説明

クリップ

【課題】構成の簡素化を実現するとともに係止保持力を高めたクリップを提供する。
【解決手段】先端貫通部22を備えた取付基部21と、先端貫通部22に可撓ヒンジ24Aを介して設けられ、取付基部21が取付孔51に挿入されるときには内周縁部に押圧されて可撓ヒンジ24Aを中心に逃げ回動することにより通過するとともに、取付孔51を抜けると可撓ヒンジ24Aの弾性力により取付孔51の周縁部に係止されるように復帰回動する係合部24と、を備え、係合部24のうち先端貫通部22と対向する部分には、取付基部21が取付孔51に挿入されるときには可撓ヒンジ24Aが伸びて先端貫通部22から離間し、取付基部21が挿入元側に引っ張られるときには可撓ヒンジ24Aが圧縮されて先端貫通部22に当接して係合部24の逃げ回動を規制する回動規制面25が設けられていることを特徴とするクリップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば取付孔の設けられた部材に差し込んで係止するワイヤーハーネス保持用のクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、取付孔の設けられた部材に差し込んで係止するクリップ(固定具)として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。この固定具は、頭部と頭部から延びる脚部を有するピンと、フランジとフランジから延びる軸部を有するブッシュとの2部品から成り、軸部には脚部を受入れる空間が形成され、空間に脚部を挿入することによって被取付部材に固定される。軸部には、フランジと協働して被取付部材を挟持する弾性係止片がフランジに隣接する位置に設けられ、軸部の中央には軸方向に延びる高い剛性の軸柱が形成されている。
【0003】
このような構成によれば、軸柱と弾性係止片との間にピン脚部が挿入されて本留め状態となれば、弾性係止片が被取付部材に係合して固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−20006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来のクリップでは、ピンとフランジの2部品構成であるから、クリップの取り付けには、フランジを取付孔に挿入し、その後にピンをフランジが設けられた空間に挿入するという2回の挿入作業が必要となり、構成のさらなる簡素化が求められている。
【0006】
さらに、この固定具において、脚部によって弾性係止片が横方向内側に倒れることを阻止したとしても、依然として垂直方向の引き離し力に対する係止保持力は弾性係止片の剛性に依存しているため、弾性係止片の剛性を高くし、弾性係止片がいずれの方向にも倒れにくい構成とすれば、取付孔に対するクリップの係止保持力は向上するものの、ピンを挿入する力が大きくなるという背反がある。このため、弾性係止片の剛性を低くし、弾性係止片が容易に弾性変形する構成とすれば、挿入力は低く抑えられるものの、係止保持力は低下するという問題がある。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、構成の簡素化を実現するとともに係止保持力を高めたクリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のクリップは、取付孔が貫通して設けられた取付部材に取り付けられるクリップであって、クリップ本体から突出して設けられ前記取付孔に挿入されたときに前記取付部材の挿入先側に貫通して前記取付孔に面する状態となる先端貫通部を備えた取付基部と、前記先端貫通部に可撓ヒンジを介して前記取付基部の基端部側に向かって延びるように設けられ、前記取付基部が前記取付孔に挿入されるときには前記取付孔の内周縁部に押圧されて前記可撓ヒンジを中心に逃げ回動することにより前記取付孔を通過するとともに、前記取付孔を抜けると前記可撓ヒンジの弾性力により前記取付孔の挿入先側の周縁部に係止されるように復帰回動する係合部と、を備え、前記係合部のうち前記先端貫通部と対向する部分には、前記取付基部が前記取付孔に挿入されるときには前記可撓ヒンジが伸びて前記先端貫通部から離間し、前記取付基部が前記挿入元側に引っ張られるときには前記可撓ヒンジが圧縮されて前記先端貫通部に当接して前記係合部の前記逃げ回動を規制する回動規制面が設けられているところに特徴を有する。
【0009】
このような構成によれば、取付基部と係合部を合成樹脂によって一体成形できるから、部品点数を減少させることができる。また、クリップを取り付ける際には、係合部が設けられた取付基部を単に取付孔に挿入しさえすれば、係合部が取付孔の内周縁部に押圧されて逃げ回動することにより取付孔を通過するとともに、取付孔を抜けると取付孔の挿入先側の周縁部に係止されるように復帰回動するから、取り付け作業はいわゆるワンアクションで済ませることができ、作業性に優れる。
【0010】
さらに、取付基部が挿入元側に引っ張られるときには、回動規制面が先端貫通部に当接して係合部の逃げ回動を規制するから、クリップを抜き去る外力により係合部が逃げ回動することを抑制でき、クリップの係止保持力を高めることができる。詳しくは、係合部は、取付基部が取付孔に挿入されるときには、容易に弾性変形する可撓ヒンジを中心に、逃げ回動することにより取付孔を通過する一方で、取付基部が挿入元側に引っ張られるときには可撓ヒンジが圧縮されて回動規制面が先端貫通部に当接して係合部の逃げ回動を規制する。このように、取り付け時と、抜き去り方向に外力が掛かるときとで、係合部が異なる作用をすることにより、挿入時の挿入抵抗を高めることなくクリップの係止保持力を高めることができる。
【0011】
前記取付孔は、方形状をなして設けられ、前記取付基部は、一対の側壁部間に前記先端貫通部を架け渡した形状をなし、前記一対の側壁部が前記取付孔の対向する内側面にそれぞれ面するように位置しており、前記係合部は前記一対の側壁部の間において前記側壁部の側面に近接して配置されていてもよい。このような構成とすれば、仮にクリップに捻り力が作用して一対の側壁部が互いに近づく方向に変形したとしても、係合部が側壁部に当接するから、それ以上の変形を抑制することができ、クリップの係止保持力を高めることができる。
【0012】
前記係合部は、前記側壁部間に対をなして設けられ、各係合部は前記取付孔の内側面のうち前記側壁部が面する内側面とは異なる二つの内側面側にそれぞれ係合することとされてもよい。このような構成とすれば、係合部が取付孔の対向する二つの内側面にそれぞれ係合するから、係合部が一つしか設けられない場合に比べクリップの係止保持力を高めることができる。
【0013】
前記係合部には、前記回動規制面を前記可撓ヒンジとは反対側に延長した部分に、前記可撓ヒンジから離れるほど前記先端貫通部から遠ざかる方向へ傾斜する逃げ傾斜面が設けられていてもよい。このような構成とすれば、係合部を可撓ヒンジとは反対側にさらに延長して、係合部を側壁部に当接しやすくした場合であっても、逃げ傾斜面により係合部と先端貫通部との干渉を回避でき、弾性係合片の逃げ回動が阻害されることを抑制できる。
【0014】
前記クリップ本体には、前記取付基部の先端部側に向かって延びるように設けられ、前記取付基部が前記取付孔に挿入されるときには前記取付部材の挿入元側の面に当接して、挿入方向と反対側に弾性変形するとともに、前記クリップが取付孔に取り付けられたときには弾性力により前記取付部材を挿入方向側に押圧する板厚吸収部が設けられていてもよい。このような構成によれば、取付部材の板厚が異なる場合であっても、取り付け状態で取付部材を挿入方向側に押圧することができ、クリップの係止保持力を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、構成の簡素化を実現するとともに係止保持力を高めたクリップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るクリップの全体斜視図
【図2】クリップを構成する本体部及び係止部の側面図
【図3】同正面図
【図4】クリップを取付孔に挿入する前の状態を示した側断面図(図3のA−A断面図)
【図5】クリップを取付孔に挿入している途中の状態を示した側断面図
【図6】クリップを取付孔に取り付けた状態を示した側断面図
【図7】クリップに取付孔から抜き去ろうとする外力が加わった状態を示した側断面図
【図8】クリップに取付孔内に取り付けた状態を示した平断面図(図3のB−B断面図)
【図9】クリップに取付孔内で回転しようとする外力が加わった状態を示した平断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
本発明の一実施形態を図1ないし図9によって説明する。
本実施形態におけるワイヤーハーネス保持用のクリップ10は、図示しないワイヤーハーネスを車両パネル50(取付部材に相当する)に形成された方形状の取付孔51に取り付けるものである。以下の説明においては、図1における上下方向をクリップ10の上下として扱う。また、側壁部23の並び方向(図3における左右方向)を左右方向とし、側壁部23の並び方向と直交する方向(図2における左右方向)をクリップ10の前後方向として扱う。
【0018】
クリップ10は、合成樹脂製であって、射出成形により全体が一体に形成されている。その構成は図1に示すように、ワイヤーハーネスに巻回されるバンド部11と、バンド部11の一端から連結された略箱状の本体部12と、本体部12のバンド部11とは反対側の面から突設された係止部20とを備えている。
【0019】
バンド部11は、図示はしないが、ワイヤーハーネスの外周に巻き付けることのできる長さを有し、略一定の幅寸法で本体部12から下方に延出されている。その厚さ寸法は、バンド部11を図示しないワイヤーハーネスに巻き付けることができる程度の可撓性を有するように設定されている。バンド部11の一側面には、後述する係止突部16を係止可能な係止溝部11Aが長手方向に沿って一定間隔に多数形成されている。
【0020】
本体部12は、図1及び図3に示すように、一側面がバンド部11の延出方向に沿った傾斜面13をなす扁平な角筒状をなし、その内部には傾斜面13に開口する挿入口14Aから対向する面に開口する導出口14Bまで貫通するバンド挿通孔14が形成されている。バンド挿通孔14は、バンド部11をその先端から挿通可能であって、その内部にはバンド部11を係止する弾性舌片15が設けられている。
【0021】
弾性舌片15は、図4に示すようにバンド挿通孔14内の挿通方向中央からやや導出口14B寄りの下面から上面に向かって僅かに立ち上がり、導出口14Bの略中央に向かって屈曲され、本体部12からその先端が突出した態様をなしている。弾性舌片15の上面には、幅方向に延びる係止突部16が2つ、導出口14B付近に間隔を置いて形成されている。係止突部16は、断面三角形状をなし、係止溝部11Aに嵌り合う外形及び間隔に形成されている。
【0022】
係止部20は、本体部12の上面に突設された側壁部23と先端貫通部22とからなる取付基部21と、先端貫通部22の両端部からそれぞれ可撓ヒンジ24Aを介して下方に向かって延びるように設けられる一対の係合部24と、本体部12の上面から上方に向かって延出する板厚吸収部26とで構成されている。
【0023】
取付基部21は、一対の側壁部23間に先端貫通部22を架け渡した形状をなしている。詳しくは、取付基部21は、並列する一対の側壁部23と一対の側壁部23の上端に跨って設けられた板状をなす先端貫通部22とで構成され、正面視コの字状のアーチ形状に一体成型されており、内側に後述する係合部24を収容する空間を形成している。
【0024】
側壁部23は、側面視方形の平板状をなし、本体部12の上面に並列して配置されている。一対の側壁部23の基端部は、取付孔51の寸法より僅かに小さい寸法と配置間隔(公差を考慮した僅かなクリアランスが確保された寸法と配置間隔)に設定されており、クリップ10が取付孔51に取り付けられたときに取付孔51の対向する内側面(左側面及び右側面)にそれぞれ面するように位置している。また、一対の側壁部23の上端部は、テーパ状に内側に傾斜しており、係止部20を取付孔51に挿入しやすくなっている。
【0025】
先端貫通部22は、平面視方形の平板状をなし、取付孔51に挿入されたときに車両パネル50の挿入先側に貫通して取付孔51に面する状態となるように設定されている。先端貫通部22の前端部22A及び後端部22Bは、取付孔51の内側面51Aに対し前後方向に僅かなクリアランスを設けて配置されている。
【0026】
係合部24は側面視略方形をなす平板状をなし、先端貫通部22の前後の端縁部から可撓ヒンジ24Aを介して取付基部21の基端部側(下方)に向かって延びるように一対設けられ、可撓ヒンジ24Aを中心に回動可能とされている。なお、二つの係合部24,24のうち一方は、先端貫通部22の前端部22Aから延出し、他方は先端貫通部22の後端部22Bから延出している。また、両係合部24は左右方向に互いに近接すると共に、各側壁部23の内側面にそれぞれ近接して配置されている。すなわち、一対の係合部24は、左右方向について、一対の側壁部23の間を埋めるように配置されている。
【0027】
各係合部24の先端部には、平面視にて最も外側に位置する面を段差状に切り欠いて設けられた段差部24Bが形成されている。この段差部24Bは、取付孔51の内側面のうち側壁部23が面する内側面とは異なる、前方及び後方に位置する二つの内側面51A側にそれぞれ係合する。
【0028】
係合部24には、上面及び下面に、肉抜き部24Cが形成されており、樹脂成形する際にひけなどが生じることを抑制可能となっている。係合部24の上面には、先端貫通部22と対向する回動規制面25が設けられ、さらに、回動規制面25を可撓ヒンジ24Aとは反対側に延長した部分に、可撓ヒンジ24Aから離れるほど先端貫通部22から遠ざかる方向(下方)へ傾斜する逃げ傾斜面24Dが設けられている。
【0029】
回動規制面25は、先端貫通部22の下面に沿う姿勢で配置されている。回動規制面25と先端貫通部22との距離は、クリップ10の取り付け時、係合部24が取付孔51の内周縁部に押圧されて可撓ヒンジ24Aを中心に逃げ回動する際に、回動規制面25と先端貫通部22が当接しないで、係合部24が取付孔51を通過することを許容する距離に設定されている。
【0030】
板厚吸収部26は、取付基部21の本体部12の上面から、先端貫通部22に向かって所定の角度をなして片持ち状に延出し、側壁部23の延出方向に弾性変形可能とされている。一対の板厚吸収部26は、それぞれ側壁部23の並び方向に先端貫通部22を二等分したと略同じ幅をなし、上述した一の係合部24が前方に延出する側では取付基部21に対して当該一の係合部24と反対側(後方)に延出し、上述した他の係合部24が後方に延出する側では取付基部21に対して当該他の係合部24と反対側(前方)に延出するように配置されている。また、板厚吸収部26の端部には、クリップ10の取り付け時に車両パネル50に面あたりする受け面26Aが設けられており、係合部24が取付孔51に挿入された際に、この受け面26Aが挿入側の取付面50Aに当接することで、板厚吸収部26は拡開変形可能となっている。
【0031】
続いて、クリップ10の使用方法について図4ないし図9を用いて説明する。
まず、ワイヤーハーネスを結束するには、図示はしないが、ワイヤーハーネスにバンド部11を巻き付けた状態で、バンド部11をバンド挿通孔14の挿入口14Aから挿入する。バンド部11をバンド挿通孔14に挿通させ、ワイヤーハーネスを締め付けた状態で弾性舌片15の係止突部16にバンド部11の係止溝部11Aを引っ掛けることでワイヤーハーネスを結束した状態に係止することができる。
【0032】
次に、クリップ10を車両パネル50に取り付けるには、位置合わせをした係止部20を取付孔51に差し入れて押し込む。すると、係合部24が取付孔51の内周縁部に押圧されて、可撓ヒンジ24Aが伸びて先端貫通部22から離間するとともに可撓ヒンジ24Aを中心に逃げ回動して、取付孔51に挿入されていく。この際、係合部24には、逃げ傾斜面24Dが設けられているから、回動規制面25が先端貫通部22と干渉することはない(図5参照)。
【0033】
続いて係合部24が取付孔51を貫通する前に、板厚吸収部26の受け面26Aが取付孔51周りの取付面50Aに当接する。一対の板厚吸収部26は、受け面26Aが取付面50Aに摺接しつつ、互いに取付孔51から遠ざかる方向に弾性変形し、車両パネル50の板厚を吸収する。そして、係合部24の段差部24Bより上方(係合部24の基端部側)の部分が取付孔51を貫通すると、可撓ヒンジ24Aの弾性力により係合部24が復帰回動し、係合部24の段差部24Bが取付孔51の挿入先側の周縁部に係止される。さらに、車両パネル50は板厚吸収部26の反力により、係合部24側に押し上げられた状態で係合部24と板厚吸収部26とで挟持される。このようにして、係止部20が取付孔51に対して引き抜き不能に係止されることで、クリップ10を車両パネル50に取り付けることができる。
【0034】
さて、この取り付けられたクリップ10に車両パネル50の取付孔51から本体部12側に抜き去ろうとする外力が加わった場合には、取付基部21ひいてはその先端貫通部22が下方に引っ張られる(図7参照)。すると、係合部24は段差部24Bにおいて車両パネル50に引っ掛かっているから下方に抜け出ることができず、結局、可撓ヒンジ24Aが上下方向に圧縮されることで、係合部24の回動規制面25に先端貫通部22が当接することになる。このため、係合部24の段差部24Bが取付孔51の内周縁部に強く押し付けられることになり、係合部24のいずれの方向への回動も規制され、クリップ10の取付孔51からの抜脱が確実に阻止される。
【0035】
また、例えばワイヤハーネスがクリップ10を中心とした回転力を受ける等してクリップ10に捻り力が作用した場合には、次のようになる。クリップ10の本体部12が取付孔51に対して回転しようとした場合には、まず、一対の側壁部23がそれぞれ対向する取付孔51の内側面に押し当てられ、その回転力に対して抵抗する。さらに回転力が大きくなると、一対の側壁部23は互いにその距離を近づける方向に捻れ変形しようとする。この場合には、係合部24が側壁部23に近接して配置されているから、図9に示すように、係合部24が側壁部23に当接し、側壁部23がそれ以上互いの距離を近づける方向に変形することが規制される。
【0036】
以上説明したように、本実施形態によれば、取付基部21と係合部24を合成樹脂によって一体成形できるから、部品点数を減少させることができる。また、クリップ10を取り付ける際には、係合部24が設けられた取付基部21を単に取付孔51に挿入しさえすれば、係合部24が取付孔51の内周縁部に押圧されて逃げ回動することにより取付孔51を通過するとともに、取付孔51を抜けると取付孔51の挿入先側の周縁部に係止されるように復帰回動するから、取り付け作業はいわゆるワンアクションで済ませることができ、作業性に優れる。
【0037】
さらに、取付基部21が挿入元側に引っ張られるときには、回動規制面25が先端貫通部22に当接して係合部24の逃げ回動を規制するから、クリップ10を抜き去る外力により係合部24が逃げ回動することを抑制でき、クリップ10の係止保持力を高めることができる。詳しくは、係合部24は、取付基部21が取付孔51に挿入されるときには、容易に弾性変形する可撓ヒンジ24Aを中心に、逃げ回動することにより取付孔51を通過する一方で、取付基部21が挿入元側に引っ張られるときには可撓ヒンジ24Aが圧縮されて回動規制面25が先端貫通部22に当接して係合部24の逃げ回動を規制する。このように、取り付け時と、抜き去り方向に外力が掛かるときとで、係合部24が異なる作用をすることにより、挿入時の挿入抵抗を高めることなくクリップの係止保持力を高めることができる。
【0038】
さらに、先端貫通部22の前端部22A及び後端部22Bは、取付孔51の内側面51Aに近接して配置されているから、クリップ10を取付孔51に取り付けた状態で、可撓ヒンジ24Aと取付孔51の内側面51Aとが上下方向に並ぶように位置する。このため、可撓ヒンジ24Aが取付孔51の周縁部と先端貫通部22との間で上下方向に圧縮されやすく、より一層回動規制面25が先端貫通部22に当接しやすくなっている。
【0039】
さらに、係合部24は、回動方向への厚さが、例えば、全長に亘り可撓ヒンジ24Aと同じ厚さとされる場合に比べ厚くされており、剛性が高いから、クリップ10を引っ張り去る外力により係合部24が変形することを抑制でき、クリップ10の係止保持力を高めることができる。具体的には、係合部24の剛性が低い場合、係合部24が変形し、抜き去り方向とは反対側となる上方に向かって反転しようとする。そうなると係合部24の段差部24Bと取付孔51の内周縁部との係合が解消され、取付孔51に対する係止機能を有さなくなる。一方、本実施形態においては、係合部24の剛性が高いから、抜き去り方向とは反対側となる上方に向かって反転することを抑制できる。
【0040】
また、係合部24は、一対の側壁部23の間において側壁部23の側面に近接して配置されており、図9に示すように、クリップ10が平面視にて左回転して一対の側壁部23が互いに近づく方向に変形したときには、係合部24が側壁部23に当接する。このため、仮にクリップに捻り力が作用したとしても、一対の側壁部23が互いにそれ以上近づく方向に変形することを抑制することができ、クリップ10の係止保持力を高めることができる。詳しく説明すると、本実施形態のように、方形状の取付孔51を採用する場合、円形状の取付孔を採用する場合に比べ、取付孔51の周方向に回転させようとする外力がかかると側壁部23と取付孔51の内側面が当接し、その外力に抵抗できるというメリットがある。一方で、さらに大きな力がかかり、側壁部23が互いに近づく方向に変形する場合には、係合部24の段差部24Bが所定の位置からずれ、係合部24の段差部24Bと取付孔51の内周縁部との係合が解消され得るというデメリットがある。本実施形態においては、方形状の取付孔51を採用した場合においても、係合部24の段差部24Bが所定の位置からずれることを抑制し、クリップ10の係止保持力を高めることができる。
【0041】
さらに、一対の係合部24は、一対の側壁部23の間において互いに近接して配置されており、クリップ10が平面視にて右回転して一対の側壁部23が互いに近づく方向に変形したときには一対の係合部24が互いに当接する。このため、一対の側壁部23が互いにそれ以上近づく方向に変形することを抑制することができ、クリップ10の係止保持力を高めることができる。
【0042】
また、係合部24は対をなして設けられ、取付孔51の対向する二つの内側面51A側にそれぞれ係合するから、係合部24が一つしか設けられない場合に比べクリップ10の係止保持力を高めることができる。すなわち、係合部24が係合される箇所が増えるからそれぞれの係合部24にかかる外力を分散させることができるとともに、その配置が方形状の取付孔51の対向する内側面51Aとされているから、安定した係合状態を実現できる。
【0043】
また、逃げ傾斜面24Dにより係合部24と先端貫通部22との干渉を回避できるから、係合部24を可撓ヒンジ24Aとは反対側に延長して、係合部24を側壁部23に当接しやすくし、また、係合部24の剛性を高くした構成であっても、弾性係合片の逃げ回動が阻害されることを抑制できる。
【0044】
また、板厚吸収部26が設けられることにより、車両パネル50の板厚が異なる場合であっても、取り付け状態で車両パネル50を挿入方向側に押圧することができ、クリップ10の係止保持力を高めることができる。詳しくは、異なる板厚の車両パネル50を用いた場合であっても、車両パネル50は板厚吸収部26の反力により、係合部24側に押し上げられた状態で係合部24と板厚吸収部26とで挟持されるから、係合部24と車両パネル50との係合を外れにくくすることができる。
【0045】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0046】
(1)上記実施形態では、クリップ10は方形状の取付孔51に取り付けられるものとしたが、これに限られず、例えば、円形状の取付孔に取り付けられるものとしてもよい。このような構成とすれば、クリップ10の取り付け方向を、円形状の取付孔の周方向に適宜変更することができる。
【0047】
(2)上記実施形態では、係合部24は、側面視方形をなす平板状のものとしたが、これに限られず、先端貫通部22に対向する回動規制面25が設けられていればよく、その形状は三角形や扇型などであってもよい。
(3)上記実施形態では、係合部24は一対設けられるものとしたが、これに限られず、1つであってもよく、また、二対が並列して設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…クリップ
11…バンド部
11A…係止溝部
12…本体部
13…傾斜面
14…バンド挿通孔
14A…挿入口
14B…導出口
15…弾性舌片
16…係止突部
20…係止部
21…取付基部
22…先端貫通部
22A…前端部
22B…後端部
23…側壁部
24…係合部
24A…可撓ヒンジ
24B…段差部
24C…肉抜き部
24D…逃げ傾斜面
25…回動規制面
26…板厚吸収部
26A…受け面
50…車両パネル(取付部材)
50A…取付面
51…取付孔
51A…内側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付孔が貫通して設けられた取付部材に取り付けられるクリップであって、
クリップ本体から突出して設けられ前記取付孔に挿入されたときに前記取付部材の挿入先側に貫通して前記取付孔に面する状態となる先端貫通部を備えた取付基部と、
前記先端貫通部に可撓ヒンジを介して前記取付基部の基端部側に向かって延びるように設けられ、前記取付基部が前記取付孔に挿入されるときには前記取付孔の内周縁部に押圧されて前記可撓ヒンジを中心に逃げ回動することにより前記取付孔を通過するとともに、前記取付孔を抜けると前記可撓ヒンジの弾性力により前記取付孔の挿入先側の周縁部に係止されるように復帰回動する係合部と、を備え、
前記係合部のうち前記先端貫通部と対向する部分には、前記取付基部が前記取付孔に挿入されるときには前記可撓ヒンジが伸びて前記先端貫通部から離間し、前記取付基部が前記挿入元側に引っ張られるときには前記可撓ヒンジが圧縮されて前記先端貫通部に当接して前記係合部の前記逃げ回動を規制する回動規制面が設けられていることを特徴とするクリップ。
【請求項2】
前記取付孔は、方形状をなして設けられ、
前記取付基部は、一対の側壁部間に前記先端貫通部を架け渡した形状をなし、前記一対の側壁部が前記取付孔の対向する内側面にそれぞれ面するように位置しており、前記係合部は前記一対の側壁部の間において前記側壁部の側面に近接して配置されていることを特徴とする請求項1に記載のクリップ。
【請求項3】
前記係合部は、前記側壁部間に対をなして設けられ、各係合部は前記取付孔の内側面のうち前記側壁部が面する内側面とは異なる二つの内側面側にそれぞれ係合することを特徴とする請求項2に記載のクリップ。
【請求項4】
前記係合部には、前記回動規制面を前記可撓ヒンジとは反対側に延長した部分に、前記可撓ヒンジから離れるほど前記先端貫通部から遠ざかる方向へ傾斜する逃げ傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のクリップ。
【請求項5】
前記クリップ本体には、前記取付基部の先端部側に向かって延びるように設けられ、前記取付基部が前記取付孔に挿入されるときには前記取付部材の挿入元側の面に当接して、挿入方向と反対側に弾性変形するとともに、前記クリップが取付孔に取り付けられたときには弾性力により前記取付部材を挿入方向側に押圧する板厚吸収部が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のクリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−122531(P2012−122531A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272925(P2010−272925)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】