】
キートップを押下することにより接点を接触させるキースイッチを複数備えたキーボード装置において、
前記キートップの下部に結合され、該キートップとともに上下動する可動板と、
各キートップと各可動板との間に配設されたシート状弾性部材を設け、
前記シート状弾性部材はキースイッチとキースイッチの間で撓み部を有することを特徴とするキーボード装置。
【請求項8】
前記シート状弾性部材は、前記可動板の外周部でR形状を有する請求項7記載のキーボード装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−293922(P2008−293922A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140965(P2007−140965)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】