説明

クラッチレリーズシリンダ機構およびそれを備えたクラッチ装置

【課題】変速機ケースとクラッチケースとの間を隔する隔壁とシリンダケースの接触面部からフルード漏れが起きないようシール性を良好にするとともに、変速機内の熱が変速機ケースを介してシリンダケースに伝達するのを抑制するよう断熱性も良好にするクラッチレリーズシリンダ機構およびそれを備えたクラッチ装置を提供すること。
【解決手段】変速機を収容する変速機ケース12とクラッチ機構40を収容するクラッチケース11との間を隔する隔壁13に接合するフランジ22fを有するとともに、クラッチ機構40に、エンジンの出力軸と変速機の入力軸16との間で動力を伝達させ、または遮断させるよう入力軸16を囲んで配置されたCSC機構20において、隔壁13とフランジ22fの間に介装され、弾性材料、かつ断熱材料よりなる円盤32または液体を封入した環状容器を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レリーズベアリングを駆動する液圧式のクラッチレリーズシリンダ機構およびそれを備えたクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、クラッチレリーズシリンダ機構は、変速機の入力軸と同軸に設けられたスレーブシリンダ室を有し、このスレーブシリンダ室内で導入される圧油によって環状ピストンを往復運動させレリーズベアリングを駆動するようにしている。
従来、この種のクラッチレリーズシリンダ機構として、例えば下記の特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載されたクラッチレリーズシリンダ機構は、トランスミッションの入力軸と同軸の環状溝を有するシリンダと、環状溝内で液圧により往復動する環状ピストンと、環状ピストンの外端に固着されたレリーズベアリングと、を備え、環状ピストンの軸線方向外端にベアリングシートおよびコンタクトフランジを介してダイヤフラムスプリングが固着されている。
また、特許文献2に記載されたものも知られている。特許文献2に記載されたクラッチレリーズシリンダ機構は、環状溝を有するシリンダと、環状溝内に往復動するピストンと、ピストンの外端に装着されたレリーズベアリングと、を有している。このシリンダは、同軸配置された異径の2つの筒状部と、筒状部の一端に形成されかつ互いに重ね合わされ、放射外方に突出したフランジ部とにより構成されている。2つのフランジ部のいずれか一方に、ブレーキ液が通過する放射溝が形成されている。
前述した特許文献1および特許文献2に記載されたクラッチレリーズシリンダ機構においては、スレーブシリンダ室を形成するシリンダケースと変速機を収容する変速機ケースとが直接連結されている。
【特許文献1】特開平7−83248号公報
【特許文献2】特開平8−121500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載されたクラッチレリーズシリンダ機構においては、シリンダケースが変速機ケースに、ボルトナットにより円周方向に等間隔で連結されているため、ボルトナットの締め具合や変速機ケースとシリンダケースの接触面部が不均一に形成されていた場合、変速機ケースとシリンダケースの接触面部でフルード漏れが生ずる可能性があった。また、シリンダケースが変速機ケースに直接連結されていたため、変速機内で生じた熱が変速機ケースを介してシリンダケースに伝達されてしまうという問題もあった。
【0004】
本発明は、前述の従来の問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明は、変速機ケースとクラッチケースとの間を隔する隔壁とシリンダケースの接触面部からフルード漏れが起きないようシール性を良好にするとともに、変速機内で生じた熱が変速機ケースを介してシリンダケースに伝達するのを抑制するよう断熱性も良好にするクラッチレリーズシリンダ機構およびそれを備えたクラッチ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るクラッチレリーズシリンダ機構は、目的を達成するため、(1)変速機を収納する変速機ケースとクラッチ機構を収容するクラッチケースとの間を隔する隔壁に接合する接合壁部を有するとともに、前記クラッチ機構に、エンジンの出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力を伝達させ、または遮断させるよう前記入力軸を囲んで配置されたクラッチレリーズシリンダ機構において、前記隔壁と前記接合壁部の間に介装され、弾性材料、かつ断熱材料よりなる環状部材を備えたものから構成されている。
【0006】
この構成により、隔壁と接合壁部の間に弾性材料、かつ断熱材料よりなる環状部材が介装されているので、隔壁とクラッチケースの双方に対して、環状部材が円周方向および放射方向に均一に当接しており、隔壁とクラッチケースの間でのフルード漏れが防止される。また、隔壁と接合壁部が環状部材を介して当接しており、直接当接していないので、変速機内で生じた熱が変速機ケースを介してクラッチケースに伝達されるのが抑制される。
【0007】
上記(1)に記載のクラッチレリーズシリンダ機構は、(2)前記接合壁部に対向する隔壁に、前記変速機の前記入力軸の放射外方に位置する環状溝を形成し、前記環状溝に前記環状部材を嵌合させるよう構成してもよい。
【0008】
この構成により、環状溝に環状部材が嵌合しているので、隔壁とクラッチケースの双方に対して、環状部材が円周方向および放射方向に均一かつ確実に当接しており、隔壁とクラッチケースの間でのフルード漏れが防止される。また、隔壁と接合壁部が環状部材を介して当接しており、直接当接していないので、変速機内で生じた熱が変速機ケースを介してクラッチケースに伝達されるのが抑制される。
【0009】
上記(1)に記載のクラッチレリーズシリンダ機構は、(3)前記環状部材が、液体を封入した弾性材料よりなる環状容器、または貫通孔を有する弾性材料よりなる円盤のいずれかによって構成してもよい。
【0010】
この構成により、隔壁と接合壁部の間に液体を封入した弾性材料よりなる環状容器、または貫通孔を有する弾性材料よりなる円盤が介装されているので、環状容器、または円盤が隔壁とクラッチケースの双方に対して、円周方向および放射方向に均一に当接しており、環状容器、または円盤により隔壁とクラッチケースの間からフルード漏れするのが防止される。また、隔壁と接合壁部が円盤、または環状容器を介して当接しており、直接当接していないので、変速機内で生じた熱が変速機ケースを介してクラッチケースに伝達されるのが抑制される。
【0011】
本発明に係るクラッチレリーズシリンダ機構を備えたクラッチ装置は、目的を達成するため、(4)上記(1)ないし(3)に記載のクラッチレリーズシリンダ機構と、エンジンの出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力を伝達または遮断するクラッチ機構とを備えたことを特徴とする。
【0012】
この構成により、隔壁とクラッチケースの間でのフルード漏れが防止されるとともに、変速機内で生じた熱が変速機ケースを介してクラッチケースに伝達されるのが抑制されるクラッチレリーズシリンダ機構を含んでいるので、優れた耐久性を有するクラッチ装置が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、変速機ケースとクラッチケースとの間を隔する隔壁とシリンダケースの接触面部からフルード漏れが起きないようシール性を良好にするとともに、変速機内で生じた熱が変速機ケースを介してシリンダケースに伝達するのを抑制するよう断熱性も良好にするクラッチレリーズシリンダ機構およびそれを備えたクラッチ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の第1の実施の形態に係るクラッチレリーズシリンダ(CSC;Concentric Slave Cylinder)機構20を備えたクラッチ装置10について、図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るCSC機構20を備えたクラッチ装置10の断面図であり、図2は、図1の一部を拡大したCSC機構20の断面図であり、図3(a)は、円盤32の正面図、図3(b)は、図3(a)のA−A断面を示す断面図である。
【0015】
まず、構成について説明する。
図1に示すように、クラッチ装置10は、車両に搭載され、CSC機構20とクラッチ機構40とを含んで構成されており、CSC機構20は、クラッチ機構40が伝達および遮断のいずれかの状態になるようクラッチ機構40を油圧で動作させるようになっている。
【0016】
このクラッチ装置10は、クラッチケース11に収容されており、クラッチケース11の一端部は、図示しない変速機を収容する変速機ケース12に連結され、クラッチケース11と変速機ケース12との間に隔壁13が形成されている。クラッチケース11の他端部は、図示しないエンジンのクランクケースに連結されている。
【0017】
変速機ケース12内に収容されている変速機は、潤滑油によって潤滑および冷却されており、隔壁13に設けられているオイルシール14により、変速機ケース12からクラッチケース11内に漏れ出ないようになっている。
なお、変速機においては、一端が軸受15を介して隔壁13に回転可能に支持された入力軸16と、入力軸16に平行に設けられている図示しないアウトプットシャフトにそれぞれ変速ギヤが設けられており、図示しないシフトレバーおよびシフトフォークによって変速ギヤの噛み合い位置を変更することにより、エンジンからの動力が図示しない駆動輪に変速され伝達されるようになっている。
【0018】
CSC機構20は、図1および図2に示すように、内側ハウジング21と、外側ハウジング22と、環状ピストン23と、レリーズベアリング24と、シール部材25と、ばね部材26と、コイルスプリング27と、支持部材28、29と、カバー部材31、環状部材としての円盤32、複数の固定ボルト33、シールリング34とを含んで構成されている。
このCSC機構20は、レリーズベアリング24の端部でクラッチ機構40と係合しており、外側ハウジング22を介してクラッチ機構40を動作させるようになっている。
【0019】
内側ハウジング21は、一端に形成された接合壁部としてのフランジ21fと、フランジ21fと一体的に形成された円筒部21eとを有しており、フランジ21fが外側ハウジング22にシールリング34を介して液密状態になるよう支持されている。このフランジ21fの端面部が、隔壁13に当接するとともに、円筒部21eの内部に入力軸16が収容されている。
【0020】
外側ハウジング22は、一端に形成された接合壁部としてのフランジ22fと、フランジ22fと一体的に形成された円筒部22eとを有しており、軸線方向に貫通孔22kを有している。この貫通孔22kには、内側ハウジング21の円筒部21eが挿入されており、円筒部22eの内壁面と円筒部21eの外壁面との間に隙間が画成され環状ピストン23が摺動可能となっている。
また、フランジ22fには、放射方向に貫通し環状ピストン23を作動させるオイルが供給されるオイル供給通路22oが形成されている。
【0021】
フランジ22fの端面部は、隔壁13に当接するとともに、固定ボルト33により隔壁13に固定されている。この固定ボルト33を締結することにより、内側ハウジング21のフランジ21fの端面部が隔壁13に当接して固定されるよう、フランジ21fがフランジ22fに嵌め込まれている。
【0022】
また、図2に示すように、このフランジ21fの外周部分とフランジ21fを支持するフランジ22fの内周部分の接触部20sを覆うようにして円盤32が隔壁13に嵌め込まれており、接触部20sからスレーブシリンダ室20r内のオイルが漏出しないようシールされている。
【0023】
外側ハウジング22のフランジ22fと内側ハウジング21のフランジ21fとの当接部分には、シールリング34が介装されており、スレーブシリンダ室20r内のオイルが外部に漏出しないようシールされている。
【0024】
円筒部22eの内壁面と環状ピストン23の一端にはシール部材25が取り付けられており、このシール部材25の側面と、円筒部22eの内壁面と、円筒部21eの外壁面と、内側ハウジング21のフランジ21fの裏面とにより、スレーブシリンダ室20rが画成されている。このスレーブシリンダ室20rは、外側ハウジング22のオイル供給通路22oと連通しており、オイル供給通路22oからオイルが供給されて環状ピストン23に油圧が加わるようになっている。
【0025】
環状ピストン23は、円筒部22eの内壁面と円筒部21eの外壁面との間に画成されたスレーブシリンダ室20rに挿入されており、その端部がシール部材25の側面に当接している。このシール部材25を介して油圧が環状ピストン23に伝達され、環状ピストン23が、その軸線方向に往復運動するよう構成されている。
【0026】
レリーズベアリング24は、内輪24nと、外輪24gと、内輪24nおよび外輪24gとの間に介装された転動体24tとを含んで構成されている。
内輪24nには、環状ピストン23の端部が挿入され円筒部21eに支持されるとともに、内輪24nは、ばね部材26により環状ピストン23に押圧固定されている。
外輪24gは転動体24tを介して、内輪24nに支持されており、内輪24nの回りを滑らかに回転するよう構成されている。この外輪24gは、内輪24nおよび転動体24tを介して環状ピストン23とともに、軸線方向に往復運動するようになっている。
また、内輪24nには、支持部材28が固定されており、この支持部材28によりコイルスプリング27の端部およびカバー部材31の端部が支持されている。
【0027】
外側ハウジング22の円筒部22eの基端部にも、支持部材29が固定されており、この支持部材29によりコイルスプリング27の他端部およびカバー部材31の他端部が支持されている。このコイルスプリング27により、内輪24nがその軸線方向に付勢され、環状ピストン23が円筒部22eから離隔する方向に付勢されている。
【0028】
カバー部材31は、環状の蛇腹状に形成されており、内部にコイルスプリング27、外側ハウジング22の円筒部22eおよび環状ピストン23が収容されており、外部から水滴や異物が内部に侵入しないようにして環状ピストン23などの構成要素を保護している。
スレーブシリンダ室20rに供給される油圧は、図示しない電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)により制御されるようになっている。
【0029】
このECUは、CPU(Central Processing Unit)、燃料噴射装置、点火装置などのエンジンの各装置の動作を実行させるプログラムなどが記憶されたROM(Read Only Memory)、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)、バッテリを電源として作動し書換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)、A/D変換器やバッファなどの入力インターフェース回路および駆動回路などの出力インターフェース回路を含んで構成されている。
【0030】
図3(a)、(b)に示すように、円盤32は、弾性材料、かつ断熱材料からなり、所定の厚みを有するとともに、軸線方向に貫通した貫通孔32kを有しており、所定の外径と、所定の内径を有するドーナツ状に形成されている。このように、円盤32は、簡単な構造で形成されているので、容易に作製することができる。
所定の厚み、所定の外径および所定の内径は、CSC機構20の構造、形状、大きさ、クラッチ機構40の構造、形状、大きさなどの設定条件により適宜選択される。
【0031】
円盤32は、外側ハウジング22の接合壁部としてのフランジ22fに当接する側面32s1と、隔壁13に当接する側面32s2と、外周面32gと、内周面32nとを有しており、これらの各表面は平坦、かつ滑らかに形成されている。
この円盤32は、隔壁13に形成されている環状溝13kに嵌め込まれるようになっており、隔壁13およびフランジ22fよりも断熱性が高く、かつ柔軟性が高い柔軟断熱部材よりなる。CSC機構20が隔壁13に固定された際、円盤32が厚み方向に収縮して、円盤32とフランジ21fおよびフランジ22fが密着するようになっている。
【0032】
この柔軟断熱部材としては、例えば、ゴム、プラスチックなどの弾性材料などが挙げられる。これらの中でも、摂氏130度の環境で長時間使用しても収縮が小さく、熱伝導率W/(m・K)が低く、断熱性および耐熱性に優れたゴム、例えば、水素化ニトロゴム(HNBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などが好ましい。なお、Wの単位は、ワットで仕事率を表し、mの単位は、メートルで長さを表し、Kの単位は、ケルビンで温度を表している。
【0033】
また、円盤32は、内側ハウジング21のフランジ21fの外周部分とフランジ21fを支持する外側ハウジング22のフランジ22fの内周部分の接触部20sを覆うようにして隔壁13に嵌め込まれており、接触部20sからスレーブシリンダ室20r内のオイルが漏出しないようになっている。
【0034】
図1に示すように、クラッチ機構40は、変速機の入力軸16の端部に形成されたスプライン部16sに連結されたハブ41と、トーションスプリング42およびフリクションプレート43を介してハブ41に設けられたクラッチディスク44と、クラッチディスク44に接触または離隔するフェージング部材45と、図示しないエンジンの出力軸に連結され、フェージング部材45を固定するフライホィール46と、このフライホィール46に複数の取付ボルト47で固定されたクラッチカバー48と、このクラッチカバー48にスプリングリテーナ49を介して保持されているダイヤフラムスプリング51と、このダイヤフラムスプリング51に固定されたプレッシャープレート52と、プレッシャープレート52に設けられクラッチディスク44に接触または離隔するフェージング部材53とを含んで構成されている。
【0035】
ダイヤフラムスプリング51は、プレッシャープレート52をクラッチディスク44側に付勢することにより、クラッチディスク44をフェージング部材45を介してフライホィール46に押圧してクラッチディスク44をフライホィール46に係合させるようになっている。このダイヤフラムスプリング51は、半径方向の中間部位でスプリングリテーナ49に保持されており、外周部分でプレッシャープレート52に当接している。
【0036】
ハブ41には、スプライン内歯が形成されており、入力軸16のスプライン部16sに形成されているスプライン外歯とスプライン嵌合しており、入力軸16に対して円周方向には固定され、軸線方向には摺動可能となっており、入力軸16と一体的に回転するようになっている。
【0037】
クラッチディスク44は、ダイヤフラムスプリング51によってプレッシャープレート52を介してフライホィール46側に押圧されており、この状態が図1に示すクラッチ機構40の接続状態であり、また、逆にクラッチディスク44が、ダイヤフラムスプリング51によってプレッシャープレート52を介してフライホィール46から離隔したとき、クラッチ機構40が遮断状態である。
【0038】
クラッチ機構40の接続状態および遮断状態は、ダイヤフラムスプリング51の中央部と係合しているCSC機構20により達成される。
【0039】
具体的には、CSC機構20の外側ハウジング22が移動してダイヤフラムスプリング51の中央部をフライホィール46側に押圧すると、ダイヤフラムスプリング51の中央部はスプリングリテーナ49を支点として外側ハウジング22の移動方向と同じ方向に回動し、ダイヤフラムスプリング51の外周部は外側ハウジング22の移動方向と逆の方向に回動する。このとき、ダイヤフラムスプリング51の外周部に固定されているプレッシャープレート52が、外側ハウジング22の移動方向と逆の方向に回動するので、プレッシャープレート52がクラッチディスク44から離隔し、クラッチ機構40が遮断状態となるよう構成されている。
【0040】
他方、CSC機構20の外側ハウジング22が前記と逆の方向へ移動してダイヤフラムスプリング51の中央部のフライホィール46側への押圧を解除すると、ダイヤフラムスプリング51の中央部は、その弾性力によりスプリングリテーナ49を支点として外側ハウジング22の移動方向と逆の方向に回動し元の状態に復帰するよう構成されている。すなわち、プレッシャープレート52がクラッチディスク44に接続され、クラッチ機構40が接続状態となるよう構成されている。
【0041】
次に、第1の実施の形態に係るクラッチ装置10の動作について簡単に説明する。
車両の運転者により、図示しないクラッチペダルが踏み込まれていないときは、ECUの制御により、CSC機構20のスレーブシリンダ室20rに油圧が供給されないので、図1に示すように、クラッチ機構40は、接続状態となっている。すなわち、図示しないエンジンの出力軸と変速機の入力軸16とが接続された状態となり、エンジンの動力が変速機に伝達される状態となる。
【0042】
運転者により、クラッチペダルが踏み込まれると、ECUの制御により、CSC機構20の外側ハウジング22のオイル供給通路22oを経由して、スレーブシリンダ室20rに油圧が供給される。スレーブシリンダ室20rの油圧が高まると、環状ピストン23がシール部材25を介して油圧を受け、油圧およびコイルスプリング27の押圧力により環状ピストン23、内輪24n、外輪24g、転動体24tがともにクラッチ機構40側に速やかに移動する。このとき、レリーズベアリング24の端部によりクラッチ機構40のダイヤフラムスプリング51が押圧され、プレッシャープレート52が、クラッチディスク44から離隔し、クラッチ機構40が遮断状態となり、エンジンの動力は変速機に伝達されず、エンジンはアイドリング状態となる。
【0043】
次に、第1の実施の形態に係るCSC機構20を備えたクラッチ装置10の作用について説明する。
【0044】
クラッチ装置10が接続状態のとき、エンジンの動力が変速機に伝達され、変速機において、摩擦などにより運動エネルギが熱エネルギに変換され、変速機内部の温度が上昇する。
この熱エネルギは、変速機の構成要素を伝達し変速機ケース12から隔壁13に伝達される。隔壁13の温度が高まると、隔壁13に接合している接合壁部としての外側ハウジング22のフランジ22fに熱伝導され、フランジ22fからCSC機構20の各構成要素に熱伝導される。
【0045】
このとき、隔壁13に形成されている環状溝13kに円盤32が嵌め込まれているので、熱エネルギが隔壁13からフランジ22fに熱伝導される際、円盤32で断熱される。熱の良導体である金属と比較して、円盤32が断熱性に優れた不良導体のゴムで形成されているので、すなわち円盤32が熱伝導率W/(m・K)が低い断熱材料で形成されているので、隔壁13内の熱エネルギが、フランジ22fに熱伝導されにくく、円盤32で遮断される。
【0046】
また、円盤32は、内側ハウジング21のフランジ21fの外周部分とフランジ21fを支持する外側ハウジング22のフランジ22fの内周部分の接触部20sを覆うようにして隔壁13に嵌め込まれているので、接触部20sからスレーブシリンダ室20r内のオイルが漏出しないようシールされる。したがって、外側ハウジング22のフランジ22fと内側ハウジング21のフランジ21fとの当接部分に介装されたシールリング34と、円盤32とにより、スレーブシリンダ室20r内のオイルが外部に漏出しないよう二重にシールされ、シール性が向上する。
【0047】
このように、本実施の形態のCSC機構20は構成されているので、以下の効果が得られる。
【0048】
すなわち、CSC機構20は、変速機を収容する変速機ケース12とクラッチ機構40を収容するクラッチケース11との間を隔する隔壁13に接合する接合壁部としてのフランジ22fを有するとともに、クラッチ機構40に、エンジンの出力軸と変速機の入力軸16との間で動力を伝達させ、または遮断させるよう入力軸16を囲んで配置され、隔壁13とフランジ22fの間に介装され、弾性材料、かつ断熱材料よりなる円盤32を隔壁13に形成した環状溝13kに嵌合したことを特徴としている。
【0049】
その結果、変速機内部の温度が上昇し、変速機ケース12から隔壁13に熱が伝達されて、隔壁13の温度が上昇しても、隔壁13に形成されている環状溝13kに円盤32が嵌め込まれているので、熱エネルギが隔壁13からフランジ22fに熱伝導される際、円盤32で断熱されるという効果がある。すなわち、円盤32が断熱性に優れた熱伝導率W/(m・K)が低い断熱材料で形成されており、従来のCSC機構のように、隔壁から直接熱エネルギがCSC機構に伝達されないので、隔壁13内の熱エネルギが、フランジ22fに熱伝導されにくく、円盤32で確実に遮断され、CSC機構が熱による影響を受けず耐久性が改善されるという効果がある。
【0050】
従来のCSC機構の場合、変速機ケースとクラッチケースとの間の隔壁に直接接触してCSC機構が取り付けられているが、本実施の形態のCSC機構20では、前述のように隔壁13に円盤32が介装されているので、隔壁13とCSC機構20のフランジ21f、22fとが直接接触する接触面積が減少している。その結果、従来のCSC機構の熱伝導と比較して約80%が減少していると推定される。
【0051】
また、円盤32は、内側ハウジング21のフランジ21fの外周部分とフランジ21fを支持する外側ハウジング22のフランジ22fの内周部分の接触部20sを覆うようにして隔壁13に嵌め込まれているので、接触部20sからスレーブシリンダ室20r内のオイルが漏出しないよう確実にシールされ、シール性が向上するという効果がある。
【0052】
また、本実施の形態のCSC機構20を備えたクラッチ装置10は前述のように構成されているので、以下の効果が得られる。
すなわち、クラッチ装置10は、本実施の形態のCSC機構20と、エンジンの出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力を伝達または遮断するクラッチ機構40とを備えたことを特徴としている。
その結果、熱による影響を受けず耐久性が改善されるとともに、シール性が向上したCSC機構20を含んで構成されているので、耐久性およびシール性に優れたクラッチ装置10が得られるという効果がある。
【0053】
(第2の実施の形態)
図4は、第2の実施の形態に係るCSC機構120を備えたクラッチ装置110の断面図であり、図5は、図4の一部を拡大したCSC機構120の断面図であり、図6(a)は、環状容器132の正面図、図6(b)は、図6(a)のB−B断面を示す断面図である。
【0054】
なお、第2の実施の形態に係るCSC機構120を備えたクラッチ装置110においては、第1の実施の形態に係るCSC機構20に形成された円盤32が異なっているが、他の構成は同様に構成されている。したがって、同一の構成については、図1から図3に示した第1の実施の形態と同一の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
【0055】
図4に示すように、クラッチ装置110は、第1の実施の形態と同様に、車両に搭載され、CSC機構120とクラッチ機構40とを含んで構成されており、CSC機構120は、クラッチ機構40が伝達および遮断のいずれかの状態になるようクラッチ機構40を油圧で動作させるようになっている。
【0056】
このクラッチ装置110は、第1の実施の形態と同様に、クラッチケース11に収容されており、クラッチケース11の一端部は、図示しない変速機を収容する変速機ケース12に連結され、クラッチケース11と変速機ケース12との間に隔壁113が形成されている。
【0057】
CSC機構120は、図4に示すように、第1の実施の形態に係るCSC機構20と同様に構成されており、前述のように、第1の実施の形態の円盤32に代えて、環状容器132を含んで構成されている。
【0058】
図6(a)、(b)に示すように、環状容器132は、弾性材料、かつ断熱材料からなり、内部に液体が充填され、所定の厚みを有するとともに、軸線方向に貫通した貫通孔132kを有しており、所定の外径と、所定の内径を有するドーナツ状に形成されている。
内部に充填される液体としては、断熱性、耐熱性および経年変化の少ないもので構成され、例えば、エンジンの冷却水のようなものでもよい。また、液体以外のエラストマー、ゲル状物質を詰め込むようにしてもよい。
所定の厚み、所定の外径および所定の内径は、CSC機構120の構造、形状、大きさ、クラッチ機構40の構造、形状、大きさなどの設定条件により適宜選択される。
【0059】
図5に示すように、環状容器132は、第1の実施の形態と同様、外側ハウジング22の接合壁部としてのフランジ22fに当接する側面132s1と、隔壁113に当接する側面132s2と、外周面132gと、内周面132nとを有しており、これらの各表面は平坦、滑らかに形成されている。この環状容器132は、隔壁113に形成されている環状溝113kに嵌め込まれるようになっており、隔壁113およびフランジ22fよりも断熱性が高く、かつ柔軟性が高い柔軟断熱部材よりなる。CSC機構20が隔壁13に固定された際、円盤32が厚み方向に収縮して、円盤32とフランジ21fおよびフランジ22fが密着するようになっている。
【0060】
この柔軟断熱部材としては、例えば、ゴム、プラスチックなどの弾性材料などが挙げられる。これらの中でも、摂氏130度の環境で長時間使用しても収縮が小さく、熱伝導率W/(m・K)が低く、断熱性および耐熱性に優れたゴム、例えば、水素化ニトロゴム(HNBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などが好ましい。
【0061】
この環状容器132の内部に、液体を充填せずに環状容器132を形成してもよい。この場合、環状容器132の厚みを、液体が充填されているものと比較して、より厚くし、弾力性を高めるようにしてもよい。内部が空洞になっているので、熱伝導率(W/m・K)がより低くなり熱伝導をより低下させることができる。
【0062】
また、環状容器132は、第1の実施の形態と同様、内側ハウジング21のフランジ21fの外周部分とフランジ21fを支持する外側ハウジング22のフランジ22fの内周部分の接触部20sを覆うようにして隔壁113に嵌め込まれており、接触部20sからスレーブシリンダ室20r内のオイルが漏出しないようになっている。
【0063】
第2の実施の形態に係るクラッチ装置110は、第1の実施の形態に係るクラッチ装置10と同様に動作する。
【0064】
次に、第2の実施の形態に係るCSC機構120を備えたクラッチ装置110の作用について説明する。
【0065】
クラッチ装置110が接続状態のとき、第1の実施の形態と同様、エンジンの動力が変速機に伝達され、変速機において、摩擦などにより運動エネルギが熱エネルギに変換され、変速機内部の温度が上昇する。
【0066】
この熱エネルギは、変速機の構成要素を伝達し変速機ケース12から隔壁113に伝達される。隔壁113の温度が高まると、隔壁113に接合している接合壁部としての外側ハウジング22のフランジ22fに熱伝導され、フランジ22fからCSC機構120の各構成要素に熱伝導される。このとき、隔壁113に形成されている環状溝113kに環状容器132が嵌め込まれているので、熱エネルギが隔壁113からフランジ22fに熱伝導される際、環状容器132で断熱される。熱の良導体である金属と比較して、環状容器132が断熱性に優れた不良導体のゴムで形成されているので、すなわち環状容器132が熱伝導率W/(m・K)が低い断熱材料で形成されているので、隔壁113内の熱エネルギが、フランジ22fに熱伝導されにくく、環状容器132で遮断される。
【0067】
従来のCSC機構の場合、変速機ケースとクラッチケースとの間の隔壁に直接接触してCSC機構が取り付けられているが、本実施の形態のCSC機構120では、前述のように隔壁113に環状容器132が介装されているので、隔壁113とCSC機構120のフランジ21f、22fとが直接接触する接触面積が減少している。その結果、従来のCSC機構の熱伝導と比較して約80%が減少していると推定される。
【0068】
また、環状容器132は、内側ハウジング21のフランジ21fの外周部分とフランジ21fを支持する外側ハウジング22のフランジ22fの内周部分の接触部20sを覆うようにして隔壁113に嵌め込まれているので、接触部20sからスレーブシリンダ室20r内のオイルが漏出しないようシールされる。したがって、外側ハウジング22のフランジ22fと内側ハウジング21のフランジ21fとの当接部分に介装されたシールリング34と、環状容器132とにより、スレーブシリンダ室20r内のオイルが外部に漏出しないよう二重にシールされ、シール性が向上する。
【0069】
このように、本実施の形態のCSC機構120は構成されているので、以下の効果が得られる。
【0070】
すなわち、CSC機構120は、変速機を収容する変速機ケース12とクラッチ機構40を収容するクラッチケース11との間を隔する隔壁113に接合する接合壁部としてのフランジ22fを有するとともに、クラッチ機構40に、エンジンの出力軸と変速機の入力軸16との間で動力を伝達させ、または遮断させるよう入力軸16を囲んで配置され、隔壁113とフランジ22fの間に介装され、弾性材料、かつ断熱材料よりなる環状容器132を隔壁113に形成した環状溝113kに嵌合したことを特徴としている。
【0071】
その結果、変速機内部の温度が上昇し、変速機ケース12から隔壁113に熱が伝達されて、隔壁113の温度が高まっても、隔壁113に形成されている環状溝113kに環状容器132が嵌め込まれているので、熱エネルギが隔壁113からフランジ22fに熱伝導される際、環状容器132で断熱されるという効果がある。すなわち、第1の実施の形態と同様、環状容器132が断熱性に優れた熱伝導率W/(m・K)が低い断熱材料で形成されており、従来のCSC機構のように、隔壁から直接熱エネルギがCSC機構に伝達されないので、隔壁113内の熱エネルギが、フランジ22fに熱伝導されにくく、環状容器132で確実に遮断され、CSC機構が熱による影響を受けず耐久性が改善されるという効果がある。
【0072】
また、環状容器132は、内側ハウジング21のフランジ21fの外周部分とフランジ21fを支持する外側ハウジング22のフランジ22fの内周部分の接触部20sを覆うようにして隔壁113に嵌め込まれているので、接触部20sからスレーブシリンダ室20r内のオイルが漏出しないよう確実にシールされ、シール性が向上するという効果がある。
【0073】
また、本実施の形態のCSC機構120を備えたクラッチ装置110は前述のように構成されているので、以下の効果が得られる。
【0074】
すなわち、クラッチ装置110は、本実施の形態のCSC機構120と、エンジンの出力軸と変速機の入力軸との間で動力を伝達または遮断するクラッチ機構40とを備えたことを特徴としている。
【0075】
その結果、熱による影響を受けず耐久性が改善されるとともに、シール性が向上したCSC機構120を含んで構成されているので、耐久性およびシール性に優れたクラッチ装置110が得られるという効果がある。
【0076】
以上のように、本発明によれば、変速機ケースとクラッチケースとの間を隔する隔壁とシリンダケースの接触面部からフルード漏れが起きないようシール性を良好にするとともに、変速機内の熱が変速機ケースを介してシリンダケースに伝達するのを抑制するよう断熱性も良好にするCSC機構およびそのCSC機構を備えたクラッチ装置を提供することができ、CSC機構により構成されるクラッチ装置全般に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るCSC機構を備えたクラッチ装置の断面図である。
【図2】図1の一部を拡大したCSC機構の断面図である。
【図3】(a)は、本発明の第1の実施の形態に係るCSC機構の円盤の正面図、(b)は、(a)のA−A断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るCSC機構を備えたクラッチ装置の断面図である。
【図5】図4の一部を拡大したCSC機構の断面図である。
【図6】(a)は、本発明の第2の実施の形態に係るCSC機構の環状容器の正面図、(b)は、(a)のB−B断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0078】
10、110 クラッチ装置
11 クラッチケース
12 変速機ケース
13、113 隔壁
13k、113k 環状溝
14 オイルシール
15 軸受
16 入力軸
20、120 CSC機構(クラッチレリーズシリンダ機構)
20r スレーブシリンダ室
20s 接触部
21 内側ハウジング
21e、22e 円筒部
21f、22f フランジ(接合壁部)
22 外側ハウジング
22k 貫通孔
22o オイル供給通路
23 環状ピストン
24 レリーズベアリング
25 シール部材
26 ばね部材
27 コイルスプリング
28、29 支持部材
31 カバー部材
32 円盤(環状部材)
32s1、132s1 側面
32s2、132s2 側面
32g、132g 外周面
32k、132k 貫通孔
32n、132n 内周面
34 シールリング
40 クラッチ機構
132 環状容器(環状部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機を収容する変速機ケースとクラッチ機構を収容するクラッチケースとの間を隔する隔壁に接合する接合壁部を有するとともに、前記クラッチ機構に、エンジンの出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力を伝達させ、または遮断させるよう前記入力軸を囲んで配置されたクラッチレリーズシリンダ機構において、
前記隔壁と前記接合壁部の間に介装され、弾性材料、かつ断熱材料よりなる環状部材を備えたことを特徴とするクラッチレリーズシリンダ機構。
【請求項2】
前記接合壁部に対向する隔壁に、前記変速機の前記入力軸の放射外方に位置する環状溝を形成し、前記環状溝に前記環状部材を嵌合させたことを特徴とする請求項1に記載のクラッチレリーズシリンダ機構。
【請求項3】
前記環状部材が、液体を封入した弾性材料よりなる環状容器、または貫通孔を有する弾性材料よりなる円盤のいずれかによって構成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のクラッチレリーズシリンダ機構。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載のクラッチレリーズシリンダ機構と、エンジンの出力軸と前記変速機の入力軸との間で動力を伝達または遮断するクラッチ機構とを備えたことを特徴とするクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−91043(P2010−91043A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262883(P2008−262883)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】