説明

クエン酸発酵菌固定化担体及びその製造方法並びにクエン酸の製造方法

【課題】クエン酸を高い生産効率で製造することのできるクエン酸発酵菌固定化担体及びクエン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系多孔質ゲルに、クエン酸発酵菌が担持されてなる、クエン酸発酵菌固定化担体。また、前記クエン酸発酵菌固定化担体と、糖類を含有する水とを接触させることによって、クエン酸を生成させることを特徴とする、クエン酸の製造方法。クエン酸発酵菌としては、アスペルギルス菌株を用いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クエン酸を高効率で生産することを可能ならしめるクエン酸発酵菌固定化担体及びクエン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クエン酸は、多種多様な分野において利用されている。例えば、食品分野においては、各種飲料や食品への酸味付与成分として用いられたり、或いは酸化防止剤として食品に添加されている。また、工業分野においては、精密機械の金属部分の洗浄液や、セメント硬化剤等として利用されている。
【0003】
ところで、クエン酸の製造方法としては、アスペルギルス ニガー菌株を用いて糖蜜の発酵を行わせることによってクエン酸を製造する方法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−237777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、クエン酸の生産効率が低いという問題があった。この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、クエン酸を高い生産効率で製造することのできるクエン酸発酵菌固定化担体及びその製造方法並びにクエン酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0006】
[1]ポリビニルアルコール系多孔質ゲルにクエン酸発酵菌が担持されてなることを特徴とするクエン酸発酵菌固定化担体。
【0007】
[2]前記ポリビニルアルコール系多孔質ゲルが、ポリビニルアルコール又はポリビニルアルコールの共重合体のアセタール化により得られたゲルである前項1に記載のクエン酸発酵菌固定化担体。
【0008】
[3]前記ポリビニルアルコール系多孔質ゲルは、ポリビニルアルコール又はポリビニルアルコールの共重合体がアルギン酸ナトリウムと共に水溶液としてカルシウムイオンを含有した水溶液中に滴下されることによって球状に成形され、次いでアセタール化処理された後、さらにナトリウムイオンを含有した水溶液で処理されて得られた球状ゲルである前項1に記載のクエン酸発酵菌固定化担体。
【0009】
[4]前記ポリビニルアルコール系多孔質ゲルが、連続孔のある三次元立体網目構造を有する前項1〜3のいずれか1項に記載のクエン酸発酵菌固定化担体。
【0010】
[5]前記クエン酸発酵菌がアスペルギルス菌株である前項1〜4のいずれか1項に記載のクエン酸発酵菌固定化担体。
【0011】
[6]クエン酸発酵菌及び糖類を含有した処理水を調製する工程と、
前記処理水と、ポリビニルアルコール系多孔質ゲルとを接触させることにより、該多孔質ゲルにクエン酸発酵菌を担持する担持工程とを包含することを特徴とするクエン酸発酵菌固定化担体の製造方法。
【0012】
[7]前項6に記載の製造方法により得られたクエン酸発酵菌固定化担体。
【0013】
[8]前項1〜5、7のいずれか1項に記載のクエン酸発酵菌固定化担体と、糖類を含有する水とを接触させることによって、クエン酸を生成させることを特徴とするクエン酸の製造方法。
【0014】
[9]前記クエン酸発酵菌固定化担体と、前記糖類を含有する水との接触を、該担体が水中に撹拌された状態で行わせる前項8に記載のクエン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
[1]の発明のクエン酸発酵菌固定化担体は、ポリビニルアルコール(PVA)系多孔質ゲルにクエン酸発酵菌が担持されてなるものである。このポリビニルアルコール系多孔質ゲルは、含水率が高くて水分を取り込みやすい上に、生物親和性が高くて微生物固定化担体として好適な環境が形成され得るから、このクエン酸発酵菌固定化担体を用いれば糖類からクエン酸を高い生産効率で製造することが可能である。
【0016】
[2]の発明では、ポリビニルアルコール系多孔質ゲルが、ポリビニルアルコール又はポリビニルアルコールの共重合体のアセタール化により得られたゲルであるから、より機械的強度に優れたものが提供され得る。従って、このクエン酸発酵菌固定化担体を用いてクエン酸を製造する際に、強い乱流を生じるタービンやプロペラ翼等により撹拌を行うことも可能となる。
【0017】
[3]の発明では、ポリビニルアルコール系多孔質ゲルはより多孔性の高いものとなるから、このクエン酸発酵菌固定化担体を用いてクエン酸を製造する際のクエン酸の生産効率をより向上させることができる。
【0018】
[4]の発明では、ポリビニルアルコール系多孔質ゲルが、連続孔のある三次元立体網目構造を有するものであるから、ゲルの表面積を飛躍的に増大させ得て、クエン酸の生産効率をより一層向上させることができる。
【0019】
[5]の発明では、クエン酸発酵菌としてアスペルギルス菌株が用いられているから、このクエン酸発酵菌固定化担体を用いてクエン酸を製造する際のクエン酸の生産効率をさらに向上させることができる。
【0020】
[6]の発明(製造方法)では、クエン酸発酵菌及び糖類の両方を含有した処理水にポリビニルアルコール系多孔質ゲルを接触させることによってクエン酸発酵菌を担持せしめるので、多孔質ゲルにより多くのクエン酸発酵菌を安定状態に固定化できる。
【0021】
[7]の発明では、ポリビニルアルコール系多孔質ゲルにクエン酸発酵菌が担持されており、このポリビニルアルコール系多孔質ゲルは、含水率が高くて水分を取り込みやすい上に、生物親和性が高くて微生物固定化担体として好適な環境が形成され得るから、このクエン酸発酵菌固定化担体を用いれば糖類からクエン酸を高い生産効率で製造することが可能である。
【0022】
[8]の発明では、クエン酸を高い生産効率で製造することができる。
【0023】
[9]の発明では、クエン酸発酵菌固定化担体と、糖類を含有する水との接触を、該担体が水中に撹拌された状態で行わせるから、クエン酸をより高い生産効率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
この発明に係るクエン酸発酵菌固定化担体は、ポリビニルアルコール(PVA)系多孔質ゲルにクエン酸発酵菌が担持されたものからなる。前記ポリビニルアルコール系多孔質ゲルは、含水率が高くて水分を取り込みやすい上に、生物親和性が高くて微生物に好適な環境が形成され得るから、このクエン酸発酵菌固定化担体を用いれば糖類からクエン酸を高い生産効率で製造することができる。
【0025】
前記ポリビニルアルコール系多孔質ゲルとしては、ポリビニルアルコール又はポリビニルアルコールの共重合体のアセタール化により得られた多孔質ゲルを用いるのが好ましく、この場合には、多孔質ゲルの機械的強度を十分に向上させることができて、クエン酸の製造の際に強い撹拌を行っても十分に耐え得る強度を確保することができる。
【0026】
中でも、前記ポリビニルアルコール系多孔質ゲルとしては、ポリビニルアルコール又はポリビニルアルコールの共重合体がアルギン酸ナトリウムと共に水溶液としてカルシウムイオンを含有した水溶液中に滴下されることによって球状に成形され、次いでアセタール化処理された後、さらにナトリウムイオンを含有した水溶液で処理されて得られた球状多孔質ゲルを用いるのが特に好ましい。この場合には、ゲルの多孔性が向上する結果、このクエン酸発酵菌固定化担体を用いてクエン酸を製造する際のクエン酸の生産効率をより向上させることができる。前記カルシウムイオンを含有した水溶液としては、特に限定されないが、例えば塩化カルシウム水溶液等が挙げられる。また、前記ナトリウムイオンを含有した水溶液としては、特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。
【0027】
前記アセタール化架橋としては、ホルマリン、アセトアルデヒドによるアセタール化処理等が好適である。
【0028】
前記ポリビニルアルコールの共重合体としては、特に限定されないものの、カルボン酸ビニル、炭素数10以下の脂肪族オレフィン及び炭素数10以下の脂環式オレフィンからなる群より選ばれる1種または2種以上の共重合成分と、ビニルアルコールとの共重合で得られる共重合体を用いるのが、生物親和性をより向上できる点で、好ましい。この共重合成分の共重合率は特に限定されないが、十分な強度を確保すると共に良好なリサイクル性を得る観点から、0.1〜30モル%の範囲に設定するのが好ましく、特に好ましいのは1〜20モル%である。更に、コスト面から、脂肪族オレフィンの炭素数は2〜6とするのが好ましく、脂環式オレフィンの炭素数は3〜6とするのが好ましい。
【0029】
前記ポリビニルアルコール系多孔質ゲルの形状は、特に限定されないが、例えば球状、直方体形状、立方体形状等の粉粒体形状が好ましい。粉粒体を用いれば、クエン酸発酵菌固定化のための表面積を大きく増大させることができて、より高効率でクエン酸を製造することができる。多孔質ゲル粉粒体の乾燥時の粒径(直径)は0.5〜10mmであるのが好ましい。
【0030】
更に、前記ポリビニルアルコール系多孔質ゲルは、連続孔を有する三次元立体網目構造を有するものであるのが好ましい。このような三次元立体網目構造とすることにより、その内部の連続孔の表面をもクエン酸発酵菌の固定化に利用することができるから、より一層高効率でクエン酸を製造することができる。中でも、この連続孔の孔径は、1〜100μmであるのが好ましく、特に好適なのは10〜30μmである。
【0031】
前記クエン酸発酵菌としては、糖類からクエン酸を発酵生成できる菌株であれば特に限定されず、例えば、
Saccharomycopsis lipolytica NBRC1658
Aspergillus niger NBRC4414
Aspergillus niger NBRC4415
Aspergillus niger NBRC4416
Aspergillus niger NBRC4417
Aspergillus niger LAM31125
Aspergillus niger var.fermenlarius NBRC4068
Aspergillus niger mut.schiemanni NBRC4091
Aspergillus niger mut.cinnamomeus NBRC6086
Aspergillus awamori var.minimus NBRC4115
Aspergillus awamori var.piceus NBRC4116
Aspergillus awamori var.fuscus NBRC4119
Aspergillus awamori var.fumenus NBRC4122
Aspergillus awamori NBRC4125
Aspergillus awamori NBRC4314
Aspergillus kawachii NBRC4308
Aspergillus usamii mut.Shiro-usamii NBRC6082
Aspergillus usamii NBRC8875
Rhizopus delemar NBRC4771
Rhizopus delemar NBRC4801
Aspergillus NBRC6082
等が挙げられる。これらの中でも、クエン酸を発酵生成する能力に優れている点で、アスペルギルス(Aspergillus )菌株を用いるのが好ましい。
【0032】
次に、前記クエン酸発酵菌固定化担体の製造方法の好適例について説明する。まず、クエン酸発酵菌及び糖類を含有した処理水を調製する。この処理水におけるクエン酸発酵菌の濃度は、特に限定されないものの、0.1〜0.5質量%に設定するのが好ましい。また、前記処理水における糖類の濃度は、特に限定されないものの、10〜14質量%に設定するのが好ましい。前記糖類としては、特に限定されるものではないが、例えばマルトース、スクロース(sucrose)、グルコース、フルクトース、これらの混合物(例えばグルコースとフルクトースの混合物等)などが挙げられる。
【0033】
しかる後、前記処理水と、ポリビニルアルコール系多孔質ゲルとを接触させる。例えば、前記処理水中にポリビニルアルコール系多孔質ゲルを入れて振とう撹拌する。このようにして両者を接触させることによって、ポリビニルアルコール系多孔質ゲルにクエン酸発酵菌を安定状態に担持することができる。
【0034】
なお、ポリビニルアルコール系多孔質ゲルに先に糖類の水溶液を吸収させてからクエン酸発酵菌を塗布した場合には菌を安定状態に担持するのが困難であった(菌が離脱し易かった)。また、ポリビニルアルコール系多孔質ゲルに先にクエン酸発酵菌を塗布してからゲルに糖類の水溶液を吸収せしめてもクエン酸発酵菌の増殖は殆ど行われず、クエン酸発酵菌を安定状態に担持するのは困難であった。
【0035】
上記製造方法は、好適な一例を示したものに過ぎず、この発明のクエン酸発酵菌固定化担体は、上記製造方法で製造されたものに特に限定されるものではない。
【0036】
次に、この発明に係るクエン酸の製造方法について説明する。本製造方法は、上述したクエン酸発酵菌固定化担体と、糖類を含有する水とを接触させることによって、クエン酸を生成させることを特徴とする。例えば、糖類を含有する水に、クエン酸発酵菌固定化担体を分散せしめて該担体を撹拌することによって、クエン酸発酵菌固定化担体と糖類とを接触せしめて、菌の作用により糖類からクエン酸を生成させる。
【0037】
前記クエン酸発酵菌固定化担体と糖類とを接触させる際の水の温度は、通常27〜40℃の範囲に設定するのが好ましい。このような温度範囲に設定することにより、クエン酸の生成効率をより向上させることができる。
【0038】
前記糖類としては、特に限定されるものではないが、例えばマルトース、スクロース(sucrose)、グルコース、フルクトース、これらの混合物(例えばグルコースとフルクトースの混合物等)などが挙げられる。
【0039】
前記糖類を含有する水における糖類の濃度は、特に限定されないが、10〜14質量%の範囲に設定するのが好ましい。なお、前記糖類を含有する水の中に、例えば山伏茸抽出液等を混合しておいても良い。
【0040】
上記のようにしてクエン酸が発酵生成された液から担体を濾別した後、例えば蒸発によりクエン酸を分離することによってクエン酸を高純度で分離回収することができる。
【0041】
上記製造方法により製造されたクエン酸は、特に限定されるものではないが、例えば、各種飲料や食品への酸味付与成分、食品に添加される酸化防止剤、機械の金属部品の洗浄液、接着剤の添加剤、セメント硬化剤、レンガ硬化剤、pH調整剤等として広く利用することができる。
【実施例】
【0042】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
1)クエン酸発酵菌(微生物)の培養
ポテトデキストロース寒天培地(ポテト浸出液の粉末4質量部+グルコース20質量部+寒天15質量部の組成比からなる)を蒸留水に濃度3.9質量%になるように加温溶解した。この加温溶解した液状の寒天培地を試験管内に入れてシリコーン樹脂製の栓で密封した後、オートクレーブを用いて121℃、2気圧の条件で15分間高温高圧蒸気滅菌を行った。この滅菌処理後、試験管内の液状のポテトデキストロース寒天培地を試験管に入れたまま傾けた状態で凝固させることによって、試験管内に斜面培地を形成した。しかる後、無菌クリーンベンチ内において、試験管内の斜面培地(ポテトデキストロース寒天培地)にアスペルギルス菌株(Aspergillus NBRC6082)(独立行政法人製品評価技術基盤機構より入手したもの)を接種した。次いで、前記試験管を恒温インキュベーター内において27℃で1週間保存することによってアスペルギルス菌の培養を行った。
【0044】
2)ポリビニルアルコール系多孔質ゲルの製造
ポリビニルアルコール及びアルギン酸ナトリウムを含有した混合水溶液(ポリビニルアルコールの濃度9質量%、アルギン酸ナトリウムの濃度0.7質量%)を、濃度1.1質量%の塩化カルシウム水溶液中に滴下することによって球状体を得た後、この球状体を濃度8.5質量%のホルムアルデヒド(架橋剤)の水溶液(濃度20質量%の硫酸及び濃度10質量%の硫酸ナトリウムを含有する)中に浸漬することによってアセタール化処理した。次いで、アセタール化処理後の球状体を1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することによって、ポリビニルアルコール系多孔質球状ゲル粒体(5μm前後の連続孔を有する三次元立体網目構造、湿潤時の直径:4mm)を得た。
【0045】
3)クエン酸発酵菌固定化担体の製造
濃度14質量%のスクロース(糖類)水溶液250mLが入った容器に山伏茸の粉末5.0gを入れて恒温横型振とう機を用いて60℃、130spmの条件で120分間振とうすることによって水溶液中に山伏茸の成分を抽出せしめた。次いで減圧濾過を行うことによって山伏茸の抽出残渣を分離除去した。しかる後、前記濾過後の水溶液(濾液)250mLに1)で培養したアスペルギルス菌株を混合して処理水を得た。前記処理水に上記2)で得たポリビニルアルコール系多孔質ゲル粒体(直径4mm)を13.4g入れてオートクレーブを用いて121℃、2気圧の条件で15分間高温高圧蒸気滅菌を行った。しかる後、恒温横型振とう機を用いて30℃、120spmの条件で5日間往復振とうを行うことによって、ポリビニルアルコール系多孔質ゲル粒体にアスペルギルス菌株を担持せしめた後、蒸留水で洗浄して、クエン酸発酵菌固定化担体を得た。
【0046】
4)クエン酸の製造
濃度14質量%のスクロース(糖類)水溶液250mLに山伏茸の粉末5.0gを入れて恒温横型振とう機を用いて60℃、130spmの条件で120分間振とうすることによって水溶液中に山伏茸の成分を抽出せしめた。次いで減圧濾過を行うことによって山伏茸の抽出残渣を分離除去した。濾過後の水溶液(濾液)に対しオートクレーブを用いて121℃、2気圧の条件で15分間高温高圧蒸気滅菌を行うことによって、スクロース及び山伏茸抽出成分を含有した水溶液を得た。得られた水溶液におけるスクロース含有率は14質量%であり、山伏茸抽出成分(β−D−グルカンを含有する)の含有率は2質量%であった。
【0047】
前記スクロース及び山伏茸抽出成分を含有した水溶液2500mLに、前記クエン酸発酵菌固定化担体を約0.2g(乾燥質量)投入した後、マグネット回転子により撹拌を行いながらクエン酸の製造を15日間行った。この時、水溶液の温度を30℃に維持すると共に回転子の回転数を400rpmとした。また、無菌フィルターにより除菌した空気を前記水溶液中に1500mL/分の流量で継続してバブリングした。
【0048】
<比較例1>
前記スクロース(14質量%)及び山伏茸抽出成分(2質量%)を含有した水溶液2500mLに、1)で培養したアスペルギルス菌株(Aspergillus NBRC6082)を約0.2g投入した後、マグネット回転子により撹拌を行いながらクエン酸の製造を15日間行った。この時、水溶液の温度を30℃に維持すると共に回転子の回転数を400rpmとした。また、無菌フィルターにより除菌した空気を前記水溶液中に1500mL/分の流量で継続してバブリングした。
【0049】
実施例1と比較例1において、製造開始から15日間経過までの水溶液中におけるクエン酸の濃度の変化をそれぞれ調べた。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、実施例1では、時間の経過と共にクエン酸濃度は増大しており、クエン酸が効率良く生産された。これに対し、クエン酸発酵菌をそのまま(担体に固定化されていないフリーの状態で)反応系に添加した比較例1では、クエン酸の生成効率は低かった。
【0052】
なお、実施例1のクエン酸の製造において、マグネット回転子による撹拌に代えて、振とう機による振とう撹拌を採用した場合には、時間の経過とともに主にクエン酸発酵菌固定化担体の表層の網目に絡みついたクエン酸発酵菌が液中の栄養を得て増殖し、担体の表層に微生物層を形成した。時間の経過とともに微生物層はさらに成長し、ある程度成長して層厚さが大きくなると担体の表層から剥離した。剥離後の担体の表層には時間の経過とともに新たな微生物層が形成されていた。このような現象からも、ポリビニルアルコール系多孔質ゲルが、クエン酸発酵菌を固定する担体として十分に機能し、クエン酸発酵菌の供給源になっていることがわかる。実施例1では、このような微生物層は確認できなかったが、これはマグネット回転子による撹拌を行っているために液の流れが非常に強く、微生物層を形成するまでに至らなかったためと考えられる。勿論、実施例1でも、クエン酸が効率良く生産されていたので、実施例1のポリビニルアルコール系多孔質ゲルが、クエン酸発酵菌を固定する担体として十分に機能し、クエン酸発酵菌の供給源になっていることがわかる。
【0053】
<実施例2>
実施例1と同様にして、前記スクロース(14質量%)及び山伏茸抽出成分(2質量%)を含有した水溶液2500mLに、前記クエン酸発酵菌固定化担体を約0.2g(乾燥質量)投入した後、マグネット回転子により撹拌を行いながらクエン酸の製造を13日間行った。他の製造条件は実施例1と同様とした。13日経過後の水溶液中におけるクエン酸の濃度は4.9質量%であった。
【0054】
前記13日経過後の反応系からクエン酸発酵菌固定化担体を取り出し、新たな同様の反応系(スクロース(14質量%)及び山伏茸抽出成分(2質量%)を含有した水溶液2500mL)に投入した後、マグネット回転子により撹拌を行いながらクエン酸の製造を7日間行ったところ、水溶液中におけるクエン酸の濃度は3.4質量%であった。
【0055】
次いで、前記7日経過後の反応系からクエン酸発酵菌固定化担体を取り出し、また新たな同様の反応系(スクロース(14質量%)及び山伏茸抽出成分(2質量%)を含有した水溶液2500mL)に投入したのち、マグネット回転子により撹拌を行いながらクエン酸の製造を5日間行ったところ、水溶液中におけるクエン酸の濃度は2.4質量%であった。
【0056】
このように本発明のクエン酸発酵菌固定化担体は、複数回繰り返し使用しても、クエン酸を十分な生産効率で生産できることがわかった。即ち、複数回繰り返し使用した場合でも、ポリビニルアルコール系多孔質ゲルが、クエン酸発酵菌を固定する担体として十分に機能し、クエン酸発酵菌の供給源になっていることがわかった。
【0057】
<クエン酸濃度の測定方法>
液中のクエン酸濃度の定量は、液体クロマトグラフ法(カラム:Shim−Pack SCR−102H 300mm×8.0mm径、ガードカラム:SCR−102H 50mm×6.0mm径、検出器:ジーエルサイエンス株式会社製の示差屈折計RI504R)により行った。溶離液として5mM濃度の過塩素酸水溶液を用いた。測定条件は、カラム温度40℃、流速1.0mL/分、試料液注入量20μLとした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系多孔質ゲルにクエン酸発酵菌が担持されてなることを特徴とするクエン酸発酵菌固定化担体。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系多孔質ゲルが、ポリビニルアルコール又はポリビニルアルコールの共重合体のアセタール化により得られたゲルである請求項1に記載のクエン酸発酵菌固定化担体。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系多孔質ゲルは、ポリビニルアルコール又はポリビニルアルコールの共重合体がアルギン酸ナトリウムと共に水溶液としてカルシウムイオンを含有した水溶液中に滴下されることによって球状に成形され、次いでアセタール化処理された後、さらにナトリウムイオンを含有した水溶液で処理されて得られた球状ゲルである請求項1に記載のクエン酸発酵菌固定化担体。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系多孔質ゲルが、連続孔のある三次元立体網目構造を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のクエン酸発酵菌固定化担体。
【請求項5】
前記クエン酸発酵菌がアスペルギルス菌株である請求項1〜4のいずれか1項に記載のクエン酸発酵菌固定化担体。
【請求項6】
クエン酸発酵菌及び糖類を含有した処理水を調製する工程と、
前記処理水と、ポリビニルアルコール系多孔質ゲルとを接触させることにより、該多孔質ゲルにクエン酸発酵菌を担持する担持工程とを包含することを特徴とするクエン酸発酵菌固定化担体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により得られたクエン酸発酵菌固定化担体。
【請求項8】
請求項1〜5、7のいずれか1項に記載のクエン酸発酵菌固定化担体と、糖類を含有する水とを接触させることによって、クエン酸を生成させることを特徴とするクエン酸の製造方法。
【請求項9】
前記クエン酸発酵菌固定化担体と、前記糖類を含有する水との接触を、該担体が水中に撹拌された状態で行わせる請求項8に記載のクエン酸の製造方法。

【公開番号】特開2007−282543(P2007−282543A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112092(P2006−112092)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(597124349)
【出願人】(502089947)株式会社マナ (2)
【Fターム(参考)】