説明

クレーンの免震支持装置

【課題】通常運転時におけるクレーンの支持を安定化させつつ、地震等の大きな振動の発生時には構築物側の水平方向変位の影響がマストに及ぶことを防止し得、又、装置の大型化を回避してスペース的な面における制約も少なくすることができるクレーンの免震支持装置を提供する。
【解決手段】構築物12に対しマスト支持部材14を、Y方向の変位を吸収可能な第一積層ゴム15を介して連結すると共に、マスト支持部材14に対しマスト2を、X方向の変位を吸収可能な第二積層ゴム17を介して連結し、通常運転時には荷重を支持して第一積層ゴム15と第二積層ゴム17の変形を拘束し且つ構築物12又はクライミングクレーン1に作用する水平方向加速度が設定値以上となった時には塑性変形して第一積層ゴム15と第二積層ゴム17の変形を許容する第一トリガー手段16と第二トリガー手段18とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの免震支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、クライミングクレーン等のクレーンにより構築物を建設する際には、クレーンの転倒防止を図ったり、作業時のクレーンの揺れを低減するために、構築物とクレーンとを剛体としてのステーで連結する方法が一般に用いられている。
【0003】
図6は従来のクライミングクレーンにおいて構築物に対しマストを連結した状態を示す概略図であって、クライミングクレーン1は、上方へブロック2aを順次継ぎ足し可能なマスト2の頂部に、昇降ユニット3を介して旋回体4を旋回自在に配置し、該旋回体4上にジブ5を起伏自在に取り付け、前記旋回体4に、後方へ延びるカウンタフレーム6を一体に設け、該カウンタフレーム6上に、吊荷用フック7を吊り下げるワイヤロープ8を巻上げ下げするための巻上装置9と、ジブ5の起伏用のワイヤロープ10を巻上げ下げするための起伏装置11とを設置してなる構成を有している。
【0004】
そして、建設された構築物12とマスト2との間には、鉄骨材料のような充分な剛性を有するステー13が掛け渡されるように設けられ、これにより、地震時や強風時、或いは吊荷の地切り時等において、クライミングクレーン1のマスト2に加わる振れ荷重は、前記ステー13を介して構築物12に分散されて支承されるようになっている。
【0005】
尚、前述の如きステー13の代わりにシリンダ型のダンパーを用いることにより、地震時や強風時、或いは吊荷の地切り時等においてクライミングクレーン1のマスト2に生じる振動や衝撃が構築物12に伝わることを低減するようにした装置を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【特許文献1】特開平9−58975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の如く、ステー13によって構築物12とクライミングクレーン1のマスト2とを連結するのでは、特に、前記構築物12が免震構造の場合、地震時等に水平方向へおよそ300〜500[mm]程度の変位が生じるため、クライミングクレーン1の揺れが過大となり、該クライミングクレーン1のマスト2に対し強度面で悪影響を及ぼす虞があった。
【0007】
又、シリンダ型のダンパーによって構築物12とクライミングクレーン1のマスト2とを連結すれば、たとえ構築物12が免震構造であったとしても地震時等に生じる水平方向への変位を吸収することは可能であるが、その分だけシリンダ型のダンパーのストロークを長くして大型のものを採用する必要が生じると共に、構築物12とクライミングクレーン1との間隔も広くとらなければならず、スペース的な面においても制約が大きくなるという問題を有していた。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、通常運転時におけるクレーンの支持を安定化させつつ、地震等の大きな振動の発生時には構築物側の水平方向変位の影響がマストに及ぶことを防止し得、又、装置の大型化を回避してスペース的な面における制約も少なくすることができるクレーンの免震支持装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、構築物と、該構築物に沿って立設されたマストとをマスト支持部材を介して連結し、マストを補助的に支持するようにしたクレーンの免震支持装置であって、
前記構築物に対しマスト支持部材を、水平面内における一方向の変位を吸収可能な第一積層ゴムと、通常運転時には荷重を支持して前記第一積層ゴムの変形を拘束し且つ前記構築物又はクレーンに作用する水平方向加速度が設定値以上となった時には塑性変形して前記第一積層ゴムの変形を許容する第一トリガー手段とを介して連結すると共に、
前記マスト支持部材に対しマストを、前記一方向と直角となる水平面内における他方向の変位を吸収可能な第二積層ゴムと、通常運転時には荷重を支持して前記第二積層ゴムの変形を拘束し且つ前記構築物又はクレーンに作用する水平方向加速度が設定値以上となった時には塑性変形して前記第二積層ゴムの変形を許容する第二トリガー手段とを介して連結したことを特徴とするクレーンの免震支持装置にかかるものである。
【0010】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0011】
前述の如く構成すると、通常運転時には、構築物に沿って立設されたマストがマスト支持部材を介して構築物に連結され、第一トリガー手段及び第二トリガー手段が荷重を支持して第一積層ゴム及び第二積層ゴムの変形を拘束しているため、クレーンは極めて安定した状態で支持される。
【0012】
これに対し、地震等の大きな振動の発生時において、前記構築物又はクレーンに作用する水平方向加速度が設定値以上となると、前記第一トリガー手段及び第二トリガー手段が塑性変形し、第一積層ゴムによって水平面内における一方向の変位が吸収されると共に、第二積層ゴムによって前記一方向と直角となる水平面内における他方向の変位が吸収される形となる。
【0013】
この結果、従来の如く、ステーによって構築物とクレーンのマストとを連結するのとは異なり、たとえ構築物が免震構造であって地震時等に水平方向への変位がおよそ300〜500[mm]程度となったとしても、クレーンの揺れ、支持部の相対変位を許容範囲内に収めることが可能となり、該クレーンのマストに対し強度面で悪影響を及ぼす心配がなくなり、しかも、シリンダ型のダンパーによって構築物とクレーンのマストとを連結するのに比べ、コンパクトな構造で、構築物とクレーンとの間隔も広くとらなくて済み、スペース的な面においても制約が少なくなる。
【0014】
前記クレーンの免震支持装置においては、前記第一トリガー手段及び/又は第二トリガー手段を、前記構築物又はクレーンに作用する水平方向加速度が設定値以上となった時の剪断力で破断されるシヤピンによって構成することができる。
【0015】
又、前記クレーンの免震支持装置においては、前記第一トリガー手段及び/又は第二トリガー手段を、対向配置される固定フランジ間に断面形状が円形の湾曲した鉛柱の両端を固着してなる鉛ダンパーによって構成することもできる。
【0016】
更に又、前記クレーンの免震支持装置においては、前記第一トリガー手段及び/又は第二トリガー手段を、前記積層ゴムの積層ゴム本体を挟持する取付フランジ間を連結するように取り付けられたU字状の鋼材からなる鋼棒ダンパーによって構成することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のクレーンの免震支持装置によれば、通常運転時におけるクレーンの支持を安定化させつつ、地震等の大きな振動の発生時には構築物側の水平方向変位の影響がマストに及ぶことを防止し得、又、装置の大型化を回避してスペース的な面における制約も少なくすることができるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1及び図2は本発明を実施する形態の一例であって、図中、図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図6に示す従来のものと同様であるが、本図示例の特徴とするところは、図1及び図2に示す如く、構築物12に対しマスト支持部材14を、水平面内における一方向(図2の例ではY方向)の変位を吸収可能な第一積層ゴム15と、通常運転時には荷重を支持して前記第一積層ゴム15の変形を拘束し且つ前記構築物12又はクライミングクレーン1に作用する水平方向加速度が設定値以上となった時には塑性変形して前記第一積層ゴム15の変形を許容する第一トリガー手段16とを介して連結すると共に、
前記マスト支持部材14に対しマスト2を、前記一方向(Y方向)と直角となる水平面内における他方向(図2の例ではX方向)の変位を吸収可能な第二積層ゴム17と、通常運転時には荷重を支持して前記第二積層ゴム17の変形を拘束し且つ前記構築物12又はクライミングクレーン1に作用する水平方向加速度が設定値以上となった時には塑性変形して前記第二積層ゴム17の変形を許容する第二トリガー手段18とを介して連結した点にある。
【0020】
前記第一積層ゴム15は、多数のゴム板と鋼板とを交互に積層した積層ゴム本体15aを、取付フランジ15bと取付フランジ15cとで挟持してなる構成を有しており、前記第一積層ゴム15の取付フランジ15bを、前記構築物12の側面にベースブラケット19を介して取り付けられたベースプレート20に対し固定すると共に、前記第一積層ゴム15の取付フランジ15cを、前記マスト支持部材14と一体の連結プレート21に対し固定してある。又、前記第二積層ゴム17は、多数のゴム板と鋼板とを交互に積層した積層ゴム本体17aを、取付フランジ17bと取付フランジ17cとで挟持してなる構成を有しており、前記第二積層ゴム17の取付フランジ17bを、前記マスト支持部材14の内面に対し固定すると共に、前記第二積層ゴム17の取付フランジ17cを、前記マスト2の側面に対し固定してある。
【0021】
本図示例の場合、前記第一トリガー手段16は、前記構築物12又はクライミングクレーン1に作用する水平方向加速度が設定値以上となった時の剪断力で破断されるシヤピン22によって構成すると共に、前記第二トリガー手段18は、前記構築物12又はクライミングクレーン1に作用する水平方向加速度が設定値以上となった時の剪断力で破断されるシヤピン23によって構成するようにしてある。尚、前記シヤピン22は、前記ベースプレート20から張り出す連結ブラケット24と前記連結プレート21から張り出す連結ブラケット25とをつなぐ一方、前記シヤピン23は、前記マスト支持部材14の内面から張り出す連結ブラケット26と前記マスト2の側面から張り出す連結ブラケット27とをつなぐようにしてある。
【0022】
次に、上記図示例の作用を説明する。
【0023】
通常運転時には、構築物12に沿って立設されたマスト2がマスト支持部材14を介して構築物12に連結され、第一トリガー手段16及び第二トリガー手段18が荷重を支持して第一積層ゴム15及び第二積層ゴム17の変形を拘束しているため、クライミングクレーン1は極めて安定した状態で支持される。
【0024】
これに対し、地震等の大きな振動の発生時において、前記構築物12又はクライミングクレーン1に作用する水平方向加速度が設定値以上となると、前記第一トリガー手段16としてのシヤピン22と前記第二トリガー手段18としてのシヤピン23とが剪断力で破断され、第一積層ゴム15によって水平面内における一方向(Y方向)の変位が吸収されると共に、第二積層ゴム17によって前記一方向(Y方向)と直角となる水平面内における他方向(X方向)の変位が吸収される形となる。
【0025】
この結果、従来の如く、ステー13によって構築物12とクライミングクレーン1のマスト2とを連結するのとは異なり、たとえ構築物12が免震構造であって地震時等に水平方向への変位がおよそ300〜500[mm]程度となったとしても、クライミングクレーン1の揺れ、支持部の相対変位を許容範囲内に収めることが可能となり、該クライミングクレーン1のマスト2に対し強度面で悪影響を及ぼす心配がなくなり、しかも、シリンダ型のダンパーによって構築物12とクライミングクレーン1のマスト2とを連結するのに比べ、コンパクトな構造で、構築物12とクライミングクレーン1との間隔も広くとらなくて済み、スペース的な面においても制約が少なくなる。
【0026】
こうして、通常運転時におけるクライミングクレーン1の支持を安定化させつつ、地震等の大きな振動の発生時には構築物12側の水平方向変位の影響がマスト2に及ぶことを防止し得、又、装置の大型化を回避してスペース的な面における制約も少なくすることができる。
【0027】
一方、前記第一トリガー手段16としては、図2に示すようなシヤピン22を用いる代りに、図3に示す如く、対向配置される固定フランジ28b,28c間に断面形状が円形の湾曲した鉛柱28aの両端を固着してなる鉛ダンパー28によって構成することができる。同様に、前記第二トリガー手段18も、図2に示すようなシヤピン23を用いる代りに、前記鉛ダンパー28によって構成することができる。但し、前記鉛ダンパー28の固定フランジ28b,28cは、前記第一積層ゴム15の取付フランジ15b,15c或いは前記第二積層ゴム17の取付フランジ17b,17cとそれぞれ平行となるよう配置する必要がある。
【0028】
又、前記第一トリガー手段16としては、図2に示すようなシヤピン22を用いる代りに、図4に示す如く、前記第一積層ゴム15の積層ゴム本体15aを挟持する取付フランジ15b,15c間を連結するように取り付けられたU字状の鋼材からなる鋼棒ダンパー29によって構成することもできる。同様に、前記第二トリガー手段18も、図2に示すようなシヤピン23を用いる代りに、前記鋼棒ダンパー29によって構成することができる。
【0029】
尚、前記第一トリガー手段16と第二トリガー手段18に関しては、前記シヤピン22,23、前記鉛ダンパー28、前記鋼棒ダンパー29のうちのいずれか一種類のみを選定しても良いが、複数種類のものを組み合わせて用いることも勿論可能である。
【0030】
図5は本発明を実施する形態の他の例であって、図中、図1及び図2と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図1及び図2に示す例と同様であるが、本図示例の特徴とするところは、前記第一積層ゴム15の向きを図2に示す状態から90°変えて図5に示す如く水平面内におけるX方向の変位を吸収可能とすると共に、前記第二積層ゴム17の向きを図2に示す状態から90°変えて図5に示す如く水平面内におけるY方向の変位を吸収可能とした点にある。
【0031】
図5に示す例の場合にも、図1及び図2に示す例と同様、通常運転時におけるクライミングクレーン1の支持を安定化させつつ、地震等の大きな振動の発生時には構築物12側の水平方向変位の影響がマスト2に及ぶことを防止し得、又、装置の大型化を回避してスペース的な面における制約も少なくすることができる。
【0032】
尚、本発明のクレーンの免震支持装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、クライミングクレーンに限らず、マストを有するクレーンであればどのようなクレーンにも適用可能なこと等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明を実施する形態の一例の平面図であって、図1のII−II矢視相当図である。
【図3】トリガー手段として用いることの可能な鉛ダンパーを示す図である。
【図4】トリガー手段として用いることの可能な鋼棒ダンパーを示す図である。
【図5】本発明を実施する形態の他の例の平面図であって、図1のII−II矢視相当図である。
【図6】従来のクライミングクレーンにおいて構築物に対しマストを連結した状態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0034】
1 クライミングクレーン(クレーン)
2 マスト
12 構築物
14 マスト支持部材
15 第一積層ゴム(積層ゴム)
15a 積層ゴム本体
15b 取付フランジ
15c 取付フランジ
16 第一トリガー手段
17 第二積層ゴム(積層ゴム)
17a 積層ゴム本体
17b 取付フランジ
17c 取付フランジ
18 第二トリガー手段
19 ベースブラケット
20 ベースプレート
21 連結プレート
22 シヤピン
23 シヤピン
28 鉛ダンパー
28a 鉛柱
28b 固定フランジ
28c 固定フランジ
29 鋼棒ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構築物と、該構築物に沿って立設されたマストとをマスト支持部材を介して連結し、マストを補助的に支持するようにしたクレーンの免震支持装置であって、
前記構築物に対しマスト支持部材を、水平面内における一方向の変位を吸収可能な第一積層ゴムと、通常運転時には荷重を支持して前記第一積層ゴムの変形を拘束し且つ前記構築物又はクレーンに作用する水平方向加速度が設定値以上となった時には塑性変形して前記第一積層ゴムの変形を許容する第一トリガー手段とを介して連結すると共に、
前記マスト支持部材に対しマストを、前記一方向と直角となる水平面内における他方向の変位を吸収可能な第二積層ゴムと、通常運転時には荷重を支持して前記第二積層ゴムの変形を拘束し且つ前記構築物又はクレーンに作用する水平方向加速度が設定値以上となった時には塑性変形して前記第二積層ゴムの変形を許容する第二トリガー手段とを介して連結したことを特徴とするクレーンの免震支持装置。
【請求項2】
前記第一トリガー手段及び/又は第二トリガー手段を、前記構築物又はクレーンに作用する水平方向加速度が設定値以上となった時の剪断力で破断されるシヤピンによって構成した請求項1記載のクレーンの免震支持装置。
【請求項3】
前記第一トリガー手段及び/又は第二トリガー手段を、対向配置される固定フランジ間に断面形状が円形の湾曲した鉛柱の両端を固着してなる鉛ダンパーによって構成した請求項1記載のクレーンの免震支持装置。
【請求項4】
前記第一トリガー手段及び/又は第二トリガー手段を、前記積層ゴムの積層ゴム本体を挟持する取付フランジ間を連結するように取り付けられたU字状の鋼材からなる鋼棒ダンパーによって構成した請求項1記載のクレーンの免震支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−184254(P2008−184254A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17795(P2007−17795)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000198363)石川島運搬機械株式会社 (292)
【Fターム(参考)】