説明

クエチアピン抗精神病薬による精神病の治療

本発明は、双極性障害に関連する鬱病症状の治療方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジベンゾチアゼピン抗精神病薬を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
双極性障害は、気分の異常が支配的特徴である気分障害である。双極I型障害は、大鬱病性エピソードを通常伴う1種またはそれ以上の躁病または混合性エピソードにより特徴付けられる。双極II型障害は、少なくとも1種の軽躁エピソードを伴う1種またはそれ以上の大鬱病性エピソードにより特徴付けられる。双極性鬱病は、双極I型ないしII型の障害とともに生起する大鬱病性エピソードを意味する。
【0003】
双極性障害の罹患率は、男女間に同数で二分されて、1〜3.5%であると推定される。発病および症状から適切な診断および治療までの間の時間の長さは、約10年である。双極性障害を罹患している人々のたった60%だけが適切な薬物療法を受けていると推定される。
【0004】
双極I型障害の躁病相の治療をガイドする広範かつ新たな文献並びに単極性鬱病治療用の多数の承認された化合物は存在するが、双極性鬱病の治療は広く研究されておらず、そして治療ガイドラインは未熟の状態にある。双極性鬱病の単剤療法用に今日入手できる抗精神病薬の使用は、それらの薬が鬱病から軽躁病または躁病へのスイッチ(“switch”)を増加させ、または周期促進を増大させることがあるので問題のあることが多い。さらに、患者は抗精神病薬の単剤療法において、治療中発生した躁病に陥ることがあり得る。例えば炭酸リチウム(LiCO3)のような気分安定薬の付加使用は一般的であり、そしてこれら合併症の可能性を減少させることがある。
【0005】
証拠によれば、躁病、軽躁病または周期促進のレベルを低下させた気分安定化性質を有する医薬は、双極性鬱病の治療における単剤療法として有用であり得るということが指摘される。抗癲癇薬ラモトリジン(lamotrigine)は、この試験を完了した患者に関して7週の二重盲験式プラセボ比較試験でHAM-DおよびMADRSのスコアの改善をもたらした (Calabrese 1999)。つい最近、抗躁病剤のジバルプロエックス(divalproex)は、プラセボと比較すると、双極性鬱病患者%において8週試験で躁病を伴わずにHAM-Dスコアを50%減少させる数値改善を示した(Sachs, 2001) が、しかしこの差異は統計的に有意ではなかった。また躁病治療用に承認された炭酸リチウムは、単剤療法用薬剤として双極性鬱病患者の約50%で有効であることが証明されている(Bauer)。しかし、上記の諸療法の使用には限界がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
クエチアピンフマル酸塩は米国特許第4,879,288号に記載されており、それは参照により本願明細書に組込まれる。クエチアピンフマル酸塩(クエチアピン)はジベンゾチアゼピン誘導体であり、化学的には2−[2−(4−ジベンゾ[b,f] [1,4]チアゼピン−11−イル−1−ピペラジニル)エトキシ]−エタノールフマル酸塩と称される。
【0007】
しかし、出願人等は、鬱病状態の治療におけるクエチアピンの成功を示す意外な結果に達した。最近の臨床試験によれば、クエチアピンが双極性障害に関連する鬱病の治療に有用であるということを示唆する、以前には認識されていなかった薬理学的性質が分かった。さらに、クエチアピンは、EPS(錐体外路症候群)、プロラクチン、性障害および体重増加の発生が低く、双極性鬱病の治療において耐容性が良好であることが見出された。さらに、クエチアピンは、双極性鬱病の治療では治療中発生した躁病に関連せず、そして治療では治療中発生した躁病の割合が低かった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
今や、クエチアピンまたはその製薬的に許容し得る塩は、1種またはそれ以上の気分障害に関連する鬱病症状の有効な治療薬であることが発見された。
【0009】
本発明のある種の態様は、1種またはそれ以上の気分障害に関連する鬱病症状の治療方法を包含し、それは製薬的に許容し得る担体および式(I)
【化1】

の化合物を含有する医薬組成物の治療上有効な量を患者に投与することからなる。
【0010】
該方法のある種の態様は、患者の1種またはそれ以上の気分障害に関連する鬱病症状の治療用医薬を製造するためのクエチアピンまたはその製薬的に許容し得る塩の化合物の使用を包含する。
【0011】
該方法のその他の態様は、患者の双極性障害に関連する鬱病症状の治療用医薬を製造するためのクエチアピンまたはその製薬的に許容し得る塩の化合物の使用を包含する。
【0012】
本発明は、クエチアピンを投与することによる1種またはそれ以上の気分障害の治療方法に関する。クエチアピンの構造は式I:
【化2】

に示されるとおりである。
【0013】
本発明の1つの態様は、1種またはそれ以上の気分障害に関連する鬱病症状の治療のためにクエチアピンまたはその製薬的に許容し得る塩を患者に投与することからなる方法を提供する。
【0014】
本発明の別の態様は、双極性障害に関連する鬱病症状の治療のためにクエチアピンフマル酸塩を患者に投与することからなる方法を提供する。
【0015】
本発明の別の態様は、双極I型障害に関連する鬱病症状の治療のためにクエチアピンフマル酸塩を患者に投与することからなる方法を提供する。
【0016】
本発明の別の態様は、双極II型障害に関連する鬱病症状の治療のためにクエチアピンフマル酸塩を患者に投与することからなる方法を提供する。
【0017】
本発明の別の態様は、双極性鬱病に関連する鬱病症状の治療のためにクエチアピンフマル酸塩を患者に投与することからなる方法を提供する。
【0018】
本願明細書で使用する“治療的に有効な量”の用語は、上記に命名された障害または状態を治療するのに有効である化合物の量を意味する。
【0019】
1つの態様において、双極性障害はクエチアピンを患者に約300mg/日〜約600mg/日の用量で投与することにより治療され得る。
【0020】
出願人等は、1種またはそれ以上の気分障害の患者の抑鬱性エピソードの治療のためにクエチアピンがプラセボより有効でありそして耐容性が良好であるということを発見した。さらに、出願人等は、双極性鬱病の患者の抑鬱性エピソードの治療のためにクエチアピンがプラセボより有効でありそして耐容性が良好であるということも発見した。さらに、クエチアピンは、双極性障害患者の不安症状、睡眠の質の低下および生活の質の低下の治療のためにプラセボよりも有効でありそして耐容性が良好である。
【0021】
以下に示される実施例は、本発明をいずれかの方法で限定することを意味するものではなく、単に説明のためのものとして意図されるものである。
【実施例】
【0022】
単剤療法試験の結果は、双極性鬱病患者の治療におけるクエチアピンフマル酸塩使用の治療価値を証明する。
【0023】
試験
試験は、ITT集団中511名の患者で539対象において実施した双極性鬱病患者の治療におけるクエチアピンフマル酸塩の使用についての、多施設での、8週間、二重盲験式、無作為化、プラセボ比較、二重ダミーの臨床試験であった。治療はクエチアピンまたはプラセボを用いた。患者は男性43%および女性57%であった。また、患者構成は双極I型67%および双極II型33%から成った。
【0024】
いくつかの主要な試験対象患者基準:DSM-IV の変形された構造化面接(a modified Structured Clinical Interview for DSM-IV (SCID))により確認された、双極性障害I型または双極性障害II型の、最新の抑鬱されたエピソード(296.5xおよび296.89x)に関するDSM-IV基準を満たす;(2)鬱病の現在エピソード>4週。いくつかの主要な臨床試験除外基準:スクリーンおよびベースラインにおいて:HAMD-D (17−項目)のトータルスコア≧20;HAM-D 項目1(抑鬱された気分)のスコア≧2;12ヵ月より長い間の現在エピソードOR 治療のための2種より多くの抗鬱薬の適正な治療単位での以前の治療;YMRSについて>12(すなわち、混合性エピソードなし);双極性障害以外の現在(または過去6ヵ月以内)のI軸障害(Axis I disorder)。
【0025】
投薬
クエチアピンを、300mg/日の処置群では4日目までに1日当りの全用量が約300mg/日 になるように、そして600mg/日の処置群では8日目までに1日当りの全用量が約600mg/日になるように盲験式で漸増投与した。その後はクエチアピンフマル酸塩の経口用量を、約300mg/日または約600mg/日の1日当りの全量で1日に1回盲験式で投与した。
【表1】

【0026】
一次エンドポイント(primary endpoint)はMADRS(Montgomery/Asberg Depression Rating Scale=モンゴメリー/アスベルグ鬱病評価尺度)によりベースラインから最終評価までの変化について測定して決定した。二次エンドポイント(secondary endpoint)は、HAM-D(Hamilton Rating Scale for Anxiety=不安症に関するハミルトン鬱病評価尺度)、CGI-S(Clinical Global Impression-Severity=臨床全般印象重度)、CGI-C(Clinical Global Impression-Change=臨床全般印象変化)によってベースラインからの変化で評価した: プラセボと比較した治療中に発生した躁病の発症率、不安症に対するクエチアピンの効果並びに双極性鬱病患者の治療におけるクエチアピンの安全性および耐容性。探査エンドポイント(exploratory endpoint)には、睡眠の質(Pittsburgh Sleep Quality Index (PSQI)=ピッツバーグ睡眠の質指数により測定される)に関するクエチアピンの有効性、および生活の質全般に関するクエチアピンの有効性(Quality of Life Enjoyment and Satisfaction Questionnaire (Q-Les-Q, 簡易型)=生活の楽しみおよび満足度に関するアンケートによる )が包含される。
【0027】
結果
【表2】

【0028】
有効性のまとめ
8日目からの両用量における抑鬱性症状に対する有効性(p<0.001)(MADRS およびH
AM-Dによる)。MADRS回答者解析ではプラセボより20%優位;MADRS効果サイズ0.6(双極I型&II型);寛解解析ではプラセボより20%優位;MADRS効果サイズ: 0.6(双極I型&II型)。8日目からの両用量における不安症状(HAM-Aによる)での有効性(p<0.01)。8日目からの両用量における臨床改善不安症状(CGIによる)での有効性(p<0.001)。患者での有意の結果により治療成績(PSQIおよびQ-LES-Qによる)が報告された。
【0029】
治療中に発生した躁病
発生した躁病(以下のいずれか1種)についての基準:躁病のAE(Adverse
Event=有害事象)またはSAE(Serious Adverse Event=重度の有害事象)。躁病のAEの撤回。2つの連続評価または最終評価におけるYMRS(Young Mania Rating Scale=若年性躁病評価尺度)≧16。これらの結果は、クエチアピンが双極性鬱病の治療で治療中に発生した躁病(“スイッチング(switching)”)に関与しないことを示唆している。
600mg 300mg プラセボ
4 (2.4%) 6 (3.5%) 7 (4.1%)
【0030】
クエチアピンはまた、不安症および睡眠の質の低下を包含する双極性鬱病の広範囲の症状領域において有効性を示すことが見出された。
【表3】

【0031】
不安症
HAM-A スコアにより測定された不安症の平均ベースラインレベルは処置群を越えて同様であった: 18-6-18.9。クエチアピン約300mg/日および約600mg/日を服用した患者は、最初の評価(8日目)から始めた全ての評価で平均HAM-Aスコア対プラセボにおいて有意に(P<0.05)大きな改善を有し、そしてエンドポイント(8週目)まで(-8.6および-8.7対-5.5)を維持した。
【0032】
安全性のまとめ
予想外のAEの傾向なし;発生した躁病率低い;全ての群で同等;完結率(completion rate)、用量に依存する傾向、AEの撤回増加、効果欠如の撤回減少においては統計上の差異なし。用量依存性の体重変化は小さい。したがって、クエチアピンは双極性鬱病の治療に安全かつ有効であり、双極性鬱病関連の不安症の症状の治療において有効であり、そして双極性鬱病の患者の生活の質および睡眠の質を改善させるのに有効であることが見出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に治療上有効な量のクエチアピンまたはその製薬的に許容し得る塩を投与することからなる、患者の1種またはそれ以上の気分障害の鬱病症状を治療する方法。
【請求項2】
クエチアピンの製薬的に許容し得る塩がクエチアピンフマル酸塩である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
鬱病症状が不安症である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
鬱病症状が睡眠の質の低下である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
鬱病症状が生活の質の低下である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
クエチアピンを患者に対して約300mg/日〜約600mg/日の用量で投与する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
クエチアピンを約300mg/日の用量で投与する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
クエチアピンを約600mg/日の用量で投与する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
クエチアピンを1日に1回投与する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
クエチアピンの量が治療中に発生する躁病の割合を低下させる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
気分障害が双極性障害である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
双極性障害が双極I型である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
双極性障害が双極II型である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
患者に治療上有効な量の式(I)
【化1】

の化合物またはその製薬的に許容し得る塩を投与することからなる、双極性障害の鬱病症状を治療する方法。
【請求項15】
クエチアピンの製薬的に許容し得る塩がクエチアピンフマル酸塩である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
患者に治療上有効な量のクエチアピンまたはその製薬的に許容し得る塩を投与することからなる、患者の1種またはそれ以上の気分障害の鬱病症状を治療する単剤治療方法。
【請求項17】
気分障害が双極性障害である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
双極性障害が双極I型である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
双極性障害が双極II型である、請求項16記載の方法。
【請求項20】
患者に治療上有効な量の2−[2−(4−ジベンゾ[b,f] [1,4]チアゼピン−11−イル−1−ピペラジニル)エトキシ]−エタノールフマル酸塩を投与することからなる、患者の双極性障害の鬱病症状を治療する単剤治療方法。
【請求項21】
クエチアピンおよびその製薬的に許容し得る塩から選択される化合物の抗鬱量を患者に投与することによる鬱病症状の治療方法。
【請求項22】
患者の1種またはそれ以上の気分障害に関連する鬱病症状を治療する医薬の製造のための、クエチアピンまたはその製薬的に許容し得る塩の化合物の使用。
【請求項23】
患者の双極性障害に関連する鬱病症状を治療する医薬の製造のための、クエチアピンまたはその製薬的に許容し得る塩の化合物の使用。

【公表番号】特表2007−520488(P2007−520488A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550998(P2006−550998)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【国際出願番号】PCT/SE2005/000094
【国際公開番号】WO2005/072742
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(391008951)アストラゼネカ・アクチエボラーグ (625)
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
【Fターム(参考)】