説明

クリール装置

【課題】クリールのコストアップを招くことなく、クリールにおいてスライバの局部的な撚り部分がガイド体に押し付けられて、スライバの局部的な撚りが固定される不具合の発生を防止する。
【解決手段】スライバ3を支持するガイド体31・32・33を備え、水平面内で巻かれた状態のスライバ3を収容するケンス2から、上方に引き出された後、水平方向に搬送されるスライバ3を、ガイド体31・32・33により支持するクリールにおいて、ケンス2から上方に引き出されたスライバ3にはじめて接触するガイド体31の高さ位置は、ケンス2内に収容されるスライバ3の上端位置から、ケンス2内で巻かれた状態のスライバ3が一回転する巻き長さに相当する距離(離間距離H)よりも高い位置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
スライバを支持する一又は複数のガイド体を備え、水平面内で巻かれた状態の前記スライバを収容するケンスから、上方に引き出された後、水平方向に搬送される前記スライバを、前記ガイド体により支持するクリール装置、または前記クリール装置におけるガイド体の高さ位置設定方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、クリール1は、ケンス2から、紡績機4(または粗紡機)のドラフト装置5に向けて搬送されるスライバ3を支持する装置である。クリール1には、スライバ3を支持するガイド体31・32・33が備えられている。ケンス2とドラフト装置5との間は、水平方向で離間していると共に、鉛直方向でも離間している。ケンス2とドラフト装置5との間でスライバ3の受渡しができるように、ケンス2の上方位置に第一ガイド体31、水平方向でケンス2(第一ガイド体31)からドラフト装置5までの間に第二ガイド体32・第三ガイド体33が配置されている。そして、スライバ3は、これらのガイド体31・32・33を経由して、ケンス2からドラフト装置5まで搬送される。
【0003】
クリールには、ガイド体の機能が異なる次のような形態がある。(1)積極回転式のクリール、(2)消極回転式のクリール、(3)固定式のクリール、である。(1)積極回転式のクリールとは、ガイド体がクリールのフレームに回動自在に支持されるガイドローラ(回転体)であって、しかもガイドローラが駆動源により駆動される構成のクリールである。この積極回転式のクリールの一例が、特許文献1に開示されるスライバ供給装置である。(2)消極回転式のクリールとは、ガイド体がクリールのフレームに回動自在に支持されるガイドローラ(回転体)であるが、ガイドローラは自由回転する構成のクリールである。つまり、消極回転式のクリールはガイドローラの駆動源を備えていない。スライバはドラフト装置に引かれて搬送され、クリールは、搬送されるスライバを案内するだけである。ガイドローラは、ドラフト装置にスライバが引かれることにより、スライバとの間の摩擦力により回転する。この消極回転式のクリールの一例が、特許文献2に開示されるスライバ供給装置である。(3)固定式のクリールとは、ガイド体がクリールのフレームに固定されている構成のクリールである。クリールは固定されているため、スライバがドラフト装置に引かれて移動しても、静止状態を保つ。
【特許文献1】実開平5−30176号公報
【特許文献2】特開平8−35135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図2に示すように、スライバ3はケンス2内に巻かれた状態で収容されている。収容前のスライバ3は、前工程での製造過程において甘い撚りが入った状態となる。この甘い撚りが入ったスライバ3は、そのままケンス2内で巻いた状態となるように収容される。この結果、スライバ3はケンス2内で収容された状態では撚りが入った状態となる。
【0005】
ケンスに収容されたスライバは、紡績工程においてケンスより引き出した後も、前述した甘い撚りは残った状態となる。そして、ケンスと第一段のガイド体との距離が短いと上記撚りの角度がきつくなる。撚りの角度がきつい状態のままでドラフト装置へ搬送されると、ドラフトが十分に行われずにドラフトむらとなり、ドラフト不良を引き起こすことになる。
【0006】
つまり、解決しようとする問題点は、ケンスと第一段のガイド体との距離が短いことで、前工程での製造過程において入った撚りの角度がきつくなる点である。
本発明は、クリールのコストアップを招くことなく、ケンスから引き出すスライバの撚りの角度をゆるやかにし、ドラフト処理におけるドラフトむらの発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
請求項1に記載のクリール装置は、
スライバを支持する一又は複数のガイド体を備え、水平面内で巻かれた状態の前記スライバを収容するケンスから、上方に引き出された後、水平方向に搬送される前記スライバを、前記ガイド体により支持するクリールにおいて、
前記一又は複数のガイド体のうち、前記ケンスから上方に引き出された前記スライバにはじめて接触するガイド体の高さ位置は、前記ケンス内に収容される前記スライバの上端位置から、前記ケンス内で巻かれた状態の前記スライバが一回転する巻き長さに相当する距離よりも高い位置とする。
【0009】
以上構成により、次の作用がある。
前工程での製造過程において甘い撚りの入ったスライバがケンス内で巻いた状態となるように収容されている。ケンス内ではスライバに撚りが発生している。このスライバを巻きの軸方向に沿ってケンスより引き出すと、ケンスから引き出した長さによってはスライバの撚りの角度がきつくなることがある。ケンスから引き出すスライバの長さを、ケンス内で巻かれた状態のスライバが一回転する巻き長さに相当する距離よりも長くすると、スライバの局部的な撚りの角度がゆるくなる。
【0010】
請求項2に記載のクリール装置は、請求項1に記載の発明において、次のようにしたものである。
前記ケンスから上方に引き出された前記スライバにはじめて接触するガイド体を、前記クリールのフレームに回転自在に支持される回転体とする。
【0011】
以上構成により、次の作用がある。
スライバをクリールに沿って引き出す外力を加えたとき、スライバとガイド体との摩擦抵抗が、ガイド体のフレームに対する回転抵抗より大きくなると、スライバが動き出す。
【0012】
請求項3に記載のクレール装置におけるガイド体の高さ位置設定方法は、
スライバを支持する一又は複数のガイド体を備え、水平面内で巻かれた状態の前記スライバを収容するケンスから、上方に引き出された後、水平方向に搬送される前記スライバを、前記ガイド体により支持するクリールにおけるガイド体の高さ位置設定方法において、
前記一又は複数のガイド体のうち、前記ケンスから上方に引き出された前記スライバにはじめて接触するガイド体の高さ位置は、前記ケンス内に収容される前記スライバの上端位置から、前記ケンス内で巻かれた状態の前記スライバが一回転する巻き長さに相当する距離よりも高い位置とする。
【0013】
以上構成により、次の作用がある。
前工程での製造過程において甘い撚りの入ったスライバがケンス内で巻いた状態となるように収容されている。ケンス内ではスライバに撚りが発生している。このスライバを巻きの軸方向に沿ってケンスより引き出すと、ケンスから引き出した長さによってはスライバの撚りの角度がきつくなることがある。ケンスから引き出すスライバの長さを、ケンス内で巻かれた状態のスライバが一回転する巻き長さに相当する距離よりも長くすると、スライバの局部的な撚りの角度がゆるくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
請求項1に係る発明においては、
ケンスから引き出されたスライバの局部的な撚りの角度がゆるくなるので、ドラフト装置でのドラフト処理が行い易くなり、ドラフトが十分に行われずにドラフトむらが発生することを防止できる。
【0016】
請求項2に係る発明においては、
固定式のガイド体を備えるクリールよりも、スライバが外部の引っ張り力に逆らう程度が小さいので、スライバを痛めにくい。
【0017】
請求項3に係る発明においては、
ケンスから引き出されたスライバの局部的な撚りの角度がゆるくなるので、ドラフト装置でのドラフト処理が行い易くなり、ドラフトが十分に行われずにドラフトむらが発生することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0019】
図1には、紡績機4、ケンス2、クリール1を図示している。ケンス2・クリール1は、紡績機4へのスライバ3の供給に係る装置である。
【0020】
ケンス2は、スライバ3の収容された容器である。ケンス2は、容器本体2aと受け皿2bと、スプリング2cと、からなる。容器本体2aの形状は、円筒体の一底面を円盤で塞いだような形状である。容器本体2a内には、スライバ3を支持する受け皿2bが配置されている。スプリング2cは受け皿2bの下面と容器本体2aの底板上面とを連結するように配置されている。受け皿2bはスプリング2cにより上方に付勢されている。
【0021】
スライバ3は、容器本体2aと受け皿2bとで囲われる円柱状の空間内に収容されている。スライバ3が満杯のときは、スライバ3全体の重量のためスプリング2cが圧縮されて、受け皿2bは容器本体2aの最下部にある。ケンス2からスライバ3が引き出されてスライバ3の量が減ってくるにつれて、受け皿2bは上昇する。このため、ケンス2からスライバ3が引き出される上端位置(ケンス2内に収容されるスライバ3の全体の上端位置)はほとんど変化しない。
【0022】
紡績機4は、原料であるスライバ3に旋回気流を作用させることで、紡績糸を製造する装置である。紡績機4は、旋回気流を発生させる空気式紡績装置(図示せず)と、ドラフト装置5と、トランペット6と、を備えている。ドラフト装置5は、スライバ3を引き伸ばす装置である。トランペット6は、ドラフト装置5に導入されるスライバ3を案内する部材である。
【0023】
クリール1について説明する。クリール1は、ケンス2から上方に引き出された後、水平方向に搬送されるスライバ3を支持する装置である。クリール1を経由して搬送されるスライバ3の搬送先は、紡績機4である。クリール1は、スライバ3の駆動手段を有しない。本実施例では、スライバ3を搬送する手段は、紡績機4に備えるドラフト装置5である。ドラフト装置5が駆動すると、クリール1上のスライバ3がドラフト装置5へと引き込まれる。
【0024】
クリール1は、スライバ3を支持する一又は複数のガイド体を備えている。本実施例では、クリール1は、三つのガイド体、第一ガイド体31・第二ガイド体32・第三ガイド体33を備えている。また、クリール1は、第一ガイド体31・第二ガイド体32・第三ガイド体33を支持するフレーム10を有している。スライバ3は、ケンス2から、第一ガイド体31・第二ガイド体32・第三ガイド体33を経由して、紡績機4のトランペット6へと送られる。
【0025】
第一ガイド体31は、ケンス2の直上方位置に配置されている。この第一ガイド体31は、ケンス2とドラフト装置5の高さ位置の違いに応じて、スライバ3をドラフト装置5の高さにまで引き上げるためのガイド体である。これに対して、第二ガイド体32・第三ガイド体33は、ケンス2(第一ガイド体31)とドラフト装置5との間に水平方向で距離が空いていることに応じて、ケンス2(第一ガイド体31)からドラフト装置5までスライバ3が受け渡せるようにするためのガイド体である。したがって、ケンス2とドラフト装置5との水平距離が比較的近い場合は、第二ガイド体32・第三ガイド体33は不要となる場合がある。
【0026】
第一ガイド体31・第二ガイド体32の高さ位置は、ほぼ同じである。第一ガイド体31・第二ガイド体32の高さ位置に対して、第三ガイド体33の高さ位置は若干低めとなっている。トランペット6は、第三ガイド体33に対して斜め下方に配置される。ドラフト装置5は、トランペット6に対して斜め下方に配置されている。
【0027】
第一ガイド体31・第二ガイド体32・第三ガイド体33はいずれも、フレーム10に固定されるガイド体である。このようなガイド体を、固定式のガイド体とする。これに対して、フレーム10に回転自在に設けられるガイド体を、消極回転式のガイド体(後述)とする。
【0028】
固定式のガイド体である第一ガイド体31・第二ガイド体32・第三ガイド体33の形状は同一である。これらのガイド体は、本実施例では、円筒状部材である。ケンス2から紡績機4へと搬送されるスライバ3は、円筒状であるガイド体の外周面に接触する。第一ガイド体31の外周面は31aであり、第二ガイド体32の外周面は32aであり、第三ガイド体33の外周面は33aである。なお、円筒状であるガイド体の両底面にフランジを設けて、ガイド体の外周面からガイド体の軸方向外側にスライバ3が脱落するのを防止するようにしても良い。このフランジは、例えば、ガイド体の外周面よりも径の大きな円盤状もしくは円環状部材とする。
【0029】
スライバ3がクリール1を通過する経路は、次のようになっている。ケンス2から引き出されたスライバ3は、直上方へと搬送されて、第一ガイド体31に接触する。スライバ3は第一ガイド体31の外周面31aで屈曲される。つまり第一ガイド体31において、スライバ3の搬送方向が鉛直方向から水平方向に変更される。第一ガイド体31から第二ガイド体32まで、スライバ3は水平方向に搬送される。第二ガイド体32から第三ガイド体33まで、スライバ3は若干下方にも向かいながら水平方向に搬送される。第三ガイド体33からトランペット6を経由してドラフト装置5まで、スライバ3は若干下方にも向かいながら水平方向に搬送される。
【0030】
次に、クリール1における第一ガイド体31の高さ位置設定方法を説明する。この高さ位置設定方法は、ケンス2から引き出されたスライバ3に発生した局部的な撚りが、クリール1を通過することで固定されてしまうのを防止するための方法である。
【0031】
クリール1には、次のような理由により、スライバ3に局部的な撚りが発生し、かつ、その局部的な撚りがスライバ3に固定されてしまうことがある。概略的には、ケンス2から巻かれた状態のスライバ3が鉛直方向(巻きの軸方向)に引き出されたときに、スライバ3に局部的な撚りが残ることがある。そして、局部的な撚りが残るスライバ3が第一ガイド体31にはじめて接触し、この第一ガイド体31で屈曲されることで、スライバ3上の局部的な撚りが固定されることになる。以下、より詳しく説明する。
【0032】
クリール1は固定式のガイド体を備えるクリールである。クリール1は、搬送されるスライバ3を支持する手段であるが、スライバ3の搬送手段は有しない。クリール1を通過するスライバ3を搬送するのは、紡績機4のドラフト装置5である。ドラフト装置5に引っ張られるスライバ3は、第一ガイド体31に、第二ガイド体32・第三ガイド体33よりも強く接触する。これは、第一ガイド31が、クリール1におけるスライバ3の通過経路の屈曲部に配置されていることによる。スライバ3は第一ガイド31で上下方向から水平方向へと屈曲される。
【0033】
図2に示すように、ケンス2内には、水平面内で巻かれた状態のスライバ3が収容されている。スライバ3の巻き形状は、水平面内で、第一の円(一巻き部分3a)を描きつつ、その第一の円(一巻き部分3a)を描く位置を、第一の円より大きな円状経路(大巻き部分3b)に沿って変化させるようにした形状である。ここで、一巻き部分3aは、スライバ3が丁度一回転するのに要する長さ部分を指すものとし、略一平面内におさまる「α」字状の図形である。なお、スライバ3の一回転とは、一巻き部分3aの一端と他端とが丁度反対の向き(180度)となった状態を指す。一巻き部分3aには、正円に近い楕円形状の部分を含んでいる。その楕円部分の径(長径)rはケンス2の内径Rより小さい。大巻き部分3bは一平面内の経路ではなく、らせん(つる巻き線)状の図形である。大巻き部分3bの形状は、平面視ではケンス2の内周面の形状に等しいものとする。したがって大巻き部分3bの径はケンス2の内径Rに等しい。一巻き部分3aは、大巻き部分3bに内接する円のような形で、大巻き部分3bに沿って、一巻き部分3aが次々に形成されるように巻かれていく。このようにして、ケンス2の内部で、ケンス2の一断面内だけでなく、ケンス2の軸方向(鉛直方向)に沿って、スライバ3が満たされている。
【0034】
第一ガイド31は、水平面内におけるケンス2の中央位置の直上方位置に配置されている。ケンス2から第一ガイド31に向けて、スライバ3は略鉛直方向に引き出される。ここで、スライバ3は、一巻き部分3aおよび大巻き部分3bのいずれも、鉛直方向を軸とする軸回りで巻かれている。したがって、スライバ3がケンス2から引き出される方向は、スライバ3の巻きの軸方向に一致する。
【0035】
ケンス2に収容する前のスライバ3は前工程での製造過程において甘い撚りが入った状態である。この甘い撚りが入ったスライバ3は、そのままケンス2内で巻いた状態となるように収容される。この結果、ケンス内で収容された状態では撚りが入った状態となる。ケンス2に収容されたスライバ3は、紡績工程においてケンス2より引き出した後も、上記甘い撚りは残った状態となる。そして、ケンス2と第一ガイド体31との距離が短いと上記撚りの角度がきつくなる。
【0036】
局部的な撚りがスライバ3に残っていると、スライバ3が第一ガイド体31を通過するときに、スライバ3において局部的な撚りのある部分が第一ガイド体31に強く接触する。そうすると、スライバ3の局部的な撚り部分が、第一ガイド体31に押し付けられることで、撚りが固定されることになる。そうすると、局部的に撚りが入ったスライバ3がドラフト装置5に送られてしまって、ドラフト不良を引き起こすことになる。
【0037】
このような不具合の発生を防止するには、ケンス2に対する第一ガイド体31の高さ位置を適切とすることが有効である。ケンス2から第一ガイド体31までの距離が遠くなるにつれて、スライバ3が第一ガイド体31に接触することなく引き出される距離が増大する。この結果、ケンス2から引き出されたスライバ3の撚りの角度はゆるくなる。
【0038】
ケンス2から第一ガイド体31までの距離とは、正確には、ケンス2内に収容されるスライバ3の上端位置から第一ガイド31にスライバ3が接触するまでの距離を指す。この距離を、離間距離Hとする。
【0039】
「ケンス2内に収容されるスライバ3の上端位置」については、次のようにして特定する。使用前のケンス2の内部には、スライバ3が最大限満たされている。この状態では、ケンス2に収容されるスライバ3の上端位置は、ケンス2(容器本体2a)の上端位置にほぼ一致する。スライバ3が引き出されていくにつれてケンス2内のスライバ3の量が減っていく。このとき前述したように、スライバ3の全体は上昇していくため、ケンス2内に収容されるスライバ3の上端位置はほとんど変化しない。したがって、「ケンス2内に収容されるスライバ3の上端位置」については、その最上位置となる「ケンス2の上端位置」で代表するものとする。
【0040】
「第一ガイド31にスライバ3が接触する位置」については、次のようにして特定する。本実施例の場合、第一ガイド体31の外周面31a上にスライバ3が接触する。第一ガイド体31は、ケンス2の直上方位置に配置されており、ケンス2からスライバ3は鉛直方向に引き出される。外周面31a上で鉛直方向が接線方向となる位置は、外周面31aの左右両端位置である。第一ガイド31の高さ方向(鉛直方向)では、外周面31aの軸心位置にも一致する。
【0041】
一方、ケンス2に対する第一ガイド31の高さ位置を高くするにつれて、第一ガイド31を通過するスライバ3に掛かる荷重が増大する。第一ガイド31に支持されている部位のスライバ3には、ケンス2から第一ガイド31に至るまでの部分のスライバ3の重量が荷重として掛かっている。このため、この荷重が大きくなると、スライバ3が途中で切れてしまうことがある。したがって、第一ガイド31の高さ位置を無制限に高くすることは、スライバ3に係る作業性の点だけでなく、スライバ3の切断防止の観点から望ましくない。
【0042】
そこで、発明者らは、局部的な撚りの発生を防止できる離間距離Hの下限値を特定するために、次のような条件で実験を行った。ここで、実験は、ドラフト装置5にテンションセンサ7を設け、スライバ3の送り量に応じたテンションセンサ7の検出値を記録することで行っている。テンションセンサ7は、スライバ3のテンションの大きさを検出する手段である。スライバ3のテンションが大きくなるにつれて、ケンス2からドラフト装置5に至るまでのスライバ3に、搬送に逆らう向きの抵抗がより大きく発生していることを意味する。なお、ケンス2からドラフト装置5に至るまでのスライバ3に、スライバ3の搬送に対する抵抗として作用する部材は、クリール1に備える三つのガイド体31・32・33と、トランペット6と、だけである。
【0043】
(a)実験1:固定式の第一ガイド体31について、離間距離Hを30cmとした。
(b)実験2:固定式の第一ガイド体31について、離間距離Hを60cmとした。
(c)実験3:固定式の第一ガイド体31について、離間距離Hを90cmとした。
(d)実験4:消極回転式の第一ガイド体について、離間距離Hを90cmとした。
【0044】
(d)の実験4における消極回転式の第一ガイド体とは、前述したように、クリール1のフレーム10に回転自在に設けられるガイド体を意味する。スライバ3はドラフト装置5に引っ張られて搬送される。固定式のガイド体の場合は、ドラフト装置5がスライバ3を引っ張る力が、スライバ3とガイド体との摩擦抵抗(静止摩擦抵抗)よりも大きくならない限り、スライバ3は動き始めない。これに対して、消極回転式のガイド体の場合は、ドラフト装置5がスライバ3を引っ張る力が、スライバ3とガイド体との摩擦抵抗よりも大きくなる必要はなく、ガイド体のフレームに対する回転抵抗(静止時の回転抵抗)より大きくなれば、スライバ3は動き出す。したがって、消極回転式のガイド体を備えるクリールの方が、固定式のガイド体を備えるクリールよりも、スライバ3が外部(例えばドラフト装置)の引っ張り力に逆らう程度が小さいので、スライバ3を痛めにくい効果がある。
【0045】
(d)の実験4で用いるクリールは、クリール1において、固定式の第一ガイド体31(ケンス2から上方に引き出されたスライバ3にはじめて接触するガイド体)のみを、消極回転式のガイド体に置換したものである。他の構成については、(d)の実験で用いるクリールと、クリール1とで同一である。
【0046】
図3(a)〜(d)には、実験1から実験4についての結果を示すグラフが描かれている。図3(a)〜(d)の横軸は、スライバ3の引き出された長さを示している。横軸の範囲内で、概ね、50mくらいの長さにわたってスライバ3がケンス2より引き出されている。また、図3(a)〜(d)の縦軸は、ドラフト装置5のテンションセンサ7の検出値の比を示している。検出値の比とは、所定のテンション値に対する比としている。この所定のテンション値は、概ね、スライバ3に局部的な撚りがない場合におけるテンション値を選択している。
【0047】
図3(a)の実験1(固定式:H=30cm)のグラフでは、振れ幅の大きな箇所の発生数は9つである。図3(b)の実験2(固定式:H=60cm)のグラフでは、振れ幅の大きな箇所の発生数は0である。図3(c)の実験3(固定式:H=90cm)のグラフでは、振れ幅の大きな箇所の発生数は1である。また、図3(d)の実験4(消極回転式:H=90cm)のグラフでは、振れ幅の大きな箇所の発生数は1である。なお、振れ幅の大きな箇所とは、テンションセンサ7の検出値の平均値よりも50%増し以上の箇所を指している。特に、図3(a)の実験1(固定式:H=30cm)のグラフでは、200%増しの振れ幅が5〜6箇所で発生している。
【0048】
以上の実験結果より、次のことがわかる。離間距離Hが30cm程度では、スライバ3の搬送に対する抵抗がクリール1に発生している。一方、離間距離Hが60cmを超えると、スライバ3の搬送に対する抵抗がほとんどクリール1に発生していない。また、実験1から4においては、固定式のガイド体と消極回転式のガイド体とで、特別な差は見られない。
【0049】
離間距離Hに係る60cmは、ケンス2内に収容されているスライバ3の一巻き長さ(一巻き部分3aの長さ)に概ね相当する。一巻き部分3aは、長径rの楕円部分(「α」字の○部分)と、楕円部分からはみ出した両端部分(「α」字の両端部分)と、からなっている。楕円部分の長径rは、約20cmである。楕円部分は直径20cmの正円よりも周長が短い。しかし、一巻き部分3aの長さは、楕円部分に、楕円部分からはみ出した両端部分を合わせた長さである。したがって、一巻き部分3aの長さは概ね60cm程度である。また、一巻き部分3aの長さは、実際に計測することで正確に特定することが可能である。
【0050】
以上の考察の結果、発明者は、スライバ3の局部的な撚りが固定される不具合を防止できる離間距離Hの下限値を、ケンス2で巻かれた状態のスライバ3が一回転する巻き長さに相当する距離とした。この下限値より離間距離Hを大きくすれば、ケンス2より引き出したスライバ3に局部的な撚りが発生せず(残留せず)、その局部的な撚りが第一ガイド体31で固定されてしまうこともない。また、ケンス2で巻かれた状態のスライバ3が一回転する巻き長さは、一巻き部分3aの長さのことを意味する。離間距離Hが、ケンス2で巻かれた状態のスライバ3が一回転する巻き長さよりも長い距離とすれば、スライバ3に発生した局部的な撚りが固定される不具合を防止できる。なお、ケンス2のサイズが異なるなど、ケンス2内でスライバ3が一回転する巻き長さが異なる条件であったとしても、離間距離Hの長さをケンス2で巻かれた状態のスライバ3が一回転する巻き長さ程度もしくはそれ以上とすることで、同様の効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ケンス、クリール、紡績機の一部を示す概略構成図。
【図2】スライバの収容されたケンスを示す平面図。
【図3】テンション検出値の比の変動を示すグラフの描かれた図。
【符号の説明】
【0052】
1 クリール
2 ケンス
3 スライバ
3a 一巻き部分
31 第一ガイド体
32 第二ガイド体
33 第三ガイド体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライバを支持する一又は複数のガイド体を備え、水平面内で巻かれた状態の前記スライバを収容するケンスから、上方に引き出された後、水平方向に搬送される前記スライバを、前記ガイド体により支持するクリールにおいて、
前記一又は複数のガイド体のうち、前記ケンスから上方に引き出された前記スライバにはじめて接触するガイド体の高さ位置は、前記ケンス内に収容される前記スライバの上端位置から、前記ケンス内で巻かれた状態の前記スライバが一回転する巻き長さに相当する距離よりも高い位置とする、
ことを特徴とするクリール装置。
【請求項2】
前記ケンスから上方に引き出された前記スライバにはじめて接触するガイド体を、前記クリールのフレームに回転自在に支持される回転体とする、
請求項1に記載のクリール装置。
【請求項3】
スライバを支持する一又は複数のガイド体を備え、水平面内で巻かれた状態の前記スライバを収容するケンスから、上方に引き出された後、水平方向に搬送される前記スライバを、前記ガイド体により支持するクリールにおけるガイド体の高さ位置設定方法において、
前記一又は複数のガイド体のうち、前記ケンスから上方に引き出された前記スライバにはじめて接触するガイド体の高さ位置は、前記ケンス内に収容される前記スライバの上端位置から、前記ケンス内で巻かれた状態の前記スライバが一回転する巻き長さに相当する距離よりも高い位置とする、
ことを特徴とするクリール装置におけるガイド体の高さ位置設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−62661(P2009−62661A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258955(P2007−258955)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】