説明

クランクシャフトの加工方法および加工装置

【課題】クランクシャフトのピン部またはジャーナル部からなる被加工部に対する加工効率を高める。
【解決手段】3本のクランクシャフト1,3,5のピン部1a,3a,5aを、研磨用テープ33を介してクランプ機構7により挟持し、この状態で中央のクランクシャフト3をモータ45により回転駆動させる。これにより、クランクシャフト3のピン部3aがそのジャーナル部3cを中心として旋回運動し、これに伴いクランプ機構7も旋回運動して、両側のクランクシャフト1,5もそのジャーナル部1c,5cを中心としてピン部1a,5aが旋回運動する。このとき、3本のクランクシャフト1,3,5のピン部1a,3a,5aに対し、研磨用テープ33が相対移動して研磨加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトのピン部またはジャーナル部からなる被加工部を加工するクランクシャフトの加工方法および加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関における燃費向上のために、クランクシャフトの摺動面であるピン部やジャーナル部のフリクションを低減することが必要であり、そのために、現在研磨用テープを用いて上記した摺動面を研磨加工している(例えば下記特許文献1参照)。
【0003】
一方、上記したクランクシャフトのピン部やジャーナル部における軸方向両端の隅部に相当するフィレット部は、丸み(R:アール)を付けて強度確保を図っているが、このフィレット部の疲労強度を向上させるために、フィレットローラによりローリング(冷間圧延)加工して圧縮残留応力を付与している(例えば下記特許文献2参照)。
【0004】
前者の研磨用テープを用いた加工は、クランクシャフトのピン部またはジャーナル部からなる被加工部を、一対のクランプアームで挟持し、このクランプアームの被加工部に対する挟持面と被加工部との間に研磨用テープを介在させ、この研磨用テープを被加工部に対して相対移動させることで被加工部を研磨加工する。
【0005】
一方後者のフィレットロール加工は、上述の研磨用テープを用いた加工と同様に一対のクランプアームを使用しており、この一対のクランプアームでピン部またはジャーナル部からなる被加工部を挟持した状態でクランクシャフトを回転させ、一方のクランプアームに設けたバックアップローラで被加工部を支持しながら、他方のクランプアームに設けたフィレットロールによりローリング加工を施す。
【特許文献1】特開2000−263399号公報
【特許文献2】特開2003−25221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したクランクシャフトの摺動面に対する研磨加工やフィレット部に対するローリング加工では、一対のクランプアームで一つのクランクシャフトの被加工部を挟持してその一つのクランクシャフトに対して加工しているため、加工効率が悪く、特に大量生産を行う場合には、改善が望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、クランクシャフトのピン部またはジャーナル部からなる被加工部に対する加工効率を高めることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、クランクシャフトのピン部またはジャーナル部からなる被加工部を、一対のクランプアームで挟持しつつ前記クランクシャフトの回転に伴い加工するクランクシャフトの加工方法において、前記クランクシャフトを複数平行に並列配置し、この複数のクランクシャフトの互いに対応する位置にあるそれぞれの被加工部を、前記一対のクランプアームの挟持部でそれぞれ挟持した状態で、前記複数のクランクシャフトのそれぞれの被加工部に対して同時に加工することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一対のクランプアームで複数のクランクシャフトの被加工部を挟持してその複数のクランクシャフトに対して同時に加工するので、加工効率が高まり、特に大量生産を行う場合には有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係わるクランクシャフトの加工装置を示す平面図である。ここでは3本のクランクシャフト1,3,5を互いに平行に並列配置し、それらの被加工部となる各ピン部1a,3a,5aを同時に研磨加工している状態を示す。
【0012】
各ピン部1a,3a,5aは、その軸方向両側のアーム部1b,3b,5bを介してジャーナル部1c,3c,5cにそれぞれ連結している。
【0013】
そして、3本のクランクシャフト1,3,5の互いに対応する位置(図1中で左右方向に重なる位置)にあるピン部1a,3a,5aを、図1のA矢視図である図2に示すように、クランプ機構7によって挟持している。なお、図2は、図1に対してピン部1a,3a,5aをジャーナル部1c,3c,5cに対して上下方向に位置させた状態を示している。
【0014】
クランプ機構7は、上下一対のクランプアーム9,11と、この各クランプアーム9,11を、図2に示す閉じた状態と図3に示す開放した状態とに変位させる開閉機構部13とをそれぞれ備えている。
【0015】
開閉機構部13は、各クランプアーム9,11の一方の端部に一端を連結する連結アーム15,17と、各連結アーム15,17の他端に位置して各連結アーム15,17の一端側を互いに接近離反させる方向に移動させて、クランプアーム9,11を開閉移動させるモータなどからなる開閉駆動部19とをそれぞれ備える。
【0016】
上記した一対のクランプアーム9,11は、図3に示すように、各ピン部1a,3a,5aに対応する位置の互いに対向する部位に、半円弧状のピン部収容部9a,11aをそれぞれ備えている。ピン部収容部9a,11aには、半円筒形状の挟持部としての押圧部材となる加圧シュー21,23を設けている。この加圧シュー21,23の内側の凹曲面が、被加工部に対する挟持面となる。
【0017】
また、図4に図2の一部を拡大して示すように、加圧シュー21,23とピン部収容部9a,11aとの間には、半円筒形状の油溜まり25,27を形成し、油溜まり25,27に一端が連通する作動油通路29,31をクランプアーム9,11内にそれぞれ形成する。作動油通路29,31の他端は、図示しない作動油配管を介して切替バルブや油圧源を備える油圧装置に接続する。
【0018】
また、加圧シュー21,23は、図4中で紙面に直交する方向の両端部を、クランプアーム9,11の側面に対して移動可能に装着しかつ、図2のようにピン部1a,3a,5aを挟持した状態で、ピン部1a,3a,5aに対しクランプアーム9,11とともに接近離反する方向に移動可能とする。
【0019】
なお、上記した各作動油通路29,31は、互いに別系統の油圧回路を形成するものとする。
【0020】
そして、ピン部1a,3a,5aを研磨加工する際には、図3に示すように、各クランクシャフト1,3,5のピン部1a,3a,5aを、ピン部収容部9a,11aに対応する位置とし、さらに研磨用テープ33を、これらのピン部1a,3a,5aを覆うように巻き渡した状態で、図2に示すように、クランプアーム9,11を閉じる。
【0021】
したがって、このとき、研磨用テープ33は、ピン部1a,3a,5aの外周面に接触可能な状態となる。研磨用テープ33の両端は、ガイドローラ35,37を介してテープ保持部39,41に接続する。ガイドローラ35,37は、特に図示していないが、クランプアーム9,11の旋回運動に伴う研磨用テープ33の移動に伴って、スプリングなどに支持されてその位置が移動可能となっている。
【0022】
なお、図2ではガイドローラ35,37のみ示しているが、さらに多数のガイドローラを適宜設けることで、研磨用テープ33の移動に容易に追随することが可能である。
【0023】
また、研磨用テープ33は、クランプアーム9,11に挟まれた状態で、クランプアーム9,11およびピン部1a,3a,5aに対して相対移動可能である。
【0024】
図1に示すように、中央のクランクシャフト3の軸方向一方の端部の中心に形成したピン挿入凹部43には、モータ45から突出する駆動側支持ピン47を挿入固定し、ピン挿入凹部43から半径方向外側位置に設けた嵌合孔49には、モータ45から突出する回転駆動ピン51を挿入固定する。モータ45は、研磨加工装置本体の一方のベース部53に固定する。
【0025】
駆動側支持ピン47は、その軸芯を中心として回転し、一方回転駆動ピン51は、駆動側支持ピン47を中心としてその周囲を旋回運動する。このような駆動側支持ピン47の回転運動と回転駆動ピン51の旋回運動は、モータ45に内蔵される連結機構部より、互いに連動して動作する。
【0026】
上記した中央のクランクシャフト3の軸方向他方の端部は、研磨加工装置本体の他方のベース部55から突出する従動側支持ピン57に回転支持させる。
【0027】
また、中央のクランクシャフト3の両側に位置するクランクシャフト1,5は、その軸方向一方の端部を、研磨加工装置本体の前記した一方のベース部53から突出する支持ピン59,61に回転可能に支持させるとともに、他方の端部を、研磨加工装置本体の他方のベース部55から突出する支持ピン63,65に回転可能に支持させる。
【0028】
すなわち、上記した駆動側支持ピン47,従動側支持ピン57および支持ピン59,61,63,65は、複数のクランクシャフトをその各ジャーナル部を中心として回転可能に支持する回転支持部を構成している。また、モータ45,駆動側支持ピン47および回転駆動ピン51は、複数のクランクシャフトの内の1本を、そのジャーナル部を中心として回転させる回転駆動部を構成している。
【0029】
次に、3本のクランクシャフト1,3,5の各ピン部1a,3a,5aに対する研磨加工動作について説明する。
【0030】
図1のように、研磨加工装置本体のベース部53,55に3本のクランクシャフト1,3,5のそれぞれの両端を支持させた状態で、図3に示すように、研磨用テープ33を、これらの各ピン部1a,3a,5aを覆うように巻き渡し、さらに開放状態のクランプアーム9,11のピン部収容部9a,11aを各ピン部1a,3a,5aに対応する位置とした状態でクランプアーム9,11を閉じ、図2の状態とする。
【0031】
その後、図示しない油圧装置から、加圧シュー21,23とピン部収容部9a,11aとの間の油溜まり25,27に作動油を供給し、加圧シュー21,23をピン部1a,3a,5aに対して油圧により加圧する。
【0032】
この状態で、モータ45を駆動するが、このとき中央のクランクシャフト3のピン挿入凹部43に挿入固定した状態の駆動側支持ピン47を回転させつつ、嵌合孔49に挿入した回転駆動ピン51を、駆動側支持ピン47を中心として旋回させることで、クランクシャフト3をそのジャーナル部3cを中心として回転させる。
【0033】
クランクシャフト3の回転により、図5に示すように、そのピン部3aがジャーナル部3cを中心として旋回し、これに伴いピン部3aを挟持しているクランプ機構7も同時に旋回して、両側のクランクシャフト1,5のピン部1a,5aも、そのジャーナル部1c,5cを中心として旋回する。
【0034】
このようなクランプ機構7の旋回運動の際に、クランプアーム9,11に挟持されている部分の研磨用テープ33も、旋回運動することになるが、この旋回運動に追随するように、ガイドローラ35,37が適宜移動して研磨用テープ33の変位を吸収し、このとき研磨用テープ33が各ピン部1a,3a,5aに対して摺動しつつ相対移動してその外周面を研磨する。
【0035】
このように、上記した第1の実施形態によれば、一対のクランプアーム9,11で複数のクランクシャフト1,3,5を挟持してその複数のクランクシャフトに対して研磨加工するので、加工効率が高まり、特に大量生産を行う場合には有効である。
【0036】
また、上記した研磨加工時には、加圧シュー21,23とピン部収容部9a,11aとの間に作動油を供給し、加圧シュー21,23をピン部1a,3a,5aに対して油圧により加圧しているので、研磨作業を効率よく行うことができる。
【0037】
なお、上記した研磨加工時に、加圧シュー21,23の作動流体側に、弾性部材を設けてもよい。これにより、加圧シュー21,23をピン部1a,3a,5aに対してより確実に加圧することができる。
【0038】
また、上記実施形態において、中央のクランクシャフト3を、そのピン部3aに対して加工を実施しない、いわゆるダミーのクランクシャフトとし、両側のクランクシャフト1,5のピン部1a,5aに対してのみ研磨加工を行うようにしてもよい。
【0039】
これにより、モータ45によって直接回転駆動されて、被加工部であるピン部3aに対する荷重変動が発生しやすい中央のクランクシャフト3のピン部3aに対する加工むらを防止することができる。
【0040】
このとき、ダミーのクランクシャフトのピン部と、このピン部を支持するクランプアーム9,11との間に、潤滑油を注油することで、この部位の焼き付きを防止することができる。あるいは、ダミーのクランクシャフトの特にピン部の材質をFCD(球状黒鉛鋳鉄)とすることで、球状黒鉛により潤滑機能を持たせ、上記部位の焼き付きを防止することができる。
【0041】
図6は、本発明の第2の実施形態に係わるクランクシャフトの加工装置を示す、前記図2に対応する図であり、ここでは前記図1〜5に示した第1の実施形態に対し、2本のクランクシャフト3,5を互いに平行に並列配置し、それらの被加工部となる各ピン部3a,5aを同時に加工している状態を示す。
【0042】
この場合、クランプ機構70における一対のクランプアーム90,110は、2本のクランクシャフト3,5を保持できるよう図2のクランプアーム9,11より長さを短くし、図6中で右側のクランクシャフト3に対して前記図1に示したものと同様のモータ45によって回転駆動する。
【0043】
この際、図6中で左側のクランクシャフト5に対しても、前記図1に示したものと同様のモータ45によって回転駆動させることで、クランクシャフト3のみを回転駆動する場合のピン部5aに作用する荷重変動によるピン部5aの加工むらを防止することができる。
【0044】
なお、前記図1〜5に示した第1の実施形態においても、ピン部1a,5aの加工むらを防止するために、両側のクランクシャフト1,5を前記図1に示したものと同様のモータ45によって回転駆動させるようにしてもよい。
【0045】
図7は、本発明の第3の実施形態に係わるクランクシャフトの加工装置を示す正面図である。この加工装置は、2本のクランクシャフト3,5を互いに平行に並列配置し、その被加工部となる各ピン部3a,5aを同時にフィレットロール加工する。図7に示すクランクシャフト3,5は、ジャーナル部3c,5cを中心としてその上下にピン部3a,5aが位置している。
【0046】
上記したクランクシャフトの加工装置は、一対のクランプアームとして上部アーム67および下部アーム69をそれぞれ備えており、図7はこれら各アーム67,69が互いに離反している加工待機時の原位置にある状態を示している。
【0047】
上部アーム67の図7中で左右両端の下部アーム69に対向する位置には、ロールカセット71を装着し、ロールカセット71にはフィレットロール73を回転可能に設けている。一方、下部アーム69の上記したロールカセット71に対向する位置には、レストロールカセット75を装着し、レストロールカセット75には、一対のレストローラ77を回転可能に設けている。
【0048】
上部,下部各アーム67,69のロールカセット71およびレストロールカセット75付近が、クランプアームの挟持部となり、この各挟持部で挟持した状態のクランクシャフト3,5相互の中間部分に荷重付与手段としての荷重シリンダ78を配置する。
【0049】
荷重シリンダ78は、そのシリンダ本体79の上部に位置する基端側の取付部81を、取付ピン81aを介して上部アーム67に回転可能に取り付ける一方、シリンダ本体79から下方に向けて突出するピストンロッド83先端の取付部85を、取付ピン85aを介して下部アーム69に回転可能に取り付ける。
【0050】
上記した荷重シリンダ78の作動により、上部アーム67と下部アーム69とが互いに接近離反移動し、接近する方向に作動させることで、クランクシャフト3,5の被加工部に対して所定の荷重を付与する。
【0051】
荷重シリンダ78と、左右のロールカセット71およびレストロールカセット75との間の下部アーム69には、上部アーム67に向けて突出するガイドロッド89を設けている。一方下部アーム69には、このガイドロッド89を受け入れるラフガイド孔91を設けている。上記したガイドロッド89とラフガイド孔91とで、上部アーム67と下部アーム69とが互いに接近離反移動する際のラフガイドとなるガイド部を構成している。
【0052】
また、上部アーム67は、左右のロールカセット71付近の上端部に連結する懸架手段としての懸架シリンダ93が支持している。懸架シリンダ93は、そのシリンダ本体95の上部に位置する基端側の取付部97を、取付ピン97aを介して加工装置本体のベース部99に回転可能に取り付ける。
【0053】
一方、シリンダ本体95から下方に向けて突出するピストンロッド101先端の取付部103は、取付ピン103aを介して上部アーム67に回転可能に取り付ける。
【0054】
上記した懸架シリンダ93は、図7に示す加工待機時には原位置を保持し、図8に示す加工時には上部,下部各アーム67,69などを有するアーム機構部104の自重による重力方向の荷重を打ち消す方向の荷重を付与するように作動する油圧回路105を備えている。
【0055】
次に、2本のクランクシャフト3,5の各ピン部3a,5aの軸方向両端部における隅部であるフィレット部に対するローリング加工動作について説明する。
【0056】
図7に示す加工待機時のように、上部アーム67と下部アーム69との間を広げて開放した状態で、2本のクランクシャフト3,5を矢印Bで示す左右両側から、左右のロールカセット71とレストロールカセット75との間に搬入する。
【0057】
搬入後のクランクシャフト3,5は、前記図1に示した研磨加工装置と同様の回転駆動部および回転支持部を適用している前記図6の例と同様な方法で回転可能に保持する。すなわち、一方のクランクシャフト3を、図1に示してあるモータ45の駆動側支持ピン47と従動側支持ピン57とにより回転駆動し、他方のクランクシャフト5を、同支持ピン61,65によって回転可能に支持する。
【0058】
この際、他方のクランクシャフト5側にもモータ45を設けて両クランクシャフト3,5を同期回転させてもよい。
【0059】
図7の加工待機時の状態から、荷重シリンダ78を、ピストンロッド83が引き込む方向に作動させると、下部アーム69が上昇して上部アーム67に接近する。この接近により、下部アーム69側のレストローラ77が、ピン部3a,5aにまず接触し、その後上部アーム67側のフィレットロール73がピン部3a,5a両端のフィレット部に接触する。
【0060】
これにより、クランクシャフト3,5は、そのピン部3a,5aを、上部アーム67と下部アーム69とで挟持した状態となる。このとき荷重シリンダ78が付与する荷重値は、1本のクランクシャフトに対して4000Nであると仮定すると、全体で8000Nとなる。そしてこのときの懸架シリンダ93は、上部,下部各アーム67,69などからなるアーム機構部104を、上下方向の適宜位置となる状態でつり合うように支持する。
【0061】
この状態で、前記図1のものと同様のモータ45の駆動により、一方のクランクシャフト3を、そのジャーナル部3cを中心として回転させ、この回転により、ピン部3aがジャーナル部3cを中心として旋回する。これに伴いピン部3aを挟持している上部,下部各アーム67,69からなるアーム機構部104も同時に旋回して、他方のクランクシャフト5のピン部5aも、そのジャーナル部5cを中心として旋回する。
【0062】
図8では、上記旋回運動するピン部3a,5aの軸心の旋回軌跡を、ジャーナル部3c,5cの軸心を中心とするピン旋回軌跡円Pとして示している。なお、図8では上記加工しているピン部3a,5aとは別の、ジャーナル部3c,5cを境にして反対側に位置するピン部3a,5aは省略している。
【0063】
そして、この旋回運動の際に、下部アーム69側のレストローラ77がピン部3a,5aに対して回転しながら支持しつつ、上部アーム67側のフィレットロール73がピン部3a,5aの軸方向両端のフィレット部に対して回転しつつローリング加工を施し、フィレット部の疲労強度を高める。
【0064】
上記したローリング加工時でのアーム機構部104の旋回運動の際には、懸架シリンダ95が、アーム機構部104に対しその自重による重力方向の荷重を打ち消すように動作するので、アーム機構部104の見かけ上の重量を低減させ、ピン部3a,5aに作用する遠心力・慣性力を低減する。これにより、荷重シリンダ78によるピン部3a,5aに対する荷重付与の安定化や加工の高速化、あるいはクランクシャフト3,5の変形を防止することができる。
【0065】
そして、この第3の実施形態においても、前記図1に示した第1の実施形態と同様に、一対の上部,下部各アーム67,69で複数のクランクシャフト3,5を挟持してその複数のクランクシャフトに対してフィレット加工するので、加工効率が高まり、特に大量生産を行う場合には有効である。
【0066】
また、第3の実施形態においては、ピン部3a,5aになどの被加工部に対し、その軸線に直交する方向から荷重を均等に付与するので、被加工部に対して最適な荷重を付与することができるとともに、フィレットロール73を受ける図示しないリテーナの偏磨耗を防止して長寿命化を達成できる。
【0067】
さらに、上部アーム67と下部アーム69とは常にほぼ平行状態のまま、荷重シリンダ78によりクランクシャフト3,5に対して荷重を安定的に付与できるので、ピン部3a,5aなどの被加工部の径が相違するクランクシャフトを加工する際にも容易に対応でき、ロールカセット71とレストローラカセット75との互いの平行状態を保持するために、これら各カセットを交換する必要がない。
【0068】
図9は、本発明の第4の実施形態に係わるクランクシャフトの加工装置を示す正面図である。この実施形態は、前記図7,図8に示した第3の実施形態における懸架シリンダ93に代えて、サーボ機構としてのサーボシリンダ107を使用している。
【0069】
サーボシリンダ107は、油圧ユニット109に接続している制御バルブ111を介して制御装置113が動作を制御する。この場合、2つのサーボシリンダ107は、そのピストンロッド115先端の取付部116相互の間隔が、シリンダ本体117の基端側の取付部119相互の間隔よりも狭くしている。
【0070】
ピストンロッド115先端の取付部116は、取付ピン116aを介して上部アーム67に対して回転可能に取り付け、シリンダ本体117の取付部119は、取付ピン119aを介して加工装置本体のベース部99に対して回転可能に取り付ける。
【0071】
この場合、図7,図8と同様にしてピン部3a,5aのフィレット部をローリング加工する際に、サーボシリンダ107が、上部,下部各アーム67,69からなるアーム機構部104の旋回運動に同期して作動し、前記した懸架シリンダ93と同様にしてアーム機構部104の見かけ上の重量を減少させる。
【0072】
このように第4の実施形態では、アーム機構部104の旋回運動に同期してサーボシリンダ107が作動するので、ピン部3a,5aに作用する遠心力・慣性力をより一層低減することができ、さらなる荷重シリンダ78による荷重付与の安定化や加工の高速化、クランクシャフト3,5の変形防止を達成することができる。
【0073】
図10は、図9のサーボシリンダ107に代えてサーボモータ119を使用した例を示している。サーボモータ119は、モータ本体121から図10中で下方に突出する進退移動可能なロッド123を備え、その先端の取付部125を、取付ピン125aを介して上部アーム67に回転可能に取り付ける。一方モータ本体121は、その取付部127を、加工装置本体のベース部99に設けた取付ブラケット129に、取付ピン孔127aを介して回転可能に取り付ける。
【0074】
上記図10に示した例においても、図9に示した第4の実施形態と同様にしてピン部3a,5aのフィレット部をローリング加工する際に、サーボモータ121が、上部,下部各アーム67,69からなるアーム機構部104の旋回運動に同期して、前記図8に示した懸架シリンダ93と同様にしてアーム機構部104の見かけ上の重量を減少させるよう作動するので、第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0075】
図11は、前記図7,図8に示した第3の実施形態によるフィレットロール加工装置を、前記図1〜図6における研磨用テープを用いたピン部に対する研磨加工に適用した第5の実施形態を示すもので、図7,図8と異なる部位のみ説明し、図7,図8と同一構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0076】
この実施形態では、前記図7,図8におけるロールカセット71およびレストロールカセット75に代えて、前記図3に示した加圧シュー21,23に相当する加圧シュー127,129をそれぞれ設けている。
【0077】
そして、クランクシャフト3,5のピン部3a,5aを研磨加工する際には、ピン部3a,5aと加圧シュー127,129との間に研磨用テープ131を介在させる。研磨用テープ131は、上部,下部各アーム67,69の図11中で左右両端に設けたローラ保持ブラケット137,139の上端部,下端部にそれぞれ設けたテープ保持部133,135に端部を保持させ、途中位置で、ローラ保持ブラケット137,139の下端部,上端部にそれぞれ設けたガイドローラ141,143に掛け渡して加圧シュー127,129相互間に延出させる。
【0078】
また、加圧シュー127,129とガイドロッド89との間にも、ガイドローラ145,147を設け、上記加圧シュー127,129相互間に延出させた研磨用テープ131を、このガイドローラ145,147に掛け渡す。ガイドローラ145,147は、上部,下部各アーム67,69に対し、それぞれスプリングなどによってその位置が互いに接近離反する方向に移動可能となっている。
【0079】
上記図11に示した第5の実施形態においても、図7,図8に示したフィレットロール加工と同様に、上部,下部各アーム67,69からなるアーム機構部104の旋回運動の際には、懸架シリンダ93が、アーム機構部104に対してその自重による重力方向の荷重を打ち消す方向に動作するので、アーム機構部104の見かけ上の重量を低減させ、ピン部3a,5aに作用する遠心力・慣性力を低減する。これにより、荷重シリンダ78によるピン部3a,5aに対する荷重付与の安定化や加工の高速化、あるいはクランクシャフト3,5の変形を防止することができる。
【0080】
そして、この第5の実施形態においても、前記図7,図8に示した第3の実施形態と同様に、一対の上部,下部各アーム67,69で複数のクランクシャフト3,5を挟持してその複数のクランクシャフトに対して研磨加工するので、加工効率が高まり、特に大量生産を行う場合には有効である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わるクランクシャフトの研磨加工装置を示す平面図である。
【図2】図1のA矢視図である。
【図3】図2に対し、一対のクランプアームを開放した状態を示す動作説明図である。
【図4】図2の一部を拡大して示す断面図である。
【図5】クランクシャフトの回転に伴うクランプ機構の旋回状態を示す動作説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係わるクランクシャフトの研磨加工装置を示す、図2に対応する図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係わるクランクシャフトのフィレットロール加工装置を示す正面図である。
【図8】図7の実施形態による加工動作説明図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係わるクランクシャフトのフィレットロール加工装置を示す正面図である。
【図10】図9のサーボシリンダに代えてサーボモータを使用した例を示す正面図である。
【図11】図7,図8によるフィレットロール加工装置を、図1〜図6における研磨加工装置に適用した第5の実施形態を示す正面図である。
【符号の説明】
【0082】
1,3,5 クランクシャフト
1a,3a,5a ピン部(被加工部)
1c,3c,5c ジャーナル部(被加工部)
9,11,90,110 クランプアーム
21,23 加圧シュー(押圧部材,挟持部)
33,131 研磨用テープ
67 上部アーム(クランプアーム)
69 下部アーム(クランプアーム)
78 荷重シリンダ(荷重付与手段)
93 懸架シリンダ(懸架手段)
107 サーボシリンダ(懸架手段,サーボ機構)
121 サーボモータ(懸架手段,サーボ機構)
127,129 加圧シュー(挟持部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトのピン部またはジャーナル部からなる被加工部を、一対のクランプアームで挟持しつつ前記クランクシャフトの回転に伴い加工するクランクシャフトの加工方法において、前記クランクシャフトを複数平行に並列配置し、この複数のクランクシャフトの互いに対応する位置にあるそれぞれの被加工部を、前記一対のクランプアームの挟持部でそれぞれ挟持した状態で、前記複数のクランクシャフトのそれぞれの被加工部に対して同時に加工することを特徴とするクランクシャフトの加工方法。
【請求項2】
前記クランプアームの前記被加工部に対する挟持面と前記被加工部との間に研磨用テープを介在させ、この研磨用テープを前記被加工部に対して相対移動させることで被加工部を研磨加工することを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフトの加工方法。
【請求項3】
前記一対のクランプアームの前記被加工部に対応する部位に、前記クランプアームから前記被加工部に向けて移動可能となる押圧部材を設け、この押圧部材と前記クランプアームとの間に作動流体を供給して前記押圧部材を前記被加工部に向けて押圧し、前記押圧部材と前記被加工部との間に介在させている前記研磨用テープを前記被加工部に押しつけて研磨加工することを特徴とする請求項2に記載のクランクシャフトの加工方法。
【請求項4】
前記作動流体と前記押圧部材との間に弾性部材を設けたとことを特徴とする請求項3に記載のクランクシャフトの加工方法。
【請求項5】
前記被加工部の軸方向両端の隅部にローラを押し付けてローリング加工することを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフトの加工方法。
【請求項6】
前記一対のクランプアームを、互いにほぼ平行な状態で一対のガイド部に沿って接近離反移動可能に設けるとともに、前記一対のガイド部相互間に設けた荷重付与手段により、前記一対のクランプアームを互いに接近する方向に移動させて、前記被加工部に荷重を付与することを特徴とする請求項1,2または5に記載のクランクシャフトの加工方法。
【請求項7】
前記一対のクランプアームを鉛直方向上部に位置する上部アームと同下部に位置する下部アームとで構成し、前記上部アームを、これら上部,下部各アームを有するアーム機構部の自重による重力方向の荷重を打ち消す方向に荷重を付与する懸架手段で支持することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のクランクシャフトの加工方法。
【請求項8】
前記懸架手段による前記上部アームの支持を、サーボ機構を用いて行うことを特徴とする請求項7に記載のクランクシャフトの加工方法。
【請求項9】
前記複数のクランクシャフトをその各ジャーナル部を中心として回転可能に支持するとともに、前記複数のクランクシャフトの互いに対応する位置にあるそれぞれのピン部を、前記一対のクランプアームで挟持した状態で、前記複数のクランクシャフトの内の1本を、そのジャーナル部を中心として回転させることで、前記各ピン部とともに前記一対のクランプアームを旋回運動させることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のクランクシャフトの加工方法。
【請求項10】
前記ジャーナル部を中心として回転させるクランクシャフトは、互いに並列配置した少なくとも3本のクランクシャフトの中心側に位置していることを特徴とする請求項9に記載のクランクシャフトの加工方法。
【請求項11】
前記ジャーナル部を中心として回転させるクランクシャフトに対し、その長手方向両端の中心を回転支持した状態で、前記長手方向両端の中心から半径方向外側部位を支持して回転させることを特徴とする請求項9または10に記載のクランクシャフトの加工方法。
【請求項12】
クランクシャフトのピン部またはジャーナル部からなる被加工部を、一対のクランプアームで挟持しつつ前記クランクシャフトの回転に伴い加工するクランクシャフトの加工装置において、前記クランクシャフトを複数平行に並列配置し、この複数のクランクシャフトの互いに対応する位置にあるそれぞれの被加工部を、挟持部によってそれぞれ挟持する一対のクランプアームを備えていることを特徴とするクランクシャフトの加工装置。
【請求項13】
前記クランプアームの前記被加工部に対する挟持面と前記被加工部との間に研磨用テープを介在させ、この研磨用テープを前記被加工部に対して相対移動させることで被加工部を研磨加工することを特徴とする請求項12に記載のクランクシャフトの加工装置。
【請求項14】
前記被加工部の軸方向両端の隅部にローラを押し付けてローリング加工することを特徴とする請求項12に記載のクランクシャフトの加工装置。
【請求項15】
前記一対のクランプアームを、互いにほぼ平行な状態で一対のガイド部に沿って接近離反移動可能に設けるとともに、前記一対のガイド部相互間に、前記一対のクランプアームを互いに接近する方向に移動させて前記被加工部に荷重を付与する荷重付与手段を設けたことを特徴とする請求項12ないし14のいずれか1項に記載のクランクシャフトの加工装置。
【請求項16】
前記一対のクランプアームを鉛直方向上部に位置する上部アームと同下部に位置する下部アームとで構成し、前記上部アームを、これら上部,下部各アームを有するアーム機構部の自重による重力方向の荷重を打ち消す方向に荷重を付与する懸架手段を設けたことを特徴とする請求項12ないし15のいずれか1項に記載のクランクシャフトの加工装置。
【請求項17】
前記懸架手段による前記上部アームの支持を、サーボ機構を用いて行うことを特徴とする請求項16に記載のクランクシャフトの加工装置。
【請求項18】
前記複数のクランクシャフトをその各ジャーナル部を中心として回転可能に支持する回転支持部を設けるとともに、前記複数のクランクシャフトの互いに対応する位置にあるそれぞれのピン部を、前記一対のクランプアームで挟持した状態で、前記複数のクランクシャフトの内の1本を、そのジャーナル部を中心として回転させることで、前記各ピン部とともに前記一対のクランプアームを旋回運動させる回転駆動部を設けたことを特徴とする請求項12ないし17のいずれか1項に記載のクランクシャフトの加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−315168(P2006−315168A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349510(P2005−349510)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】