説明

クリンカアッシュ生成促進方法及びクリンカアッシュ生成促進剤

【課題】クリンカアッシュの生成を促進するクリンカアッシュ生成促進方法及びこれに用いるクリンカアッシュ生成促進剤を提供する。
【解決手段】
クリンカアッシュ生成促進方法は、微粉炭燃焼施設1において燃料となる石炭に、石炭の燃焼残渣を含むクリンカアッシュ生成促進剤を添加することによりクリンカアッシュの生成を促進させる方法であって、石炭の燃焼残渣として、クリンカアッシュを用いる。クリンカアッシュ生成促進剤は、クリンカアッシュの表面に生石灰のスラリー、石灰石のスラリー、消石灰のスラリーからなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物スラリーが塗布されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリンカアッシュの生成を促進させるクリンカアッシュ生成促進方法及びこれに用いるクリンカアッシュ生成促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電システムにおいて石炭を燃焼させる方法としては種々の方式があるが、なかでも、石炭を微粉砕した粒子を炉内に吹き込んで燃焼させる、いわゆる微粉炭燃焼が主に採用されている。石炭の燃焼によって、クリンカアッシュ、フライアッシュなどの石炭灰が副生物として生成される。
【0003】
クリンカアッシュは火炉から落下するもので、ボトムアッシュとも称される。
【0004】
フライアッシュは残りの煤塵であり、主に電気集塵機などによって高い効率で捕集される微粒子である。石炭灰のうち、その大部分を占めるフライアッシュは、セメント原料、又は、海砂の代わりとなる地盤改良剤、軟弱土の固化処理材等、新たな土木材料として有効活用されている。また、その一部は埋め立て処分されている。
【0005】
また、集塵機以外に、節炭器、空気予熱器、及び、脱硝装置からも少量(合計約1%〜2%)ではあるが石炭灰が捕集される。節炭器、空気予熱器、及び、脱硝装置から捕集される石炭灰をまとめてシンダアッシュという。
【0006】
ところで、原料となる石炭は炭素以外にも、ホウ素、フッ素、セレン、ヒ素、六価クロムなどの有害な元素を微量ながら含んでいる(以下、上記有害な元素を「有害微量元素」という。)。このため、環境への配慮から、石炭を燃焼した後の残渣である石炭灰からの有害微量元素の溶出について、その許容濃度が法律で規定されている。
【0007】
しかしながら、日本に輸出される石炭種は、年間100炭種以上あり、それらのすべてが、上記の規制値を満足するわけではない。特に、フライアッシュは、表面のみガラス固化している粒子である。このため、有害微量元素を多く含有している石炭種を使用した場合、フライアッシュの粒子内に有害微量元素が一旦閉じ込められても、地盤改良剤、固化処理材等として使用され長時間経過した後に有害微量元素が粒子から溶出してしまう可能性がある。
【0008】
これに対して、クリンカアッシュは、フライアッシュとは異なり、粒子全体がガラス固化されているため、何らかの用途で使用され長時間経過したとしても、有害微量元素を溶出することはない。また、クリンカアッシュは、石炭灰中に含まれる石炭由来の揮発性成分、特に、硫黄分と反応して硫黄分を低融点化合物として取り込む。すなわち、クリンカアッシュの生成によって炉内脱硫が行われる。
【0009】
以上のように、クリンカアッシュは、有害微量元素を溶出させず脱硫効果を有するという点で、フライアッシュよりも環境保全の面で優れている。また、例えば、特許文献1及び2に示すような人工骨材、土壌改良材等のように、クリンカアッシュの様々な有効利用法が提案されている。このため、クリンカアッシュの需要は急増しており、それに伴ってクリンカアッシュの経済的価値も急伸している。
【特許文献1】特開2005−187531号公報
【特許文献2】特開2005−104804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、クリンカアッシュの発生量は全石炭灰の3〜15%であり、フライアッシュのそれよりも非常に小さい。したがって、クリンカアッシュの生成を促進させる技術が望まれている。
【0011】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、クリンカアッシュの生成を促進するクリンカアッシュ生成促進方法及びこれに用いるクリンカアッシュ生成促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1) 石炭火力発電システムにおいて燃料となる石炭に、前記石炭の燃焼残渣を含むクリンカアッシュ生成促進剤を添加することによりクリンカアッシュの生成を促進させるクリンカアッシュ生成促進方法であって、前記石炭の燃焼残渣として、クリンカアッシュを用いるクリンカアッシュ生成促進方法。
【0013】
(1)の発明によれば、石炭の燃焼残渣であるクリンカアッシュを石炭に添加する。クリンカアッシュは、アモルファス物質であるため、高温である炉内温度(例えば、約1300℃から1500℃)に対して比較的低い温度(例えば、約1000℃)で粘性を有し、さらに、高温になると流体化する。すなわち、クリンカアッシュは、炉内において比較的低い温度で再溶融化される。
【0014】
以上のメカニズムにより、添加されたクリンカアッシュを低温度で溶融化させることが可能となる。低融点化により軟化したクリンカアッシュの表面には、石炭由来の鉱物粒子や揮発成分が接触(凝縮)する。接触した鉱物粒子や揮発成分は、クリンカアッシュの表面が徐々に固化(ガラス固化)されることにより、クリンカアッシュに取り込まれる。すなわち、鉱物粒子や揮発成分はクリンカアッシュに物理的に取り込まれることになる。
【0015】
以上のようにクリンカアッシュが鉱物粒子や揮発成分を物理的に取り込む結果、クリンカアッシュ生成を促進させることが可能である。
【0016】
また、以上のような物理的な取り込みは有害微量元素にも起こる。したがって、(1)の発明によれば、フライアッシュとともに集塵装置で集塵される可能性のあった粒子状の有害微量元素、及び、脱硫排水に含有される可能性のあったガス状の有害微量元素が生成されたクリンカアッシュに取り込まれる量が増える。このため、さらなる有害微量元素の溶出を防止することが可能である。また、排ガス中の揮発性成分、特に硫黄成分にも物理的な取り込みが起こるため、クリンカアッシュが添加されない場合よりも炉内脱硫を進行させることが可能である。
【0017】
なお、「有害微量元素」とは、ホウ素、ヒ素、臭素、シアン、塩素、ヨウ素、硫黄、窒素、リン、シリカ、スズ、チタン、バナジウム、タングステン、セレン、フッ素、ニッケル、マグネシウム、マンガンなどの石炭中に含有する、人間にとって有害となり得る元素である。
【0018】
(2) 前記クリンカアッシュ生成促進剤は、前記クリンカアッシュの表面に生石灰のスラリー、石灰石のスラリー、消石灰のスラリーからなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物スラリーが塗布されたものである(1)記載のクリンカアッシュ生成促進方法。
【0019】
クリンカアッシュは、多孔質のため比重が小さく、そのまま炉内に投入された場合、炉内の送風のために次工程に吹き飛ばされてしまう可能性がある。
【0020】
(2)の発明によれば、クリンカアッシュの表面に生石灰のスラリー、石灰石のスラリー、消石灰のスラリーからなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物スラリーを塗布することにより、クリンカアッシュが次工程に吹き飛ばされることによって低温度での溶融化が妨げられる状態を回避する。
【0021】
また、カルシウム化合物スラリーは炉内の熱により熱分解され、カルシウム化合物はCaOに分解される。このCaO中のCa分は鉱物であるシリカ、砒素等とともに低融点化合物を生成するため、添加されたクリンカアッシュを含む石炭灰自体の低融点化を起こす。このため、(1)で述べたように、鉱物粒子や揮発成分を、クリンカアッシュを含む石炭灰に物理的に取り込ませることが可能となり、さらにクリンカアッシュの生成が促進されることになるとともに、さらなる有害微量元素の溶出を防止することが可能である。また、より炉内脱硫を進行させることが可能である。
【0022】
(3) 前記石炭に対して前記クリンカアッシュ生成促進剤の濃度が0.1質量%以上20質量%以下の範囲となるように添加する(1)又は(2)記載のクリンカアッシュ生成促進方法。
【0023】
石炭に対してクリンカアッシュ生成促進剤の濃度が0.1質量%以上20質量%以下の範囲となるように添加することにより、クリンカアッシュの生成をより促進させることが可能である。
【0024】
(4) 石炭火力発電システムにおいて燃料となる石炭に添加することにより、クリンカアッシュの生成を促進させる前記石炭の燃焼残渣を含むクリンカアッシュ生成促進剤であって、前記石炭の燃焼残渣はクリンカアッシュであるクリンカアッシュ生成促進剤。
【0025】
(4)の発明は、(1)の発明をクリンカアッシュ生成促進剤として捕らえたものであり、(1)と同じ効果を奏する。
【0026】
(5) 前記クリンカアッシュ生成促進剤は、前記クリンカアッシュの表面に生石灰のスラリー、石灰石のスラリー、消石灰のスラリーからなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物スラリーを塗布したものである(4)記載のクリンカアッシュ生成促進剤。
【0027】
(5)の発明は、(2)の発明をクリンカアッシュ生成促進剤として捕らえたものであり、(2)と同じ効果を奏する。
【0028】
(6) 前記クリンカアッシュ生成促進剤中の前記カルシウム化合物スラリーの濃度は、0.1質量%以上20質量%以下の範囲である請求項5記載のクリンカアッシュ生成促進剤。
【0029】
クリンカアッシュ生成促進剤中のカルシウム化合物スラリーの濃度を0.1質量%以上20質量%以下の範囲とすることにより、クリンカアッシュの生成をより促進させることが可能である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、クリンカアッシュが炉内において比較的低い温度で再溶融化され、再溶融化により軟化したクリンカアッシュの表面に接触した石炭由来の鉱物粒子や揮発成分が取り込まれるので、クリンカアッシュの生成が促進される。
【0031】
また、フライアッシュとともに集塵装置で集塵される可能性のあった粒子状の有害微量元素、及び、脱硫排水に含有される可能性のあったガス状の有害微量元素がクリンカアッシュに取り込まれる量が増える。このため、さらなる有害微量元素の溶出を防止することが可能である。また、排ガス中の揮発性成分、特に硫黄成分にも物理的な取り込みが起こるため、クリンカアッシュが添加されない場合よりも炉内脱硫を進行させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
<A:石炭火力発電システムにおける微粉炭燃焼施設の構成>
以下、本発明の一例を示す実施形態について、図面に基づいて説明する。図1は、石炭火力発電システムにおける微粉炭燃焼施設1を示すブロック図である。ここで、図1に示すように、微粉炭燃焼施設1は、石炭を供給する石炭供給部12と、供給された石炭を微粉炭にする微粉炭生成部14と、微粉炭を燃焼する微粉炭燃焼部16と、微粉炭の燃焼により生成された排ガスを処理する排ガス処理部18と、スラリー塗布部20と、を備える。図2は、微粉炭燃焼部16における火炉161付近の拡大図である。図3は、微粉炭燃焼施設1の概要構成図の一例である。
【0033】
<A−1:石炭供給部>
石炭供給部12は、石炭を貯蔵する石炭バンカ121と、この石炭バンカ121に貯蔵された石炭を供給する給炭機122と、を備える。石炭バンカ121は、給炭機122へ供給する石炭を貯蔵する。給炭機122は、石炭バンカ121から供給された石炭を連続して石炭微粉炭機141へ供給するものである。また、この給炭機122は、石炭の供給量を調整する装置を備えており、これにより、石炭微粉炭機141に供給される石炭量が調整される。また、これら石炭バンカ121と給炭機122との境界には石炭ゲートが設けられており、これにより、給炭機からの空気が石炭バンカへ流入するのを防いでいる。
【0034】
<A−2:微粉炭生成部>
微粉炭生成部14は、石炭を微粉炭燃焼が可能な微粉炭にする石炭微粉炭機(ミル)141と、この石炭微粉炭機141に空気を供給する空気供給機142と、を備える。
【0035】
石炭微粉炭機141は、給炭機122から給炭管を介して供給された石炭を、微細な粒度に粉砕して微粉炭を形成するとともに、この微粉炭と、空気供給機142から供給された空気とを混合する。このように、微粉炭と空気とを混合することにより、微粉炭を予熱及び乾燥させ、燃焼を容易にする。形成された微粉炭には、エアーが吹き付けられて、これにより、微粉炭燃焼部16に微粉炭を供給する。
【0036】
石炭微粉炭機141の種類としては、ローラミル、チューブミル、ボールミル、ビータミル、インペラーミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく微粉炭燃焼で用いられるミルであればよい。
【0037】
<A−3:微粉炭燃焼部>
微粉炭燃焼部16は、微粉炭生成部14で生成された微粉炭を燃焼する火炉161と、この火炉161を加熱する加熱機162と、火炉161に空気を供給する空気供給機163と、を備える。
【0038】
火炉161は、加熱機162により加熱されて、石炭微粉炭機141から微粉炭管を介して供給された微粉炭を、空気供給機163から供給された空気とともに燃焼する。微粉炭を燃焼することにより、クリンカアッシュ及びフライアッシュなどの石炭灰(石炭の燃焼残渣)が副生物として生成される。クリンカアッシュは火炉161から落下するもので、ボトムアッシュとも称される。また、フライアッシュは残りの煤塵である。また、石炭灰とともに、二酸化硫黄(SO)及び三酸化硫黄(SO)等の硫黄酸化物(SOx)、及び、窒素酸化物(NOx)等の排ガスが発生する。さらには、石炭中に含有されていたホウ素、フッ素、セレン、ヒ素などの有害微量元素のうち、ホウ素、フッ素、セレンは、酸化ホウ素、フッ化水素、酸化セレンのように、ガス状の化合物として排ガス中に存在することになる。これら有害微量元素の化合物は、排ガスやフライアッシュ等とともに、排ガス処理部18に送られる。
【0039】
図2及び図3を参照して、火炉161について詳しく説明すると、図2において、火炉161は全体として略逆U字状をなしており、図中矢印に沿って燃焼ガスが逆U字状に移動した後、2次節炭器161eを通過後に、再度小さくU字状に反転し、火炉161の出口(図2における矢印の最後)は、脱硝装置181、集塵装置182に接続されている。本実施形態に係る微粉炭燃焼施設1においては、火炉161の高さは40mから60mであり、排ガスの流路の全長は200mから800mに及ぶ。
【0040】
火炉161の下方には、火炉161内のバーナーゾーン161a’付近で微粉炭を燃焼するためのバーナー161aと、クリンカアッシュが排出される灰処理ホッパ161fと、が配置されている。灰処理ホッパ161fから排出されたクリンカアッシュは、スラリー塗布部20に送られる。また、火炉161内のU字頂部付近には、火炉上部分割壁161b、最終過熱器161b’、第1の再熱器161f(いずれも熱交換ユニット)が配置されており、さらにそこから横置き1次過熱器161c(熱交換ユニット)が続いて配置されている。さらに、横置き1次過熱器161cと平行して第2の再熱器161f’が設けられており、横置き1次過熱器161cの終端付近からは、1次節炭器161d(熱交換ユニット)、2次節炭器161e(熱交換ユニット)が2段階に設けられている。ここで、節炭器(ECOとも呼ばれる)は、燃焼ガスの保有する熱を利用してボイラ給水を予熱するために設けられた伝熱面群であり、その下方には、慣性衝突により捕集される石炭灰、いわゆるECO灰を排出するための灰処理ホッパ161gが設けられている。なお、本実施形態においては、火炉161中、1次節炭器161dと2次節炭器161eとは、2段階に分離して設置されているが、このような形態に限定されない。即ち、火炉161は単一の節炭器のみを有するものであってもよい。
【0041】
<A−4:排ガス処理部>
排ガス処理部18は、微粉炭燃焼部16から排出された排ガス中の窒素酸化物を除去する脱硝装置181と、微粉炭燃焼部16から排出された排ガス中のフライアッシュを除去する集塵装置182と、排ガス中の硫黄酸化物を除去する脱硫装置183と、この脱硫装置183で処理された排ガスを大気に放出する煙突184と、を備える。
【0042】
脱硝装置181は、排ガス中の窒素酸化物を除去するものである。すなわち、比較的高温(300〜400℃)の排ガス中に還元剤としてアンモニアガスを注入し、脱硝触媒との作用により排ガス中の窒素酸化物を無害な窒素と水蒸気に分解する、いわゆる乾式アンモニア接触還元法が好適に用いられる。
【0043】
集塵装置182は、排ガス中のフライアッシュを電極で収集する装置である。集塵装置182は複数段設けられていることが好ましい。この集塵装置182により捕集されたフライアッシュは、図示しない石炭灰回収サイロに搬送される。
【0044】
脱硫装置183は、排ガス中の硫黄酸化物を除去するものである。すなわち、脱硫装置183は、排ガスに石灰石と水との混合液(石灰石スラリー)を吹き付けることにより、排ガスに含まれる硫黄酸化物を混合液に吸収させて石こうスラリーを生成させる。脱硫装置183は、この石こうスラリーを脱水処理することで石こうを生成させる。生成された石こうは、図示しない石こう回収装置に回収される。
【0045】
煙突184は、脱硝装置181、集塵装置182、及び、脱硫装置183によって処理された排ガスを大気に放出するものである。
【0046】
<A−5:スラリー塗布部>
スラリー塗布部20は混合槽201を備える。混合槽201は、微粉炭燃焼部16の火炉161の灰処理ホッパ161fから排出されたクリンカアッシュとカルシウム化合物スラリーとを混合させる槽である。クリンカアッシュとカルシウム化合物スラリーとが混合され、クリンカアッシュにカルシウム化合物スラリーが塗布されることによって、クリンカアッシュ生成促進剤が生成される。ここで、カルシウム化合物スラリーとは、生石灰のスラリー、石灰石のスラリー、消石灰のスラリーからなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むものであり、クリンカアッシュ生成促進剤とは、クリンカアッシュの表面にカルシウム化合物スラリーが塗布されたものである。
【0047】
なお、本実施形態において、クリンカアッシュ生成促進剤は、クリンカアッシュにカルシウム化合物スラリーが塗布されたものであるが、カルシウム化合物スラリーを塗布せずにクリンカアッシュをそのままクリンカアッシュ生成促進剤として使用するものでもよい。
【0048】
<B:本発明のクリンカアッシュ生成促進方法>
本発明のクリンカアッシュ生成促進方法は、石炭火力発電システムにおいて燃料となる石炭に、前記石炭の燃焼残渣を含むクリンカアッシュ生成促進剤を添加することによりクリンカアッシュの生成を促進させる方法であって、前記石炭の燃焼残渣として、クリンカアッシュを用いることにより、クリンカアッシュの生成を促進させるものであるが、これを、上記の微粉炭燃焼施設1を用いて説明する。好ましくは石炭供給工程S10、微粉炭生成工程S20、微粉炭燃焼工程S30のいずれかで行われる。
【0049】
この工程は、石炭を供給する石炭供給工程S10と、供給された石炭を粉砕して微粉炭を生成する微粉炭生成工程S20と、この微粉炭を燃焼する微粉炭燃焼工程S30と、排ガス中の窒素酸化物、フライアッシュ、及び、硫黄酸化物を除去する排ガス処理工程S40と、スラリー塗布工程S45と、を含み、これら各工程は、それぞれ、上述の微粉炭燃焼施設1の石炭供給部12、微粉炭生成部14、微粉炭燃焼部16、排ガス処理部18、スラリー塗布部20、において行われる。そして、本発明の特徴であるクリンカアッシュ生成促進剤添加工程S50は、好ましくは上記の石炭供給工程S10、微粉炭生成工程S20、微粉炭燃焼工程S30のいずれかで行われる。
【0050】
<石炭供給工程S10>
まず、石炭供給工程では、石炭バンカ121に貯蔵された石炭が、給炭機122により、石炭微粉炭機141に供給される。なお、この石炭微粉炭機141に供給される石炭は、具体的には瀝青炭、亜瀝青炭、又は、褐炭等であるが、これらの石炭に限定されるものではなく微粉炭燃焼が行える石炭であればよい。
【0051】
<微粉炭生成工程S20>
次に、微粉炭生成工程では、給炭機122から供給された石炭が石炭微粉炭機141により粉砕されて、これにより、微粉炭が生成される。生成された微粉炭は、火炉161に供給される。このとき、この微粉炭生成工程で粉状に形成された微粉炭の平均の粒度は、微粉炭燃焼で一般的に用いられる粒径範囲であればよく、一般的には、74μmアンダー80wt%以上の粉砕度である。なお、この範囲はクリンカアッシュ生成促進剤が添加された場合にも適用できる。
【0052】
<微粉炭燃焼工程S30>
次に、微粉炭燃焼工程では、石炭微粉炭機141で生成された微粉炭が、火炉161により燃焼される。図2及び図3に示すように、バーナーゾーン161a’においては微粉炭が燃焼されるが、このときの温度は1300℃から1500℃に及び、燃焼によって生成される石炭灰のうち、クリンカアッシュは下向きの矢印の方向に沿って下降し、灰処理ホッパ161fから排出される。フライアッシュは上向きの矢印の方向に沿って上昇して排ガスとともに過熱器(熱交換ユニット)161b、161cを通過し、1次節炭器161d(熱交換ユニット)、2次節炭器161e(熱交換ユニット)を順次通過する。
【0053】
上記のように、この節炭器付近は、850℃から900℃前後が維持されている領域であり、この燃焼ガスの保有する熱を利用してボイラ給水を予熱するために設けられた伝熱面群を通過することによって熱交換され、温度が低下する。排ガスがバーナーゾーン161a’から過熱器付近まで到達するまでに要する時間は、おおむね5秒から15秒である。そして、その後、後段の集塵装置182、脱硫装置183に送られる。この微粉炭燃焼工程で生成される石炭灰は、通常、その平均の粒度が1μmから100μmの範囲内の粉末状である。
【0054】
<排ガス処理工程S40>
排ガス処理工程では、微粉炭の燃焼によって発生した排ガスが、脱硝装置181に送られ、さらに、集塵装置182、及び、脱硫装置183を経て、その後煙突184によって大気に放出される。
【0055】
<スラリー塗布工程S45>
スラリー塗布工程S45では、クリンカアッシュとカルシウム化合物スラリーとが混合槽201にて混合され、クリンカアッシュにカルシウム化合物スラリーが塗布されたクリンカアッシュ生成促進剤が生成される。
【0056】
<クリンカアッシュ生成促進剤添加工程S50>
本発明の特徴であるクリンカアッシュ生成促進剤を添加する工程であるクリンカアッシュ生成促進剤添加工程S50は、図1に示すように、好ましくは上記の石炭供給工程S10、微粉炭生成工程S20、微粉炭燃焼工程S30のいずれかに対して行われる(それぞれ、図1におけるS51、S52、S53)。
【0057】
なお、クリンカアッシュ生成促進剤の添加場所は、石炭の状態であれば特に限定されず、例えば、石炭供給工程S10と微粉炭生成工程S20との間の移送路や、微粉炭生成工程S20と微粉炭燃焼工程S30との間の移送路などで行われてもよい。
【0058】
具体的には、例えば、給炭機122から石炭微粉炭機141に輸送する際の移送中のベルトコンベア上にクリンカアッシュ生成促進剤を供給して混合する方法(図3参照)、クリンカアッシュ生成促進剤を石炭微粉炭機141の石炭ホッパ(図示せず)に直接投入する方法、石炭微粉炭機141と火炉161の間の配管に剤投入口を設けて供給する方法、火炉161へ燃焼用空気とともに直接投入する方法、などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。このように、本発明の方法は新たな設備を必要とせず、既存の設備の軽微な改良で適用可能であるため、既存設備を有効利用することができ、コスト的にも有利である。
【0059】
上記のクリンカアッシュ生成促進剤の添加により、本発明においては、排ガス中に含まれる有害微量元素の種類に関わりなく、脱硫排水への有害微量元素の流入を抑制することが可能である。具体的に脱硫排水への流入を抑制することができる有害微量元素としては、特に限定されないが、ホウ素、ヒ素、臭素、シアン、塩素、ヨウ素、硫黄、窒素、リン、シリカ、スズ、チタン、バナジウム、タングステン、セレン、フッ素、ニッケル、マグネシウム、マンガンなどを挙げることができる。この中でも特に、ガス状化合物となり得る、ホウ素、フッ素及び砒素等の脱硫排水への流入を、より抑制することができる。
【0060】
本発明のクリンカアッシュ生成促進剤は、クリンカアッシュを含む薬剤であるが、クリンカアッシュの表面に生石灰のスラリー、石灰石のスラリー、消石灰のスラリーからなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物スラリーが塗布された薬剤であることが好ましい。
【0061】
石炭に対してクリンカアッシュ生成促進剤の濃度が0.1質量%以上20質量%以下の範囲となるようにクリンカアッシュ生成促進剤を添加することが好ましい。この範囲であれば、火炉161に負荷を与えず、且つ、クリンカアッシュの生成を促進することが可能である。
【0062】
クリンカアッシュ生成促進剤中の前記カルシウム化合物スラリーの濃度は、0.1質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましい。この範囲であれば、クリンカアッシュの生成を促進することが可能である。
【0063】
クリンカアッシュ生成促進剤を石炭に添加すると、クリンカアッシュ生成促進剤中のクリンカアッシュは、アモルファス物質であるため、高温である炉内温度(例えば、約1300℃〜1500℃)に対して比較的低い温度(例えば、約1000℃)で粘性を有し、さらに、高温になると流体化する。すなわち、クリンカアッシュは、炉内において比較的低い温度で再溶融化される。
【0064】
また、クリンカアッシュ生成促進剤中のカルシウム化合物スラリーは炉内の熱により熱分解され、カルシウム化合物はCaOに分解される。このCaO中のCa分は鉱物であるシリカ、砒素等とともに低融点化合物を生成するため、添加されたクリンカアッシュを含む石炭灰自体の低融点化を起こす。
【0065】
以上のメカニズムにより、添加されたクリンカアッシュ及びこの添加されたクリンカアッシュ以外の石炭灰を低温度で溶融化させることが可能となる。低融点化により軟化したクリンカアッシュ及び石炭灰の表面には、石炭由来の鉱物粒子や揮発成分が接触(凝縮)する。接触した鉱物粒子や揮発成分は、クリンカアッシュ及び石炭灰の表面が徐々に固化(ガラス固化)されることにより、クリンカアッシュ及び石炭灰に取り込まれる。すなわち、鉱物粒子や揮発成分はクリンカアッシュ及び石炭灰に物理的に取り込まれることになる。
【0066】
以上のような添加されたクリンカアッシュ及び添加されたクリンカアッシュ以外の石炭灰に鉱物粒子や揮発成分が物理的に取り込まれることにより、クリンカアッシュが生成されることになる。すなわち、クリンカアッシュ生成促進剤を石炭に添加することにより、クリンカアッシュの生成を促進させることが可能である。
【0067】
また、以上のような物理的な取り込みは有害微量元素にも起こる。したがって、フライアッシュとともに集塵装置で集塵される可能性のあった粒子状の有害微量元素、及び、脱硫排水に含有される可能性のあったガス状の有害微量元素がクリンカアッシュ及びクリンカアッシュ以外の石炭灰に取り込まれる量が増える。このため、さらなる有害微量元素の溶出を防止することが可能である。また、排ガス中の揮発性成分、特に硫黄成分にも物理的な取り込みが起こるため、クリンカアッシュ生成促進剤が添加されない場合よりも炉内脱硫を進行させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、クリンカアッシュの生成を促進することが可能となり、また、生成が促進されたクリンカアッシュに有害微量元素や硫黄成分を取り込ませることが可能となる。すなわち、本発明は、需要が急増しているクリンカアッシュの生成を促進させることができるため経済的効果が大きく、環境保全に貢献することを可能とさせる技術である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態を示す石炭火力発電システムにおける微粉炭燃焼施設の概略構成図である。
【図2】図1における火炉付近の拡大図である。
【図3】石炭火力発電システムにおける微粉炭燃焼施設の概略構成図の一例である。
【符号の説明】
【0070】
1 微粉炭燃焼施設
12 石炭供給部
121 石炭バンカ
122 給炭機
14 微粉炭生成部
141 石炭微粉炭機
142 空気供給機
16 微粉炭燃焼部
161 火炉
162 加熱機
163 空気供給機
18 排ガス処理部
181 脱硝装置
182 集塵装置
183 脱硫装置
184 煙突
201 混合槽
S10 石炭供給工程
S20 微粉炭生成工程
S30 微粉炭燃焼工程
S40 排ガス処理工程
S45 スラリー塗布工程
S50 クリンカアッシュ生成促進剤添加工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭火力発電システムにおいて燃料となる石炭に、前記石炭の燃焼残渣を含むクリンカアッシュ生成促進剤を添加することによりクリンカアッシュの生成を促進させるクリンカアッシュ生成促進方法であって、
前記石炭の燃焼残渣として、クリンカアッシュを用いるクリンカアッシュ生成促進方法。
【請求項2】
前記クリンカアッシュ生成促進剤は、前記クリンカアッシュの表面に生石灰のスラリー、石灰石のスラリー、消石灰のスラリーからなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物スラリーが塗布されたものである請求項1記載のクリンカアッシュ生成促進方法。
【請求項3】
前記石炭に対して前記クリンカアッシュ生成促進剤の濃度が0・1質量%以上20質量%以下の範囲となるように添加する請求項1又は2記載のクリンカアッシュ生成促進方法。
【請求項4】
石炭火力発電システムにおいて燃料となる石炭に添加することにより、クリンカアッシュの生成を促進させる前記石炭の燃焼残渣を含むクリンカアッシュ生成促進剤であって、
前記石炭の燃焼残渣はクリンカアッシュであるクリンカアッシュ生成促進剤。
【請求項5】
前記クリンカアッシュ生成促進剤は、前記クリンカアッシュの表面に生石灰のスラリー、石灰石のスラリー、消石灰のスラリーからなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むカルシウム化合物スラリーを塗布したものである請求項4記載のクリンカアッシュ生成促進剤。
【請求項6】
前記クリンカアッシュ生成促進剤中の前記カルシウム化合物スラリーの濃度は、0.1質量%以上20質量%以下の範囲である請求項5記載のクリンカアッシュ生成促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−333344(P2007−333344A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168192(P2006−168192)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】