説明

クラッチ装置

【課題】部品点数を増加させることなく、走行状態に応じて積極的なクラッチクリアランスの確保を可能とする構成を備える、クラッチ装置を提供する。
【解決手段】アウタクラッチ板の係合片84aに力(矢印a1方向)が加わることで、ガイド溝83cのテーパ部に沿ってアウタクラッチ板の係合片84aが移動(矢印a2方向)し、アウタクラッチ板の底部にアウタクラッチ板の係合片84aが位置決めされる。これにより、全体として、隣接するアウタクラッチ板の間隔が均一(間隔h2)となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クラッチ装置の構造に改良に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチ装置の構造を開示する先行技術文献として、下記の文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−017842号公報
【特許文献2】特開平08−166025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されるクラッチ装置においては、アウタクラッチ板のクラッチクリアランスを確保するために、隣接配置されるアウタクラッチ板の間に、ウエーブスプリングを配設することで、アウタクラッチ板間の間隔を均一に保っている。
【0005】
また、上記特許文献2に開示されるクラッチ装置においては、アウタプレートの表面に放射状の油溝を設けることで、油流れを発生させて、アウタクラッチ板のクラッチクリアランスを確保している。
【0006】
しかし、上記特許文献1の、ウエーブスプリングを配設する構成では、部品点数の増加により、重量増加、コスト増加を招く。また、ドライブ走行状態およびコースト走行状態のいずれの状態においても、ウエーブスプリングによる弾性力がアウタクラッチ板に作用し、クラッチ締結力が必要な場合でも、アウタクラッチ板を引き離す方向に力が作用してしまう。
【0007】
また、上記特許文献2の油流れを発生させる構成の場合、油流れはアウタクラッチ板の回転数にのみその作用が依存され、意図的なアウタクラッチ板の開放を行なうことができない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、上記課題を解決するためになされたもので、部品点数を増加させることなく、走行状態に応じて積極的なクラッチクリアランスの確保を可能とする構成を備える、クラッチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に基づいたクラッチ装置においては、回転軸と、上記回転軸の軸線方向に沿って複数配列されるとともに、軸線方向に摺動可能に、かつ、軸周りに上記回転軸とともに回動可能に、その内縁が上記回転軸の外周面に保持されるインナクラッチ板と、上記回転軸と同軸に配置される略円筒形状のハウジングと、上記ハウジングの軸線方向に沿って上記インナクラッチ板に対して交互に配列されるとともに、軸線方向に摺動可能に、かつ、軸周りに上記ハウジングとともに回動可能に、その外縁が上記ハウジングの内周面に保持されるアウタクラッチ板とを備えている。
【0010】
また、上記ハウジングの内周面には、軸方向に延びるスプライン状の凹凸溝が複数設けられ、上記アウタクラッチ板の外縁には、上記凹凸溝の凹部に係合する係合片が設けられ、上記凹凸溝と上記係合片との間には、上記ハウジングに回転力が入力された場合に、上記アウタクラッチ板の上記係合片に上記凹凸溝に当接する力が加わることで、上記アウタクラッチ板の間隔を均一とするガイド領域が設けられる。
【発明の効果】
【0011】
この発明に基づいたクラッチ装置によれば、部品点数を増加させることなく、ドライブ走行状態に応じて積極的なクラッチクリアランスの確保を可能とする構成を備えるクラッチ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態におけるクラッチ装置が採用されるパワートレーンを示す図である。
【図2】実施の形態におけるクラッチ装置の概略構造を示す図である。
【図3】実施の形態におけるクラッチ装置のインナクラッチ側の概略構造を示す図である。
【図4】実施の形態におけるクラッチ装置のアウタクラッチ側の概略構造を示す図である。
【図5】実施の形態におけるクラッチ装置のアウタクラッチ側のハウジング内周面構造を示す図である。
【図6】実施の形態におけるクラッチ装置のアウタクラッチ側の動作原理を説明するための第1模式図である。
【図7】実施の形態におけるクラッチ装置のアウタクラッチ側の動作原理を説明するための第2模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図1から図6を参照して、本発明に基づいた実施の形態におけるクラッチ装置について説明する。なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。
【0014】
まず、図1を参照して、本発明に基づいた実施の形態におけるクラッチ装置が採用される四輪駆動のパワートレーン100の構成について説明する。エンジン1、トランスアクスル2、フロント側デファレンシャルギア3、および、トランスファ4を有し、ドライブシャフト5に前輪6が連結されている。
【0015】
トランスファ4には、プロペラシャフト7が連結され、このプロペラシャフト7に、電子制御カップリング8、リア側デファレンシャルギア9が連結されている。リア側デファレンシャルギア9にドライブシャフト10が連結され、このドライブシャフト10には後輪11が連結されている。実施の形態におけるクラッチ装置は、電子制御カップリング8に採用されている。
【0016】
図2から図4を参照して、電子制御カップリング8におけるクラッチ装置の概略構成について説明する。まず、図2および図3を参照して、リア側デファレンシャルギア9のドライブピニオンが連結される回転軸81を有し、この回転軸81には、回転軸81の軸線L1方向に沿って複数配列されるとともに、軸線L1方向に摺動可能に、かつ、軸周りに回転軸81とともに回動可能に、その内縁が回転軸81の外周面に保持されるインナクラッチ板82が設けられている。
【0017】
回転軸81の外周面には、軸方向に沿って延び、半径方向に沿って凹む溝部81aが設けられている。また、インナクラッチ板82の内周面には、溝部81aに係合する凸形状の係合片82aが設けられている。溝部81aに係合片82aが嵌合することで、インナクラッチ板82は、回転軸81の軸線L1方向に沿って摺動可能かつ軸周りに回転軸81とともに回動可能となる。
【0018】
次に、図2および図4を参照して、回転軸81と同軸に配置される略円筒形状のハウジング83を有している。このハウジング83は、プロペラシャフト7に連結されている。ハウジング83の軸線L1方向に沿ってインナクラッチ板82に対して交互に配列されるとともに、軸線L1方向に摺動可能に、かつ、軸周りにハウジング83とともに回動可能に、その外縁がハウジング83の内周面に保持されるアウタクラッチ板84が設けられている。
【0019】
ハウジング83の内周面には、軸方向に延びるスプライン状の凹凸溝83a,83bが複数設けられ、アウタクラッチ板84の外縁には、凹凸溝83a,83bの凹部83aに係合する凸形状の係合片84aが設けられている。凹部83aに係合片84aが嵌合することで、アウタクラッチ板84は、ハウジング83の軸線L1方向に沿って摺動可能かつ軸周りにハウジング83とともに回動可能となる。
【0020】
さらに、ハウジング83の内周面に設けられる凹凸溝83a,83bとアウタクラッチ板84の係合片84aとの間には、ハウジング83に回転力が入力された場合に、アウタクラッチ板84に凹凸溝83a,83bに当接する力が加わることで、アウタクラッチ板84の間隔を均一とするガイド領域83cが設けられている。
【0021】
図5から図7を参照して、ガイド領域83cの一例を説明する。凹凸溝83a,83bにより形成される2つの斜面83d,83eのうち、斜面83dに半径方向に沿うガイド溝83cが形成されている。このガイド溝83cは、底部831およびテーパ部832,832を有している。
【0022】
図6は、アウタクラッチ板84には、外力は作用せず、隣接するアウタクラッチ板84の間隔h1が狭くなっている状態を示している。他の領域では、間隔は大きくなっている箇所もあり、全体として、隣接するアウタクラッチ板84の間隔が不均一な状態を示している。
【0023】
図7は、ハウジング83に回転力が入力された場合に、アウタクラッチ板84の係合片84aに凹凸溝83a,83bに当接する力が加わった状態を示している。アウタクラッチ板84の係合片84aに力(矢印a1方向)が加わることで、ガイド溝83cのテーパ部832に沿ってアウタクラッチ板84の係合片84aが移動(矢印a2方向)し、アウタクラッチ板84の底部831にアウタクラッチ板84の係合片84aが位置決めされる。これにより、全体として、隣接するアウタクラッチ板84の間隔が均一(間隔h2)となる。
【0024】
たとえば、ブレーキ制御等におけるコースト走行状態において、ハウジング83に回転力が入力された場合に、前後回転差に基づき、アウタクラッチ板84の係合片84aが斜面83dと当接する場合には、この斜面83d側にガイド溝83cを設けておくことで、積極的なクラッチクリアランス確保が可能となる。
【0025】
また、ガイド溝83cにテーパ部832,832を設けておくことで、インナクラッチ板82とアウタクラッチ板84とが係合する場合には、容易にアウタクラッチ板84の移動を実現させることができる。
【0026】
以上、本実施の形態におけるクラッチ装置によれば、部品点数を増加させることなく、走行状態に応じて積極的なクラッチクリアランスの確保を可能とする構成を備えるクラッチ装置を提供することが可能となる。
【0027】
なお、ガイド領域の一例として、斜面83dにガイド溝83cを設ける場合について説明したが、溝形状に限定されずガイド突起を設ける構成の採用も可能である。また、四輪駆動のパワートレーンにおける電子制御カップリングに本発明を適用した場合について説明したが、同様の構成を有する機構であれば、本発明に基づくクラッチ装置を適用することが可能である。
【0028】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0029】
1 エンジン、2 トランスアクスル、3 フロント側デファレンシャルギア、4 トランスファ、5 ドライブシャフト、6 前輪、7 プロペラシャフト、8 電子制御カップリング、9 リア側デファレンシャルギア、10 ドライブシャフト、11 後輪、81 回転軸、81a 溝部、82 インナクラッチ板、82a 係合片、83 ハウジング、83a,83b 凹凸溝、83c ガイド領域(ガイド溝)、83d,83e 斜面、84 アウタクラッチ板、84a 係合片、100 パワートレーン、831 底部、832,832 テーパ部、L1 軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の軸線方向に沿って複数配列されるとともに、軸線方向に摺動可能に、かつ、軸周りに前記回転軸とともに回動可能に、その内縁が前記回転軸の外周面に保持されるインナクラッチ板と、
前記回転軸と同軸に配置される略円筒形状のハウジングと、
前記ハウジングの軸線方向に沿って前記インナクラッチ板に対して交互に配列されるとともに、軸線方向に摺動可能に、かつ、軸周りに前記ハウジングとともに回動可能に、その外縁が前記ハウジングの内周面に保持されるアウタクラッチ板と、を備え、
前記ハウジングの内周面には、軸方向に延びるスプライン状の凹凸溝が複数設けられ、
前記アウタクラッチ板の外縁には、前記凹凸溝の凹部に係合する係合片が設けられ、
前記凹凸溝と前記係合片との間には、前記ハウジングに回転力が入力された場合に、前記アウタクラッチ板の前記係合片に前記凹凸溝に当接する力が加わることで、前記アウタクラッチ板の間隔を均一とするガイド領域が設けられる、クラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−164091(P2010−164091A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4953(P2009−4953)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】