説明

クラッチ機構

【課題】 バックラッシュによる騒音を抑制することができるとともに、クラッチ摩擦板に焼き割れが発生するのを抑制することができるクラッチ機構を提供する。
【解決手段】 フライホイール6の回転駆動力をクランクシャフト4に伝達するためのクラッチ手段8を備えるクラッチ機構2である。クラッチ手段8は、フライホイール6とともに回転自在に且つクランクシャフト4の軸方向に移動自在に支持された押圧ディスク38、第1及び第2ピストンディスク36,40と、クランクシャフト4に取り付けられた第1クラッチ摩擦板42と、フライホイール6に取り付けられた第2クラッチ摩擦板44と、を備える。第1クラッチ摩擦板42は、第1ピストンディスク36と押圧ディスク38との間に配設され、また第2クラッチ摩擦板44は、押圧ディスク38と第2ピストンディスク40との間に配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライホイールの回転駆動力をクランクシャフトに伝達するためのクラッチ手段を備えたクラッチ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物にプレス加工を施す際にはプレス装置が用いられる。プレス装置はクラッチ機構を備え、このクラッチ機構には、フライホイールの回転駆動力をクランクシャフトに伝達するためのクラッチ手段が設けられている(例えば、特許文献1参照)。図7は従来の第1のタイプのクラッチ機構の一部を示す断面図であり、図示のクラッチ機構200のクラッチ手段202は、ピストンディスク204と、ピストンディスク204とフライホイール206との間に配設されたリング状のクラッチ摩擦板208と、を備えている。クラッチ摩擦板208の内周部には内歯210が形成され、この内歯210は、クランクシャフト212に取り付けられた歯車214の外周部に形成された外歯216と噛み合わされている。このとき、クラッチ摩擦板208がクランクシャフト212の軸方向に進退動できるように、クラッチ摩擦板208の内歯210と歯車214の外歯216との間にはバックラッシュ218が形成されている。また、ピストンディスク204の外周部には外歯220が形成され、この外歯220は、フライホイール206の内周部に形成された内歯224と噛み合わされている。このとき、ピストンディスク204がクランクシャフト212の軸方向に進退動できるように、ピストンディスク204の外歯220とフライホイール206の内歯224との間にはバックラッシュ226が形成されている。
【0003】
ピストンディスク204とフライホイール206との間に形成されたエア室228に圧縮空気が送り込まれると、ピストンディスク204がクラッチ摩擦板208に近接する方向に移動してクラッチ摩擦板208を押圧する。これにより、クラッチ摩擦板208がピストンディスク204とフライホイール206との間に挟持され、このクラッチ摩擦板208を介してフライホイール206とクランクシャフト212とが駆動連結される。また、エア室228内の圧縮空気が外部に排出されると、コイルバネ230の弾性復元力によってピストンディスク204がクラッチ摩擦板208より離隔する方向に移動し、フライホイール206とクランクシャフト212との駆動連結が解除される。
【0004】
図8は従来の第2のタイプのクラッチ機構の一部を示す断面図であり、図示のクラッチ機構200Aのクラッチ手段202Aは、ピストンディスク204と、ピストンディスク204とフライホイール206との間に配設されたクラッチ摩擦板208Aと、を備えている。クラッチ摩擦板208Aは、クランクシャフト212に取り付けられたリング状のプレート部材232と、プレート部材232の外周部に取り付けられた摩擦部材234と、を有している。プレート部材232は、弾性復元力を有するバネ板で構成されている。上述した第1のタイプのクラッチ機構200と同様に、ピストンディスク204がクランクシャフト212の軸方向に進退動することによって、フライホイール206とクランクシャフト212とが駆動連結又は駆動連結解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−217771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来のクラッチ機構では次のような問題がある。第1のタイプのクラッチ機構200では、フライホイール206とクランクシャフト212とが駆動連結された状態において、クラッチ摩擦板208がクランクシャフト212とともに回転すると、クラッチ摩擦板208の内歯210と歯車214の外歯216とが相互に干渉して騒音が発生するようになる。この騒音はバックラッシュ218の大きさに比例して大きくなり、プレス装置を操作する作業者にとっては非常に煩わしく感じられる。そのため、このバックラッシュ218による騒音を抑えたクラッチ機構200の開発が要望されている。
【0007】
一方、第2のタイプのクラッチ機構200Aでは、フライホイール206とクランクシャフト212とが駆動連結される瞬間においては、クラッチ摩擦板208Aとフライホイール206との間に相対速度が生じ、クラッチ摩擦板208Aの摩擦部材234とフライホイール206とが相互に摩擦される。また、ピストンディスク204がクラッチ摩擦板208Aを押圧すると、クラッチ摩擦板208Aのプレート部材232が弾性的に撓むようになり、これによりクラッチ摩擦板208Aの摩擦部材234には偏荷重が作用するようになる。このように摩擦部材234に偏荷重が作用した状態で摩擦部材234とフライホイール206とが相互に摩擦されると、摩擦部材234に焼き割れが発生するおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、バックラッシュによる騒音を抑制することができるとともに、クラッチ摩擦板に焼き割れが発生するのを抑制することができるクラッチ機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に記載のクラッチ機構では、回転自在に支持されるクランクシャフトと、駆動源により回転されるフライホイールと、前記フライホイールの回転駆動力を前記クランクシャフトに伝達するためのクラッチ手段と、を備えるクラッチ機構であって、
前記クラッチ手段は、前記フライホイールとともに回転自在に且つ前記クランクシャフトの軸方向に移動自在に支持された第1ピストンディスク、第2ピストンディスク及び押圧ディスクと、前記クランクシャフトに取り付けられた第1クラッチ摩擦板と、前記フライホイールに取り付けられた第2クラッチ摩擦板と、を備え、前記第1クラッチ摩擦板は、前記第1ピストンディスクと前記押圧ディスクとの間に配設され、また前記第2クラッチ摩擦板は、前記押圧ディスクと前記第2ピストンディスクとの間に配設されており、
前記フライホイールの回転駆動力を前記クランクシャフトに伝達するときには、前記第2ピストンディスクが前記第2クラッチ摩擦板を前記押圧ディスクとともに前記第1ピストンディスクに近接する方向に押圧することにより、前記押圧ディスクが前記第1クラッチ摩擦板を前記第1ピストンディスクに近接する方向に押圧するとともに、前記第1ピストンディスクが前記第1クラッチ摩擦板を前記押圧ディスクとともに前記第2ピストンディスクに近接する方向に押圧し、これにより、前記第1クラッチ摩擦板が前記第1ピストンディスクと前記押圧ディスクとの間に押圧されるとともに、前記第2クラッチ摩擦板が前記押圧ディスクと前記第2ピストンディスクとの間に押圧されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1に記載のクラッチ機構によれば、第1クラッチ摩擦板が第1ピストンディスクと押圧ディスクとの間に押圧されるので、第1クラッチ摩擦板には撓みがほとんど生じなくなる。これにより、第1クラッチ摩擦板には偏荷重がほとんど作用せず、フライホイールとクランクシャフトとの駆動連結時において第1クラッチ摩擦板と第1ピストンディスク及び押圧ディスクとが相互に摩擦した場合であっても、第1クラッチ摩擦板に焼き割れが発生するのを抑制することができる。また、第1クラッチ摩擦板が第1ピストンディスクと押圧ディスクとの間に押圧されるとともに、第2クラッチ摩擦板が押圧ディスクと第2ピストンディスクとの間に押圧されるので、これら押圧ディスク、第1及び第2ピストンディスク並びに第1及び第2クラッチ摩擦板が相互に駆動連結される。これにより、フライホイールと押圧ディスク、第1及び第2ピストンディスクとの連結部(例えば、フライホイールに形成された内歯と押圧ディスク、第1及び第2ピストンディスクにそれぞれ形成された外歯との噛合部)に加わる荷重は、第2クラッチ摩擦板とフライホイールとの連結部によって受けられるようになる。それ故に、例えばフライホイールに形成された内歯と押圧ディスク、第1及び第2ピストンディスクにそれぞれ形成された外歯とが相互に干渉することがなく、それらの噛合部に形成されたバックラッシュによる騒音の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態によるクラッチ機構のクラッチ手段が駆動連結解除状態である状態を示す断面図である。
【図2】図1のクラッチ手段が駆動連結状態である状態を示す断面図である。
【図3】第1クラッチ摩擦板を示す図である。
【図4】第2クラッチ摩擦板を示す図である。
【図5】図1中のA−A線による、第1ピストンディスクの第1外歯とフライホイールの内歯との噛合部の一部を示す断面図である。
【図6】他の実施形態によるクラッチ機構の一部を示す断面図である。
【図7】従来の第1のタイプのクラッチ機構の一部を示す断面図である。
【図8】従来の第2のタイプのクラッチ機構の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明に従うクラッチ機構の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態によるクラッチ機構のクラッチ手段が駆動連結解除状態である状態を示す断面図であり、図2は、図1のクラッチ手段が駆動連結状態である状態を示す断面図であり、図3は、第1クラッチ摩擦板を示す図であり、図4は、第2クラッチ摩擦板を示す図であり、図5は、図1中のA−A線による、第1ピストンディスクの第1外歯とフライホイールの内歯との噛合部の一部を示す断面図である。
【0013】
図1を参照して、図示のクラッチ機構2は、プレス装置(図示せず)のハウジング(図示せず)に回転自在に支持されたクランクシャフト4と、電動モータなどの駆動源(図示せず)により回転されるフライホイール6と、フライホイール6の回転駆動力をクランクシャフト4へ伝達するためのクラッチ手段8と、クランクシャフト4の回転を制動するためのブレーキ手段(図示せず)と、を備えている。
【0014】
フライホイール6は、複数の軸受10を介してクランクシャフト4に回転自在に支持されている。フライホイール6の内側には、クラッチ手段8が配設されるクラッチ空間12が形成されている。フライホイール6の内周面には、周方向に間隔を置いて配置された複数の第1及び第2内歯14,16が形成されている(図5参照)。フライホイール6の相互に対向する内側面にはそれぞれ、周方向に延びる第1及び第2リング状突部18,20が設けられている。また、フライホイール6の内部には、圧縮空気の通路となる圧縮空気流路22が設けられ、この圧縮空気流路22は、第1流路24と、第1流路24から分岐された第2及び第3流路26,28と、を有している。第1流路24の端部は、ロータリジョイント30を介して空圧給排装置(図示せず)に接続され、また第2及び第3流路26,28の各端部はそれぞれ、フライホイール6の内側面上における第1及び第2エア室32,34(図2参照、後述する)に対応する部位に露出されている。
【0015】
図1〜図5を参照して、クラッチ手段8及びこれに関連する構成について説明する。クラッチ手段8は、フライホイール6とともに回転自在に且つクランクシャフト4の軸方向(図1及び図2において左右方向)に移動自在に支持された押圧ディスク38、第1及び第2ピストンディスク36,40と、クランクシャフト4に取り付けられた第1クラッチ摩擦板42と、フライホイール6に取り付けられた第2クラッチ摩擦板44と、を備えている。
【0016】
第1ピストンディスク36はリング状に形成され、その外周部には、周方向に間隔を置いて配置された複数の第1外歯46が形成されている。第1ピストンディスク36の第1外歯46はフライホイール6の第1内歯14と噛み合わされており(図5参照)、これにより、フライホイール6が回転すると、第1ピストンディスク36は、フライホイール6とともに一体的に回転するようになる。また、第1ピストンディスク36がクランクシャフト4の軸方向に進退動できるように、第1ピストンディスク36の第1外歯46とフライホイール6の第1内歯14との間にはバックラッシュ48が形成されている。また、第1ピストンディスク36の片面には、周方向に延びる第1リング状凹部50が設けられ、この第1リング状凹部50とフライホイール6の第1リング状突部18との間には第1エア室32が規定されている。第1エア室32の外周部及び内周部にはそれぞれリング状のシール部材52,54が設けられており、これらシール部材52,54によって第1エア室32は気密状態に保持されている。
【0017】
また、第2ピストンディスク40はリング状に形成され、その外周部には、周方向に間隔を置いて配置された複数の第2外歯62が形成されている。第2ピストンディスク40の第2外歯62はフライホイール6の第2内歯16と噛み合わされており、これにより、フライホイール6が回転すると、第2ピストンディスク40はフライホイール6とともに一体的に回転するようになる。また、第2ピストンディスク40がクランクシャフト4の軸方向に進退動できるように、第2ピストンディスク40の第2外歯62とフライホイール6の第2内歯16との間にはバックラッシュ64が形成されている。また、第2ピストンディスク40の片面には、周方向に延びる第2リング状凹部66が設けられ、この第2リング状凹部66とフライホイール6の第2リング状突部20との間には第2エア室34が規定されている。第2エア室34の外周部及び内周部にはそれぞれリング状のシール部材68,70が設けられており、これらシール部材68,70によって第2エア室34は気密状態に保持されている。
【0018】
押圧ディスク38はリング状に形成され、その外周部には、周方向に間隔を置いて配置された複数の第3外歯56が形成されている。押圧ディスク38の第3外歯56はフライホイール6の第1内歯14と噛み合わされており、これにより、フライホイール6が回転すると、押圧ディスク38は、フライホイール6とともに一体的に回転するようになる。また、押圧ディスク38がクランクシャフト4の軸方向に進退動できるように、押圧ディスク38の第3外歯56とフライホイール6の第1内歯14との間にはバックラッシュ58が形成されている。
【0019】
また、第1ピストンディスク36と押圧ディスク38との間には、周方向に間隔を置いて複数のコイルバネ60が配設されており、これら複数のコイルバネ60によって、第1ピストンディスク36及び押圧ディスク38は相互に離隔する方向に弾性的に付勢される。
【0020】
第1クラッチ摩擦板42は、第1プレート部材72及び一対の第1摩擦部材74を有している。第1プレート部材72はリング状に形成されるとともに、弾性復元力を有するバネ板で構成されている。第1プレート部材72の厚みは、例えば0.5〜1.5mm程度に設定されている。第1プレート部材72の外周部には、径方向外側に延びる取付部76が周方向に間隔を置いて複数設けられ(図3参照)、各取付部76には、リベット78を挿入するための取付孔(図示せず)がそれぞれ設けられている。第1摩擦部材74は略矩形状に形成され、耐熱性及び耐摩擦性を有する材料、例えば焼結摩擦材などで形成される。この第1摩擦部材74には、リベット78を挿入するための取付孔(図示せず)が設けられている。一対の第1摩擦部材74は、第1プレート部材72の各取付部76を両側より挟み込むようにして装着され、リベット78によって一対の第1摩擦部材74が取付部76に次のようにして取り付けられる。即ち、片側の第1摩擦部材74の取付孔、第1プレート部材72の取付孔及び他側の第1プレート部材74の取付孔を通してリベット78を挿入し、挿入したリベット78の両端部をそれぞれハンマー等で打撃して頭部を形成することにより、一対の第1摩擦部材74及び第1プレート部材74が一体的に固定される。なお、リベット78の頭部は、第1摩擦部材74の内部に埋設されており、後述するようにクラッチ手段8が駆動連結状態であるときにおいて、リベット78の頭部が第1ピストンディスク36及び押圧ディスク38に接触することはない。
【0021】
また、第1プレート部材72の内周部には、ボルト84を挿入するための取付孔86が周方向に間隔を置いて複数設けられている。クランクシャフト4には、締結用リング88を介して固定用リング90が固定されている。この固定用リング90には、ボルト84を螺着するためのボルト孔(図示せず)が周方向に間隔を置いて複数設けられており、ボルト84が第1プレート部材72の取付孔86を通して固定用リング90のボルト孔に螺着されることにより、第1クラッチ摩擦板42が固定用リング90を介してクランクシャフト4に取り付けられる。このように取り付けられた第1クラッチ摩擦板42の第1摩擦部材74は、第1ピストンディスク36と押圧ディスク38との間に配設される。これにより、クランクシャフト4が回転すると、第1クラッチ摩擦板42は、クランクシャフト4とともに一体的に回転するようになる。
【0022】
第2クラッチ摩擦板44は、第2プレート部材96及び一対の第2摩擦部材98を有している。第2プレート部材96は、第1プレート部材72と同様にリング状に形成されるとともに、弾性復元力を有するバネ板で構成されている。第2プレート部材96の内周部には、径方向内側に延びる取付部100が周方向に間隔を置いて複数設けられ(図4参照)、各取付部100には、リベット102を挿入するための取付孔(図示せず)がそれぞれ設けられている。第2摩擦部材98は、第1摩擦部材74と同様に略矩形状に形成され、この第2摩擦部材98には、リベット102を挿入するための取付孔(図示せず)が設けられている。一対の第2摩擦部材98は、第2プレート部材96の各取付部100を両側より挟み込むようにして装着され、リベット102によって一対の第2摩擦部材98が取付部100に取り付けられる。
【0023】
また、第2プレート部材96の外周部には、ボルト108を挿入するための取付孔110が周方向に間隔を置いて複数設けられている。フライホイール6には、ボルト108を螺着するためのボルト孔(図示せず)が周方向に間隔を置いて複数設けられている。ボルト108が第2プレート部材96の取付孔110を通してフライホイール6のボルト孔に螺着されることにより、第2クラッチ摩擦板44がフライホイール6に取り付けられる。このように取り付けられた第2クラッチ摩擦板44の第2摩擦部材98は、押圧ディスク38と第2ピストンディスク40との間に配設される。これにより、フライホイール6が回転すると、第2クラッチ摩擦板44は、フライホイール6とともに一体的に回転するようになる。
【0024】
次に、上述したクラッチ機構2におけるクラッチ手段8の動作について説明する。フライホイール6の回転駆動力をクランクシャフト4に伝達するときには、図2に示すように、クラッチ手段8は駆動連結状態となる。この駆動連結状態においては、空圧給排装置からの圧縮空気が圧縮空気流路22を通して第1及び第2エア室32,34に送り込まれる。第1エア室32に送り込まれた圧縮空気の圧力により、第1ピストンディスク36がコイルバネ60の弾性復元力に抗して第2ピストンディスク40に近接する方向(図2中の矢印Pで示す方向)に移動し、これにより第1ピストンディスク36は第1クラッチ摩擦板42の第1摩擦部材74を押圧ディスク38とともに第2ピストンディスク40に近接する方向に押圧する。また第2エア室34に送り込まれた圧縮空気の圧力により、第2ピストンディスク40は、第2クラッチ摩擦板44の第2摩擦部材98に作用してこれを押圧ディスク38とともにコイルバネ60の弾性復元力に抗して第1ピストンディスク36に近接する方向(図2中の矢印Qで示す方向)に押圧し、これにより押圧ディスク38は第1クラッチ摩擦板42の第1摩擦部材74を第1ピストンディスク36に近接する方向に押圧する。
【0025】
これにより、第1摩擦部材74は、第1ピストンディスク36と押圧ディスク38との間に押圧され、第1摩擦部材74と第1ピストンディスク36及び押圧ディスク38とが駆動連結される。このとき、第1摩擦部材74は、第1ピストンディスク36及び押圧ディスク38によって両側よりほぼ等しい力で押圧されるので、第1プレート部材72には撓みがほとんど生じない。また、第2クラッチ摩擦板44の第2摩擦部材98は、押圧ディスク38と第2ピストンディスク40との間に押圧される。このとき、第2ピストンディスク40は第2クラッチ摩擦板44を第1ピストンディスク36側に押圧するので、第2プレート部材96は第1ピストンディスク36側に弾性的に撓むようになる。このようにしてクラッチ手段8が駆動連結状態となり、フライホイール6の回転駆動力が押圧ディスク38、第1及び第2ピストンディスク36,40並びに第1及び第2クラッチ摩擦板42,44を介してクランクシャフト4に伝達され、クランクシャフト4が所定方向に回転駆動される。
【0026】
クランクシャフト4が所定方向に回転すると、クランクシャフト4と連結されたコネクティングロッド(図示せず)等を介してスライド(図示せず)が上下方向に往復移動される。スライドが上死点から下方へ移動して下死点まで移動すると、スライドが加工域の被加工物(図示せず)に作用して被加工物にプレス加工が施される。プレス加工後は、スライドが下死点から上方へ移動して上記上死点に戻る。
【0027】
また、フライホイール6からクランクシャフト4への回転駆動力の伝達を解除するときには、図1に示すように、クラッチ手段8が駆動連結解除状態となる。この駆動連結解除状態においては、第1及び第2エア室32,34内の圧縮空気が圧縮空気流路22及び空圧給排装置を通して外部に排出される。コイルバネ60の弾性復元力により、第1ピストンディスク36及び押圧ディスク38は相互に離隔する方向(図1中の矢印X,Yで示す方向)に移動し、第1クラッチ摩擦板42と第1ピストンディスク36及び押圧ディスク38との駆動連結が解除される。また、第2ピストンディスク40は、押圧ディスク38に押圧されることにより第1ピストンディスク36から離隔する方向(図1中の矢印Yで示す方向)に移動する。このとき、第2クラッチ摩擦板44の第2プレート部材96は、弾性復元力により撓んだ状態から元の状態(撓んでいない状態)に戻るようになる。このようにしてクラッチ手段8が駆動連結解除状態となり、フライホイール6の回転駆動力はクランクシャフト4に伝達されない。
【0028】
本実施形態のクラッチ機構2では、次のような作用効果が達成される。上述のように、第1クラッチ摩擦板42の第1摩擦部材74が第1ピストンディスク36と押圧ディスク38との間に押圧されるので、第1プレート部材72には撓みがほとんど生じない。これにより、第1摩擦部材74には偏荷重がほとんど作用せず、第1摩擦部材74に焼き割れが発生するのを抑制することができる。なお、第2クラッチ摩擦板44の第2摩擦部材98が第2ピストンディスク40によって押圧されることにより、第2プレート部材96に撓みが生じて第2摩擦部材98に偏荷重が作用するようになるが、第2クラッチ摩擦板44とフライホイール6との相対速度が0(零)であるために第2クラッチ摩擦板44と押圧ディスク38及び第2ピストンディスク40との間に摩擦が生じず、第2摩擦部材98に焼き割れが発生することはない。
【0029】
また、駆動連結状態において、押圧ディスク38、第1及び第2ピストンディスク36,40並びに第1及び第2クラッチ摩擦板42,44は相互に駆動連結されているので、フライホイール6の第1内歯14と第1ピストンディスク36及び押圧ディスク38の第1及び第3外歯46,56との噛合部に加わる荷重、及びフライホイール6の第2内歯16と第2ピストンディスク40の第2外歯62との噛合部に加わる荷重はそれぞれ、第2クラッチ摩擦板44の第2プレート部材96とフライホイール6との連結部によって受けられるようになる。これにより、フライホイール6の第1内歯14(第2内歯16)と第1ピストンディスク36及び押圧ディスク38(第2ピストンディスク40)の第1及び第3外歯46,56(第2外歯62)とが相互に干渉することがなく、バックラッシュ48,58,64による騒音の発生を抑えることができる。
【0030】
次に、図6を参照して、クラッチ機構の他の実施形態について説明する。図6は、他の実施形態によるクラッチ機構の一部を示す断面図である。図6において、上述した実施形態の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0031】
本実施形態のクラッチ機構2Aでは、フライホイール6Aの相互に対向する内側面には、周方向に間隔を置いて配置された複数の第1及び第2ピン116、118が取り付けられている。第1及び第2ピン116,118はそれぞれ、クランクシャフト4の軸方向に延びている。また、第1ピストンディスク36A、第2ピストンディスク40A及び押圧ディスク38Aの各外周部にはそれぞれ、周方向に間隔を置いて配置された複数の第1、第2及び第3挿入孔120,122,124が設けられている。第1ピストンディスク36A及び押圧ディスク38Aの第1及び第3挿入孔120,122には第1ピン116が挿入されており、第1ピストンディスク36A及び押圧ディスク38Aがクランクシャフト4の軸方向に進退動できるように、第1及び第3挿入孔120,122と第1ピン116との間にはそれぞれバックラッシュ126,128が形成されている。また、第2ピストンディスク40Aの第2挿入孔124には第2ピン118が挿入されており、第2ピストンディスク40Aがクランクシャフト4の軸方向に進退動できるように、第2挿入孔124と第2ピン118との間にはバックラッシュ130が形成されている。
【0032】
本実施形態のクラッチ機構2Aにおいても、上述したのと同様の作用効果が達成される。即ち、駆動連結状態において、押圧ディスク38A、第1及び第2ピストンディスク36A,40A並びに第1及び第2クラッチ摩擦板42,44は相互に駆動連結されているので、フライホイール6Aの第1ピン116と第1ピストンディスク36A及び押圧ディスク38Aの第1及び第3挿入孔120,122との連結部に加わる荷重、及びフライホイール6Aの第2ピン118と第2ピストンディスク40Aの第2挿入孔124との連結部に加わる荷重はそれぞれ、第2クラッチ摩擦板44の第2プレート部材96とフライホイール6Aとの連結部によって受けられるようになる。これにより、フライホイール6Aの第1ピン116(第2ピン118)と第1ピストンディスク36A及び押圧ディスク38A(第2ピストンディスク40A)の第1及び第3挿入孔120,122(第2挿入孔124)とが相互に干渉することがなく、バックラッシュ126,128,130による騒音の発生を抑えることができる。
【0033】
以上、本発明に従うクラッチ機構の各種実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【符号の説明】
【0034】
2,2A,200,200A クラッチ機構
4,212 クランクシャフト
6,6A,206 フライホイール
8,8A,202,202A クラッチ手段
36,36A 第1ピストンディスク
38,38A 押圧ディスク
40,40A 第2ピストンディスク
42 第1クラッチ摩擦板
44 第2クラッチ摩擦板
72 第1プレート部材
74 第1摩擦部材
96 第2プレート部材
98 第2摩擦部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持されるクランクシャフトと、駆動源により回転されるフライホイールと、前記フライホイールの回転駆動力を前記クランクシャフトに伝達するためのクラッチ手段と、を備えるクラッチ機構であって、
前記クラッチ手段は、前記フライホイールとともに回転自在に且つ前記クランクシャフトの軸方向に移動自在に支持された第1ピストンディスク、第2ピストンディスク及び押圧ディスクと、前記クランクシャフトに取り付けられた第1クラッチ摩擦板と、前記フライホイールに取り付けられた第2クラッチ摩擦板と、を備え、前記第1クラッチ摩擦板は、前記第1ピストンディスクと前記押圧ディスクとの間に配設され、また前記第2クラッチ摩擦板は、前記押圧ディスクと前記第2ピストンディスクとの間に配設されており、
前記フライホイールの回転駆動力を前記クランクシャフトに伝達するときには、前記第2ピストンディスクが前記第2クラッチ摩擦板を前記押圧ディスクとともに前記第1ピストンディスクに近接する方向に押圧することにより、前記押圧ディスクが前記第1クラッチ摩擦板を前記第1ピストンディスクに近接する方向に押圧するとともに、前記第1ピストンディスクが前記第1クラッチ摩擦板を前記押圧ディスクとともに前記第2ピストンディスクに近接する方向に押圧し、これにより、前記第1クラッチ摩擦板が前記第1ピストンディスクと前記押圧ディスクとの間に押圧されるとともに、前記第2クラッチ摩擦板が前記押圧ディスクと前記第2ピストンディスクとの間に押圧されることを特徴とするクラッチ機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−247349(P2011−247349A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121148(P2010−121148)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(591041749)日本電産キョーリ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】