クラッチ制御装置の流量制御弁
【課題】作動流体によって駆動されるクラッチアクチュエータを備えた車両用のクラッチ制御装置において、作動流体を制御する流量制御弁の経年変化等を補償し、簡易な手段によりクラッチの接続量の正確な制御を実行する。
【解決手段】クラッチ制御装置には、クラッチアクチュエータ110のストロークを制御するため、電磁ソレノイドにより作動流体の供給及び排出を制御する単一の流量制御弁1が設置される。流量制御弁制御装置9には、作動流体の流通を遮断する流量制御弁1の中立位置を学習する学習装置91を設け、学習時に変速機をニュートラルとしてストロークを減少させた後に増大させる作動を実行し、ストロークの変化速度を検出して中立位置の中央点を学習する。クラッチのストローク制御では、学習値に基づいてコイル8への通電量を補正し、経年変化等による流量特性の変化を補償する。
【解決手段】クラッチ制御装置には、クラッチアクチュエータ110のストロークを制御するため、電磁ソレノイドにより作動流体の供給及び排出を制御する単一の流量制御弁1が設置される。流量制御弁制御装置9には、作動流体の流通を遮断する流量制御弁1の中立位置を学習する学習装置91を設け、学習時に変速機をニュートラルとしてストロークを減少させた後に増大させる作動を実行し、ストロークの変化速度を検出して中立位置の中央点を学習する。クラッチのストローク制御では、学習値に基づいてコイル8への通電量を補正し、経年変化等による流量特性の変化を補償する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備されたクラッチをクラッチアクチュエータにより自動的に断接するクラッチ制御装置において、クラッチアクチュエータ内の作動流体を制御するため用いられる流量制御弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の運転の容易化あるいは運転者の疲労軽減のために、近年、イージードライブを目的とする各種の車両用動力伝達装置の普及が進んでいる。トルクコンバータと遊星歯車装置とを組み合わせたいわゆる自動変速機(AT)がその代表的なものであるが、自動的な車両用動力伝達装置の中には、いわゆるマニュアル車の変速機(MT)と同様な平行軸歯車機構式変速機を使用して、これと自動クラッチとを組み合わせた動力伝達装置がある。この動力伝達装置では、エンジンと変速機との間に配置されるクラッチがクラッチアクチュエータを備えており、運転者が変速レバーで変速段を切り替える変速時や車両の発進時に、自動的にクラッチを断接するようにして、運転者のクラッチペタルの操作を省略している。運転者が変速レバーを操作する代わりに、電子制御装置を用い車両の走行状態に応じて自動的に変速段を切り替える動力伝達装置も存在する。
【0003】
エンジンと変速機との間に設置されるクラッチ(乾式単板クラッチ)は、図6に示すように、周辺部に摩擦板が固着されたクラッチディスク101を備えており、これは、エンジンのクランクシャフト102に回転可能に支持される変速機入力軸103に摺動可能にスプライン嵌合されている。クラッチディスク101の摩擦板の背後には、摩擦板をクランクシャフト102の後端部のフライホイール104に対して圧接するプレッシャプレート105が設けられる。また、フライホイール104に固着されるクラッチカバー106にはダイヤフラムスプリング107が取り付けてある。車両の通常走行時においては、ダイヤフラムスプリング107が、プレッシャプレート105を介してクラッチディスク101をフライホイール104に対して圧接することにより、エンジンの動力は、クラッチディスク101を経由して変速機入力軸103に伝達される。
【0004】
クラッチには、動力の伝達を断接する操作機構が備えられており、この操作機構は、変速機入力軸103に嵌め込まれたレリーズベアリング108、レリーズフォーク109及びクラッチアクチュエータ110等により構成されている。クラッチアクチュエータ110は、空気圧又は油圧で作動する流体圧シリンダであって、そのピストンはレリーズフォーク109の一端に連結される。また、ピストンの過大な移動によってクラッチアクチュエータ110等に損傷が生じるのを防止するよう、移動量を機械的に制限するストッパ111が設けられる。
【0005】
車両の変速時において変速段を切り替えるためエンジン動力を遮断するときは、クラッチアクチュエータ110に作動流体を供給し、レリーズフォーク109の一端を図の右方に変位させる。レリーズフォーク109の他端は反対方向に変位し、これに当接するレリーズベアリング108を左方に摺動して、ダイヤフラムスプリング107を図の2点鎖線のように移動させる。これにより、プレッシャプレート105を圧接するスプリング力は解除され、エンジン動力の変速機入力軸103への伝達が遮断される。変速が終了しクラッチを再び接続するときは、クラッチアクチュエータ110の作動流体を排出して、リターンスプリング112等でレリーズフォーク109を左方に移動させる。クラッチの接続状態(接続量)は、クラッチアクチュエータ110のピストンの移動量、すなわちクラッチアクチュエータのストロークで決定される。
【0006】
車両の変速時には、迅速なしかも変速ショックのないクラッチの断続を実行する必要がある。そのため、一旦切断したクラッチを変速段の切り替え後(ギヤイン後)に再び接続するときは、図7におけるストロークの変化のグラフに示すように、実質的にトルク伝達の生じない無効領域を速やかに通過させるよう、まずクラッチアクチュエータ110のピストンを接方向に急速に移動させるとともに、トルク伝達が開始されるいわゆる半クラッチ領域では、急速な接続量の増加に伴う変速ショックを避けるよう徐々に接続量を増加させる。こうした制御は、クラッチアクチュエータ110内の作動流体の量を変更し、そのストロークを正確に制御することにより実行される。
【0007】
変速時等に自動的にクラッチを断接するクラッチ制御装置では、作動流体を供給するエアタンク等の作動流体圧力源、クラッチアクチュエータのピストンの移動量を検出するストロークセンサ、そしてクラッチアクチュエータ内の作動流体量を制御する制御弁が設けられ、変速時等におけるクラッチの制御が行われる。通常、制御弁は作動流体の供給管路と排出管路とにそれぞれ配置され、これらの2個の制御弁を開閉することにより、クラッチの接続量が制御される。これに対し、1個の流量制御弁を用いてクラッチアクチュエータ内の作動流体の供給及び排出を行うクラッチ制御装置も知られており、一例として特許第3417823号公報に記載されている。
【0008】
単一の流量制御弁を使用するクラッチ制御装置においては、図8の回路図に示すとおり、流量制御弁1には、クラッチアクチュエータ110に連なる連通通路2と、エアタンク等の作動流体圧力源3に連なる圧力源通路4と、クラッチアクチュエータ110から作動流体を排出する排出通路5とが接続され、それぞれの通路に開口する連通ポート2p、圧力源ポート4p、排出ポート5pの3個のポートが形成される。
図8の流量制御弁1は、弁体6を操作する弁アクチュエータとして電磁ソレノイド式の駆動装置を備えた、スライドバルブ形式の比例制御弁である。つまり、流量制御弁1を通過する作動流体の流量が弁体6の位置に応じて変化する流量特性を有し、電磁ソレノイドへの通電量が流量を変更するための操作量となっている。クラッチのストロークを制御するため、流量制御弁1には、ストロークセンサ7の検出信号に応じてコイル8への通電量を制御する流量制御弁制御装置9が接続される。
【0009】
流量制御弁1の弁体6は、図9の詳細作動図に示すとおり、中間に2個のランドを有し、弁体6の一端は、電磁ソレノイドの可動ヨーク10に連結されている。弁体6の他端にはばね11が配置してあり、弁体1は、可動ヨーク10に作用する磁力とばね11のばね力とのバランスによってその位置が決定される。コイル8への通電を停止したとき(通電量0%)は、弁体6は、ばね11に押されて図9(b)の位置となり、連通ポート2pと排出ポート5pとが連通し、クラッチアクチュエータ110内の作動流体は外部に排出されてクラッチが接続状態となる。コイル8に流れる電流を最大値(100%)とすると、弁体6は、ばね11を圧縮して図9(c)の位置となり、連通ポート2pと圧力源ポート4pとが連通する。これにより、圧力源3の作動流体が連通ポート2pからクラッチアクチュエータ110内に導入され、クラッチは切断される。コイル8に50%の電流を流したときは、弁体6が図9(a)の位置、すなわち中立位置となって連通ポート2pが圧力源ポート4p及び排出ポート5pと遮断され、クラッチのストロークは一定位置に保持される。このような流量制御弁により、図7に示される変速時のクラッチのストローク制御を実施するときには、コイルへの通電量は、同図の下方に示すパターンに従って変化するよう制御される。
【0010】
ここで、流量制御弁の弁体の位置と流量の関係についてみると、弁体が図9(a)の中立位置にある場合、ランドの長さLと連通ポート2pの巾の長さWとが一致している流量制御弁では、弁体が中立位置から左右に外れると直ちに作動流体の流れが生じる。この流量制御弁では流量が0となる中立位置は1点であり、流量特性、つまりコイル8に流れる電流に対する作動流体の流量は、中立位置(通電量50%)を中心として供給側及び排出側の流量が点対称である、図11の2点鎖線の特性となる。こうした流量制御弁を用いたときは、中立位置から外れると直ちにクラッチアクチュエータ110内の作動流体量が変化する。そのため、ストロークを定位置に保持するにはコイル8に流れる電流を精密に制御する必要がある。
【0011】
これに対し、図10(a)に示すとおり、ランドの長さLが連通ポート2pの巾の長さWよりも少量だけ大きく設定すると、流量制御弁1の中立位置に少量の巾が生じる。この場合には流量特性が図11の実線で表される特性となって、中立位置には操作量が変化しても流量が変化しない不感帯DZが存在し、その中央点に対して供給側及び排出側の流量が点対称となる。これにより、ストロークを定位置に保持するようにコイル8に流れる電流が設定されているときに、外乱等に起因して電流が多少変動しても、ストロークが変わることなく安定した作動が可能となる。流量制御弁1のこのような不感帯DZは、流量制御弁を製造する過程における不可避的な製造誤差によっても発生する場合がある。
【0012】
そして、不感帯DZが存在する流量制御弁では、クラッチのストローク制御中においてストロークを一定値に保持するよう弁体6が停止する位置は、弁体6の移動方向で異なる位置となる。弁体6が図10で右方に移動して中立位置に至るとき、つまり、クラッチアクチュエータ110に作動流体を供給してクラッチを断方向に操作(ストロークが増加)した後に、弁体6を中立位置として供給を遮断するときは、弁体6のランドの右端が連通ポート2pを閉鎖する図10(b)の位置(図11のP点に対応)で弁体6が停止する。逆に、弁体6が図10で右方に移動して中立位置となるとき、つまり、クラッチを接方向に操作(ストロークが減少)するためクラッチアクチュエータ110の作動流体を排出した後に、弁体6を中立位置として排出を止めるときは、弁体6のランドの左端が連通ポート2pを閉鎖する図10(b)の位置(図11のN点に対応)で停止することとなる。
【特許文献1】特許第3417823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
クラッチの接続量を正確に制御するためには、流量制御弁によるクラッチアクチュエータ内の作動流体量の迅速かつ正確な制御が要求される。そのため、流量制御弁制御装置には、電磁ソレノイドのコイルへの通電量と流量の関係を表す流量特性(図11)が記憶されている。例えば、流量特性の中立位置に不感帯が存在するときは、図11の実線に示すグラフの形で記憶される。流量制御弁制御装置は、この流量特性を用いてコイルへの通電量を制御し、操作量である通電量を目標とする流量に対応した値となるよう設定する。
【0014】
ところで、個々の流量制御弁には製造上の僅かな相違等に起因する個体差が多少なりとも存在し、通電量と流量の関係である流量特性は、個々の流量制御弁に応じて僅かながら相違する。また、同一の流量制御弁であっても経年変化に伴い流量特性の変化が生じることがある。不感帯が存在する流量制御弁についてみると、経年変化により電磁ソレノイドの磁力とばねのバランスが変化し、磁力が低下したときは図12の実線の流量特性が右方に移動し(破線X)、ばね力が低下したときは左方に移動して(破線Y)、流量制御弁の不感帯DZも同様に移動する。このような流量特性の変化は、不感帯が存在するか否かにかかわらず発生するものであり、流量特性が変化すると、同一の通電量であっても流量が異なる結果となるため、クラッチ接続量を迅速かつ正確に目標値とすることができず、変速ショックが生じることとなる。
本発明の課題は、クラッチ制御装置に用いられる流量制御弁において、経年変化等に起因して発生する上述の問題を簡易な手段により解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題に鑑み、本発明は、流量制御弁を用いるクラッチ制御装置において、流量制御弁制御装置に流量制御弁の中立位置の中央点を学習する学習装置を設け、流量特性の相違を補償することにより、不感帯のある流量制御弁であっても、簡易な手段によってクラッチ接続量の正確な制御を実行するようにしたものである。すなわち、本発明は、
「エンジンと変速機との間にクラッチが設置された車両用動力伝達装置におけるクラッチ制御装置であって、
前記クラッチ制御装置は、作動流体によって駆動されるクラッチアクチュエータと、前記クラッチアクチュエータの移動量を検出するストロークセンサと、前記クラッチアクチュエータ内の作動流体の量を制御する流量制御弁と、前記ストロークセンサの検出信号に応じて前記流量制御弁の弁体の位置を制御する流量制御弁制御装置とを備え、
前記流量制御弁には、前記クラッチアクチュエータに連なる連通通路と、作動流体の圧力源に連なる圧力源通路と、前記クラッチアクチュエータから作動流体を排出する排出通路とが接続され、かつ、前記弁体を操作する弁アクチュエータが設置されて、前記弁体の中立位置においては、前記連通通路が前記圧力源通路及び前記排出通路と遮断されるよう構成され、さらに、
前記流量制御弁制御装置が、前記弁体の中立位置中央点を学習する中立位置学習装置を備えており、前記中立位置学習装置は、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる作動を実行して、前記ストロークセンサの検出信号の変化速度が、前記ストロークセンサの検出信号の減少中に所定値に達したときにおける前記弁アクチュエータの操作量である第1操作量と、増加中に前記所定値と絶対値が等しい変化速度に達したときにおける前記弁アクチュエータの操作量である第2操作量とを検出し、前記第1操作量と前記第2操作量とを平均した値を中立位置中央点と判定する」
ことを特徴とするクラッチ制御装置となっている。ここで「操作量」とは、弁アクチュエータを操作し制御量としての流量を変更するため加えられる量を意味するものであり、例えば、弁アクチュエータが電磁ソレノイドであればその通電量、弁アクチュエータとしてパルスモータを使用したときはパルス数となる。
【0016】
請求項2に記載のように、前記中立位置学習装置は、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる前記作動を実行するに先立ち、クラッチの完断位置までクラッチアクチュエータの移動量を増大させるよう構成することができる。
【0017】
請求項3に記載のように、前記中立位置学習装置は、前記車両が停車中であって前記車両のブレーキが作動しているときに、前記変速機をニュートラルとして、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる前記作動を実行することが好ましい。
【0018】
請求項4に記載のように、前記流量制御弁は、前記弁体を駆動する電磁ソレノイドを備えており、前記操作量が前記流量制御弁制御装置により制御され前記電磁ソレノイドのコイルに通電される通電量であるものとすることができる。
【発明の効果】
【0019】
クラッチ制御装置に単一の流量制御弁を設置し、この流量制御弁によりクラッチアクチュエータ内の作動流体の供給及び排出を行うときは、流量制御弁の弁体を、中立位置から一方に変位させて作動流体を供給し、他方に変位させて作動流体を排出する。本発明の流量制御弁制御装置は中立位置の学習装置を備え、中立位置に巾があり不感帯が存在する流量制御弁では、中立位置の中央点となる弁アクチュエータの操作量(例えば電磁ソレノイドのコイルへの通電量)を常時学習している。そのため、流量制御弁の個体差や経年変化に伴い中立位置の中央点が変化しても、学習装置に記憶されたその中央点によって弁アクチュエータの操作量を補正し、流量制御弁の弁体の位置を、目標とする流量となるよう正確に制御することができる。したがって、変速時等においてクラッチの接続量の迅速かつ正確な変更が可能となり、変速ショックのないクラッチ制御が達成される。なお、中立位置に不感帯のない流量制御弁の場合には、中立位置の中央点は中立位置そのものとなるから、その位置を学習することによって、不感帯のない流量制御弁であっても、弁アクチュエータの操作量の補正が同様に可能であるのは明らかである。
【0020】
また、本発明の中立位置の学習装置では、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる作動を実行して、ストロークセンサの検出信号の変化速度が、ストロークセンサの検出信号の減少中に所定値に達したときにおける弁アクチュエータの操作量である第1操作量と、増加中に前記所定値と絶対値が等しい変化速度に達したときにおける弁アクチュエータの操作量である第2操作量とを検出する。換言すると、クラッチアクチュエータの移動量が減少するときに速度が所定値(−)となったときの第1操作量と、増加するときに速度が同一絶対値の所定値(+)となったときの第2操作量とを検出する。そして、この第1操作量と第2操作量とを平均した値を中立位置中央点と判定する。このようにすると中立位置中央点の検知が可能であるのは次の理由による。
【0021】
図11に示されるとおり、流量制御弁の操作量(通電量)と流量との関係を表す流量特性は、供給側及び排出側で中立位置あるいはその中央点について点対称である。この点対称の特性は、図12のように経年変化等に伴って中立位置の中央点が変位したとしても変わりはない。クラッチアクチュエータのストロークの変化速度は、流量制御弁の流量に比例するから、供給側及び排出側の流量が等しいときには、ストロークの変化速度は逆方向で絶対値の等しいものとなる。したがって、本発明の中立位置の学習装置のように、ストロークの減少中に所定値に達したときにおける弁アクチュエータの操作量、例えば図11の流量−Q0に相当する通電量In、と、増加中に前記所定値と絶対値が等しい変化速度に達したときにおける弁アクチュエータの操作量、例えば図11の流量+Q0に相当する通電量Ip、とを平均することにより、中立位置中央点を判定し、中立位置中央点の操作量を求めることができる。
【0022】
本発明の学習装置で使用されるストロークセンサは、クラッチ接続量の制御のためもともとクラッチ制御装置に備えられた部品である。したがって、本発明の学習装置は、特別な部品を設置する必要なく中立位置中央点の学習が可能であり、また、クラッチアクチュエータのストロークを変化させながら学習を実行するので、静摩擦の影響により学習精度が低下することがない。そして、クラッチ制御装置で使用する流量制御弁は1個であるから、制御装置の全体的な構成が簡易でコンパクトなものとなる。
【0023】
請求項2の発明は、中立位置学習装置が、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる作動を実行するに先立ち、クラッチの完断位置までクラッチアクチュエータの移動量を増大させる、つまり、ストロークを最大値近傍まで増加させて学習を実行するものである。本発明の学習装置は、クラッチアクチュエータのストロークを増減させて中立位置中央点を学習するものであり、学習時にストロークが中間的な位置にあっても学習が可能である。それに対し、請求項2の発明のように、学習の実行に先立ってストロークを最大値近傍まで増加させると、クラッチアクチュエータが一旦全行程に亘って移動するから、クラッチアクチュエータの作動を安定させた領域で学習を実行することとなり、学習精度が向上する。
【0024】
請求項3の発明は、車両が停車中であって、かつ、車両のブレーキが作動しているときに、変速機をニュートラルとして中立位置の学習を行うものである。本発明の中立位置学習を実行すると、クラッチアクチュエータのストロークの増減に伴いクラッチの接続量が変化するため、車両の動力伝達系に影響を与えないよう、車両の停車中において変速機をニュートラルとして学習することが好ましい。そして、車両のブレーキが作動しているときに学習を実行するようにしたときには、万一誤操作等が発生したとしても、車両が不測の発進を起こす事態が防止され、安全に中立位置の学習を行うことができる。
ちなみに、クラッチ制御装置には、半クラッチ学習装置、つまり、クラッチ摩擦板の経時的な磨耗等に伴う半クラッチ位置のストローク変化を定期的に学習する装置、を備えたものが多い。半クラッチ状態の学習は、車両の停車時に請求項3の発明と同様な操作を行って実施されるが、こうした半クラッチ学習装置を備えたクラッチ制御装置においては、半クラッチ状態の学習と同時に流量制御弁の中立位置の学習を行うことが可能となる。
【0025】
請求項4の発明のように、流量制御弁として電磁ソレノイドにより駆動される比例制御弁、つまり、流量制御弁制御装置により電磁ソレノイドのコイルに通電する電流を制御して弁体の位置を連続的に変更する流量制御弁を使用したときは、電気的な制御装置を用いることにより、流量制御弁の駆動装置及び制御装置を小型なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて、本発明を実施した車両用クラッチの制御装置について説明するが、本発明が適用される車両用クラッチ及びクラッチ制御装置を構成する機器は、図6等に示す従来の装置と格別異なるものではない。すなわち、本発明のクラッチ制御装置により操作される車両用クラッチは、図6のクラッチと基本的に同一のものであり、クラッチ接続量を変更するクラッチアクチュエータ110を備えている。クラッチアクチュエータ110には流体圧力源から作動流体が供給され、クラッチの接続量は、クラッチアクチュエータ110のピストンの移動量で決定され、移動量の最大値はストッパ111で機械的に規制されている。
【0027】
本発明のクラッチ制御装置の流体的な回路構成を図1に示す。図1の回路を構成する機器も、いわゆるハードの面では図8の従来のものと同一であって、対応する部品等には同一の符号を付してある。クラッチ制御装置は、電磁ソレノイドにより駆動される単一の流量制御弁1を備え、流量制御弁1には、エアタンク等の流体圧力源3、クラッチアクチュエータ110及び排出通路5が接続される。流量制御弁制御装置9は、弁アクチュエータである電磁ソレノイドのコイル8への通電量を制御して弁体6の位置を変え、クラッチアクチュエータ110内の作動流体の供給、排出を行ってクラッチの接続量を変更する。クラッチアクチュエータ110のピストンの移動量(ストローク)はストロークセンサ7で検出され、その信号が流量制御弁制御装置9に入力される。
【0028】
本発明のクラッチ制御装置においては、流量制御弁制御装置9には中立位置中央点学習装置91が設置されている。中立位置中央点学習装置91は、流量制御弁1に不感帯が存在するときであっても中立位置の学習が可能となるよう、クラッチアクチュエータ110のストロークの信号を用いて、流量制御弁1を通過する作動流体の流れが遮断される弁体中立位置の中央点、に対応するコイル8の通電量を学習するものであり、これにもストロークセンサ7の検出信号が入力される。
【0029】
本発明の中立位置中央点学習装置91は、クラッチアクチュエータ110のストロークを減少させた後に増大させる作動を実行し、ストロークが減少するときに速度が所定値となった時点の第1操作量と、増加するときに速度が前記所定値と同一絶対値の値となった時点の第2操作量とを検出する。学習の実行に際しストロークを増減すると、クラッチの接続量が変化して車両の動力伝達系に伝達されるエンジン動力の変動が起こる。このような事態を回避するため、この実施例の中立位置中央点学習装置91は、車両が停車中であるときに変速機を短時間ニュートラルとし、クラッチアクチュエータ110を作動して学習を実行する。また、クラッチアクチュエータ110のストロークを増減して学習を実行するに先立ち、ストロークをクラッチ完断位置に相当する最大値近傍まで増加して停止状態とし、その後学習を行うよう構成されている。
【0030】
中立位置中央点学習装置91の作動について、図2のフローチャート及び図3の作動特性図を用いて説明する。この実施例の学習装置は、上記の学習を4段階(フェーズ)の手順に分けて実行するものであり、図2のフローチャートの演算等を一定演算周期で実施する。これにより、電磁ソレノイドのコイル8の通電量は図3の下図のパターンに従って変化し、クラッチのストロークは、通電量に応じて図3の上図のように変化する。
図2のフローチャートにおいて、まずステップS1では、後述の学習条件が成立したか否かを判定する。学習条件が成立していないときはステップS2においてクラッチが接続した状態(学習時以外のクラッチ状態:フェーズ0)を保持し、成立すると、ステップS3、S4でフェーズ0からフェーズ1に移行させる。フェーズ0から他のフェーズに移行したときは、クラッチアクチュエータ110のストロークを読み込み(S5)、そして微分値Dを計算する(S6)。微分値Dはストロークの変化速度を表すものであり、学習の実行中にはストロークの変化速度が常時演算されることとなる。
【0031】
ステップS7においてフェーズがフェーズ1であると判定されると、クラッチを断とするよう完断位置を目標ストロークstaとするストローク制御を実行する(S8)。この制御の過程では、ステップS6で演算されるクラッチストロークの変化速度は、始めは大きいが目標ストロークstaに近づくに従って減少するようになる。ストロークが目標ストロークsta近傍に達し、その変化速度が略0である学習開始所定速度V0となった時点(S9)で、フェーズ1を終了してフェーズをフェーズ2に移行させる(S10)。フェーズ1が終了する時点は、クラッチを断とするためクラッチアクチュエータ110へ供給する作動流体の流量が0となった時点であって、流量制御弁1は、図10(b)の状態(流量特性の図11のP点)にある。
なお、学習時におけるクラッチの切断は急速に行われる関係上、クラッチアクチュエータの移動量が完断位置を通過してストッパ111により規制されるストローク限界(stM)まで達し、ストローク変化速度が0となる場合がある。クラッチが完断位置にあることを確認するため、ステップS9の後に、ストロークがstM未満かつ所定ストローク以上であるか否かを判断するステップを加え、この条件が満足されたときにフェーズ2に移行させるよう構成することもできる。
【0032】
ステップS11でフェーズがフェーズ2であると判定されるとステップS12に進み、中立位置中央点学習装置91は、クラッチアクチュエータ110のストロークを減少させるためコイル通電量を一定割合で徐々に減少する制御を行う(図3のコイル通電量の特性におけるPHASE2の部分参照)。これにより、流量制御弁1の弁体6は図10(b)において右側に移動するが、このとき始めは不感帯DZを通過するため、ストロークは目標ストロークstaに保持され変化速度は0である。不感帯DZを過ぎると、クラッチアクチュエータ110から作動流体が排出されてストロークは減少するようになる。ステップS6で演算される変化速度が負の所定値V1(流量制御弁1の流量が、例えば図11の−Q0に相当)に達した時点(S13)で、そのときのコイル通電量Inを第1操作量として検出・記憶し(S14)、フェーズ2を終了してフェーズ3に移行させる(S15)。
【0033】
ステップS16でフェーズ3であると判定されるとステップS17に進み、コイル通電量を一定割合で徐々に増加させる制御を実行する(図3のコイル通電量の特性におけるPHASE3の部分参照)。このときには流量制御弁1の弁体6が左側に移動し、図10(c)の状態(流量特性の図11のN点)となったときに再び変化速度が0となり、ストロークは一定となる。さらに移動して不感帯DZを過ぎると、クラッチアクチュエータ110に作動流体が供給されてストロークは増加するようになる。変化速度が前記所定値V1と絶対値の等しい正の所定値V2(流量制御弁1の流量が、例えば図11の+Q0に相当)に達した時点(S18)で、そのときのコイル通電量Ipを第2操作量として検出・記憶する(S19)。こうして第1操作量In及び第2操作量Ipが検出されると、学習を目的とするストローク制御が終了するので、中立位置中央点を演算するためのフェーズ4に移行させる(S20)。
【0034】
フェーズ4に移行したときは、ステップS7、S11及びS16の判断が全て否となるから、制御フローはステップS21に進み、記憶された第1操作量In及び第2操作量Ipを平均して、中立位置中央点の通電量Ic=(In+Ip)/2が演算され、学習値として記憶される。さらに、フェーズをフェーズ0に戻し(S22)学習終了のフラグを立てて(S23)、フローを終える。
このように学習された中立位置の中央点の通電量により、中立位置中央点学習装置91では、それまでの学習値の補正等が行われ、更新された学習値は、流量制御弁制御装置9において流量制御弁1の制御を実行する際に使用される。本発明では、中立位置の中央点を学習するから、流量制御弁1の中立位置に巾があり流量特性に不感帯があるものであっても、経年変化等で生じる流量特性の誤差を補償することができる。
【0035】
ここで、図2のフローチャートのステップS1で実行する学習条件が成立したか否かの判定について、図4のフローチャートにより説明する。
制御フローがスタートすると、ステップS01で中立位置の学習時期に到達したか否かを判断する。学習時期に到達した場合には、ステップS02で車両が停車中(車速=0)であるか否か、次いでステップS03において車両のブレーキが作動しているか否かを判断する。これらの判断のいずれかが否であるときは図2のステップS2に進み、すべての判断がYesであれば、ステップS04に進んで変速機がニュートラルであるか否かを判断する。ニュートラルでない場合には、変速機をニュートラルとして(S05)図2のステップS3に進行する。このように、中立位置の学習は、エンジンから車輪への動力伝達が遮断されるニュートラル状態で実行されるから、クラッチのストロークを変化させても車両の運動状態に影響を与えない。また、学習中は車両のブレーキが作動しており、車両が不測の発進を起こすことはなく、安全に中立位置の学習を行うことができる。ニュートラルでの学習は短時間で完了するため、車両の運行を阻害することもない。
【0036】
ところで、クラッチ制御装置は通常半クラッチ学習装置を備えており、クラッチ摩擦板の経時的な磨耗等に伴う半クラッチ位置のストローク変化を定期的に学習するよう構成されている。半クラッチ状態の学習は、図4のフローチャートと同様な学習条件が成立したときに、クラッチを断接させて行うものであるから、図4のフローチャートによる中立位置の学習は、半クラッチ状態の学習と同時に実行することが可能である。
【0037】
図5には、本発明の中立位置中央点学習装置を備えた流量制御弁制御装置により、車両走行時の変速段の変更に際し、クラッチアクチュエータのストローク制御を実行するときのフローチャートの一例を示す。
車両の変速時のクラッチ操作では、ストローク(クラッチの接続量)が、時間経過とともに図7のパターンに従って変化するような制御が行われる。ストローク制御は、変速レバー等からの変速指令信号が発生された時点で開始され、ステップSCS1では、ストロークセンサ7の検出信号である実ストロークstrが読み込まれる。SCS2においては、所定時間経過後のストロークが目標ストロークstdとして設定される。SCS3では、目標ストロークstdと実ストロークstrとの差に対応して、所定時間経過後に目標ストロークstdとなるような流量制御弁1の流量Qが演算される。
【0038】
流量制御弁制御装置9には、流量とコイル8の通電量との関係、すなわち図11の実線で表される流量特性がマップ92の形で格納されている。SCS4では、このマップ92によって流量Qに対応する通電量Iが決定される。一方、流量制御弁制御装置9には、中立位置中央点学習装置91で求められた中立位置中央点の通電量の学習値が記憶されており、SCS5においては、マップ92の中立位置中央点の通電量と学習値との差異に基づいて、通電量Iの補正が実行される。SCS6では、電磁ソレノイドのコイル8に対して補正された通電量Iaが供給される。この結果、流量制御弁1の弁体6は、学習値によって補正された位置となり、要求される流量Qに正確に対応させることができる。
なお、このフローチャートでは、流量特性のマップ92で決定される通電量を学習値によって補正しているが、学習値に基づいてマップ92の流量特性を図12の破線に示すように変更することにより、通電量の補正を実行してもよい。
【0039】
以上詳述したように、本発明は、単一の流量制御弁を用いるクラッチ制御装置に流量制御弁の中立位置中央点を学習する学習装置を設けて流量特性の相違を補償し、不感帯のある流量制御弁であっても、クラッチ接続量の正確な制御を実行可能としたものである。したがって、本発明は、クラッチアクチュエータを駆動する流体圧が空気圧であるか油圧であるかを問わず、車両用クラッチ制御装置について適用することができる。また、上記実施例では、弁アクチュエータに電磁ソレノイドを使用し、コイルへの通電量を変更して流量制御弁を制御するものについて説明したが、例えば、パルスモータを弁アクチュエータとして使用してもよく、このときには、操作量はパルスモータを駆動するパルス数となる。弁アクチュエータとしては、特許文献1に記載のような流体圧シリンダを用いてもよい。このように、本発明の実施に際しては、上述の実施例に対して種々の変形が可能であることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の学習装置を備えたクラッチ制御装置の回路図である。
【図2】本発明の学習装置の作動を説明する図である。
【図3】本発明の中立位置中央点学習装置の基本的なフローチャートである。
【図4】本発明の実施例における学習成立条件を示すフローチャートである。
【図5】本発明のクラッチ制御装置におけるストローク制御のフローチャートである。
【図6】車両用クラッチの構成を示す図である。
【図7】変速時におけるクラッチのストローク制御の態様等を示す図である。
【図8】従来のクラッチ制御装置の回路図である。
【図9】クラッチ制御装置における流量制御弁の詳細作動図である。
【図10】不感帯の存在する流量制御弁の詳細作動図である。
【図11】流量制御弁の流量特性を示す図である。
【図12】流量特性の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 流量制御弁
2 連通通路
4 圧力源通路
5 排出通路
6 弁体
7 ストロークセンサ
8 コイル
9 流量制御弁制御装置
91 中立位置中央点学習装置
110 クラッチアクチュエータ
111 ストッパ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備されたクラッチをクラッチアクチュエータにより自動的に断接するクラッチ制御装置において、クラッチアクチュエータ内の作動流体を制御するため用いられる流量制御弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の運転の容易化あるいは運転者の疲労軽減のために、近年、イージードライブを目的とする各種の車両用動力伝達装置の普及が進んでいる。トルクコンバータと遊星歯車装置とを組み合わせたいわゆる自動変速機(AT)がその代表的なものであるが、自動的な車両用動力伝達装置の中には、いわゆるマニュアル車の変速機(MT)と同様な平行軸歯車機構式変速機を使用して、これと自動クラッチとを組み合わせた動力伝達装置がある。この動力伝達装置では、エンジンと変速機との間に配置されるクラッチがクラッチアクチュエータを備えており、運転者が変速レバーで変速段を切り替える変速時や車両の発進時に、自動的にクラッチを断接するようにして、運転者のクラッチペタルの操作を省略している。運転者が変速レバーを操作する代わりに、電子制御装置を用い車両の走行状態に応じて自動的に変速段を切り替える動力伝達装置も存在する。
【0003】
エンジンと変速機との間に設置されるクラッチ(乾式単板クラッチ)は、図6に示すように、周辺部に摩擦板が固着されたクラッチディスク101を備えており、これは、エンジンのクランクシャフト102に回転可能に支持される変速機入力軸103に摺動可能にスプライン嵌合されている。クラッチディスク101の摩擦板の背後には、摩擦板をクランクシャフト102の後端部のフライホイール104に対して圧接するプレッシャプレート105が設けられる。また、フライホイール104に固着されるクラッチカバー106にはダイヤフラムスプリング107が取り付けてある。車両の通常走行時においては、ダイヤフラムスプリング107が、プレッシャプレート105を介してクラッチディスク101をフライホイール104に対して圧接することにより、エンジンの動力は、クラッチディスク101を経由して変速機入力軸103に伝達される。
【0004】
クラッチには、動力の伝達を断接する操作機構が備えられており、この操作機構は、変速機入力軸103に嵌め込まれたレリーズベアリング108、レリーズフォーク109及びクラッチアクチュエータ110等により構成されている。クラッチアクチュエータ110は、空気圧又は油圧で作動する流体圧シリンダであって、そのピストンはレリーズフォーク109の一端に連結される。また、ピストンの過大な移動によってクラッチアクチュエータ110等に損傷が生じるのを防止するよう、移動量を機械的に制限するストッパ111が設けられる。
【0005】
車両の変速時において変速段を切り替えるためエンジン動力を遮断するときは、クラッチアクチュエータ110に作動流体を供給し、レリーズフォーク109の一端を図の右方に変位させる。レリーズフォーク109の他端は反対方向に変位し、これに当接するレリーズベアリング108を左方に摺動して、ダイヤフラムスプリング107を図の2点鎖線のように移動させる。これにより、プレッシャプレート105を圧接するスプリング力は解除され、エンジン動力の変速機入力軸103への伝達が遮断される。変速が終了しクラッチを再び接続するときは、クラッチアクチュエータ110の作動流体を排出して、リターンスプリング112等でレリーズフォーク109を左方に移動させる。クラッチの接続状態(接続量)は、クラッチアクチュエータ110のピストンの移動量、すなわちクラッチアクチュエータのストロークで決定される。
【0006】
車両の変速時には、迅速なしかも変速ショックのないクラッチの断続を実行する必要がある。そのため、一旦切断したクラッチを変速段の切り替え後(ギヤイン後)に再び接続するときは、図7におけるストロークの変化のグラフに示すように、実質的にトルク伝達の生じない無効領域を速やかに通過させるよう、まずクラッチアクチュエータ110のピストンを接方向に急速に移動させるとともに、トルク伝達が開始されるいわゆる半クラッチ領域では、急速な接続量の増加に伴う変速ショックを避けるよう徐々に接続量を増加させる。こうした制御は、クラッチアクチュエータ110内の作動流体の量を変更し、そのストロークを正確に制御することにより実行される。
【0007】
変速時等に自動的にクラッチを断接するクラッチ制御装置では、作動流体を供給するエアタンク等の作動流体圧力源、クラッチアクチュエータのピストンの移動量を検出するストロークセンサ、そしてクラッチアクチュエータ内の作動流体量を制御する制御弁が設けられ、変速時等におけるクラッチの制御が行われる。通常、制御弁は作動流体の供給管路と排出管路とにそれぞれ配置され、これらの2個の制御弁を開閉することにより、クラッチの接続量が制御される。これに対し、1個の流量制御弁を用いてクラッチアクチュエータ内の作動流体の供給及び排出を行うクラッチ制御装置も知られており、一例として特許第3417823号公報に記載されている。
【0008】
単一の流量制御弁を使用するクラッチ制御装置においては、図8の回路図に示すとおり、流量制御弁1には、クラッチアクチュエータ110に連なる連通通路2と、エアタンク等の作動流体圧力源3に連なる圧力源通路4と、クラッチアクチュエータ110から作動流体を排出する排出通路5とが接続され、それぞれの通路に開口する連通ポート2p、圧力源ポート4p、排出ポート5pの3個のポートが形成される。
図8の流量制御弁1は、弁体6を操作する弁アクチュエータとして電磁ソレノイド式の駆動装置を備えた、スライドバルブ形式の比例制御弁である。つまり、流量制御弁1を通過する作動流体の流量が弁体6の位置に応じて変化する流量特性を有し、電磁ソレノイドへの通電量が流量を変更するための操作量となっている。クラッチのストロークを制御するため、流量制御弁1には、ストロークセンサ7の検出信号に応じてコイル8への通電量を制御する流量制御弁制御装置9が接続される。
【0009】
流量制御弁1の弁体6は、図9の詳細作動図に示すとおり、中間に2個のランドを有し、弁体6の一端は、電磁ソレノイドの可動ヨーク10に連結されている。弁体6の他端にはばね11が配置してあり、弁体1は、可動ヨーク10に作用する磁力とばね11のばね力とのバランスによってその位置が決定される。コイル8への通電を停止したとき(通電量0%)は、弁体6は、ばね11に押されて図9(b)の位置となり、連通ポート2pと排出ポート5pとが連通し、クラッチアクチュエータ110内の作動流体は外部に排出されてクラッチが接続状態となる。コイル8に流れる電流を最大値(100%)とすると、弁体6は、ばね11を圧縮して図9(c)の位置となり、連通ポート2pと圧力源ポート4pとが連通する。これにより、圧力源3の作動流体が連通ポート2pからクラッチアクチュエータ110内に導入され、クラッチは切断される。コイル8に50%の電流を流したときは、弁体6が図9(a)の位置、すなわち中立位置となって連通ポート2pが圧力源ポート4p及び排出ポート5pと遮断され、クラッチのストロークは一定位置に保持される。このような流量制御弁により、図7に示される変速時のクラッチのストローク制御を実施するときには、コイルへの通電量は、同図の下方に示すパターンに従って変化するよう制御される。
【0010】
ここで、流量制御弁の弁体の位置と流量の関係についてみると、弁体が図9(a)の中立位置にある場合、ランドの長さLと連通ポート2pの巾の長さWとが一致している流量制御弁では、弁体が中立位置から左右に外れると直ちに作動流体の流れが生じる。この流量制御弁では流量が0となる中立位置は1点であり、流量特性、つまりコイル8に流れる電流に対する作動流体の流量は、中立位置(通電量50%)を中心として供給側及び排出側の流量が点対称である、図11の2点鎖線の特性となる。こうした流量制御弁を用いたときは、中立位置から外れると直ちにクラッチアクチュエータ110内の作動流体量が変化する。そのため、ストロークを定位置に保持するにはコイル8に流れる電流を精密に制御する必要がある。
【0011】
これに対し、図10(a)に示すとおり、ランドの長さLが連通ポート2pの巾の長さWよりも少量だけ大きく設定すると、流量制御弁1の中立位置に少量の巾が生じる。この場合には流量特性が図11の実線で表される特性となって、中立位置には操作量が変化しても流量が変化しない不感帯DZが存在し、その中央点に対して供給側及び排出側の流量が点対称となる。これにより、ストロークを定位置に保持するようにコイル8に流れる電流が設定されているときに、外乱等に起因して電流が多少変動しても、ストロークが変わることなく安定した作動が可能となる。流量制御弁1のこのような不感帯DZは、流量制御弁を製造する過程における不可避的な製造誤差によっても発生する場合がある。
【0012】
そして、不感帯DZが存在する流量制御弁では、クラッチのストローク制御中においてストロークを一定値に保持するよう弁体6が停止する位置は、弁体6の移動方向で異なる位置となる。弁体6が図10で右方に移動して中立位置に至るとき、つまり、クラッチアクチュエータ110に作動流体を供給してクラッチを断方向に操作(ストロークが増加)した後に、弁体6を中立位置として供給を遮断するときは、弁体6のランドの右端が連通ポート2pを閉鎖する図10(b)の位置(図11のP点に対応)で弁体6が停止する。逆に、弁体6が図10で右方に移動して中立位置となるとき、つまり、クラッチを接方向に操作(ストロークが減少)するためクラッチアクチュエータ110の作動流体を排出した後に、弁体6を中立位置として排出を止めるときは、弁体6のランドの左端が連通ポート2pを閉鎖する図10(b)の位置(図11のN点に対応)で停止することとなる。
【特許文献1】特許第3417823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
クラッチの接続量を正確に制御するためには、流量制御弁によるクラッチアクチュエータ内の作動流体量の迅速かつ正確な制御が要求される。そのため、流量制御弁制御装置には、電磁ソレノイドのコイルへの通電量と流量の関係を表す流量特性(図11)が記憶されている。例えば、流量特性の中立位置に不感帯が存在するときは、図11の実線に示すグラフの形で記憶される。流量制御弁制御装置は、この流量特性を用いてコイルへの通電量を制御し、操作量である通電量を目標とする流量に対応した値となるよう設定する。
【0014】
ところで、個々の流量制御弁には製造上の僅かな相違等に起因する個体差が多少なりとも存在し、通電量と流量の関係である流量特性は、個々の流量制御弁に応じて僅かながら相違する。また、同一の流量制御弁であっても経年変化に伴い流量特性の変化が生じることがある。不感帯が存在する流量制御弁についてみると、経年変化により電磁ソレノイドの磁力とばねのバランスが変化し、磁力が低下したときは図12の実線の流量特性が右方に移動し(破線X)、ばね力が低下したときは左方に移動して(破線Y)、流量制御弁の不感帯DZも同様に移動する。このような流量特性の変化は、不感帯が存在するか否かにかかわらず発生するものであり、流量特性が変化すると、同一の通電量であっても流量が異なる結果となるため、クラッチ接続量を迅速かつ正確に目標値とすることができず、変速ショックが生じることとなる。
本発明の課題は、クラッチ制御装置に用いられる流量制御弁において、経年変化等に起因して発生する上述の問題を簡易な手段により解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題に鑑み、本発明は、流量制御弁を用いるクラッチ制御装置において、流量制御弁制御装置に流量制御弁の中立位置の中央点を学習する学習装置を設け、流量特性の相違を補償することにより、不感帯のある流量制御弁であっても、簡易な手段によってクラッチ接続量の正確な制御を実行するようにしたものである。すなわち、本発明は、
「エンジンと変速機との間にクラッチが設置された車両用動力伝達装置におけるクラッチ制御装置であって、
前記クラッチ制御装置は、作動流体によって駆動されるクラッチアクチュエータと、前記クラッチアクチュエータの移動量を検出するストロークセンサと、前記クラッチアクチュエータ内の作動流体の量を制御する流量制御弁と、前記ストロークセンサの検出信号に応じて前記流量制御弁の弁体の位置を制御する流量制御弁制御装置とを備え、
前記流量制御弁には、前記クラッチアクチュエータに連なる連通通路と、作動流体の圧力源に連なる圧力源通路と、前記クラッチアクチュエータから作動流体を排出する排出通路とが接続され、かつ、前記弁体を操作する弁アクチュエータが設置されて、前記弁体の中立位置においては、前記連通通路が前記圧力源通路及び前記排出通路と遮断されるよう構成され、さらに、
前記流量制御弁制御装置が、前記弁体の中立位置中央点を学習する中立位置学習装置を備えており、前記中立位置学習装置は、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる作動を実行して、前記ストロークセンサの検出信号の変化速度が、前記ストロークセンサの検出信号の減少中に所定値に達したときにおける前記弁アクチュエータの操作量である第1操作量と、増加中に前記所定値と絶対値が等しい変化速度に達したときにおける前記弁アクチュエータの操作量である第2操作量とを検出し、前記第1操作量と前記第2操作量とを平均した値を中立位置中央点と判定する」
ことを特徴とするクラッチ制御装置となっている。ここで「操作量」とは、弁アクチュエータを操作し制御量としての流量を変更するため加えられる量を意味するものであり、例えば、弁アクチュエータが電磁ソレノイドであればその通電量、弁アクチュエータとしてパルスモータを使用したときはパルス数となる。
【0016】
請求項2に記載のように、前記中立位置学習装置は、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる前記作動を実行するに先立ち、クラッチの完断位置までクラッチアクチュエータの移動量を増大させるよう構成することができる。
【0017】
請求項3に記載のように、前記中立位置学習装置は、前記車両が停車中であって前記車両のブレーキが作動しているときに、前記変速機をニュートラルとして、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる前記作動を実行することが好ましい。
【0018】
請求項4に記載のように、前記流量制御弁は、前記弁体を駆動する電磁ソレノイドを備えており、前記操作量が前記流量制御弁制御装置により制御され前記電磁ソレノイドのコイルに通電される通電量であるものとすることができる。
【発明の効果】
【0019】
クラッチ制御装置に単一の流量制御弁を設置し、この流量制御弁によりクラッチアクチュエータ内の作動流体の供給及び排出を行うときは、流量制御弁の弁体を、中立位置から一方に変位させて作動流体を供給し、他方に変位させて作動流体を排出する。本発明の流量制御弁制御装置は中立位置の学習装置を備え、中立位置に巾があり不感帯が存在する流量制御弁では、中立位置の中央点となる弁アクチュエータの操作量(例えば電磁ソレノイドのコイルへの通電量)を常時学習している。そのため、流量制御弁の個体差や経年変化に伴い中立位置の中央点が変化しても、学習装置に記憶されたその中央点によって弁アクチュエータの操作量を補正し、流量制御弁の弁体の位置を、目標とする流量となるよう正確に制御することができる。したがって、変速時等においてクラッチの接続量の迅速かつ正確な変更が可能となり、変速ショックのないクラッチ制御が達成される。なお、中立位置に不感帯のない流量制御弁の場合には、中立位置の中央点は中立位置そのものとなるから、その位置を学習することによって、不感帯のない流量制御弁であっても、弁アクチュエータの操作量の補正が同様に可能であるのは明らかである。
【0020】
また、本発明の中立位置の学習装置では、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる作動を実行して、ストロークセンサの検出信号の変化速度が、ストロークセンサの検出信号の減少中に所定値に達したときにおける弁アクチュエータの操作量である第1操作量と、増加中に前記所定値と絶対値が等しい変化速度に達したときにおける弁アクチュエータの操作量である第2操作量とを検出する。換言すると、クラッチアクチュエータの移動量が減少するときに速度が所定値(−)となったときの第1操作量と、増加するときに速度が同一絶対値の所定値(+)となったときの第2操作量とを検出する。そして、この第1操作量と第2操作量とを平均した値を中立位置中央点と判定する。このようにすると中立位置中央点の検知が可能であるのは次の理由による。
【0021】
図11に示されるとおり、流量制御弁の操作量(通電量)と流量との関係を表す流量特性は、供給側及び排出側で中立位置あるいはその中央点について点対称である。この点対称の特性は、図12のように経年変化等に伴って中立位置の中央点が変位したとしても変わりはない。クラッチアクチュエータのストロークの変化速度は、流量制御弁の流量に比例するから、供給側及び排出側の流量が等しいときには、ストロークの変化速度は逆方向で絶対値の等しいものとなる。したがって、本発明の中立位置の学習装置のように、ストロークの減少中に所定値に達したときにおける弁アクチュエータの操作量、例えば図11の流量−Q0に相当する通電量In、と、増加中に前記所定値と絶対値が等しい変化速度に達したときにおける弁アクチュエータの操作量、例えば図11の流量+Q0に相当する通電量Ip、とを平均することにより、中立位置中央点を判定し、中立位置中央点の操作量を求めることができる。
【0022】
本発明の学習装置で使用されるストロークセンサは、クラッチ接続量の制御のためもともとクラッチ制御装置に備えられた部品である。したがって、本発明の学習装置は、特別な部品を設置する必要なく中立位置中央点の学習が可能であり、また、クラッチアクチュエータのストロークを変化させながら学習を実行するので、静摩擦の影響により学習精度が低下することがない。そして、クラッチ制御装置で使用する流量制御弁は1個であるから、制御装置の全体的な構成が簡易でコンパクトなものとなる。
【0023】
請求項2の発明は、中立位置学習装置が、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる作動を実行するに先立ち、クラッチの完断位置までクラッチアクチュエータの移動量を増大させる、つまり、ストロークを最大値近傍まで増加させて学習を実行するものである。本発明の学習装置は、クラッチアクチュエータのストロークを増減させて中立位置中央点を学習するものであり、学習時にストロークが中間的な位置にあっても学習が可能である。それに対し、請求項2の発明のように、学習の実行に先立ってストロークを最大値近傍まで増加させると、クラッチアクチュエータが一旦全行程に亘って移動するから、クラッチアクチュエータの作動を安定させた領域で学習を実行することとなり、学習精度が向上する。
【0024】
請求項3の発明は、車両が停車中であって、かつ、車両のブレーキが作動しているときに、変速機をニュートラルとして中立位置の学習を行うものである。本発明の中立位置学習を実行すると、クラッチアクチュエータのストロークの増減に伴いクラッチの接続量が変化するため、車両の動力伝達系に影響を与えないよう、車両の停車中において変速機をニュートラルとして学習することが好ましい。そして、車両のブレーキが作動しているときに学習を実行するようにしたときには、万一誤操作等が発生したとしても、車両が不測の発進を起こす事態が防止され、安全に中立位置の学習を行うことができる。
ちなみに、クラッチ制御装置には、半クラッチ学習装置、つまり、クラッチ摩擦板の経時的な磨耗等に伴う半クラッチ位置のストローク変化を定期的に学習する装置、を備えたものが多い。半クラッチ状態の学習は、車両の停車時に請求項3の発明と同様な操作を行って実施されるが、こうした半クラッチ学習装置を備えたクラッチ制御装置においては、半クラッチ状態の学習と同時に流量制御弁の中立位置の学習を行うことが可能となる。
【0025】
請求項4の発明のように、流量制御弁として電磁ソレノイドにより駆動される比例制御弁、つまり、流量制御弁制御装置により電磁ソレノイドのコイルに通電する電流を制御して弁体の位置を連続的に変更する流量制御弁を使用したときは、電気的な制御装置を用いることにより、流量制御弁の駆動装置及び制御装置を小型なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて、本発明を実施した車両用クラッチの制御装置について説明するが、本発明が適用される車両用クラッチ及びクラッチ制御装置を構成する機器は、図6等に示す従来の装置と格別異なるものではない。すなわち、本発明のクラッチ制御装置により操作される車両用クラッチは、図6のクラッチと基本的に同一のものであり、クラッチ接続量を変更するクラッチアクチュエータ110を備えている。クラッチアクチュエータ110には流体圧力源から作動流体が供給され、クラッチの接続量は、クラッチアクチュエータ110のピストンの移動量で決定され、移動量の最大値はストッパ111で機械的に規制されている。
【0027】
本発明のクラッチ制御装置の流体的な回路構成を図1に示す。図1の回路を構成する機器も、いわゆるハードの面では図8の従来のものと同一であって、対応する部品等には同一の符号を付してある。クラッチ制御装置は、電磁ソレノイドにより駆動される単一の流量制御弁1を備え、流量制御弁1には、エアタンク等の流体圧力源3、クラッチアクチュエータ110及び排出通路5が接続される。流量制御弁制御装置9は、弁アクチュエータである電磁ソレノイドのコイル8への通電量を制御して弁体6の位置を変え、クラッチアクチュエータ110内の作動流体の供給、排出を行ってクラッチの接続量を変更する。クラッチアクチュエータ110のピストンの移動量(ストローク)はストロークセンサ7で検出され、その信号が流量制御弁制御装置9に入力される。
【0028】
本発明のクラッチ制御装置においては、流量制御弁制御装置9には中立位置中央点学習装置91が設置されている。中立位置中央点学習装置91は、流量制御弁1に不感帯が存在するときであっても中立位置の学習が可能となるよう、クラッチアクチュエータ110のストロークの信号を用いて、流量制御弁1を通過する作動流体の流れが遮断される弁体中立位置の中央点、に対応するコイル8の通電量を学習するものであり、これにもストロークセンサ7の検出信号が入力される。
【0029】
本発明の中立位置中央点学習装置91は、クラッチアクチュエータ110のストロークを減少させた後に増大させる作動を実行し、ストロークが減少するときに速度が所定値となった時点の第1操作量と、増加するときに速度が前記所定値と同一絶対値の値となった時点の第2操作量とを検出する。学習の実行に際しストロークを増減すると、クラッチの接続量が変化して車両の動力伝達系に伝達されるエンジン動力の変動が起こる。このような事態を回避するため、この実施例の中立位置中央点学習装置91は、車両が停車中であるときに変速機を短時間ニュートラルとし、クラッチアクチュエータ110を作動して学習を実行する。また、クラッチアクチュエータ110のストロークを増減して学習を実行するに先立ち、ストロークをクラッチ完断位置に相当する最大値近傍まで増加して停止状態とし、その後学習を行うよう構成されている。
【0030】
中立位置中央点学習装置91の作動について、図2のフローチャート及び図3の作動特性図を用いて説明する。この実施例の学習装置は、上記の学習を4段階(フェーズ)の手順に分けて実行するものであり、図2のフローチャートの演算等を一定演算周期で実施する。これにより、電磁ソレノイドのコイル8の通電量は図3の下図のパターンに従って変化し、クラッチのストロークは、通電量に応じて図3の上図のように変化する。
図2のフローチャートにおいて、まずステップS1では、後述の学習条件が成立したか否かを判定する。学習条件が成立していないときはステップS2においてクラッチが接続した状態(学習時以外のクラッチ状態:フェーズ0)を保持し、成立すると、ステップS3、S4でフェーズ0からフェーズ1に移行させる。フェーズ0から他のフェーズに移行したときは、クラッチアクチュエータ110のストロークを読み込み(S5)、そして微分値Dを計算する(S6)。微分値Dはストロークの変化速度を表すものであり、学習の実行中にはストロークの変化速度が常時演算されることとなる。
【0031】
ステップS7においてフェーズがフェーズ1であると判定されると、クラッチを断とするよう完断位置を目標ストロークstaとするストローク制御を実行する(S8)。この制御の過程では、ステップS6で演算されるクラッチストロークの変化速度は、始めは大きいが目標ストロークstaに近づくに従って減少するようになる。ストロークが目標ストロークsta近傍に達し、その変化速度が略0である学習開始所定速度V0となった時点(S9)で、フェーズ1を終了してフェーズをフェーズ2に移行させる(S10)。フェーズ1が終了する時点は、クラッチを断とするためクラッチアクチュエータ110へ供給する作動流体の流量が0となった時点であって、流量制御弁1は、図10(b)の状態(流量特性の図11のP点)にある。
なお、学習時におけるクラッチの切断は急速に行われる関係上、クラッチアクチュエータの移動量が完断位置を通過してストッパ111により規制されるストローク限界(stM)まで達し、ストローク変化速度が0となる場合がある。クラッチが完断位置にあることを確認するため、ステップS9の後に、ストロークがstM未満かつ所定ストローク以上であるか否かを判断するステップを加え、この条件が満足されたときにフェーズ2に移行させるよう構成することもできる。
【0032】
ステップS11でフェーズがフェーズ2であると判定されるとステップS12に進み、中立位置中央点学習装置91は、クラッチアクチュエータ110のストロークを減少させるためコイル通電量を一定割合で徐々に減少する制御を行う(図3のコイル通電量の特性におけるPHASE2の部分参照)。これにより、流量制御弁1の弁体6は図10(b)において右側に移動するが、このとき始めは不感帯DZを通過するため、ストロークは目標ストロークstaに保持され変化速度は0である。不感帯DZを過ぎると、クラッチアクチュエータ110から作動流体が排出されてストロークは減少するようになる。ステップS6で演算される変化速度が負の所定値V1(流量制御弁1の流量が、例えば図11の−Q0に相当)に達した時点(S13)で、そのときのコイル通電量Inを第1操作量として検出・記憶し(S14)、フェーズ2を終了してフェーズ3に移行させる(S15)。
【0033】
ステップS16でフェーズ3であると判定されるとステップS17に進み、コイル通電量を一定割合で徐々に増加させる制御を実行する(図3のコイル通電量の特性におけるPHASE3の部分参照)。このときには流量制御弁1の弁体6が左側に移動し、図10(c)の状態(流量特性の図11のN点)となったときに再び変化速度が0となり、ストロークは一定となる。さらに移動して不感帯DZを過ぎると、クラッチアクチュエータ110に作動流体が供給されてストロークは増加するようになる。変化速度が前記所定値V1と絶対値の等しい正の所定値V2(流量制御弁1の流量が、例えば図11の+Q0に相当)に達した時点(S18)で、そのときのコイル通電量Ipを第2操作量として検出・記憶する(S19)。こうして第1操作量In及び第2操作量Ipが検出されると、学習を目的とするストローク制御が終了するので、中立位置中央点を演算するためのフェーズ4に移行させる(S20)。
【0034】
フェーズ4に移行したときは、ステップS7、S11及びS16の判断が全て否となるから、制御フローはステップS21に進み、記憶された第1操作量In及び第2操作量Ipを平均して、中立位置中央点の通電量Ic=(In+Ip)/2が演算され、学習値として記憶される。さらに、フェーズをフェーズ0に戻し(S22)学習終了のフラグを立てて(S23)、フローを終える。
このように学習された中立位置の中央点の通電量により、中立位置中央点学習装置91では、それまでの学習値の補正等が行われ、更新された学習値は、流量制御弁制御装置9において流量制御弁1の制御を実行する際に使用される。本発明では、中立位置の中央点を学習するから、流量制御弁1の中立位置に巾があり流量特性に不感帯があるものであっても、経年変化等で生じる流量特性の誤差を補償することができる。
【0035】
ここで、図2のフローチャートのステップS1で実行する学習条件が成立したか否かの判定について、図4のフローチャートにより説明する。
制御フローがスタートすると、ステップS01で中立位置の学習時期に到達したか否かを判断する。学習時期に到達した場合には、ステップS02で車両が停車中(車速=0)であるか否か、次いでステップS03において車両のブレーキが作動しているか否かを判断する。これらの判断のいずれかが否であるときは図2のステップS2に進み、すべての判断がYesであれば、ステップS04に進んで変速機がニュートラルであるか否かを判断する。ニュートラルでない場合には、変速機をニュートラルとして(S05)図2のステップS3に進行する。このように、中立位置の学習は、エンジンから車輪への動力伝達が遮断されるニュートラル状態で実行されるから、クラッチのストロークを変化させても車両の運動状態に影響を与えない。また、学習中は車両のブレーキが作動しており、車両が不測の発進を起こすことはなく、安全に中立位置の学習を行うことができる。ニュートラルでの学習は短時間で完了するため、車両の運行を阻害することもない。
【0036】
ところで、クラッチ制御装置は通常半クラッチ学習装置を備えており、クラッチ摩擦板の経時的な磨耗等に伴う半クラッチ位置のストローク変化を定期的に学習するよう構成されている。半クラッチ状態の学習は、図4のフローチャートと同様な学習条件が成立したときに、クラッチを断接させて行うものであるから、図4のフローチャートによる中立位置の学習は、半クラッチ状態の学習と同時に実行することが可能である。
【0037】
図5には、本発明の中立位置中央点学習装置を備えた流量制御弁制御装置により、車両走行時の変速段の変更に際し、クラッチアクチュエータのストローク制御を実行するときのフローチャートの一例を示す。
車両の変速時のクラッチ操作では、ストローク(クラッチの接続量)が、時間経過とともに図7のパターンに従って変化するような制御が行われる。ストローク制御は、変速レバー等からの変速指令信号が発生された時点で開始され、ステップSCS1では、ストロークセンサ7の検出信号である実ストロークstrが読み込まれる。SCS2においては、所定時間経過後のストロークが目標ストロークstdとして設定される。SCS3では、目標ストロークstdと実ストロークstrとの差に対応して、所定時間経過後に目標ストロークstdとなるような流量制御弁1の流量Qが演算される。
【0038】
流量制御弁制御装置9には、流量とコイル8の通電量との関係、すなわち図11の実線で表される流量特性がマップ92の形で格納されている。SCS4では、このマップ92によって流量Qに対応する通電量Iが決定される。一方、流量制御弁制御装置9には、中立位置中央点学習装置91で求められた中立位置中央点の通電量の学習値が記憶されており、SCS5においては、マップ92の中立位置中央点の通電量と学習値との差異に基づいて、通電量Iの補正が実行される。SCS6では、電磁ソレノイドのコイル8に対して補正された通電量Iaが供給される。この結果、流量制御弁1の弁体6は、学習値によって補正された位置となり、要求される流量Qに正確に対応させることができる。
なお、このフローチャートでは、流量特性のマップ92で決定される通電量を学習値によって補正しているが、学習値に基づいてマップ92の流量特性を図12の破線に示すように変更することにより、通電量の補正を実行してもよい。
【0039】
以上詳述したように、本発明は、単一の流量制御弁を用いるクラッチ制御装置に流量制御弁の中立位置中央点を学習する学習装置を設けて流量特性の相違を補償し、不感帯のある流量制御弁であっても、クラッチ接続量の正確な制御を実行可能としたものである。したがって、本発明は、クラッチアクチュエータを駆動する流体圧が空気圧であるか油圧であるかを問わず、車両用クラッチ制御装置について適用することができる。また、上記実施例では、弁アクチュエータに電磁ソレノイドを使用し、コイルへの通電量を変更して流量制御弁を制御するものについて説明したが、例えば、パルスモータを弁アクチュエータとして使用してもよく、このときには、操作量はパルスモータを駆動するパルス数となる。弁アクチュエータとしては、特許文献1に記載のような流体圧シリンダを用いてもよい。このように、本発明の実施に際しては、上述の実施例に対して種々の変形が可能であることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の学習装置を備えたクラッチ制御装置の回路図である。
【図2】本発明の学習装置の作動を説明する図である。
【図3】本発明の中立位置中央点学習装置の基本的なフローチャートである。
【図4】本発明の実施例における学習成立条件を示すフローチャートである。
【図5】本発明のクラッチ制御装置におけるストローク制御のフローチャートである。
【図6】車両用クラッチの構成を示す図である。
【図7】変速時におけるクラッチのストローク制御の態様等を示す図である。
【図8】従来のクラッチ制御装置の回路図である。
【図9】クラッチ制御装置における流量制御弁の詳細作動図である。
【図10】不感帯の存在する流量制御弁の詳細作動図である。
【図11】流量制御弁の流量特性を示す図である。
【図12】流量特性の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 流量制御弁
2 連通通路
4 圧力源通路
5 排出通路
6 弁体
7 ストロークセンサ
8 コイル
9 流量制御弁制御装置
91 中立位置中央点学習装置
110 クラッチアクチュエータ
111 ストッパ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと変速機との間にクラッチが設置された車両用動力伝達装置におけるクラッチ制御装置であって、
前記クラッチ制御装置は、作動流体によって駆動されるクラッチアクチュエータと、前記クラッチアクチュエータの移動量を検出するストロークセンサと、前記クラッチアクチュエータ内の作動流体の量を制御する流量制御弁と、前記ストロークセンサの検出信号に応じて前記流量制御弁の弁体の位置を制御する流量制御弁制御装置とを備え、
前記流量制御弁には、前記クラッチアクチュエータに連なる連通通路と、作動流体の圧力源に連なる圧力源通路と、前記クラッチアクチュエータから作動流体を排出する排出通路とが接続され、かつ、前記弁体を操作する弁アクチュエータが設置されて、前記弁体の中立位置においては、前記連通通路が前記圧力源通路及び前記排出通路と遮断されるよう構成され、さらに、
前記流量制御弁制御装置が、前記弁体の中立位置中央点を学習する中立位置学習装置を備えており、前記中立位置学習装置は、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる作動を実行して、前記ストロークセンサの検出信号の変化速度が、前記ストロークセンサの検出信号の減少中に所定値に達したときにおける前記弁アクチュエータの操作量である第1操作量と、増加中に前記所定値と絶対値が等しい変化速度に達したときにおける前記弁アクチュエータの操作量である第2操作量とを検出し、前記第1操作量と前記第2操作量とを平均した値を中立位置中央点と判定することを特徴とするクラッチ制御装置。
【請求項2】
前記中立位置学習装置は、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる前記作動を実行するに先立ち、クラッチの完断位置までクラッチアクチュエータの移動量を増大させる請求項1に記載のクラッチ制御装置。
【請求項3】
前記中立位置学習装置は、前記車両が停車中であって前記車両のブレーキが作動しているときに、前記変速機をニュートラルとして、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる前記作動を実行する請求項1又は請求項2に記載のクラッチ制御装置。
【請求項4】
前記流量制御弁は、前記弁体を駆動する電磁ソレノイドを備え、前記操作量が前記流量制御弁制御装置により制御され前記電磁ソレノイドのコイルに通電される通電量である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のクラッチ制御装置。
【請求項1】
エンジンと変速機との間にクラッチが設置された車両用動力伝達装置におけるクラッチ制御装置であって、
前記クラッチ制御装置は、作動流体によって駆動されるクラッチアクチュエータと、前記クラッチアクチュエータの移動量を検出するストロークセンサと、前記クラッチアクチュエータ内の作動流体の量を制御する流量制御弁と、前記ストロークセンサの検出信号に応じて前記流量制御弁の弁体の位置を制御する流量制御弁制御装置とを備え、
前記流量制御弁には、前記クラッチアクチュエータに連なる連通通路と、作動流体の圧力源に連なる圧力源通路と、前記クラッチアクチュエータから作動流体を排出する排出通路とが接続され、かつ、前記弁体を操作する弁アクチュエータが設置されて、前記弁体の中立位置においては、前記連通通路が前記圧力源通路及び前記排出通路と遮断されるよう構成され、さらに、
前記流量制御弁制御装置が、前記弁体の中立位置中央点を学習する中立位置学習装置を備えており、前記中立位置学習装置は、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる作動を実行して、前記ストロークセンサの検出信号の変化速度が、前記ストロークセンサの検出信号の減少中に所定値に達したときにおける前記弁アクチュエータの操作量である第1操作量と、増加中に前記所定値と絶対値が等しい変化速度に達したときにおける前記弁アクチュエータの操作量である第2操作量とを検出し、前記第1操作量と前記第2操作量とを平均した値を中立位置中央点と判定することを特徴とするクラッチ制御装置。
【請求項2】
前記中立位置学習装置は、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる前記作動を実行するに先立ち、クラッチの完断位置までクラッチアクチュエータの移動量を増大させる請求項1に記載のクラッチ制御装置。
【請求項3】
前記中立位置学習装置は、前記車両が停車中であって前記車両のブレーキが作動しているときに、前記変速機をニュートラルとして、クラッチアクチュエータの移動量を減少させた後に増大させる前記作動を実行する請求項1又は請求項2に記載のクラッチ制御装置。
【請求項4】
前記流量制御弁は、前記弁体を駆動する電磁ソレノイドを備え、前記操作量が前記流量制御弁制御装置により制御され前記電磁ソレノイドのコイルに通電される通電量である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のクラッチ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−71404(P2010−71404A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240531(P2008−240531)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
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