説明

クリープグローンを抑制する車輌用制動装置

【課題】ブレーキペダルの踏み込みに応じてブレーキディスクにブレーキパッドを押し付けることにより車輪の回転を制動する車輌用制動装置に於いて、クリープグローン抑制のために制動力が所定の目標値より外れる度合を最小限に抑えてクリープグローンの発生に遅れなく対処することができる車輌用制動装置を提供する。
【解決手段】車輪がブレーキペダルの踏み込み度合の低下に伴って回転し始めたときから始まって、一時的にブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力をブレーキペダルの踏み込み度合に対応する値より低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輌の制動装置に係り、特に停止状態に制動されていた車輌が制動を緩められてクリープし始める時に制動装置にクリープグローンと称される異音が発生することを防止することに係る。
【背景技術】
【0002】
車輌が制動下にてクリープするとき異音が発生することがあることが知られており、これはクリープグローンと称されている。
【0003】
クリープグローンに関しては、それを低コストにて検出する手段として、制動油圧回路の途中を開閉する電磁弁の弁体が開位置にあるとき該弁体に接する位置に振動検出素子を設けることが下記の特許文献1に記載されている。また下記の特許文献2には、クリープグローンを防止できるブレーキ圧制御装置として、第一の所定ブレーキ圧およびこれより低い第二の所定ブレーキ圧を設定し、ブレーキ圧減圧過程に於いてブレーキ圧が第一の所定ブレーキ圧から第二の所定ブレーキ圧に達するまでの間ブレーキ装置をリザーバに接続することが記載されており、下記の特許文献3では同じくクリープグローンを防止できるブレーキ圧制御装置として、第一の所定ブレーキ圧およびこれより低い第二の所定ブレーキ圧を設定し、ブレーキ圧減圧過程に於いてブレーキ圧が第一の所定ブレーキ圧から第二の所定ブレーキ圧に達するまでの間ブレーキ圧を脈動状態で減圧することが記載されている。また下記の特許文献4には、クリープグローンが主として前輪に於いて発生するものとし、車輌が停止したら前輪側制動力より後輪側制動力の方が大きくなるよう制動力配分制御を行うことが記載されている。また下記の特許文献5には、クリープ走行時に発生するクリープグローンを検出する方法として、所定の速度以下で走行中のブレーキ作動時にブレーキトルクおよびキャリパの振動を検出し、それが所定以上のときブレーキノイズ発生とすることが記載されている。
【特許文献1】特開2000-179506
【特許文献2】特開2000-168539
【特許文献3】特開2000-211493
【特許文献4】特開2002-160614
【特許文献5】特開2000-344072
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1および5に記載されている技術は、クリープグローンが発生した後にそれを検出して対処することに関するものであるが、この場合クリープグローンの抑制には必然的にある時間遅れが伴う。一方、上記の特許文献2および3に記載されている技術は、クリープグローン抑制のための対策を講ずるブレーキ圧の範囲を予め設定しておくものであるが、クリープグローン発生時点のブレーキ圧は必ずしも一定値に定まってはいないので、クリープグローンを確実に抑制するためには、クリープグローンが発生するブレーキ圧の変動幅を見て、上記の第一のブレーキ圧は高めにまた上記の第二のブレーキ圧は低めに設定しておく必要があり、それだけクリープグローン抑制のためにブレーキ圧が所定の目標値より外れる度合が大きいと懸念される。
【0005】
本発明は、クリープグローン抑制のために制動力が所定の目標値より外れる度合を最小限に抑えてクリープグローンの発生に遅れなく対処することができる車輌用制動装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するものとして、本発明は、ブレーキペダルの踏み込み度合に対応した押圧力にてブレーキディスクにブレーキパッドを押し付けることにより車輪の回転を制動するよう構成された車輌用制動装置にして、制動により停止していた車輪がブレーキペダルの踏み込み度合の低下に伴って回転し始めたときから始まって、一時的にブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力をブレーキペダルの踏み込み度合に対応する値より低減するようになっていることを特徴とする車輌用制動装置を提案するものである。
【0007】
制動により停止していた車輪がブレーキペダルの踏み込み度合の低下に伴って回転し始めたことはブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力に対し車輪に作用する制動トルクの比が低下し始めたことにより検出されるようになっていてよい。
【0008】
ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一時的低減はブレーキディスクとブレーキパッドの間に静摩擦係合と動摩擦係合の反転繰り返しを生じさせない値以下とされてよい。
【0009】
ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一時的低減はブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力を一定値に維持するように行われてよく、またブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一定値への維持はブレーキペダルの踏み込み度合に対応したブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力が当該一定値になるまで行われてよい。
【0010】
ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一時的低減の途中でブレーキペダルの踏み込み度合が増大方向に転じた時にはブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一時的低減を中止するようになっていてよい。
【0011】
ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力はホイールシリンダへ供給される制動油圧により置き換えられてよく、またブレーキペダルの踏み込み度合はブレーキペダルの踏み込み力(ペダル踏力)またはブレーキペダルの踏み込みストローク(ペダルストローク)により置き換えられてよい。
【発明の効果】
【0012】
自動車等の車輌に於いて、ブレーキペダルが、例えば添付の図4にてペダル踏力Fd1として表されている如く、車輌を停止状態に維持するに十分な或るかなりの度合にて踏み込まれ、それに対応して同図にて制動油圧Pb1として示されている油圧にてブレーキパッドがブレーキディスクに押し付けられていて,アイドル運転されているエンジンよりトルクコンバータを経て駆動力を及ぼされた状態で車輌が停止しているとして、時点t1から始まって、ブレーキペダルの踏み込み度合が低減され、それに対応して同図にて制動油圧として示されている如くブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける力が低下してくると、当初はブレーキディスクとブレーキパッドの間には静摩擦よる制動力が作用しているので車輪は回転せず、ペダル踏力がFd2まで低下し、それに対応して制動油圧がPb2まで低下した時点t2にて車輪にかかる駆動力が制動力に打ち勝ち、車輪が回転し始める。
【0013】
車輪が回転し始めと、ブレーキディスクとブレーキパッドの間に作用する制動は動摩擦による制動となるので、摩擦係数が格段に低下し、車輪にかかる制動トルクTbはTb1の値から急降下し、車輪にかかる制動力と駆動力との間に一瞬大きな差が生じる。このとき車輪にはタイヤによる弾性があるので、ブレーキディスクを含む車輪のホイール部はタイヤの弾性が許す範囲でタイヤの回転に先行して一瞬微小角度だけ急回転する。しかしこの一瞬の微小角度の急回転が終わると、次の瞬間にはその反動としてブレーキディスクの回転が停止し、ブレーキディスクとブレーキパッドの間の相対運動がなくなり、その間の係合は動摩擦係合から静摩擦係合に戻り、車輪にかかる制動トルクは急上昇する。
【0014】
しかしこの静摩擦係合はまたすぐ崩れるので、これに続いて同様の動摩擦係合と静摩擦係合の繰り返しが生じ、制動トルクには図4に示す如き上下変動が生ずる。但し、図4では、図示の都合上、時間軸に対する制動トルクの変動周期は大幅に拡大して示されている。クリープグローン発生にはかかる現象が伴っていると考えられる。かかるクリープグローンは、車速がブレーキディスクとブレーキパッドの間に静摩擦係合が生ずる瞬間を残さない程の値Veに達する時点teまで続く。
【0015】
そこで、ブレーキペダルの踏み込み度合に対応した押圧力にてブレーキディスクにブレーキパッドを押し付けることにより車輪の回転を制動するよう構成された車輌用制動装置に於いて、制動により停止していた車輪がブレーキペダルの踏み込み度合の低下に伴って回転し始めたときから始まって、一時的にブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力をブレーキペダルの踏み込み度合に対応する値より低減するようにしておけば、上記の如き現象による制動トルクの上下変動を回避することができ、クリープグローン抑制のために制動力がブレーキペダルの踏み込み度合に対応した所定の目標値より外れる度合を最小限に抑えてクリープグローンをその発生に先だって抑制することができる。
【0016】
図1はそのような本発明によるクリープグローン抑制の原理を示す図4と同様のグラフである。このグラフに示されている通り、本発明によれば、制動により停止していた車輪がブレーキペダルの踏み込み度合の低下に伴って回転し始めたとき(時点t2)から始まって、このグラフでは制動油圧により表されているブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力が、ブレーキペダルの踏み込み度合に対応する値より一時的に低減され、これによって制動トルクは図示の如く低減され、図4に示したような制動トルクの振動的変化の発生が回避される。
【0017】
制動により停止していた車輪がブレーキペダルの踏み込み度合の低下に伴って回転し始めたことは、車輪の回転を回転センサにより直接検出することによって検出されてもよいが、車輪の回転開始、特にクリープ回転の開始を回転センサにより検出するには、回転速度が低いことから回転開始時点を明確且つ正確に検出することにセンサの精度からくる困難がある。
【0018】
この点に関し、図1や図4に示す如く、車輪が停止状態に制動されている状態でブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力(グラフでは制動油圧)が次第に低下するとき、静摩擦による制動トルクは、それが限界に達するまでは、車輪にかかる駆動力が一定であるとすれば一定値に維持されるので、ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力(グラフでは制動油圧)に対する制動トルクの比Tb/PbはTb1/Pb1から次第に上昇していき、静摩擦にて発生できる制動トルクが駆動トルクに抗しきれなくなって車輪が回転し始めるとき(時点t2)、それまで増大していたTb/Pbの値はTb1/Pb2のところでこれより急落し、このことによって車輪の回転開始時を明確に検出することができる。
【0019】
ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一時的低減がブレーキディスクとブレーキパッドの間に静摩擦係合と動摩擦係合の反転繰り返しを生じさせない値以下とされれば、図4について説明した制動トルクの振動的変動を確実に回避することができる。
【0020】
ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一時的低減がブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力を一定値に維持するように行われれば、ブレーキペダル踏み込み度合に対応する目標押圧力は次第に低下してくるので、一定値維持の終端にて一時的に低減された押圧力よりブレーキペダル踏み込み度合に対応する目標押圧力への復帰時に大きな段差を生ずることなく接続できる。この場合、該一定値維持が、特にブレーキペダルの踏み込み度合に対応するブレーキパッド押圧力が当該一定値になるまで行われば、一定値維持の終端でのブレーキペダルの踏み込み度合に対応した目標押圧力へ接続は一層滑らかになる。
【0021】
ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一時的低減の途中でブレーキペダルの踏み込み度合が増大方向に転じた時にはブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一時的低減を中止するようになっていれば、図1にて一点鎖線により示す如く、ブレーキペダル踏み込み度合を低減している途中で運転者が翻意し、ブレーキペダル踏み込み度合を増大し始めたとき、運転者の制動意図を妨げないよう、直ちに上記のパッド押圧力一時低減制御を解除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図2は、本発明による車輌用制動装置を油圧式の制動装置として実施した場合の一例を示す油圧回路図である。但し、本発明は車輌用制動装置の作動に関するソフト的構成にその要旨を有しているので、図2に表れているハード的構成については公知のものである。10にて全体的に示された制動装置は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込み操作に応答してブレーキオイルを圧送するマスタシリンダ14を有している。ブレーキペダル12とマスタシリンダ14との間にはドライストロークシミュレータ16が設けられている。
【0023】
マスタシリンダ14は第一のマスタシリンダ室14Aと第二のマスタシリンダ室14Bとを有し、これらのマスタシリンダ室にはそれぞれ左前輪用の油圧導管18Aおよび右前輪用の油圧導管18Bの一端が接続されている。油圧導管18Aおよび18Bの他端にはそれぞれ左前輪および右前輪の制動力を発生するためのホイールシリンダ20FLおよび20FRが接続されている。
【0024】
油圧導管18Aおよび18Bの途中にはそれぞれ常開型の電磁開閉弁(マスタカット弁)22Lおよび22Rが設けられている。これらの電磁開閉弁22Lおよび22Rはそれぞれ第一のマスタシリンダ室14Aおよび第二のマスタシリンダ室14Bと対応するホイールシリンダ20FLおよび20FRとの連通を選択的に遮断するする遮断弁として機能する。またマスタシリンダ14と電磁開閉弁22FLとの間のブレーキ油圧供給導管18Aには常閉型の電磁開閉弁24を介してウェットストロークシミュレータ26が接続されている。
【0025】
マスタシリンダ14にはリザーバ28が接続されており、リザーバ28には送油導管30の一端が接続されている。送油導管30には電動機32により駆動されるオイルポンプ34が接続されており、オイルポンプ34の吐出側の油圧供給導管36には加圧された油圧を蓄圧するアキュムレータ38が接続されている。送油導管30には油戻り導管40の一端が接続されている。リザーバ28、オイルポンプ34、アキュムレータ38等はホイールシリンダ20FL、20FR、20RL、20RR内の圧力を増圧するための油圧源として機能する。
【0026】
尚、図2には示されていないが、オイルポンプ34の吸入側の送油導管30と吐出側の油圧供給導管36とを連通接続する導管が設けられ、該導管の途中にはアキュムレータ38内の圧力が基準値を越えた場合に開弁し吐出側の油圧供給導管36より吸入側の送油導管30へ油を戻すリリーフ弁が設けられている。
【0027】
オイルポンプ34の吐出側の油圧供給導管36は、常閉型の電磁開閉弁42FLおよび油圧導管44FLを経てホイールシリンダ20FLと接続されている。同様に、オイルポンプ34の吐出側の油圧供給導管36は、常閉型の電磁開閉弁42FRおよび油圧導管44FRを経てホイールシリンダ20FRと接続され、常閉型の電磁開閉弁42RLおよび油圧導管44RLを経てホイールシリンダ20RLと接続され、常閉型の電磁開閉弁42RRおよび油圧導管44RRを経てホイールシリンダ20RRと接続されている。
【0028】
ホイールシリンダ20FL、20FR、20RL、20RRは、またそれぞれ油圧導管44FL、44FR、44RL、44RRおよび常閉型の電磁開閉弁46FL、46FR、46RL、46RRを経て油戻り導管40に接続されている。
【0029】
電磁開閉弁42FL、42FR、42RL、42RRはそれぞれホイールシリンダ20FL、20FR、20RL、20RRに対する増圧弁(または油圧保持弁)として機能し、電磁開閉弁46FL、46FR、46RL、46RRはそれぞれホイールシリンダ20FL、20FR、20RL、20RRに対する減圧弁(または油圧保持弁)として機能し、従ってこれらの電磁開閉弁は互いに共働してアキュムレータ38内の油圧源に基づいて各ホイールシリンダへ供給される油圧を増減制御する油圧制御弁を構成している。
【0030】
常開型の電磁開閉弁22Lおよび22Rは、駆動電流が供給されない非制御モード時には開弁状態に維持され、常閉型の電磁開閉弁42FL、42FR、42RL、42RRおよび46FL、46FR、46RL、46RRは、駆動電流が供給されない非制御モード時には閉弁状態に維持される。また電磁開閉弁42FL、42FR、42RL、42RRおよび46FL、46FR、46RL、46RRの何れかが故障し、対応するホイールシリンダ内の圧力を正常に制御できなくなった場合には、これらの電磁開閉弁は非制御モードとされ、これにより左右前輪のホイールシリンダ内の圧力は直接マスタシリンダ14により制御される。
【0031】
第一のマスタシリンダ室14Aと電磁開閉弁22Lとの間の油圧導管18Aには該油圧導管内の圧力を第一のマスタシリンダ圧力Pmaとして検出する第一の油圧センサ48Aが設けられている。同様に第二のマスタシリンダ室14Bと電磁開閉弁22Rとの間の油圧導管18Bには該油圧導管内の圧力を第二のマスタシリンダ圧力Pmbとして検出する第二の油圧センサ48Bが設けられている。ブレーキペダル12には運転者によるブレーキペダルの踏み込みストロークStを検出するストロークセンサ50が設けられている。オイルポンプ34の吐出側の油圧供給導管36には該導管内の圧力をアキュムレータ圧力Pacとして検出する油圧センサ52が設けられている。ホイールシリンダ20FL、20FR、20RL、20RR内の圧力は、それぞれ油圧センサ54FL、54FR,54RL,54RRにより圧力Pfl、Pfr、Prl、Prrとして検出されるようになっている。ホイールシリンダ20FL、20FR、20RL、20RRへの油圧の供給により各車輪の制動装置によって発生される制動トルクは、それぞれトルクセンサ6FL、56FR、56RL、56RRにより検出されるようになっている。
【0032】
電磁開閉弁22Lおよび22R、電磁開閉弁24、電動機32、電磁開閉弁42FL〜42RR、電磁開閉弁46FL〜46RRは、電子制御装置58により制御される。電子制御装置58はマイクロコンピュータ60と駆動回路62よりなっている。マイクロコンピュータ60には、車速センサから車速を示す信号、油圧センサ48Aおよび48Bよりそれぞれ第一のマスタシリンダ圧力Pmaおよび第二のマスタシリンダ圧力Pmbを示す信号、ストロークセンサ50よりブレーキペダル12の踏み込みストロークStを示す信号、油圧センサ52よりアキュムレータ圧力Pacを示す信号、油圧センサ54FL〜54RRよりそれぞれホイールシリンダ20FL〜20RR内の圧力Pbi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号、トルクセンサ56FL、56FR、56RL、56RRより各車輪に於ける制動トルク信号Tbi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号が入力される。
【0033】
マイクロコンピュータ60は、制動制御ルーチンを記憶しており、ブレーキペダル12が踏み込まれると電磁開閉弁24を開弁すると共に、電磁開閉弁22Lおよび22Rを閉弁し、その状態にて油圧センサ48A、48Bにより検出されたマスタシリンダ圧力Pma、Pmbおよびストロークセンサ50より検出された踏み込みストロークStに基づき要求されている制動力を演算すると共にそれを前後左右の各輪に配分する配分比を演算し、ホイールシリンダ20FL〜20RRの各々に対する目標ホイールシリンダ圧力Pti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、各ホイールシリンダの圧力Piが目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるよう電磁開閉弁42FL〜42RRおよび46FL〜46RRを制御する。
【0034】
尚、マイクロコンピュータ60には、その他に図には示されていないヨーレートセンサより車体のヨーレートを示す信号、前後加速度センサより車体の前後加速度を示す信号、横加速度センサより車体の横加速度を示す信号等が供給されており、クロコンピュータ60は同時にそれらの信号を参照して車輌の走行制御技術の分野に於いて種々提案されている制御態様にて車輌の走行制御のための各車輪に対する制動制御を行い、その一環として制動により停止していた車輪がブレーキペダルの踏み込み度合の低下に伴ってクリープすることによりクリープグローンが発生する恐れのあるとき、上記の抑制原理に従って本発明によるクリープグローン抑制制御を行う。
【0035】
図3は図2に示した油圧式制動装置に於いて本発明によるクリープグローン抑制制御を行う要領を示すフローチャートである。かかるフローチャートに沿った制御は車輌の運転中マイクロコンピュータ60により数10〜数100ミリセカンドの周期にて繰り返されてよく、またかかるフローチャートに沿った制御は前後左右の各車輪について個別に並行して或いは順に行われてよい。
【0036】
制動が開始されると、ステップ10にてフラグmが1であるか否かが判断される。かかるフラグは各回の制御の開始時に0にリセットされ、制御が後述のステップ60に至ったとき1にセットされるので、差し当たり答はノー(N)であり、制御はステップ20へ進む。
【0037】
ステップ20に於いては、車速が0であるか否かが判断される。車輌が本発明の制御の対象となる制動された停止状態にあるときには答はイエス(Y)であり、この時には制御はステップ30へ進む。
【0038】
ステップ30に於いては、メモリに記憶されているαの値がαpとして別途記憶される。このαの値は次のステップ40に於いて算出される値であり、従ってステップ30に於いてαpとして記憶されるαの値は制御がこのフローチャートを通る一つ前のサイクルに於いて算出されたαの値である。
【0039】
ステップ40に於いては、ブレーキペダルの踏み込み度合に対応して算出された各ホイールシリンダに於ける目標制動油圧Pbtに対しトルクセンサ56FL〜56RRにより検出された対応する車輪の制動トルクTbがなす比Tb/Pbtがαとして算出される。目標制動油圧Pbtは後述のステップ80または120に於いて算出されるので、ここで使用されるPbtの値はこのフローチャートに沿った前回のサイクルに於いて算出された値である。
【0040】
次いでステップ50に於いて、今回算出されたαの値が前回のサイクルに於いて算出されたαの値であるαpより小さいか否かが判断される。車輌が制動された停止状態から出発し、図1のグラフで見て時点t1よりブレーキペダルの踏み込み度合の低下により制動油圧が低下していくとき、ブレーキディスクとブレーキパッドの間の静摩擦係合が崩れる時点t2まではαの値は増大するので、そのときまではステップ50の答はノーであるが、ブレーキディスクとブレーキパッドの間の静摩擦係合が崩れた時点t2に於いて制動トルクが急落し、ここで答はノーからイエスに転じる。このとき制御はステップを60へ進み、フラグmが1にセットされる。そしてこれ以後制御はステップ20〜60をバイパスして進むようになる。
【0041】
続くステップ70に於いては、メモリに記憶されている目標制動油圧Pbtの値がPbtpとして別途記憶される。目標制動油圧Pbtは上記の通り後述のステップ80または120に於いて算出されるので、ここで使用されるPbtの値はこのフローチャートに沿った前回のサイクルに於いて算出された値である。
【0042】
続くステップ80に於いて、ブレーキペダルの踏み込み度合であってここでは油圧センサ48A/48Bにより検出されたペダル踏力Fdに対応して目標制動油圧PbtがFdの関数f(Fd)として算出される。
【0043】
続くステップ90に於いては、今回算出された目標制動油圧Pbtの値が前回のサイクルに於いて算出された目標制動油圧の値Pbtpより小さいか否かが判断される。この答がイエスであれば,ブレーキペダルの踏み込み度合の低減が進行しつつあることが確認される。答がイエスであれば、制御はステップ100へ進む。
【0044】
ステップ100に於いては、目標制動油圧Pbtが本発明によるブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の一時的低減に相当する低減制動油圧Pbtoより大きいか否かが判断される。低減制動油圧Pbtoの値は各制動装置についてクリープグローンを回避できる制動油圧の値として予め実験を伴って設定されてよい。答がイエスある間、制御はステップ110へ進み、ブレーキペダルの踏み込み度合いに対応する目標制動油圧がPbtであっても実際の制動油圧をPbtoとする制御が行われる。
【0045】
このフローチャートによる制御開始の当初からm=1?の答がノーのまま車速が0ではなく、車輌が本発明による制御の対象となる運転状態にないとき、或いはステップ20の答がイエスであって制動がステップ30へ進んだときにも、時期がまだ図1のグラフの時点t2に至らず、ステップ50の答がノーである間、または制御がステップ70以降へ進んだときにも、途中で運転者が翻意し、ブレーキペダルの踏み増しを始め、ステップ90の答がイエスからノーに転じたとき(時点t3)には、制御はステップ120へ進み、上述のステップ80に於けると同様にブレーキペダルの踏み込み度合であってここでは油圧センサ48A/48Bにより検出されたペダル踏力Fdに対応して目標制動油圧PbtがFdの関数f(Fd)として算出され、続くステップ130にて目標制動油圧Pbtをそのまま制動油圧Pbとして実行する制御は行われる。
【0046】
また上述のステップ110による制動油圧低減制御が行われるときにも、ブレーキペダル踏み込み度合がそのまま低減されるときには、ブレーキペダルの踏み込み度合に対応する目標制動油圧Pbtはやがて(時点t4)Pbtoまで下がるので、それがステップ100の答がイエスからノーに転ずることにより検出されると、その時点から制御はステップと130へ進むようになる。
【0047】
ブレーキペダル踏み込み度合がそのまま0まで低減されるときには、それが0となった時点でステップ140の答はイエスとなるので、このとき制御はステップ150へ進み、フラグmが0にリセットされる。それまではステップ140の答はノーであり、ステップ150はバイパスされる。
【0048】
以上に於いては本発明を一つの実施の形態について詳細に説明したが、かかる実施の形態について本発明の範囲内にて種々の変更が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明によるクリープグローン抑制の原理を示す図4と同様のグラフ。
【図2】本発明による車輌用制動装置を油圧式の制動装置として実施した場合の一例を示す油圧回路図。
【図3】図2に示した油圧式制動装置に於いて本発明によるクリープグローン抑制制御を行う要領を示すフローチャート。
【図4】本発明にあたって考察したクリープグローン発生の原理を示す図1と同様のグラフ。
【符号の説明】
【0050】
10…制動装置、12…ブレーキペダル、14…マスタシリンダ、16…ドライストロークシミュレータ、18A,18B…油圧導管、20FL,20FR,20RL,20RR…ホイールシリンダ、22F,22R…電磁開閉弁(マスターカット弁)、24…電磁開閉弁、26…ウェットストロークシミュレータ、28…リザーバ、30…送油導管、32…電動機、34…オイルポンプ、36…油圧供給導管、38…アキュムレータ、40…油戻り導管、42FL,42FR,42RL,42RR…電磁開閉弁、44FL,44FR,44RL,44RR…油圧導管、46FL,46FR,46RL,46RR…電磁開閉弁、48A,48B…圧力センサ48、50…ストロークセンサ、52…圧力センサ、54FL,54FR,54RL,54RR…圧力センサ、56FL,56FR,56RL,5RR…トルクセンサ、58…電子制御装置、60…マイクロコンピュータ、62…駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの踏み込み度合に対応した押圧力にてブレーキディスクにブレーキパッドを押し付けることにより車輪の回転を制動するよう構成された車輌用制動装置にして、制動により停止していた車輪がブレーキペダルの踏み込み度合の低下に伴って回転し始めたときから始まって、一時的にブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力をブレーキペダルの踏み込み度合に対応する値より低減するようになっていることを特徴とする車輌用制動装置。
【請求項2】
制動により停止していた車輪がブレーキペダルの踏み込み度合の低下に伴って回転し始めたことはブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力に対し車輪に作用する制動トルクの比が低下し始めたことにより検出されるようになっていることを特徴とする請求項1に記載の車輌用制動装置。
【請求項3】
ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一時的低減はブレーキディスクとブレーキパッドの間に静摩擦係合と動摩擦係合の反転繰り返しを生じさせない値以下とされることを特徴とする請求項1または2に記載の車輌用制動装置。
【請求項4】
ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一時的低減はブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力を一定値に維持するように行われることを特徴とする請求項1、2または3に記載の車輌用制動装置。
【請求項5】
ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一定値への維持はブレーキペダルの踏み込み度合に対応したブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力が当該一定値になるまで行われることを特徴とする請求項4に記載の車輌用制動装置。
【請求項6】
ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一時的低減の途中でブレーキペダルの踏み込み度合が増大方向に転じた時にはブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力の前記一時的低減を中止するようになっていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の車輌用制動装置。
【請求項7】
ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付ける押圧力はホイールシリンダへ供給される制動油圧に対応していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の車輌用制動装置。
【請求項8】
ブレーキペダルの踏み込み度合はブレーキペダルの踏み込み力に対応していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の車輌用制動装置。
【請求項9】
ブレーキペダルの踏み込み度合はブレーキペダルの踏み込みストロークに対応していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の車輌用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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