説明

クランクシャフトの製造方法及び装置

【課題】トリミングによるクランクシャフトの回転バランスの変化を抑制することが可能なクランクシャフトの製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】第1バリ抜きステップにより発生した区画B1のカウンタウェイト3C/W〜6C/Wのバランスの移動に起因してクランクシャフト1の回転時に生じる力F1を、第2バリ抜きステップにより発生した区画B2のカウンタウェイト1C/W、2C/W及び区画B3のカウンタウェイト7C/W、8C/Wのバランスの移動に起因してクランクシャフト1の回転時に生じる力F2によって相殺する。これにより、クランクシャフト1全体の回転バランスを確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトの製造方法及び装置に関し、特に、鍛造によって成形されたクランクシャフトをトリミングする方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鍛造クランクシャフトは、ビレットから既定長さの素材を切り出す切断工程、切り出された素材を既定温度に加熱する加熱工程、加熱された素材を予備成形する予備成形工程、予備成形された素材をクランクシャフト形状に成形する成形工程、成形品をトリミングしてクランクシャフト素地を取り出すトリミング工程、及び、クランクシャフト素地に熱処理(調質)及び表面処理(ショットブラスト)を施す後処理工程、を経て製造されるものが知られている。トリミング工程では、成形工程によって得られた成形品のバリ、すなわち、クランクシャフトの輪郭に沿って形成されたバリが、トリミング型によって除去される。周知のトリミング型には、クランクシャフトの輪郭に切欠かれて周縁に切刃が形成された抜き穴を有する下型と、バリが下型の切刃上に載った状態で下型にセットされたクランクシャフト(成形品)に宛がわれてクランクシャフトを下方へ押し込む上型とを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。このようなトリミング型では、下型にセットされたクランクシャフトを上型によって下方へ押し込むことで、バリ抜き、すなわち、クランクシャフトの輪郭に沿って形成されたバリが下型の切刃によって除去される。
【0003】
ところで、成形工程で使用される金型(鍛造型)の摩耗の度合が大きくなるのに伴い、クランクシャフトとクランクシャフトの輪郭に沿って形成されたバリとの稜部に形成される内R形状の半径が大きくなる。その結果、トリミング型の切刃とクランクシャフトとの間に作用するトリミング抵抗が増大して、クランクシャフトに、各カウンタウェイトにおける外周側の膨らみ及び下型側のひけに起因する上下方向(バリ抜き方向)の潰れが発生し、クランクシャフトのバランスが上型側へ移動する。このようなバランスの移動を修正するために、従来、機械加工によってカウンタウェイトを切削することが行われていたが、予めカウンタウェイトに切削代を設定しておく必要があることから、クランクシャフトの材料コストが増大する。さらに、機械加工による工数の増加に伴い、製造コストが増大する。また、測定によって得られたクランクシャフトのマスバランスに基づき、クランクシャフトのセンタ穴(加工基準穴)をずらす手法もあるが、マスバランス測定装置が必要となり設備費が増大するのに加え、測定に時間が掛かり工数が増大する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−273541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、トリミングによるカウンタウェイトのバランスの移動に起因するクランクシャフトの回転バランスの変化を抑制することが可能なクランクシャフトの製造方法及び装置を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のクランクシャフトの製造方法は、鍛造クランクシャフトの輪郭に沿って形成されたバリをトリミング型によってバリ抜きして除去するトリミング工程を含むクランクシャフトの製造方法であって、前記クランクシャフトを該クランクシャフトの軸線方向へ複数の区画に分画しておいて、前記トリミング工程は、前記複数の区画のうち、選択された少なくとも1つの区画のバリを除去する第1バリ抜きステップと、第1バリ抜きステップの完了後、残りの区画のバリを、第1バリ抜きステップによるバリ抜き方向に対して反対方向にバリ抜きして除去する第2バリ抜きステップと、を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明のクランクシャフトの製造装置は、鍛造クランクシャフトの輪郭に沿って形成されたバリをトリミング型によってバリ抜きして除去するトリミング工程で使用されるクランクシャフトの製造装置であって、前記クランクシャフトを該クランクシャフトの軸線方向へ複数の区画に分画しておいて、前記複数の区画のうち、選択された少なくとも1つの区画のバリを除去する第1トリミング型と、残りの区画のバリを、第1トリミング型によるバリ抜き方向に対して反対方向にバリ抜きして除去する第2トリミング型と、を含むことを特徴とする。
【0008】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、請求可能発明と称する)の態様を例示し、例示された各態様について説明する。ここでは、各態様を、特許請求の範囲と同様に、項に区分すると共に各項に番号を付し、必要に応じて他の項の記載を引用する形式で記載する。これは、請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載、実施形態の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得る。
なお、以下の各項において、(1)〜(7)項の各々が、請求項1〜7の各々に相当する。
【0009】
(1)鍛造クランクシャフトの輪郭に沿って形成されたバリをトリミング型によってバリ抜きして除去するトリミング工程を含むクランクシャフトの製造方法であって、クランクシャフトを該クランクシャフトの軸線方向へ複数の区画に分画しておいて、トリミング工程は、複数の区画のうち、選択された少なくとも1つの区画のバリを除去する第1バリ抜きステップと、第1バリ抜きステップの完了後、残りの区画のバリを、第1バリ抜きステップによるバリ抜き方向に対して反対方向にバリ抜きして除去する第2バリ抜きステップと、を含むことを特徴とするクランクシャフトの製造方法。
成形工程で使用される金型(鍛造型)の摩耗の度合が大きくなるのに伴い、クランクシャフトとクランクシャフトの輪郭に沿って形成されたバリとの稜部に形成される内R形状の半径が大きくなる。その結果、トリミング時にトリミング型の切刃とクランクシャフトとの間に作用するトリミング抵抗が増大してクランクシャフトに上下方向(バリ抜き方向)の潰れが発生し、クランクシャフトのバランスが上型側へ移動する。
本項に記載のクランクシャフトの製造方法によれば、第1バリ抜きステップで発生したクランクシャフトのバランスの移動に起因して発生する回転時の力が、第2バリ抜きステップで発生したクランクシャフトのバランスの移動に起因して発生する回転時の力により相殺されるように、第1バリ抜きステップでバリ抜きする区画と第2バリ抜きステップでバリ抜きする区画とを選択することにより、クランクシャフト全体として、回転バランスを確保することができる。これにより、機械加工によるバランスの修正、マスバランス測定装置によるマスバランスの測定の必要がなくなり、工数を削減することができる。また、機械加工のための切削代を設ける必要がないので、クランクシャフトの素材を軽量化することができる。さらに、マスバランス測定装置が不要となり、設備費を削減することができる。結果として、クランクシャフトの製造コストを低減することができる。
【0010】
(2)トリミング工程の各バリ抜きステップでバリが除去される区画のカウンタウェイトは、クランクシャフトの入力側と出力側とで軸線方向に対称に配置される(1)のクランクシャフトの製造方法。
本項に記載のクランクシャフトの製造方法によれば、例えば、クランクシャフトを該クランクシャフトの軸線方向に、中央の区画とその両側(入力側及び出力側)の区画との3つの区画に分画しておいて、第1バリ抜きステップで中央の区画のバリを除去して、第2バリ抜きステップでその両側の区画のバリを第1バリ抜きステップによるバリ抜き方向に対して反対方向にバリ抜きして除去することにより、第1バリ抜きステップでのバリ抜きによる軸線方向中央のバランスの移動に起因して発生する回転時の力を、その移動と反対方向の第2バリ抜きステップでのバリ抜きによる軸線方向両側のバランスの移動に起因して発生する回転時の力によって効果的に相殺することができる。これにより、クランクシャフト全体の回転バランスを確保することができる。
【0011】
(3)第1バリ抜きステップでバリが除去される区画のカウンタウェイトの数量と第2バリ抜きステップでバリが除去される区画のカウンタウェイトの数量とが同数である(1)、(2)のクランクシャフトの製造方法。
本項に記載のクランクシャフトの製造方法によれば、例えば、直列4気筒エンジンのクランクシャフトの8個のカウンタウェイトを入力側から出力側へ順に1C/W〜8C/Wとして、クランクシャフトを該クランクシャフトの軸線方向に、3C/W〜6C/Wを含む中央の区画と、その両側(入力側及び出力側)の区画、すなわち、1C/W、2C/Wを含む入力側の区画と7C/W、8C/Wを含む出力側の区画と、の3つの区画に分画しておいて、第1バリ抜きステップで中央の区画のバリを除去して、第2バリ抜きステップでその両側の区画のバリを第1バリ抜きステップによるバリ抜き方向に対して反対方向にバリ抜きして除去することにより、第1バリ抜きステップでのバリ抜きによる3C/W〜6C/Wのバランスの移動に起因して発生する回転時の力を、第2バリ抜きステップでのバリ抜きによる1C/W、2C/Wと7C/W、8C/Wとのバランスの移動に起因して発生する回転時の力によって効果的に相殺することができる。これにより、クランクシャフト全体の回転バランスを確保することができる。
【0012】
(4)第1バリ抜きステップと第2バリ抜きステップとの間にクランクシャフトを軸線回りに反転させるステップを含む(1)〜(3)のクランクシャフトの製造方法。
本項に記載のクランクシャフトの製造方法によれば、第1バリ抜きステップで下型にセットされたクランクシャフトを上型によって下方へ押し込むことで対応する区画のバリを除去して、クランクシャフトを反転させた後、第1バリ抜きステップで下型にセットされたクランクシャフトを上型によって下方へ押し込むことで対応する区画のバリを除去する。これにより、第1バリ抜きステップと第2バリ抜きステップとで、金型の動作を変えずにバリ抜き方向を反対方向にすることができる。
【0013】
(5)鍛造クランクシャフトの輪郭に沿って形成されたバリをトリミング型によってバリ抜きして除去するトリミング工程で使用されるクランクシャフトの製造装置であって、クランクシャフトを該クランクシャフトの軸線方向へ複数の区画に分画しておいて、複数の区画のうち、選択された少なくとも1つの区画のバリを除去する第1トリミング型と、第1トリミング型でバリが除去されない区画のバリを、第1トリミング型によるバリ抜き方向に対して反対方向にバリ抜きして除去する第2トリミング型と、を含むことを特徴とするクランクシャフトの製造装置。
成形工程で使用される金型(鍛造型)の摩耗の度合が大きくなるのに伴い、クランクシャフトとクランクシャフトの輪郭に沿って形成されたバリとの稜部に形成される内R形状の半径が大きくなる。その結果、トリミング時にトリミング型の切刃とクランクシャフトとの間に作用するトリミング抵抗が増大してクランクシャフトに上下方向(バリ抜き方向)の潰れが発生し、クランクシャフトのバランスが上型側へ移動する。
本項に記載のクランクシャフトの製造装置によれば、第1トリミング型によるバリ抜きで発生したクランクシャフトのバランスの移動に起因して発生する回転時の力が、第2トリミング型によるバリ抜きで発生したクランクシャフトのバランスの移動に起因して発生する回転時の力により相殺されるように、第1トリミング型でバリ抜きする区画と第2トリミング型でバリ抜きする区画とを選択することにより、クランクシャフト全体として、回転バランスを確保することができる。これにより、機械加工によるバランスの修正、マスバランス測定装置によるマスバランスの測定の必要がなくなり、工数を削減することができる。また、機械加工のための切削代を設ける必要がないので、クランクシャフトの素材を軽量化することができる。さらに、マスバランス測定装置が不要となり、設備費を削減することができる。結果として、クランクシャフトの製造コストを低減することができる。
【0014】
(6)第1トリミング型及び第2トリミング型は、カウンタウェイトの輪郭に沿って形成される切刃が、クランクシャフトの入力側と出力側とで軸線方向に対称に配置される(5)のクランクシャフトの製造装置。
本項に記載のクランクシャフトの製造装置によれば、例えば、クランクシャフトを該クランクシャフトの軸線方向に、中央の区画とその両側(入力側及び出力側)の区画との3つの区画に分画しておいて、第1トリミング型で中央の区画のバリを除去して、第2トリミング型でその両側の区画のバリを第1トリミング型によるバリ抜き方向に対して反対方向にバリ抜きして除去することにより、第1トリミング型でのバリ抜きによる軸線方向中央のバランスの移動に起因して発生する回転時の力を、その移動と反対方向の第2トリミング型でのバリ抜きによる軸線方向両側のバランスの移動に起因して発生する回転時の力によって効果的に相殺することができる。これにより、クランクシャフト全体の回転バランスを確保することができる。
【0015】
(7)第1トリミング型でバリが除去される区画のカウンタウェイトの数量と第2トリミング型でバリが除去される区画のカウンタウェイトの数量とが同数である(5)又は(6)のクランクシャフトの製造装置。
本項に記載のクランクシャフトの製造装置によれば、例えば、直列4気筒エンジンのクランクシャフトの8個のカウンタウェイトを入力側から出力側へ順に1C/W〜8C/Wとして、クランクシャフトを該クランクシャフトの軸線方向に、3C/W〜6C/Wを含む中央の区画と、その両側(入力側及び出力側)の区画、すなわち、1C/W、2C/Wを含む入力側の区画と7C/W、8C/Wを含む出力側の区画と、の3つの区画に分画しておいて、第1トリミング型で中央の区画のバリを除去して、第2トリミング型でその両側の区画のバリを第1トリミング型によるバリ抜き方向に対して反対方向にバリ抜きして除去することにより、第1トリミング型でのバリ抜きによる3C/W〜6C/Wのバランスの移動に起因して発生する回転時の力を、第2トリミング型でのバリ抜きによる1C/W、2C/Wと7C/W、8C/Wとのバランスの移動に起因して発生する回転時の力によって効果的に相殺することができる。これにより、クランクシャフト全体の回転バランスを確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
トリミングによる鍛造クランクシャフトのカウンタウェイトのバランスの移動に起因して発生する回転時の力をカウンタウェイト間で相殺してクランクシャフトの回転バランスを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の製造方法によるクランクシャフトの各製造工程を示す図である。
【図2】本実施形態の製造方法及び装置により製造されたクランクシャフトの回転バランスを示すクランクシャフトの斜視図である。
【図3】本実施形態の説明図であって、第1バリ抜きステップで発生したカウンタウェイトのバランスの移動に起因して発生する回転時の力(アンバランス)が、第2バリ抜きステップで発生したカウンタウェイトのバランスの移動に起因して発生する回転時の力によって相殺されることを説明するための図である。
【図4】第1トリミング型の概略構造を説明するための図である。
【図5】第2トリミング型の概略構造を説明するための図である。
【図6】周知のトリミング型の概略構造を説明するための図である。
【図7】本実施形態の説明図であって、クランクシャフトの区画B1〜B3を示す図である。
【図8】本実施形態の説明図であって、第1バリ抜きステップにおけるカウンタウェイトのバランスの移動を説明するための図である。
【図9】本実施形態の説明図であって、第2バリ抜きステップにおけるカウンタウェイトのバランスの移動を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態を添付した図を参照して説明する。本実施形態では、直列4気筒エンジンに組み込まれる鍛造クランクシャフト1(図2参照)の製造方法及び装置を説明する。なお、説明の便宜上、図2に示されるように、クランクシャフト1の8個のカウンタウェイトを入力側(図2における左側)から出力側(図2における右側)へ順に1C/W〜8C/Wと定義する。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態の鍛造クランクシャフト1の製造工程は、ビレットから既定長さの素材を切り出す切断工程、切り出された素材を既定温度に加熱する加熱工程、加熱された素材を予備成形する予備成形工程、予備成形された素材を荒地成形と仕上げ成形との段階的な成形(鍛造)によってクランクシャフト1の形状に成形する成形工程、成形品をトリミングしてクランクシャフト1の素地を取り出すトリミング工程、及び、クランクシャフト1の素地に熱処理(調質)及び表面処理(ショットブラスト)を施す後処理工程によって構成されている。そして、トリミング工程では、成形品のバリ2、すなわち、鍛造型の型割面にクランクシャフト1の輪郭(鍛造型の型割面とクランクシャフト表面との交線)に沿って形成されたバリ2が、図4に示される第1トリミング型3と図5に示される第2トリミング型4とによる2つのバリ抜き工程によって除去される。
【0020】
ここで、第1トリミング型3及び第2トリミング型4の構造の理解を容易にするため、図6に示される周知のトリミング型5を説明する。このトリミング型5は、クランクシャフト1の輪郭に切欠かれて周縁に切刃6が形成された抜き穴7を有する下型8と、平面視で(上から見て)クランクシャフト1の輪郭に沿うように形成されて下型8にセットされたクランクシャフト1(成形品)に宛がわれる上型9とによって構成されている。そして、周知のトリミング型5を使用したトリミング工程では、バリ2が切刃6上に載った状態で下型8にセットされたクランクシャフト1を、上型9によって下方(図6における下方向)へ押し込むことにより、バリ抜き、すなわち、クランクシャフト1の輪郭に沿って形成されたバリ2が下型8の切刃6によって除去される。
【0021】
本実施形態では、図7に示されるように、予め、クランクシャフト1(成形品)を該クランクシャフト1の軸線方向(図7における左右方向、以下、単に軸線方向という)に、3C/W〜6C/Wを含む中央の区画B1と、その両側(入力側及び出力側)の区画、すなわち、1C/W、2C/Wを含む入力側(図7における左側)の区画B2と、7C/W、8C/Wを含む出力側(図7における右側)の区画B3と、の3つの区画B1〜B3に分画しておく。なお、区画B1と区画B2とは、ジャーナル12を軸線方向へ2分割する軸直角平面によって分画され、同様に、区画B1と区画B3とは、ジャーナル13を軸線方向へ2分割する軸直角平面によって分画される。
【0022】
一方、第1トリミング型3は、クランクシャフト1の区画B1のバリ2を除去するように構成されている。すなわち、図4に示されるように、第1トリミング型3の軸方向中央部分の形状は、周知のトリミング型5の中央部分の形状に一致している。言い換えると、第1トリミング型3の下型10は、区画B2及び区画B3(入力側及び出力側)に対応する部分が所定の厚さの底部を残して取り除かれたように形成されており、これに対応して、第1トリミング型3の上型11は、区画B1に対応する部分の形状が周知のトリミング型5の区画B1に対応する部分の形状に一致しているが、区画B2及び区画B3に対応する部分の形状が、クランクシャフト1の輪郭に沿うように形成する必要がないため平面視で矩形に形成されている。なお、第1トリミング型3の上型11の、クランクシャフト1の区画B2及び区画B3に対応する部分に宛がわれる面は、上型9同様、クランクシャフト1の形状に対応するように形成されている。
【0023】
他方、第2トリミング型4は、クランクシャフト1の区画B2及び区画B3(入力側及び出力側)のバリ2を、第1トリミング型3のバリ抜き方向に対して反対方向にバリ抜きして除去するように構成されている。すなわち、図6に示される周知のトリミング型5に対して、クランクシャフト1を軸線回りに反転(180°回転)させた状態でバリ抜きを行うトリミング型5´(図示省略)を仮定すると、図5に示されるように、第2トリミング型4の軸方向両側部分の形状は、周知のトリミング型5を反転させたトリミング型5´の軸方向両側部分の形状に一致している。言い換えると、第2トリミング型4の下型14は、区画B1に対応する部分(中央部分)が所定の厚さの底部を残して取り除かれたように形成されており、これに対応して、第2トリミング型4の上型15は、区画B2及び区画B3に対応する部分の形状が、周知のトリミング型5を反転させたトリミング型5´の区画B2及び区画B3に対応する部分(入力側及び出力側)の形状に一致しているが、区画B1に対応する部分の形状が、クランクシャフト1の輪郭に沿うように形成する必要がないため平面視で矩形に形成されている。なお、第2トリミング型4の上型15の、クランクシャフト1の区画B1に対応する部分に宛がわれる面は、周知のトリミング型5を反転させたトリミング型5´の上型9´(図示省略)同様、クランクシャフト1の形状に対応するように形成されている。
【0024】
次に、本実施形態の作用を説明する。なお、トリミング工程を除く各製造工程は周知のクランクシャフト1の製造工程と同一であるので、ここでは、トリミング工程のみを説明する。
まず、第1バリ抜きステップでは、第1トリミング型3によって、クランクシャフト1の区画B1のバリ2が除去される。これにより、区画B1のカウンタウェイト3C/W〜6C/Wのバランスは、図8に示されるように、外周側の膨らみ及び第1トリミング型3の下型10側のひけに起因して第1トリミング型3の上型11側(図8における右斜め上方)へ移動する。第1バリ抜きステップの完了後、クランクシャフト1を軸線回りに反転(180°回転)させる。なお、クランクシャフト1の反転は、ロボット等のマテリアルハンドによって行うことができる。
【0025】
クランクシャフト1を反転させた後、第2バリ抜きステップでは、第2トリミング型4によって、残りの区画、すなわち、区画B2及び区画B3のバリ2が除去される。これにより、区画B2のカウンタウェイト1C/W、2C/W及び区画B3のカウンタウェイト7C/W、8C/Wのバランスは、図9に示されるように、外周側の膨らみ及び第2トリミング型4の下型14側のひけに起因して、第2トリミング型4の上型15側、言い換えると、第1トリミング型3の下型10側(図9における左斜め上方向)へ移動する。
【0026】
そして、図2及び図3から理解できるように、本実施形態では、第1バリ抜きステップにより発生した区画B1のカウンタウェイト3C/W〜6C/Wのバランスの移動に起因してクランクシャフト1の回転時に発生する力F1を、第2バリ抜きステップにより発生した区画B2のカウンタウェイト1C/W、2C/W及び区画B3のカウンタウェイト7C/W、8C/Wのバランスの移動に起因してクランクシャフト1の回転時に発生する力F2によって相殺することにより、クランクシャフト1全体として、回転バランスを確保することができる。
【0027】
本実施形態では以下の効果を奏する。
本実施形態によれば、クランクシャフト1を軸線方向へ複数の区画に分画しておいて、第1バリ抜きステップで、カウンタウェイト3C/W〜6C/Wを含む区画B1のバリ2を第1トリミング型3によって除去して、クランクシャフト1を軸線回りに180°反転させた後、第2バリ抜きステップで、カウンタウェイト1C/W、2C/Wを含む区画B2及びカウンタウェイト7C/W、8C/Wを含む区画B3のバリ2を第2トリミング型4によって除去したので、第1バリ抜きステップにより発生した区画B1のカウンタウェイト3C/W〜6C/Wのバランスの移動に起因してクランクシャフト1の回転時に生じる力F1を、第2バリ抜きステップにより発生した区画B2のカウンタウェイト1C/W、2C/W及び区画B3のカウンタウェイト7C/W、8C/Wのバランスの移動に起因してクランクシャフト1の回転時に生じる力F2によって相殺することができ、結果として、クランクシャフト1全体の回転バランスを確保することができる。
これにより、従来行われていた機械加工によるバランスの修正、マスバランス測定装置によるマスバランスの測定等の必要がなくなり、工数を削減することができる。また、機械加工のための切削代を設ける必要がないので、クランクシャフト1の素材を軽量化することができる。さらに、マスバランス測定装置が不要となり、設備費を削減することができる。結果として、クランクシャフト1の製造コストを低減することができる。
【0028】
なお、本実施形態は上記に限定されるものではなく、例えば次のように構成することができる。
本実施形態では、直列4気筒エンジンの鍛造クランクシャフト1を挙げて説明したが、各バリ抜きステップでバリ2が除去される区画のカウンタウェイトが、クランクシャフト1の入力側と出力側とで軸線方向に対称に配置されて、且つ、第1バリ抜きステップでバリ2が除去される区画のカウンタウェイトの数量と第2バリ抜きステップでバリ2が除去される区画のカウンタウェイトの数量とが同数であれば、他の型式のエンジンのクランクシャフト1にも適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 クランクシャフト、2 バリ、3 第1トリミング型、4 第2トリミング型、6 切刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造クランクシャフトの輪郭に沿って形成されたバリをトリミング型によってバリ抜きして除去するトリミング工程を含むクランクシャフトの製造方法であって、
前記クランクシャフトを該クランクシャフトの軸線方向へ複数の区画に分画しておいて、
前記トリミング工程は、
前記複数の区画のうち、選択された少なくとも1つの区画のバリを除去する第1バリ抜きステップと、
第1バリ抜きステップの完了後、残りの区画のバリを、第1バリ抜きステップによるバリ抜き方向に対して反対方向にバリ抜きして除去する第2バリ抜きステップと、
を含むことを特徴とするクランクシャフトの製造方法。
【請求項2】
前記トリミング工程の各バリ抜きステップでバリが除去される区画のカウンタウェイトは、前記クランクシャフトの入力側と出力側とで前記軸線方向に対称に配置されることを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフトの製造方法。
【請求項3】
前記第1バリ抜きステップでバリが除去される区画の前記カウンタウェイトの数量と前記第2バリ抜きステップでバリが除去される区画の前記カウンタウェイトの数量とが同数であることを特徴とする請求項1又は2に記載のクランクシャフトの製造方法。
【請求項4】
前記第1バリ抜きステップと前記第2バリ抜きステップとの間に前記クランクシャフトを軸線回りに反転させるステップを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクランクシャフトの製造方法。
【請求項5】
鍛造クランクシャフトの輪郭に沿って形成されたバリをトリミング型によってバリ抜きして除去するトリミング工程で使用されるクランクシャフトの製造装置であって、
前記クランクシャフトを該クランクシャフトの軸線方向へ複数の区画に分画しておいて、
前記複数の区画のうち、選択された少なくとも1つの区画のバリを除去する第1トリミング型と、
残りの区画のバリを、第1トリミング型によるバリ抜き方向に対して反対方向にバリ抜きして除去する第2トリミング型と、
を含むことを特徴とするクランクシャフトの製造装置。
【請求項6】
前記第1トリミング型及び前記第2トリミング型は、カウンタウェイトの輪郭に沿って形成される切刃が、前記クランクシャフトの入力側と出力側とで前記軸線方向に対称に配置されることを特徴とする請求項5に記載のクランクシャフトの製造装置。
【請求項7】
前記第1トリミング型でバリが除去される区画の前記カウンタウェイトの数量と前記第2トリミング型でバリが除去される区画の前記カウンタウェイトの数量とが同数であることを特徴とする請求項5又は6に記載のクランクシャフトの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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