説明

クレーンの振れ止め制御方法及び制御装置

【課題】多重振り子構造のクレーン搬送システムにおいて、台車の速度パターンを適切に決定して吊り荷の振れ止めを高精度に実現可能とする。
【解決手段】クレーン本体100による吊り荷503の支持構造が多重振り子構造を構成するクレーン搬送システムにおいて、多重振り子構造を振動させたときの吊り荷503の振れ角を検出する振れ角センサ512と、振れ角検出値から吊り荷503の振れ周期を演算する周期演算部1014Xと、吊り荷503を水平方向に搬送する際の加減速時間を前記振れ周期に等しくした複数の速度パターンの中から、吊り荷503の搬送距離に応じて一つの速度パターンを選択する速度パターン選択部1015Xと、選択した速度パターンを用いて吊り荷503を水平方向に搬送するためのインバータ制御部110X、インバータ111及びモータ112と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井型クレーンの台車を自動運転して吊り荷を所定位置に搬送する天井型クレーン搬送システムにおいて、吊り荷を搬送する際の加減速終了時における吊り荷の振動を低減するためのクレーンの振れ止め制御方法及び制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のクレーン搬送システムでは、ある位置に置かれた吊り荷を吊り上げて目標位置まで搬送し、吊り荷を降ろすという一連の動作のサイクルタイムを減少させるため、水平方向へ搬送する際の加減速終了時における吊り荷の振れを抑制する制御(いわゆる振れ止め制御)が採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、巻上ワイヤロープの振れ角、振れ角速度の計測値等に基づき高速振れ止めパターンにおける振れ止め加減速調整量を演算するファジィ推論手段等の振れ止め加減速調整量演算器と、吊り荷の最大許容振れ角に基づき設定された減速度を、目標速度と現在の設定速度との偏差の正負に応じて振れ止め加減速調整量に加減算し、その結果に演算周期を乗じたものを現在の設定速度または速度検出値に加算して高速振れ止めパターンにおける速度指令値を演算する高速振れ止め速度指令値演算器とを備えた振れ止め制御装置が開示されている。
この従来技術によれば、台車速度が目標速度よりも小さいときには速度を増加させ、逆に目標速度よりも大きいときには速度を減少させるような速度指令値が生成されるため、吊り荷の振れ止めを行ないながら目標速度に到達させることを可能にしている。
【0004】
また、特許文献2には、吊り荷を巻き上げつつ走行する懸垂式クレーンの走行制御を所定の速度パターンに従って行う際に、速度パターンを、クレーンを所定速度まで加速する加速区間と等速区間とにより構成し、加速区間における加速度パターンを連続的に変化させることにより、巻き上げ・巻き下げ速度が高速であって駆動系がバネ特性を持つようなクレーンに対しても高精度の振れ止めを可能にした振れ止め制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2837314号公報(段落[0009]〜[0032]、図1,図2等)
【特許文献2】特許第3237557号公報(段落[0016]〜[0027]、図1〜図3等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、これらの従来技術では、基本的に、クレーン−吊り荷系を単振り子とみなすモデルに基づき、吊り荷の振れ周期に相当する加減速時間を求めて速度パターンを決定している。
すなわち、図6(a)はクレーン−吊り荷系の単振り子モデルであり、501はクレーンの台車、502はワイヤロープ、503は吊り荷、Lはロープ長(台車501から吊り荷503の重心までの距離)、θは吊り荷503の振れ角度である。また、図6(b)は上記モデルにおける台車501の速度パターン,加速度パターンと、吊り荷503の振れ角度θとの関係を示しており、Vmaxは速度最大値、Amax,−Amaxは加速度最大値、Tは加減速時間(吊り荷503の振れ周期)である。
なお、図6(c)は吊り荷503の振れ角度と角速度との関係を示す軌跡図であり、図中の記号a,b,cは図6(b)における速度パターン上の記号a,b,cに対応している。
【0007】
ここで、加減速時間、つまり吊り荷503の振れ周期TはT=2π√(L/g)によって表されることが知られており(gは重力加速度)、図6(b)によれば、台車501の加速終了時及び減速終了時に吊り荷503の振れ角度θが何れも0になるため、距離Lから求めた加減速時間Tに基づき、図6(b)の上段に示すような速度パターンを作成して台車501を走行させれば、理論上、吊り荷503の振れ止め制御を行うことができる。
【0008】
しかしながら、図7に示すように、ビーム504及びスプレッダ505を用いて吊り荷503を搬送する天井型クレーン搬送システムは、いわゆる二重振り子構造となっている。すなわち、ビーム504と、スプレッダ505及び吊り荷503の結合体との固有振動数がそれぞれ異なるため、台車501から吊り荷503の重心までの距離Lを求めて前記のT=2π√(L/g)により周期Tつまり加減速時間を求めたとしても、この加減速時間Tでは正確に振れ止めを行うことができない。なお、図7において、507,508は滑車、509は巻き上げ・巻き下げ用のドラム、510はワイヤロープ、511はロープを示す。
このように、図7に示したような二重振り子構造のクレーン搬送システムにおいては、支点から吊り荷503の重心までの距離Lに基づいて加減速時間を決定することができず、適切な速度パターンの決定が難しいため振れ止め制御の精度が低くなるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明の解決課題は、多重振り子構造のクレーン搬送システムにおいて、搬送時の速度パターンを適切に決定して吊り荷の振れ止めを高精度に実現可能としたクレーンの振れ止め制御方法及び制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に係る振れ止め制御方法は、吊り荷及びその支持構造が多重振り子構造を構成し、クレーン本体によって吊り荷を搬送するクレーン搬送システムにおいて、前記多重振り子構造を振動させたときの吊り荷の振れ角を予め測定し、この振れ角から吊り荷の振れ周期を求め、吊り荷を搬送する際の加減速時間を前記振れ周期に等しくした速度パターンを用いて吊り荷を水平方向に搬送することにより加減速終了時の吊り荷の振れを抑制するものである。
【0011】
請求項2に係る振れ止め制御方法は、請求項1において、前記多重振り子構造をX方向に振動させたときの吊り荷のX方向の振れ角と、前記多重振り子構造を前記X方向に直交するY方向に振動させたときの吊り荷のY方向の振れ角とをそれぞれ求め、前記X方向の振れ角から求めたX方向の振れ周期、前記Y方向の振れ角から求めたY方向の振れ周期にそれぞれ等しい加減速時間を持つX方向速度パターン、Y方向速度パターンを用いて、吊り荷をX方向、Y方向に搬送するものである。
【0012】
請求項3に係る振れ止め制御方法は、請求項1または2において、吊り荷の搬送距離に応じて、複数の前記速度パターンの中から一つの速度パターンを選択して用いるものである。
【0013】
請求項4に係る振れ止め制御方法は、請求項1〜3の何れか1項において、前記多重振り子構造は、昇降するビームと、このビームに吊り下げられたスプレッダ及び吊り荷と、からなる二重振り子構造であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る振れ止め制御装置は、吊り荷及びその支持構造が多重振り子構造を構成し、クレーン本体によって吊り荷を搬送するクレーン搬送システムにおいて、前記多重振り子構造を振動させたときの吊り荷の振れ角を検出する検出手段と、前記振れ角の検出値から吊り荷の振れ周期を演算する演算手段と、吊り荷を水平方向に搬送する際の加減速時間を前記振れ周期に等しくした複数の速度パターンの中から、吊り荷の搬送距離に応じて一つの速度パターンを選択する選択手段と、選択した速度パターンを用いて吊り荷を水平方向に搬送する搬送手段と、を備えたものである。
【0015】
請求項6に係る振れ止め制御装置は、請求項5において、前記検出手段は、前記多重振り子構造をX方向に振動させたときの吊り荷のX方向の振れ角と、前記多重振り子構造を前記X方向に直交するY方向に振動させたときの吊り荷のY方向の振れ角をそれぞれ検出し、前記演算手段は、前記X方向の振れ角からX方向の振れ周期を演算し、かつ、前記Y方向の振れ角からY方向の振れ周期を演算し、前記選択手段は、吊り荷をX方向に搬送する際の加減速時間を前記X方向の振れ周期に等しくした複数のX方向速度パターンの中から吊り荷の搬送距離に応じて一つのX方向速度パターンを選択し、かつ、吊り荷をY方向に搬送する際の加減速時間を前記Y方向の振れ周期に等しくした複数のY方向速度パターンの中から吊り荷の搬送距離に応じて一つのY方向速度パターンを選択するものである。
【0016】
請求項7に係る振れ止め制御装置は、請求項5または6において、前記多重振り子構造は、昇降するビームと、このビームに吊り下げられたスプレッダ及び吊り荷と、からなる二重振り子構造であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、二重振り子等の多重振り子構造を有する天井型クレーン搬送システムにおいて、吊り荷を支持する支点から吊り荷の重心までの距離を用いずに振れ止め用の適切な速度パターンを求めることができ、この速度パターンに従って吊り荷を搬送することで加減速終了時の確実な振れ止めを行うことができる。これにより、クレーン搬送システムにおけるサイクルタイムの短縮が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態における天井型クレーン搬送システムの主要部構成図である。
【図2】図1におけるクレーン本体の概略説明図である。
【図3】図1におけるアシスト制御部及びクレーン制御部の概略構成図である。
【図4】吊り荷の振れ角の説明図である。
【図5】台車の速度パターンの説明図である。
【図6】クレーン−吊り荷系の単振り子モデルの説明図である。
【図7】二重振り子構造を有する天井型クレーン搬送システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、図1は本実施形態に係る天井型クレーン搬送システムの主要部構成図、図2は図1におけるクレーン本体100の概略説明図(図2(a)は平面図、図2(b)は側面図)であり、建屋内の天井(高所)に設置されたクレーン本体100によって吊り荷503を始点位置から目標位置まで搬送するシステムを示している。ここで、主として吊り荷503の支持構造に関して、図7と同一の構成要素には同一の番号を付してある。
本実施形態において、吊り荷503は例えばプレス加工用の金型であり、この金型を天井型クレーン搬送システムにより金型置場とプレス機との間で搬送する場合を想定しているが、本発明における吊り荷の種類や搬送場所等は何ら限定されないことは言うまでもない。
【0020】
クレーン本体100は、図2に示すように基台100Aと台車100Bとを備えている。基台100Aは図1,図2のY方向、台車100BはX方向にそれぞれ走行可能であるものとし、これによって台車100Bに吊り下げられた吊り荷503はX−Y平面を水平方向に移動可能である。なお、便宜的に、台車100BのX方向の移動を「走行」、基台100AのY方向の移動を「横行」というものとする。また、図1には、吊り荷503の昇降方向をZで示している。
図1では、基台100A及び台車100Bを図示しておらず、これらを有するクレーン本体100を一つのブロックとして示してあるが、このブロック内の各構成要素は、基台100Aまたは台車100Bの何れかに配置されるものである。
【0021】
始めに、図1を参照しながらクレーン本体100の構成を説明する。
クレーン本体100において、110はPLC(プログラマブルロジックコントローラあるいはシーケンサ)等により構成されたクレーン制御部であり、後述するアシスト制御部101からの運転指令及び速度パターンに従い、インバータ111,113,115を運転して走行用モータ112、横行用モータ114、ドラム509の駆動用(巻き上げ・巻き下げ用)モータ116をそれぞれ駆動するようになっている。ここで、クレーン制御部110及びインバータ111,113,115による各モータ112,114,116の駆動システムや、モータ112による台車100Bの走行機構、モータ114による基台100Aの走行機構、モータ116によるドラム509の駆動機構は、何れも既知のものであり、本発明の要旨ではないため、詳述を省略する。
【0022】
アシスト制御部101も同じくPLC等により構成されており、主として前記モータ112,114,116に対する運転指令や走行時、横行時に吊り荷503の振れ止めを行うための速度パターンを前記クレーン制御部110に送出する機能を備えている。
なお、アシスト制御部101の構成及び機能については後に詳述する。
【0023】
アシスト制御部101には受信部102が接続されており、この受信部102は、作業員が地上で設定操作するアシスト設定部200との間で、無線LANシステムにより各種データを送受信可能である。
アシスト設定部200は、例えばタッチパネル方式により、台車100Bの運行パターン(搬送速度、搬送経路上の中継場所の有無等)や目標位置、吊り荷503のパラメータ(吊り荷の種類、振れ止め制御を行わずに通常の搬送を行う場合の重心位置等)を設定するためのものである。また、吊り荷503を振れ止め制御する際に、速度パターンにおける加減速時間を決定するためのデータ(後述する振れ角センサ512により検出した振れ角等)も設定可能となっている。なお、201は、上記運行パターンに応じたモータ制御用プログラムや吊り荷503のパラメータ等が格納されたメモリカードを示している。
【0024】
更に、103は吊り荷503の高さ(地上からの距離)を検出するための距離検出部であり、光学式エンコーダ等を利用して、ワイヤロープ510を巻き上げ、または巻き下げるドラム509の回転数から吊り荷503の高さを検出するようになっている。ここで、ドラム509は台車100B上に固定されているものとする。
104は基台100A及び台車100BのX方向、Y方向の位置を検出するための距離検出部であり、詳しくは、図2(a)に示すように構成されている。
【0025】
すなわち、図2(a)において、104a,104bは基台100Aの端部に固定されたレーザ距離計、105aは台車100Bの側面に固定された反射板、105bは基台100Aの外部の適宜な静止位置に固定された反射板であり、これらによって図1の距離検出部104が構成される。
反射板105aからのレーザ反射光を受光するレーザ距離計104aの出力信号を用いれば台車100BのX方向の位置(距離)を検出することができ、同様に反射板105bからのレーザ反射光を受光するレーザ距離計104bの出力信号を用いれば基台100AのY方向の位置(距離)を検出することができる。よって、これらの検出値から台車100B言い換えれば吊り荷503の絶対位置が求められ、吊り荷503の搬送先である目標位置(アシスト設定部200により設定される)までの距離も求められる。
【0026】
再び図1において、106はスプレッダ操作部であり、吊り荷503を保持するスプレッダ505のロック・アンロック操作を行うためのものである。このスプレッダ操作部106の動作は、機械式制御となっている。
300は作業員による遠隔操作用の無線送信部であり、基台100A側に設置された受信部117を介してアシスト制御部101及びクレーン制御部110に指令を送り、本発明に係る振れ止め制御による搬送モードと振れ止め制御を行わない通常の搬送モードとの選択、クレーン搬送システム全体の起動、停止等を行わせる。
なお、118は地上の作業員がクレーン本体100の行先を確認するための行先表示灯であり、この行先はアシスト制御部101から表示データとして行先表示灯118に与えられる。
【0027】
更に、スプレッダ505の上端部には、振れ角センサ512が取り付けられている。この振れ角センサ512は、ドラム509を支点としたワイヤロープ510、ビーム504、ロープ511、スプレッダ505及び吊り荷503等からなる二重振り子構造を揺らしたときの吊り荷503の振れ角を検出するものであり、検出した振れ角はアシスト制御部101に送信されるようになっている。
【0028】
次に、前記アシスト制御部101及びクレーン制御部110の主たる機能を、図3に基づいて説明する。
図3において、アシスト制御部101は、吊り荷503の昇降を制御するための昇降制御部101Zと、台車100Bの走行を制御するための走行制御部101Xと、基台100Aの横行を制御するための横行制御部101Yとからなっている。ここで、基台100Aの横行と同時に基台100A上の台車100Bも横行するのは言うまでもない。
【0029】
昇降制御部101Zでは、前記距離検出部103により検出した吊り荷503の高さと巻上目標値との偏差を求め、その偏差に応じた吊り荷503の巻き上げ量を巻上量演算部1011により演算する。ここでは吊り荷503の巻き上げ、巻き下げを一括して巻き上げと呼ぶことにする。
なお、吊り荷503の有無(吊り荷503を搬送する時、及び、搬送した吊り荷503を降ろして空荷の状態で戻る時)に応じて停止位置に誤差が生じるため、この誤差に相当する位置補正量を巻上目標値に含ませることが望ましい。
【0030】
演算された巻き上げ量は運転指令作成部1012に送られ、この作成部1012により、モータ116を駆動するインバータ115に対する運転指令が作成される。この運転指令は、ディジタル信号出力端子DOを介してクレーン制御部110内のインバータ制御部110Zに送られ、インバータ制御部110Zでは、所定の速度指令値に従ってインバータ115のスイッチング素子に対するオンオフ信号を作成し、インバータ115を運転する。
これにより、モータ116が駆動され、ドラム509を回転させることにより吊り荷503を巻上目標値まで巻き上げる。
【0031】
また、走行制御部101Xでは、前記距離検出部104(レーザ距離計104a)による距離検出値(台車100BのX方向位置)から、起動時の台車100Bの始点位置を求め、この始点位置とX方向目標位置とを全距離演算部1017Xに入力して始点位置から目標位置までの全距離Xを演算する。この全距離Xは、後述する振れ周期Tと共に速度パターン選択部1015Xに入力されている。
なお、X方向目標位置についても、吊り荷503の有無に応じて停止位置に誤差が生じるため、この誤差に相当する位置補正量をX方向目標位置に含ませることが望ましい。
【0032】
一方、図1に示した振れ角センサ512による振れ角検出値が、走行制御部101Xの周期演算部1014Xに入力されている。
ここで、振れ角は、吊り荷503をスプレッダ505にセットした状態で搬送を開始する前に、例えば吊り荷503の始点位置において人為的に、二重振り子構造を構成するビーム504、スプレッダ505、吊り荷503等の全体をX方向に揺らして検出される。そして、検出された吊り荷503の振れ角は、アシスト制御部101に送信される。図4は、吊り荷503の振れ角の一例を示す図である。
【0033】
この振れ角は、振れ止め制御用の設定データの一つとして、前記アシスト設定部200からクレーン本体100の受信部102に送られ、図3に示す如く振れ角検出値として走行制御部101Xの周期演算部1014Xに取り込まれる。
周期演算部1014Xは、振れ角検出値から振れ周期Tを演算するものである。具体的には、図4に示した振れ角のゼロクロス点を検出し、その間隔から周期Tを求める。
【0034】
周期演算部1014Xにより演算した周期Tと前述の全距離Xとは速度パターン選択部1015Xに入力されており、これらの入力データに基づいて台車100Bの所定の速度パターン(X方向速度パターン)が選択され、出力されるようになっている。
図5は、台車100BのX方向速度パターンの例を示しており、これらの速度パターンは全距離Xに応じて選択される。すなわち、走行時間を短縮するために搬送距離が長いほど搬送速度を速くする必要があるので、速度パターン選択部1015は、モータの定格速度等に基づいて予め設定した最高速度Vmax、周期T、及び、制御遅れによる停止位置誤差(例えば、最高速度の5%×1秒(または2秒)など)を用いて演算した距離と全距離Xとの大小関係に応じて、図5(a)〜図5(d)のうちの何れかの速度パターンを選択する。ここで、図5(d)は全距離Xが最も短い場合であってクリープ運転を行う時の速度パターンであるため、本実施形態の振れ止め制御は、実質的に図5(a)〜図5(c)の速度パターンに従って実行される。
こうして選択されたX方向速度パターンは、アナログ出力端子AOを介してクレーン制御部110内のインバータ制御部110Xに送られる。
【0035】
図5(a)〜図5(c)の速度パターンにおける加減速時間Tには、振れ角検出値から演算した周期Tがそのまま用いられる。
これは、ドラム509を支点としたワイヤロープ510、ビーム504、ロープ511、スプレッダ505及び吊り荷503等からなる二重振り子構造の全体を便宜的に単振り子構造とみなすことにより、速度パターンにおける加減速時間Tを振れ周期T(=2π√(L/g))に一致させれば、前述した振れ止めの原理によって振れ止めが可能であることに基づいている。
なお、各速度パターンにおける減速開始時点tは、レーザ距離計104aにより求めた目標位置までの残存距離が、(減速時間の平均速度×時間T)に等しくなる時点とすれば良く、例えば、図5(a)の速度パターンでは、残存距離が(Vmax/2×T)となる時点にすれば良い。
【0036】
図3のインバータ制御部110Xでは、入力されたX方向速度パターンと後述する運転指令とに基づき、インバータ111のスイッチング素子に対するオンオフ信号を作成し、インバータ111を運転する。これにより、モータ112が駆動され、選択した速度パターンに従って台車100BをX方向に移動させる。
【0037】
更に、走行制御部101Xに入力された距離検出値(台車100BのX方向位置)とX方向目標位置との偏差が残存距離演算部1013Xに入力されており、目標位置までのX方向の残存距離が求められる。この残存距離は、前記インバータ111の出力周波数として検出された速度検出値と共に、運転指令作成部1016Xに入力されている。
運転指令作成部1016Xは、経時的に変化するX方向の残存距離と速度検出値とに基づいて運転指令を作成し、この運転指令を、ディジタル出力端子DOを介してインバータ制御部110Xに送出するものである。
【0038】
横行制御部101Yは、基台100AをY方向に走行させるもので、Y方向目標位置及びY方向の全距離Yが用いられる点を除けば、その構成は基本的に走行制御部101Xと同様である。すなわち、横行制御部101Yにおいて、1013Yは残存距離演算部、1014Yは周期演算部、1015Yは速度パターン選択部、1016Yは運転指令作成部、1017Yは全距離演算部であり、それぞれの機能は走行制御部101Xにおける各要素と同一である。
【0039】
なお、基台100A(言い換えれば台車100B)のY方向速度パターンは、最高速度Vmax、周期T、及び、制御遅れによる停止位置誤差を用いて演算した距離と全距離Yとの大小関係に応じて、図5と同様に速度パターン選択部1015Yが選択すれば良い。この場合の周期Tは、ビーム504、スプレッダ505及び吊り荷503等の全体をY方向に揺らした時の吊り荷503の振れ角を振れ角センサ512により検出し、その振れ角検出値から求めれば良く、この周期TをY方向速度パターンの加減速時間として用いる点もX方向と同様である。
【0040】
なお、X方向,Y方向の振れ角は、起動時、振れ角センサ512により検出したX方向,Y方向の振れ角をアシスト制御部101に送信すれば良い。
【0041】
上記のように、本実施形態によれば、ビーム504、スプレッダ505及び吊り荷503を有する二重振り子構造を有する天井型クレーン搬送システムにおいて、ドラム509から吊り荷503の重心までの距離を用いずに振れ止め用の適切な速度パターンを選択、決定することができる。そして、この速度パターンに従って台車100B及び基台100Aを走行させることにより、加減速終了時の確実な振れ止めを可能にし、吊り荷503の搬送に要するサイクルタイムを最小限にすることができる。
吊り荷503の形状、構造によってその重心位置は異なるが、本実施形態では、振れ止め制御のために吊り荷503の重心位置を考慮する必要もないので、演算負荷も少なくて済むものである。
【0042】
なお、吊り荷503の始点位置から目標位置までの搬送経路は、搬送時間及び搬送距離が最小となり、しかも障害物のない経路が選ばれるが、本発明の要旨ではないため説明を省略する。
また、走行制御及び横行制御を同時に行えば吊り荷を斜めに搬送することも可能であるが、斜め搬送時の振れ止め制御は既述の走行時及び横行時の振れ止め制御に分解して考えることができるから、この点についても説明を割愛する。
【0043】
上記実施形態では、ドラム509により吊り荷503を昇降する機構を備えたクレーン搬送システムについて説明したが、本発明は、吊り荷503の昇降機構を持たず、少なくとも吊り荷を水平方向に搬送するクレーン搬送システムであれば適用可能である。
また、本発明は、ビーム504、スプレッダ505及び吊り荷503等からなる二重振り子構造だけでなく、吊り荷503を含む搬送負荷全体が三重以上の振り子となるような多重振り子構造にも適用することができる。
なお、吊り荷503の昇降機構や走行・横行機構は、図示例に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0044】
100:クレーン本体
100A:基台
100B:台車
101:アシスト制御部
101X:走行制御部
101Y:横行制御部
101Z:昇降制御部
1011:巻上量演算部
1012:運転指令作成部
1013X,1013Y:残存距離演算部
1014X,1014Y:周期演算部
1015X,1015Y:速度パターン選択部
1016X,1016Y:運転指令作成部
1017X,1017Y:全距離演算部
102:受信部
103,104:距離検出部
104a,104b:レーザ距離計
105a,105b:反射板
106:スプレッダ操作部
110:クレーン制御部
110X,110Y,110Z:インバータ制御部
111,113,115:インバータ
112,114,116:モータ
117:受信部
118:行先表示灯
200:振れ止め設定部
201:メモリカード
300:無線送信部
503:吊り荷
504:ビーム
505:スプレッダ
509:ドラム
510:ワイヤロープ
511:ロープ
512:振れ角センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り荷及びその支持構造が多重振り子構造を構成し、クレーン本体によって吊り荷を搬送するクレーン搬送システムにおいて、
前記多重振り子構造を振動させたときの吊り荷の振れ角を予め測定し、この振れ角から吊り荷の振れ周期を求め、吊り荷を搬送する際の加減速時間を前記振れ周期に等しくした速度パターンを用いて吊り荷を水平方向に搬送することにより加減速終了時の吊り荷の振れを抑制することを特徴とするクレーンの振れ止め制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載したクレーンの振れ止め制御方法において、
前記多重振り子構造をX方向に振動させたときの吊り荷のX方向の振れ角と、前記多重振り子構造を前記X方向に直交するY方向に振動させたときの吊り荷のY方向の振れ角とをそれぞれ求め、前記X方向の振れ角から求めたX方向の振れ周期、前記Y方向の振れ角から求めたY方向の振れ周期にそれぞれ等しい加減速時間を持つX方向速度パターン、Y方向速度パターンを用いて、吊り荷をX方向、Y方向に搬送することを特徴とするクレーンの振れ止め制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載したクレーンの振れ止め制御方法において、
吊り荷の搬送距離に応じて、複数の前記速度パターンの中から一つの速度パターンを選択して用いることを特徴とするクレーンの振れ止め制御方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載したクレーンの振れ止め制御方法において、
前記多重振り子構造は、昇降するビームと、このビームに吊り下げられたスプレッダ及び吊り荷と、からなる二重振り子構造であることを特徴とするクレーンの振れ止め制御方法。
【請求項5】
吊り荷及びその支持構造が多重振り子構造を構成し、クレーン本体によって吊り荷を搬送するクレーン搬送システムにおいて、
前記多重振り子構造を振動させたときの吊り荷の振れ角を検出する検出手段と、
前記振れ角の検出値から吊り荷の振れ周期を演算する演算手段と、
吊り荷を水平方向に搬送する際の加減速時間を前記振れ周期に等しくした複数の速度パターンの中から、吊り荷の搬送距離に応じて一つの速度パターンを選択する選択手段と、
選択した速度パターンを用いて吊り荷を水平方向に搬送する搬送手段と、
を備えたことを特徴とするクレーンの振れ止め制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載したクレーンの振れ止め制御装置において、
前記検出手段は、前記多重振り子構造をX方向に振動させたときの吊り荷のX方向の振れ角と、前記多重振り子構造を前記X方向に直交するY方向に振動させたときの吊り荷のY方向の振れ角と、をそれぞれ検出し、
前記演算手段は、前記X方向の振れ角からX方向の振れ周期を演算し、かつ、前記Y方向の振れ角からY方向の振れ周期を演算し、
前記選択手段は、吊り荷をX方向に搬送する際の加減速時間を前記X方向の振れ周期に等しくした複数のX方向速度パターンの中から吊り荷の搬送距離に応じて一つのX方向速度パターンを選択し、かつ、吊り荷をY方向に搬送する際の加減速時間を前記Y方向の振れ周期に等しくした複数のY方向速度パターンの中から吊り荷の搬送距離に応じて一つのY方向速度パターンを選択することを特徴とするクレーンの振れ止め制御装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載したクレーンの振れ止め制御装置において、
前記多重振り子構造は、昇降するビームと、このビームに吊り下げられたスプレッダ及び吊り荷と、からなる二重振り子構造であることを特徴とするクレーンの振れ止め制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−93633(P2011−93633A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247170(P2009−247170)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(502367845)富士アイティ株式会社 (5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】