説明

クレーン

【課題】大型クレーンの輸送時におけるバックストップの分解・組立性の向上を図る。
【解決手段】タワークレーン作業とクレーン作業に共通して使用されるブーム3にはバックストップ50が一体に連結されている。このバックストップ50は、タワークレーン仕様とクレーン仕様で共通して使用し、タワークレーン仕様時の全長がクレーン仕様時の全長より短い。バックストップ50の下端を係止するブラケット70を上部旋回体2に設置する。ブラケット70には案内部72が設けられ、ブームが所定角度になったときに全長が短いバックストップ50の下端ピン56がその先端に当接し、ばね収縮開始起伏角度になるとバックストップ下端ピン56が固定部74まで移動する。その後、ブーム3が起伏するとばね53が収縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックストップを有するクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、バックストップは、その上端をブームにピン連結し、下端を上部旋回体にピン連結して設置される。250t吊りのような大型クレーンでは、ブーム、上部旋回体、下部走行体などを分解して輸送するが、バックストップもこれらと別々に輸送する場合、バックストップの両端をピン連結しているので分解・組立作業性が煩雑となる。
なお、ジブブームに一体にバックストップを装着した従来例としては特許文献1または2のようなものが挙げられる。
【0003】
【特許文献1】特許2879716号
【特許文献2】実開平5−44993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえばブームとバックストップとを共用するクレーンでは、タワークレーン作業時とクレーン作業時の最大起伏角度(起伏自動停止角度)が異なり、当然、バックストップのばね収縮開始角度も異なる。その結果、クレーン仕様の場合はタワークレーン仕様に比べてバックストップ長さを長く設定する必要がある。
【0005】
上述したジブブーム一体装着型バックストップでは、その下端が上部旋回体と常時切り離され、ばね収縮開始時にバックストップ下端が上部旋回体のブラケットで位置固定される。したがって、クレーン本体をクレーン仕様とタワークレーン仕様とで使い分ける場合、バックストップ全長とばね収縮開始角度が異なると、ばね収縮開始時に下端がブラケットに当接する位置も異なる。したがって、従来技術で示されているジブブーム一体装着式のバックストップをそのまま適用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)請求項1の発明によるクレーンは、上部旋回体に起伏動可能に支持されたブームに支持機構を介して支持されるバックストップと、前記上部旋回体に設けられ、前記ブームが設定されたばね収縮開始角度になったときに前記バックストップの下端を固定部に設定するとともに、前記ばね収縮開始角度未満の所定角度以上になったとき、前記バックストップの下端を支承しつつ前記固定部まで案内する案内部が設けられたバックストップ固定部材とを備えることを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1に記載のクレーンにおいて、前記支持機構は伸縮機構を備え、前記クレーン作業時に前記バックストップの下端が前記案内部に当接して前記固定部まで移動するときに、前記支持機構がいったん伸長した後に収縮して前記固定部に位置決めされるように前記各部材が設計されていることを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項1に記載のクレーンにおいて、前記バックストップは、タワークレーン作業時およびクレーン作業時ごとに全長を変更する長さ可変機構を備えることを特徴とする。
(4)請求項4の発明は、請求項3に記載のクレーンにおいて、前記バックストップは、互いに収縮するように挿通される外筒と内筒とを備え、前記長さ可変機構は、前記外筒または内筒に伸縮可能に挿通される長さ可変筒と、前記長さ可変筒の伸縮量をタワークレーン作業時およびクレーン作業時ごとに変更して固定する固定部材とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上部旋回体に設置したバックストップ固定部材に、ばね収縮開始前にバックストップ下端が当接して固定部まで案内する案内部を設けたので、クレーン仕様よりも短いバックストップを使用するタワークレーン仕様でも、ブームに一体に装着したバックストップの下端を確実に上部旋回体のバックストップ固定部に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図1〜図6を参照して本発明によるクレーンの実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係るクレーンの外観側面図である。クレーンは、下部走行体1と、その上方に旋回可能に設置された上部旋回体2と、上部旋回体2に起伏動可能に軸支されているブーム3とを備えている。旋回体2には、運転室5と、カウンタウエイト6と、クレーン前後方向に並んで設置されたフロントドラム7、リアドラム8、起伏ドラム9とが設けられている。
【0009】
この実施の形態によるクレーンは、たとえば下部走行体1と、上部旋回体2と、ブーム3と、カウンタウエイト6とを分解して輸送するような大型クレーンである。また、クレーン作業(図1)とタワークレーン作業(図2)においてブーム3とバックストップ50とを共用する。バックストップ50はブームに一体に装着され、上部旋回体2とはピン連結せず、クレーン分解輸送時にバックストップ50をブーム3とともに輸送するようにしている。バックストップ50は、ブーム3が所定角度以上になるとその下端が上部旋回体2のブラケット(バックストップ下端固定部)70に係合してバックストップとしての機能を発揮する。すなわち、バックストップ50は、最大起伏角度以上に回動しないようにブーム3を機械的に制限する。なお、ブーム3が最大起伏角度まで起伏すると、図示しない起伏自動停止装置が働き、ブーム起伏が自動停止する。
【0010】
上部旋回体2の前部に取付られたブーム3の基端部後方には、回動可能にマスト4が軸支されている。マスト4の先端部とブーム3の上端部との間にはペンダントロープ12が張設されている。マスト4の先端部に設けたシーブ13と、起伏ドラム9の後方に設けたシーブ14との間には、起伏ドラム9に巻き回された起伏ロープ15が複数回掛け回されている。起伏ドラム9の駆動により起伏ロープ15が巻き取りまたは繰り出されてマスト4が回動し、ペンダントロープ12を介してブーム3が起伏する。
【0011】
ブーム3の先端部からはワイヤロープ10を介してフック11が吊り下げられている。ワイヤロープ10はフロントドラム7の駆動により巻き取りまたは繰り出され、これによりフック11が昇降する。
【0012】
図2は、図1のクレーンをタワークレーン仕様に変更した場合の外観側面図である。タワークレーンは、ブーム3の上端部に回動可能に軸支されたジブ41と、ジブ先端部から吊り下げられたジブ吊り用フック42とを有する。
【0013】
ジブ41の基端部にはフロントポスト43が一体に取り付けられ、フロントポスト43とジブ先端部とはペンダントロープ44で接続されている。ブーム3の頂部にはリアポスト45が一体に取り付けられ、リアドラム8に巻き回されたワイヤロープ48は各ポスト43,45の先端に設けられたシーブ46,47の間に複数回掛け回されている。リアドラム8の駆動によりワイヤロープ48が巻き取りまたは繰り出され、シーブ46,47間の距離が変化し、ペンダントロープ44を介してジブ41が俯仰動する。
【0014】
フロントドラム7にはワイヤロープ49が巻回され、ワイヤロープ49は、ブーム頂部とジブブーム頂部の図示しないシーブを経由してジブフック42に接続されている。フロントドラム7の駆動によりワイヤロープ49が巻き取りまたは繰り出され、ジブフック42が昇降する。
【0015】
バックストップ装置について、図3および4を用いて詳述する。
バックストップ装置は、上端がブーム3のブラケット31にピン連結される左右一対のバックストップ50と、それぞれのバックストップ50の下端をブーム3のブラケット32に連結して支持する支持機構60と、上部旋回体2に設けられ、ブーム3が所定角度以上になるとバックストップ下端を固定部に位置決めするブラケット70とを備える。このようにバックストップ50は支持機構60によりブーム3に一体に装着されている。
【0016】
上述したとおり、この実施の形態ではバックストップ50をクレーン仕様とタワークレーン仕様で共用するので、バックストップ50を伸縮式としている。すなわち、図4に示すように、タワークレーン作業時(図4(a))とクレーン作業時(図4(b))のブーム3の最大起伏角度θ3およびθ13が異なる。そのため、バックストップ50を伸縮式とし、タワークレーン作業時の全長がクレーン作業時の全長より短く設定して使用される。
【0017】
図3に示すように、バックストップ50は、上端がブーム3にピン連結される内筒51と、内筒51が挿入される外筒52と、内筒51に巻き回されたばね53と、外筒52に伸縮可能に挿通される長さ可変筒54と、長さ可変筒54の突出長をタワークレーン仕様およびクレーン仕様ごとに変更して固定する固定部材55とを備える。ここで、長さ可変筒54と固定部材55により長さ可変機構を構成する。外筒52には、バックストップ50を支持機構60を介してブーム3の基端側ブラケット32に装着する装着部521が設けられている。また、可変長さ筒54の突出端、すなわち、バックストップ50の下端にはピン56が回転可能に設けられている。このピン56がブラケット70と当接する。
【0018】
ブーム起伏角度が所定値以上になってバックストップ50の下端ピン56がブラケット70の固定部74に位置固定されると、その後の起伏動作に応じて当接内筒51が外筒52に挿入され始め、ばね53が収縮を開始する。
【0019】
図3および4に示すように、ブラケット70はメインフレーム100に取り付けられている。メインフレーム100は、上述した上部旋回体2の主要構造体であり、左右に位置するボックス状の強度部材101と、それら強度部材101を接続する底板102と、ブーム3の軸支部材103と、カウンタウエイト6の取付部材104とを主たる構成要素とする。左右一対の強度部材101の上面には、上述したブラケット70がそれぞれ設置されている。ブラケット70は逆ブーツ形状を呈しており、概ね、強度部材101への取付脚部71と、その上端でクレーン前方斜め上方へ延在する案内部72と、案内部72のクレーン後方側に連続して設けられるストッパ部73とを備える。案内部72とストッパ部73の間には、ブーム起伏角度が所定値になるとバックストッパ50の下端ピン56が係合する固定部74が設けられている。
【0020】
支持機構60は、図4に示すように、一端がバックストップ50のブラケット521にピン連結される支持筒61と、ブーム基端のブラケット32にピン連結され、支持筒61の他端側を摺動可能に支持する筒支持具62とを備えている。このような支持機構60は、支持筒61が筒支持具62との間で伸縮する。したがって、後述するように、バックストップ50の下端ピン56がブラケット70の案内部72に当接した後に、バックストップ50の外筒52に設けたブーム装着部521と、ブーム基端のブラケット32との間の距離が変動することを許容するように構成されている。
【0021】
図5および図6に基づいて、クレーン作業時およびタワークレーン作業時のバックストップの動作を説明する。
1.クレーン作業時
図5(a)〜(d)を参照してクレーン作業時の動作を説明する。
(a)はブーム起伏角度が小さい場合であり、バックストップ50の下端ピン56はブラケット70と離間している。このとき、バックストップ50の全長はL1、支持機構60の全長はL2である。
(b)はブーム起伏角度がθ1のときを示し、バックストップ50の下端ピン56がブラケット70の案内部72の固定部74よりの位置56a(図6(a)参照)に当接し始めている。このとき、バックストップ50の全長はL1、支持機構60の全長はL2である。
【0022】
(c)は、さらにブーム起伏角度が大きくなりθ2となった状態を示している。(b)から(c)に至る過程では、バックストップ50の下端ピン56が案内部72をクレーン後方に滑動して固定部74の位置56b(図6(a)参照)参照まで移動する。そして、この過程でバックストップ50の下端ピン56が案内部72を滑動するにつれて、支持機構60は伸長する。ブーム角度がθ2(ばね収縮開始角度)以上になると、バックストップ50のばね53が収縮を開始する。このとき、バックストップ50の全長はL1、支持機構60の全長はL2n(>L2)である。
【0023】
(d)は、ブーム起伏角度がθ3となり、起伏自動停止装置が働いてブーム3が停止した状態を示している。このとき、ばね53の収縮量は最大となり、ばね力でブーム3を前方に付勢している。なお、(c)から(d)に至る過程では、支持機構60は再び収縮している。このとき、バックストップ50の全長はL1s、支持機構60の全長はL2s(<L2n)である。
【0024】
2.タワークレーン作業時
図5(e)〜(h)を参照して説明する。タワークレーン仕様では、バックストップ50の全長L11をクレーン仕様の全長L1に比べて短くする。これは、長さ可変筒54を外筒52内に挿入し、固定部材55で固定して行われる。
(e)はブーム起伏角度が小さい場合であり、バックストップ50の下端ピン56はブラケット70と離間している。このとき、バックストップ50の全長はL11、支持機構60の全長はL12である。
(f)はブーム起伏角度がθ11(>θ1)のときを示し、バックストップ50の下端ピン56がブラケット70の案内部72の最先位置56c(図6(b)参照)に当接し始めている。このとき、バックストップ50の全長はL11、支持機構60の全長はL12である。
【0025】
(g)は、さらにブーム起伏角度が大きくなりθ12(>θ2)となった状態を示している。(f)から(g)に至る過程では、バックストップ50の下端ピン56が案内部72をクレーン後方に滑動して固定部74の位置56d(図6(b)参照)まで移動する。そして、この過程でバックストップ50の基端が案内部72を滑動するにつれて、支持機構60は伸長する。ブーム角度がθ12(ばね収縮開始角度)以上になると、バックストップ50のばね53が収縮を開始する。このとき、バックストップ50の全長はL11、支持機構60の全長はL12n(>L12)である。
【0026】
(h)は、ブーム起伏角度がθ13(>θ3)となり、起伏自動停止装置が働いてブーム3が停止した状態を示している。このとき、ばね53の収縮量は最大となり、ばね力でブーム3を前方に付勢している。なお、(g)から(h)に至る過程では、支持機構60は再び収縮している。このとき、バックストップ50の全長はL11s、支持機構60の全長はL12s(<L12n)である。
【0027】
以上の実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)バックストップ50を支持機構60によりブーム3に一体に装着し、ブーム起伏角度が所定角度になるまではバックストップ50の下端ピン56をブラケット70から切り離すようにした。したがって、上部旋回体2からブーム3を分解すると、バックストップ50も上部旋回体2から分解される。また、ブーム3とバックストップ50を一体のまま輸送すれば、組立時にブーム3を上部旋回体2に取り付けるだけでよく、バックストップ組立作業が不要である。したがって、大型クレーンの輸送に伴う分解・組立性が向上する。
【0028】
(2)ブラケット70には、バックストップ50の下端ピン56が当接して滑動する案内部52を設けた。ブーム3とバックストップ50を共用化した場合、タワークレーン仕様のバックストップ50の全長はクレーン仕様の全長よりも短いが、バックストップ50の下端ピン56は案内部52で案内されて固定部74で確実に固定される。したがって、短いバックストップであってもばね収縮開始起伏角度以上になると確実にばね収縮が可能となる。
【0029】
(3)上述したように、バックストップ50の下端をブーム3に連結する支持機構60を伸縮可能に構成した。したがって、バックストップの下端ピン56がブラケット案内部52に当接して固定部74まで移動する際、支持機構60が伸縮することが可能となる。その結果、全長を可変としたブーム一体型のバックストップ50をクレーン作業とタワークレーン作業とで共用することができる。
【0030】
以上の実施の形態は本発明の一例を示すものであり、クレーン仕様とタワークレーン仕様とでブームを共通化しない場合にも本発明を適用できる。また、バックストップを共通化しない場合にも本発明を適用できる。すなわち、ブームにバックストップを一体化し、常時はバックストップの下端ピン56をフリーとして上部旋回体から切り離し、所定起伏角度でバックストップ下端ピン56をブラケットに当接させてバックストップばねの収縮を行うものであれば、本発明は実施の形態のクレーンに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態に係るクレーンの外観側面図
【図2】図1のクレーン仕様をタワークレーン仕様にした場合のクレーンの外観側面図
【図3】バックストップ装置の詳細図
【図4】クレーン仕様とタワークレーン仕様におけるブーム最大起伏時のバックストップを説明する図
【図5】クレーン作業時とタワークレーン作業時におけるバックストップの動作遷移図
【図6】バックストップ下端ピン56のブラケットケット70上での移動状態を示す図
【符号の説明】
【0032】
1 下部走行体 2 上部旋回体
3 ブーム 50 バックストップ
51 内筒 52 外筒
53 ばね 54 長さ可変筒
55 固定部材 56 バックストップ下端ピン
60 支持機構 61 支持筒
62 筒支持具 70 ブラケット
72 案内部 73 ストッパ部
74 固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部旋回体に起伏動可能に支持されたブームに支持機構を介して支持されるバックストップと、
前記上部旋回体に設けられ、前記ブームが設定されたばね収縮開始角度になったときに前記バックストップの下端を固定部に設定するとともに、前記ばね収縮開始角度未満の所定角度以上になったとき、前記バックストップの下端を支承しつつ前記固定部まで案内する案内部が設けられたバックストップ固定部材とを備えることを特徴とするクレーン。
【請求項2】
請求項1に記載のクレーンにおいて、
前記支持機構は伸縮機構を備え、
前記クレーン作業時に前記バックストップの下端が前記案内部に当接して前記固定部まで移動するときに、前記支持機構がいったん伸長した後に収縮して前記固定部に位置決めされるように前記各部材が設計されていることを特徴とするクレーン。
【請求項3】
請求項1に記載のクレーンにおいて、
前記バックストップは、タワークレーン作業時およびクレーン作業時ごとに全長を変更する長さ可変機構を備えることを特徴とするクレーン。
【請求項4】
請求項3に記載のクレーンにおいて、
前記バックストップは、互いに収縮するように挿通される外筒と内筒とを備え、
前記長さ可変機構は、前記外筒または内筒に伸縮可能に挿通される長さ可変筒と、前記長さ可変筒の伸縮量をタワークレーン作業時およびクレーン作業時ごとに変更して固定する固定部材とを備えることを特徴とするクレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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