説明

クラッド材、熱交換器および熱交換器の製造方法

【課題】ろう付け接合後に耐食性を有し、フラックスの塗布による生産性の悪化を抑制可能なクラッド材を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金製の芯材41に対して、アルミニウム−亜鉛合金製の犠牲腐食材42からなる犠材層、アルミニウム−シリコン合金製のろう材からなるろう層が順にクラッドされた3層構造になっており、犠牲腐食剤42にマグネシウムを添加しておく。これにより、ろう付け接合時にろう材層が融解して、犠材層に添加されたマグネシウムによって接合面に形成された酸化皮膜を除去し、フラックスの塗布を必要とすることなく、低酸素濃度環境下でろう付け接合することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯材にろう材をクラッドしたクラッド材、これを用いて形成された熱交換器、および、熱交換器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に、芯材にろう材をクラッドしたクラッド材からなるプレート状部材等の構成部材をろう付け接合することによって形成された熱交換器が開示されている。
【0003】
この特許文献1の熱交換器は、半導体素子を冷却するために用いられており、一対のプレート状部材同士をろう付け接合することによって形成される複数の冷却管を備え、各冷却管の間に形成される隙間空間に半導体素子を挟み込むように配置し、冷却管内に冷却水を流通させることによって半導体素子を冷却する構成になっている。
【0004】
また、特許文献2には、蒸気圧縮式冷凍サイクル用の熱交換器を形成するために利用可能なクラッド材として、アルミニウム合金からなる芯材に、シリコン等を含有するろう材をクラッドしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4107267号公報
【特許文献2】特許第4491478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、複数の構成部材をろう付け接合することによって製品を形成する際のろう付け方法として、ノコロックブレージング法(以下、NB法という)およびバキュームブレージング法(以下、VB法という)が知られている。
【0007】
NB法では、クラッド材同士を大気圧環境下でろう付け接合することができるので、真空環境下でろう付け接合する必要のあるVB法と比較して、ろう付け炉内の真空引き等に要する設備エネルギーを低減できるとともに、製品の製造時間を短縮できることから、製品の生産性を向上できる。
【0008】
その一方で、NB法では、クラッド材同士のろう付け不良を抑制するために、クラッド材のろう付け接合面の酸化皮膜を化学的に除去するフラックスを塗布しておく必要がある。これに対して、VB法では、真空環境下でろう付け接合するので、ろう材にマグネシウムを添加しておくことで、マグネシウム自体が酸化されてしまうことなく接合面の酸化皮膜を除去することができる。従って、VB法ではフラックスの塗布を必要としない。
【0009】
ここで、クラッド材にフラックスを塗布する際に、乾式フラックスをスプレーにて塗布する手段やフラックス溶液に浸漬させて塗布する手段等を採用することで、クラッド材の表面にフラックスを容易に一括塗布することができる。従って、一般的には、製品をろう付け接合によって形成する際には、VB法よりも生産性を向上できるNB法が採用されることが多い。
【0010】
しかしながら、特許文献1の熱交換器をNB法で製造する場合、ろう付け接合後に冷却管の外表面と半導体素子との接触面にフラックスが残存しないように構成部材に対して部分的にフラックスを塗布しなければならない。その理由は、ろう付け接合後に冷却管の外表面と半導体素子との接触面にフラックスが残存していると、半導体素子を冷却する冷却性能の低下や半導体素子の破損を招く恐れがあるからである。
【0011】
従って、上述した一括塗布によるフラックスの塗布を採用することができず、特許文献1の熱交換器をNB法にて形成しても、NB法を採用することによる生産性向上効果を充分に得ることができなくなってしまう。
【0012】
また、特許文献1のように冷却水が流通する熱交換器を形成する場合は、クラッド材として、ろう付け接合後に耐食性を有するものを採用する必要がある。しかしながら、特許文献2のクラッド材は、冷媒と空気とを熱交換させる熱交換器を形成するためのものであるから、特許文献2には、ろう付け接合後に耐食性を有し、フラックスの塗布による製品の生産性の悪化を抑制可能なクラッド材は開示されていない。
【0013】
本発明は、上記点に鑑みて、ろう付け接合後に耐食性を有し、フラックスの塗布による生産性の悪化を抑制可能なクラッド材を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、複数の構成部材をろう付け接合することによって形成される熱交換器の生産性を向上させることを第2の目的とする。
【0015】
また、本発明は、複数の構成部材をろう付け接合することによって形成される熱交換器の生産性を向上させる熱交換器の製造方法を提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、芯材(41)に対して、犠牲腐食材(42)からなる犠材層、ろう付け接合用のろう材(43)からなるろう材層が順にクラッドされた3層構造になっており、犠牲腐食材(42)には、マグネシウムが添加されているクラッド材を特徴とする。
【0017】
これによれば、ろう付け接合時に犠材層のマグネシウムが拡散し、マグネシウムの還元作用をによって酸化皮膜を破ることができるので、フラックスの塗布を必要とすることなく、良好なろう付け接合を実現できる。さらに、空気に晒される表層部にマグネシウムが露出しないので、マグネシウム自体が酸化されて酸化物を形成してしまうことがない。従って、VB法のような真空環境下でのろう付け接合を要しない。
【0018】
さらに、犠牲腐食材(42)を有することで、ろう付け接合後の耐食性を確保できる。その結果、ろう付け接合後に耐食性を有し、フラックスの塗布による生産性の悪化を抑制可能なクラッド材を提供することができる。
【0019】
また、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載のクラッド材をろう付け接合した後に、芯材(41)のうち犠材層およびろう材層がクラッドされたクラッド面側に液体が存在し、かつ、前記クラッド面の反対面側に気体が存在する条件で用いることで、クラッド材の有するろう付け接合後の耐食性を有効に活用できる。
【0020】
また、請求項3に記載の発明のように、具体的に、請求項1または2に記載のクラッド材において、芯材(41)は、アルミニウム合金であり、犠牲腐食材(42)に対して添加されるマグネシウムの添加量Xは、
0.1≦X≦1.5
とすればよい。但し、Xは、マグネシウムが添加された犠牲腐食材(42)に対する重量パーセントである。これによれば、後述の実施形態に説明するように、良好なろう付け性および耐食性の双方を得ることができる。
【0021】
請求項4に記載の発明のように、請求項1ないし3のいずれか1つに記載のクラッド材からなる複数の構成部材(31、32、33、34)をろう付け接合することによって形成された熱交換器であって、構成部材(31〜34)のうち、犠材層およびろう材層がクラッドされたクラッド面側に液体が流通することを特徴とする。
【0022】
これによれば、構成部材(31〜34)が請求項1ないし3のいずれか1つに記載のクラッド材(40)にて形成されているので、複数の構成部材(31〜34)をろう付け接合することによって形成され、さらに、クラッド面側に液体が流通することに対する耐食性が要求される熱交換器の生産性を向上させることができる。
【0023】
また、請求項5に記載の発明では、熱交換器の製造方法であって、熱交換器を構成する複数の構成部材(31〜34)を加熱炉内で加熱することによって、複数の構成部材(31〜34)をろう付け接合するろう付け接合工程を有し、複数の構成部材(31〜34)として、芯材(41)に対して、犠牲腐食材(42)からなる犠材層、ろう付け接合用のろう材(43)からなるろう材層が順にクラッドされた3層構造になっており、さらに、犠牲腐食材(42)にマグネシウムが添加されたクラッド材からなるものを用い、ろう付け接合工程では、加熱炉内の酸素濃度を大気の酸素濃度よりも低くすることを特徴とする。
【0024】
これによれば、ろう付け接合後に耐食性を有し、フラックスの塗布による生産性の悪化を抑制可能なクラッド材からなる複数の構成部材(31〜34)を用いて熱交換器を製造できる。従って、熱交換器の生産性を向上させることができる。
【0025】
さらに、ろう付け接合工程では、加熱炉内の酸素濃度を大気よりも低くして、ろう付け接合を行うので、マグネシウムによって酸化膜が除去された後の構成部材(31〜34)に炉内で再び酸化膜が形成されてしまうことを抑制できる。従って、良好なろう付け性を得ることができる。
【0026】
また、加熱炉内の酸素濃度を低くするために、具体的に、請求項6に記載の発明のように、加熱炉として、炉内の内壁面にカーボン層が設けられたものを用いてもよい。また、請求項7に記載の発明のように、加熱炉内にて構成部材(31〜34)が接触する部位に、カーボンで形成されたものを用いてもよい。さらに、請求項8に記載に記載の発明のように、ろう付け接合工程では、加熱炉内に窒素を充填してもよい。
【0027】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一実施形態のプレート積層型の熱交換器の正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】一実施形態のクラッド材を説明するための説明図である。
【図4】犠牲腐食材に添加されるマグネシウムの添加量Xの変化に対する、ろう付け性と耐食性との変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を用いて、本発明の一実施形態を説明する。本実施形態では、本発明のクラッド材40からなる構成部材をろう付け接合することによって、いわゆるプレート積層型の熱交換器1を形成した例を説明する。図1は、本実施形態のプレート積層型の熱交換器1の正面図であり、図2は、図1のA−A断面図である。この熱交換器1は、通電時に発熱を伴う発熱部材である電子部品2を冷却する冷却用熱交換器として用いられる。
【0030】
具体的には、熱交換器1は、内部に冷却水を流通させる複数の冷却管3を有して構成されている。この冷却管3は、板状に形成された構成部材である一対の第1、第2プレート状部材31、32を、内部に冷却水を流通させる冷却水通路Wが形成されるように、最中合わせ状に貼り合わることによって形成されたものである。また、冷却管3の冷却水通路Wを流れる冷却水としては、水、エチレングリコール水溶液を採用できる。
【0031】
さらに、冷却管3は、その長手方向(冷却水の流れ方向)に垂直な断面が扁平形状に形成されており、その扁平面(平坦面)同士が互いに平行となるように、間隔を開けて積層配置されている。また、隣り合う冷却管3の冷却水通路W同士は、図2に示すように、冷却管3の長手方向両端部に設けられた第1、第2フランジ部31a、32aを介して連通している。
【0032】
第1フランジ部31aは、第1プレート状部材31に設けられ、冷却管3の扁平面に垂直方向に突出する円筒状に形成され、第1フランジ部31aの軸方向は、扁平面に垂直となっている。同様に、第2フランジ部32aは、第2プレート状部材32に設けられ、冷却管3の扁平面に垂直方向に突出する円筒状に形成され、第2フランジ部32aの軸方向は、扁平面に垂直となっている。
【0033】
第1フランジ部31aの外径および第2フランジ部32aの内径は、略一致しており、第1フランジ部31aの先端側を第2フランジ部32a内部へ挿入した際に隙間バメとなる寸法関係になっている。さらに、第1フランジ部31aおよび第2フランジ部32aは、一つの冷却管3を構成する第1フランジ部31aの先端が、隣り合う別の冷却管3の第2フランジ部32aの内部に挿入された状態で接合されている。
【0034】
そして、複数の冷却管3が接合されると、図1に示すように隣り合う冷却管3の扁平面同士の間に隙間空間Sが形成されるとともに、各冷却管3を接続する複数の第1、第2フランジ部31a、32aによって、流入管33を介して外部から流入した冷却水を各冷却管3へ分配する分配用タンク部4a、および、各冷却管3から流出した冷却水を集合させて流出管34を介して外部へ流出させる集合用タンク部4bが形成される。
【0035】
また、図2に示すように、冷却管3内の冷却水通路Wには、冷却水と電子部品2との熱交換を促進するインナーフィン35が配置されている。このインナーフィン35としては、例えば、冷却管3の長手方向から見たときに、板状部材を台形波状に折り曲げることによって形成されたストレートフィン等を採用できる。
【0036】
さらに、隣り合う冷却管3の扁平面の間に形成される隙間空間Sには、電子部品2が配置されている。この電子部品2は略直方体状に形成されており、冷却管3の積層方向に対向する1組の面が、それぞれ隣り合う冷却管3の双方の扁平面に接触するように配置されている。換言すると、電子部品2は、隣り合う冷却管3に挟み込まれるように配置されている。
【0037】
従って、本実施形態の熱交換器1では、冷却水を流通させることによって、冷却管3の積層方向に垂直な2つの面から電子部品2を冷却することができる。また、本実施形態の電子部品2は、具体的に、IGBT等の半導体素子とダイオードとを内蔵した半導体モジュールである。
【0038】
次に、図3を用いて、第1、第2プレート状部材31、32等の熱交換器1の構成部材を形成するクラッド材40について説明する。このクラッド材40は、芯材41に対して、犠牲腐食材42からなる犠材層、ろう付け接合用のろう材43からなるろう材層が順に張り合わされた(クラッドされた)3層構造になっている。
【0039】
芯材41は、アルミニウム合金で形成されている。本実施形態では、具体的に、芯材41として、日本工業規格(JIS)の材料記号が3000番台のアルミニウム合金、すなわちアルミニウム−マンガン(Al−Mn)系合金が採用されている。
【0040】
芯材41の表面にクラッドされる犠牲腐食材42は、芯材41に対して電位的に卑となる材料で構成されており、芯材41に対して優先的に腐食することで、芯材41の腐食を抑制する機能を果たす。本実施形態では、具体的に、犠牲腐食材42として、アルミニウム−亜鉛(Al−Zn)合金であって、犠牲腐食材42の全重量に対する亜鉛(Zn)の重量パーセントが、1.5%以上、7.5%以下のものを採用している。
【0041】
さらに、本実施形態では、犠牲腐食剤42にマグネシウム(Mg)が添加されており、このマグネシウムの添加量Xは、以下数式F1で表される値になっている。
0.1≦X≦1.5…(F1)
なお、Xは、マグネシウムが添加された犠牲腐食材42の全重量に対するマグネシウムの重量パーセントである。
【0042】
犠材層の表面にクラッドされるろう材43は、ろう付け接合時に加熱されて融解して各構成部材の接合面間に流れ込み、その状態で冷却されることによって凝固して、構成部材の接合面同士を接合する接合媒体である。
【0043】
本実施形態では、具体的に、ろう材43として、アルミニウム−シリコン(Al−Si)合金であって、ろう材43の全重量に対するシリコン(Si)の重量パーセントが、4%以上、12%以下のものを採用している。このため、ろう材層の表層には、ろう材43のアルミニウムが大気中の酸素に酸化されることによってアルミニウムの酸化皮膜43a(Al23)が形成される。
【0044】
また、第1、第2プレート状部材31、32は、平板状に形成されたクラッド材40にプレス加工を施すことによって成形されており、第1、第2プレート状部材31、32の接合面側が、芯材41のうち犠材層およびろう材層がクラッドされたクラッド面側(図2の太線で示す範囲)となっている。
【0045】
次に、本実施形態の熱交換器1の製造方法について説明する。まず、上述した第1、第2プレート状部材31、32を仮組して、仮組状態の冷却管3を形成する(冷却管仮組工程)。この冷却管仮組工程では、第1、第2プレート状部材31、32の少なくとも一方のプレート状部材に形成された図示しない仮組用ツメ部を他方のプレート状部材側へ折り曲げること等によって、仮組状態の冷却管3を形成すればよい。
【0046】
次に、仮組状態の冷却管3の第1フランジ部31aの先端を、隣り合う仮組状態の冷却管3の第2フランジ部32aの内部に挿入することで、複数の冷却管3が積層配置された仮組状態の熱交換器1を形成する(熱交換器仮組工程)。
【0047】
この熱交換器仮組工程では、前述した流入管33、流出管34等も積層方向一端側(図1では、紙面上端側端部)に位置付けられる冷却管3の第2フランジ部32aの内部に挿入されてカシメ等によって仮固定すればよい。また、積層方向他端側(図1では、紙面下端側端部)に位置付けられる冷却管3には、第1フランジ部31aが設けられていないもの、あるいは、第1フランジ部31aが閉塞されているものが配置される。
【0048】
さらに、この状態で、仮組状態の熱交換器1を加熱手段である図示しない加熱炉内に投入し、仮組状態の熱交換器1が投入された加熱炉内へ窒素を充填して炉内の酸素濃度を炉外の大気の酸素濃度よりも低くする。より具体的には、加熱炉内へ窒素を充填することによって、加熱炉内の酸素を加熱炉外へ押し出す窒素パージを行っている。この窒素パージでは、加熱炉内の空気圧を大気圧と同等とし、加熱炉内の真空引きなどは行わない。
【0049】
そして、加熱炉内温度を約600℃程度に加熱して、クラッド材40のろう材43を融解させる(ろう付け接合工程)。その後、熱交換器1を加熱炉内から取り出し、再びろう材43が凝固するまで冷却することによって、第1、第2プレート状部材31、32、流入管33、流出管34等の各構成部材が一体にろう付けされて熱交換器1が製造される。そして、製造された熱交換器1の隙間空間Sに電子部品2を配置する。
【0050】
また、この加熱炉は、その内壁面に炭素(C)を主成分とするカーボン層で覆った、いわゆるカーボン・マッフル炉であり、さらに、加熱炉内にて熱交換器1と接触する部位(例えば、搬送手段としてのベルトコンベアのベルト部等)に、カーボン(炭素)で形成されたものを用いている。これにより、ろう付け接合工程時における加熱炉内の酸素濃度は、少なくとも10ppm以下(好ましくは、5ppm以下)に維持されている。
【0051】
本実施形態では、上記の如く熱交換器1の構成部品をクラッド材40で形成することによって、以下のような優れた効果を得ることができる。
【0052】
まず、本実施形態のクラッド材40によれば、ろう付け接合時にろう材43(ろう材層)が融解すると、図3に示すように、犠牲腐食材42(犠材層)に添加されたマグネシウムによって接合面に形成された酸化皮膜43a(Al23)を破ることができるので、従来のNB法のようにフラックスの塗布を必要とすることなく、良好なろう付け接合を実現できる。
【0053】
ここで、クラッド材40の表層となるろう材43(ろう材層)にマグネシウムが添加されていると、マグネシウム自体が酸化物(MgO)となって、接合面に酸化皮膜を形成してしまうので、良好なろう付け接合を実現することができない。これに対して、本実施形態のクラッド材40では、表層に出現しないマグネシウム自体が酸化物を形成することがないので、低酸素濃度の大気圧環境下でのろう付け接合が可能となる。
【0054】
さらに、本実施形態のクラッド材40では、芯材41とろう材層との間に犠材層を配置する3層構造として、ろう材層と犠材層とを分割しているので、ろう付け接合後に犠性腐食材42(犠材層)による安定した耐食性を確保することができる。つまり、本実施形態のクラッド材40によれば、ろう付け接合後に耐食性を持たせることができるとともに、フラックスの塗布等によって熱交換器の生産性が悪化してしまうことを抑制できる。
【0055】
さらに、本実施形態のクラッド材40では、犠牲腐食材42に添加されるマグネシウムの添加量Xが、上記数式F1を満足する値となっているので、図4に示すように、高いろう付け性と高い耐食性との双方を両立させることができる。なお、図4は、犠牲腐食材42に添加されるマグネシウムの添加量Xの変化に対する、ろう付け性と耐食性との変化を示すグラフである。
【0056】
また、図4におけるろう付け性としては、例えば、各構成部材の接合部分にろう付けフィレットが形成されるか否かを定量化した値等を採用できる。一方、耐食性としては、例えば、熱交換器1の内部に、塩素イオン(Cl-)等を添加した所定の腐食液を循環させた際の腐食量等を採用できる。
【0057】
図4から明らかなように、マグネシウムの添加量Xを増加させることによって、酸化皮膜を取り除きやすくなるので、ろう付け性が向上するものの、犠牲腐食材42の量が減少してしまうので、耐食性が悪化する。従って、ろう付け性と耐食性との双方を両立させるためには、マグネシウムの添加量Xに適切な範囲が存在する。
【0058】
そこで、本実施形態では、犠牲腐食材42に添加されるマグネシウムの添加量Xを、数式F1を満足する値として、高いろう付け性と高い耐食性の双方の両立を図っている。より好ましくは、マグネシウムの添加量Xを、0.1≦X≦0.8とすればよい。
【0059】
また、本実施形態の熱交換器1では、ろう付け接合後に、芯材41のうちクラッド面側に冷却水(液体)を流通させ、クラッド面の反対面側に大気(気体)および電子部品2が存在するように用いられているので、クラッド材40が有するろう付け接合後の耐食性を有効に活用することができる。
【0060】
さらに、冷却管3の外周面(クラッド面の反対側の面)と電子部品2との接触面にフラックスが残存してしまうことがないので、電子部品2を冷却水する冷却性能の低下や半導体素子の破損を招くことがない。
【0061】
また、本実施形態の熱交換器1の製造方法によれば、クラッド材40からなる構成部材31、32、33、34を用いていることにより、フラックスを塗布する必要がなく、さらに、大気圧環境下で、ろう付け接合工程を行うことができるので、熱交換器1の生産性を向上させることができる。
【0062】
さらに、ろう付け接合工程時に、加熱炉内を窒素パージするとともに、加熱炉としてカーボン・マッフル炉を採用し、さらに、少なくとも構成部材31、32、33、34が接触する部位がカーボンで形成されたものを用いているので、加熱炉内の酸素濃度を10ppmに維持することができる。従って、犠材層のマグネシウムによって酸化膜が除去された後の熱交換器1に炉内で再び酸化膜が形成されてしまうことを抑制でき、良好なろう付け性を得ることができる。
【0063】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0064】
(1)上述の実施形態では、クラッド材40にて構成された構成部材をろう付け接合することによって、電子部品2を冷却する冷却用の熱交換器1を形成した例を説明したが、熱交換器1はこれに限定されない。例えば、上述の熱交換器1に対して電子部品2を配置することなく、冷却水と空気とを熱交換させて冷却水を放熱させる放熱用の熱交換器を形成してもよい。すなわち、液体と気体とを熱交換させる熱交換器を形成してもよい。さらに、クラッド材40にて構成された構成部材をろう付け接合して熱交換器以外の製品を形成してもよい。もちろん、この場合にも、ろう付け接合後にクラッド面側に液体が流通するように形成されることが望ましい。
【0065】
(2)上述の実施形態では、発熱部材である電子部品2として半導体モジュールを採用した例を説明したが、発熱部材はこれに限定されない。パワートランジスタ、パワーFET、IGBT等の電子部品であってもよし、回転電動機等を採用してもよい。
【0066】
(3)上述の実施形態では、クラッド材40が有するろう付け接合後の耐食性を有効に活用するための一例として、クラッド面側を流通する液体として、水、エチレングリコール水溶液を採用した例を説明したが、もちろんオイル等を流通させてもよい。
【0067】
(4)上述の実施形態では、インナーフィンとして、ストレートフィンを採用した例を説明したが、ストレートフィンに対して、台形波状に折り曲げられた部位を冷却水の流れ方向に向かってさらに波状に折り曲げたウェーブフィン、あるいは、ストレートフィンに対して、台形波状に折り曲げられた部位に切り欠き部を設けて、当該切り欠き部を断続的に折り曲げたオフセットフィンを採用してもよい。
【0068】
もちろん、インナーフィンを本実施形態のクラッド材40で構成してもよい。この場合は、板状の芯材の両面に、犠材層、ろう材層をこの順でクラッドしてもよい。つまり、インナーフィンの両面をクラッド面としてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 熱交換器
31、32 第1、第2プレート状部材
33 流入管
34 流出管
40 クラッド材
41 芯材
42 犠牲腐食材
43 ろう材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材(41)に対して、犠牲腐食材(42)からなる犠材層、ろう付け接合用のろう材(43)からなるろう材層が順にクラッドされた3層構造になっており、
前記犠牲腐食材(42)には、マグネシウムが添加されていることを特徴とするクラッド材。
【請求項2】
さらに、ろう付け接合された後に、前記芯材(41)のうち前記犠材層および前記ろう材層がクラッドされたクラッド面側に液体が存在し、かつ、前記クラッド面の反対面側に気体が存在する条件で用いられることと特徴とする請求項1に記載のクラッド材。
【請求項3】
前記芯材(41)は、アルミニウム合金であり、
前記犠牲腐食材(42)に対して添加されるマグネシウムの添加量Xは、
0.1≦X≦1.5
であることを特徴とする請求項1または2に記載のクラッド材。
但し、Xは、マグネシウムが添加された犠牲腐食材(42)の重量に対する重量パーセントである。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のクラッド材からなる複数の構成部材(31、32、33、34)をろう付け接合することによって形成された熱交換器であって、
前記構成部材(31〜34)のうち、前記犠材層および前記ろう材層がクラッドされたクラッド面側に液体が流通することを特徴とする熱交換器。
【請求項5】
熱交換器を構成する複数の構成部材(31〜34)を加熱炉内で加熱することによって、前記複数の構成部材(31〜34)をろう付け接合するろう付け接合工程を有し、
前記複数の構成部材(31〜34)として、芯材(41)に対して、犠牲腐食材(42)からなる犠材層、ろう付け接合用のろう材(43)からなるろう材層が順にクラッドされた3層構造になっており、さらに、前記犠牲腐食材(42)にマグネシウムが添加されたクラッド材からなるものを用い、
前記ろう付け接合工程では、前記加熱炉内の酸素濃度を大気の酸素濃度よりも低くすることを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項6】
前記加熱炉として、炉内の内壁面にカーボン層が設けられたものを用いることを特徴とする請求項5に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項7】
前記加熱炉内にて前記構成部材(31〜34)が接触する部位に、カーボンで形成されたものを用いることを特徴とする請求項5または6に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項8】
前記ろう付け接合工程では、加熱炉内に窒素を充填することを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1つに記載の熱交換器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−1941(P2013−1941A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133231(P2011−133231)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)