説明

クランプ

【課題】ワイヤハーネスなどをボデーパネルに取り付けている各クランプを、個々の抵抗荷重のみに対処することで外すことを可能とし、ワイヤハーネスなどを短時間で簡単に回収可能とする。
【解決手段】ワイヤハーネスなどの被保持部材を保持することができるホルダー22と、ボデーパネルなどの相手側部材に開けられた取付け孔に挿入されるアンカー12とを備えたクランプであって、アンカー12の基部とホルダー22とは、弾性によって撓むことができるダンパー部24を通じて結合されている。このダンパー部24におけるアンカー側の接合端とホルダー側の接合端との間の寸法が1.5〜5.0mmの範囲内に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスなどの被保持部材を保持した状態で車両のボデーパネルなどに装着するためのクランプに関し、特にワイヤハーネスなどのリサイクルに適したクランプに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のクランプは、ワイヤハーネスなどを適宜の手段で保持するためのホルダーと、車両のボデーパネルなどに開けられた取付け孔に挿入されるアンカーとが樹脂によって一体に成形されている。そこでホルダーにワイヤハーネスなどを保持した状態で、アンカーを取付け孔に挿入することにより、該取付け孔の縁にアンカーの一部が係止し、クランプを通じてワイヤハーネスなどがボデーパネルなどに装着される。
【0003】
このようにクランプには、ワイヤハーネスなどをボデーパネルなどに適正に装着しておくための所定の保持力が必要である。しかし、その一方では車両のリサイクルに際してワイヤハーネスなどを回収するには、クランプをボデーパネル側から外す必要がある。そしてワイヤハーネスの場合、その長さ方向に関する複数箇所が個々のクランプによってボデーパネルに取り付けられている。
なお、この種のクランプの一般的な技術としては、例えば特許文献1に開示されているワイヤハーネスなどの留め具に関する技術が公知である。
【特許文献1】特開平9−217864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リサイクルに際してワイヤハーネスを回収するために引っ張り荷重をかけたとき、このワイヤハーネスをボデーパネルに取り付けている各クリップの間におけるワイヤハーネスに余分な長さがないとき、一つ目のクランプと他のクランプとの引っ張り荷重に対する個々の保持力(抵抗荷重)のピークがほとんど重なってしまう。つまり、一つ目のクランプの抵抗荷重に他のクランプの抵抗荷重が加算され、ワイヤハーネスを作業者が手で引っ張った程度ではクランプを外すことができない。そこで、やむなくワイヤハーネスが配線されている箇所のシートなどを取り除いた後、所定の工具を使ってクランプを一つずつ外しており、ワイヤハーネスの回収作業に多くの時間を費やしている。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、ワイヤハーネスなどをボデーパネルに取り付けている各クランプを、個々の抵抗荷重のみに対処することで外すことを可能とし、ワイヤハーネスなどを短時間で簡単に回収可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
請求項1に記載の発明は、ワイヤハーネスなどの被保持部材を保持することができるホルダーと、ボデーパネルなどの相手側部材に開けられた取付け孔に挿入されるアンカーとを備え、ホルダーに被保持部材を保持した状態でアンカーを相手側部材の取付け孔に挿入することにより、被保持部材を相手側部材に装着することができるクランプであって、アンカーの基部とホルダーとは、弾性によって撓むことができるダンパー部を通じて結合されている。このダンパー部におけるアンカー側の接合端とホルダー側の接合端との間の寸法が1.5〜5.0mmの範囲内に設定されている。
【0007】
このように構成されたクランプを複数用いてワイヤハーネスにおける長さ方向の複数箇をボデーパネルに取り付けている場合に、このワイヤハーネスを回収する際の引っ張り荷重が一つ目のクランプに作用したとき、他のクランプに対する引っ張り荷重は個々のダンパー部の撓みによって吸収される。すなわち、引っ張り荷重に対する各クランプの保持力(抵抗荷重)のピークが個々にずれることとなり、各クランプを個々の抵抗荷重のみに対処することで順次外すことができる。したがって、作業者がワイヤハーネスを手で引っ張るだけでボデーパネルから外すことができ、ワイヤハーネスを短時間で簡単に回収することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載されたクランプであって、ダンパー部は、アンカーとホルダーとの間に所定値以上の引っ張り荷重が作用したときに切断されるような肉厚に設定されている。
【0009】
この構成によれば、ワイヤハーネスを回収する際のクランプに作用する引っ張り荷重に基づき、クランプのダンパー部が撓んで荷重を吸収した後に切断されるといった一連の機能を果たすことでクランプが実質的にボデーパネルから取り外される。このため、ワイヤハーネスを引っ張ったときの各クリップにおける抵抗荷重のバラツキが少なく、作業性がより向上する。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載されたクランプであって、アンカーの基部とホルダーとの少なくとも一方に、他方に向けて突出した当接部が設けられている。この当接部は、アンカーの基部とホルダーとの間に作用する圧縮荷重に対してダンパー部が弾性変形した後の剛性を保持するように設定されている。
【0011】
これにより、クランプのアンカーを相手側部材の取付け孔に挿入するときの剛性が確保され、その作業性が維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて説明する。
実施の形態1
まず、本発明における実施の形態1を図1〜6によって説明する。
図1はワイヤハーネス用のクランプを表した外観斜視図である。図2はクランプの正面図、図3はクランプの平面図である。図4はクランプの縦断面図である。図5はクランプの使用状態を表した断面図である。これらの図面で示すクランプ10の構成は、アンカー12とホルダー22とに大別され、これらが樹脂材によって一体に成形されている。アンカー12はクランプ10をボデーパネル32(図5)に取り付けるためのものであり、ホルダー22はワイヤハーネス30(図5)をビニールテープなどで巻き付けて保持するためのものである。なおワイヤハーネス30が本発明の「被保持部材」に相当し、ボデーパネル32が本発明の「相手側部材」に相当する。
【0013】
アンカー12は、そのベース14における片側面(図面で上面)の中央から突出した支柱18と、この支柱18の両側において張り出した状態に位置する一対の係止片20とを有する。つまり支柱18の基端部18aはベース14と一体化され(図4,5)、先端部18bは自由端となっている。そして係止片20は、それぞれの上部が支柱18における先端部18b寄りの側部と個々に結合しており、これらの結合部から下部にかけてそれぞれ外方へ広がっている。なお、ベース14の外周部には、皿形状のスタビライザ16が形成されている。
【0014】
両係止片20における外側面の形状は、それぞれの上部から中間部にかけて徐々に外方向へ膨らみ、個々の中間部が最も外に張り出した肩部20aとなっている。これらの肩部20aから下部までの間は、多段状に形成された複数の係止爪部20bとなっている。なお両係止片20は、支柱18との結合部がヒンジのように弾性変形することにより、図面で示す状態から支柱18に接近する方向へそれぞれ変位することができる。
【0015】
クランプ10のホルダー22は一方向に長い板状をしており、その長手方向の中間にアンカー12が位置している。アンカー12のベース14とホルダー22とは、薄肉に形成された一対のダンパー部24を通じて結合されている。これらのダンパー部24は、樹脂の弾性変形によって撓むことができるとともに、アンカー12とホルダー22との間に所定値以上の引っ張り荷重が加えられると破断されるような肉厚に設定されている。また両ダンパー部24におけるアンカー12のベース14とホルダー22との間の寸法a(図4)については、後で述べる理由によって1.5〜5.0mmの範囲内に設定されている。
【0016】
つづいてクランプの使用について説明する。
まず、図5で示すようにクランプ10のホルダー22にワイヤハーネス30を沿わせ、これらを一緒にビニールテープなどによって巻き付ける。これによってワイヤハーネス30の一部がクランプ10のホルダー22に保持された状態になり、ワイヤハーネス30からすれば、その長さ方向の一部にクランプ10が取り付けられたことになる。そして通常はワイヤハーネス30における長さ方向の複数箇所にそれぞれクランプ10が取り付けられ、各クランプ10の取付け位置に対応してボデーパネル32の取付け孔34も複数箇所に開けられている。なおクランプ10のホルダー22については、例えばベルトとバックルとによってワイヤハーネス30の外周を引き締めて保持する形式のものもあり、どのような形式を採用するかは任意である。
【0017】
このようにしてクランプ10のホルダー22にワイヤハーネス30を装着した後、クランプ10のアンカー12をボデーパネル32の取付け孔34に挿入する。これに伴い、両係止片20が支柱18との結合部の弾性変形によってそれぞれ支柱18に接近する方向へ撓みながら、個々の肩部20aが取付け孔34を通過する。そして両係止片20における各係止爪部20bのうちの一つが取付け孔34の縁にそれぞれ係止し、アンカー12がボデーパネル32に取り付けられる。すなわちワイヤハーネス30がクランプ10を通じてボデーパネル32側に装着される。なおアンカー12がボデーパネル32に取り付けられた状態では、このボデーパネル32の表面にスタビライザ16の外周部が押し付けられている。これによってボデーパネル32に対するクランプ10の取付け状態が安定するとともに、場合によっては取付け孔34をシールする機能も果たす。
【0018】
つぎにリサイクルの一環としてワイヤハーネス30をボデーパネル32から外して回収する作業について説明する。
図6は複数のクランプ10を用いてボデーパネル32側に装着されたワイヤハーネス30を回収するときの状態を表した説明図である。この図6に示されている複数個(3個)のクランプ10を説明するとき、それらの個々については図面の右側から順にクランプ10A,10B,10Cとして区別し、これらを総称するときにはクランプ10として説明する。
【0019】
リサイクルに際してワイヤハーネス30が図6の矢印X方向へ引っ張られたとき、個々のクランプ10A,10B,10Cに対する引っ張り荷重の作用線L1,L2,L3は、それぞれの傾斜角度が異なる。このため引っ張り荷重が、一つ目のクランプ10Aに対してそのホルダー22をアンカー12からほぼ真っ直ぐに引き離す方向に働いているとき、他のクランプ10B,10Cに対しては個々のホルダー22を横方向へ移動させるように働いている。したがって、これらのクランプ10B,10Cに加わる引っ張り荷重については、個々のダンパー部24が例えば図5の仮想線で示すように弾性変形することで吸収される。すなわち各クランプ10におけるダンパー部24の寸法aを所定の長さに設定することにより、引っ張り荷重に対する各クランプ10の抵抗荷重のピークが重ならないようにずらすことが可能となる。この機能を得るための試験を繰り返した結果、寸法aを1.5〜5.0mmの範囲内に設定すれば好ましい結果が得られた。
【0020】
ワイヤハーネス30が矢印X方向へ引っ張られることで、一つ目のクランプ10Aの抵抗荷重がピークに達してそのダンパー部24が破断されると、つぎのクランプ10Bにおける抵抗荷重が立ち上がり始めてピークに達する。そしてクランプ10Bのダンパー部24が破断され後に三つ目のクランプ10Cの抵抗荷重がピークに達し、そのダンパー部24が破断される。このように各クランプ10A,10B,10Cを、個々の抵抗荷重のピークを超える力で引っ張るだけで、それぞれのダンパー部24が破断され、アンカー12をボデーパネル32側に残した状態で、ワイヤハーネス30を回収することができる。
なおクランプ10をボデーパネル32から外すための手段としては、アンカー12とホルダー22とを結合しているダンパー部24の破断に代えて、アンカー12の係止片20がボデーパネル32の取付け孔34から抜き取られる構成を採用することも可能である。
【0021】
実施の形態2
つづいて本発明における実施の形態2を図7,8によって説明する。
図7は実施の形態2におけるクランプの正面図、図8は実施の形態2におけるクランプの縦断面図である。これらの図面で示すようにアンカー12とホルダー22とを結合している両ダンパー部24の間におけるホルダー22に、アンカー12のベース14に向けて突出した一対の当接部40が設けられている。これらの当接部40は、例えばホルダー22と同程度の剛性を有するリブ形状をしており、個々の先端部とベース14の下面との間には所定の間隙が設けられている。
【0022】
ホルダー22にワイヤハーネス30を装着した後、アンカー12を図5,6で示すボデーパネル32の取付け孔34に挿入するとき、アンカー12のベース14とホルダー22との間に作用する圧縮荷重によって両ダンパー部24が一定量だけ弾性変形した後、両当接部40の先端部がベース14に当たる。これにより、アンカー12を取付け孔34に挿入するときのクランプ10の剛性が確保され、その作業性が維持される。また既に述べたようにワイヤハーネス30のリサイクルに際してクランプ10が引っ張り荷重を受けたときは、両当接部40の先端部とベース14との間に所定の間隙があることから、ダンパー部24の弾性変形に支障を及ぼすことはない。
【0023】
両当接部40の配置については、つぎの(1)〜(3)のように変更することも可能である。
(1) 一対の当接部40を両ダンパー部24の間におけるアンカー12のベース14からホルダー22に向けて突出させる。
(2) 一対の当接部40を両ダンパー部24の外側において、ベース14あるいはホルダー22から他方に向けて突出させる。
(3) 両当接部40の一方をベース14からホルダー22に向けて突出させ、他方をホルダー22からベース14に向けて突出させる。
【0024】
実施の形態3
つぎに本発明における実施の形態3を図9,10によって説明する。
図9は実施の形態3におけるクランプの正面図、図10は実施の形態3におけるクランプの縦断面図である。この実施の形態3では、実施の形態2と同様にホルダー22からアンカー12のベース14に向けて突出した一対の当接部40に加えて、ベース14からホルダー22に向けて突出した一つの当接部42を備えている。この当接部42は一対の当接部40の間に位置しているとともに、両当接部40と一つの当接部42とは互いの先端がオーバーラップしない長さ(突出量)に設定されている。
【0025】
実施の形態3のクランプ10においては、アンカー12をボデーパネル32の取付け孔34に挿入するときに、ダンパー部24が圧縮力を受けて僅かに変形した後は当接部40,42の先端が互いにオーバーラップする。この状態から後は、アンカー12に対してホルダー22がダンパー部24の弾性によって横方向へ大きくずれ動くことが当接部40,42の干渉によって防止される。そしてダンパー部24が圧縮力によって大きく変形した状態では、各当接部40,42の先端部がベース14あるいはホルダー22に当たり、アンカー12を取付け孔34に挿入するための剛性が確保される。なおクランプ10が引っ張り荷重を受けたときは、当接部40,42の先端がオーバーラップしていないため、ダンパー部24の弾性変形に支障を及ぼすことはない。
【0026】
実施の形態3において、一対の当接部40をアンカー12のベース14に設け、一つの当接部42をホルダー22に設けてもよい。また、これらの当接部40,42に代えてアンカー12のベース14側とホルダー22側とに対し、ダンパー部24が圧縮力を受けて僅かに変形したときにのみ噛み合う凹凸を設けることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ワイヤハーネス用のクランプを表した外観斜視図
【図2】クランプを表した正面図
【図3】クランプを表した平面図
【図4】クランプを表した縦断面図
【図5】クランプの使用状態を表した断面図
【図6】ワイヤハーネスを回収するときの状態を表した説明図
【図7】実施の形態2におけるクランプの正面図
【図8】実施の形態2におけるクランプの縦断面図
【図9】実施の形態3におけるクランプの正面図
【図10】実施の形態3におけるクランプの縦断面図
【符号の説明】
【0028】
10 クランプ
12 アンカー
22 ホルダー
24 ダンパー部
30 ワイヤハーネス(被保持部材)
32 ボデーパネル(相手側部材)
34 取付け孔
a 寸法


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスなどの被保持部材を保持することができるホルダーと、ボデーパネルなどの相手側部材に開けられた取付け孔に挿入されるアンカーとを備え、ホルダーに被保持部材を保持した状態でアンカーを相手側部材の取付け孔に挿入することにより、被保持部材を相手側部材に装着することができるクランプであって、
アンカーの基部とホルダーとは、弾性によって撓むことができるダンパー部を通じて結合され、このダンパー部におけるアンカー側の接合端とホルダー側の接合端との間の寸法が1.5〜5.0mmの範囲内に設定されているクランプ。
【請求項2】
請求項1に記載されたクランプであって、
ダンパー部は、アンカーとホルダーとの間に所定値以上の引っ張り荷重が作用したときに切断されるような肉厚に設定されているクランプ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたクランプであって、
アンカーの基部とホルダーとの少なくとも一方に、他方に向けて突出した当接部が設けられ、この当接部は、アンカーの基部とホルダーとの間に作用する圧縮荷重に対してダンパー部が弾性変形した後の剛性を保持するように設定されているクランプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−306706(P2007−306706A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132268(P2006−132268)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000208293)大和化成工業株式会社 (174)
【Fターム(参考)】