説明

クレーン制御装置

【課題】荷役作業効率の低下を最小限にとどめながら、クレーンの消費電力合計値を低減して省エネルギー効果及び経済性を高め、発電設備の容量低減を可能にする。
【解決手段】荷役用の各クレーンCから送られた運転動作指示を検出する運転動作指示検出手段1と、運転動作指示に応じた各クレーンCの動作に伴って発生する消費電力合計値を算出し、この消費電力合計値と発電設備の容量から設定される運転動作指示保持基準値とを比較して運転動作指示の保持要否を判断する運転動作指示保持判断手段2と、保持必要と判断された運転動作指示を一定時間保持する運転動作指示保持手段3と、保持不要と判断された運転動作指示及び一定時間保持された後の運転動作指示を、各クレーンCに送出する運転動作指示送出手段4と、運転動作指示が一定時間保持されていることを運転員に通知する運転動作指示保持通知手段5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクレーン制御装置に関し、例えば、荷役用に船舶上に設置された複数台の船舶用クレーンの動作を制御するための制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶用クレーンには、土木工事用砂、紙の原料の木材チップや石炭・鉱石等、バラ物やコンテナ等、荷役する種類によって様々な構造があるが、基本的なクレーン動作としては、巻上,俯仰,旋回、及び、バラ物を掴むグラブバケットの開閉動作が挙げられる。なお、このような船舶用クレーンの多くは、電動機を動力源とし、直接またはワイヤーケーブルや油圧回路等を介して間接的に駆動されている。
【0003】
一方、船舶に搭載される発電設備は、接岸時に陸上の商用電力を利用できる場合を除き、船舶上の複数台の船舶用クレーン、及び、船内外の照明設備や空調設備等の電気を動力とする各種設備の合計消費電力を賄えるような容量を有することが必要である。換言すれば、発電設備の容量は、荷役作業時の全ての船舶用クレーンの消費電力を考慮して決定される。ここで、消費電力の増加は燃料費の増加を招くため、船舶全体として消費電力を低減するための種々の施策がとられている。
【0004】
例えば、特許文献1に係る従来技術では、発電設備に加え、回生制動機、及び、回生制動機が発生した回生電力を蓄積するための二次電池、キャパシタ等の蓄電設備を船舶に搭載し、回生電力を利用して消費電力を低減している。具体的には、各クレーンに対する運転動作指示に基づき、各動作を実行した場合の消費電力または回生電力を算出し、これらの電力を蓄電設備の空き電力容量、蓄電量と比較する。そして、クレーン動作に合わせた蓄電設備の充放電の可否状況により、充電が不足している場合には電力回生を伴う動作を、過充電になる場合には電力消費を伴う動作を優先的に実施するように、運転員からの運転動作指示を一定時間保持(待機)するか、そのまま伝達するかを判断し、蓄電設備に蓄えられた回生電力を有効利用することで消費電力の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−126776号公報(段落[0039]〜[0057]、図6〜図8等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実際の稼動時において、複数台の船舶用クレーンはそれぞれ個別の運転員により操縦されている。また、クレーン動作に伴う消費電力または回生電力の発生量は荷役対象の重量に依存し、各電力の発生タイミングは荷役周期によって決まるものである。特に荷役周期は、荷振れの制振時間や、グラブバケットによる荷の掴み直し等の時間を含むため一定ではなく、運転員の技量に左右されるところが大きい。
従って、荷役対象の重量や荷役周期の差によりクレーン動作に伴う回生電力と消費電力との発生バランスが崩れると、蓄電設備の過充電または完全放電が頻繁に繰り返されることになる。また、回生電力を利用するために運転動作指示の保持回数が多くなり、結果として荷役作業全体の所要時間が長くなる、作業効率が低下する等、所期の消費電力低減効果が得られない場合もある。
【0007】
そこで、本発明の解決課題は、荷役作業の効率低下を最小限にとどめながら、クレーンの消費電力合計値を低減して省エネルギー効果及び経済性を高めると共に、発電設備の容量低減を可能にしたクレーン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係るクレーン制御装置は、荷役用の複数台のクレーンを制御するためのクレーン制御装置において、
各クレーンから送られた運転動作指示を検出する運転動作指示検出手段と、
運転動作指示に応じた各クレーンの動作に伴って発生する消費電力合計値を算出し、この消費電力合計値と発電設備の容量から設定される運転動作指示保持基準値とを比較して各クレーンに対する運転動作指示の保持要否を判断する運転動作指示保持判断手段と、
前記運転動作指示保持判断手段により保持必要と判断された運転動作指示を一定時間保持する運転動作指示保持手段と、
前記運転動作指示保持判断手段により保持不要と判断された運転動作指示、及び、前記運転動作指示保持手段により一定時間保持された後の運転動作指示を、各クレーンに送出する運転動作指示送出手段と、
前記運転動作指示保持手段により運転動作指示が一定時間保持されていることを前記クレーンの運転員に通知する運転動作指示保持通知手段と、を備えたものである。
【0009】
請求項2に係るクレーン制御装置は、請求項1において、前記運転動作指示の保持要否を判断するクレーンを制御対象のクレーンとして任意台数、選択可能であり、かつ、複数台選択したクレーンに対して制御優先順位を設定可能な制御対象クレーン選択手段を備えたものである。
【0010】
請求項3に係るクレーン制御装置は、請求項2において、前記制御対象クレーン選択手段により選択されるクレーンまたは前記制御優先順位を、クレーンの稼働時間、制御回数、または荷役作業の進捗度合に応じて自動的に切り替える制御対象クレーン自動切替手段を備えたものである。
【0011】
請求項4に係るクレーン制御装置は、請求項1〜3の何れか1項において、各クレーンは、所定のクレーン動作を行うための複数台の電動機を備え、これらの電動機を駆動する電力変換装置の直流母線が共通接続されていると共に、前記電動機により発生する回生電力を消費するための制動手段を備えたものである。
【0012】
請求項5に係るクレーン制御装置は、請求項1〜3の何れか1項において、各クレーンは、所定のクレーン動作を行うための複数台の電動機を備え、これらの電動機を駆動する電力変換装置の直流母線が共通接続されていると共に、前記電動機により発生する回生電力を蓄電するための蓄電設備を備えたものである。
【0013】
請求項6に係るクレーン制御装置は、請求項4において、前記電動機により発生する回生電力を蓄電するための蓄電設備を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、各クレーンに対する運転動作指示によって見込まれる消費電力合計値が発電設備の容量に基づく運転動作指示保持基準値を超える場合に、所定のクレーンに対する運転動作指示を一定時間保持して発生電力のタイミングをずらすことにより、運転動作指示の保持による荷役作業の効率低下を最小限にとどめながら、クレーン全体の消費電力合計値を低減して省エネルギー効果及び経済性を高めることができ、また、発電設備の容量増加を防ぐことができる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、クレーンの過去の稼働状況や運用形態に基づいて任意台数のクレーンを制御対象として選択し、これらのクレーンの制御優先順位を設定することができる。
また、請求項3に係る発明によれば、クレーンの稼働時間や制御回数、荷役作業の進捗度合に応じて制御対象とするクレーンや制御優先順位の設定を自動的に行うことにより、請求項1の発明による効果に加えて、一層きめ細かい省電力制御、高効率かつ経済的な制御を実現することが可能である。
【0016】
請求項4〜6に係る発明によれば、各種のクレーン動作に伴って発生する回生電力を適切に処理し、あるいは、その有効利用を図って省エネルギー化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る船舶用クレーン制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】一連の荷役作業の各クレーン動作に伴う発生電力を示すグラフである。
【図3】第1実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る船舶用クレーン制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る船舶用クレーン制御装置の構成を示すブロック図である。
【図6】第1〜第3実施形態に係るクレーン制御装置を実現するコンピュータシステムの構成図である。
【図7】本発明の第4実施形態における船舶用クレーン駆動装置の回路構成図である。
【図8】本発明の第4実施形態における船舶用クレーン駆動装置の回路構成図である。
【図9】本発明の第4実施形態における船舶用クレーン駆動装置の回路構成図である。
【図10】本発明の第4実施形態における船舶用クレーン駆動装置の回路構成図である。
【図11】本発明の第5実施形態における船舶用クレーン駆動装置の回路構成図である。
【図12】本発明の第5実施形態における船舶用クレーン駆動装置の回路構成図である。
【図13】本発明の第5実施形態における船舶用クレーン駆動装置の回路構成図である。
【図14】本発明の第5実施形態における船舶用クレーン駆動装置の回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る船舶用クレーン制御装置の構成を示すブロック図であり、船舶に搭載された複数台(n台)の船舶用クレーン(以下、単にクレーンともいう)を統括して制御するための制御装置を示している。
図1において、船舶用クレーン制御装置10は、運転動作指示検出手段1、運転動作指示保持判断手段2、運転動作指示保持手段3、運転動作指示送出手段4及び運転動作指示保持通知手段5を備えており、運転動作指示送出手段4から送出される運転動作指示に従って各クレーンCが運転されるようになっている。
ここで、制御装置10を構成する各手段は、後述するように、コンピュータシステムのハードウェア及びソフトウェアによって構成されており、特に図示されていないが、各手段1,4,5が船舶用クレーンCとの間で運転動作指示等を送受信するための通信装置を備えている。
【0019】
以下、制御装置10を構成する各手段につき説明する。
まず、運転動作指示検出手段1は、各クレーンCを操作する運転員から発せられた巻上,俯仰,旋回,グラブバケットの開閉等の運転動作指示を検出する。
運転動作指示保持判断手段2は、前記運転動作指示に伴って発生する全てのクレーンCの消費電力合計値を算出する。そして、その消費電力合計値と、船舶に搭載された発電設備の容量に基づいて事前に設定した運転動作指示保持基準値とを比較することにより、個々のクレーンCに対する運転動作指示を保持することの要否を判断する。その結果、保持が必要な場合には、当該運転動作指示に「保持必要」の情報を付加して運転動作指示保持手段3に伝達し、保持が不要な場合(直ちに運転動作を行う場合)には、当該運転動作指示に「保持不要」の情報を付加して運転動作指示送出手段4に伝達する。
【0020】
運転動作指示保持手段3は、運転動作指示保持判断手段2により「保持必要」と判断された運転動作指示を、運転動作指示送出手段4に伝達する前に一定時間保持する。
運転動作指示送出手段4は、運転動作指示保持判断手段2を介して伝達された「保持不要」の運転動作指示、及び、運転動作指示保持判断手段2により「保持必要」と判断されて運転動作指示保持手段2に一定時間保持された後の運転動作指示を、各クレーンCの運転員に送出する。
【0021】
運転動作指示保持通知手段5は、運転動作指示保持手段3により保持された運転動作指示に対応するクレーンCの運転員に、当該運転動作指示が一定時間保持されていることを通知する。その具体的な通知手段としては、例えばクレーンCの操縦席に設置されたタッチパネルやランプ等の表示装置、または音声通報装置等を使用すればよい。
このように、運転員に対して運転動作指示が保持されていることを通知すれば、これが通知されない場合に運転員が運転動作指示を重ねて発生させるような過剰指示の発生を未然に防ぐことができる。
【0022】
次に、運転動作指示保持判断手段2の概要について説明する。ここでは、例として、木材チップ荷役用のグラブバケットを備えた船舶用クレーンを対象とし、一連の荷役作業における各クレーン動作の開始/停止の運転動作指示、及び、各クレーン動作に伴う発生電力(消費電力または回生電力)は、以下の表1及び図2のグラフに従うものとする。
【0023】
【表1】

【0024】
表1及び図2に示すように、各クレーン動作には、運転動作指示として開始/停止があり、巻上,俯仰上のように荷役対象または船舶用クレーンのジブを上昇させる場合には、停止直前を除いて電力が消費され、巻下,俯仰下のようにグラブバケットまたはジブを下降させる場合には、開始直後を除いて電力が回生される。また、図2から明らかなごとく、各クレーン動作の開始直後、停止直前は、主に電動機の突入電流によって消費電力または回生電力が大きくなる。
【0025】
前述したように、船舶に搭載される発電設備の容量は、荷役作業時の各クレーンの消費電力を考慮して決定される。例えば、前述した表1に示すような一連の荷役作業を行うクレーンが船舶に3台搭載されている場合、発電設備としては、各クレーンの最大消費電力×3台分の電力を最低限賄える容量が必要になる。すなわち、一連の荷役作業における各クレーンの最大消費電力をそれぞれ1000[kW]とした場合、最低限で3000[kW]の容量を持った発電設備が必要になる。
このため、各クレーンの最大消費電力が発生するタイミングが重ならないように運転動作指示を制御する(時間的にずらす)ことにより、同時に稼動しているクレーンの消費電力合計値を低減させ、結果として、船舶に搭載される発電設備の容量を減少させることができる。本発明はこの点に着目したものである。
【0026】
次に、運転動作指示保持判断手段2による運転動作指示の保持要否の判断手順について、各クレーン動作時に以下の表2に示す消費電力、回生電力を発生するクレーン3台と、容量が2000[kW]の発電設備が搭載されている例を用いて説明する。なお、表2は、前述した表1における動作モード及び個別動作に、消費電力または回生電力をそれぞれ対応させて表示したものである。
【0027】
【表2】

【0028】
上記条件において、3台のクレーンによる消費電力合計値が発電設備の容量2000[kW]を超過するクレーン動作の組合せは、以下の表3に示すようになる。この表3に記載された個別動作は何れも電力を消費する動作であり、回生電力を発生する動作は含まれていない。また、表3における「閉突入」,「開突入」は、グラブバケットの「閉」動作時,「開」動作時に突入電流が流れて電力が消費される動作を示している。
【0029】
【表3】

【0030】
図1の運転動作指示保持判断手段2は、運転動作指示検出手段1により検出された3台のクレーンの運転動作指示に応じた個別動作の組み合わせが表3のようになり、それぞれの発生電力(消費電力)の合計値が表3に示すごとく2000[kW]を超過する場合には、「保持必要」と判断したクレーンの運転動作指示を運転動作指示保持手段3に、それ以外の「保持不要」と判断したクレーンの運転動作指示を運転動作指示送出手段4に伝達することになる。
ここで、「保持必要」と判断される運転動作指示は、その動作を実行せずに保留することによって3台のクレーンの消費電力合計値が2000[kW]を超えないような個別動作の指示である。一例として、表3によれば、2台のクレーンの「巻上開始」と1台のクレーンの「俯仰下開始」とが同時に実行される動作モード5において、1台のクレーンに対する「巻上開始」の運転動作指示を保持することで3台のクレーンの消費電力合計値を2000[kW]未満に抑制可能であるため、この「巻上開始」という運転動作指示が「保持必要」と判断される。
【0031】
上述した運転動作指示の保持要否の判断手順を含む制御装置10の全体的な動作を、図3のフローチャートに示す。
図3において、まず、運転動作指示検出手段1が各クレーンから送出された運転動作指示を検出する(S1)。運転動作指示保持判断手段2は、各クレーンの運転動作指示に応じた消費電力を求め、その合計値を算出する(S2)。そして、算出した消費電力合計値が前述した運転動作指示保持基準値を超えるか否かを判断し、超えていない場合には、全てのクレーンの運転動作指示を「保持不要」と判断してステップS6に移行する(S3NO)。また、算出した消費電力合計値が運転動作指示保持基準値を超える場合には、ステップS4に移行する(S3YES)。
【0032】
次に、個々の運転動作指示が、制御対象となるクレーン(本実施形態により運転動作指示の保持要否を判断する対象となるクレーン)に対する運転動作指示であるか否かをそれぞれ判断し、制御対象となるクレーンに対する運転動作指示でなければステップS6に移行する(S4NO)。また、制御対象となるクレーンに対する運転動作指示である場合には、当該クレーンの運転動作指示を「保持必要」と判断し、ステップS5に移行する(S4YES)。
【0033】
運転動作指示保持手段3は、前述したごとく、運転動作指示保持判断手段2により「保持必要」と判断されたクレーンに対する運転動作指示を一定時間保持する(S5)。同時に、運転動作指示保持通知手段5に対して運転動作指示が保持されていることを伝達し、運転動作指示保持通知手段5は対応するクレーンの運転員にその旨を通知する(S7)。
その後、運転動作指示送出手段4は、「保持不要」と判断された運転動作指示、及び、「保持必要」と判断されて一定時間保持された後の運転動作指示を、クレーン側に送出する(S6)。
【0034】
なお、クレーンの台数が増減した場合も、上述した内容を基本として、図3に示すフローチャートに基づき運転動作指示の保持要否を判断し、制御することで、稼動中のクレーンの消費電力合計値を低減して発電設備の容量未満に抑えることが可能である。
【0035】
ここで、図2や表2等に示した各種のクレーン動作及び発生電力は、一連の荷役作業における基本動作を一動作ずつ順番に実行した場合の例である。
実際の荷役作業では、荷役作業時間の短縮やグラブバケットの荷振れを抑制するために、複数のクレーン動作の重なりが発生する場合もある。例えば、荷役作業時間を短縮するためには、グラブバケットの巻上げ動作中にジブの俯仰下げ動作を開始し、グラブバケットの開動作中にジブの俯仰上げ動作を開始し、または、ジブの俯仰下げ動作中にグラブバケットの巻下げ動作を開始する等、二つの動作を平行して実施している。更に、グラブバケットの荷振れを抑制するためには、グラブバケットの巻上げまたは巻下げ動作中に生じる荷振れを、ジブの俯仰上げまたは俯仰下げ動作、及び、左右の旋回動作を繰り返し実施する等、複数の動作を組合せて実施している。
【0036】
このように複数のクレーン動作の重なりがある場合でも、重なり合う動作項目及びその際に発生する消費電力合計値を考慮して、表3のような運転動作指示の保持要否の判断基準(発電設備の容量を超えるような個別動作の組み合わせ)を予め定義しておけば、図3に示したフローチャートを用いて消費電力合計値を低減することが可能である。
同様に、他の種類のクレーンであっても、クレーン動作の種類及び電力値の組合せが異なるだけで、上述した手順に従い所定の判断基準に基づいて運転動作指示の保持、送出等を制御することにより、消費電力合計値を低減することができる。
【0037】
次に、本発明の第2実施形態を図4に基づいて説明する。
この第2実施形態では、図4に示すように、船舶用クレーン制御装置11が制御対象クレーン選択手段6を備えており、この選択手段6によってn台のクレーン(クレーン番号をC〜Cとする)のうち任意台数のクレーンを制御対象(運転動作指示保持判断手段2による運転動作指示の保持要否の判断対象)として選択し、かつ、複数台のクレーンを選択した場合に制御優先順位を設定できるようになっている。
【0038】
図4の例は、n台のクレーンCのうち2台のクレーンC,Cを制御対象として選択すると共に、クレーンC→クレーンCの順で制御優先順位を設定した例である。なお、制御優先順位とは、運転動作指示の保持要否の判断を行うための優先順位である。
制御対象とするクレーンの台数やクレーン番号の特定、及び制御優先順位は自由に選択・設定可能であるが、運用者が過去のクレーンの稼動状況や荷役作業量等の運用形態を勘案し、任意に、または予め決められた基準に基づいて決定することが望ましい。
なお、制御対象クレーン選択手段6は、運転員の入力操作により制御対象クレーンや制御優先順位を選択、設定することを予定しているが、クレーンの稼動状況や荷役作業量を検出してこれらを自動的に行うようにしてもよい。
【0039】
ここで、船舶に搭載されたクレーンの台数が3台(クレーンC,C,C)である場合、以下の表4に示すような制御対象クレーン台数、制御対象クレーン番号及び制御優先順位の組合せが考えられる。従って、運用者は、過去のクレーンの稼動状況や荷役作業量等の運用形態を勘案して表4の組合せの中から適切な組み合わせを選択し、制御対象クレーン選択手段6を介して設定すればよい。
【0040】
【表4】

【0041】
船舶に搭載されているクレーンの中で、本発明による制御対象とならないクレーン(非制御のクレーン)は、運転動作指示を保持されることなく、従来どおり運転員による運転動作指示どおりに動作する。一方、制御対象となって運転動作指示が保持されるクレーンや、制御優先順位が高い順位に固定されているクレーンには、動作運転指示の保持が集中する結果、荷役作業効率の低下が顕著になり、結果として船舶全体の荷役作業が長期化してしまう。この場合、船舶の接岸に関する諸経費等が増加することになる。
このため、荷役作業時間の平準化を考慮し、制御対象となるクレーンを切り替えたり、または、制御対象となるクレーンの制御優先順位を切り替える手段が必要とされる。すなわち、本実施形態における制御対象クレーン選択手段6や、後述する第3実施形態における制御対象クレーン自動切替手段7がこれらの要請に応えるものである。
なお、制御対象となるクレーンが複数台である場合、これらのクレーンのうちの1台が運転員の交代・休憩やクレーン本体または周辺設備の整備等の要因により運転を停止している期間は、荷役作業効率の低下を回避するため、残りの制御対象となるクレーンは非制御状態とすることが望ましい。
【0042】
図5は、本発明の第3実施形態の構成を示すブロック図である。
この実施形態に係る船舶用クレーン制御装置12は、前述した制御対象クレーン選択手段6の上位に、制御対象クレーン自動切替手段7を設けたものである。
制御対象クレーン自動切替手段7は、実際のクレーンの稼働時間、制御回数、荷役作業の進捗度合を検出し、これらに応じて、制御対象となるクレーンや制御優先順位の切替を、制御対象クレーン選択手段6に対して自動的に指示する。
いま、船舶に搭載された3台のクレーンC,C,Cのうち2台を制御対象とする場合、制御対象となるクレーン番号及び制御優先順位の組合せは、以下の表5のようになる。
【0043】
【表5】

【0044】
制御対象クレーン自動切替手段7は、クレーンの実際の稼働時間、制御回数、荷役作業の進捗度合のいずれかを(または二つ以上を組み合わせて)検出して基準値と比較する等の処理を行い、表5の組合せNo.1〜6の中から最適の制御対象クレーン番号及び制御優先順位が実現されるように、制御対象クレーン選択手段6を介して、制御対象となる2台のクレーン及び制御優先順位を切り替える。すなわち、運転動作指示が保持されるクレーンを特定のクレーンに集中させずに平準化させる観点、及び、運転動作指示の保持による荷役作業の停滞を解消させる観点から、制御対象となるクレーン及びその制御優先順位を最適のものに変更する。
なお、前述したごとく、制御対象となるクレーンの一方が運転員の交代・休憩、クレーン本体または周辺設備の整備等の要因により運転を停止している期間は、他方のクレーンは非制御状態とする。
【0045】
以下、制御対象クレーン自動切替手段7による切替基準について具体的に説明する。
1.クレーンの稼働時間によって切り替える場合は、運用者が任意に設定した基準値(例えば、1時間、2時間、または、1日、2日等)を単位として、あるいは、運転動作指示の保持に伴う実際の荷役作業遅れ時間が基準値(例えば、10分、30分等)に到達した時点で、制御対象となるクレーンまたはその制御優先順位を別の組合せに切り替える。
これにより、運転動作指示が保持されるクレーンを特定のクレーンに集中させずに平準化させることができる。
2.クレーンの制御回数によって切り替える場合は、実際の制御回数が運用者により設定された基準値(例えば、10回、50回等)に到達した時点で、制御対象となるクレーンまたはその制御優先順位を別の組合せに切り替える。
この場合も、運転動作指示が保持されるクレーンを特定のクレーンに集中させずに平準化させることができる。
3.荷役作業の進捗度合で切り替える場合は、実際に船倉に残っている荷の量が少ない順に制御対象となるクレーンまたはその制御優先順位が高くなるような組合せを選び、制御対象となるクレーンまたはその制御優先順位を切り替える。なお、船倉の荷の残量は、例えば、木材チップ船の場合には、船倉に残った木材チップの高さ(または船倉上部から木材チップまでの距離)を計測すれば、「船倉の底面積×高さ」からチップの残量を推定することが可能である。
つまり、船倉の荷の残量が多い箇所で作業しているクレーンに対しては、運転動作指示が保持される状態をなるべく発生させずに荷役作業を円滑に進めることが全体としての作業時間の短縮、効率向上に寄与するので、上記のような進捗度合に応じた切替基準に従うことが望ましい。
【0046】
次に、図6は、第1〜第3実施形態に係る船舶用クレーン制御装置を実現するためのコンピュータシステムの構成図である。
図6において、100はCPU,MPU等により構成される制御装置本体であり、統括制御部101、演算処理部102、内部メモリ103、タイマ104を備えている。
ここで、統括制御部101は、クレーン制御装置全体の動作を統括的に制御する。演算処理部102は、前述した図1,図4,図5における各手段1〜7の機能を実現するものであり、クレーン側から送られた運転動作指示を検出し、消費電力合計値の算出、消費電力合計値と運転動作指示保持基準値との比較による運転動作指示の保持要否の判断、運転動作指示の保持の指令、クレーン側への運転動作指示の送出または保持の通知、制御/非制御対象のクレーンや制御優先順位の認識、制御対象クレーンを自動的に切り替える際の判断処理等を実行する。
また、内部メモリ103には、本発明による一連のクレーン制御動作を実行するためのプログラムや、演算処理部102で使用される各種データが記憶される。タイマ104は、運転動作指示を保持する時間やクレーンの稼働時間等を測定するためのものである。
【0047】
送受信装置201,202は、制御装置本体100とクレーン側の運転員との間で運転動作指示やその保持通知を送受信すると共に、制御/非制御対象のクレーンの特定やその運転状態の伝達を行うために用いられる。これらの送受信装置201,202は、無線LANや小電力無線通信、あるいは有線通信等を行う周知の通信装置によって実現可能である。
【0048】
データベース300には、表1〜表5に示したような各種データ、各クレーンの過去の稼働状況、荷役作業量等の運用情報が格納されている。
記憶装置400には、保持された運転動作指示、制御/非制御対象となるクレーンや制御優先順位、更には、制御対象クレーンを自動的に切り替えるための各種基準値(稼動時間、制御回数等)が記憶される。なお、これらの情報は内部メモリ103に記憶しても良い。
入力装置500は、制御装置の起動・停止や各種の入力操作を行なうためのキーボードやマウス、タッチパネル等からなり、例えば前記制御対象クレーン選択手段6を操作員によるインターフェイスを介して実現する場合に、制御対象クレーンの選択操作や制御優先順位の設定操作を行う際にも使用される。
出力装置600は、各クレーンから受信した運転動作指示や運転動作状態、制御対象クレーン及び制御優先順位等の情報を表示するためのディスプレイにより構成される。これらの出力情報は、送受信装置201を介して上位の運転監視制御装置等に伝送してもよい。
なお、図6に記載した構成はあくまで一例であり、本発明に係るクレーン制御装置を実現するための構成は図示例に何ら限定されるものではない。
【0049】
次いで、本発明の第4実施形態を、図7〜図10に従って説明する。
この第4実施形態は、本発明における船舶用クレーン駆動装置の構成に関するものであり、クレーンの制御に関しては、上述した第1〜第3実施形態に係る船舶用クレーン制御装置によって運転動作指示の保持要否の判断とそれに伴う制御を行うことが前提となっている。
【0050】
図7〜図10は、船舶に搭載されたクレーンの台数が3台(同一構成のクレーンC,C,C)の場合であり、個々のクレーンは、各種クレーン動作を行う主巻電動機M、開閉電動機M、俯仰電動機M、旋回電動機Mをそれぞれ備えている。これらの電動機M〜Mは例えば交流電動機であり、図7の例では1台の整流器RECを直流母線を介して共用するインバータINV〜INVにより、図8の例では2台の整流器REC,RECを共用するインバータINV〜INVにより、図9の例では3台の整流器REC〜RECを共用するインバータINV〜INVにより、図10の例では4台の整流器REC〜RECを共用するインバータINV〜INVにより、電動機M〜Mをそれぞれ駆動するように構成されている。
図7〜図10において、Eはエンジン、Gは発電機(交流発電機)、L〜Lは交流リアクトル、Fはヒューズ、BDは制動ユニットである。なお、制動ユニットBDは、電動機M〜Mからの回生電力を制動抵抗器Rにより消費して発電制動するためのものであり、これらの制動ユニットBD及び制動抵抗器Rにより制動手段が構成される。
【0051】
更に、本発明の第5実施形態を、図11〜図14に従って説明する。
この第5実施形態も、第4実施形態と同様にクレーン駆動装置の構成に関するものであり、クレーンの制御に関しては、第1〜第3実施形態に係る船舶用クレーン制御装置によって運転動作指示の保持要否の判断とそれに伴う制御を行うことが前提となっている。
【0052】
この第5実施形態は、第4実施形態の構成に加えて、電動機M〜Mからの回生電力が供給される蓄電設備30、整流器または逆変換器20等を備えたものである。
図11〜図14において、発電機Gの出力側には、整流器または逆変換器20が接続され、その直流側にはヒューズFを介して蓄電設備30が接続されている。この蓄電設備30は、例えばDC−DCコンバータ31、直流リアクトル32及び二次電池33によって構成されている。なお、整流器または逆変換器20の直流側は、各クレーンC〜C内の直流母線にヒューズFを介して共通接続されている。
【0053】
上記構成によれば、クレーン動作中にいずれかの電動機M〜Mから発生した回生電力を、対応するインバータを介して蓄電設備30に供給し、DC−DCコンバータ31を動作させて二次電池33に蓄積することができる。この二次電池33の電力は、電力を消費するクレーンや周辺の照明設備や空調設備等の各種機器に供給することができるため、システム全体としての一層の省電力化が可能である。
整流器または逆変換器20は、発電機Gによる交流電力を直流電力に変換して蓄電設備30に供給し、二次電池33を充電したり、前記回生電力を交流電力に逆変換して発電機G側に戻す等の機能を果たすものである。
なお、図11〜図14では、図7〜図10と同様に各クレーンC〜C内の直流母線に接続される整流器の台数が異なっているが、蓄電設備30や整流器または逆変換器20の動作は、図11〜図14の何れも同一である。
【0054】
上述した第4実施形態(図7〜図10)及び第5実施形態(図11〜図14)において、各クレーンC〜C内の電動機M〜Mを駆動するための電力変換装置の構成は、図示例のような整流器及びインバータの組み合わせに限定されるものではない。
更に、本発明は、船舶用クレーンだけでなく、複数台のクレーンの動作を制御する各種のクレーン制御装置全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1:運転動作指示検出手段
2:運転動作指示保持判断手段
3:運転動作指示保持手段
4:運転動作指示送出手段
5:運転動作指示保持通知手段
6:制御対象クレーン選択手段
7:制御対象クレーン自動切替手段
10,11,12:船舶用クレーン制御装置
20:整流器または逆変換器
30:蓄電設備
31:DC−DCコンバータ
32:直流リアクトル
33:二次電池
100:制御装置本体
101:統括制御部
102:演算処理部
103:内部メモリ
104:タイマ
201,202:送受信装置
300:データベース
400:記憶装置
500:入力装置
600:出力装置
C,C,C,……,C:船舶用クレーン
E:エンジン
G:発電機
,L,L,L:交流リアクトル
REC,REC,REC,REC:整流器
INV,INV,INV,INV:インバータ
,M,M,M:電動機
F:ヒューズ
BD:制動ユニット
R:制動抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷役用の複数台のクレーンを制御するためのクレーン制御装置において、
各クレーンから送られた運転動作指示を検出する運転動作指示検出手段と、
運転動作指示に応じた各クレーンの動作に伴って発生する消費電力合計値を算出し、この消費電力合計値と発電設備の容量から設定される運転動作指示保持基準値とを比較して各クレーンに対する運転動作指示の保持要否を判断する運転動作指示保持判断手段と、
前記運転動作指示保持判断手段により保持必要と判断された運転動作指示を一定時間保持する運転動作指示保持手段と、
前記運転動作指示保持判断手段により保持不要と判断された運転動作指示、及び、前記運転動作指示保持手段により一定時間保持された後の運転動作指示を、各クレーンに送出する運転動作指示送出手段と、
前記運転動作指示保持手段により運転動作指示が一定時間保持されていることを前記クレーンの運転員に通知する運転動作指示保持通知手段と、
を備えたことを特徴とするクレーン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載したクレーン制御装置において、
前記運転動作指示の保持要否を判断するクレーンを制御対象のクレーンとして任意台数、選択可能であり、かつ、複数台選択したクレーンに対して制御優先順位を設定可能な制御対象クレーン選択手段を備えたことを特徴とするクレーン制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載したクレーン制御装置において、
前記制御対象クレーン選択手段により選択されるクレーンまたは前記制御優先順位を、クレーンの稼働時間、制御回数、または荷役作業の進捗度合に応じて自動的に切り替える制御対象クレーン自動切替手段を備えたことを特徴とするクレーン制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載したクレーン制御装置において、
各クレーンは、所定のクレーン動作を行うための複数台の電動機を備え、これらの電動機を駆動する電力変換装置の直流母線が共通接続されていると共に、
前記電動機により発生する回生電力を消費するための制動手段を備えたことを特徴とするクレーン制御装置。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載したクレーン制御装置において、
各クレーンは、所定のクレーン動作を行うための複数台の電動機を備え、これらの電動機を駆動する電力変換装置の直流母線が共通接続されていると共に、
前記電動機により発生する回生電力を蓄電するための蓄電設備を備えたことを特徴とするクレーン制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載したクレーン制御装置において、
前記電動機により発生する回生電力を蓄電するための蓄電設備を備えることを特徴とするクレーン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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