クラッチハウジング及びその製造方法
【課題】 一体成型クラッチハウジングを製造するのに調質を廃止して加工性を向上させると同時に、一体成形素材を使うことにより硬度と強度とを両立させた、量産可能なクラッチハウジングの製造方法を提供する。
【解決手段】ボス部(2)とボス部と一体に設けられたドラム部(3)とを有するクラッチハウジング(1)の製造方法であって、ボス部とドラム部とを熱間鍛造により一体成形する工程と、一体成形工程に連続して、ボス部の少なくとも一部を強制冷却する工程と、から成ることを特徴とする。
【解決手段】ボス部(2)とボス部と一体に設けられたドラム部(3)とを有するクラッチハウジング(1)の製造方法であって、ボス部とドラム部とを熱間鍛造により一体成形する工程と、一体成形工程に連続して、ボス部の少なくとも一部を強制冷却する工程と、から成ることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の自動変速機に用いられるクラッチハウジングの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車などの自動変速機、すなわちオートマチックトランスミッション(AT)には、ドラム型のクラッチハウジングが用いられている。このようなクラッチハウジングは、冷間鍛造技術で所定の精度、寸法に製造されている。
【0003】
通常、クラッチハウジングは、中央のボス部と、それに結合されたドラム部とからなっている。ボス部とドラム部とは溶接や加締めなどにより強固に結合されている。図10及び11に示すように、ハウジング10は、電子ビーム溶接などでボス部材11とドラム部12とを接合して構成される。ここで、ボス部材11の材質は、要求機能・強度上、調質を必要としている。また、ドラム部12は塑性加工性を考慮し材質の硬度を適宜選定するが、硬度はそれほど必要とされていない。図10は、ボス部11がハウジング10の内部に延在し、図11は、ボス部11がハウジング10の外部へと延在している。
【0004】
また、クラッチハウジングを熱間鍛造によって予め製品形状に鍛造し、その後冷間鍛造により所定の精度を確保するようにした製造方法が知られている。(例えば特許文献1参照)この例では、ボス部とドラム部とは一体に形成されている。ボス部と塑性加工により歯型成形したドラム部からなる、一体型ハブ付クラッチドラム製造方法において、強度が必要なボス部に対し、所定の硬度になるよう熱処理を施していた。
【0005】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開平3−189044号公報(第2−3頁、第1図等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上説明した、クラッチハウジング には、以下のような問題点がある。
従来の一体型のクラッチハウジングは、ドラム部を含めて全体を調質していたが、調質を行うと加工性が悪くなるという問題があった。
【0007】
更に、ドラム部の硬度もボス部と同様に硬くなり、ドラム部の歯型塑性加工において硬度が高すぎるため加工時の材料割れや加工治具の寿命低下、強い塑性変形加工力による加工装置の振動等による不具合が生じていた。また、ドラム部の歯型塑性加工後にボス部の熱処理も実施するのであるが、このときドラム部の塑性加工後に変形が発生する等の欠点があった。
【0008】
従って、本発明の目的は、一体成型クラッチハウジングを製造するのに調質を廃止して加工性を向上させると同時に、一体成形素材を使うことにより硬度と強度とを両立させた、量産可能なクラッチハウジングの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のクラッチハウジングの製造方法は、
ボス部とボス部と一体に設けられたドラム部とを有するクラッチハウジングの製造方法であって、
前記ボス部と前記ドラム部とを熱間鍛造により一体成形する工程と、
前記一体成形工程に連続して、前記ボス部の少なくとも一部を強制冷却する工程とから成ることを特徴としている。
【0010】
また、本発明のクラッチハウジングは、
ボス部とボス部と一体に設けられたドラム部とを有するクラッチハウジングの製造方法であって、
前記ボス部と前記ドラム部とを熱間鍛造により一体成形する工程と、
前記一体成形工程に連続して、前記ボス部の少なくとも一部を強制冷却する工程とから成るクラッチハウジングの製造方法により製造されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
鍛造後に調質処理が行なわれず、必要部分にのみ硬度を有することで、フローフォーミング加工を施す部位の硬度を調整して加工性を向上させることができる。ひいては、コストパフォーマンスの向上が得られる。以上述べた特徴から、量産が可能なクラッチハウジングを製造できる。
【0012】
また、ボス部の必要な硬さと、ドラム部の塑性加工に必要な硬さを得るために、熱間鍛造の余熱を利用し、ボス部に必要な硬さを得るための熱処理と、ドラム部の塑性加工に必要な硬さを得るための空中放冷処理(焼ならし)を同時に行うことにより、スプラインの加工性が向上すると共に、低コストでの一体型ハブ付クラッチドラムの連続した製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
接合なしで一体化した鍛造品を塑性加工する時に、調質を廃止して加工性を向上させると共に、硬度が必要な部分にのみ鍛造直後に水に浸漬させて、表面硬度だけでなく、心部硬度もあわせて、熱処理相当の硬度・強度を成立させる。
【実施例】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の各実施例を詳細に説明する。尚、図面において同一部分は同一符号で示している。また、以下説明する実施例は本発明を例示として説明するものであり、限定するものでないことは言うまでもない。
【0015】
図1は、本発明の実施例を示すクラッチハウジングの軸方向断面図である。本発明の製造方法で作られた、クラッチハウジング1は、ほぼ円筒形のドラム部3と、ドラム部3と一体に成型されたボス部2とからなっている。ボス部2は、ドラム部3と一体に成型された円盤部5と、円盤部5の中央に一体に設けられ、不図示の軸が嵌合し、ハブとして機能する軸部4とからなっている。
【0016】
ドラム部3の内周にはスプライン6が形成されている。ドラム部3の外部には、軸部4の貫通部7に嵌合する軸(不図示)の支持された摩擦係合装置(不図示)が収容され、不図示のフリクションプレートがスプライン6に軸方向移動可能に係合する。ボス部2は、ドラム部3と反対方向に延在している。すなわち、ドラム部3の外側に延在している。
【0017】
クラッチハウジング1は、以下のように製造される。先ず、塑性加工に適した鋼材からなるワーク(不図示)を熱間鍛造または冷間鍛造により成形し、図1に示すクラッチハウジング1を作る。
【0018】
その後、調質はせずに硬度が必要な部分にのみ鍛造直後に水に浸漬させる。これにより、表面硬度だけでなく、心部硬度もあわせて、熱処理相当の硬度・強度を成立させる。水に浸漬させる、すなわち水焼入れを行うのは、硬度が必要なボス部2であり、ドラム部3には水焼入れを行わなくてよい。
【0019】
ボス部に対して強制冷却する、水焼入れの工程を図3を用いて説明する。図3は、ボス部の強制冷却とドラム部の空中放冷工程を示す図である。不図示の素材より熱間鍛造から連続的にボス部に強制冷却による水焼入れが行われる。ドラム部4を下にして、クラッチハウジング1を容器20に入った水21の中に浸していく。熱間鍛造から連続的に行われるため、ボス部2には余熱が充分ある。そのため、水に浸漬することで強制冷却される。このため、充分な硬度が得られるのである。
【0020】
上記、強制冷却工程において、ドラム部3は水中に没しないように保持して、空気中で放冷処理をされる。すなわち、ボス部2の強制冷却とドラム部3の空中放冷処理とが、同時に実施される。ボス部2が、図2に示す形態、すなわちドラム部3内に延在しているクラッチハウジングの場合は、ボス部2のみに水が当たるように、水を噴射する方法で強制冷却する。
【0021】
ボス部2のうち、特に硬度が必要な軸部4のみを水焼入れして、円盤部5には水焼入れをしないようにすることもできる。硬度が必要な部分について水焼入れをした後、フローフォーミングによりクラッチハウジング1に塑性加工を施す。本発明はボス部の必要な硬さと、ドラム部の塑性加工に必要な硬さを得るために行うものである。
【0022】
フローフォーミング加工では、ドラム部3の形状を整え、スプライン6などを形成する。このとき、ドラム部3には、硬度を与える水焼入れ処理を施していないため、フローフオーミング加工による塑性加工で、割れなどが発生して加工性が著しく損なわれてしまうという恐れがない。すなわち、必要部分にのみ硬度を与えることで、フローフォーミング加工を施す部位、ドラム部3などの硬度を調整して加工性を向上させることができる。
【0023】
次に、図2を参照して本発明の他の実施例を説明する。図2では、ボス部2の軸部4が、ドラム部3の内部に延在している点である。その他の点については、図1について説明したものとほぼ同じである。
【0024】
塑性加工法の一種である、フローフォーミングを用いると、最初から一体品としてスプラインを低コストで成形でき、スプライン部を冷間で成形するので強度が高くなる、また、一体構造なので溶接によるひずみが発生しないため精度が確保できる等、多くの利点が得られる。
【0025】
以下、本発明が適用できるクラッチハウジングの形状の例を図4−図9を用いて説明する。図4は、本発明が適用できるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図であり、基本的な構成は図1のものと同じである。図5は、図4において、ボス部2が中実であるクラッチハウジング1の一例を示す軸方向断面図である。図5から明らかなように、ボス部2には貫通部7がない。
【0026】
図4及び図5のクラッチハウジング1は、いずれも図3に示す方法でボス部2の軸部4と中実の軸部14とを水に浸漬して水焼入れすることができる。図5のようにボス部2が中実の軸部14となっている場合では、図4に示すようにボス部2に貫通部がある場合に比べて、浸漬時間を長くする。
【0027】
図6は、本発明が適用できるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図であり、図7は、図6において、ボス部2が中実であるクラッチハウジング1の一例を示す軸方向断面図である。図7から明らかなように、ボス部2には貫通部7がない。
【0028】
図6では、ボス部2は、クラッチハウジング1の外側に突出する軸部4と内側に突出する軸部15とを一体に有する構成となっている。軸部15は、外側ドラム部3の軸方向開口端3aと面一となる位置まで軸方向に延在している。また、図7の例では、ボス部2は、クラッチハウジング1の外側に突出する中実の軸部14と内側に突出する中実の軸部16とを一体に有する構成となっている。軸部16は、外側ドラム部3の軸方向開口端3aと面一となる位置まで軸方向に延在している。
【0029】
図6及び図7のクラッチハウジング1は、いずれも図3に示す方法でボス部2を水に浸漬して水焼入れすることができる。しかしながら、クラッチハウジング1内に延在する軸部15(図6)や軸部16(図17)は、水の噴射等の方法で、焼入れをすることができる。また、図7のようにボス部2の軸部15が中実の場合では、図4に示すようにボス部2に貫通部がある場合に比べて、浸漬時間を長くする。
【0030】
図8は、本発明が適用できるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図であり、図9は、図8において、ボス部2が中実であるクラッチハウジング1の一例を示す軸方向断面図である。図9から明らかなように、ボス部2には貫通部7がない。
【0031】
図8では、ボス部2は、クラッチハウジング1の内側に突出する軸部17のみを有する構成となっている。この軸部17は、外側ドラム部3の軸方向開口端3aと面一となる位置まで軸方向に延在している。また、図9の例では、ボス部2は、クラッチハウジング1の内側に突出する中実の軸部18のみを有する構成となっている。軸部18は、外側ドラム部3の軸方向開口端3aと面一となる位置まで軸方向に延在している。
【0032】
図8及び図9のクラッチハウジング1は、いずれも水の噴射などの方法でボス部2の軸部17と中実の軸部18とを焼入れすることができる。図4−図9に示す例においては、クラッチハウジング1の内周のスプラインはまだ設けられていない。また、クラッチハウジング1の内部に延在するボス部2の軸部15、16、17及び18などについても、水中に漬ける状態で水焼入れをすることもできる。
【0033】
塑性加工法の一種である、フローフォーミングを用いると、最初から一体品としてスプラインを低コストで成形でき、スプライン部を冷間で成形するので強度が高くなる、また一体構造なので溶接によるひずみが発生しないため精度が確保できる等、多くの利点が得られる。
【0034】
以上説明した本発明では、素材を熱間鍛造して、ボス部とドラム部を一体に形成し、その後、空中放冷処理と強制冷却処理とを同時に処理し、続いてドラム部にスプライン加工を施し、最後に仕上げ切削を行う。このような熱処理方法を利用することにより連続した低コストの製造工程が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製造方法で成形されたクラッチハウジングは、オートマチックトランスミッションに用いることができるが、内部に組み込まれる多板式摩擦係合装置は、湿式、乾式のいずれでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例を示すクラッチハウジングの軸方向断面図である。
【図2】本発明の他の実施例を示すクラッチハウジングの軸方向断面図である。
【図3】ボス部の強制冷却とドラム部の空中放冷工程を示す図である。
【図4】本発明が適用できるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図である。
【図5】図4において、ボス部が中実であるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図である。
【図6】本発明が適用できるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図である。
【図7】図6において、ボス部が中実であるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図である。
【図8】本発明が適用できるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図である。
【図9】図8において、ボス部が中実であるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図である。
【図10】従来のクラッチハウジングの軸方向断面図である。
【図11】従来のクラッチハウジングの他例を示す軸方向断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 クラッチハウジング
2 ボス部
3 ドラム部
4 軸部
5 円盤部
6 スプライン
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の自動変速機に用いられるクラッチハウジングの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車などの自動変速機、すなわちオートマチックトランスミッション(AT)には、ドラム型のクラッチハウジングが用いられている。このようなクラッチハウジングは、冷間鍛造技術で所定の精度、寸法に製造されている。
【0003】
通常、クラッチハウジングは、中央のボス部と、それに結合されたドラム部とからなっている。ボス部とドラム部とは溶接や加締めなどにより強固に結合されている。図10及び11に示すように、ハウジング10は、電子ビーム溶接などでボス部材11とドラム部12とを接合して構成される。ここで、ボス部材11の材質は、要求機能・強度上、調質を必要としている。また、ドラム部12は塑性加工性を考慮し材質の硬度を適宜選定するが、硬度はそれほど必要とされていない。図10は、ボス部11がハウジング10の内部に延在し、図11は、ボス部11がハウジング10の外部へと延在している。
【0004】
また、クラッチハウジングを熱間鍛造によって予め製品形状に鍛造し、その後冷間鍛造により所定の精度を確保するようにした製造方法が知られている。(例えば特許文献1参照)この例では、ボス部とドラム部とは一体に形成されている。ボス部と塑性加工により歯型成形したドラム部からなる、一体型ハブ付クラッチドラム製造方法において、強度が必要なボス部に対し、所定の硬度になるよう熱処理を施していた。
【0005】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開平3−189044号公報(第2−3頁、第1図等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上説明した、クラッチハウジング には、以下のような問題点がある。
従来の一体型のクラッチハウジングは、ドラム部を含めて全体を調質していたが、調質を行うと加工性が悪くなるという問題があった。
【0007】
更に、ドラム部の硬度もボス部と同様に硬くなり、ドラム部の歯型塑性加工において硬度が高すぎるため加工時の材料割れや加工治具の寿命低下、強い塑性変形加工力による加工装置の振動等による不具合が生じていた。また、ドラム部の歯型塑性加工後にボス部の熱処理も実施するのであるが、このときドラム部の塑性加工後に変形が発生する等の欠点があった。
【0008】
従って、本発明の目的は、一体成型クラッチハウジングを製造するのに調質を廃止して加工性を向上させると同時に、一体成形素材を使うことにより硬度と強度とを両立させた、量産可能なクラッチハウジングの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のクラッチハウジングの製造方法は、
ボス部とボス部と一体に設けられたドラム部とを有するクラッチハウジングの製造方法であって、
前記ボス部と前記ドラム部とを熱間鍛造により一体成形する工程と、
前記一体成形工程に連続して、前記ボス部の少なくとも一部を強制冷却する工程とから成ることを特徴としている。
【0010】
また、本発明のクラッチハウジングは、
ボス部とボス部と一体に設けられたドラム部とを有するクラッチハウジングの製造方法であって、
前記ボス部と前記ドラム部とを熱間鍛造により一体成形する工程と、
前記一体成形工程に連続して、前記ボス部の少なくとも一部を強制冷却する工程とから成るクラッチハウジングの製造方法により製造されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
鍛造後に調質処理が行なわれず、必要部分にのみ硬度を有することで、フローフォーミング加工を施す部位の硬度を調整して加工性を向上させることができる。ひいては、コストパフォーマンスの向上が得られる。以上述べた特徴から、量産が可能なクラッチハウジングを製造できる。
【0012】
また、ボス部の必要な硬さと、ドラム部の塑性加工に必要な硬さを得るために、熱間鍛造の余熱を利用し、ボス部に必要な硬さを得るための熱処理と、ドラム部の塑性加工に必要な硬さを得るための空中放冷処理(焼ならし)を同時に行うことにより、スプラインの加工性が向上すると共に、低コストでの一体型ハブ付クラッチドラムの連続した製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
接合なしで一体化した鍛造品を塑性加工する時に、調質を廃止して加工性を向上させると共に、硬度が必要な部分にのみ鍛造直後に水に浸漬させて、表面硬度だけでなく、心部硬度もあわせて、熱処理相当の硬度・強度を成立させる。
【実施例】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の各実施例を詳細に説明する。尚、図面において同一部分は同一符号で示している。また、以下説明する実施例は本発明を例示として説明するものであり、限定するものでないことは言うまでもない。
【0015】
図1は、本発明の実施例を示すクラッチハウジングの軸方向断面図である。本発明の製造方法で作られた、クラッチハウジング1は、ほぼ円筒形のドラム部3と、ドラム部3と一体に成型されたボス部2とからなっている。ボス部2は、ドラム部3と一体に成型された円盤部5と、円盤部5の中央に一体に設けられ、不図示の軸が嵌合し、ハブとして機能する軸部4とからなっている。
【0016】
ドラム部3の内周にはスプライン6が形成されている。ドラム部3の外部には、軸部4の貫通部7に嵌合する軸(不図示)の支持された摩擦係合装置(不図示)が収容され、不図示のフリクションプレートがスプライン6に軸方向移動可能に係合する。ボス部2は、ドラム部3と反対方向に延在している。すなわち、ドラム部3の外側に延在している。
【0017】
クラッチハウジング1は、以下のように製造される。先ず、塑性加工に適した鋼材からなるワーク(不図示)を熱間鍛造または冷間鍛造により成形し、図1に示すクラッチハウジング1を作る。
【0018】
その後、調質はせずに硬度が必要な部分にのみ鍛造直後に水に浸漬させる。これにより、表面硬度だけでなく、心部硬度もあわせて、熱処理相当の硬度・強度を成立させる。水に浸漬させる、すなわち水焼入れを行うのは、硬度が必要なボス部2であり、ドラム部3には水焼入れを行わなくてよい。
【0019】
ボス部に対して強制冷却する、水焼入れの工程を図3を用いて説明する。図3は、ボス部の強制冷却とドラム部の空中放冷工程を示す図である。不図示の素材より熱間鍛造から連続的にボス部に強制冷却による水焼入れが行われる。ドラム部4を下にして、クラッチハウジング1を容器20に入った水21の中に浸していく。熱間鍛造から連続的に行われるため、ボス部2には余熱が充分ある。そのため、水に浸漬することで強制冷却される。このため、充分な硬度が得られるのである。
【0020】
上記、強制冷却工程において、ドラム部3は水中に没しないように保持して、空気中で放冷処理をされる。すなわち、ボス部2の強制冷却とドラム部3の空中放冷処理とが、同時に実施される。ボス部2が、図2に示す形態、すなわちドラム部3内に延在しているクラッチハウジングの場合は、ボス部2のみに水が当たるように、水を噴射する方法で強制冷却する。
【0021】
ボス部2のうち、特に硬度が必要な軸部4のみを水焼入れして、円盤部5には水焼入れをしないようにすることもできる。硬度が必要な部分について水焼入れをした後、フローフォーミングによりクラッチハウジング1に塑性加工を施す。本発明はボス部の必要な硬さと、ドラム部の塑性加工に必要な硬さを得るために行うものである。
【0022】
フローフォーミング加工では、ドラム部3の形状を整え、スプライン6などを形成する。このとき、ドラム部3には、硬度を与える水焼入れ処理を施していないため、フローフオーミング加工による塑性加工で、割れなどが発生して加工性が著しく損なわれてしまうという恐れがない。すなわち、必要部分にのみ硬度を与えることで、フローフォーミング加工を施す部位、ドラム部3などの硬度を調整して加工性を向上させることができる。
【0023】
次に、図2を参照して本発明の他の実施例を説明する。図2では、ボス部2の軸部4が、ドラム部3の内部に延在している点である。その他の点については、図1について説明したものとほぼ同じである。
【0024】
塑性加工法の一種である、フローフォーミングを用いると、最初から一体品としてスプラインを低コストで成形でき、スプライン部を冷間で成形するので強度が高くなる、また、一体構造なので溶接によるひずみが発生しないため精度が確保できる等、多くの利点が得られる。
【0025】
以下、本発明が適用できるクラッチハウジングの形状の例を図4−図9を用いて説明する。図4は、本発明が適用できるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図であり、基本的な構成は図1のものと同じである。図5は、図4において、ボス部2が中実であるクラッチハウジング1の一例を示す軸方向断面図である。図5から明らかなように、ボス部2には貫通部7がない。
【0026】
図4及び図5のクラッチハウジング1は、いずれも図3に示す方法でボス部2の軸部4と中実の軸部14とを水に浸漬して水焼入れすることができる。図5のようにボス部2が中実の軸部14となっている場合では、図4に示すようにボス部2に貫通部がある場合に比べて、浸漬時間を長くする。
【0027】
図6は、本発明が適用できるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図であり、図7は、図6において、ボス部2が中実であるクラッチハウジング1の一例を示す軸方向断面図である。図7から明らかなように、ボス部2には貫通部7がない。
【0028】
図6では、ボス部2は、クラッチハウジング1の外側に突出する軸部4と内側に突出する軸部15とを一体に有する構成となっている。軸部15は、外側ドラム部3の軸方向開口端3aと面一となる位置まで軸方向に延在している。また、図7の例では、ボス部2は、クラッチハウジング1の外側に突出する中実の軸部14と内側に突出する中実の軸部16とを一体に有する構成となっている。軸部16は、外側ドラム部3の軸方向開口端3aと面一となる位置まで軸方向に延在している。
【0029】
図6及び図7のクラッチハウジング1は、いずれも図3に示す方法でボス部2を水に浸漬して水焼入れすることができる。しかしながら、クラッチハウジング1内に延在する軸部15(図6)や軸部16(図17)は、水の噴射等の方法で、焼入れをすることができる。また、図7のようにボス部2の軸部15が中実の場合では、図4に示すようにボス部2に貫通部がある場合に比べて、浸漬時間を長くする。
【0030】
図8は、本発明が適用できるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図であり、図9は、図8において、ボス部2が中実であるクラッチハウジング1の一例を示す軸方向断面図である。図9から明らかなように、ボス部2には貫通部7がない。
【0031】
図8では、ボス部2は、クラッチハウジング1の内側に突出する軸部17のみを有する構成となっている。この軸部17は、外側ドラム部3の軸方向開口端3aと面一となる位置まで軸方向に延在している。また、図9の例では、ボス部2は、クラッチハウジング1の内側に突出する中実の軸部18のみを有する構成となっている。軸部18は、外側ドラム部3の軸方向開口端3aと面一となる位置まで軸方向に延在している。
【0032】
図8及び図9のクラッチハウジング1は、いずれも水の噴射などの方法でボス部2の軸部17と中実の軸部18とを焼入れすることができる。図4−図9に示す例においては、クラッチハウジング1の内周のスプラインはまだ設けられていない。また、クラッチハウジング1の内部に延在するボス部2の軸部15、16、17及び18などについても、水中に漬ける状態で水焼入れをすることもできる。
【0033】
塑性加工法の一種である、フローフォーミングを用いると、最初から一体品としてスプラインを低コストで成形でき、スプライン部を冷間で成形するので強度が高くなる、また一体構造なので溶接によるひずみが発生しないため精度が確保できる等、多くの利点が得られる。
【0034】
以上説明した本発明では、素材を熱間鍛造して、ボス部とドラム部を一体に形成し、その後、空中放冷処理と強制冷却処理とを同時に処理し、続いてドラム部にスプライン加工を施し、最後に仕上げ切削を行う。このような熱処理方法を利用することにより連続した低コストの製造工程が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製造方法で成形されたクラッチハウジングは、オートマチックトランスミッションに用いることができるが、内部に組み込まれる多板式摩擦係合装置は、湿式、乾式のいずれでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例を示すクラッチハウジングの軸方向断面図である。
【図2】本発明の他の実施例を示すクラッチハウジングの軸方向断面図である。
【図3】ボス部の強制冷却とドラム部の空中放冷工程を示す図である。
【図4】本発明が適用できるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図である。
【図5】図4において、ボス部が中実であるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図である。
【図6】本発明が適用できるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図である。
【図7】図6において、ボス部が中実であるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図である。
【図8】本発明が適用できるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図である。
【図9】図8において、ボス部が中実であるクラッチハウジングの一例を示す軸方向断面図である。
【図10】従来のクラッチハウジングの軸方向断面図である。
【図11】従来のクラッチハウジングの他例を示す軸方向断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 クラッチハウジング
2 ボス部
3 ドラム部
4 軸部
5 円盤部
6 スプライン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボス部とボス部と一体に設けられたドラム部とを有するクラッチハウジングの製造方法であって、
前記ボス部と前記ドラム部とを熱間鍛造により一体成形する工程と、
前記一体成形工程に連続して、前記ボス部の少なくとも一部を強制冷却する工程と、
から成ることを特徴とするクラッチハウジングの製造方法。
【請求項2】
前記強制冷却する工程において、前記ボス部を水に浸漬すると同時に、前記ドラム部は空中放冷処理されることを特徴とする請求項1に記載のクラッチハウジングの製造方法。
【請求項3】
前記強制冷却する工程の後に、フローフォーミングによりドラム部の内周にスプラインを設けるとともにクラッチハウジングをほぼ完成品に成形する工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のクラッチハウジングの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載のクラッチハウジングの製造方法により製造されたクラッチハウジング。
【請求項1】
ボス部とボス部と一体に設けられたドラム部とを有するクラッチハウジングの製造方法であって、
前記ボス部と前記ドラム部とを熱間鍛造により一体成形する工程と、
前記一体成形工程に連続して、前記ボス部の少なくとも一部を強制冷却する工程と、
から成ることを特徴とするクラッチハウジングの製造方法。
【請求項2】
前記強制冷却する工程において、前記ボス部を水に浸漬すると同時に、前記ドラム部は空中放冷処理されることを特徴とする請求項1に記載のクラッチハウジングの製造方法。
【請求項3】
前記強制冷却する工程の後に、フローフォーミングによりドラム部の内周にスプラインを設けるとともにクラッチハウジングをほぼ完成品に成形する工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のクラッチハウジングの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載のクラッチハウジングの製造方法により製造されたクラッチハウジング。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−46621(P2006−46621A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237040(P2004−237040)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)
【Fターム(参考)】
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