説明

クリア塗装ステンレス鋼板

【課題】 クリア塗膜を薄くしても干渉縞が発生せず、耐指紋性,加工性に優れたクリア塗装ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】 クリア塗膜中に粒径が1〜200nmのシリカ微粒子を分散させる。クリア塗膜に可視光波長域よりも遥かに小さい粒径の微粒子を分散させているので、可視光がクリア塗膜に吸収されることなく、クリア塗膜本来の透明感を維持できる。シリカ微粒子の分散によってクリア塗膜が硬質化しているので伸びの小さなベース樹脂でクリア塗膜を成膜すると、フランジ曲げ加工の際にエナメルヘアの発生も抑えられ、外観の良好な加工品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐指紋性に優れ、表面疵,エナメルヘア,干渉縞等が発生しがたいクリア塗装ステンレス鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板は、耐食性,耐久性に加え表面外観にも優れているので、内装建材,外装建材,車輌外板,厨房機器や家電機器の表装材等、広範な分野で使用されている。しかし、取扱い中に指紋跡が付着し、そのまま残存しやすいことがステンレス鋼板の欠点である。加工時或いは施工時に疵が付きやすく、目立ちやすいことも欠点である。
鏡面仕上げしたステンレス鋼板の板表面に酸化皮膜を形成して、酸化皮膜の厚さに応じて各種色調を発色させたステンレス鋼板も使用されているが、発色ステンレス鋼板では特に指紋,疵が目立ちやすい。
【0003】
そこで、外観が重視される家電機器の筐体,内装材,表装材等の用途では、施工が終了するまで美麗な表面状態の維持に細心の注意が払われており、保護フィルムの貼付も一手段である。ポリエステル樹脂,高分子ポリエステル樹脂,アクリル樹脂,アクリルシリコーン樹脂,エポキシ樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂等の透明塗膜でステンレス鋼板を被覆し、指紋が付着し難く付着しても目立たない表面にすることも採用されている。
【0004】
透明塗膜により耐指紋付着性を改善し付着指紋の視認性を下げたクリア塗装ステンレス鋼板は、プレス成形等で製品形状に加工されるプレコート鋼板として提供される。クリア塗装ステンレス鋼板は、クリア塗膜で潤滑性が付与されるので加工油を塗布する必要なく製品形状に加工できるが、必要以上に厚いクリア塗膜では金型成形時にカジリやエナメルヘアが生じやすく加工製品の外観が低下する。カジリ,エナメルヘア等の欠陥は、発色ステンレス鋼板では商品価値を大きく低下させる。
加工性の改善には薄い塗膜が有効であるが、塗膜を薄膜化すると干渉縞が発生し、却って外観が損なわれることになる。膜厚減少に伴い塗膜自体の強度が低下して剥離しやすくなることも、薄膜化の欠点である。
【0005】
本出願人は、ステンレス鋼板表面にクリア塗膜を不連続で形成するとき、干渉縞の発生が抑えられ、耐指紋付着性,潤滑性に優れたクリア塗装ステンレス鋼板が得られることを解明した(特許文献1〜3)。
【特許文献1】特公平7-37105号公報
【特許文献2】特許第2512397号公報
【特許文献3】特開2004-143494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
不連続なクリア塗膜は、比較的粘度の高い塗料を塗布することにより形成される。不連続塗膜は干渉縞の発生防止には有効であるが、塗膜の不均一な厚さに起因してまだら模様が発現し、或いはプレス成形,曲げ加工等の際にカジリやエナメルヘアが塗膜に生じることがある。しかも、不連続塗膜を介し素地のステンレス鋼板表面が露出するので、初期には付着指紋が見え難くとも、時間経過に伴って素地表面に付着した指紋を起点として錆が発生することがある。指紋以外の汚染物質の付着も、同様に錆や隙間腐食等の起点になることがある。
【0007】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、塗膜に入射した光を拡散反射させるシリカ微粒子をクリア塗膜に分散させることにより、薄い連続塗膜であっても干渉縞の発生がなく耐指紋性に優れたクリア塗装ステンレス鋼板を提供することを第一の目的とする。第二の目的は、塗膜を硬質化するシリカ微粒子の作用に着目し、クリア塗膜の伸び抑制及び硬質化により、プレス加工,打抜き加工等の際にエナメルヘアの発生を抑え、加工後にも良好な外観を呈するクリア塗装ステンレス鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
干渉縞の発生を抑えたクリア塗装ステンレス鋼板は、粒径:1〜200nmのシリカ微粒子が分散したクリア塗膜を鋼板表面に設けている。シリカ微粒子の分散が干渉縞の発生抑制に及ぼす影響は、クリア塗膜の膜厚が5μm以下で顕著になる。
エナメルヘアの発生を抑えたクリア塗装ステンレス鋼板は、伸び率:10%以下のアクリル又はアクリルシリコーン樹脂をベースにしたクリア塗膜に粒径:1〜200nmのシリカ微粒子を分散させている。該クリア塗膜においても、薄膜化するほど干渉縞が発生しがたくなる。
何れのクリア塗装ステンレス鋼板においても、シリカ微粒子の添加量は樹脂固形分に対して5〜60質量%の範囲に定めることが好ましい。また、チタンの酸化物,水酸化物とフッ化物とを主成分とするクロムフリー化成皮膜を介してクリア塗膜をステンレス鋼板表面に形成すると、優れた塗膜密着性が得られ、加工時に塗膜剥離が抑えられ、エナメルヘアの発生も一層少なくなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のクリア塗装ステンレス鋼板は、粒径が極めて小さいシリカ微粒子をクリア塗膜に分散させている。シリカ微粒子は、1〜200nmの範囲に粒径があるためクリア塗膜の透明性を損なわず、入射光の拡散反射を促進させて干渉縞の発生を効果的に防止する。薄膜化しても干渉縞が発生しないため、プレス,曲げ,打抜き時等にカジリの原因となる厚膜塗膜を回避できる。また、比較的伸びの小さなクリア塗膜にすると、シリカ微粒子分散による硬質化と相俟ってエナメルヘアの発生も抑制される。したがって、ステンレス鋼本来の美麗な金属光沢を活用でき、意匠性が求められる家電機器や什器の表装材,筐体,内装材等として好適なクリア塗装ステンレス鋼板となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
干渉縞は、塗膜表面,金属素地表面からの反射光に光路差が生じることが発生原因である。すなわち、クリア塗装ステンレス鋼板に投影された光Lは、一部がクリア塗膜Cの表面で、一部がクリア塗膜Cを透過して素地鋼Sの表面で反射する(図1a)。塗膜表面,金属素地表面それぞれから反射した光L1,L2に光路差が生じ、光路差に応じた光の干渉作用で干渉縞が発生する。干渉縞は膜厚:10μm以下でも発生するが、クリア塗膜Cの薄膜化に伴い光の干渉作用が強くなり、膜厚:5μm以下では外観に有害な干渉縞が顕著に発生しやすい。
干渉縞の発生原因から、塗膜の表面を粗くし、或いは塗膜内で透過光を散乱させることが干渉縞の発生防止に有効と考えられる。そこで、本発明者等は、クリア塗膜に分散させる添加剤の粒径が干渉縞の発生に及ぼす影響を調査・検討した。
【0011】
塗膜の表面粗さを大きくし透過光の散乱を促進する上でシリカ等の艶消し剤を分散させることが有効であるが、艶消し剤に通常使用されている粒子は粒径が2〜10μm程度であり、耐指紋性の改善のために設けた薄いクリア塗膜には適用できない。400〜500nm程度に粒径を細かくした艶消し剤を分散させても、艶消し剤の粒径が可視光波長域にあるため、入射光が艶消し剤に吸収されクリア塗膜に濁りが観察される場合がある。
【0012】
更に検討を重ねた結果、粒径:1〜200nmのシリカ微粒子Pをクリア塗膜に分散させると、干渉縞が効果的に抑制されることを見出した。粒径:1〜200nmは可視光域の波長よりも遥かに小さいので、クリア塗膜に透過した可視光Lはシリカ微粒子Pに吸収されず、粒子表面での拡散反射L3が促進される(図1b)。
光吸収がないことはクリア塗膜の透明性が保たれることを意味し、拡散反射の促進は光路差に起因する光の干渉作用が弱められることを意味する。したがって、透明度を損なうことなく膜厚:5μm以下に薄膜化しても干渉縞の発生が抑制されたクリア塗膜となる。薄膜化が可能なことは、金型プレス等の際にカジリ等の発生なくクリア塗装ステンレス鋼板を目標形状に加工できる上でも有利である。
【0013】
シリカ微粒子の分散によってクリア塗膜が硬質化するが、更に伸び率の小さなベース樹脂でクリア塗膜を成膜すると、プレス加工や打抜き加工等の際に発生しやすいエナメルヘアが抑えられる。ベース樹脂には、伸び率:10%以下のアクリル又はアクリルシリコーン樹脂等の樹脂が使用される。塗膜の硬さ,伸びがエナメルヘアに及ぼす影響は次のように説明できる。
【0014】
たとえば、打抜き,フランジ曲げ加工で塗装鋼板からフレームを作製する場合、塗装鋼板から切り出されたブランク1の周縁をダイ2/ストリッパブレート3間で挟持し、ブランク1中央部にパンチ4を押し込んで打ち抜き、ブランク1の開口縁1f(製品としてはフランジ)をダイ2の内面に沿って塑性変形させる。次いで、パンチ4を後退R(上昇)させ、目標形状に加工された製品を取り出す(図2a)。パンチ後退時に打抜かれたブランクの開口縁1fがスプリングバックBし、後退中のパンチ4に摺擦する(図2b)。
【0015】
パンチ4との摺擦によって生じる剪断力Fでクリア塗膜Cが伸びるが、伸びの大きな塗料種から作製されたクリア塗膜Cでは、伸ばされた塗膜がエッジで切れてエナメルヘアになる。これに対し、伸びの小さい硬質クリア塗膜Cでは、伸びが生じる前に塗膜にミクロな亀裂が発生し、エナメルヘアに至る大きな伸びにならない。硬質であるため後退中のパンチ4に追従するクリア塗膜Cの動きが少なくなることも、エナメルヘアの発生が抑えられる一因である。
【0016】
本発明のクリア塗装ステンレス鋼板は、次の工程で製造される。
塗装原板には、鋼種や仕上げ法を問わず各種ステンレス鋼板が使用される。なかでも、BA仕上げしたステンレス鋼板や発色処理されたステンレス鋼板を使用すると、クリア塗膜の透明性が活用され、美麗な外観が要求される筐体,内装材,表装材等に適した素材が得られる。
ステンレス鋼板には、塗膜の密着性を高めるため必要に応じ種々の塗装前処理が施される。塗装前処理には、脱脂,クロメート処理,リン酸塩処理,タンニン酸処理,非クロム処理(シリカ系,ジルコニア系,チタン系等)等がある。
【0017】
なかでも、チタンの酸化物,水酸化物とフッ化物とを主成分としTi換算付着量:5〜20mg/m2の化成皮膜は、クロメート皮膜に匹敵する塗膜密着性を付与し、環境負荷の小さなクロムフリーであることからも有望な塗装前処理である。チタン系化成皮膜で密着性が改善されたクリア塗膜は、加工性改善のために薄膜化した塗膜であってもプレス,打抜き,曲げ等の加工時に剥離を生じることなく、またフランジ曲げ等の加工時に発生しがちなエナメルヘアを抑制する作用を呈する。
【0018】
塗装前処理されたステンレス鋼板にロールコート,カーテンコート,浸漬法等でクリア塗料を塗布し、200〜300℃で焼き付けることによりクリア塗膜を形成する。
クリア塗膜形成用の樹脂塗料も樹脂種に特段の制約が加わるものではなく、クリア塗膜が形成される限りポリエステル樹脂,高分子ポリエステル樹脂,アクリル樹脂,アクリルシリコーン樹脂,エポキシ樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂等をベースにした通常の樹脂塗料が使用される。
【0019】
薄膜化したクリア塗膜における干渉縞の発生を防止する場合、塗膜自体の強度が高い樹脂、たとえばアクリル樹脂又はアクリルシリコーン樹脂が好ましい。また、硬質のアクリル樹脂又はアクリルシリコーン樹脂にイソシアネートを配合すると、加工性が付与されたクリア塗膜を成膜できる。特にエナメルヘアの発生防止が重視される用途では、伸び率:10%以下のアクリル又はアクリルシリコーン樹脂がクリア塗膜のベース樹脂として好ましい。
【0020】
クリア塗膜に分散させるシリカ微粒子は、クリア塗料に予め混入させるシリカゾルとして供給される。ゾルを構成するシリカ単粒子の平均粒径は、SEM測定で確認できる。シリカゾルは、粒子径がコントロールし易く、球状で単分散したゾルを得やすいので、水-アルコール中でテトラエトキシシランを加水分解することにより用意される。ゾルを構成するシリカ単粒子の大きさは、加水分解時のエトキシシラン濃度,反応温度,pH等の調整で制御可能である。
【0021】
有機溶剤或いは塗料等に分散させるシリカゾルとしては、所望の有機溶媒中に相転換したものが好ましい。因みに、アルコール系に相転換されたアルコール単分散シリカゾルは、アルコールを良溶媒とする樹脂と馴染みやすい。したがって、アルコール系溶媒を用いた樹脂塗料にアルコール単分散シリカゾルを添加する場合、少量ずつ連続的に添加することによりシリカゾルが塗料に単分散する。
【0022】
本発明は、クリア塗膜に分散させるシリカ微粒子の粒径を1〜200nmの範囲に規定している。細かい粒径のシリカゾルを製造しようとすると、製造時に単分散せず凝集しやすい。特に1nmに満たないシリカゾルは単分散せず、粒径が1μm以上にもなる二次粒子が形成されやすい。このようなシリカゾルをクリア塗膜に分散させると、塗膜に濁りが発生して外観が劣化しやすい。逆に大きすぎるとシリカ粒子の上端面と下端面で反射する光の光路差が可視光波長(400nm以上)を超えるようになり、クリア塗膜に着色や濁りが生じて外観が損なわれる。したがって、分散させるシリカ微粒子の粒径は1〜200nm(好ましくは、10〜150nm)の範囲とする。
【0023】
塗料へのシリカゾル添加量は、樹脂固形分の5〜60質量%(好ましくは、10〜40質量%)の範囲で定めることが好ましい。5質量%に満たないシリカゾルの添加量では、干渉縞の発生を抑制する効果が十分に発揮できない。逆に60質量%を超える過剰添加では、シリカ微粒子の単分散が困難になってクリア塗膜に濁りが生じやすくなる。また、固体粒子が多くなりすぎる結果として、クリア塗装ステンレス鋼板の加工性が低下する。
【0024】
5〜60質量%のシリカゾル添加は、エナメルヘアの発生抑制に有効な程度までクリア塗膜を硬質化する上でも必要である。因みに、アクリル樹脂をベースとするクリア塗膜の鉛筆硬度は2H程度であるが、20質量%のシリカ微粒子添加で5Hにまで塗膜が硬質化する。硬質化した塗膜は耐プレッシャーマーク性にも優れ、たとえば裏面ノーコートの塗装鋼板を多数積み重ねて保管してもプレッシャーマークの発生が抑えられる。
【実施例1】
【0025】
〔シリカゾルの調製〕
攪拌機を備えた容量:1リットルの反応容器を恒温槽にセットし、メタノール:400g,25重量%濃度のアンモニア水:250g及び水:250gを入れ、攪拌機で混合しながら30℃に加温した。混合液を更に攪拌しながら、テトラエトキシシラン:25gを約1時間かけて連続的に添加した。添加後、ロータリーエバポレーターによりメタノール及びアンモニアを除去し、シリカ分散液を得た。
次に、分散液にメタノール:200g,ベンゼン:200gを加え、混合液量が100gになるまで濃縮した。濃縮液に再びメタノール:200g,ベンゼン:200gを加え、混合液量が50gになるまで濃縮することにより、メタノール分散シリカゾルを調製した。得られたメタノール分散シリカゾルをSEM観察すると、平均粒径:50nmのシリカ単粒子が分散しており、乾燥固形分は42%であった。
【0026】
〔塗料のベース樹脂の調製〕
ベース樹脂として、シリコーン-アクリルブロック重合体を次のように調製した。
攪拌機,窒素導入管,冷却コンデンサー,滴下ロート及び温度計を備えた容量:300mlのフラスコに酢酸ブチル:90gを仕込み、窒素雰囲気下120℃に加温した。そして、アゾ基シリコーンマクロ開始剤(VPS-0501:和光新薬社製):20g,t-ブチルメタクリレート:50g,2-ヒドロキシメタクリレート:30gを酢酸ブチル:60gに溶解することにより調製した開始剤/モノマー混液を、フラスコ内の酢酸ブチル液に2時間かけて等速滴下した。その後、120℃での加温を3時間続け、ブロック重合体を合成した。ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてブロック重合体を分析したところ、標準ポリスチレン換算分子量がMn=17500,樹脂固形分が35%であった。
【0027】
〔塗料の調製〕
製造した塗料ベース樹脂:1000gに、ブロック型ヘキサメチレンジイソシアネートの重合体デスモジュール(BL3175:住友バイエルンウレタン社製):70g,ジブチルスズラウレート(硬化触媒):2g,ソルベッソ100(溶剤):200g,シクロヘキサン:200g及びイソホロン:100gを混合し、塗料組成物を調合した。次いで、別途調製したシリカゾル混合液:350gを塗料組成物に等速滴下した。得られた塗料組成物においてシリカ固形分は25質量%であった。
【0028】
〔塗装方法〕
板厚0.5mmのSUS430ステンレス鋼No.4仕上げ材を塗装原板に使用し、脱脂,水洗,表面調整,水洗,乾燥の工程を経て表面洗浄した。表面洗浄後、クロム系化成処理液をバーコーターで塗装原板に塗布し100℃で乾燥することにより、全Cr換算付着量:40mg/m2のクロメート皮膜を形成した。
次いで、シリコーン-アクリルブロック重合体をベースとする塗料をトップ塗料としてクロメート処理後のステンレス鋼板に塗布し、250℃×60〜120秒で焼き付けることにより、乾燥膜厚:4.0μmの有機無機アクリルシリコーンクリア塗膜を形成した。
【0029】
〔干渉縞の確認〕
得られたクリア塗装ステンレス鋼板から試験片を切り出し、干渉縞の出現状況を調査した。干渉縞の調査では、ポータブル標準光源装置(マクベスジャッジII:サカタインクス株式会社製)に装着した標準光源TL84で鋼板を照らし、目視観察で干渉縞の有無を調べた。その結果、粒径:50nmのシリカ粒子を25質量%分散させたクリア塗膜で被覆したステンレス鋼板には、干渉縞が観察されなかった。
【0030】
〔加工部塗膜密着性〕
「JIS K5400 8.1 耐屈曲性」試験に準拠して塗装鋼板を180度、密着折曲げした後、曲げ外側の塗膜に粘着テープを貼り付けて瞬間的に引き剥がした。テープ剥離後に塗膜の付着状態を観察したところ、クリア塗膜に剥離が検出されず、加工部の塗膜密着性に優れていることが判った。
【0031】
〔塗膜の透明性〕
ダブルビーム方式の自記分光光度計(UV-2200:株式会社島津製作所製)を用い、塗膜の透明性を調査した。クリア塗膜の透明度評価に関しては、SUS430ステンレス鋼板に膜厚2μmで形成した塗膜の可視光透過率から、次のように求めるのが一般的であるので、本実施例もこれに準じている。
ダブルビーム,ダイノードフィードバックによるダイレクトレシオ方式の分光光度計を用い、クリア塗装鋼板に波長500nmの可視光で照射したときに、塗膜を透過し、ステンレス鋼板表面で反射し検出される光強度を測定する。測定値を式T=I/I0×100〔T:光透過率,I0:入射光強度,I:透過透光強度〕に代入し、算出された光透過率Tが75%以上の値を示す塗膜をクリア塗膜と評価する。光透過率が75%未満では、塗膜自身が濁り半透明のような外観を呈し好ましくない。
クリア塗膜の反射率は95%であり、目視観察したクリア塗膜の外観も良好であった。
【実施例2】
【0032】
シリカゾルの生成反応条件を表1のように変更する他は実施例1と同様にシリカゾルを調製した。

【0033】
各種シリカゾル混合液を、シリカ粒子量が表2の割合となるように実施例1で示したベース樹脂に加え、実施例1と同様にクリア塗膜をステンレス鋼板表面に設けた。形成されたクリア塗膜に分散しているシリカ微粒子及びクリア塗膜の物性を表2に示す。表2中、試験No.12〜14はシリカゾル無添加の例である。
形成されたクリア塗膜を実施例1と同じ方法で評価した。なお、干渉縞に関しては、目視観察で干渉縞が検出されなかった試験片を○,若干発生していた試験片を△,顕著に発生していた試験片を×と評価した。また、加工部の塗膜密着性については、粘着テープを引き剥がした後に剥離していない塗膜を○,剥離した塗膜を×と評価した。
【0034】
表2の結果にみられるように、粒径:1〜200nmのシリカ微粒子を分散させたクリア塗装ステンレス鋼板では、クリア塗膜厚を5μm以下にしても干渉縞が観察されず、透明度や加工性も良好であった。
これに対し、クリア塗膜中に分散させるシリカ微粒子の大きさが小さすぎたり、分散量が少なすぎたりすると、干渉縞の出現を抑制できず、或いは干渉縞を抑制できてもクリア塗膜そのものが濁り加工性が劣化していた。なお、シリカ微粒子無添加の試験No.12〜14にみられるように、クリア塗膜が5.0μmまで薄くなると干渉縞が顕著に発生していた。
【0035】

【実施例3】
【0036】
塗料のベース樹脂となるアクリル重合体を次のように調製した。
温度計,冷却コンデンサ,攪拌機,滴下ロートを備えたフラスコにキシレン:50g,酢酸イソブチル:50gを仕込み、110℃に加熱保持した。そして、メタクリル酸メチル:60g,アクリル酸ブチル:20g,メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル:19g,メタクリル酸:1g,2,2'-アゾビス(2-メチルブチルニトリル):2gの混合液を滴下ロートから2時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度を保ちながら1時間攪拌し続け、2,2'-アゾビス(2-メチルブチルニトリル):0.2g,酢酸イソブチル:2gの混合液を加え、更に1時間加熱することによりアクリル重合体を合成した。GPCでアクリル重合体を分析したところ、標準ポリスチレン換算分子量がMn=4800,樹脂固形分が50%であった。
【0037】
合成されたアクリル重合体をベース樹脂とし、実施例1で調製されたシリカゾルを配合することにより塗料を用意した。塗料中の固形分に対するシリカゾルの配合量を表3に示す。
この塗料を用いて実施例1と同様にステンレス鋼板を塗装した。乾燥膜厚:4μmのクリア塗装ステンレス鋼板から切り出された試験片を鉛筆硬度試験,エナメルヘア試験に供した。
鉛筆硬度試験では、「JIS 5400 6.14 鉛筆引っかき試験」に準拠して塗膜硬度を評価した。
【0038】
エナメルヘア試験では、50mm×50mmのサイズに切り出したブランク1が下バリになるように、且つダイ2からブランク1を3mm突出させてセットし、ダイ2/パンチ4のクリアランス:100%,パンチ4の先端R:0.5mm,パンチ4の押込み量:10mmでフランジ加工(図2)した。加工後の試験片表面を目視観察してエナメルヘアの有無を調査し、エナメルヘアが検出されなかった試験片を○,点状にエナメルヘアが発生した試験片を△,線状のエナメルヘアが発生した試験片を×と評価した。
【0039】
塗膜の伸び測定には、調製した塗料をETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体)ラミネート鋼板に塗布し、到達板温:230℃で焼付け乾燥した後、剥離することにより作製された膜厚:10μmの遊離塗膜を使用した。遊離塗膜を幅:10mm,長さ:20mmに切り出し、5mm/分の速度で引張り試験し、破断時の伸びを測定して伸び率を算出した。
【0040】
表3の調査結果にみられるように、シリカゾルの配合によってエナメルヘアの発生が抑えられ、シリカゾル:10質量%以上でエナメルヘア抑制効果が顕著であった。しかし、65質量%を超える過剰量のシリカゾルが配合されると、実施例1でも説明したように加工性が劣化しやすくなる。
【0041】

【実施例4】
【0042】
各種化成処理が施された塗装原板を用い、表1のシリカゾルNo.1を用いて調製された塗料を実施例2と同様な条件で塗布し焼き付けた。得られたクリア塗装ステンレス鋼板から試験片を切り出し、加工部密着性試験,耐沸騰水試験,耐水蒸気試験に供した。
【0043】
加工部密着性試験では、「JIS K5400 8.1 耐屈曲性」試験に準拠して塗装鋼板を180度密着曲げした後、曲げ部外側の塗膜に粘着テープを貼り付けて瞬間的に引き剥がした。テープ剥離後に塗膜の付着状態を観察し、剥離していない塗膜を○,一部剥離した塗膜を△,全面剥離した塗膜を×として加工部の塗膜密着性を評価した。
【0044】
耐沸水試験では、沸騰した水溶液に試験片を2時間浸漬した後、室温に1時間放置し、塗膜平坦部に粘着テープを貼り付けて瞬間的に引き剥がした。テープ剥離後に塗膜の付着状態を観察し、剥離していない塗膜を○,一部剥離した塗膜を△,全面剥離した塗膜を×として加工部の塗膜密着性を評価した。
【0045】
耐水蒸気試験では、水蒸気発生部から50mmの位置に試験片を8時間暴露した後、室温に1時間放置し、塗膜平坦部に粘着テープを貼り付けて瞬間的に引き剥がした。テープ剥離後に塗膜の付着状態を観察し、剥離していない塗膜を○,一部剥離した塗膜を△,全面剥離した塗膜を×として加工部の塗膜密着性を評価した。
【0046】
表4の調査結果にみられるように、チタン酸系の化成処理を施したステンレス鋼板を塗装原板に使用すると、密着性改善には有効なものの環境負荷の大きなクロメート皮膜に匹敵する塗膜物性が得られた。
【0047】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】干渉縞の発生メカニズム(a)及びシリカ微粒子の分散により干渉縞が抑制(b)されることを説明するモデル図
【図2】フランジ加工の際にエナメルヘアが発生することを説明するモデル図
【符号の説明】
【0049】
素地鋼S: クリア塗膜C: L:入射光 P:シリカ微粒子 L1,L2:反射光 L3:拡散反射 B:スプリングバック F:剪断力 R:パンチの後退
1:ブランク(クリア塗装ステンレス鋼板) 1f:ブランクの開口縁 2:ダイ 3:ストリッパブレート 4:パンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径:1〜200nmのシリカ微粒子が分散したクリア塗膜が鋼板表面に設けられていることを特徴とするクリア塗装ステンレス鋼板。
【請求項2】
クリア塗膜の膜厚が5μm以下である請求項1記載のクリア塗装ステンレス鋼板。
【請求項3】
伸び率:10%以下のアクリル又はアクリルシリコーン樹脂をベースとするクリア塗膜に粒径:1〜200nmのシリカ微粒子が分散していることを特徴とするクリア塗装ステンレス鋼板。
【請求項4】
樹脂固形分に対し5〜60質量%の割合でシリカ微粒子がクリア塗膜に分散している請求項1〜3何れかに記載のクリア塗装ステンレス鋼板。
【請求項5】
チタンの酸化物及び/又は水酸化物とフッ化物とを主成分とする化成皮膜を介してクリア塗膜が設けられている請求項1〜4何れかに記載のクリア塗装ステンレス鋼板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−289930(P2006−289930A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182118(P2005−182118)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】