説明

クラッチディスク摩耗検出装置

【課題】 本発明はクラッチディスク摩耗検出装置に係り、車両の下に潜り込んでの点検を不要としたクラッチディスク摩耗検出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 クラッチハウジングに揺動可能に取り付くクラッチのアウターレバーと、アウターレバーに連結され、クラッチペダルからの入力を伝達するクラッチブースタのプッシュロッドと、アウターレバーの揺動方向に沿ってアウターレバーに形成され、一端側に係合部が形成された正面視円弧状のスリットと、クラッチハウジングに揺動可能に取り付き、スリットに移動可能に係合する係合部材が先端に取り付くステー及び当該ステーを押圧付勢するスプリングとで構成された摩耗検出スプリングとからなり、アウターレバーは、クラッチディスクの摩耗進度に従ってクラッチディスク組付け時の初期位置から変位し、係合部材はクラッチディスクの摩耗限界時に前記係合部に係合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチディスクの摩耗限界を検出するクラッチディスク摩耗検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチディスクの摩耗限界を検出するクラッチディスク摩耗検出装置として、特許文献1に開示されるように、クラッチハウジングに取り付くステーに目盛りの付いたウェアインジケータを取り付け、クラッチブースタの可動するプッシュロッドに付いたインジケータプレートの動きでクラッチディスクの摩耗限界を検出する構造のものが知られている。
【0003】
図3は特許文献1に開示されたクラッチディスク摩耗検出装置を示し、図中、1はクラッチハウジングを挿通するクラッチ操作用シャフト、3は当該クラッチ操作用シャフト1を回転中心として揺動可能に取り付くアウタレバーで、アウタレバー3の端部は、操作駆動手段であるクラッチブースタのプッシュロッド5とボールジョイント7を介して回動自在に接続されている。そして、プッシュロッド5の端部に指針であるインジケータプレート9が取り付き、これに対応してウェアインジケータ11がクラッチハウジングに取り付くステー13にボルト締めされている。
【0004】
ウェアインジケータ11には、クラッチディスクが摩耗した状態を示す目盛り(例えば、「MIN」なる刻印等)15が設けられ、その目盛り15と固定側の端部との間の領域には、クラッチディスク組付け時の状態を示す目盛り(例えば、「SET」なる刻印等)17が設けられている。更に、二つの目盛り15、17に対応してウェアインジケータ11の板幅部にV字状の切欠き19、21が設けられている。
【0005】
そして、クラッチディスク摩耗検出装置23は、クラッチディスクを組み付けた際に、インジケータプレート9の先端が「SET」なる目盛り17の切欠き21を指し、クラッチディスクが摩耗するに伴いアウタレバー3が矢印A方向へ回動し、インジケータプレート9が矢印B方向に移行する。そして、クラッチディスクが摩耗の限界に達した場合、インジケータプレート9の先端が「MIN」なる目盛り15の切欠き19を指すように構成されている。
【0006】
また、図示しないが特許文献2には、クラッチブースタに摩耗検出スイッチを取り付け、クラッチディスクの摩耗によってクラッチブースタ内のピストンが摩耗検出スイッチに接触すると、キャビン内のメーターパネルに装着したパイロットランプを点灯させるクラッチディスク摩耗検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭59−170205号公報
【特許文献2】実開昭61−45631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図3に示した従来例は、ウェアインジケータを確認するために車両の下に潜り込む必要があり、点検時の作業性が悪かった。
【0009】
また、点検を怠った場合、ドライバーはクラッチディスクの摩耗限界に気づかず、そのまま使用を続けてクラッチを焼損し、走行不能となる虞がある。
【0010】
一方、特許文献2に開示された従来例は、クラッチブースタからキャビンまでハーネスを這わせ、キャビン内のメーターパネルにパイロットランプを装着し、また、クラッチブースタに摩耗検出スイッチを設ける必要があり、コストが割高になる欠点があった。
【0011】
本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、車両の下に潜り込んでのウェアインジケータの点検を不要とし、また、特許文献2の従来例の如き電子部品の装備を不要としつつ、確実なクラッチディスクの摩耗を検出することのできるクラッチディスク摩耗検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
斯かる目的を達成するため、請求項1に係るクラッチディスク摩耗検出装置は、クラッチハウジングに揺動可能に取り付くクラッチのアウターレバーと、前記アウターレバーに連結され、クラッチペダルからの入力を伝達するクラッチブースタのプッシュロッドと、前記アウターレバーの揺動方向に沿って当該アウターレバーに形成され、一端側に係合部が形成された正面視円弧状のスリットと、前記クラッチハウジングに揺動可能に取り付き、前記スリットに移動可能に係合する係合部材が先端に取り付くステー及び当該ステーを押圧付勢するスプリングとで構成された摩耗検出スプリングとからなり、前記アウターレバーは、クラッチディスクの摩耗進度に従ってクラッチディスク組付け時の初期位置から変位し、前記係合部材は、クラッチディスクの摩耗限界時に前記係合部に係合することを特徴とする。
【0013】
そして、請求項2に係る発明は、請求項1に記載のクラッチディスク摩耗検出装置に於て、前記アウターレバーは、クラッチディスク組付け時の前記スリットへの係合部材の係合位置にクラッチディスクの初期位置を示す目盛りが設けられ、前記係合部にクラッチディスクの摩耗限界を示す目盛りが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、クラッチディスクの摩耗限界時に係合部材が係合部に係合してクラッチペダルの踏力に変化が生じるため、ドライバーはクラッチディスクの摩耗限界を知ることができ、この結果、従来の如くクラッチディスクの残量を確認するためにドライバーが車両の下に潜り込む必要がなくなり、このような点検を不要にすることでドライバーの負担を軽減することができる。
【0015】
また、クラッチディスクの摩耗限界時に、クラッチペダルの踏力を増大させてドライバーに知らせるため、心理的にもドライバーは早めにクラッチディスクの交換をするようになり、過度の使用によるクラッチ滑りを確実に防止することが可能となる。
【0016】
そして、請求項2に係る発明によれば、アウターレバーに目盛りを設けることで、アウターレバーを従来のウェアインジケータとしても使用できる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】クラッチディスク組付け時のクラッチ接続状態に於ける請求項1及び請求項2の一実施形態に係るクラッチディスク摩耗検出装置の側面図である。
【図2】クラッチディスク摩耗限界時のクラッチ接続状態に於ける請求項1及び請求項2の一実施形態に係るクラッチディスク摩耗検出装置の側面図である。
【図3】従来のクラッチディスク摩耗検出装置を説明する構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1は請求項1及び請求項2の一実施形態に係るクラッチディスク摩耗検出装置を示し、図中、31はクラッチハウジング33を挿通するリリーズシャフト、35はリリーズシャフト31を中心に揺動可能に取り付くアウタレバーで、アウタレバー35には、クラッチブースタ37のプッシュロッド39がボールジョイント41を介して連結されている。
【0020】
周知のようにプッシュロッド39は、クラッチブースタ37の伸縮作動により前後進し、アウターレバー35を揺動させてクラッチ(ダイヤフラムスプリング式クラッチ)43を断接するように構成されており、図1はプッシュロッド39が後退してクラッチ43が接続された状態を示している。
【0021】
リーズシャフト31にはリリーズヨーク45が揺動可能に取り付き、リリーズヨーク45の先端は、インプットシャフト47に沿って矢印A、B方向へ移動可能なリリーズベアリング49に係合している。そして、リリーズベアリング49に、クラッチカバー51に取り付くダイヤフラムスプリング53が係合しており、当該ダイヤフラムスプリング53が、プレッシャプレート55を介してクラッチディスク57をフライホイール59に押圧付勢している。
【0022】
クラッチディスク57は、インプットシャフト47にスプライン結合されてフライホイール59とプレッシャプレート55の間に挟まれ、その摩擦力によってフライホイール59の回転をインプットシャフト47を介してトランスミッション(図示せず)に伝達する作用をしている。
【0023】
そして、このようにクラッチ43が接続された状態でドライバーがクラッチペダル(図示せず)を踏み込むと、クラッチブースタ37の伸張作動によりプッシュロッド39が前進して、リリーズシャフト31を中心にアウターレバー35が矢印C方向へ移動し、リリーズヨーク45がリリーズシャフト31を中心に同方向へ揺動してリリーズベアリング49を矢印A方向へ移動させるため、ダイヤフラムスプリング53が破線の如く変形して、プレッシャプレート55がクラッチディスク57から引き離される。この結果、フライホイール59、クラッチディスク57及びプレッシャプレート55の各摩擦面に隙間が生じて、クラッチ43がクラッチ断に切り替わるようになっている。
【0024】
また、アウターレバー35には、当該アウターレバー35の揺動方向に沿って側面視円弧状のスリット61が形成され、その一端側(反クラッチブースタ37側)にノッチ(係合部)63が形成されている。そして、前記スリット61に、摩耗検出スプリング65のクレブスピン(係合部材)67が移動可能に係合している。
【0025】
図1に示すように摩耗検出スプリング65は、取付ピン69によってクラッチハウジング33に揺動可能に取り付くシリンダ71と、当該シリンダ71内に収納されたコイルスプリング73と、コイルスプリング73の先端側に取り付く蓋状のプレート75と、当該プレート75の表面側に取り付くステー77とで構成されており、ステー77の先端に前記クレブスピン67が装着され、ステー77はコイルスプリング73によって矢印D方向へ押圧付勢されている。
【0026】
また、従来と同様、図1に示すようにアウターレバー35は、クラッチディスク57の摩耗進度に従って、クラッチディスク組付け時の初期位置から時計方向(図中、矢印E方向)へ変位するが、アウターレバー35が初期位置にあるとき、クラッチ43の接続状態に於て、クレブスピン67はスリット61の中央よりややクラッチブースタ37側の位置に係合している。そして、アウターレバー35の表面には、クレブスピン67の係合位置にクラッチディスク57の初期位置を示す目盛り(例えば「SET」なる刻印と矢印の刻印)79が設けられている。
【0027】
そして、既述したようにクラッチペダルの操作に応じ、プッシュロッド39がクラッチブースタ37の伸縮作動により前後進し、アウターレバー35を揺動させてクラッチ43を断接するが、アウターレバー35が揺動するとき、摩耗検出スプリング65は取付ピン69を中心に揺動し乍ら、クレブスピン67がスリット61に沿って移動するように構成されており、摩耗検出スプリング65(コイルスプリング73)がアウターレバー35の揺動に干渉することがない。
【0028】
一方、クラッチディスク57が摩耗していくと、アウターレバー35はクラッチディスク組付け時の初期位置から矢印E方向へ変位するが、クラッチディスク35が摩耗限界に達すると、図2に示すようにクレブスピン67が前記ノッチ63に係合するようになっている。
【0029】
而して、斯様にクレブスピン67がノッチ63に係合すると、摩耗検出スプリング65のコイルスプリング73のバネ力がアウターレバー35に作用し、アウターレバー35の揺動に連動してスプリング73が伸縮することとなる。
【0030】
従って、ドライバーがクラッチペダルを操作してクラッチ43を切るとき、プッシュロッド39が伸張してアウターレバー35を矢印C方向へ揺動させるが、コイルスプリング73のバネ力に抗してアウターレバー35を同方向揺動させなければならないため、その反力がクラッチペダルに伝わって、図1の場合に比しクラッチペダルが重たくなる。
【0031】
このように本実施形態は、クラッチペダルの踏力変化によって、クラッチディスク57が摩耗限界に達したことを知ることができるようにしたことを特徴としている。そして、ノッチ63の近接には、クラッチディスク57の摩耗限界を示す目盛り(例えば、「WEAR」なる刻印と矢印の刻印)81が設けられている。
【0032】
本実施形態に係るクラッチディスク摩耗検出装置83はこのように構成されているから、図1の如くアウターレバー35がクラッチディスク組付け時の初期位置にあるとき、クラッチ43の接続状態で摩耗検出スプリング65のクレブスピン67は、クラッチディスク57の初期位置を示す目盛り79に対応するスリット61に係合している。
【0033】
そして、クラッチペダルの操作に応じ、プッシュロッド39がクラッチブースタ37の伸縮作動により前後進し、アウターレバー35を揺動させてクラッチ43を断接するが、摩耗検出スプリング65は取付ピン69を中心に揺動し乍ら、クレブスピン67がスリット61に沿って移動するため、クラッチペダルに摩耗検出スプリング65のスプリング73の反力が伝わらず、クラッチペダルの踏力に変化がなく、クラッチペダルは通常の踏力で操作できることとなる。
【0034】
一方、クラッチディスク57が摩耗していくと、アウターレバー35はクラッチディスク組付け時の初期位置から矢印E方向へ変位し、クラッチディスク35が摩耗限界に達すると、図2に示すようにクレブスピン67がノッチ63に係合する。
【0035】
而して、斯様にクレブスピン67がノッチ63に係合すると、摩耗検出スプリング65のコイルスプリング73のバネ力がアウターレバー35に作用し、アウターレバー35の揺動に連動してスプリング73が伸縮することとなる。
【0036】
従って、ドライバーがクラッチペダルを操作してクラッチ43を切るとき、矢印C方向へ揺動するアウターレバー35にコイルスプリング73のバネ力が作用し、コイルスプリング73の反力がクラッチペダルに伝わってクラッチペダルが重たくなるため、ドライバーは、クラッチペダルの踏力変化によりクラッチディスク57が摩耗限界に達したことを知ることとなる。
【0037】
このように本実施形態は、クラッチペダルの踏力変化によって、ドライバーがクラッチディスク57の摩耗限界を知ることができるように構成したので、
(1)従来の如くウェアインジケータを確認するためにドライバーが車両の下に潜り込む必要がなくなり、このような点検を不要とすることでドライバーの負担を軽減することができる。
【0038】
(2)クラッチディスク57の摩耗限界時にクラッチペダルの踏力を増大させてドライバーに知らせるため、心理的にもドライバーは早めにクラッチディスクの交換をするようになり、この結果、過度の使用によるクラッチ滑りを確実に防止することが可能となる。
【0039】
(3)アウターレバー35に前記目盛り79,81を設けたため、アウターレバー35をクラッチディスク57の残量を示すウェアインジケータとしても使用できる利点を有する。
【0040】
(4)特許文献2の従来例の如き電子部品の装備が不要となって、コストの削減が可能となる。
【符号の説明】
【0041】
31 リリーズシャフト
33 クラッチハウジング
35 アウタレバー
37 クラッチブースタ
39 プッシュロッド
41 ボールジョイント
43 クラッチ(ダイヤフラムスプリング式クラッチ)
45 リリーズヨーク
47 インプットシャフト
49 リリーズベアリング
51 クラッチカバー
53 ダイヤフラムスプリング
55 プレッシャプレート
57 クラッチディスク
59 フライホイール
61 スリット
63 ノッチ(係合部)
65 摩耗検出スプリング
67 クレブスピン(係合部材)
71 シリンダ
73 コイルスプリング
77 ステー
79 クラッチディスクの初期位置を示す目盛り
81 クラッチディスクの摩耗限界を示す目盛り
83 クラッチディスク摩耗検出装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチハウジングに揺動可能に取り付くクラッチのアウターレバーと、
前記アウターレバーに連結され、クラッチペダルからの入力を伝達するクラッチブースタのプッシュロッドと、
前記アウターレバーの揺動方向に沿って当該アウターレバーに形成され、一端側に係合部が形成された正面視円弧状のスリットと、
前記クラッチハウジングに揺動可能に取り付き、前記スリットに移動可能に係合する係合部材が先端に取り付くステー及び当該ステーを押圧付勢するスプリングとで構成された摩耗検出スプリングとからなり、
前記アウターレバーは、クラッチディスクの摩耗進度に従ってクラッチディスク組付け時の初期位置から変位し、
前記係合部材は、クラッチディスクの摩耗限度時に前記係合部に係合することを特徴とするクラッチディスク摩耗検出装置。
【請求項2】
前記アウターレバーは、クラッチディスク組付け時の前記スリットへの係合部材の係合位置に初期位置を示す目盛りが設けられ、前記係合部にクラッチディスクの摩耗限度を示す目盛りが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のクラッチディスク摩耗検出装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−113356(P2013−113356A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259070(P2011−259070)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】